宇宙戦艦ヤマト2202 If 猛虎咆哮す   作:モアンゴル

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第七十八話 土星沖海戦④ 灼熱の檻

 

【第78話】

 

 

ガトランティス特攻艦群を無人ミサイル艦によって退けた地球軍第二連合艦隊(2CF)

しかし、火球と閃光が晴れた彼方で、敵艦隊が急進し自軍が仕掛けた

強制ワープアウト・ワープ阻害装置で稼いだ()()()を詰めつつある様を認めるや、

その司令部では即座にその対処へ動き出すことになった。

 

「敵艦隊最前列、300秒後に第一戦闘空域へ突入します!」

 

CICオペレーターの緊迫した声が、宇宙服ヘルメットの通信回線を通して

パエッタ司令長官やワイアット・ロバーツ参謀長ら2CF司令部員の耳へ入った。

 

「……"思う壺"、ですかな」

 

「うむ」

 

彼我の戦力差を考えれば、地球艦隊の壊滅は必至な切迫した状況であるにも拘らず

司令長官と参謀たちは表面上は落ち着き払っている。

彼らにとって、この事態は未だ想定の範疇であった。

 

「作戦を第二段階へ移行する!」

 

パエッタが高らかに告げ、艦隊の参謀やCICのオペレーターらは機械的に

各部隊へ指示を飛ばし、あるいは情報共有や情報処理を実行する。

 

「"アウル(ふくろう)"各艦、データリンク開始」

 

「送信座標誤差調整、マイナス03」

 

「ワープ阻害装置、稼働停止へ。カウント、5、4、3……」

 

目の前で展開される無数の電算処理を尻目にパエッタ提督は、

旗艦から望遠光学観測で捉えた敵巨大艦隊の姿を手元にある

ディスプレイに映し、睨み付けていた。

彼の手を包む宇宙服のグローブも、意識してか否か、強く握り締められている。

 

補佐役であるロバーツ少将は宇宙服ヘルメット越しに、

司令長官が表に出さぬよう努めている緊張の現れを

目敏く見つけるものの、その意を尊重し沈黙を貫いた。

 

地球連邦防衛軍にとりガミラス大戦以上の、未曾有の戦いである。

異なるのは、単純な彼我の戦力だけではない。

先の戦争で刃を交えたガミラス人は、体制・思想含め人類の範疇にある存在で、

相互理解や交渉が可能な相手だった。

対してガトランティス人は、精神構造・在り方などあらゆる面から見ても

"人間を模した戦闘兵器"と呼ぶべき代物というのが地球・ガミラスの共通認識だ。

即ち、ガミラス以上に危険性の高い敵ということである。

 

万一、かつての対ガミラス戦と同じように地球艦隊が敗れれば、

今度こそ地球人類は絶滅の憂き目を見ることになる___

その事情を考慮すれば、この戦場の総責任者パエッタが背負う

重責はまさに「推して知るべし」と言えよう。

 

 

(正念場だ)

 

そんな熟練の艦隊司令が、心中で小さく呟いた。

 

自身を含め、宇宙海軍艦隊司令部、防衛軍参謀本部、ガミラス軍司令部といった

太陽系防衛に携わる陣営各部署の専門家が、揃って頭をひねりにひねり、

少なからぬ時間を費やして練り上げられた渾身の策とはいえ、

いざ目の前にて発動となれば冷たいものが背筋を走る。

 

もしもこれが外れた場合、防衛計画の全てが瓦解する__

それほどまでに、地ガ同盟軍はこの作戦に賭けていた。

 

(頼むぞ……!)

 

 

_______________________________________

 

 

 

彗星帝国軍第七機動艦隊がその兆候を捉えたのは、直後のことだった。

 

「不審な通信波を探知!」

 

旗艦空母「バルゼー」艦橋の索敵士の報告に副官ヴィルホは怪訝な表情を浮かべ、

司令長官バルゼーは来たか、とばかりに口端を吊り上げた。

 

「発信源は敵艦隊か?」

 

「いえ……我が艦隊の第五集団の左右及び上下方、四方より同時に検知!」

 

「なに?」

 

意外な報告内容に、今度はバルゼーが訝しむことになる。

彼は"不明な通信波"が、正面の地球艦隊から発せられたものとばかり考えていた。

だが、旗艦のセンサーは機動艦隊の長大な縦列陣のほぼ中間に位置している、

"大戦艦"約2500隻からなる第五集団の上下左右から通信波を捉えたというのだ。

 

