【第74話】
地球・ガミラス合同迎撃艦隊を統括指揮する旗艦「ソールズベリー」から
艦隊各艦に、司令官ルーベン・ワード少将が立案した
デブリゾーンに籠城するメダルーサ級重戦艦の撃沈作戦が伝達される。
ミサイル攻撃を阻害するデブリゾーン内に入ったことで難攻不落となった
メダルーサ級を攻撃するために目を付けたのは、
敵戦艦自身が安全にデブリゾーンに進入するために、
決戦兵器・火焔直撃砲で開けた大穴だった。
迎撃艦隊に近い穴の"出口側"はメダルーサ級が舳先を向けており、
まともに侵入しようとすれば火力転送砲の直接射撃で吹き飛ばされてしまうが、
反対側の"入口側"はメダルーサ級は武装の少ない艦尾を向けているため
弱点として衝ける可能性を見出だしたのである。
そこでワード提督は、強制ワープ装置艦への攻撃に向かう敵を追わせた
16隻を除いても、未だ48隻のクリピテラ級駆逐艦を擁するガミラス宙雷大隊を
デブリゾーン開口部の"入口側"へ迂回進撃させ、敵戦艦の後方から
再装填が完了したミサイルによる飽和攻撃を浴びせることを企図した。
デブリゾーンを迂回する際には、メダルーサ級の前甲板の五連装主砲を始め
艦各所の大口径砲が大出力ゆえの長射程を活かし駆逐艦を狙い撃ちにする
恐れがあるため、宙雷大隊の迂回と並行して地球艦隊とガミラス装甲大隊が
長距離射撃に必須のレーダー測的をジャミングで妨害すると共に
危険を承知でデブリゾーンに接近、砲戦を挑み陽動・牽制する。
「敵は、さながら巣穴に籠る
作戦伝達時、迎撃部隊次席指揮官でもあるガミラス側責任者の
ハルツマン中佐と交信した際に、彼が評した言葉だ。
そんな難敵を、迎撃艦隊は総力を挙げて仕留めにかかる。
まさしく、火竜狩りであった。
一斉に部隊が動き始める。
宙雷大隊は16隻ずつ、三波に分かれてデブリゾーンの迂回を開始。
もしメダルーサ級が迎撃艦隊の作戦に対抗して前後進で大穴を脱したり、
火力転送砲の直射により新たな大穴を形成するなどの動きを見せたとしても
柔軟な対応を行うため一塊での進撃は避けたのだ。
対して、地球艦隊とガミラス巡洋艦部隊は躊躇なくデブリゾーンに迫る。
敵の宙雷大隊への狙撃を防ぐジャミングは地球の改
残る改
中でも波動防壁を有する地球艦隊が先行し、攻撃を開始した。
「
最大射程内にメダルーサ級を捉えた「ソールズベリー」以下K型装甲巡防艦群は、
備砲である8インチ収束圧縮型三連装
同級はかつての
8インチ
副砲の5インチ両用速射連装陽電子衝撃砲が二基配されている。
一艦あたり九門の中口径ショックカノンがガトランティス戦艦に対して吼えた。
ガミラス艦隊もデブリ暗礁帯の際から陽電子ビーム砲の紅い輝きを噴き出す。
青と赤、無数の火線が大穴に居座る敵戦艦に浴びせかけられたが、
その返礼として向かってきたのは、緑色をした太い5本の光条であった。
「『キャッスルトン』被弾!……波動防壁、エネルギー4割まで低下とのこと!」
地球艦隊に向かってきた砲撃のうち、2発が改K型の一隻を捉えた。
技術の進歩で強化された波動防壁は被弾した「キャッスルトン」を守ったが、
強烈な一撃は確実にダメージを与えていた。
「くそ……!まともに食らえば一撃で沈むぞ!
