ジャッジメントですの!に転生したけど おねぇさまぁ!した方がいい? 作:ゆうてい
もし、常盤台中学にて流血事件が発生したなんて噂が流れてしまえば、それこそ学校の印象は暴落してしまうだろう。
しかし、その噂が校外に流れる事はなかった。それどころか、延長線上のもっと大きな事件でさえ。それは、派閥の大きすぎる力ゆえか、それとも実際は起きていないのか。
真実を知るのは常盤台学生のなかでも、一部だけなのである。
六月上旬、学園都市は地球温暖化のせいなのか、すでに暑い日が続いていた。気温は30℃を目前にし、テレビでは毎年更新される過去最高気温が報道されている。
そんな暑い日のなか、潔斎雪紫は御坂との待ち合わせ場所に向かい走っていた。待ち合わせの時間まではあと数分。額に流れる汗は留まるところを知らない。
「えっと、ここは近道だったかな?」
久しぶりに行くカフェの道に迷いつつも、運良く近道になる路地を見つけ、潔斎は躊躇いもなく奥に進んでいく。そこは日が届かないからか、じめじめとした空気が肌に絡みついて少しだけ気持ちが悪くなってしまう。狭い路地裏は入り組み、なかなか出口に辿りつかない。
ふと腕時計を見ると、針はすでに待ち合わせの時間を示していた。
「やっばい! あぁ、美琴ちゃんなら許してくれるかな.....」
親友が遅刻に厳しくありませんように。と祈りながら足を速める。
水滴に波紋を広げる水溜りには、潔斎を追う何かが写っていた。
♦︎♦︎♦︎
路地裏に入り何分が経ったのだろうか。腕時計を見ると、長針は先程から大きく位置を変えていて、もはや謝っても済まない域に達している。『学舎の園』内部だとはいえ、少女一人でこんな不気味な場所を抜けるのは怖いはずだ。それに加えて路地裏特有の冷たい空気が、潔斎の体温を奪い不安を募らせていく。
「流石におかしいよね」
彼女の以前の記憶は、とっくに路地を抜けていていい時間だと言っている。それなのに、灯りすらないこの場所から抜け出せる気は一向にでてない。やはり、この路地裏はおかしい。
「これってもしかして、危機的状況ってやつ?」
思い出すのは流血事件。聞いた話では、実家を馬鹿にされた支倉派閥の人間が、水鏡派閥に攻撃を仕掛けたのだとか。そのときは血こそ流れなかった。その首にはしっかりと、濃く絞められた痕が残っていたと聞く、被害者は花山院という日本屈指の御令嬢。
次の日、事態を重く見た両派閥が一堂に会する。共に手は出さなかったものの、話し合いは紛糾した。支倉派閥はやってないの一点張り。対する水鏡派閥は能力の特徴から、支倉派閥の
結局その日は、なにも解決する事はなかった。それがいけなかったのだろう。帰路に着く水鏡派閥の一人が襲撃された。頭から血を流した仲間を見た彼女達の怒りは歯止めが効かなくなった。
それがつい昨日のこと。一人で路地裏を通る支倉派閥の潔斎は、いい的でしかない。
ただでさえ暗い路地裏に、もう少しだけ影が差した。額にさっきまでとは違う冷たい汗が流れる。完全に上を取られた。覚悟を決め潔斎は顔を上げる。
そこにいたのは二人の女。氷のように冷たい視線が潔斎を突き刺す。もはや潔斎はたじろぐことしかできない。二人の女は屋上から飛び降りると、潔斎の前に並んだ。
三人を支配するのは沈黙。口を震わせながら、潔斎は能力を使って逃げようとした。しかし、そのとき片方の女の体に異変が起き始める。
長い金髪の女の額から、黒い渦が生まれ、それは時間をかけるごとに長く、伸びていった。ようやく止まったかと思うと、額には山羊を思わせるようなツノが生えている。それだけではない。女の腕はゴーレムを彷彿とさせるように変わっていた。彼女が拳を握ると、ぐりりと鈍い音が鳴った。怒りを抑えるための行動にも見えた。
ふぅ、と息を吐いた頃には、すでに体が動いていた。防衛本能なのかどうかわからないが、これが潔斎の運命を左右したと言っても過言ではない。彼女はこの行動によって報復から逃げ仰るかもしれないのだ。
潔斎の体から大量の蒸気が噴射された。100℃近い高温は、潔斎を追う二人にとっても脅威になりうる。さらには蒸気は白く漂い、視界を遮断している。視界の効かないこの状況で彼女を追うことは難しい。
「好機!!!」
紛うことなき好機だ。潔斎は後ろを振り返り走る。足が水溜りに浸かって靴がびしょびしょに濡れたとしても、足を止めることはなかった。
