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【第63話】
時に、西暦2202年12月24日。
ガミラス共和政府が地球連邦政府から大使館用地として租借している、
マリアナ諸島の一角・グアム島。
同島南部の山岳盆地に置かれたガミラス大使館の他に、
島の北部平地や南西のオロテ半島及びアプラ湾周囲には
地球式・ガミラス式の建造物が入り交じった都市が建設され、
大使館の駐在員や、地球へ派遣された商業関係者などのガミラス人たちが居住。
都市の中には、地球に来たガミラス人に文化や物品を紹介するため、
地球側がショッピングモールなど地球式の商業・文化施設が置かれている。
そうした施設では政府の厳重な審査を受けた地球人が働いており、
彼らとその家族もグアム島の都市に暮らしていた。
そんな市街地の一角に整備された、緑豊かな森林公園。
公園の三分の一程度の面積を占めている広場では、地球側の商業関係者が中心となり
地球の著名な季節イベントである"クリスマス"フェアが開かれ、
地球の様々な料理や菓子、玩具など様々な種類の露店が出されていた。
広場中央には、きらびやかな飾りつけを施されたクリスマスツリーが数本並べられている。
南国であるグアム島では見かけないモミの木は、極東管区から輸送されたものだ。
薄橙色や白色、青い肌をした人々が行き交い、談笑したり露店で物を買ったりしている。
「
そんな広場の様子を、片隅から満足そうな笑みと共に見渡す者がいた。
ガミラスの遣地球大使であるメフィルス・ミューラーだ。
任地・地球の、それも大使館至近で行われるそこそこの規模な催しとあって、
随員や警備員たちを連れて視察にやって来たのだ。
随員には記録用カメラを持った者も居り、視察の様子を本国に送る予定となっていた。
長年外交畑を歩んでいたが、
冷や飯を食わされていたミューラーにとって、"異星との友好"が
具現化したような眼前の情景は、自らが目指してきた物そのものと言えた。
「いやはや、キーマン中尉には少々悪いことをしてしまったかもしれません。
こんな催事の前に出張を申し付けてしまうとは。」
ミューラーはかぶりを振って、随員の一人であるローレン・バレル参事官に向き直った。
バレルは、苦笑して応える。
「まぁ、彼はこうした人気の多い場所は苦手なようでして。」
「そうですか。……ところで、彼は今どのあたりにいるのでしょうね?」
ミューラーは陽光を遮るように掌を額にかざし、青く晴れた空を仰いだ。
バレル共々ミューラーの随員として公園広場にやって来ていた、
ガミラス大使館武官長のクライクァルス・ノルティオ大佐が
ボード型のデバイスを取り出すと、事前に共有されていた
宇宙戦艦ヤマトのテレザート星探査航海の予定表を確認し、答えた。
「はい、現在彼の乗る「ヤマト」は、
明後日には、物資の積載が終わり
かつてガミラスが炉王星、旧称"第十一番惑星"につけていた名前をつい彼の口を出る。
ミューラーはノルティオに、公式の場では気を付けるよう嗜めた。
些細なコトが外交関係に影を落としかねないことをよく知っているため、
ミューラーは何より発言に気を遣っている男だった。
「おや?……彼は一体?」
そんな大使は、広場の中央の"クリスマス・ツリー"が飾られたあたりで
地球人・ガミラス人問わない子供たちの集まりが出来ていることに気付く。
集まりの中心には、車椅子に乗り、赤い服と帽子に身を包んだ老人の姿があった。
「あれは確か……"サンタ・クロース"とか言うものだったかと。
この星の宗教伝承に出てくる聖人が、一般に定着したものだったとか。」
「ほう。」
最近、地球文化の学習に力をいれているバレルの説明に納得し、
ミューラーは再び子供たちの集まりを眺める。
そこでは、赤い服を着た老爺がガミラス人の兄妹に何やら玩具を与えているようだった。