全艦散開、各個に敵戦艦を砲撃せよ!」
ワードは艦列を解き、改K型各艦が個々にメダルーサ級の攻撃を行わせることを決断。
再度、再再度と敵戦艦の五連装主砲が放たれたが、今度の砲撃は空振りに終わる。
が、ワード提督は胸をなでおろすことを許されなかった。
「敵戦艦のエネルギー反応上昇中!特殊砲撃システムを充填中の模様!」
「!!」
地ガ艦隊と遠距離砲戦を演じる間に、
メダルーサ級は火焔直撃砲のダンパーを降ろしプラズマ火球の生成を開始していた。
デブリ空間に大穴を開ける際にはおよそ5割の出力で、
(ワープ阻害装置の影響で転送投擲機が使用不能なこともあり)直射していたが
今度は完全にチャージを完了させてから敵艦隊に直接射撃するようだ。
メダルーサ級自体も回頭し、左右二群に分かれている地ガ迎撃部隊のどちらかに
狙いをつけるのだが___当然、標的は地球艦隊となった。
彗星帝国の戦艦は、大口径主砲の一撃でも容易に沈まない防御力を有する
ガミラス艦ならば、火焔直撃砲以外の砲火力で圧倒できると判断したのだろう。
しかし、地球艦隊としてはそんな敵の思惑通りに動く道理などなかった。
焦燥の表情を浮かべつつ、ワード提督は麾下部隊に命令を飛ばした。
「第二護衛戦隊、空間魚雷斉射!!」
メダルーサ級と砲火を交える改K型の後方に位置していた第二護衛戦隊に属する
9隻の改
開口部に到達すると全艦が再装填を終えた空間魚雷を敵戦艦に向け斉射。
その直後に艦体を翻し、穴を挟んだ反対側に布陣するガミラス艦隊後方へ移った。
「敵戦艦、急速回頭!……特殊砲、来ます!」
「……!!」
迫り来る空間魚雷多数を直近の脅威と見てとったメダルーサ級だが、
エネルギーチャージ中で回避できず、数の多さから自前の対空火器では
有効な迎撃ができそうにもなかった。
そのため、急遽火焔直撃砲の標的を地球艦隊から空間魚雷に変更・発射。
空間魚雷に対する防御とするには過剰な威力のエネルギーが、再び"穴"に奔る。
「___好機だ!敵艦はエネルギーを消耗したと考えられる!押し込むぞ!」
暴力的なプラズマ火炎の一閃が去ると、ワード少将は叫ぶ。
窮余の一策は、地球艦隊を危地から脱させるだけでなく、
敵戦艦との砲戦で優位に立つためのチャンスをも作り出したのだ。
K型装甲巡防艦6隻はさらに前進し、動きが制限されるデブリ暗礁帯内に進入、
ショックカノンの青い砲撃を輝かせる。
隊列の先頭に立つのは、ワードの旗艦「ソールズベリー」だった。
呼応して、ガミラス艦隊も砲撃を強化。
再びガトランティスの重戦艦は二方向からの砲撃を浴びせられる。
「敵艦発砲!___本艦に来ます!」
だが、遠距離砲戦であることも影響しメダルーサ級の被害は大きくない。
火焔直撃砲による攻撃が失敗に終わった同艦はすぐに、反撃の砲火を放った。
向かう先は名実ともに地球艦隊を陣頭指揮する「ソールズベリー」だ。
「ぐわっ!!」
「ひ、被弾!……波動防壁限界!」
「敵戦艦再度発砲、次弾来ます!」
衝撃が旗艦艦橋をも揺るがし、悲鳴のような報告が飛び交う。
頼みの綱たる波動防壁は、敵への接近を試みたことが仇になったか、
先の僚艦と大差ない三発の被弾にも拘わらず即座に機能を失った。
ワードの脳裏にはここまでか___と無念と判断を誤った悔悟がよぎる。
再び「ソールズベリー」全体を着弾の振動が貫いた。
「一番砲塔、脱落!」
「……全艦、後退しろ!」
幸いにも敵の砲撃は一発だけ、それも艦橋前方の8インチ陽電子衝撃砲塔を
削ぎ取るだけの被害に終わるが、こんな幸運がいつまで続くかわからない。
ワードは歯を食いしばりながら指揮下の艦隊にデブリ帯からの脱出を命じる。
彗星帝国の重戦艦を向こうに回し、地ガ迎撃艦隊は苦闘を続けていた。
それが報われたのは直後のことで、急転直下と呼ぶに相応しかった。
「ガミラス宙雷大隊より入電!
反対側の開口部に到達した模様、攻撃を開始するとのこと!」
「……やったか!!」
オペレーターが希望を見出したと言わんばかりに報じ、
ワードも思わず指揮官の席を立ちあがった。
これまでの戦い、即ち宙雷大隊迂回進撃のための時間稼ぎは成功したのである。
「ソールズベリー」を狙っていた敵戦艦の砲火は止み、
モニターの望遠映像を見やると、メダルーサ級は後背から迫ってきた
多数のミサイルが着弾したことにより、爆炎に包まれ粉砕されていく。
艦橋窓外の宇宙にも、敵戦艦の断末魔の輝きが灯っていていた。
「敵メダルーサ級戦艦、撃沈!!」
オペレーターの報告に、艦長以下艦橋内の士官らは快哉に沸いた。
ワード提督も相好を崩し、大きく息をつく。
その上で、連合迎撃部隊および地球軍第九艦隊の司令官は戦慄する。
(……本当に危なかった。
一歩間違えれば確実に死んでいた。恐るべき敵だった……)
こうした本音は、おそらく艦橋内の全員が共有しているだろうが
とにかく生き延び、
ワードはあくまで心中で考えを巡らせた。
(
メダルーサ級を沈められたのは幸運も多分にあるのだろう……)
そうしてワードは思考の淵に沈んでいこうとしていたが、
それを新たな報告が遮った。
「提督!……追撃隊及び護衛部隊より入電!