それからすこし、出口の光が見えた頃だろうか、後ろを追っていたはずの女たちは姿が見えなくなっていた。
「助かった、のかな?」
足を止めた。
携帯をバッグから出して、御坂に連絡を取った。内容は遅れてしまったことと状況が危ないこと。
そこからは疲れた体に鞭を打って無理やり歩いた。一度止まるともう一度走り直すのは難しい。それが疲労しているのならなおさらだ。そして、路地を抜けた。
「あら、待っていましたのよ」
また、冷たい氷のような視線が突き刺さった。さっきまでとは違う。四つなど少数ではなく、十の鋭い視線が向けられていた。今度こそは無理だと潔斎は諦めるしかなかった。
五人の女は各々の能力を手の中で転がし、遊んでいる。
「逃げられたと思ったのでしょうけど、残念。この路地は
潔斎は絶望に落ちた。逃げていると思っていたら追い込まれていたのだ。人生最悪の勘違い。彼女は手をぶらりと落としてその手を震わせていた。それだけではない。唇は青く変わり果て、膝は笑っていると言うのが正しい。
「これは報復よ、恨むなら馬鹿なことをしたあなたのお友達を恨みなさい」
この中のリーダー格であろう女——
「では最低でも、怪我をしたあの方と同じ程度の怪我は負ってもらいます」
女は手を赤い水溜りから手を抜くと、指に滴る水を潔斎に向けて弾いた。すぐに体を捻りそれを避けるが、驚くべきは避けた赤い水の威力。掠っただけなのに服には穴が空き、路地の壁に至っては、散弾銃をぶち撒かれたのかと思うほどに抉られていた。
潔斎は体から血の気が引くのを感じた。今避けられていなければ、確実に死んでいたと気づいたから。あれは、確実に過剰で——異常なんだと。
だが、神は彼女を見捨てなかった。まるで、女神のように美しい声が路地を通り抜ける。
「あ、あれぇ?道に迷ってしまったのですが、皆さんここがどこだかわかりますか?」
五人ともう一人の視線が声のした方を向いた。彼女のことはここの誰もが知っている。潔斎は同じ派閥のメンバーとして、そして五人の女達はやむを得ず報復の対象外にした少女として。
彼女は支倉派閥の新入り。歴で言えば潔斎とそう変わらない。特徴は身長の割に胸がでかいことだろうか、それとも彼女の後ろ盾が強大だと言うことだろうか。
後ろ盾が強大というのは、彼女がレベル5の友達だからだと言えばわかる。いや、レベル5の友達と言う点では潔斎となんら変わらない。
問題は、彼女の友達の能力である。精神支配。それはおそらく能力の中で最も恐ろしく、近付き難いものだろう。
「あ、あなたは食蜂さんの……!」
「え、ああ!そうです、食蜂さんの友達、
この路地は
「厄介なのが来たわね」
潔斎が追い込まれた時点でこの路地を普段通りに解放しておけば、少しだけ未来が違ったのかもしれない。
「ところで、お遊戯の最中でしたか?」
「そんな可愛いものじゃ......!」
「いえ、わかっています。お手伝いしますよ、潔斎さん」
まさに、神は見捨てていなかったのだ。
潔斎にとって、雅は今まで食蜂操祈の友達であり、同じ派閥に所属する存在という程度の認識しかなかった。
この初対面の場で言うのはなんだが、この路地に迷い込んだ時点で自身と同レベルの、あまり頭のよくない人間だと考えていた。彼女が最初に言った迷ってしまいましたぁ。なんて、完全に命の危機の迫るこの状態には似合わない発言だ。
しかし、雅が口にした次の言葉は、潔斎の心を不意に震わせた。その変わり果てた態度に対して、敵の視線も戸惑いを隠せなかった。雅が意図的に披露した間抜けな振る舞いは、相手を欺くための巧妙な手法だったのだろうか。
「いえ、わかっています。お手伝いしますよ、潔斎さん」
その強気な姿勢に、潔斎も自信を取り戻していった。
「五人に対して二人で何かできるとは思えないけど」
潔斎がその言葉を口にすると、雅も無言でそれを受け入れるように微笑んだ。潔斎にとっては予想外の賛同に、彼女は頭に血が登る思いだったことだろう。雅はそれに気づいたのか、嫌味のない笑顔で言った。
「全て任せてください」
清々しいその笑顔にペースを崩される。潔斎は信じられない言葉に落胆するが、自身が何もできない現実を受け入れざるを得なかった。命運を雅に委ねることを渋々と了承したのだ。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
雅が潔斎の腕を掴んだ瞬間、二人の姿が消える。
驚きに顔を染めた
(思ったよりも上手く行きました!)