(……ガミロンの艦隊を呼び寄せるなら、地球(テロン)艦隊から傍受される筈……

 いやそもそも、なぜ第五集団の周囲にそんな反応が……)

 

困惑し、思考の再整理を試みるバルゼーだったが、試みは半ばで中断された。

新たな急報が第七機動艦隊司令部に舞い込んできたのである。

 

「提督! 敵艦隊後方に位置する跳躍阻害装置の反応が消失しました!」

 

「……ッ!」

 

司令長官は苦々しげに顔を歪めることを余儀なくされた。

この太陽(ゾル星)系第六・第七惑星軌道間宙域に強制転移させられた第七機動艦隊を、

再度の空間跳躍を許さず同宙域に縛り付けていた"装置"の反応消失、即ち、停止。

それはガトランティス軍にとって、新たな敵艦隊の来襲を意味した。

 

バルゼーは、新たに襲い来るであろうガミラス艦隊は第七機動艦隊の側背に展開、

空母「バルゼー」以下旗艦集団に集中攻撃をかけて機動艦隊の指揮系統を混乱させ、

麾下集団の各個撃破を狙っていると推測している。

 

それに基づき考えれば、後方へ回り込んでくる敵に指揮系統を破壊されるのが早いか

第七機動艦隊が地球軍の封鎖陣を突破してガミラス艦隊の奇襲を振り切り、

迎撃態勢を整えるのが早いかのタイムレースとなるため、バルゼーにできるのは

引き続き地球艦隊に猛攻を仕掛け、一刻も早く乗艦を含む機動艦隊最後尾の旗艦部隊を

当座の安全圏まで前進させることだった。

 

(ガミロンが追いすがってきたところで、容易にこのバルゼーを斃せはせん。

 旗艦集団に加え第十、第九集団を後衛に回し旗艦の盾とすればよい。

 地球(テロン)の封鎖陣など残りの集団だけで十回は殲滅できる。

 この宙域を()()()()()の墓場としてくれるわ!)

 

予想より少々早まった敵増援の来襲というファクターを頭に加え入れ、

新たな目算をつけるバルゼー。圧倒的な戦力を以て邪魔者を磨り潰すことこそ、

初代から脈々と受け継がれた"バルゼー"の戦法だった。

 

 

 

「転移反応多数確認!」

 

「やはり来たか……出現予測点は?」

 

索敵士の報告に、バルゼーと同じ推測をしていたヴィルホが応じる。

ところが、索敵儀(レーダー)の示す反応地点を見て、担当士官は戸惑った声で伝えた。

 

「……我が艦隊の左右及び上下前方、かなりの遠距離です!」

 

浮かび上がったモニターウィンドウに示された新手の敵の出現予測位置は

索敵士の言う通り、第七機動艦隊を前方から取り囲むが如く上下左右に、

機動艦隊最前衛と地球艦隊との距離と同程度に離れた空間に置かれていた。

 

「この間は何だ……?」

 

ヴィルホも困惑が滲んだ声で呟く。バルゼーの胸中を代弁した形だ。

いくらガミロンの艦隊が快速性に優れていようと、

標的(旗艦部隊)との距離がここまで離れていては奇襲の効果が下がってしまう。

転移直後の無防備な状態を晒すことを嫌ったにしても、離れすぎている。

何より、奇襲を行うならあのような中途半端な位置ではなく

バルゼーの読みのように第七機動艦隊の後方に転移するのが最適な筈だ。

ここはガトランティスにとって敵陣・敵に地の利がある宙域であり、

敵艦隊は比較的転移地点を選べるため、転移先の観測・標定に制約があり

止むを得ずあの地点に、というのも考えにくい。

おそらく、意図があってのことだとバルゼーは察知したのだが___

 

 

 

「敵増援、予測総数およそ2000!出現します!」

 

かくして、地球軍第二連合艦隊が頼みとした"援軍"がその姿を現した。

 

「……!!」

 

表面に着いた薄氷をまき散らす、地球式波動機関特有のワープ・エフェクトと共に

軌道間空間は土星寄り宙域の戦場に参上した、地ガ連合軍の切り札。

さしものバルゼーも、その正体を望遠観測映像で見るや驚愕せざるを得なかった。

 

「あ、あれは……」

 

ヴィルホや艦橋にいる他の兵たちも目を見張り、"敵の新手"に驚いた。

第七機動艦隊縦隊列の前方寄りに位置する第三~第四集団の上下左右に

転移出現(ワープアウト)した、各500隻・総数2000隻の敵は、ガミラス艦隊ではなかった。

 