妹であろう、緑の長髪をした小さな女児はこの星の動物を模したぬいぐるみを貰い、
彼女よりふた回りほど背が高い兄と見られる男児は、"宇宙戦艦ヤマト"の模型を手にしている。
そうして、地球人、ガミラス人問わず子供たちに玩具を渡していた。
「実に、微笑ましいですね。」
ミューラーは呟く。心の底からの言葉だった。
いまだに、ガミラス人に対する憎悪や怨恨を持つ人々が地球にいるなかで、
あのように振る舞える人間はごく少数だろうし、彼も戦禍を経験したはずだ。
それでも、あの老爺は地球人・ガミラス人の区別なく接している。
彼の行いは、きっと"聖人"の呼び名に値するだろう。
ミューラーには、そう思えてならなかった。
一方、その頃。
地球から遠く離れた、されど同じ太陽系内の一角。
ここは、最果ての星・
ガミラスが設置し、修復した人工太陽が輝き、緑色に彩られた地表を照らしている。
殆どが氷に覆われている海洋が存在する他、赤道を走る裂け目のような巨大渓谷が特徴だ。
ここにはかつての大戦時、ガミラス太陽系侵攻軍が建設したものの放棄し、
宇宙戦艦ヤマトが外交任務のためマゼランへ二度目の遠征に向かった際に
同艦に代わって太陽系を防衛するためガミラスから派遣された
ネレディア・リッケ大佐麾下の艦隊が再稼働させた艦隊基地が存在していた。
その基地は、炉王星を含む太陽系全域の天体における
地球政府の主権が認められると共に地球側に引き渡され、
現在は大拡張工事を経て地球連邦防衛軍の太陽系外縁パトロール艦隊の拠点、
及び太陽系内外へ向かう宇宙艦艇の中継・補給基地として機能している。
そして、宇宙戦艦ヤマトは同基地の地下防空ドックに12月20日から停泊しており、
艦の整備や、防衛軍司令部が手配した補給物資・特殊装備の積み込みを受けていた……
「しかしまぁ、よくこんな最果ての星にここまでの設備が造れましたね。
一部はガミラス時代からの流用とは言え……」
「ヤマト」左舷側の展望室にて、艦外を眺めながら相原通信長が感嘆の声をあげた。
彼の視線の先には、AUユニットやガミロイドが運転する貨物台車多数が
ドック周辺をひっきりなしに行き来して「ヤマト」への補給物資を運搬し、
真田副長や榎本掌帆長らの監督の下、艦内へ搬入されている光景が展開されていた。
地下ドックにはヤマト1隻だけが停泊しており、補給用の設備を全てヤマトのために
動員したのだろう、積載作業はもう殆ど終わっているようだった。
「防衛軍司令部、というより政府が基地建設に積極的だったらしい。
地下に娯楽施設やらが完備されてるのは、将来的にこの星には艦隊や船団の基地だけじゃなく、
太陽系外縁での小惑星採掘業の拠点にされるそうだからなんだってさ。」
同じく展望室にいた太田気象長がどこからか仕入れた情報を披露する。
「ヤマト」が炉王星に入港してから4日間、地球を出発して以来訓練続きだった
クルーらに上陸と休息が許可され、クルーの半数ずつが2日間の休みを交代で享受。
とはいえ、炉王星の地表にある建造物は港湾施設だけで他は殺風景な原野が広がるばかり。
乗組員たちは地下ドックに隣接する、レクリエーション施設が充実した地下街に向かったが、
地下街の施設の充実ぶりは、地球から遠く離れていることを考えれば驚嘆すべきものがある。
店舗や交通などあらゆる面で極めて自動化が進んでいた。
しかし太田の話が正しければ、それもうなずける話だと相原は思う。
太陽系外縁を周回するパトロール艦隊の将兵や、
太陽系と外宇宙を行き来する"銀河鉄道"輸送船団の乗組員たちに加えて、
太陽系最外縁部のエッジワース・カイパーベルトのような小惑星帯で
鉱物資源の採掘に従事する人々の拠点となるならば、この整備度合いにも納得がいく。
連邦政府も、本腰を入れてこの星を開発していくつもりなのだろう。
そんな考えを相原が巡らせたとき、「ヤマト」艦内には緊急事態発生を報せるアラートが鳴り出した。
