宇宙戦艦ヤマト2202 If 猛虎咆哮す   作:モアンゴル

66 / 90
第六十四話 "巨群" 対 "大砲"

 

【第64話】

 

 

太陽系の外縁天体・炉王星(バルカン)に建設された、

地球連邦防衛軍基地がガトランティス艦隊による襲撃を退けてから

およそ半日が過ぎようとしていた。

 

だが、炉王星基地はいまだに戦闘態勢を崩しておらず、

基地司令の意を受けた基地運営補助・兵器管制統括AIが操る

対宙レーダーが虚空を睨み、惑星氷海の水面下には

数時間前に襲い掛かった敵の艦隊・航空隊を容易く葬り去った

無人機部隊の基地艦、反射衛星砲台艦が息を潜めて次なる戦闘に備えている。

 

 

そうした濃緑色の大地と白色の氷海・浮雲が

ガミラス謹製の人工太陽の輝きに照らされている球体を尻目に、

虚空を裂き、何重にも重なった青白い三角形が回転しているという趣の

波動の回転軸から、全体が暗緑色に塗装された巨大な物体が出現する。

それは、去る12月2日にガス惑星ガミロニアⅧの戦いにおいて

地球・ガミラス連合艦隊の前に初めて姿を現し、彼らを窮地に陥れた

ガトランティス軍の最新鋭戦艦だった。

 

ガミロニアⅧ奪回作戦後に地球・ガミラス両軍司令部によって

"カラクルム級"の識別名を与えられたこの大型艦艇が、

太陽系最果ての惑星に姿を現したのである。

 

何より驚くべきは、その数であった。

十や二十、ガトランティスの標準的艦隊定数である

百隻という生易しい数・単位ではない。

 

炉王星沖空間に一度の空間跳躍(ワープ)で現れる数は最低でも数千だ。

数分もするうちに、その総数は万単位へ膨れ上がっていく。

その様はまるで、地球の海に棲息し群れで活動する、

イワシなどの魚のようにも錯覚する。

しかし、その一隻一隻は地球やガミラスの艦隊を単艦で蹴散らせる

恐るべき戦闘力を秘めた宇宙戦艦であった。

そんな暗緑色の塊というべき群れの中に、唯一異なる様相の艦の姿が。

 

艦形こそ周囲と同じカラクルム級のそれであったが、塗装は大きく違う。

既存のガトランティス艦らしからぬシルエットは、

白と濃灰色で複雑に塗り分けられており、よく目立つ。

この艦こそ、今この瞬間にも炉王星沖に出現し続けている

ガトランティス巨大艦隊の旗艦であることは明らかだった。

 

 

「……コズモダート、愚か者めが。

 この程度のちっぽけな惑星の制圧にもしくじるとは。

 ……戦士(ガトランティス)らしく、戦いの中で死ねたのは幸いだったな。」

 

旗艦の艦橋に仁王立ちとなり、窓から最果ての惑星を眺めながら、

帝星ガトランティス・第八機動艦隊の司令長官メーザー提督は

敗将の名を吐き捨てた。

 

既に先んじて跳躍転移(ワープアウト)した艦の報告により、前衛艦隊の全滅と

それに伴う中級指揮官コズモダートの敗死は知っていたが、

改めてゾル星系(太陽系)最外縁の星を直接目の当たりにすると、

その矮小さを実感し、制圧に失敗した部下への侮蔑の念をを強くする。

 

一方、その原因ともなった地球(テロン)人の基地に対する興味は薄かった。

 

「まがい物の恒星を頼みとする惑星か。」

 

「提督、地表部・海中の施設の他に、エネルギー源を探知いたしました。

 宇宙戦闘艦艇と思われますが、いかがいたしますか。」

 

「……いや、捨て置け。

 我ら第八機動艦隊が任は、ありがたくも使用をお許しいただいた

 "集群砲"が威力を確かめ、知らしめることにこそある。」

 

メーザーは、索敵手から存在を知らされた敵戦闘艦や基地に対して

艦隊の一部を割き、"撃滅砲"によって覆滅するかという考えを一瞬巡らせたが、

本来の任務を優先させる決定を下した。

どのみち、程なく星ごと消えて無くなる存在にかまう暇はなかった。

 