 

「___"大戦艦"……!」

 

ようやく、バルゼーが呻くような声で敵の正体を確認する。

 

旗艦空母のモニターに映し出された2000隻の新手は全て、

鸚緑色の角ばった細長い船体に塔のような特徴的な艦上構造物を持つ宇宙戦艦。

ふと正面に目を転じれば同じものが無数にある、見紛うはずがない自軍の艦。

地球(テロン)やガミロンは「カラクルム級」と呼ぶ、ガトランティスの"大戦艦"だった。

 

そして、司令長官の声はすぐに憤懣に満ちたものへと変わった。

 

「……死してなお我らの足を引っ張るか、メーザー!!」

 

バルゼーの怒号は地球軍に対してではなく、

地球軍に"大戦艦"を与える原因となったであろう男、

第八機動艦隊司令官・メーザーに向けられていた。

 

バルゼーも、太陽(ゾル星)系最果ての星で宇宙戦艦「ヤマト」に敗れ、

新戦術・集群砲で地球(テロン)を破壊する任務に失敗したメーザーの末路は聞き及んでいる。

 

敗戦の将となったメーザーは、信じがたいことに自害の勅命に背き、

恥知らずにも「ヤマト」との再戦を求め、これの追撃を開始した。

その途上で、当時帝星の客将となっていたガミラスの総統・デスラーが

忠実で有用足るかの試験のための標的とされ、粛清されたのだ。

 

この顛末を知らされたとき、バルゼーはメーザーの将としての無能と

人間同様に感情に流された戦士(ガトランティス)としての不出来を侮蔑したものだった。

それが、今となってさらに、帝星の覇道に、大帝の大御心の障害となるとは!

バルゼーは自らの語彙にあらん限りの罵倒を故人に叩きつけかけたが、

それが戦士の在り方に背く、敗将と同じ過ちであることに気付いたのと、

出現した"大戦艦"への対処でそれどころではないことから踏み留まった。

 

「敵"大戦艦"群、転移地点より直進!

 依然、彼我の射程圏外に留まっています!」

 

意外な敵増援という不測の事態に驚いていた兵士たちも、

ようやく平静を取り戻したと見え、索敵士が敵の動きを報告する。

図表化された彼我の位置を見ると、逆方向に反航していることもあって

上下左右の敵は機動艦隊第五集団が至近となる位置へ移動しつつあった。

 

「何を考えておるのだ?砲の有効射程を知らぬわけでもあるまいに……」

 

ヴィルホが疑問を口にする。バルゼーも同感である。

ほぼ無傷で遺棄されたであろう第八機動艦隊の大戦艦を鹵獲し、

艦隊戦力として取り込んだのは理解できるし、巨大艦隊を運用可能とした

無人制御プログラムはガミラスの科学奴隷が開発していたため

地球・ガミラス艦隊が無人艦として有人艦隊の盾などにしてくる可能性は

作戦当初、ガトランティス側としても考慮していた。

だが第二次侵攻作戦開始後、先遣艦隊からもたらされた情報に

鹵獲された大戦艦を地球・ガミラス軍が運用していることを示すものはなく

この惑星軌道間空域の戦場に当初あった敵戦力も地球艦隊のみだったため、

第七機動艦隊司令部としては早々に地球・ガミラス軍は鹵獲艦の運用を

していないものと結論付け、作戦計画を構築していた。

 

それが、わざわざこの局面になって投入し、積極的に突撃させようともしない。

前者は奇襲効果を狙い秘匿していたと解釈できなくもないが、

バルゼーやヴィルホにとって後者の運用法はどうにも気にかかる。

敵大戦艦群の不可解な挙動は続き、望遠光学観測映像にも現れた。

 

「左右の敵艦、横転!上方の敵艦は半回転した模様!」

 

第七機動艦隊の縦列中央部の四方に出現した鹵獲カラクルム級は、

その全てが艦上面をガトランティス艦隊に向けるような格好となる。

これでは大戦艦が誇る艦橋砲塔は使用不能になり、上甲板の回転砲塔も

仰角限界から第七機動艦隊を砲撃できない。元より、射程の外でもある。

いよいよガトランティス側は敵艦の意味不明な動きを推し測るのに苦しんだ。

 

「提督、各集団の指揮艦から鹵獲大戦艦への攻撃許可を求める入電が!」

 

「ええい、地球艦隊の封鎖陣突破を優先する!

