【第62話】
芹沢が命令文書を読み上げたのに続き、ジャーベル少将が補足説明を行う。
「宇宙戦艦ヤマトが投入される結論に至ったのは、件の通信波による影響を
直接受けた艦であることに加え、元より同艦が防衛軍司令部直轄の
外交特務艦である点が理由に挙げられます。
また、敵勢力圏内への長駆進出・戦闘を前提とした任務であることを考えれば、
「ヤマト」が適任であると判断しました。
通信波を送ったと思われる惑星テレザートは、地球はもちろん、
ガミラスも接触したことのない銀河系内勢力であります。
テレザート知的生命との接触は、今後ガミラス並びに本邦が銀河系への進出上
生起するであろう他星間・惑星文明との接触の重要な先例となる上、
先述の伝承などからテレザートが高度文明を有する、または有した点を加味すれば、
将来の銀河系内におけるイニシアチブを得ることが出来るかもしれません。
そして何より、ガトランティスのテレザート侵攻を阻止・妨害することで
テレザートの勢力を地球=ガミラス同盟側に引き込み、銀河系での安全保障体制を
より強力に出来うる利点が考えられ、地球連邦政府ならびに共和政ガミラス政府は
惑星テレザートへの軍事介入に積極的方針を取る方向性で動いています。」
防衛軍司令部首席参謀の言に、芹沢がさらに続けた。
「今回のヤマト派遣は、地球=ガミラス同盟軍がテレザート救援のために
本格的に動くのに先立って現地情勢を調査する斥候の意味合いが大きい。
例の"救難信号"がガトランティスなどによる罠であった場合が危険視されるため、
惑星テレザート周辺における状況の実態がいかなるものか把握する必要があるのだ。
こういった事情に加え、いまだガトランティスの同盟側勢力圏への攻勢が
予断を許さぬ状況である以上、テレザートの調査に多くの戦力は割けない。
そこで、戦力的に有力で、かつ単艦で行動が可能、更に外交的任務を
こなした実績もある「ヤマト」に白羽の矢が立ったのだ。
敵勢力圏内への少数での強行調査・対外接触という任務にこれほど適した艦もあるまい。」
説明が一段落し、芹沢はちらと視線をヤマト乗組員たちに向けた。
多くは困惑しているようだが、反感をもって受け止めているようには見えなかった。
芹沢たちと同じく、ヤマト幹部乗員と向かい合うテーブルに着いている、
遣
「今回の宇宙戦艦ヤマト派遣は、我がガミラスと地球が締結した
次元波動エネルギー兵器不拡散条約の両国間協議対象となっておりますが、
既に協議によって派遣は認可されておりますので、ご心配なく。
また、調査行にあたり貴艦には我が国防軍から連絡将校を派遣させていただきます。
共和政ガミラスは、伝説の惑星テレザートに強い関心を持っておりますので、
「ヤマト」の本任務には全力でのバックアップをお約束しましょう。」
「仔細については追って通達しよう。
作戦の成功と、貴官らの無事の帰還を願っている。」
この芹沢の一言により、ヤマト乗組員たちは会議室を辞すことになる。
だが、それはそのまま連邦政府庁舎から帰されるということにはならなかった。
なんと防衛軍統括司令長官・芹沢大将が、"幻覚"について聴取を行いたいらしく、
個別に面談を行うことになったのである___
宇宙戦艦ヤマト戦術長、古代進大尉が呼び出されたのはクルーの中でも一番最後であった。
「失礼します!