「各艦の配置と、雷撃端末の展開に力を注げ。

 大帝のご命令は絶対である!」

 

「ハッ!」

 

メーザーの命令が、宙域全てを覆いつくさんがばかりの大群に伝えられる。

いまだ、カラクルム級のワープアウトが終わることはなかった。

 

 

 

 

そんな絶望的な光景を、地球連邦防衛軍の将兵らは

炉王星の地下に逼塞する宇宙戦艦ヤマトの作戦室から観測していた。

 

「現在までに出現せる敵艦、1万5000隻を突破。

 すべてカラクルム級戦艦と認む。」

 

ヤマト第一艦橋の電測手席に詰めている西条未来上曹の報告通信が響く。

炉王星基地のレーダーで得られた情報がヤマトにリレーされたものだ。

作戦会議場に集まっていたのは、土方艦長・真田副長を筆頭に、

古代、島、森、徳川、加藤など、ヤマト各科の責任者たち。

それに加えテレザート行にあたりガミラス軍から派遣された

連絡士官・オブザーバーであるクラウス・キーマン中尉も臨席。

また、炉王星基地の司令官であるハンス・ゲルデン少将と、彼の部下である

基地司令部付きの参謀たちと、自動化が進んだ炉王星基地の人間全員が

地下に建設された基地司令部から移ってきていた。

これは意見交換を円滑にするほか、万一の際の脱出を容易にするための

措置でもあり、土方が提案しゲルデンが受け入れたものであった。

 

「……まさか、本当に数十万という敵艦が現れるとは。」

 

「我々も半信半疑でしたが……今でも悪夢を見ている気分です」

 

ヤマト副長と技術長を兼任する真田志郎中佐がこれまでにないほど

表情を険しくしてつぶやいた。

それに、基地の防衛参謀ワイナカパック中佐が同調する。

 

最初にガトランティスの新手が迫りつつあることを察知したのは、

炉王星をハブとし、太陽系外縁部全体に張り巡らされた

長距離索敵ネットワークである。

重力変動などを観測し系外からのワープを検知するこれらシステムが

炉王星基地司令部に通報した内容は、目を疑うものだった。

なんと、"総数250万"の宇宙艦艇が炉王星沖にワープアウトするとの

予測結果が弾き出されたのである。

 

基地要員や、寄港していた宇宙戦艦「ヤマト」の乗員たちは

システムの不具合を疑いながらも、

復旧した通信で地球の防衛軍司令部へ事態を通報、

司令部の指示で敵の後詰の襲来に備えていた。

 

果たしてAIの予測通り、数十万単位の夥しい数の敵艦隊が

炉王星沖の空間に出現したのだ。

 

 

「……問題は、敵が何を目的としているかだな。」

 

議場全体の上座に立ち、両腕を組んでいるヤマト艦長・土方竜大将は

一同が囲んでいる映像____炉王星を示す球体に、

出現した敵艦隊の展開を立体的に表したものを凝視し言った。

 

ガトランティス軍が炉王星を襲撃したのは、太陽系外縁部の

星系外警備システムを麻痺させるためであることは疑いない。

しかし、それが失敗に終わった後、

新たに出現した敵艦隊が炉王星に攻撃を仕掛けてくる様子はなかった。

あの大戦力から炉王星の地球軍戦力は脅威と見られていないようだ。

現状、敵の目が向けられていないことから、

土方は冷静沈着に事態を俯瞰できた。

 

「目的と言っても……地球の攻略に他ならないのでは?」

 

炉王星基地を預かるハンス・ゲルデン少将が怪訝な顔で返す。

土方は彼に向き直り、自身の見解を述べた。

 

「それは前提としたうえで、だ。

 探知された敵艦隊の総数は200万を超えるが、

 それだけの大戦力を太陽系内に展開させても意義が大きくはない。

 単純に地球を攻略するだけならば、現在この星の沖にある

 1万5000隻でも十分すぎる。」

 

「確かに……」

 

