【第80話】
バルゼー提督率いる彗星帝国軍 第七機動艦隊を撃破した地球軍艦隊。
そのトドメの一撃となったのは、
ヤマト型宇宙戦艦二番艦・宇宙戦艦「ムサシ」が搭載している拡散波動砲だった。
同艦は姉妹艦と異なり、艦首波動砲口に試作された非実体型の
二つの薬室を装備し、D級戦艦同様に右旋波・左旋波として波動エネルギーを
発射することができたのだ。
名実ともにガトランティス前衛艦隊撃滅の立役者となった「ムサシ」CICでは、
間借りする
「『アウル』各艦より入電。ポイントαに、阻害装置再展開完了との事!」
「よろしい、
司令部に入ってきたのは、ガトランティス艦隊との対決で索敵面から貢献した
FE級宇宙輸送艦改装の無人偵察艦。「
敵艦隊の陣容・動向の偵察以外に、もう一つ任務を帯びている。
それは敵艦隊が破壊した強制ワープアウト装置の再設置で、
戦闘中も艦と同じくステルス化加工されていた予備の装置を曳航しながら
索敵に従事していたのである。
報告では、無人艦群は無事に所定位置への阻害装置の展開・稼働に成功したようだ。
これで、今後来襲するであろう白色彗星のワープアウト地点の固定が望める……。
第二連合艦隊の司令長官パエッタ中将は、艦隊戦時に増援としてやってきた
鹵獲カラクルム級や改O級惑星間弾道弾移送艦と同じく、月軌道で待機する
山南修中将が率いる地球軍第一連合艦隊(一連艦・1CF)の土星沖派遣を要請し、
ワープ座標のデータを送信する。万全の布陣で白色彗星を迎撃する腹積もりだった。
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白色彗星の来襲と、第一連合艦隊の来援は、ほぼ同時であった。
第二連合艦隊が布陣するのは天王星と土星の軌道間空間の、土星に近い空域。
そこから遥か前方の、軌道間空間のちょうど中間にあたる位置から、
これまで防衛軍艦隊が経験したこともないような巨大な重力震が検知される。
一方、第二連合艦隊後方からもワープアウト反応が検出された。
先に姿を見せたのは、白色彗星であった。
巨大な回転する三角形を多数連ねたような独特の空間波紋の中から、
木星クラスの、巨大移動要塞が偽装した白い禍星が出現する。
瞬く間に、再設置された阻害装置群と、それらを曳航してきた改FE級無人偵察艦は
彗星の超重力をもろに受け、白い炎の渦と化したガス帯により破壊されてしまった。
彗星の厚いガス帯の奥に潜む超文明の遺産、その玉座の間と言うべき場所から
人造戦闘民族ガトランティスの指導者・ズォーダー大帝は地球艦隊を見下ろした。
「……敵ながら天晴れといったところか、もう一隻の『ヤマト』よ。」
第七機動艦隊を完全殲滅し、バルゼーを敗死させた敵に対し嘯くズォーダー。
傍らに控える、ズォーダーと似た輪郭の老臣・ガイレーンが問う。
「新たな敵艦隊が出現するようです。いかがなされますか?」
大帝は問いには答えず、視線を"「ヤマト」"の後方宙域に向けた。
何もなかった空間に無数の光が灯り、地球艦隊の増援が現れ始める。
それらは、いずれもガトランティス軍のデータにはない艦影であった。
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来着した地球連邦防衛宇宙海軍・第一連合艦隊。
二代目「ヤマト」艦長を務めた経験もある第一艦隊司令官・山南修中将が率いる
連合艦隊の陣容は、総旗艦「アンドロメダ」直卒の第一艦隊に加え、
旗艦たる
第一艦隊と同編制の第二・第三・第四・第六艦隊、さらに空母機動部隊である
第五艦隊の空母(及び直衛駆逐隊)を除くA級戦艦「アポロ」など戦闘艦艇17隻を加えた
合計142隻が中核だが、それだけではない。
地球主力有人艦隊後方には、なんと五千隻もの改FE級無人波動砲艦が出現したのである!