宇宙戦艦ヤマト戦術長・古代進、入室いたします!」
「うむ。」
通されたのは、先程の地下大会議室に隣接する待機所の一室だった。
さして広くもない部屋に、折り畳み式のテーブルと椅子が2つずつ
向かい合うように置かれており、部屋の奥側の席に芹沢が着座している。
芹沢に促され、古代も扉寄りに置かれたテーブルに座った。
「……では、貴官が見た"幻"について聞かせてもらいたい。
君は、誰の幻影を見た?お兄さんかね?それとも、他のご家族か。……あるいは」
「「沖田艦長」」
二人の声が重なった。
古代の目が、じっと芹沢の顔を見据える。
「……はい、私は沖田艦長の幻を見ました。」
「彼は……いや、
芹沢はわざわざ言い直す。その心中は、古代には分からなかった。
「……為すべきをを為せ、と。……そう仰っていました。」
「いかにも沖田が言いそうな台詞だな。
で、君はそれをどう捉えたか聞こうか。」
鼻をならし、芹沢が更に問うた。
古代は眼前の防衛軍長官の意図を知るべく、質問する。
「申し訳ありません、どう、とは?」
「ん?……あぁ、沖田は何を為すべきと言っていたのか、だよ」
「……。」
古代は答えに窮した。
沖田は古代に何を為せというのか、彼はその解をまだ有していなかった。
「テレザートに来い、なら分かりやすかったろうがな。」
「……長官は、"伝説"を信じておられるのですか?」
古代はミューラー大使が話していた、女神テレサの伝承を思い起こした。
伝承では、テレサは啓示の際に近しい故人をメッセンジャーにするのだという。
「いいや。だが、君はテレサの姿を幻視したと調査にあったのでな」
「はぁ……」
古代は戸惑いの声を漏らした。
彼が知る芹沢は、こんな男だっただろうか。
防衛軍の頂点に登極し、以前見せた傲慢さに磨きをかけているのでは……
そんな想像を裏切られたことで、眼前の男が何を考えているか掴みかねていた。
「まぁ、君が見た沖田がユーレイだろうが、女神のパペットだろうが、
いずれにせよ君に明け透けなことを言わなかった理由は分かる気がする」
「え?」
芹沢の口からでた意外な言葉に、俯いていた古代が顔を上げた。
虎のように鋭い光を湛えた眼差しを古代に向け、芹沢は続けた。
「沖田は貴官を信頼していた、いや、信頼しているのだろう。
時間がかかろうが意味を読み解くと考えた……そんな所か」
「……。」
古代は押し黙った。
いまだに恩師の言葉の意味が読み解けないことが、恥ずかしく思えたのかもしれない。
「ところで、何故君を最後に呼んだか、気にならないかね?」
芹沢が話題を切り替える。確かに、古代も気になっていたことだった。
「ここだけの話だ。
私は、今回の任務が終わったら貴官を次期「ヤマト」艦長に推そうと思う。」
「私が……ですか?」
動揺する古代。
「あぁ。波動砲問題で土方は宇宙艦隊副長官を降ろされたが、そろそろほとぼりも冷めただろう。
今後の防衛軍士官育成を見据え、教育組織を見直そうという動きが出ている。
土方の手腕がどうしても欲しいそうだ。真田副長も、科学局が目を付けていてな。」
「しかし、私は……」
「分かっている、自分はまだ未熟と言いたいのだろう?
だが、直ぐに充てられそうな人間もいない。
それに、君ほど艦に親しみ、よく通じた人間はおるまい?」
芹沢は、シャンブロウなどで古代が代行指揮した例を挙げる。
その上で、先程の話題に繋げてきた。
「たぶん沖田も、いずれ貴官が「ヤマト」を預かることを考えていたはずだ。
そのために、貴官には広い視野と、指揮官としての覚悟を持って欲しい__
そんな意味合いで、君の前に現れたのではないかな?」
「指揮官としての、覚悟ですか……。」
古代が、噛み締めるように呟く。
「そうだ。自らの指揮下で戦う者を、死なせない、傷付けさせない。
そのためにあらゆる手段で最善を尽くすという、指揮官の覚悟だ。」
具体的に語る芹沢。それは彼の持論ではあるが、
古代の脳裏にはイスカンダル行での沖田の指揮する姿や、
メ号作戦で兄を死なせたことを自分に詫びる艦長の記憶が蘇る。
「私も、今回の作戦で君に指揮官としての覚悟を固めて欲しいと思う。
市民から力を託された軍人として任務を遂行する責任、
上官として部下の命を預かることに対する責任、
分かっていると思うが、君が背負うべきものは重い。」
古代は険しい表情を見せる。果たして、自分にその資格があるか……迷いを振り切れずにいた。
「だが、君一人で背負うべきで無いものもある。
地球人類の云々などは、一軍人がどうこうするものではないのさ。」
「……ッ」
芹沢の放った一言は、古代を悩ませるものの根源である波動砲問題に通じるものがあった。