ゲルデンや真田、古代らは土方が指摘した不合理に納得し、

ガトランティス側が炉王星に送り込んできた巨大な戦力で

何を企んでいるのかを推察せんとする。

 

単純に敵上層部が250万隻での地球攻略を命じ、それに基づいて

炉王星沖を250万隻の集結・隊列整備点としているだけなのか、

あるいは250万隻を太陽系侵攻・地球攻略に用いる特別な理由があるのか。

 

「……それにしても、艦同士の間が詰まった隊形ですね。」

 

「あぁ、何かあればすぐに衝突事故を起こしそうだ。」

 

敵艦隊の立体表図に隣接して表示されたウィンドウに映された、

炉王星地表から超望遠撮影された敵艦隊の姿を眺めて

ヤマト気象長の太田と航海長の島が呟いた。

それを耳ざとく聞いた真田副長は、何か気付いたように反応する。

 

「……!!

 ゲルデン司令、太陽系外縁の探知システムがワープを検知し、

 この基地の補助AIが計算した敵艦隊の出現予測データを

 表示させることは可能ですか?」 

 

「可能だが、それがどうしたのかね?」

 

ゲルデンは突然の質問に怪訝な顔をしながら応える。

デバイスを手にした真田は、見ればわかる、とばかりに操作し、

宇宙戦艦ヤマトの運用を補助するAU型ロボットの統括機となっており、

ヤマト各科幹部乗員に準ずる扱いを受けているAU-09ことアナライザーに

その視線を向けた。

 

「アナライザー、この基地の補助AIとリンクし結果を出力してくれ。」

 

了解(リョウカイ)

 床面(ショウメン)立体図(リッタイズ)トシテ投影(トウエイ)シマス。」

 

そうして、炉王星基地運営AIが予測した、

ガトランティス巨大艦隊の出現(ワープアウト)・展開予測が

分かりやすく図形化され一同の目前に映し出される。

それは、巨大な細長い円筒形とそれを囲むリングを

形成するようにも見えるものだった。

 

「真田さん、これは一体……」

 

古代が困惑しつつも尋ねた。

当人たる真田も汗を滲ませ、デバイスを動かしながら説明を始める。

 

「この図は敵艦隊の全艦、250万隻の全てがワープアウトしたのを

 予測した図ですが、現在の敵艦隊がワープアウトし

 集結しつつある空間は、この星の周囲を廻っている

 ガミラス製の人工太陽の軌道と重なっています。」

 

「……つまり、敵艦隊がこの陣形を形成する空間は

 炉王星の人工太陽の軌道と重なる、と言いたいわけだな?」

 

真田が言わんとする内容を察したのか、

土方艦長は他の出席者に分かりやすいように嚙み砕いて言う。

副長も「左様です」と頷き、説明を次の段階へ進める。

 

「このまま時間が経過し、敵艦隊が陣形の形成を完了するのと

 ほぼ同時に、人工太陽は炉王星を周回し敵艦隊に接触します。」

 

出席者の眼下に映されたシミュレーション画像が

真田の言う通りに変動し、人工太陽を示す球体が

巨大な円筒形を構成する敵艦隊に重なる。

 

「私の仮説が正しければ、敵艦隊が形作るこの円筒形は

 一種の加速器として作用し、人工太陽を暴走させ、

 巨大なエネルギーへと変換します。

 ごく小規模な超新星爆発というべき事象を引き起こすのです。」

 

真田の説明と同時に、巨大なエネルギーが球状に拡大し、

炉王星と敵艦隊を飲み込むシミュレーション映像が展開された。

だが、それでは終わらないとばかりに真田副長は顔を強張らせて

別の計算データを床面に映るシミュレーションへ追加する。

 

「仮にこのエネルギーが"砲撃"として、

 この巨大な円筒、もとい"砲身"から発射されるのだとしたら……」

 

足元の画面で、円筒型に展開した敵艦隊の一方___

太陽系の中心部へ向けられた方向へ、

放たれたエネルギーを示す線が伸びていく。

それは、遠く太陽系内惑星圏を回る惑星の軌道と重なった。

そこに付けられていた名称は第三惑星、即ち。

 