「第二連合艦隊、我が艦隊の左方に遷移します。」
「うむ」
一連艦旗艦・A級戦艦「アンドロメダ」艦橋の艦長席左横に特別に設えられた
艦隊司令官シートに身を置く山南もまた、他クルー同様宇宙服に身を包んでいる。
その傍らの席に座る北米管区出身の参謀長ライアン・オザワ少将も同様である。
本来であれば、第二連合艦隊司令長官のパエッタ中将の方が先任であるため
山南が第一連合艦隊を率いることにはならない筈だったが、決戦前にパエッタを
外惑星方面艦隊(後の二連艦)から異動させることは問題が生じること、
当のパエッタが、
指揮を執ることを希望したことで、第一~第六艦隊の司令官では最先任・最高階級の
山南中将が第一連合艦隊、そして彗星迎撃部隊全体の統括指揮を執ることになったのだ。
さらに、地球の盟邦・共和政ガミラス国防軍の艦隊も一連艦の右方に姿を現す。
赤い空間波紋を立てて飛び出したのは、臨時に地球軍指揮下に組み入れられた、
フォムト・バーガー准将率いる増強無人空間機甲艦隊である。
元来の"バーガー戦闘団"148隻に、彗星帝国先遣艦隊との戦いで消耗し
敵主力迎撃戦において後備へ回ることになった第一空間旅団などに配されていた
無人艦隊の残存艦を合わせて、約三百隻という空間師団クラスにまで増強されていた。
「彗星迎撃部隊、全艦配置につきました!」
「よし。迎撃作戦を次の段階へ移行する!!」
宇宙服ヘルメットのマイクに向け、山南司令長官が宣言する。
数千隻に及ぶ艨艟の舳先と砲門が、一様に白色彗星へと向けられていた。
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対する白色彗星では、全知的生命の抹殺を目論む男・ズォーダーが不敵に、薄く笑った。
「どうやら奴らは、身の丈に過ぎた武器を得たようだな」
諜報記録長官ガイレーン、艦隊総司令官ゲーニッツ、
支配軍務庁総議長ラーゼラー、そして……。
玉座の間に並み居る臣下たちは、大帝の言を受け畏まる。
それから、"特例"を除けばこの場の帝星高官内で最も発言力のある
仮面の老人・ガイレーンが、再びズォーダーに向けて上申した。
「彗星を以て、敵を蹂躙なさいますか?」
侵攻前衛兵力であった第七機動艦隊を壊滅されたガトランティス側は、
バルゼー艦隊とほぼ同編成(旗艦がカラクルム級)の第六機動艦隊と
ゴストーク級全艦に「破滅の矢」を装備させたゴーランド艦隊と同編成の
第二ミサイル艦隊を後詰めとして彗星重力圏内で待機させていたが、
先の戦闘のような未知の敵戦力の出現が警戒され、出撃に至っていなかった。
そのため圧倒的な質量と、灼熱のガス帯による防御を有する白色彗星そのもので
敵艦隊を擂り潰すものと臣下たちは考えたようだった。
ズォーダーは愉快そうに笑みを深め、答えた。
「いや、暫くは奴らの茶番に付き合ってやるとしよう。
バルゼーを斃した褒美だ、『滅びの方舟』の姿を見せてやる」
彼の言葉からは、波動砲を使ったとて、彗星のガス帯を払うのが関の山である……
そう言わんばかりの自信に満ち溢れており、臣下らもそれを感じ取ったらしかった。
「彼奴らの艦隊が"大砲"を用い、動力が低下したところで
粉砕するという大御心であらせられますな。」
「うむ、連中に"大砲"を準備する猶予をくれてやる。
微速での前進を続けよ、サーb……」
視線を移し、命じようとするズォーダーだったが、途中で口は止まる。
その表情は打って変わって曇ったものとなり、繕うように言い直した。
「……微速での前進を続けるのだ、"白銀の巫女"
「はい、大帝……」
ズォーダーが視線を落とした先、鍵盤型をした彗星都市帝国制御装置の席に
座っていたのは、ガトランティスとは明らかに異なる橙色の肌に、白い長髪を持つ女性。
だが彼女は、これまでの"白銀の巫女"サーベラーと比べ、幼い容姿をしていた。
人類で言えば10歳と言ったところだろうか。
彼女もまた、同じ人工細胞を用いた純粋体サーベラーの一人ではあるが、