艦内だけではない。窓の外を見ると、地下街の方から乗組員たちが走って、
あるいは自動運転のバスなどにのって「ヤマト」へ戻ってくる。
「相原、第一艦橋だ!」
「あぁ!」
太田に促され、相原も本来の持ち場である第一艦橋へと駆け出した。
その第一艦橋では、艦長席に座る土方竜大将が、艦橋天井モニターを見上げている。
映し出されていたのは、炉王星基地の司令官ハンス・ゲルデン少将だった。
「この惑星に、ガトランティスが来ると?」
『はい。可能性は極めて高いようです』
ゲルデン少将の話し方は、相手が大将の階級である土方艦長のためか、極めて丁寧だ。
彼によると、10分前から惑星外との通信が不能になっているとのことで、
参謀や補助AIとの論議の末、敵の妨害工作の可能性が大という結論が出たのだという。
炉王星は、太陽系外縁全域に無数に展開されている索敵
地球など後方へ送信する索敵ハブ・センターの役割を担っている。
もし、敵(ガトランティス)が太陽系への大規模侵攻を企てているのであれば
最外縁にあり系外監視の要である炉王星を狙うというのは自然な流れだろう。
幸い、索敵
サブの情報ハブである冥王星通信基地に情報を送信するようプログラムされており
系外監視システム全体が無力化されたわけではなかった。
また、炉王星からの通信が途絶した時点で地球の司令部も事態を察知し
遠からず救援が送られてくることは間違いないが、それまでは炉王星は
手持ちの戦力で来襲が予想されるガトランティスから自衛せねばならない。
ゲルデン少将は、「ヤマト」の土方艦長に惑星防衛の助力を要請したのである。
「無論、炉王星基地の防衛には最大限協力する。
既に本艦の乗組員には帰艦命令を出し、1時間程で戦闘配備が整う予定だ。
だがそれまでは、基地側に持ちこたえて貰わねばならない。」
土方は画面向こうのゲルデンに告げると、基地司令の表情が幾分か和らいだようだった。
「ヤマト」が在泊するドックと同じく、ゲルデン少将がいる基地司令部も地下に存在するが
初めての緊急事態に多大な緊張を強いられていたらしい。
『了解しました。どうぞよろしくお願いします。』
基地司令部のゲルデンはそう言って通信を切ると、司令官席の前に置かれた
立体投影モニターつきのテーブルに、炉王星の全体図を映し出させた。
そして、テーブルの横に置かれたAUユニット型の基地運営補助AIに対して命じた。
「全部隊に対し、"炉王星防衛基本計画"に則り、来寇せる敵を迎撃するよう伝達せよ!」
「
かくして、太陽系最果ての星を巡る攻防戦の火蓋が、静かに切って落とされたのである。
炉王星に対する最初の攻撃がやってきたのは、その30分後の事だった。
既に、炉王星沖に浮かぶ人工太陽は傾き、黄昏の光が地表を照らしている。
炉王星にとっての、本当の黄昏となるかは未だ分からなかった。
そんな空を、異様な影が30ほど飛行している。
カブトガニのようなシルエットをした宇宙攻撃機デスバテーター。
ガトランティス軍の主力艦載機である。
軌道外から、炉王星に纏わされた大気のベールを切り裂いて惑星の空へ侵入したのだ。
デスバテーターのパイロットが、司令官から攻撃・破壊を命じられた主な目標は
この星の赤道や北半球に設えられている宇宙港施設群だった。
突然外部との通信を遮断され、混乱に陥っている敵を叩き潰すのは容易いことだ___
そんなパイロットたちの楽観が消え失せたのは、編隊を組むデスバテーターが
2機、3機と炎を上げて墜落、あるいは爆散したのとほぼ同時であった。
「敵機来襲!数、およそ50!」
ガトランティス軍攻撃隊の通信機にある操縦手の狼狽えたような声が響き渡る。
デスバテーターのセンサーは、編隊の後下方から迫り来る
「いかん……!」
攻撃隊の搭乗員たちは青ざめた。
現在、対地攻撃前のデスバテーターは爆装しており鈍重さに拍車をかけている。
しかも、敵が接近してくるのは自衛火器が存在しない後ろ下方からだ。