敵の攻撃部隊を捕捉・撃滅し、ワープ阻害艦にも損害はないと!」
報告によれば、敵攻撃部隊は追撃隊により撃ち減らされつつも
ワープ阻害艦の目前まで迫ったが、阻害装置を搭載する改造型FE級艦を
護衛していた第九艦隊の分派部隊との挟撃にあったという。
強制ワープアウト・ワープ阻害装置艦の護衛についていたのは、
第九艦隊隷下・第五巡防艦戦隊旗艦の改
制御艦とする無人艦部隊である。
迎撃部隊からの通報を受けた護衛部隊は、阻害装置の前方空間に
無人
そこに突っ込んできたガトランティス艦に、さらに無人
ミサイルを浴びせて撃破したとのことだった。
「……そうか。これで我々は完全に勝利できた訳だな……」
メダルーサ級との激闘により半ば忘れかけていたが、
同等以上に重要な移動式ワープ阻害装置の防衛もまた成功したことを受け、
ワード少将は再び安堵の溜息を漏らした。
これで、ワードが指揮する迎撃艦隊は当初の任務を完遂したことになる。
「では、地球の総司令部に報告だ。
敵がメダルーサ級を投入してきたことは、ぜひ伝えねばなるまい」
戦闘態勢が解除され、ワードは宇宙服のヘルメットを脱ぎながら言う。
合計3隻目のメダルーサ級戦艦を屠った男の表情は、ひどく疲れていた………
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地球連邦防衛宇宙海軍・第九艦隊と
共和政ガミラス国防軍・第九〇空間師団ハルツマン戦闘団艦隊の合同部隊が、
太陽系外惑星圏に敷かれたワープ阻害ラインの垂直迂回を試みた
メダルーサ級戦艦を含むガトランティス先遣艦隊を迎撃した戦いは、
後に「第一次天王星軌道沖海戦」と命名された。
「第一次」とついていることから分かるように、「第二次」も存在する。
「第二次天王星軌道沖海戦」はそれから5日後、5月4日に生起した。
この戦いはこれまでの太陽系外惑星圏での戦闘とは異なり、
太陽系内への浸透攻撃を試みたガトランティス艦隊が強制ワープアウトさせられ
待ち伏せていた地球・ガミラス連合艦隊により迎撃されるというものではなかった。
理由として、第一次天王星軌道沖海戦でガトランティス軍がメダルーサ級戦艦を
投入してきた旨が報告されたことで、太陽系防衛地ガ合同司令部は近いうちに
一層大規模な攻勢が行われると判断し、迎撃密度を引き上げるために
強制ワープアウト・ワープ阻害装置による迎撃ラインを縮小。
阻害装置群はピストン運航によるトランスワープによって、
天王星軌道・土星軌道間空間の新防衛ラインに移設されていった。
これら作業は5月1日・2日両日に実施され無事に完了したが、翌3日に
新たなガトランティス艦隊が冥王星軌道に出現したことが確認された。
敵は、度重なる強制ワープアウトと待ち伏せで先遣艦隊を撃滅された教訓から
一足飛びに太陽系深部への
外惑星の軌道から軌道に慎重にワープし進撃することを選んだらしかった。
この彗星帝国艦隊は、かつてバラン星亜空間ゲートを襲撃した部隊や
ガミロニアⅧ浮遊大陸基地を制圧した艦隊とほぼ同編制の戦闘艦艇約200隻から
構成されており、旗艦としてメダルーサ級も配備されていたが、
その標的となったのは天王星の衛星チタニアに置かれた、
太陽系外縁部の外宇宙観測・早期警戒
情報送受信ハブとなっている無人基地だった。
どうやら、ガトランティス側も地球軍の宇宙監視網の存在を察知したようである。
情報ハブ基地の破壊のため天王星軌道沖に出現したガトランティス艦隊は、
ガミラス国防軍の第一五空間機甲師団艦隊・第二一空間機甲師団艦隊・
第九〇空間師団艦隊・第一六四空間師団艦隊の分派戦闘団艦隊と、
ギュンテル・クライツェ少将率いる第一空間(増強)旅団艦隊の連合艦隊により
迎撃され、撃滅された。これが「第二次天王星軌道沖海戦」である。
両軍が正面から衝突した大規模戦闘であるため詳細は省くものの
記述すれば、緒戦からガミラス軍優位に戦闘は展開された。
後方に展開していた敵艦隊旗艦のメダルーサ級は、これまでの移動では