宇宙戦艦「ヤマト」に囚われたもう一人の純粋体・桂木透子との共鳴を防ぎ
彗星の運用に支障を来さぬよう記憶と情動に制限をかける形で製造された副作用で
精神同様に未発達な身体で誕生したのである。
流石のズォーダーも、これまでの個体のように彼女をサーベラーと呼ぶことには
抵抗があったため、ひとまずは「シファル」と呼ぶことにしていた。
大帝らの目論見通り制限されているのか、単に未発達なのか。
感情に乏しい虚ろな
歴代のサーベラーと変わらぬ手付きで鍵盤に指をかけ「滅びの方舟」を操る。
彗星の歩みは外宇宙を疾る際と比べ遅々としたものだったが
そもそもの規模が違うこともあって、第七機動艦隊と比べ遥かに早く
ワープ干渉阻害装置で稼いだ間合いを詰め、
白く禍々しいガスの巨体を連合艦隊へ近づけつつあった。
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対して、地ガ連合艦隊も後方の波動砲艦群も、
彗星に唯一有効であろう搭載兵器である波動砲を充全に活かすための
艦列再編を行う素振りが、引いては波動砲発射の準備に移る気配がなかった。
「ポイントβ阻害装置、時限停止準備完了」
「タイムラグ誤差修正、同期よし」
「重力偏差率許容範囲内、座標転送します」
一方で、旗艦の電算室では司令部付オペレーターが粛々と"作戦準備"を進めており、
その進捗、そして完了報告が、艦橋にいる山南の下に届けられた。
「白色彗星、依然接近中! 重力圏が艦隊に及ぶまであと900秒!」
A級宇宙戦艦一番艦「アンドロメダ」艦長・仁科鷲雄大佐が緊迫の面持ちで報告する。
白色彗星の進撃は徐々にではあるが艦列に影響を及ぼし始めている。
何もしないでいれば、重力の渦とガスの嵐に挽き潰されてしまう。
旗艦艦橋内唯一の北米管区出身者であるオザワ参謀長も、
ヘルメット内の額に汗を浮かべつつ艦隊の総責任者へ具申する。
「長官、頃合いかと」
「……そのようだ。
力に頼るものは、更なる力によって滅ぼされる__
その螺旋に、今日ここで
山南もまた緊張で眉間に皺を寄せていたが、参謀長の言を受けてか踏ん切りをつけ
力強く言い放つと、声高に発令した。
「___《プランG》発動!!」
号令の下、連合艦隊後方に設置されたワープ干渉阻害装置が一時停止する。
その直後、連合艦隊の中央に位置する「アンドロメダ」の真正面・前方に距離を置いて、
ワープアウトの光が灯り、
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「ワープ終了、艦体・艤装損傷なし!」
「機関に異常、認められず!」
「前方、白色彗星を確認!」
___連合艦隊の前方に出現したのは、
艦体前部はアンドロメダ/アポロ級に近いもので、左右にはFE級無人艦が各1隻接舷。
後部は、ドレッドノート級戦艦左右をA級の後部船体で挟んだようなものだった。
艦橋構造物は船体後部中央・"D級"の艦橋に相当する部分に立っており、
尖塔のような他艦に見られない類のものである。
艦橋内には巨艦を制御する六名の士官以外にも、四名の人影があった。
うち一人は、この艦の"事実上の"艦長であるジェームズ・ハーモン中佐。
ガミロニアⅧ海戦に改
うち二人は、この艦に搭載される「超兵器」を開発を主導した科学者で、
使用直前までの兵器の最終調整・使用時の管制のため同乗している
トシロウ・モンタナ博士とアラコメ助手。
そして、この艦が建造時に名目上・便宜上「空間構造物」と類別されたこともあり、
艦の総指揮官に任命された、防衛軍建設部門次長にして
芹沢防衛軍長官肝入りの秘匿計画である《G計画》の責任者・下村光二郎大佐である。
「連合艦隊へ打電! "我、これより白色彗星を攻撃す!"」
黒い艦長仕様の宇宙服を着る下村大佐が命じた。顔には緊張の汗が浮かぶ。
(計画通り、だ)
それでも彼は、芹沢の指令で自らが監督してきた計画の結実を堅く信じていた。
下村らが乗る鋼鉄のキメラ、その名も宇宙特務艦「ガーディアン」。