敵機はかなり速い。旋回したところで狙い撃ちされるのがオチだろう。
生き残るには爆弾を、任務を放棄して逃げに徹することだけだが、
ガトランティスにそれは許されない。
それでもパイロットたちは、指揮官機からの許可が出るのを破滅のその瞬間まで待った。
「全滅だと!?」
デスバテーターの攻撃隊を発進させたナスカ級空母の艦上で、
ガトランティスの
「はっ、攻撃隊は目標到達前に敵戦闘機の迎撃を受け全滅した模様です。」
オペレーターの淡々とした報告に、コズモダートは腕を組み思案する。
彼にとり、完全に想定外の事態だった。
コズモダートが率いているガトランティス第八機動艦隊の前衛部隊は、
かつて第八機動艦隊の主力を構成していた艦から編成されており、
空母4、巡洋艦15、駆逐艦45から成る部隊である。
ナスカ級空母4隻の艦載機は甲殻攻撃機デスバテーター80機。定数より少ない訳は後述する。
ナスカ級空母は地球軍の宇宙戦艦「ヤマト」に匹敵する334mの船体を持つが、
砲火力にかなりのスペースを割いており搭載機は地球やガミラスほど多くない。
防空火力の高い軽空母といった趣の艦だ。
先ほどコズモダートが第一次攻撃隊として放ったのは各空母から2個小隊8機を
出撃させたため32機で、それが全て失われたため残りは48機しかない。
なお、コズモダート艦隊の空母搭載機が各20機なのは、
地上制圧用の多脚戦車を積載する空間を用意するためである。
戦車は爆撃後にデスバテーターで空輸し、地表へ降下させる予定となっていた。
「……やむを得ん、第二次攻撃隊は引き続き出撃準備。
それに加え、戦車空輸用の部隊を制空部隊として発進させよ。
敵機を制空部隊で引き受けているうちに、宇宙港や敵の航空基地を破壊するのだ!」
「それでは残存機を全て発進させるため、地上部隊の投入が遅延してしまいますが。」
「敵航空部隊が健在なうちに降下させたところで破壊されるだけだ。
宇宙港の破壊と制空権の確保を至上目標とする!」
思案の末にコズモダートは、
本来は残存地上目標や敵地上部隊を攻撃するための第二次攻撃隊24機に加え、
敵戦闘機への対応として爆装しないデスバテーター24機の発進を命令。
帰還機を以て多脚戦車や
"最果ての星"へ降下させることにした……。
「レーダー二感アリ。敵航空機48、2群二分カレテ接近中。」
AUユニット型の補助AIが報告する。
炉王星基地は、外部への通信こそ遮断されていたがレーダー機能は生きていた。
そのため、接近するガトランティスの攻撃機を捕捉し迎撃が可能だったのだ。
「2群のうち一方は囮か、戦闘機か、あるいは両方とも攻撃機でしょうか?」
「いずれにせよ迎撃するだけだ。コスモクロウ隊発進!」
参謀の言葉を聞きつつも、ゲルデンは迎撃機の出撃を命じた。
司令官の命令の下、炉王星の氷海から複数の巨大な人工物が浮上する。
それらは一見すると、地球連邦の主力宇宙貨物船FE型のようにも見えるが、
宇宙航行能力はオミットされている。その代わり、深深度への潜水能力が与えられていた。
FE型では船倉に当たる場所の上甲板が、VLSハッチのごとく何枚もの蓋として開いていく。
その下には、地球連邦防衛軍が二式無人空間戦闘機コスモクロウが収容されていた。
カタパルトごと斜め上方へ向けられたコスモクロウはエンジンノズルから炎を噴いて
夕暮れを迎えた炉王星の空へ次々と発進していく。
その数は改FE型の無人潜水航空基地1つにつき、50を数えた。
デスバテーターの第二次攻撃隊及び制空部隊と、
コスモクロウの迎撃機第二波は、今度は正面から激突した。
攻撃隊を庇うようにコスモクロウへ挑みかかったデスバテーター制空隊は、対空ミサイルを斉射。
対して、無人機コスモクロウはフレアなどを展開し自慢の機動力で悠々と回避。
両部隊はドッグファイトへ移行する。
「こいつらは、有人機ではないな!?」
