ジャッジメントですの!に転生したけど おねぇさまぁ!した方がいい?   作:ゆうてい

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海の王 白髪の王

 七月某日

 

 ここは、無数に聳えるガラス張りの高層ビルのうちの一つ。『天体水球(セレストアクアリウム)』と呼ばれる巨大な水族館。最上階に着いたエレベーターを降りると、まず見えたのは一面に広がる巨大な海(すいそう)。そしてそれらの中にいる魚たちだった。夜はほかの建物や月の灯りを揺らめかせるそれは、あまりにも幻想的で『媚薬を盛るより効果がある』とまで揶揄(やゆ)されている。この学区一番のデートスポットであった。

 

 その水槽の一つ、一番目を惹くであろう大きな水槽の中には海の王者とも呼ばれるシャチがいた。存在を主張するかのように、水中で優雅に舞踊していた。その身体は瞬く間に波紋となり、一糸乱れぬ流れとなって連続してくるくると回り続ける。水しぶきが空気と交じり合い、彼の周りには幻想的な輝きが生まれる。自らの美しさに酔いしれながら、シャチはその勇姿を誇示し続けるのだった。

 

 水族館の中を声が響いた。

 

『報告です。蜜蟻愛愉が風紀委員によって保護されてしまったため、手が出せない状況になりました』

 

「はぁ?」

 

 機械を通したような声に応えたのは、なんと水槽を自由に泳ぎ回るシャチだった。彼は静かな海の底から返事を返す。澄み渡る水の中で、シャチは聞こえた声に向かって怒鳴りつけるのだった。その威厳ある姿は、まるで海神のようであり、その響きは波間に響き渡り、驚きと畏敬をもたらした。

 

「何をしてるんだ、お前らを信用してやったと言うのに!

 くそ、風紀委員となると、あいつらのうちの誰なのか!?」

 

『風紀委員の映像を送りました』

 

 そういうと、水槽の前に垂れ幕のようなプロジェクターが現れた。そのプロジェクターに表示されたのは蜜蟻をダムから引き上げる白井の姿。その映像を見たシャチは叫ぶ。

 

「やっぱりかぁ!何故一番の厄介者がここで現れるんだ!」

 

『申し訳ございません』

 

 丁寧な言葉で謝るものの、それは上部だけ。機械越しに話す男はこの魚と話をしたくなくなっていた。

 

(大金積まれて女を拐いに行ったが、まさか白井黒子まで現れるとはな。面倒ごとに巻き込みやがって、この魚野郎はブラックリストに追加だな)

 

 彼の所属する暗部組織は、このシャチを相手に商売をしなくなったと言うわけだ。この男はもともと入っていた組織を白井に(ジャッジメント)されていたので、その反応は実に正しいものであった。

 

「もういい、お前たちには頼らん」

 

『了解』

 

 そうして通信は途切れた。

 

「チッ、使えない奴らだったな。暗部の中でも有名なところだったのにも関わらず」

 

 通信が終わった後一人怒鳴り、呟く。

 

「まあいい、私の目標は食蜂操祈の能力を奪う事。デッドロックに簒奪の槍(クイーンダイバー)は渡した。あとは時間の問題だ」

 

 

 

 

 八月某日

 

 ぴこりん、と一つの通信がシャチへと繋がる。彼の性格に合わないようなその電子音は一ヶ月ほど前と同じ、彼の苦しみの始まりの音色だった。

 

『報告、デッドロック壊滅により食蜂操祈を取り逃がしました』

「はぁ!?」

 

 食い気味の反応である。あまりの驚きに水が左右に大きく揺れ動いていた。水槽の縁から水が溢れるほどであった。

 

「おいおい、どうしてくれるんだ。蜜蟻愛愉に続いて食蜂操祈も取り逃がしたのか?」

 

 ぷかぷかぁ、と水面に浮かぶシャチは痙攣を起こすかのように小刻みに震えていた。これが人間の姿だったのならば、貧乏ゆすりだとでも表現できていたのかもしれないが、それが魚では可愛いだけである。

 

「あぁ、全て終わりだ。私の計画は全てが終わりだ」

 

 シャチ、その名前は蠢動俊三(しゅんどうとしぞう)。彼は全てを諦めるかのように、水死体のように浮かんでいた。

 

 

 

 九月某日

 

「いんやぁ!まだだ、私の計画はまだ終わっていないぞ!」

 

 そうしてまた一ヶ月後のこと、蠢動は見苦しく足掻く事を決めた。それが、可能性の一欠片しか無いと分かっていても。

 

一方通行(アクセラレータ)を私の計画に参加させる」

 

 


 

 

 一方こちらは、退院をした上条を家へと送り届けた白井黒子である。彼女は風紀委員のパトロールがあると言って家を抜け出していた。街を煌びやかに演出させる街灯が、彼女の影を映し出していた。