アポロ級戦艦3・4番艦(=アンドロメダ級7・8番艦)などをキャンセルし、
それらの資材を転用して建造された。
そう、芹沢は、防衛軍は、地球連邦政府はこの巨大特務艦に全てを賭けていた。
白色彗星を撃滅できる「超兵器」を開発し、その搭載艦を建造する事こそ
今世における《G計画》だったのだ。
芹沢が計画名の「G」に与えた意味も、彼が未来視で知った"史実"における
「
名実ともに地球人類の守護者として産まれた鋼鉄の巨龍は、
迫り来る人類の敵・破壊の化身に対し、攻撃態勢へと移るのだった。
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「単艦だと?笑わせる」
新たに、ごちゃごちゃと組み合わせたような姿の艦が敵艦隊に参陣し
たった一隻で"大砲"による攻撃を行おうとしている様を見るや、大帝は嗤った。
女神テレサの啓示・加護を受けた
図体だけは巨大で艦上には特に兵装も見受けられないような艦に何ができる__
ズォーダーの余裕綽々な表情は程なくして凍りついた。
「敵艦、"大砲"への動力充填を開始した模様! しかし……!」
「馬鹿な! なんだこの反応は!?」
ズォーダーの眼下に控えるゲーニッツ、ラーゼラーが驚愕の面持ちで伝えてくる情報は、
砲撃準備の最中にある異形の敵が、惑星をも砕く"大砲"であることを加味しても
常識外れのエネルギーを急速にチャージしていることを示していた。
(まさか……?)
ガトランティス最高権力の内心に、普段では考えられない"惰弱"な疑念が走る。
「ヤマト」が装備していた収束式でも、その同型艦が装備する拡散式の"大砲"でも
何百発と受けた所で白色彗星は再生成可能なガス帯を剥ぎ取られるだけで、
間断なく追撃を受けても重力傾斜・防御
だが、それは威力が事前情報と同じであった場合という前置きがつく。
いや、「滅びの方舟」の防御をも破るなどあり得ない、あってはならないと
1000年近い戦訓を鑑みて思い直すズォーダー。
自らの意志が不動の如く、御座を置く都市帝国も不動不落なのだ___
「……これは……! 大帝!!」
そんな瞬間にも地球軍の"切札"はエネルギー充填を進めており、
蓄積されたそれの膨大さは、とうとう「玉座の間」にいる面々の中で
最も老成されたガトランティスたる諜報記録長官に珍しく声を荒げさせるまでになる。
「……ッ! サーベr、いや、シファル! 防御力場全開!」
「は、はい」
人間で言うところの"親"のように歳上の、相応の経験を重ねた相手から
危険と明示されてしまえば、最早ズォーダー大帝とて体面に構ってはいられない。
何もせず攻撃を受けるという自信満々の発言に反し、白銀の巫女に命じて
彗星前面に、土星に匹敵するほど巨大な赤い光輪を三重に展開させる。
__彼女を「サーベラー」と呼ぶのを躊躇った逡巡が、
直後の展開に影響したか否かは、杳として知れなかった。
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「波動防壁、出力最大を維持! 船体限界まで300秒です!」
「全計器異常無し! エネルギー充填120%! いつでも射てるぜ、
「緊急機構、正常機能を確認! やれます、大佐!」
「よし…………!!」
G計画艦「ガーディアン」艦橋ではモンタナ博士とアラコメ助手、ハーモン中佐らが
「超兵器」のエネルギー充填など発射に必須な作業を完了させ、
下村による命令を待つ。
(この一撃に人類の命運が懸かっている。失敗は許されん……!)
超兵器のトリガーを握る下村は、のしかかる
ターゲットスコープの照準を白色彗星の渦の中心核へ合わせた。
(芹沢長官……! お力添えを……!)
この「ガーディアン」の搭載兵器含めての開発・建造を計画し、
自分をその司令席へと座らせた上司、地球連邦防衛軍の総大将に心中で呼び掛ける下村。
自己保身や名誉欲など俗的な印象も強い男ではあるが、
地球人類を守ろうとする意志は"本物"だ。
自分も「ガーディアン」も、芹沢の志を必ず遂行してみせる……!!