デスバテーター制空部隊の隊長は、敵機が小型でかつ重力加速度(G)を無視した
機動を取ることから、敵が無人機であることを看破した。
デスバテーターは正面の機銃8門と上部の速射輪胴銃座からばら蒔く射撃、
いわゆる火線の投網でコスモクロウを絡め取ろうとするが、
無人機の驚異的なスピードと機動力はそれを許さない。
ある機はデスバテーターに追われる中でエンジンを急停止、相手に追い越させて
デスバテーターの弱点である後部下方から射弾を浴びせ撃墜する。
デスバテーター制空隊の隊長が気付くと、僚機は殆どが墜とされ、
周囲を飛ぶのは敵機ばかりとなっていた。
その敵機は次々と、爆装により鈍重な攻撃隊へと向かっていく。
「駄目だ……!!」
隊長は飛び去っていくコスモクロウを睨み付け血を吐くように呟く。
所詮デスバテーターは攻撃機だ。
戦闘機、それも高機動な無人機に勝てるわけがなかったのだ。
その冷厳な事実を思い知らされたようだった。
しかし、そんな思考も直後に襲ってきた灼熱によって永久に遮られたのだった。
「えぇい、またしても!!」
旗艦に飛び込んできた「攻撃隊全滅」の凶報に、コズモダートは手摺に握り拳を打ち付けた。
彼の苛立ちはいよいよ最高潮に達している。
「デスバテーターは全滅し、地上部隊は降下手段を失いました。」
「そんなことは分かっている!」
コズモダートと対照的に冷静なオペレーターの発言にコズモダートは怒鳴った。
「かくなる上は、
艦隊を以てあの星の地表を砲撃し、空母から直接地上部隊を降ろすのだ!
全軍、前進せよ!」
コズモダートはばっ、と左手を眼前の惑星に向けて振り、
艦隊に炉王星への降下と宇宙港など地上目標への艦砲射撃を命じるのだった。
その頃、炉王星では。
敵攻撃隊の迎撃を終えたコスモクロウが、
先ほど発進したFE級宇宙輸送艦の船体を流用した潜水式無人航空基地に帰投する。
VTOL機能も有する同機は、FE級宇宙輸送艦では後甲板に当たるエリアに着艦。
エレベーターで艦内に収容され、弾薬や燃料の補給を受け次の出撃に備える。
既に、敵第一次攻撃隊を迎撃したコスモクロウ隊の50機は潜水航空基地へ
帰着・補給を終え、次の敵航空攻撃に対し即時発進が可能だ。
しかし、コスモクロウ隊の次なる出番が来ることはなかった。
炉王星基地のレーダーは、惑星上空へ侵入する敵艦隊の姿を捉えたのである!
「どうやら、敵航空戦力は枯渇したようですな。」
「同感だ。艦砲で炉王星を直接叩こうとしている以上、間違いあるまい」
地下に建設された炉王星基地司令部で、ゲルデン司令官と参謀が語らう。
司令官席正面のモニター付きテーブルは、炉王星を示す立体映像の球体の表面近くに
敵艦隊を示すアイコンを映していた。
『ゲルデン司令、こちらの発進準備は完了している。
ゲートを開けてくれれば出撃可能だ。』
映像通信で、土方艦長が伝えてくる。
現在、「ヤマト」は厚い岩盤で地表と仕切られた地下ドックにいる。
地表を模した、堅牢なスライド式港湾ゲートを開けば宇宙戦艦ヤマトを以て
敵艦隊を迎撃する、という申し出だが……。
「あの数を一時に対処するのは「ヤマト」とて危険でしょう。
まず、我が基地の防衛設備で迎撃します。」
『……了解した。』
ゲルデンは「ヤマト」発進時にゲートを開くことで、
地下ドックの露見と出撃する「ヤマト」が袋叩きにされることを危惧し、
ドックで待機するように進言する。
土方があっさり受け入れたのは、外での戦闘の様子を「ヤマト」にも中継し、
二度の空襲を軽微な被害で退けた事実で、ある程度この基地の防備を見直したのだろう。
問題は、その防備が60隻もの敵艦隊に通用するかである。
「いかがしますか、司令官」
不安げに上官を見やる参謀に、ゲルデンは腹を括った顔で応えた。
「ここは……かつての敵に倣おう」
対するガトランティス艦隊は、怒涛の勢いで目標の宇宙港がある、
炉王星の海岸部(赤道を走る渓谷も堤体を隔てて海洋に繋がっている)を目指していた。