 攻撃してこないのは恐らく、武装を修理出来なかったのだ!

 あれは我々を惑わせるための囮に違いない!

 射程に入ってこないのならば一旦無視しろ!後で粉砕すればよいわ!」

 

機動艦隊の提督は多少無理矢理にでも理屈付けし、

地球艦隊へ突撃する機動艦隊から戦力が剥がされるのを防ぐが、

彼もまた、内心混乱している。

鹵獲カラクルム級に気を取られているうちに、バルゼーが予期した通り

ガミラス艦隊が出現し旗艦を狙ってくるのではとも思われたが、

鹵獲カラクルム級出現後に再度空間跳躍(ワープ)阻害装置の稼働が確認され

その線が消えてしまったため、敵の狙いの予想のしようが無くなったのだ。

バルゼーはあくまであれは囮だ、と艦隊将兵に叫ぶ。

 

「囮でなければ、新たな動きを___」

 

その時、鹵獲された旧第八機動艦隊のカラクルム級大戦艦2000隻は遂に動いた。

 

_______________________________________

 

 

地球軍第二連合艦隊旗艦「ムサシ」から指令を受ける

地球製AIによる無人操艦へと改められた鹵獲カラクルム級。

 

O級重量物輸送艦によって第十一番惑星・炉王星空域から地球圏に送られた後、

漂流時の相互衝突などによる被害の少ない艦は選別され、艦として再利用が決定。

無尽蔵の工業力を誇る時間断層工廠によって改造されたのは

波動共鳴波で破壊された操艦系統と機関(ガイゼンガン式反物質利用機関から

簡易型波動機関に換装)だけではなかった。

 

ガトランティス艦隊に向けているその上甲板前部には、本来ある筈の

大型回転輪胴砲塔2基が根本のエネルギー伝導機構から撤去されており、

その跡である円筒部(ターレット)は蓋のようなもので埋められている。

だがそれは、敵将バルゼーが言うように修理できなかった為ではなかった。

蓋の下には、回転砲塔を遥かに上回る凶悪な破壊力を秘めた兵器が眠っていたのである。

 

 

第二連合艦隊(2CF)司令長官マーカス・J・パエッタ中将の号令一下、

鹵獲カラクルム級各500隻で構成された四群の特別艦隊は攻撃に転じた。

 

旧回転砲塔跡を塞いでいた蓋が、スライドするように開く。

その下の円筒から、大型ミサイルが順次射出された。

鹵獲大戦艦一隻につき2発、一群につき1000発、総数4000発が虚空を飛んだ。

 

三式亜光速重誘導弾。

地ガ軍事技術の粋を集めて開発され、本年(2203年)5月中旬に

採用されたばかりの、最新兵器である。

先ほど地球艦隊の無人打撃艦が放ったような既存のミサイルを

大きく凌駕する巨軀と推力・長射程を誇る代物だ。

 

そして装備する弾頭は、宇宙戦艦「ヤマト」がテレザート解放作戦で使用し

ガトランティス守備艦隊の後衛部隊を数発で消し去った『波動融合弾』だった……

 

_______________________________________

 

 

鹵獲カラクルム級群からガトランティス艦隊全体へ拡散するように発射された

多数のミサイルは旗艦「バルゼー」の第七機動艦隊司令部を再び驚かせる。

元のカラクルム級大戦艦には宙雷装備は存在しないため、虚を突かれたのだ。

 

「敵誘導弾、超高速で各集団へ接近!!」

 

「迎撃しろ!ただの誘導弾ではない筈だ!」

 

バルゼーは、鹵獲艦が放ったミサイルが尋常のものでないことを察知する。

こんな局面で使われる兵器である以上、高い危険性を持つと見做したのだ。

 

「駄目です、速すぎて迎撃が間に合いません!」

 

「何たることだ……!」

 

砲術士の返答に、司令長官に相応しからざる呆然とした表情をするバルゼー。

 

地球軍の鹵獲艦から飛翔した4000発のミサイルは、既にタンクに充填した

推進剤を使い切っていたが、そのまま速度を落とさず慣性で突き進む。

四方八方から機動艦隊へ包み込むように迫り、時限信管によって炸裂した。

 

 

_______________________________________

 

 

 

テレザート上空で生起した、巨大な波動エネルギーの爆裂。

いとも容易くゴーランド艦隊後衛を葬り去った惨劇が舞台を移し、

規模を数百倍にして再演される。

 

