宇宙戦艦ヤマト2202 If 猛虎咆哮す   作:モアンゴル

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第八十四話 「ヤマト」より愛をこめて

 

【第84話】

 

 

西暦2203年6月6日。

 

宇宙戦艦「ヤマト」は姉妹艦「ムサシ」などと共に、仮泊地としていた、

土星の衛星タイタン重力圏に設営された空間錨地を出航した。

 

「"防護用装備"及び曳航艦、『ムサシ』ほか護衛部隊、後続します!」

 

主任レーダー手を担当する「ヤマト」船務長・森雪大尉が報じる。

その報告と、半球型レーダー受信表示機が示す通り、

「ヤマト」の後方には、件の"デスラーの手土産"こと"防護用装備"が

それを曳航するガミロイド制御の無人クリピテラ級ともども後続し、

それらの周囲にはヤマト型宇宙戦艦の二番艦「ムサシ」を旗艦として

ほかにE級宇宙巡洋艦1隻、F級宇宙駆逐艦8隻からなる混成護衛部隊が展開する。

 

「目標、()ガトランティス白色彗星都市帝国。 全艦発進せよ!」

 

「ヤマト」艦長兼部隊総指揮官である土方竜大将の号令一下、

混成艦隊は土星沖(天王星・土星軌道間空間)を目指し増速を始めた。

 

 

地球連邦防衛軍司令部は、政府やガミラス側と協議・認可を得て、

宇宙戦艦「ヤマト」に新たな特命を下したのである。

"『送り火』作戦"と銘打たれたそれは、

対白色彗星帝国戦役の戦後処理における総仕上げと呼べるような代物だった。

 

「ヤマト」は成り行き、"縁"から装備することになった『超波動砲』を以て

彗星都市帝国こと古代アケーリアス文明の破壊装置『滅びの方舟』(機能停止済)を

焼却・破壊処分することとなったのだ。

 

『超波動砲』の威力は土星沖海戦時に巨大特務艦「ガーディアン」が実証しており、

これを以てすればこの先、太陽系内航行の障害となり果てるであろう

天体級巨大要塞の残骸を綺麗さっぱり消し去ることができるという判断に基づく

命令だったが、作戦を立案した軍上層部内では

『地球軍の中で初めてガトランティス軍と砲火を交わし、戦端を開いた「ヤマト」に

 ガトランティス戦役の後始末・幕引きをさせるのが劇的で政治的に受けが良い』

……という思惑があったのではないかという噂もある。

 

兎も角、宇宙戦艦「ヤマト」はガトランティスの降伏受諾後も

交代でガトランティス側の降伏条件履行の監視に就いた波動砲艦隊ともども

土星圏に展開し、万が一の事態・『滅びの方舟』の再起動、停戦の破棄に備えていた。

 

そして、旧第二連合艦隊も支援に回っていた対ガトランティス戦後処理、

『天ノ川銀河圏からの追放』(通称:コスモ島流し)のための一連の準備

(旧資源小惑星の収容/移民船への改装、そこへのガミラス勢力圏における捕虜を含む

全ガトランティス人の移送、各種物資の供与・搬入)が完了したこの日、

ガトランティス流刑船団の出発合図を兼ねた『送り火』作戦が発動されたのである……

 

 

________________________________________

 

 

 

(これが、新たな帝星というわけか)

 

その『送り火』を以て天ノ川銀河圏外へ半強制的に発進する予定の、改造小惑星で成る

旧彗星帝国流刑船団には、収容されるべきガトランティス人の()()()()()が到着した。

 

太陽系外に展開したガミラスの大連合艦隊の旗艦から無人駆逐艦に乗り継ぎ、

そこからさらに無人内火艇(対ガトランティス供与品、片道飛行)で

かつて資源天体だった小惑星移民船『ラバウル』(名称は彗星帝国側も引き続き使用)に

降り立ったのは、白い軍服に身を包んだ若い戦士(ガトランティス)の男。

 

その名も、"ガトランティス新帝"ミルである。

 

彼は、従兵の案内で新たな「方舟」を一通り見定めると、軽く嘆息する。

 

(随分と格落ちしたものだ。これが、敗戦ということか)

 

一カ月前、「デウスーラ」艦橋で帝星降伏の報を知らされたときと比べ

落ち着きを取り戻しており、現実を受け止め"新帝"として、

新生ガトランティスの指導者となる覚悟を固めたようであった。

 