「地球……。」

 

森船務長が、呆然としたように口に出す。

他の者は誰しも、言葉を発することができなかった。

さしもの土方も目を見張る、衝撃的なシミュレート結果だ。

 

新手として炉王星沖に出現した、総数250万という敵の巨大艦隊は、

地球を攻略どころか、完全破壊しようとしているのだ。

現段階では仮説であるが、敵の動きを説明しきれる以上、

明らかな"事実"と受け取らざるを得ない___。

 

 

 

 

「艦長!!」

 

会議場内の重苦しい静寂を引き裂いたのは、張りのある声。

「ヤマト」戦術長、古代進大尉の発したものだった。

 

「戦術長、意見具申!

 ()()()を使用した長距離射撃による、

 敵企図の即時阻止を実施すべきと考えます!」

 

彼の口をついて出た思いもよらない提案に、

一部を除く出席者は驚き、一様に古代の顔を凝視した。

 

「古代……!」

 

「古代くん……!」

 

真田や雪は、本気なのかとばかりに、声すら漏らした。

そんな中で、「ヤマト」艦長・土方は具申を咀嚼するような

合間を置いて、古代へ鋭い眼光を送る。

そして、問いかけるように口を開いた。

 

「……宇宙戦艦「ヤマト」は、地球連邦防衛軍に所属する。

 その最大の使命は、地球人類の生命と権利を守ることである。

 その遂行のために必要とあらば、如何なる手段をも厭わない。

 現事態を打破し、地球を、市民を防衛するために

 "波動砲"を使用する作戦が至当である、ということだな?」

 

「はい!!」

 

古代大尉は、迷いなく即答する。

それを受け、土方は満足げに頷いた。

 

臨席するキーマン中尉は、意外の念と共に"戦術長"を見やる。

結局、波動砲の使用について反対意見が出ることはなかった。

 

 

 

 

それから、数時間が経過した。

炉王星の地表に建設されている、ガミラスの様式を取り入れた

長い窪地型の、整備ドックを兼ねた宇宙艦艇用埠頭が連なる

炉王星基地の商船用メイン宇宙港は、ガトランティスの襲撃以降

初めての、そして、最後となるであろう夜明けを迎えている。

 

空には、250万隻全艦が到着・集結を終えた

ガトランティス第八機動艦隊の巨大な影が見えている。

地球軍基地のAIが予測したとおり、

長大な円筒形とそれを囲む複数のリングが、

無数のカラクルム級戦艦によって形成されていた。

 

間もなく、かつてガミラスが太陽(ゾル星)系最果ての惑星を開発すべく

遼遠から曳航移送してきた人工太陽が、

ガトランティス艦隊が形成する"砲身"側面に空いた穴に入り

カラクルム級が装備する雷撃端末(ビット)によって

地球を破壊するための"集群砲"のエネルギーへ転換される筈だ。

少なくとも、ガトランティス側にとってはその予定であった。

 

 

だが、その予定を破壊せんとする意志もまた、

炉王星の地下、堅牢に建設された軍用地下ドックに存在している。

同ドックにただ一隻入泊している地球連邦防衛軍・宇宙海軍の

宇宙戦艦「ヤマト」は、既に戦闘配備を整えていた。

 

「炉王星基地より通信!」

 

第一艦橋にはヤマト幹部乗組員が勢揃いしており、

相原通信長が土方に報告、天井パネルに映像通信を映し出す。

天井モニターには、基地司令部へ戻ったゲルデン少将の姿が映る。

 

「非常用ゲートの開放準備が完了しました。

 コントロールをそちらにお預けします。」

 

炉王星基地の地下軍港には、メイン出入港ルートとなる

地表に偽装した天井がスライド式に開くゲートとは別に

炉王星の大きな特徴の一つである、赤道を氷海へ向けて走る大峡谷の

北側の壁面にも補助ゲートがあり、そこまで艦船出入港用水路が築かれ、

同ゲートまで繋がっていたが使い勝手は良くなく、非常用脱出路とされていた。

建設以来使用されずにいた非常用ルートの作動確認が基地司令部から

行われた後、操作権限が宇宙戦艦ヤマトに付与されたのである。

 