決意が、引き金を引き絞った。
「超波動砲、発射ーーーーーッ!!!」
一瞬の静寂。
次の瞬間には「ガーディアン」艦首から供給されるエネルギーにより
艦前方で生成されていたエネルギー塊が球状の姿から解放され、
光熱の奔流となって白色彗星へと駆け出した。
赤い光輪として具現した重力の盾を叩き割り、エネルギーの洪水は彗星を燃やす。
超文明アケーリアスの遺物を包むガスは引き裂かれ、雲散霧消と化していく。
巨大な"脚"が保持していた、哀れな墓標惑星も慈悲・解放とばかりに砕かれる。
数千万にも及ぶ白と緑の群兵も、白光に押し流されては熔けてゆく。
極太の光芒が土星沖に迸り、軌道間空間を白く染め上げた。
あまりにも、あまりにも大きなエネルギーの炸裂。
その威力は、波動砲すら比較にならないと言っても過言ではなかった。
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《G計画》の要・超波動砲___正式名称:丁式波動砲。
発端は、やはり芹沢にあった。
彼はガミラスの暗部__後の「救国軍事会議」となる国防軍参謀本部の暗躍派閥と
協力関係を結んだ後、同国に少数ながら「反波動格子」の予備品が現存していると
知るやすぐに、波動機関の研究を目的とする技術資料としてその現品を
他多数の賠償物資と共に供与するよう表と裏から要請。
首尾よく超波動砲の核を入手すると、芹沢は乙式波動砲(拡散波動砲)などの開発を終え
丙式波動砲(小型艦用波動砲)の開発に着手しようとした技術者たちを
丁式波動砲の開発に専従させるべく、長官権限で各種開発計画を整理。
腹心の下村大佐に監督させながら、極秘裏に超波動砲の開発を進めさせた。
同兵器搭載艦の設計も、長官直々の特命を受けた藤本喜雄技術中将ら担当チームが
既存艦艇から多くを流用する形で行い、厳しい期日までに間に合わせた。
そうしてG計画艦「ガーディアン」は時間断層工廠でブロックごとに建造され、
O級重量物輸送艦のように月面基地で組み立てられ、就役に至る。
そして今ここに、芹沢を筆頭とする全ての人々の努力が報われた。
眼を灼かんばかりの目映い光が宇宙の闇に溶けると、凄惨な景色が遺される。
白色の中性子ガスを取り払われ、姿を見せた都市帝国こと「滅びの方舟」。
巨大な青黒いタコにも形容できたそれは、今や全ての
重力圏に抱えていた惑星も、無数の大艦隊も、微塵にまで砕かれデブリと化している。
超波動砲の開発途上で弾き出された、波動砲の数乗の威力が見込めるとする
研究報告は紛れもない事実となったのだ。
しかし、土星に匹敵するサイズの要塞天体を半壊させる甚大なダメージを与えた
超波動砲だったが、その代償も決して小さなものではなかった。
砲撃元の特務艦「ガーディアン」は、エネルギー充填・発射に際して
艦首左右へ物理的に接続した改FE級波動砲艦転用の波動防壁展開専用艦が備える
波動エンジン計4基から出力される厚い耐エネルギー防御を敷いていたのだが、
それでもなお発射時にあまりの莫大な輻射エネルギーに耐え切れず自壊し爆散。
文字通り、己の身と引き換えにした大戦果と言えた。
下村大佐以下、乗員も運命を共にしたと思われたが……
『連合艦隊、こちら下村。「ガーディアン」はその任を全うせり。
後事を託します。___御武運を。』
地ガ連合迎撃艦隊中央に位置する第一連合艦隊と、
後続する波動砲艦の大群の直上を一隻のロケットが航過する。
そのロケットは、塔型艦橋として「ガーディアン」に設置されていたもので、
超波動砲発射時に船体が保たないことを予期していた開発陣や芹沢が
艦艇設計部門に注文して盛り込んだ
「ガーディアン」は艦橋以外に人員を配していないほぼ無人艦のため、人員損失は0。
下村ら大金星を挙げた「ガーディアン」乗員が乗る艦橋ロケットは
戦闘に巻き込まれぬよう後方宙域へ、エンケラドゥスから発進した回収艦との