「貴官は民主国家・地球連邦の軍人だ。
地球の市民が必要とするならば、それに従い働かねばならない。
だが、同時に地球市民の軍隊の責任は、地球市民が取らねばならないのだ。
貴官が一人で背負い込むべきではない。」
瞑目し、心を落ち着けようとしている古代。
芹沢はその姿を厳然と見つめる。
(時間をかけ、噛み砕いていけ。
これからの航海でどうしようもないことには何度も直面するのだろうからな)
暫しの間を挟み、眼を開いた古代は絞り出すように告げた。
「……長官の、ご期待に添えるよう努力します。」
芹沢は小さく頷き、面談を終わりにすることとした。
「よろしい。ご苦労だった」
かくして、西暦2202年12月9日。
最終整備と各種物資の積載、乗組員の搭乗を完了させ、
地球連邦防衛軍統括司令部直轄の、宇宙戦艦「ヤマト」は出撃の途に就く。
極東管区・岩国~呉一帯の宇宙港湾基地のバースを離れ、豊予水道に向かう。
2199年の航海で取り戻した青い海面を白い飛沫を立てて加速し、
「ヤマト」が飛翔する。
その様は四国や九州の基地などから映像で捉えられ、
首都の防衛軍司令部へ転送されるが、そこに芹沢の姿はなかった。
「沖田の子供たちが行く、か。」
「えぇ。」
彼の姿は、首都郊外の軍人墓地・英雄の丘にあった。
隣には、大戦時から長く極東管区行政長官を務める藤堂平九郎もいる。
彼らは昨日の記念式典に出席したため出来なかった、沖田の墓参りに来ていた。
初代ヤマト艦長・沖田十三の像の前で、二人は防衛軍司令部から更に転送された
「ヤマト」が発進する生中継の映像を眺めつつ呟いた。
地上基地のカメラ映像からヤマトの姿が見えなくなると、タブレット端末の
電源を落とし、芹沢と藤堂は沖田の象を見やる。
「沖田君、遅れて済まなかったな。」
「彼らも来れなかったようだから、代わりに来たぞ。
そら、土産だ」
そうして二人は花束と日本酒「美伊」の瓶を像の前に備え、敬礼するのだった。
一方、宇宙戦艦ヤマトは早くも地球の大気圏を離脱していた。
地球が青い姿を取り戻してから、既に3年が経過している。
地球の重力圏には、「ヤマト」以外にも宇宙船や、大型の防衛衛星の姿がいくつか見える。
地表の新都市に負けず劣らず、地球の復興を喧伝する存在であった。
「変わった形の船だな、島。」
「あぁ。確かあれは、小惑星移送用の輸送艦だったと思う。」
右舷前方に位置し、ヤマトが追い抜こうとしているのは、
直径が1.5kmにも達しようとする巨大なリング型の宇宙船だ。
二重のリング型船体がトラス構造で繋がっており、リングの頂点らしき場所には
ささやかな艦橋構造物が置かれており、進行方向と反対側に突き出すように
リング上に正十二角形を描くように配置された巨大な波動エンジンが付いた、
極めてシンプルな構造の宇宙輸送船だ。
惑星大気圏への進入を微塵も考慮していない設計の同船は、時間断層工廠で
秘密裏にパーツ単位で建造され、月面で組み立てられたO級宇宙重量物輸送艦。
船体リング内部に小型小惑星や破片などを重力アンカーで固定するか、
大型小惑星の表面に張り付いてアステロイド帯から資源小惑星を
地球圏へとピストン輸送するのが任務となっていた。
地球連邦輸送船団の主力、23世紀標準型宇宙輸送艦であるFE級や、
ガミラスから戦後賠償で引き渡された艦と共に今後の地球の復興・発展のための
資源輸送の中枢となる艦として連邦宇宙船舶管理局から大きな期待がかけられていた。
そんな第一艦橋に、エレベーターでやってきた人物がいた。
「ガミラス大使館から派遣された連絡将校、クラウス・キーマン中尉です。
航海の間、よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしく。」
金髪に青い肌をした、美男子と言うべき容貌の若いガミラス軍人。
ガミラス大使館から連絡将校として派遣された武官だった。
キーマンはヤマト艦長の土方竜大将に対して、
右手を垂直に挙げるガミラス式敬礼で挨拶をいれると、さっそく質問した。
「今後の航海スケジュールをお伺いしたい。」
「うむ。太陽系を脱するまで、2週間ほどかける。
その間に、増載された装備の訓練を実施していくつもりだ。」
土方は手元のデバイスで確認しながら、ガミラスの客人に応対する。
「では、テレザートまで無寄港ですか?」
その問いに対し、土方はかぶりを振って答えた。
「いいや、太陽系を出る前の最終補給と
第十一番惑星・
テレザートを目指し、勇躍出動した宇宙戦艦ヤマト。
しかし、彼らは向かう先に何が待ち受けるか、未だ知る由もなかった……
芹沢「立派な軍人になってね、古代くん。テレサもそう言ってた」
テレサ「は?」