 

「やはり、私が本物の白井黒子でなくともパトロールは必要ですわよね」

 

 本来なら、小学生の彼女が外を出回るようなことは出来ない時間だが、今は右腕に掲げる腕章のお陰でアンチスキルに咎められることもない。つまり、今の彼女は無敵であった。

 

「今までの傾向だとやはり、この時間は路地裏が事件の多発地帯ですか」

 

 そう言って、白井は路地裏へと足を進めた。

 

 

 

 ♢

 

 

 

「お前が一方通行(アクセラレータ)だな」

 

「あァ?何の用だ黒ずくめさンよォ」

 

 白い髪の少年と、とある組織のエージェントが邂逅を果たした。エージェントの男は、路地裏の涼しい気温なのにも関わらず額に汗をかいている。まるで少年に対して恐怖を覚えているかのように。

 男が少年に、揺れ動く声のまま提案をする。資料を提示して分かりやすく丁寧である。内容は食蜂操祈の捕縛であった。

 

「面白いこと言うじゃねェかァ、それで?それに対するモノはなンかあンのかァ?」

 

「ッ!引き受けるのか。対価は次のページだ、読め」

 

 眉間に皺を寄せながら次のページを読む。資料を見た一方通行の目が大きく開いた。

 

「おい、これは本当かァ?だとしたら——」

 

 ——この会話を覗く者がいた。すぐに気配を察知した一方通行は、能力を使ってその位置を確認しようとした。しかし、気配は彼が能力を展開する前に消えていた。まるで一方通行の能力から逃げるかのように。

 

 空を切るような音がした。気配は能力から逃げていたのではない。一方通行を魔の手(変態)から助けようとしていたのだ!

 

 すぐに何か硬いものが折れるような音がした。一方通行がその方向を見ると、そこにはエージェントの姿が無い。少しだけ視線を下げると、一方通行は眉間の皺をより深く刻ませた。

 

「なんだァ、このチビはよォ」

 

「ふぅ、よかったですの。貴方が変態(エージェント)に連れて行かれなくて」

 

 目に映ったのはピンク髪の少女であった。腕に巻かれていた腕章で少女の正体がわかる。どうやらパトロール中の風紀委員だと。

 一方通行は、実は状況を理解できていない頭のまま少女に問う。

 

「テメェ、こんなとこで何してンだァ?」

 

「見てわかりませんの?貴方と言う少年をこの変態から守ってあげましたのよ?」

 

「ハァ?」

 

 一方通行には言っている意味が分からなかった。こいつは何処をどう見てエージェントを変態だと勘違いしたのか、皆目検討がつかない。しかも、男同士である。そんな間違いなど起こり得ないはずだ。

 

「まだ理解していない顔ですわね、ひとまず休憩できる場所に行きましょう」

 

 そう言って、エージェントを触れて消し去った少女は、一方通行の手を引き路地裏を出て行く。やがて着いた場所はお高そうなカフェだった。

 

 ♦︎

 

「えーと、じゃあ私はいつもので、貴方は何か食べますの?オススメはこのフレンチトーストですわ。口に入れた瞬間甘さがいっぱいに広がるんですの」

 

「いや、俺は肉が食いてェ」

 

「いやいや、ここはカフェですのよ?お肉なんてあるわけ無——」

 

「——ございますよ」

 

「じゃあそれで頼む」

 

「え、あぇ?半年通っている私の知らないメニューがあるんですの........」

 

「えぇ、開店当初からあります!」

 

「あ、あぁ、そうですのね、じゃあこれで頼みますの......」

 

 死んだ目のまま俯く白井を、一方通行はつまらなそうに眺めている。数十秒経つと、白井は意識を取り戻して生きた目をするようになりそして、白井はイキイキと話し始めた。

 

「先程の『テメェ、何してんだァ?』の答えですわ。私は風紀委員としてパトロールを行っていましたの。

 傾向的に、やはり路地裏の事件が多いので路地裏へと進みました。そうしたら怪しげなスーツのおじさんが歩いていたんですの。あぁ、これは犯罪者だ。そう思ったんですの。だからつけて行って、犯罪を犯すまで待っていました。

 思ったよりも早かったですわ、あの変態が貴方をターゲットにするのは。なんてったって、貴方を見つけた瞬間早歩きになったんですもの。それはもう驚きました。

 貴方があの変態が話しているとき、私は貴方の身が心配で心配で仕方ありませんでしたの。でも良かった。貴方が無事で」

 

 無言で話を聞いていた一方通行は、喋ろうとして口を開けるが呆れてなのか言葉が何も出なかった。ため息をついたところで、少女が話しかける。

 

「ところで、先程貴方はあのエージェントの提案を呑み込もうとしましたか?」

 

 少しだけドキリとした。このチビは最初から分かっていたのか?そんな考えが一方通行の頭によぎる。

 