そんな彼は、"先帝"に仕えていた高官たちが集う部屋へと足を踏み入れる。

 

「「「新帝ばんざーーーい!!」」」

 

「「「「「バンザーーーイ!!!」」」」」

 

旧『玉座の間』常駐者だったガイレーン、ゲーニッツ、ラーゼラーに加え、

テレザートから帰還したゴーランド提督、ザバイバル将軍、

地球軍の『超大砲』攻撃時には帝星本体上部にいて難を逃れた諸将が

轟雷の如き歓声を上げてミルを部屋に迎え入れた。

 

ミルが彼らに挨拶と今後"人間"として建国する新たな国家について訓示を終えると、

ガイレーンと共に最高位指導者陣の私的な部屋へと移動する。

 

「……ガイレーン、いや、(じじ)様。」

 

「……うむ。」

 

ミルは、仮面を外し素顔を露わにした、先々代大帝にして新帝後見役に訊いた。

ガイレーンもそれを予期していたのか、慌てることなく応じる。

 

 

「……先帝ズォーダーは……父上は、いかがなされている?

 姿がお見えにならないが……。」

 

「……ズォーダーは、彗星に残った。

 『(ズォーダー)という絶望を新たなガトランティスに残しておいてはならぬ』、と。」

 

「…………!!」

 

ミルも、薄々気付いていた。

降伏の意向を直に確かめた際、ズォーダーの言い草から、

彼が自決の道を選ぶ可能性に気付かないほど、ミルも愚かではなかった。

が、改めて聞かされると、忸怩たるものが胸にこみ上がり、表情は曇る。

 

「ズォーダー……!」

 

「……あやつの代で、サーベラーを縊り殺したことへも思いもあろう。

 儂に、お前のことを託し、全てのズォーダーの責を取ると言っていた。」

 

ガイレーンが悲痛さを堪えるようにぽつりぽつりと語る。

何度も翻意を促し、腕づくでも連れて行こうとしてなお叶わなかったのだ。

呼びかける思念波(コスモウェーブ)にも、応答はない。

 

「それでも……!!」

 

傍で、父として、曲がりなりにも統治者の先達として、

己を導いてほしかったと、ミルは思う。

ガトランティスが"戦闘兵器"であった頃には、存在を考えたこともなかった

"涙"が、鸚緑色の頬を伝った。

 

 

「でも、ズォーダー大帝はひとりじゃ、ないそうです。」

 

「「……!」」

 

幼い声が、部屋に響いた。

ミルとガイレーンは声のした方向へと素早く振り返る。

 

「君は………」

 

存在に対する報告を聞いてはいたが、

初めて顔を合わせる相手であり、ミルの顔には困惑の表情が浮かんだ。

 

対する幼女は、はにかむような、それでいて気遣うような表情である。

 

そこにいたのは、"母"によって感情を与えられた、新たなる"白銀の巫女"。

シファル・サーベラーであった。

 

 

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「全艦、正常にワープアウト。砲撃位置に到達しました。」

 

島大介航海長の報告に、土方艦長が頷く。

そうして、高らかに命じられた。

 

「"超波動砲"、発射シークエンスに移れ!!」

 

命令を受け、第一艦橋の幹部乗員で最初に動き出したのは技術科の二人だった。

 

「"防護用装備"、『ヤマト』前面へ遷移します。」

 

「"防護用装備"の機関、正常稼働中。保護フィールドの展開に支障なし!」

 

真田技師長と新見情報長から上がるのは、ガミラス無人駆逐艦によって

「ヤマト」の前方に移動した、蒼く巨大な"デスラーの手土産"に関する報告であった。

 

 

"デスラーの手土産"____それは、

帝星ガトランティスによって建造された、「デウスーラⅡ世」外殻武装ユニットである。

本来はデスラー連合艦隊の総旗艦「デウスーラ」のコアシップを鎧うべき代物だが、

テレザートにおいて「ヤマト」にガミラス軍連絡士官クラウス・キーマンが持ち込んだ

反波動格子を利用した『超波動砲』実現の可能性が浮上した際、同時に懸案として現れた

強力な威力ゆえの輻射反動(「ガーディアン」の例で懸念は的中していたことが判明)への

対策としてデスラー総統により輸送手段(トランスワープ用艦艇)と共に提供された。

 