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残されたのは無傷の地球・ガミラス同盟軍の彗星迎撃連合艦隊と、深傷を負った都市帝国。
しかも後者には巨大な突破口が穿たれ、中枢の動力炉が露出。
艦隊戦力も先程の一撃で軒並み吹き払われている。
この機を逃す手は、ない。
「下村大佐、よくやってくれた。
我々も、"地球防衛艦隊"の名に恥じぬ働きをさせてもらおう」
司令席から正面の敵を凝視しながら艦隊総司令の山南中将は
徐に右手を胸のあたりまで持ち上げてから、ギュッと握り締め、進撃命令を発した。
「白色彗星の中央を突破する。全艦隊集結せよ!!」
全艦に命令が下り、連合艦隊同士、艦隊同士、艦同士が距離を詰め、
旧時代の爆撃機に準えて言えば
一大連合艦隊は「滅びの方舟」へ向けて突入を開始した。
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「滅びの方舟」がガトランティスを主とした後の1000年間で、
否、建造されてから一度たりとも受けたことのなかったダメージに苦悶する中、
その「天守閣」に位置する「玉座の間」では、普段なら玉座に身を沈めている
ズォーダーが飛び起きたような態勢のまま、地球・ガミラス艦隊が進撃する様を見る。
その表情は苦虫を噛み潰したようで、明らかな驚愕と狼狽、憤怒の色が浮かんでいる。
彗星帝国の大帝も、事ここに及び遂に普段の泰然さをかなぐり捨てることになったのだ。
「ゲーニッツ! 今出せる艦隊はないのか!?」
「は、ハッ! 遊弋待機中の第六機動艦隊・第二ミサイル艦隊は共に消滅!
さらに彗星重力圏に係留中の基幹艦隊も全て蒸発いたしました!
残存せるは都市帝国上部にて停泊・入渠・艤装中の艦のみ、
直ちに出撃可能なのはガーマ麾下の近衛艦隊だけです!」
「ならば直ちに迎撃に出せ!!」
半ば怒号と化したズォーダーの勅命が矢継ぎ早に飛ぶ。
彗星都市帝国を守る絶対の盾である重力制御と防御
"超・大砲"というべき
それ以外の方法で来襲する敵に対処しなければならない。
不測のままに始まった"本土決戦"への対応は混迷を極め、
大帝の命令の中にも、臣下を混乱させるものがあった。
「敵の狙いは動力炉だ! 隣接する『育みの間』から幼生体と医官を避難させよ!
周辺の艦艇は作業艦と共に工場設備を曳航、少しでも遠くへ移送しろ!
……ええい、シファルよ!レルテの門を開け!天守閣への退避を許す!」
「た、大帝!?よろしいのですか!?
それに幼生体や医官とはいえ、ガトランティスが避難するなど……」
ラーゼラーが信じられないとばかりの顔で、ズォーダーに真意を確かめる。
問われたズォーダーは、面食らったように目を丸くし、自身が出した命令を省みる。
それは確かに、ガトランティスの大帝が出すには不適なものかもしれない。
しかし、この時のズォーダーは非常事態に半ば無我夢中で対処していたため、
深く考える余地はなかった。さらに……
「何をしておるか! 勅命であるぞ!」
ガイレーンが急き立てるように大声で言い放ち、
気圧されたラーゼラーは弾かれたように命令の実行に動いた。
その一方、諜報記録長官にして大帝の分身・ガイレーンは、
自らが出したいささか不合理な命令を改めて省み、考え込む大帝を見上げる___
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連合艦隊は、地球軍第二連合艦隊を前衛・ガミラス艦隊を側衛とした縦列陣を形成し
超波動砲によって消し飛ばされた都市帝国の"脚"の跡を突っ切り、彗星重力圏内部へ
正面から堂々と侵入した。
「上方に敵艦隊を感知!……数、およそ500!」
「お出迎えか」
レーダーオペレーターの報告に、オザワ参謀長が呻いた。
「ヤマト」による彗星強行偵察で確認された数千万もの敵主力艦隊は、
「ガーディアン」の超波動砲で殲滅したはずだがいまだこれほどの数がいるとは……
ただ、あくまでも予想はされていたことであり、山南長官は冷静に指示する。