「さっきまでのは演技ってわけか」

 

「ええ、学校では人気があるんですの。さすが女王!なんて言われたりもしますの」

 

「いやそんなことは聞いてねェ、俺はあの男の提案を呑もうとしたとして、だから何だって言うんだ?」

 

 一方通行は御自慢の学園都市一位の頭で考えていた。

 

(こいつは風紀委員で確定。それでおそらく能力は転移系、俺の能力でどうとでもできる。恐れることもない。問題はこいつの目的だ、この俺に接触してきたんだからそれなりの理由があるはず)

 

「だから何、ですか。いいえ特にはありませんが、そのポケットに入っている資料を見せて欲しいんですの。それには貴方が提案を受ける対価が記されているはずです」

 

「見せると思ってんのかァ?」

 

「あら、見せてくださらないんですの?なるほどよほどエッチなモノなんですね、配慮が欠けていましたわ。おほほほほ」

 

「何言ってんだお前」

 

 一方通行はつい資料を机の上に置いた。ドンと大きな音がするが、そんなことも気にしない。ただ、間違いを正したかった。

 

「ふふふ、それでよかったんですの?」

 

 過ちに気付く。馬鹿なふりをして資料を見させるところまで彼女の罠だったのだ。普段ならば相手にもしなかっただろうに、この日ばかりは。

 

「ふむふむ、なるほど私でさえ聞いたことのない計画です。あまり信用しない方が良いですね」

 

「当たり前だァ、風紀委員みてェな()の奴らが知れるようなことじゃねェ」

 

「表、表ですか」

 

 白井の唇が動く。羨ましい、一方通行にはそう言っている気がした。

 この学園都市には色々な都市伝説がある。その中でも、特に裏側に精通している人間の間でだけ真しやかに囁かれている噂。

 

「どういうことだァ!風紀委員はこんなチビまで裏側に持ち込んでんのかァ!?」

 

 それは裏暗(うらやみ)班と呼ばれる暗部組織の存在であった。様々な説があり、その中でも有力なのが()()()()()()()()()()というモノだった。これは、組織のエンブレムと呼ばれるマークが、風紀委員のそれに酷似していたからである。

 確か、彼らが現れるとき、彼らは表の平和を()()()()と呟くのだとか。

 

「うるさいですの。皆さんこちらを見ております。ここはカフェですのよ?」

 

「ちっ、クソがッ」

 

 一方通行は許せなかった。彼だって人間。こことは違う世界でも、妹達(シスターズ)を殺すまでは少し心の壊れただけの子供だった。

 それゆえ、彼の中の小さな良心が白井を助けようとした。

 

「いいから足を洗え、その後は俺が何とかする」

 

「貴方、それ余計なお世話ですのよ。私は自分から裏側に足を突っ込みましたから。それに羨ましいとかも実際は思ってもいませんし」

 

「うるせェ、いいから足を洗えって言ってんだ」

 

「それに、もう遅いですの。私はこれでもリーダーです。壊滅させた暗部だっていくつもありますのよ」

 

「あ、アァ?」

 

 彼にはそれが信じられなかった。少女が腕の確かな能力者だと言うことは分かっていた。それでも、こんなちっぽけな少女に、暗部の辛さを耐えられるような精神があるとは思えなかった。いや、思いたくもなかったのだろう。

 

「全部、話せ。隠し事は、無しだ」

 

「こんなところでですの?今は食べる事を進めましょう」

 

「チッ、五分で食いやがれ」

 

 ご飯を食べ終わった頃には、空を覆っていたはずの雲は消え去り、月と星だけが世界を支配していた。

 

 


 

 

「蠢動様、どうやらまたあの風紀委員に阻まれたようですよ」

 

「え、ん?もっかいいってくれる?」

 

「ですから、一方通行は提案に乗りかけたのですが、例の風紀委員が邪魔をして失敗したようです」

 

「へ、へぇ、そうなんだ」

 

 シャチは叫ぶ。それはもうあの人かってくらいに。

 

 

あぁ!!もう!!私は不幸だああぁああァー!!!!!

 

 

 

 彼は自暴自棄(頭がパァ)になった。

 

 

 


 

 

 

 裏暗班(うらやみはん)

 

 風紀委員直属の対暗部班。白井はそのリーダーになっている。

 白井が潰した暗部とは、上条の右手を封印するときに潰したブロックとDA、そしてその他もろもろ。

 蠢動も暗部の人間なのでその二つが壊滅したことは知っているが白井が潰したと言うことまでは知らない。風紀委員の厄介者とは、白井、上条、初春、その他数人。そして、誰も知らないはずの裏暗班の五人。(この五人の内一人は白井なのでかぶっている)

 

 ()()()()。それは組織が破壊される始まりの一声だ。







しらが、ではなく、はくはつ、でございます。
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