「まさか私の能力にこんな使い方があるなんて」
それを見下ろすように、路地の壁の上に二人の姿があった。
この壁を登ったのは他でもない、潔斎の能力によるものだ。普段は体全体から出していた蒸気を、足に集中させることで浮遊、さらにはある程度の飛行をやってのけたのだ。蒸気に関してはどうやら、土煙に紛れたらしく、誰も気づいていなかった。
こんな考えが思いついてしまうのは、やはり常盤台の異端児であるからなのかどうなのか。潔斎は雅の思考回路が気になって仕方がなかった。
「今回ばかりは、私の能力がパッとしないもので助かりましたねぇ」
そして、潔斎の能力により空を飛べたとしても、姿が見えていれば良い的が完成するだけだ。
それを解決したのが雅の能力——
見えるという事象には、光が物から反射して目に入る必要がある。逆を言えば、反射した光が目に入らなければ見えないと言うことになる。
潔斎と雅から反射された日光を空に向けて曲げるだけで、二人の姿が消えたように見えるわけだ。
「派手じゃないけど、ヤバい能力ってわけだね」
「ここからはバレないように、静かにここを逃げましょう」
ここまで来たからと言って安心してはいけない。油断は禁物、大きな音を出してバレたら元も子もない。二人は忍者のように、抜き足差し足忍び足で建物の上を歩いて行った。
水鏡派閥の彼女たちが困惑のまま話し合う姿が見えた。全てにおいて、雅の考えが相手を上回ったのであった。
学舎の園にある高級カフェから、騒ぐ声が聞こえる。聞く側によっては喧嘩とも捉えられてもおかしくないそれは、潔斎と雅からすれば仲のいい少女が戯れてるように見えてしまう。
「ねぇ雅さん、二人ってこんなに仲良かったの?」
「んー。いつも通りですねこれ」
これがいつも起きているのかぁ。と肩を落とす潔斎であるが、対する雅は母性のあふれる顔で戯れ合う二人——御坂と食蜂を見ている。
なぜこの四人が一堂に会しているのかというと…………。
♦︎
路地から問題なく逃げ果せた二人は、各々が目的地に向かうことになった。もちろん二人は別れて別々の方向に向かうはずだったのだが、潔斎の少し後ろを雅が付き纏っていた。
「えっと、雅さんもこっちに用があるの?」
「はい!」
潔斎が声をかけると雅は簡単な返事をして、もう少しだけお話しできそうです。と嬉しそうに言うのだから、潔斎は無碍にもできなかった。
カフェに着いたのはもう数分経った頃。もともとカフェ向かう近道の路地裏で襲われたのだから、逃げ回ったとてそこまで離れることはない。
まだ、御坂の姿は見えなかった。
〈美琴ちゃん変なメール送ってごめん。もう解決したから〉
御坂にメールする潔斎の隣には、何故だか未だ雅がいた。潔斎は色々と勘繰るものの、答えもなにも見つからない。
揶揄っているのかと勝手な解釈で落ち着こうとしたそのとき、
「「心配かけないで!」」
カフェに突っ込むように入ってきた誰かが叫んでいた。視線を向けると、自分が待っていた少女だと気づく。御坂は明らかに怒りの表情をしていた。そして何故か隣にいる食蜂も同様に。
(あぁ、そういうことか)
態々私たちを探してくれていたんだと気づいた。とんでもなく申し訳ない気持ちが溢れ返る。
「ごめんなさい」
素直に謝った。続く怒りの言葉を待つが、沈黙が続いていた。
「本当に心配したんだから。何かあったら私に言いなさいよ」