「ゲルデン司令、感謝する。」

 

「ヒジカタ艦長、ご武運を。」

 

そんなやり取りが交わされ、「ヤマト」は地下軍港を出撃した。

スラスターが火を噴き、ドックから船体が浮き上がる。

そのまま非常用ゲートまで伸びる長い水路トンネルへ進入。

こうして、「ヤマト」がわざわざ非常用ゲートから地下基地外へ出るのは、

万が一軌道上を離れた敵戦艦が基地メインゲートを監視していても

それを躱すことができるからだ。

ヤマト第一艦橋・技術長席からの操作によって、

非常脱出用出入口の分厚い門扉が左右へスライドし、

ヤマトは巨大峡谷にその姿を晒し出した。

その頭上には、250万隻を数える敵艦隊の姿が見えている。

 

「___これより本艦は、波動砲発射シークエンスへ移行する!」

 

土方が宣言する。

同時に、艦内へ向けその旨を知らせるアラートが鳴り始めた。

波動砲発射後の波動エンジン再起動に備えて

艦内電力が切り替えられ、照明が薄暗くなる。

航海長から戦術長に操艦権限が移され、「ヤマト」の舳先は

炉王星軌道上に集結するガトランティス巨大艦隊へ向けられた。

そんな中で、古代の脳は数時間前の会議を思い出している。

 

 

 

「……波動砲射撃によって

 ガトランティスの作戦を阻止するにあたって、問題がある。

 何を撃つか、だ。」

 

古代の進言を受け容れた土方だったが、すぐにその"穴"も指摘した。

古代もこの点は承知しているようで、自身の見解を語る。

 

「私は、敵の大規模砲撃を管制すると考えられる敵旗艦を

 狙撃すべきであると考えます。

 先ほどの炉王星基地防衛戦を鑑みるに、通信量などから

 敵旗艦を特定するのは不可能ではないと考えます。」

 

「うむ。その意見は正しいが……」

 

土方は古代の意見に一定の理があることは認めつつ、

さらに詳細に問題をクローズアップした。

 

「仮に、敵の旗艦を狙撃したとしてもあの規模の艦隊だ。

 次席指揮官が発射管制を引き継いでしまえば意味がない。」

 

「では、波動砲発射時にスラスターで「ヤマト」を回頭させて

 薙ぎ払うように敵艦隊そのものを攻撃するのはどうでしょうか?

 多少の負担こそ艦にかけてしまいますが、

 敵の砲撃を妨害出来る程度にはあの大艦隊を削りとれるかと。」

 

今度は砲術長の南部中尉が発言したが、それにゲルデン少将が反論。

 

「待ってほしい。

 仮に、敵艦隊を痛撃し砲撃の試みを頓挫させたとしても、

 残存の艦隊が直接地球へ向かってしまえば意味がない。

 ヒジカタ大将が仰ったように、連中の艦隊の200分の一の戦力でも

 地球を攻略、破壊するのには十分なのだ。

 「ヤマト」の一撃が敵艦隊全てを行動不能とするものでなければ

 この未曽有の窮地を脱することはできまい。」

 

現在、炉王星にある戦力は「ヤマト」以外に惑星防備用の設備のみ。

それらは軌道上の敵大艦隊には無力と言ってもよかった。

また、炉王星に向かう救援艦隊は敵の膨大な増援を知って

海王星沖で停止しており、急場には間に合わないだろう。

 

この危機を撃砕できる可能性があるのは、

「ヤマト」の波動砲だけだ。

それも、艦隊など複数の目標に対しては

あまり効果的ではない収束型の波動砲で、だ。

 

敵を一隻でも取り逃せば、地球ばかりではなく

エネルギー切れになった「ヤマト」にも襲い掛かってくることは

想像するに難くなかった。

 

「人工太陽。」

 

そんな時、ガミラスから派遣された連絡士官である

クラウス・キーマン中尉がぼそりと呟いた。

一同の視線が一斉に彼に向かう。キーマンは続けた。

 