尤も、当人曰く

『我が旗艦「デウスーラ」に蛮族の装いをさせていては示しがつかない。

 君たちで有効活用し、処分してくれたまえ』___との事であるが。

 

一応の対策をとっていた巨艦「ガーディアン」すら沈めた強大なバックファイアから

「ヤマト」を守る盾となったデウスーラ外殻ユニットは、

同艦からの重力アンカーによって固定。同時に足代わりとなっていた無人駆逐艦は

外殻ユニットから離れ、「ムサシ」など護衛艦隊と同様に安全圏へ退避を始めた。

 

そんな僚艦を尻目に「ヤマト」では、徳川機関長や古代戦術長が

超波動砲の発射準備を次なる段階へと推し進めていた。

 

時に2203年6月6日0555時(極東管区時間)、

場所は、旧彗星要塞の破壊に際し、莫大な威力から系内他天体に影響を与えないよう、

かつ効率的に残骸を一掃できるよう設定された最適な砲撃位置である、

直上から直下にかけて都市帝国を垂直に狙うポイントにおけることであった。

 

 

________________________________________

 

 

 

(……これで、終わる。 全てが___)

 

「ヤマト」による、再度の"超大砲"攻撃の準備を密やかに眺めている者がいた。

 

帝星ガトランティス先代大帝・ズォーダーである。

 

彼は彗星帝国からの退去を拒み、滅ぼした他文明の技術を基に試作されていたが

兵器として欠陥を抱え、量産されなかったガトランティス式次元潜航艦に乗り込んで

機械人形によるガトランティス人退去後の都市帝国監査をやり過ごし、

今なお機能停止した彗星都市帝国に残っていたのである。

 

彼は、殆ど払底しかけているエネルギーで彗星上部の観測機器を動かし、

都市帝国天守閣・『瞑想の間』から遥か上方にいる「ヤマト」の姿を見ていた。

どうやら「ヤマト」は、"超大砲"のエネルギー蓄積へと移行したようだ。

 

(これでよいのだ。

 ……儂が目覚めさせた故にな、最期まで付き合ってもらうぞ)

 

「ヤマト」が"超大砲"を放てば、ズォーダー諸共に、

ズォーダーの絶望の象徴たる『滅びの方舟』は完全に消し去られる。

 

ズォーダーは避けようのない死の運命を自ら選び、受け入れていた。

自分というガトランティスの負の部分をミルたち新世代の者に背負わせないため、

これまで歴代が__当代の己れを含むズォーダーが、方舟に捧げる巫女として、

さらに自身の復讐の名目として利用し、その上で殺してきた多くのサーベラーへの

せめてもの贖罪のため。

 

ズォーダーというガトランティスの絶望は、今日ここで焼き尽くされ、消えるのだ。

 

胸中にはもはや、息子であるミルが、

老父ガイレーンと、自らが愛した人の姿を継ぐサーベラーたちと共に、

ガトランティス人が幸福を享受できる世界を無事に築くことへの願いと祈りしかない。

そのためにも、独善の過ぎた己れは、孤独なままに消えるべきなのだ___

 

 

「___大帝。」

 

不意に、声が聞こえる。

ズォーダーにとって、聞き慣れてはいたが、どこか懐かしい声だ。

咄嗟に振り向くと、そこには___

 

「……サーベラー!?」

 

1000年前、自らの過ちの所為で喪ったオリジナルそのままの姿をした、

桂木透子として活動していた純粋体サーベラーが、瞑想の間の入口に立っていた。

 

 

ズォーダーが呆気にとられるうちに、サーベラーは彼の許へ歩み、その身を預ける。

ズォーダーも思わず、それを抱き留めた。

 

「……私と貴方、二人で始めたことなのです。

 終わりも、二人で迎えるのが道理でしょう?」

 

「……儂に、そんな資格はないだろう、サーベラー」

 

サーベラー(わたし)は皆、貴方を止めたがってはいたけど、

 貴方を恨んだことも、憎んだこともありません。

 貴方が何と言おうと、私は貴方と共にあります、ズォーダー。」

 

言葉を交わすうち、次第に互いを抱く力は強くなっていく。

もう、離さない。離れたくない。言外のうちに、二人はそう告げていたのだ。

 

憑き物が落ちたかのように、ズォーダーの険しかった顔がようやくほぐれる。

 