顔を上げると、悲しそうな顔をした御坂が目に入った。目に涙を溜め込んで、懇願するようにこちらを見ている。
だけど、派閥間の争いに二人のような無所属の人間を巻き込んではいけない。それが暗黙の了解として存在しているのだ。
「え、なんでわかってない顔してるの?」
それを伝えたところで、二人のような人間には聞き入れてもらえない。
「そんなの友達見捨てる理由になんないでしょ?」
「こればかりは認められないわぁ。友達に危険が及んだのに、派閥に入ってないからなんて言い訳通じないんだから」
(ほんとに、レベル5は何もかもが私たちと違う)
潔斎は声を出すことも出来なかった。呆れているとはまた違う、不思議な喪失感。今度は潔斎が涙を流してしまいそうだった。
「美琴ちゃん、みんなの迷惑になっちゃう。ほら、食蜂さんも」
周りの視線に気づいたのか、2人は顔を赤くして姿勢良くソファに座る。さっきのことがあったので今更ではあるが。
(ぐぬぬ、やっぱ美琴ちゃんも食蜂さんも可愛いなぁ!!)
潔斎の頭の中では2人のカップリングが作り上げられている。その頭の中を、今回は特別に紹介することができるらしい。。。。
「御坂さん、こ、これ、プレゼントよ」
「な、なによ食蜂、あんたにプレゼントなんて頼んでないんだけど」
「私だって渡したくないわよ! で、でも、今日誕生日でしょ?」
「そうだけど。それで? プレゼントってなによ、あんたなんも持ってないじゃない」
「や、やだ、言わせないでよ」
「からかってるの? 私はプレゼントが何か聞いてるの」
「わ、わかったわよ! 言うから! 引かないでね」
「な、なんで涙目なわけ? 私にプレゼントを渡すのがそんなに.......」
「わ、私よぉ、プレゼントは私。不満は言わせないわぁ」
「な、食蜂頭でも打ったの? 急に服なんか脱いで」
「だからぁ! プレゼントは私なのぉ! いいから貰いなさい!」
「し、食蜂.....」
「御坂さん、誕生日おめでとう」
「わかったわよ。貰えばいいんでしょ貰えば! 食蜂、いや操祈!」
「み、美琴さぁん.......」
「雪紫? 顔が赤いけど」
「えっ」
名前を呼ばれて幻想から引き戻される。私はまた中学生丸出しの妄想をしていたのか。最後の最後でいい話を台無しにしてしまった気がする。
「いや、なんでもないよ美琴ちゃん。うん、美琴ちゃんが食蜂さんとあんなこと........いやなんでもない!」
もはや最後まで言いかけたけど、なんとか持ち堪えた。三人の視線が少し痛いけど、全然大丈夫。私は全く問題ない!
「御坂さんのお友達は面白い人が多いわねぇ」
「いやあんた、雪紫以外知らないでしょ」
「まあ御坂さんに友達はいないものねぇ」
また戯れ始めた。その間に、私は頼んでいたサンドイッチと共にコーヒーを飲み干して腹を満たした。
雅さんは美琴ちゃんに聞いた通りあわあわしてて、面白い人だった。
なにはともあれ、美琴ちゃんに友達ができた。その事実が私には幸せだった。
それは、雅も同じ気持ち。
「食蜂さん、お友達ができてよかったですねぇ」
「「誰が友達よ!!!」」
ここまで息が合っているのだから、もう認めてもいいのではないだろうか。
なんのプライドなの? そんな言葉が頭にひらめく。
多少の罪悪感を苛まれつつも、また、妄想の世界へと連れていかれる潔斎であった。