「我がガミラスが設置した、あの人工太陽を利用すれば

 なんとかなるかもしれません。」

 

キーマンの口を出た言葉に

そうか、と気付いたように表情を変えたのは

真田技術長と新見技術長だった。

 

「…確か、あの人工太陽は過去に"波動共鳴"を引き起こさせていた!」

 

「それをもし、再び人為的に発生させられれば……!」

 

話を聞いていた古代は、技術論にはそこまで精通していなかったが、

その後の説明を聞くと、ある程度の理解が行った。

 

敵艦隊が地球への長距離砲撃のエネルギー源にしようとしている

炉王星を周回するガミラス製人工太陽を波動砲で撃ち、

臨界炉を破壊して宇宙艦艇の機関を使用不能にする現象

"波動共鳴"を発生させて敵の砲撃を阻止すると同時に、

敵艦隊の全てを航行不能に追い込もうというものだ。

これなら、「ヤマト」が達成しなければならない条件をすべて

クリアできるため、取り得る中では最善の策と言えた___

 

 

 

そして、今。

 

古代進が握っているターゲットスコープの照準には、

作戦通り炉王星の人工太陽が重なっていた。

既にガミラス製の人工天体は敵艦隊が形成する砲身内へ進入している。

もう、いつ砲撃シークエンスに入るかわからない状態だ。

 

「総員、対衝撃(ショック)・対閃光防御!!」

 

土方艦長の太い声を受け、艦橋内のメンバーがゴーグルを着けた。

艦橋窓にも閃光を和らげる電子スクリーンが展開する。

波動砲のトリガーに、古代の指がかかった。

 

その瞬間、彼の胸にはあらゆる感情が去来し、

沖田艦長、スターシャ女王、兄・古代守など、

様々な人の顔を幻視する。

 

しかし、それでも。

地球連邦防衛軍大尉、

宇宙戦艦「ヤマト」戦術長、

古代進は使命のため、愛する者を守るため、

しがらみを振り払いトリガーを引き絞った!

 

波動砲室では突入ボルトが圧力薬室へ突き刺さり、

黄色味を帯びた光の粒を砲口へ集めていた艦首から

青白い光の奔流がほとばしり、一気に炉王星の空を駆けあがる。

そして、ガトランティス大艦隊の中で形を崩しつつある

人工太陽に突き刺さったのだった。

 

 

 

 

「……そんな、そんな馬鹿な!」

 

白く塗装されたカラクルム級戦艦の艦橋で、

暗緑色の巨群___ガトランティス第八機動艦隊を率いる提督、

メーザーは眼前の光景を目の当たりにして呆然とする。

 

"集群砲"の核に据えられ、砲撃のエネルギーとなるはずだった

最果ての星を照らすまがい物の太陽が

惑星から昇ってきた、地球(テロン)人の艦の砲撃を受けるや、

途端に紫がかった放電光となって、第八機動艦隊を構成する

"大戦艦"の一隻一隻に纏わりついてきた。

()()したエネルギーが密集して円筒形の陣を敷いていた戦艦隊に、

連鎖するように巻き付き、艦隊の端々にまで及ぶ。

無論、メーザーが座乗する旗艦もまた例外ではない。

第八機動艦隊に属する大戦艦は、一隻残らず操艦不能となっていく。

 

陣形を組む大戦艦の群れは

一隻、また一隻と、死んだように漂って位置を外れる。

"集群砲"を放つために組んでいた円筒形は崩壊の一途をたどった。

人工太陽も、燃え尽きたとばかりに輝きを失い

砲撃のエネルギーを供給することができなくなったのは明らかだ。

 

「なっ……あぁっ!!」

 

第八機動艦隊は"集群砲"を放つという任を達せられなかったどころか、

その戦闘力の全てを喪失した。

その事実を認識したメーザーは、絶望の声を漏らした。

これでは、自らがこき下ろしたコズモダートと何ら変わらない___

底のない恥辱と恐怖が、彼を侵しつつあった。

 

 

 

 

波動砲シークエンスが解除されたヤマト第一艦橋では、

敵艦隊が行動不能となり、その長距離砲撃の目論見が粉砕されたことが

望遠観測によって確認され、快哉と安堵の雰囲気に包まれている。

 