2万5000超の宇宙戦艦からなる巨大な縦列の至る所で

青白い閃光が、無数の火球が生じ、第七機動艦隊が軋みに苦悶する。

 

数分とかかることなく、死と破壊の暴風は去ったが、惨憺たる有様が残された。

 

 

「くっ……被害状況を報せ!」

 

第七機動艦隊旗艦・空母「バルゼー」を擁する旗艦集団は最後尾にあったことが

幸いしたのか、指揮系統中枢という高価値目標でありながら被害を受けなかった。

だが、眼前の第十集団に上下左右から飛来した多数のミサイルがもたらした衝撃は

旗艦空母を大いに揺らし、バルゼーも危うく床に叩きつけられるところだった。

 

「……第一から第十集団の全ての指揮艦、制御艦と通信途絶!」

 

「な……なんだと!?」

 

今度は、報告内容の衝撃でよろめくバルゼー。

敵ミサイルはガトランティス機動艦隊という巨人の脊髄を担う、

有人のカラクルム級大戦艦250隻に標的を絞っていたらしかった。

迎撃困難な距離・速度で四方面から、制御艦群は単純計算で16倍にもなる

波動融合弾の飽和攻撃を浴びせられたのだ。爆発威力からして殆どが

生き延びられなかったに違いなく、運良く残存していても艦隊制御は困難だろう。

そもそも、操られるべき無人艦も相当数が巻き込まれ、破壊されていた。

一方でヴィルホは、信じられぬとばかりに目を剥き、呻いた。

 

「あり得ない……集団の指揮艦と制御艦を狙い撃ったとでも言うのか……?」

 

(ヴィルホの言う通りだ。地球艦隊の布陣する空間から、

 我が第七機動艦隊の重厚な縦列の全てを観測できるわけがない。

 側面や上方から俯瞰するような形でもなければ……まさか)

 

ヴィルホの言を聞き、思考を巡らせたバルゼーは、

敵の攻撃に兆候があったことに、遅まきながら気付く。

 

「……敵の潜宙艦か……!」

 

彼は、大戦艦が空間転移してくる前に索敵士が報告した、

「第五集団の上下左右から発せられた不明な通信波」の存在を思い返した。

 

謎の通信波の正体は、第七機動艦隊を上下左右から観測し、

その陣容や、無人艦を操る制御艦・集団旗艦の位置を暴くための

隠密偵察艦群から発せられたものだとバルゼーは推測する。

 

実際その通りで、地球軍第二連合艦隊は彗星帝国艦隊が出現した時から

FE級をベースにした動力反応などを極限まで隠匿できるステルス情報収集艦

呼称コード「アウル(ふくろう)」を上下左右に張り付かせており、

ガトランティス艦隊の制御中枢艦の位置特定と、

鹵獲カラクルム級の艦隊へのワープ座標の測定・送信を行わせていた。

 

だが、機動艦隊司令部が気付いたところで時既に遅し、であった。

 

 

「提督、突撃を継続しますか……?」

 

副官ヴィルホが、遠慮がちに上官へ訊いた。

現在、第七機動艦隊の各集団は波動融合弾頭ミサイルの飽和攻撃で

大損害を受け、敵艦隊がまだ射程圏外の位置で急減速を余儀なくされている。

突撃を再開するには、指揮艦が失われた集団の統制機構を旗艦「バルゼー」に集約、

再構築しなければならない。時間がかかるのは必定だが……

 

「当然だ!直ちに大戦艦隊の制御系統の再編を開始しろ!

 戦線に膠着は許されん……!」

 

バルゼーは一方的に自艦隊が損害を受けている状況に顔を歪めて答えた。

第七機動艦隊はあくまで白色彗星の前衛であり、その進攻の障害となる

敵の阻害装置はなんとしてでも破壊し、使命を果たさなければならない。

機動艦隊は大戦艦の約半数を戦列から失ったと考えられるが、

それでも地球艦隊を擂り潰すには充分、ここから巻き返すとばかりに提督は息巻くが__

 

「機動艦隊正面に、空間転移反応を検知!……質量、極めて大!」

 

「!!」

 

 

地球艦隊がガトランティス軍が指揮系統を立て直すのを黙って見ている訳がなかった。

波動融合弾の命中時にこっそりと、再度ワープ阻害装置を停止していたらしく

復旧を妨害・阻止するため、新手の刺客を送り込んできたのである。

 

