ジャッジメントですの!に転生したけど おねぇさまぁ!した方がいい?   作:ゆうてい

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か、かかか、間接キッス!?

 5

 

 

『現在の』食蜂操祈は、思わずそこで頭を抱えていた。

 女子中に通っている彼女は普段、『平均的な男子』というのに会ったことがない。あったことのある男性と言えばクッソみたいな研究者とか、記憶にほぼない父親くらいだ。それにしたってあのつんつん頭の男、よくよく考えてみればかなり最低な位置にいるのではないだろうか。

 

 っていうかいるでしょうが!!何ナノあの男!!帆風さんの言っていることは間違ってる、私があんなのを好きになるわけがない。

 

 思い出すだけでさすがアホ!と言いたくなる言葉を頭で反芻させながら、彼女は視線をわずかに落とす。

 ペタン、という珍妙な効果音がついてきそうな、少しビミョーな塊二つ、病衣の胸元を少しだけ持ち上げている。

 

(この、黒子ちゃんと同じ大きさになった胸も、もうすぐ爆発しそうだけどぉ☆)

 

 食蜂は何かを感じていた。この胸がもうすぐしたらどうにかなってしまうんじゃないかと。

 彼とはその後も何度もいつものメンバーとして遊んでいたが、不思議と二人の時間が増えていた気がする。

『友達』として会うことに特別な価値を見出していたようだ。

 そしてもう一つ、食蜂は自分に課していた『自分ルール』がある。『心理掌握』を使って、いつものメンバーの頭の中は覗かない、というものだ。

 

 どうしてそんな風に決めたのか。

 結局、彼達に特別な価値を見出していたのだろう。

 ベッドから立ち上り、カーテン、窓を開ける。

 九月上旬の空気は肌をジリジリと焼き付ける。周りを見てもビル群の真ん中に位置するこの病院はそれでも緑に囲まれ、あの時と同じものを感じられる。

 そして、少し奥にまで目を向ける。この辺りで一番緑が深い場所。

 公園の入口だ。

 食蜂はふと目を止め、自転車止めのポールで守られたその入口へ目をやる。

 何気ない思い出の香りなら、そこかしこに染み込んでいる。

 あの公園もそうだった。

 

 

 6

 

 

 ある日のことだった。

 食蜂操祈は、公園のベンチで項垂れているツンツン頭の男を見つけた。効果があるのか分からないが日の当たらない木陰にいる。日焼け止めを塗る方が効果的ではないだろうか。

 彼は読書、というよりも 大学ノートを見て勉強をしているのだろうか。気になった食蜂が話しかけてみると、上条はこう答えた。

 

『食蜂!催眠術って信じるか!?』

 

『さ、さいみんじゅつぅ〜!????』

 

『やっぱり「センパイ」は凄いな!女子高校生っていうのはなんでもできるんだよ!』

 

『例えばぁ?』

 

『固法先輩はバイク通勤でかっこいいし、センパイはなんでも知ってるし、すげぇよなぁ。やっぱ高校生に進む第一歩ってのは大きいんだな!』

 

『あぁん!? さっきから腹の立つ言い方ねぇ!』

 

 たったの半年前にやっと中学生になった食蜂にとってはあまり面白くない論である。無駄に周回遅れを知らされているのは気分が悪くなるだけだ。

 

『その点黒子は小学生なのになんでも知ってるよな、中3よりも頭のいい小6ってなんなんだ?』

 

『そうかしらぁ?』

 

 黒子の中身は三十路のおじさんなので、元々上条と比べると頭がいい。と言っても上位の大学生と比べたら流石に劣る。常識や知識で言えばおじさんが勝つだろうが、計算などの分野では食蜂などのお嬢様学校所属の小童どもの方が有利である。だからこその疑問だ。上条のように頭の非常に悪い方が彼女らにとって珍しいのである。

 

『いやいや、今のは皮肉だぞ、何も知らないお嬢様ぁ〜』

 

『はぁ!?何も知らないですってぇ!?!?』

 

 上条は食蜂に対して皮肉りこんな提案をする。

 

『じゃあこの問題解いてみろよ』

 

『言ったわね!これくらい絶対すぐに解いてやるんだからぁ!』

 

『はいはい、頑張って頑張ってぇ』

 

 隣に腰掛けた食蜂は上条のペンを折る勢いで握り、問題を解き始めた。

 

『ふふふ、こんな簡単な問題を出したのが間違いよ、もう終わるわぁ』

 

『はえーな、ごくろーさん。そこの「雲川芹亜のさいみん☆ノート」ってノート取ってくれ』

 

『はいどうぞ、もうすぐよあと5秒で終わるわぁ!』

 