「二連艦、ガミラス艦隊、上方の敵を迎撃せよ。
一連艦と"
……パエッタ中将、バーガー准将、よろしくお願いしたい」
「任せておきたまえ。一艦も通さんよ」
「あの邪魔者はこちらで引き受けます。必ずや作戦の完遂を!」
総旗艦「アンドロメダ」天井モニターに映る二人の艦隊司令と言葉を交わし、
山南は後顧の憂いを絶つ。同時に前衛・側衛艦隊が分離・反転上昇し敵艦隊に向かう。
自然に第一連合艦隊が前衛となり、「波動砲船団」を牽引。
あとは彗星帝国の動力炉へ向かうだけと、デブリの海を慎重に、されど猛進する。
「前方に敵動力炉確認、波動砲射程まで10分!」
「
いよいよ、終局が近づく。
分かれており、その設計を転用した無人波動砲艦は貨物ブロックに当たる箇所を
機関も搭載した自己完結式の波動砲ユニットに換装しているため、
航行しながら波動砲のエネルギーチャージを行うことができた。
都市帝国にとって致命的な極大の破壊を運んでいる
何としてでも食い止めるべく、ガトランティスも必死で船団攻撃を試みている。
船団後部上方では、ガーマ提督率いる彗星圏特別防衛艦隊489隻が
無人艦を中核戦力とするガミラス機甲艦隊と、それを支援する地球軍第二連合艦隊が
形成した封鎖線を突破すべく、旗艦の改ゴストーク級ミサイル戦艦を陣頭に
猛然と襲い掛かった。
滅多なことでは出撃しない近衛艦隊と言う位置づけである彼らは精兵揃いではあるが、
艦艇はカラクルム級など新型艦への更新が後回しにされがちであり、
これから慣熟訓練を始めるというところで都市帝国重力圏への敵の侵入を許す事態に
直面したのである。彼らは、存分に力を発揮できる旧来の艦艇を駆り
近衛の任を果たすべく苛烈な攻撃を地球・ガミラス艦隊に加えるが。
「悪いが、こちとらむざむざやられに来たわけじゃねェんだ!!」
バーガーの旗艦「バーゲルストⅡ世」をはじめランダルミーデ級戦艦の戦隊が
有砲身砲塔から紅色のビームを、ガミラシウム弾を射ち出し、
「とことん我々が相手をしてやる。波動砲、撃ェッ!」
尾崎が指揮するヤマト型二番艦「ムサシ」が拡散波動砲を敵艦隊へ叩きつけ、
追撃に二連艦の改設計艦艇部隊がショックカノンと空間魚雷の嵐を見舞う。
「無人打撃艦群、ガミラス無人駆逐艦群とデータリンク。」
「協同攻撃で網を張る。一隻たりともすり抜けさせるな」
同盟両軍の無人艦部隊は弾庫がカラになるまでミサイルを放ち、
地ガ艦隊はガトランティス艦隊と間合いを取りつつも、敵に劣らぬ凄烈な攻めを見せた。
しかし、第一連合艦隊と波動砲船団の前には新たな脅威が迫っていた。
円盤型の機体から、猛禽の嘴に似た機首が突き出たような巨人機・パラノイアの出現。
艦艇よりも快速に接近し、巨体に満載した火力で船団を屠ろうとしている。
それに対し敢然と、迎撃役として名乗りを上げたのは宇宙戦艦「アポロ」以下
第五艦隊護衛艦艇からなる戦団間接護衛部隊である。
一連艦の他艦隊所属戦艦群と共に二式迎撃機「コスモクロウ」を射出した後、
敵機の接近ルートと船団の間に割り込み、機動部隊演習でも見せたような
優秀な対空戦闘能力、とりわけ速射ショックカノンの火力と、それを最大まで引き出す
巧みな操艦術により迎撃機を突破した敵重爆撃機を圧倒、片っ端から叩き落していく。
防空戦闘を指揮するのは艦隊司令ヨハネス・W・ワッケーン少将と、
旗艦「アポロ」艦長の安田俊太郎大佐だった。
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「目標を有効射程に捉えました!」
「……《プランМ》発令、全艦マルチ隊形に展開!」
第一・第二・第三・第四・第六艦隊に属する、
宇宙戦艦25隻が中心となって5000隻の無人波動砲艦をコントロールし、
惑星ほどのサイズがある彗星都市帝国の心臓部・動力炉区画を望む空間に
タペストリーの文様にも例えられる、見事な波動砲斉射陣形を描き出す。