そんな中、波動砲のトリガーを引いた当人である古代大尉は

席を外し、人気のない場所に移っていた。

 

(___俺は、とうとう波動砲を___)

 

一段落ついて省みてみると、古代の胸中には重苦しいものが渦巻いた。

取り返しのつかないことをしてしまったのか、と___

 

「ここにいたのね、古代くん。」

 

「雪……」

 

そこに森船務長が現れ、古代の傍らに腰を下ろした。

 

「また、地球を救っちゃったね。」

 

「でも、俺は……」

 

古代は恐る恐る、といった様子で森雪の顔を覗く。

雪には、それが叱られることに怯える少年のように映った。

 

「本当に、貴方は偉いわ。

 けど……忘れないで、古代くん。

 あなたがどこに行こうと、私がずっと傍にいることを。

 一人で全部抱え込まないで。」

 

「……ありがとう、雪」

 

雪は、隣に座る古代との間を詰める。

その様は、自らの温もりを伝えようとするかのようだった。

 

 

 

 

斯くして、太陽系最外縁の惑星来攻したガトランティス艦隊と

防衛軍炉王星基地、そして宇宙戦艦「ヤマト」の戦いは、

地球連邦防衛軍の完勝という形で決着を迎え、

その報はただちに炉王星基地から太陽系中に伝えられる。

 

 

とある一隻の宇宙船も、その報を受け取っていた。

 

「……これで、我々はお役御免となったわけだな。」

 

その艦の艦長を務める、尾崎徹太郎大佐は苦笑を以って反応する。

彼は防衛軍司令部の特命を受け、正規の救援部隊とは別に

2隻のFE型無人艦を伴って炉王星に向かう途中であり、

現在は冥王星軌道まで進出していた。

 

尾崎大佐の指揮する艦が受けた命令は文書形式でも送られ、

驚くほど細かい面まで指示されており、尾崎を困惑させた。

 

その文面には概約して、

「敵巨大艦隊が炉王星人工太陽を利用して企図する

 地球を標的とした超長距離射撃に対し、

 ()()()を以って人工太陽を狙撃・阻止」を命ずるもので、

同様の命令書を送付した炉王星基地からの連絡があり次第、

無人艦によってトランスワープを行い射撃を実行するよう

加え書きまで付けられていた。

 

幸いなことに炉王星基地からの急報はなく、

尾崎の艦は冥王星軌道で待機するだけに留まった。

 

「……どうして司令部が、

 敵の狙いをこうまで予測できたかは謎だが……

 気にしても仕方あるまいな。」

 

尾崎はタブレットデバイスに映した

文書形式の命令書を眺めながら、首を傾げる。

その命令書の起草者の欄には、「芹沢虎鉄」のサインがあった。

 

「この作戦が不発に終わった場合は……」

 

尾崎はタブレットを操作し指令の続きを読む。

指令内容は、土星タイタン基地への帰還とある。

炉王星の後始末は本来の救援艦隊に任せるのだろう。

尾崎は指令に従い、乗艦と2隻の無人艦に命令を下した。

 

 

2隻の改FE級艦の前方を行くのは、宇宙戦艦ヤマトに瓜二つな艦。

相違点を挙げるなら、「ヤマト」では暗い灰色に塗られた船体上部が、

D級戦艦と同じ明るい灰色で塗られていることくらいだ。

 

尾崎徹太郎大佐が艦長を務めているのは、

ヤマト型宇宙戦艦の二番艦、艦番号BBY-02。

 

その名を、宇宙戦艦「ムサシ」といった。

 

 





オリジナル設定解説

・集群砲
 原作におけるレギオネル・カノーネ。
 あまりにもガトランティスの命名基準のイメージから外れるため改名。
 人工太陽などに相当するエネルギー源が存在しない場合は
 250万隻分の雷撃ビットで無理やりエネルギーを捻り出す。
 その場合は原作6章のゼムリア破壊の時程度に射程が短くなる。
 結局、カラクルム級を直接突っ込ませた方が合理的である。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。