旗艦「バルゼー」は無人艦の被害が少ない後方の集団からコントロール権の

再掌握を始めていたが、索敵役も兼ねて艦隊前衛・第一集団を

構成していた大戦艦も少しずつ制御権限を通していたのが幸いし、

機動艦隊司令部は新たに戦場に出現した"敵"の姿を目にすることができた。

 

 

「提督、あれは……!」

 

「ガミロンの超巨大弾道弾だと!?」

 

惑星間弾道弾という予期せぬ相手の登場に、バルゼーはいよいよ仰天した。

ガミラスは地球の同盟国であり、艦隊のみならず戦略兵器も戦線に投入されるのは

想定のうちだったが、それが空間跳躍してくるとは考えの外だった。

そもそもあの兵器は跳躍可能な機関を備えていないはず……

そんな疑問を抱えていると、ヴィルホが望遠映像から「答え」を得た。

 

「外接式の跳躍機関か……!」

 

映像に映る弾道弾の後部推進機の周囲には、外付けのフレームのようなものと

十数個の艦船級のものであろう推進機が環状に設置されているのが確認できた。

 

それは元々、資源用小惑星の輸送を主目的として徹底した効率化の下に建造され、

ついさっきガトランティス艦隊に深手を負わせた鹵獲カラクルム級の移送にも

大きく貢献した、惑星大気圏内でも活動できるものが殆どである地球の艦としては

異形のリング状船体が特徴である巨船、O級宇宙重量物輸送艦であった。

 

ガミラスが時間断層の貸与工廠で製造した惑星間弾道弾のワープブースターとして

白羽の矢が立ち、無人艦化されたものが追加建造されたのである。

惑星間弾道弾後部の推進部とほぼ一体化した同艦のエンジンは実に簡素だが

それもそのはず、弾道弾を戦域まで運べればよい片道便のためだ。

 

ワープアウトした弾道弾は司令艦「ムサシ」の信号を受けると、

温存していた推進剤に火を入れ、巨大なノズルに噴炎を灯し、前進を開始する。

狙いはもちろん、波動融合弾を撃ち込まれて隊列が乱れたうえ、

指揮系統もダウンしている敵艦隊だ。

 

 

程なくして、残存する無人の大戦艦群も迫り来る巨大兵器を感知。

自律操艦を担う人工頭脳は制御艦から指示がなくても、近くの敵を砲撃し

これを撃滅する程度の機能は有しており、最前列の艦を中心として

艦橋砲塔や前部回転砲塔から緑がかったビームを撃ち出す。

多数の砲火が弾道弾に吸い込まれていき、それは空しく爆散するものと思われた。

 

ところが惑星間弾道弾は、既にブースターの役目を果たしたO級の機関による

エネルギー供給を受け、前面に波動防壁を展開していた。

簡易型とはいえ12基の波動エンジンから出力されたシールドは強力で、

機動艦隊第一集団に突入するまで迎撃砲火に抗堪することは確実だった。

 

その様を映像を通して確認し、狼狽えたのは空母「バルゼー」の司令部である。

 

「__いかん、制御を回復した艦だけでいい!

 ただちに雷撃端末(ビット)を展開、収束砲撃で敵の防壁を破るのだ!」

 

司令長官は叩きつけるように対抗策を制御オペレーターへ叫ぶが、

傍らの副官が血相を変え、上官以上に声を張り上げ報告した。

 

「提督!! 上下左右の敵鹵獲艦が、速力を上げて突っ込んできます!!」

 

「なんだと~~~~~~!!」

 

 

地ガ連合軍が立てた作戦は、どこまでも必殺の意志に満ちていた。

波動融合弾攻撃を生き延びた敵艦隊を一掃する第二の矢・惑星間弾道弾の突入を

生き延びた敵の指揮系統に邪魔されないための保険の意味合いを兼ねて、

亜光速誘導弾の発射を終えた鹵獲カラクルム級は、飽和雷撃で仕留めきれなかった

敵制御艦に向けて特攻をかけるようプログラミングしていたのだ。

 

鹵獲大戦艦が機関一杯まで加速し、先に放った亜光速ミサイルと同様に

上下左右から、第七機動艦隊の縦列後方・第六~第十、そして旗艦集団を標的に

降り注ぐ矢の雨が如く襲い掛かる。

 

鹵獲艦隊の最前艦列がガトランティス艦隊に激突するのとほぼ同時に

惑星間弾道弾は起爆位置へと到達、巨大な爆光を軌道間空間の戦場に輝かせた___

 

 

 

 

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