転送投擲機を用い火焔直撃砲のワープ転送射撃を使用せんとしたが
ガミラス艦隊が伴っていた移動式ワープ阻害装置で無力化されてしまい、
さらに後衛部隊を大して配置していなかったことが災いして
ワープで出現した第一空間旅団の奇襲に対応できず指揮系統が壊滅。
なお、この時の同旅団には銀河機甲軍・第一四空間機甲軍団司令部から
旗艦である改ゼルグート級重戦艦「ツェルベロク」が貸与・編入されており、
同艦はガミロニアⅧ海戦では果たせなかった姉妹艦の仇討ち、
メダルーサ級戦艦の撃沈を成し遂げることに成功したのだった。
その後、混乱し浮足立ったガトランティス艦隊を前後左右から包囲殲滅し
太陽系外観測警戒システムの無力化という敵の企図を粉砕した。
ガミラス連合艦隊が早期警戒システムを守り切ったことは、
後日重要な意義を持つこととなる……。
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時間軸は戻り、4月30日。
白色彗星帝国・ガトランティスの大攻勢が間近と予測されている現在、
地球連邦防衛軍を統べる男・芹沢虎鉄大将もまた、
極東管区に所在する連邦首都・メガロポリスに建つ連邦政府複合主庁舎の
地下にある防衛軍総司令部の司令長官執務室に詰めていた。
「……緒戦の損害がこの程度であれば、我ながら上出来といったものか」
手にするタブレットデバイスに映し出されているのは、
昨日の海戦の第一次報告書だ。剣呑な面持ちを崩さぬまま、芹沢は呟いた。
系外監視・早期警戒システム、設置式・移動式のワープ阻害装置、
改設計型戦闘艦艇、無人戦闘艦、大規模なガミラス駐屯艦隊………
外惑星圏における一連の海戦の状況を作り上げたものの大半は、
芹沢がかつて
調達・配備を勝ち取ったものが多い。
それらが効力を発揮していることが戦闘報告書から読み取れ、
芹沢にとっての自信にも繋がっているが、ここからが本番となるのだ。
芹沢の頭には、無数の敵宇宙戦艦、
木星級の白い大彗星とその内に潜む土星級の宇宙要塞の姿がありありと浮かぶ。
これらの実在は、テレザート星への遠征に送り出した宇宙戦艦「ヤマト」からの
報告で既に明らかになっている。
同艦は3月下旬にテレザートを開放し、
女神(防衛軍内では現地文明が遺した人工知能とする設定)テレサと接触に成功した。
また、同時にガトランティスに囚われていたという
保護した、ガミラス銀河系探査艦隊及び叛乱部隊討伐艦隊とも遭遇、
彼らから補給と整備支援を受け、太陽系防衛作戦に参戦すべく帰途に就いている。
なお、本物のデスラー総統やガミラス星の寿命関連についての情報は
芹沢の手引きでガミラス大使館から連邦政府上層部へ内密に伝えられていた。
ガミラス民族にもたらす技術がガトランティスから手に入る可能性があり、
地球連邦防衛軍は白色彗星帝国の迎撃作戦において祖国のみならず友邦の
命運をも背負うこととなったのである。
「!」
あれこれと考えを巡らせていた芹沢を現実に引き戻したのは、
電話通信の呼出音だった。
その相手は、彼にとって馴染み深い人間であった。
「……下村大佐か」
「ハッ、統括司令長官閣下!」
ガミラス大戦時からの子飼いである、下村光二郎大佐だ。
防衛軍建設部門の俊英で、現在は技術開発畑に深く関与しており
芹沢から
「……『G計画艦』については先日就役したことは聞いたが、何かあるのかね?」
「その通りであります。現在調整中なのですが……」
芹沢は下村からの話に二、三度頷くと、
息を吐きだし椅子の背もたれに深く身を預けた。
「……了解した。
下村大佐、君の仕事は地球人類の未来を決する重要事だ。
身体に気をつけ、確実に遂行させてくれたまえ。」
「ありがとうございます、閣下。
変わらず、微力を尽くさせていただきます。」
通話は終了し、芹沢は秘匿回線を用いる通信デバイスを机に置く。
そして座ったまま、腹の上で両手の指を組み目を閉じる。
実質的に地球連邦の、対ガトランティス戦争のメインプレイヤーたるこの男、
その内心を外から量り知ることは、容易には不可能であった……。