 食蜂は言った通りすぐに解き終わった。その字はとても女の子のような字ではなかったが、これは上条にとって好都合。

 

『さすがは常盤台のお嬢様。こんなに早く終わるとはな』

 

『どうかしらぁ、解いちゃったわよ?』

 

『ありがとな、ここ分からなかったんだよ。黒子は自分で解けっていうしさ、ちょうどよかった』

 

『え!? まさかそんな理由でやらせたのぉ!?』

 

 上条は宿題を人にやらせたのだ。黒子は騙さなかったようだが、食蜂はちょろかったようだ。

 

『うんうん、ここで催眠術! この石を見なさい!』

 

『え、えぇ?』

 

 食蜂は上条が突然出した石をじっくりと見る。

 

『と見せかけてドーン‼︎』

 

『うひゃあ!何すんのよ!って、きゃあ!』

 

『おっと! 壊滅的だな』

 

 上条は食蜂の目の前で手を叩いた。猫騙しを食らった彼女は大きくのけぞり倒れかけたところを上条が手を引っ張る。それに食蜂は顔を赤くするが、やった本人はなんとも思って無いようだった。

 

(なによ、乙女の手を握るのはそんなに簡単な訳!?)

 

『ありゃ? 効いてないのか?』

 

『い、今のが催眠術だったの!?』

 

 食蜂は呆れた。まさかそんなので催眠術がかかる訳がないのにこんなことをするなんて、と。呆れた顔の食蜂を気にせず、上条は続ける。

 

『もう一回! 次は掛かると思うから!』

 

『掛かるわけが、まあいいわぁ。もしかかったらあなたにも同じことをするからぁ』

 

 食蜂は、ハレンチなことをされないための保険として先に注意しておく。

 

(こう言っておいたらさすがの変態ロリコンツンツン男も変なことはしないだろうしぃ)

 

『おう、じゃあもう一回』

 

『この石をじっくり見てください。そうです、そしたらすーっと意識がなくなって』

 

 食蜂はからかってやろうと考える。

 

(バカらしいわねぇ、ふふふ、かかったふりをしてあげるわぁ)

 

『と見せかけてドーン‼︎』

 

 ビクッ! 

 

『2回目でも驚きはするんだな。っておい、聞いてるか?んな!き、効いてるだと!?』

 

 上条は驚くのと同時にノートを素早く開いた。そこには手順2として、こんなことが書いてあった。

 

『えーと、本当に効いてるか確かめるためにスカートを捲らせましょう。っておい、こんなことさせられるわけが、させようか』

 

 上条は好奇心に負けた。もしかすると、いつだかのように蜘蛛の刺繍がされたパンティーを穿いているかもしれない。もしくは、あのときよりも過激的なものを、

 

『食蜂、スカート上げれる?』

 

『……………………』

 

『おーい、スカート上げれる?』

 

『…………………………』

 

『くっそぉ! なんでこれは効かないんだ!?』

 

『当たり前でしょう!? そんなバカみたいなのが本当に効いてると思ってたの!?』

 

『うおぉ! 効いてなかったのか!? すげぇ恥ずかしいことしちまったよ。よくよく考えりゃこんな小娘のパンツなんて見て何がいいのかわかんねぇや』

 

『なぁんですってぇ!? 自分で命令しといてそのてきとうな感じの反応はなんなのよぉ! 見たいでしょ!? このわたしのパンツよぉ!?』

 

『なあ食蜂、恥ずかしくないのか?』

 

『恥ずかしいに決まってるでしょうがぁ!!!』

 

 エアコンのリモコンの角が上条の脳天に突き刺さった。

 

 


 

 

 7

 

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………はぁ」

 

 食蜂はもう一度頭を抱えた。

 いいや、彼が悪いのは私のことをガキ呼ばわりしたことだけ。

 もっと悪いのはあの本当に正体が謎の年増なのであって、ツンツン男は騙されただけの可哀想な人のはず。

 もしかしたら、全部わかった上で被害者ヅラして乗っていたのなら『かなりのやべぇもん』だが、黒子ちゃんはあの人は嘘がつけない人と言っていたから、そういう腹芸は出来ないだろうと呑み干しておく。

 緑青々と映える木の葉。明確な温度を表してくる電光掲示板のような温度計、それには41℃と書いてあり(日陰ではなく日向に設置されている温度計)、さらなる暑さを感じさせる。ここは食蜂操祈と上条当麻の普段の行動圏が重なる場所だったのだ。あれ以外にも、いくつかのメモリーをシェアしていたりもした。

 

 そう。たしかあんなこともあった。

 

 

 8

 

 

 ばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばざはざばざばざはざばさばざばさばさばさばさばざはざはざばさばばはざばさばざはざはざばさばさばざばさらばばさはばさばざばさばざばざはばさばさばざばさばさばさばざばさばさばさばざはさばさばさばざばさばさばさばさばさばさばさばサバサバざばサバサバサバサバサバサバさばサバサバサバサバサバサバばさばさばさばばさばさばさはばさ

 

 夏なのにセミの音なんて聞こえなかった。聞こえるのは何故か鳥の羽ばたく音ばかり。

 

 バサバサばサバサババサバサばサバサバばざばざバサバサば

 

『…………………………………………………………』

 

 バサバサばサバサババサバサばサバサバ

 

 ついでに言えば、前は白が蠢いている。頭は鳥につつかれ鳥の巣状態、持っているバッグも鳥の住処。

 理由は単純。

 夏の日。

 食蜂操祈は全身鳩まみれになっていた。

 

 バサバサばサバサババサバサばサバサババサバサば

 

『…………』

 

 バサバサばサバサババサバサばサバサババサバサば

 

『…………………………………………………………………………………………………………』

 

 バサバサばサバサババサバサばサバサババサバサばサバサバ

 

『…………』

 

 バサバサばサバサババサバサばサバサババサバサば

 

『なあ食蜂、聞こえるか?』

 

 バサバサばサバサバさバサバサばサバサバ

 

『………………………………………………』

 

 バサバサばサバサババサバサばサバサババサバサば

 

『まあ、聞こえるわけがないよな』

 

 バサバサばサバサバばざバサバサばサバサババサバサばサバサバ

 

『…………………………………………………………』

 

 バサバサばサバサババサバサばサバサババサバサばサバサバ

 

『そうだ、そういや飲み物買ってきたんだった。飲むか?』

 

 そういってヤシの木サイダーをベンチに置く上条。食蜂に反応はなかった。

 

 バサバサばサバサババサバサばサバサババサバサばサバサバ

 

『•…………………………………………………………』

 

 バサバサばサバサババサバサばサバサバばざバサバサばサバサバ

 

『お、置いといたからな?いやしかし、すごいなその手品。鳩を呼び寄せるんだろ?すげぇよな』

 

 バサバサばサバサバばさバサバサばバサバサばざ

 

『えっと、それって一回やったら解けないマジック?』

 

 バサバサばサバサバ鯖はザバザババサバサばさはざば

 

『なあ、それって助けた方がいいのか!?もしかして!』

 

 バサバサバサバサバサバサバサバサバサバサ

 

い、今まで助けようとすらしてくれてなかったのぉ!?

 

 バサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサ

 

『い、今なんて言ったんだ!?』

 

 バサバサはザバザバザバザバザバザバばさ

 

『う、うわぁ、どうしよ!どっか行け鳩!』

 

 バサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサ

 

 上条は持っていたバッグを食蜂に投げた。

 何ということでしょう。投げられたバッグを、鳥は避けてしまったのです。そのまま鳥はどこかへ飛んでいき、見えなくなりました。

 そして、バッグはどこに行ったのだろうか、上条は鳥に向かって投げたのだ。鳥がいなくなったところには食蜂操祈がいる。つまり、

 

 ばちこーん☆

 

『さすがです食蜂操祈さん』

 

『うふふ、ありがとう上条さん』

 

 上条に皮肉られた食蜂は上条を鬼の形相で睨みつける。上条は少しだけ怯んだがすぐに気を取り戻し、バッグに手を突っ込んだ。

 

『これやるよ』

 

『これはなにかしらぁ?』

 

『ただの防災用ホイッスルだよ』

 

 上条特製カルボナーラのようにぐちゃぐちゃになった髪を梳かしながら、差し出した左手にはホイッスルが乗っけられた。何のためのものかわからない彼女は疑問に思う。

 

『なんのためか聞いてもいいかしらぁ?』

 

『お前、おっちょこちょいのドジっ子だろ? 何かあったら吹いてくれれば直ぐに行くからよ』

 

『余計なお世話だとは気づかないのぉ?』

 

『それだけ心配してんだよ』

 

『ほ、ほんとぉかしらぁ?』

 

 食蜂は顔を赤くし俯いた。上条からはその赤い顔は見えていないため首を傾げたが、

 

『試してみろよ』

 

 と、一言。

 それには食蜂もびっくり。

 言われたままに紐を首にかけホイッスルを口に咥えた。そこで上条のもう一声。

 

『俺も風紀委員のときに何回か使ったけど結構うるさいからな』

 

 ぴゅろ〜

 

 公園に彼女の甘い吐息が鳴り響いた。

 

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