「敵の迎撃機、確認できません。」
「フフフフフ、
コズモダートは獰悪な笑みを浮かべ、
対艦攻撃用の航空機が存在しないことを確信する。
この星の
外縁周回艦隊に委ねているのだろう、そう考えていた。
「センサーに航空機の発進反応あり!」
「む!だが、もう遅い。せいぜい戦って死ね!」
若干機は配備されていたか、と考えを改めると共に、
艦隊が惑星上空へと侵入した以上手遅れだと一笑に付すコズモダート。
しかし、次の報告で顔色が一気に変わる。
「こ、高エネルギー反応!本艦に向かってきます!」
「な、何!?」
突如、艦橋の窓の彼方にピンク色の光が灯ったかと思うと、その輝きは一気に巨大になり、
コズモダートの意識は一瞬で熱光の中に溶けていった。
同時に、艦上を陽電子の高エネルギーによって薙ぎ払われた艦隊旗艦の
ナスカ級空母は大爆発を起こして渓谷の底へ墜ちていく。
ただ一撃で旗艦、そして指揮官を失ったガトランティス艦隊もまた、混乱の底に叩き落とされた。
艦隊の速力は一気に落ち、謎の攻撃から逃れようと回避行動を取ろうとする艦が続出。
そこに、統制の取れた軍団の姿はなかった。
「敵旗艦、撃沈!敵艦隊、隊形乱れます!」
「よし!!」
その様を見て、炉王星基地司令部ではゲルデンと参謀の快哉が上がった。
ガミラスの技術協力で開発された基地向けの高出力レーダー装置によって探知した、
通信量が多い敵の旗艦に照準をつけピンポイントで狙い撃ったのだ。
ゲルデンらの思惑通り旗艦を、恐らく指揮官を失った敵艦隊は混乱している。
60隻もの艦隊を、炉王星基地の戦力で攻撃するならば、タイミングは今しかない。
ゲルデンは惑星中の無人兵器を統括する補助AIに対し、全力攻撃を命じた。
「全敵艦を撃沈しろ!!残らず
その号令一下、惑星防衛のための重装備が集中している氷海で動きが起きた。
新たなFE級宇宙輸送艦の船体フレーム転用の潜水航空基地が浮上する。
その近くには、同じくFE級宇宙輸送艦の船体を流用しているが、
外見や用途は大きく異なる艦が2隻も浮上していた。
その艦は、前甲板に大きな単装ビーム砲を装備している。
ただのビーム砲ではない。
かつて、ガミラス冥王星基地攻防戦で猛威を振るったガミラス軍の"反射衛星砲"である!
桃色の輝きが砲の頂部に収束し、熱量の奔流となって空へと放たれた。
ガミラス軍から地球に技術提供されたこの兵器が、侵攻艦隊の旗艦を撃ち抜いたのだ。
撃ち放たれたビームを待っていたのは、撃沈される寸前の敵旗艦が探知した航空機。
その機は無人機ではあるがコスモクロウなど戦闘機とは大きく違うシルエットを有する。
上から見れば半楕円形のおにぎりのような形だ。
その底面からは、ガミラスの反射衛星のように反射フィールドが展開され、
強力な陽電子ビームを敵艦隊の方角へと跳ね返す。
その様はまるで、卓球のラケットのようにも見えた。
炉王星に配備された地球製反射衛星砲は、
FE級船体流用の無人反射衛星砲台艦から発進した反射システム搭載無人機と共に、
あらゆる方向から敵艦隊に向けて猛攻撃を加える。
技術の発達により、威力は据え置きで連射が利くようになっているのだ。
さらに、新たに浮上した無人潜水航空基地から出撃した二式無人空間攻撃機コスモレイブンが、
砲撃の合間を縫って敵艦隊に対艦ミサイルを叩きつけるのだ。
戦闘の様が中継されている宇宙戦艦ヤマトの第一艦橋天井モニターには、
ガトランティス艦が反撃もままならずビームに撃ち抜かれ、ミサイルを喰らって、
爆発四散し炉王星に骸を晒すという情景が映し出されており、
その壮絶な様に、ヤマト幹部乗組員たちは言葉を発せないでいる。
「敵艦、全て撃沈せり!」
参謀の報告を笑みと共に聞き、2・3回頷くゲルデン司令。
だがこの時、通信妨害が解除され炉王星に届けられるようになった
索敵
尋常ならざる空間の歪みを検知していたのだった……。