波動砲搭載艦でもある戦艦部隊は隊列の中枢を形成し
無人艦群と共に巨大な砲口を敵動力炉へと向ける。
巡洋艦・駆逐艦は陣形の上方や後方へ遷移し、第五艦隊と共に新たな敵の襲来に備えた。
「重力子スプレッド発射!」
マルチ隊形要部に配置されたA級・D級戦艦の甲板にせり上がった発射機が光弾を放つ。
青い光弾は光の膜として、波動砲艦隊前面全体へと広がっていく。
正面からの攻撃を防ぐだけでなく、各艦の波動砲を一筋に収束させる機能があった。
艦隊総旗艦「アンドロメダ」以下5025隻の波動砲艦の艦首に光が灯る。
「ガーディアン」が白色彗星に向けて放ったものと比べれば
ひどくささやかに見えてしまうが、それが5000以上も並んでいるのは別の壮観さがある。
攻撃準備は粛々と、省人・無人化艦隊らしく機械的に行われた。
「各隊旗艦・無人艦と諸元共有完了」
「波動砲、収束モードへ移行」
「非常弁全閉鎖、強制注入機作動」
「最終セーフティ解除」
「薬室内圧力上昇」
「エネルギー充填120%」
「発射まで10秒。総員対
「……波動砲、撃て!!」
しかし、艦隊総司令の山南中将が下した発射命令だけは、感情の籠ったものだった。
片や、合理の追求を名目として人間性・感情を否定しながら
要所では禁じている筈の感情に揺さぶられ合理性を損ねるガトランティス。
片や、その原動力は生命的本能、人間的な感情を持つ故とばかりに
効率化・機械化の流れに身を置き、冷徹なまでの合理的判断を下す地球。
その対決を締め括る一撃が、悪しき人類を滅ぼす「滅びの方舟」の心臓へと放たれる。
五千を超える艦の砲口を起点とする余剰次元の放出は、
艦隊前面に展開された重力子の膜へと突き刺さって一つの奔流と化す。
青く太い破壊の光条は「滅びの方舟」の重力制御や防御力場に阻まれることなく直進。
紫がかった光を放っていた、惑星級サイズの都市帝国動力炉に突き刺さる。
5025隻の収束波動砲の束は、そのまま動力炉部を貫通し、反対側へと飛び出した。
直後。
都市帝国の動力炉区画全体に、中心部からヒビが走ってゆく。
青い奔流が貫いた穴と、そこから走ったヒビからは、朱色に縁取られた白光が漏れ出す。
瞬時に、動力炉全体は熱光の塊となった。
「全艦、衝撃に備えーーー!!」
動力炉の爆裂は、地球型惑星を遥かに超える巨躯を有する超文明の遺物、
彗星都市帝国の本体部を下面から焼く。
超波動砲に焼き払われるまでは
ガイゼンガン兵器を主体とする基幹艦隊の係留場でもある彗星重力圏となっていた空間は
大爆発の余波___巨大な衝撃波の津波に襲われる。
第一連合艦隊や波動砲船団、敵艦隊を撃破しつつあった第二連合艦隊とガミラス艦隊は
重力アンカーを最大にし、スラスターを全力で噴かして必死で嵐に耐えた。
突破を図っていたガトランティス艦隊の残余は、モロに衝撃波を受けて押し流される。
余波と呼ぶにはあまりに巨大な衝撃波が収まると、総旗艦「アンドロメダ」艦橋では
山南が、天井大モニターと窓から砲撃目標がどうなったか確認し、通信マイクを入れた。
「……通信室へ。地球の防衛軍総司令部へ打電せよ。
"白色彗星動力炉の破壊を確認。連合艦隊は作戦目標を完遂セリ"。
___化け物は死んだ。迎撃作戦は完全に成功したものと認める!!」
彼の眼にはヘルメット越しに、跡形もなく消滅した白色彗星中枢部が映っている。
あまりの熱量だったのか動力炉があった位置には破片さえ存在せず
その名残を留めるものは皆無で、初めから何もなかったかのような"空間"があるだけだ。
山南の言う通り、この瞬間「滅びの方舟」はエネルギー源を喪失し、
完全かつ永久に機能を停止、事実上の「死」を迎えた。
それは土星沖での迎撃作戦が決着したことと共に、
白色彗星帝国ガトランティスの戦争継続能力喪失をも意味する。
かくして、地球・ガミラス同盟軍が編成した地球防衛艦隊は、
否、地球人・ガミラス人を含む全人類は、ガトランティスに、
そして白色彗星という滅びの運命に対し、決定的勝利を収めたのであった。