ジャッジメントですの!に転生したけど おねぇさまぁ!した方がいい?   作:ゆうてい

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忠誠蟻

「白井様!風紀委員のお仕事お疲れ様です!」

「あ、有難う御座いますの」

 

 白井は帰宅の道中、後ろをカルガモの親子のようにつけてくる女を見た。わたがしを思わせるような長いフワッとしたチョコレート色の髪の毛に、モデルを思わせる端正な顔立ち。少し視線を下に向ければ、未来の食蜂程とは行かないまでも、大きく主張をする果実が見られた。

 着ているのは常盤台の制服であり、先述の容姿も合わせてみると、彼女もまたお嬢様の血を引くものなのだろうと思えた。

 

(この方は何故私についてくるのでしょう。いや、まあ確かに彼女を助けたのは私なのですが、それだけでこんな忠誠的な・・・)

 

 あのような状況からここまで元気になれた彼女に安堵するものの、どうしてこんなアホの子みたいな成長を遂げてしまったのかと頭を抱える。これでは食蜂と帆風の関係のようだ。自分の性に合っていない。

 

(あなたあんなにも淑女でしたわよねえええええ!?)

 

 少しだけ前の話を思い出す。

 ひとりの少女の、悲劇の幕開けを。

 

 


 

 

『上条さん、来てくれるかなぁ』

 

 蟻は第二十一学区のとあるダムの前で携帯を触っていた。ブルーライトが彼女の表情を照らす。窺えたのは悲しみや絶望といった感情だろうか。目は赤く腫れていた。

 てろりん、とメールを送信したメロディーが鳴る。彼に向けて送るメールの内容は以前から似たようなものばかりだった。

 

《上条さん、また相談があります》

 

 蟻は返信を待つ。

 もう一度だけでいいから、彼の声が聞きたかった。

 

 

 ♦︎

 

 

 自殺を決意した日、最後に美味しいコーヒーでも飲もうかと有名な喫茶店に向かっていた。街の喧騒が嫌になる、私はこんなにも辛いのになぜみんなは幸せそうにしているのかと。

 

 私は自分の才能の無さに絶望していた。私にレベル5に成れる素質があると言ってくれた研究者はもう何処にもいない。私を捨てて他の能力者に目をつけてみんな去っていったのだ。

 

 でも、そんなことこの学園都市では珍しくなかった。研究者はより上限値の高い能力者に傾向する。それが私ではなかっただけなのだ。ただ、それだけなのに、私の心はカラになった。生きる意味などないのだと気付かされた。

 

『死にたい。』

 

 周りに隠していたはずの感情がこぼれ落ちる。

 良いことなんかない、そう思っていた。

 

 信号を大勢の人が渡る。前を見ていなかったから、誰かと肩がぶつかった。謝ろうと後ろを振り返る。ああ、どうして、涙が止まらない。

 

『助けて、』

 

 出て来たのは謝罪なんてものではなかった。身の程知らずの懇願。

 今度こそ本当の謝罪を口にしようとした。

 

『わかった』

 

 しかし、そこには真剣な顔をした男がいた。

 信号が赤に変わる。二人だけの世界が始まった。

 

 

 ♦︎

 

 

 静かな午後、彼女は男とともに喫茶店にいた。店内は暖かな灯りで照らされ、ほのかなコーヒーの香りが漂っている。

 彼女は自分の心の内を思いのままに解き放ち、過去から現在までのすべてを男に伝えた。彼女の言葉は男の心に深く突き刺さり、時間が止まったかのように感じられた。男には思索が巡っており、彼女の言葉に真摯に向き合っていることが伝わってくる。彼女は彼の反応を見つめながら、自分の心の奥底に眠る想いを明かしていく。

 彼女の胸には緊張と同時に解放感も広がり、彼女はその瞬間を深く刻み込んだ。男はしばらく黙り込んだ後、穏やかな声で彼女に語りかけた。

 

『よかった、君とぶつかることが出来て』

 

 その言葉に、少女は戸惑いを感じていた。ぶつかって、何が良かったのか。

 彼女は、男の口から続く言葉を待ちわびながら、内心で胸躍る期待を抱いていることに気づいた。一瞬が永遠のように感じられる瞬間、彼女の魂はこの刹那に集約されていた。そして、彼女は自分の運命がこの男の言葉にかかっていることを悟った。彼女は心の中で微笑みながら、運命の糸が彼らを結びつけるように願った。

 

『絶対に死なせない。これから俺と楽しい毎日を過ごすんだ。拒否なんてさせないぞ』

 

 少女は、今度こそその言葉の意味を理解できなかった。彼女が待っていたのは単純な引き止め。これではプロポーズの間違いではないか。

 顔が熱を帯び始める。グラスに反射する自分の顔が赤いことに気付いた。次第に体までもが熱くなっていく。沸騰するような思考回路の中、少女の考えはぐるぐると廻っていた。

 

『えっと、今の聞いてた?聞いてもらえてなかったらすごい恥ずかしいんだけど』

『あ、ごめんなさい』

 

 聞こえた声に思わず返答する。何も考えずに答えた言葉は、まるで彼を否定しているようなものになってしまう。

 

『あ、そういうことじゃなくて・・・!』

 

 喫茶店に俄かにざわめきが広がった。

 

『にぃちゃん振られてんじゃねぇか!』

『まだ若いんだから頑張れよ!』

『次があるって!』

 

 次々と声がかけられる中、目の前の男は赤い顔のまま、冗談めかした声に対して言い返している。周囲の人々は笑い声を上げながら、楽しそうなやり取りを眺めている。彼は明らかに注目の的となっており、喫茶店はますます活気づいていくようだった。

 

『ちげぇわ、告白じゃねぇよ!

 今のは風紀委員として言った訳であって!

 しかもこの子の言ったごめんなさいもそう言う意味じゃないし!』

 

 彼が全力で否定する姿を目の前にして、少女の心は微かに乱れる感覚を覚えた。しかし、不思議なことに、その喧騒の中で笑いが蠢き上がって来た。

 

『ふふっ』

 

 笑いを零した。

 

『笑えたな。なあ、今楽しいだろ?』

『ふふっ、今は恥ずかしい方が強いかな』

 

 少女は笑いをもう一つ零した。

 その男も喧噪の中で微笑みを浮かべながら、ひとつの笑い声を響かせた。

 

 


 

 

「ねえ、あなた暇なんですの?」

 

「暇? いいえいいえ! 白井さんの事を見ることが叶っている今、暇なんてことはありません! 寧ろ人生サイコー、今までのはこの為だったのか! って感じです!」

 

 白井はもう一度頭を抱えた。

 

(彼女の言う彼女の過去と今が乖離しすぎて、困惑が隠し切れませんの)

 

 それでも彼女は白井のお願いを数十回目でやっとこさ聞き入れ、白井に"様"を付けなくなっている。このままいけば普通に接することが出来る様に、ならなそうだなぁ。と思う白井であった、、、

 

 白井は今尚ついて来ている女を一瞥し、問題は山積みだなぁと思いつつも、彼女が家までついて来た場合に、持て成す為の晩御飯を何にしようか考えていた。

 

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