「……本当に、儂には過ぎた女だな、サーベラー」

 

「貴方以外に、誰を愛せましょうか。ズォーダー」

 

サーベラーも妖艶な笑みを浮かべ、二人は見つめ合った。

 

ミル(あのこ)のことは、私の代わりに傍に立つべきシファル(むすめ)に任せてきました。」

 

「そうか。お前が言うなら、心配はない___」

 

それから、互いに、託すべきものを未来に託してきたことを確認し合う。

 

 

そして、とうとう"その時"が訪れようとしていた。

 

 

 

 

 

 

_____________________________________

 

 

 

《 その人の 優しさが 花にまさるなら 》

 

 

「超波動砲、エネルギー充填120%!!」

 

「ヤマト」の艦首__デウスーラ外殻ユニットを隔てた先に、

土星沖海戦の折に「ガーディアン」が生成したものと同じ、

巨大なエネルギー球が形成され、発射の時を待っている。

 

 

《 その人の 美しさが 星にまさるなら 》

 

「総員、対衝撃(ショック)・対閃光防御!!」

 

土方の命令が下ると共に、第一艦橋の一同が防護グラスを装着。

トリガーを握る古代戦術長は、想う。

 

 

《 君は手をひろげて 護るがいい 》

 

 

願わくば、これが宇宙戦艦「ヤマト」が放つ最後の波動砲であってほしい、

地球を巡る戦乱に関わる中で放たれる、最後の波動砲であってほしい、と。

発射へのカウントダウンが始まる。

 

大宇宙に住まう全ての生命に対する「博愛」への祈りを込めて、

"愛"を背負った戦士の一人である男・古代進はトリガーを引いた。

 

 

《 からだを 投げ出す値打ちが ある 》

 

 

都市帝国天守閣・『瞑想の間』では、

ズォーダーとサーベラーの二人が抱き合い、愛を感じ合っている。

迫り来る終焉など、もはや彼らには些事ですらなかった。

 

 

《 ひとりひとりが 想うことは 愛する人のためだけで いい 》

 

 

「サーベラー、やっと二人きりになれたのだな。

 これまで苦しい思いばかりさせた。許せ……‥」

 

「これからはいつまでも一緒、それだけで充分です」

 

 

《 君に話すことが あるとしたら 今はそれだけかも しれない 》

 

 

「ズォーダー、私たちはこの永遠の宇宙の中で、星となって結ばれましょう。」

 

「あぁ、サーベラー。これが、これこそが、二人の結婚式だ___」

 

 

そして、二人の唇が重ねられ、永遠の愛が誓われる。

それとともに祝福の光が降り注ぎ、二人の影はひとつになった___。

 

 

________________________________________

 

 

 

《 いつの日か 唇に 歌が よみがえり 》

 

 

烈光は、土星・木星軌道間空間に浮かんでいる

小惑星移民船司令室の外部展望窓からも、捉えることができた。

そこには、ミル新帝とシファル、ガイレーンの姿があった。

 

 

《 いつの日か 人の胸に 愛が よみがえり 》

 

 

(ありがとう。そして、さようなら、お父さん___)

 

彼方の光を望むミルの目から、静かに熱いものが零れ落ちる。

 

 

《 君は手をひろげて (いだ)くがいい 》

 

 

「大帝……」

 

それを見ていたシファルは、小さな両手で、青年の手を握る。

 

 

《 たしかに 愛した(あかし)が ある 》

 

 

「ミルで、いい。」

 

それに気付いたミルは、反対側の手で、シファルの頭を撫でてやった。

 

「ミル、さま……」

 

 

《 遠い明日を 想うことは 愛する人のためだけで いい 》

 

 

(ズォーダー、サーベラー。彼らを守ってやってくれ。)

 

仮面を外し、己の瞳で若き二人の様を見守るガイレーン。

彼の皺だらけの顔も泣き腫らしているが、穏やかだ。

 

 

《 君に話すことが あるとしたら 今はそれだけかも しれない 》

 

 

光が収まったのを見届けると、ミルとシファルは向かい合った。

 

「さぁ、行こう、シファル。目指す先は、未来だ。」

 

「はい、ミルさま。」

 

 

「「___新星ガトランティス、前進せよ!!」」

 

重なった二人の声とともに、移民船団は発進し、

無限に広がる大宇宙へと突き進んでゆくのだった______

 

 







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