ジャッジメントですの!に転生したけど おねぇさまぁ!した方がいい?   作:ゆうてい

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一章 とある科学の心理掌握 1部
大切な親友


「病院のご飯でコシヒカリが出るなんて、いい時代になったものねぇ」

 

 そう呟いたのは、食蜂操祈。学園都市でもわずか七人しかいない超能力者《レベル5》のひとりである。

 中学生らしい、どこか幼さの残るスタイル。だが、病院の病衣を《ほんの少しだけ》ふくらませるその身体には、微かに女の子らしい色気も漂っていた。

 

 そんな自分を少しでも大人びて見せようと、わざとらしく放ったのが、先ほどの台詞だった。

 

 そのまま睨むように見つめたテレビには、つい昨日起きた謎の大爆発のニュースが流れているだけで、特に気になる情報は見当たらない。彼女が眉をひそめたのも無理はなかった。

 電源を切ろうとしたそのとき、扉の向こうから音がした。

 

「失礼します」

 

 扉が静かに開き、姿を見せたのは、一糸乱れぬ制服と律儀な姿勢が印象的な少女だった。長い薄紫の髪の毛を縦ロールに巻いた、礼儀正しく一礼してから病室に入ってくるその姿は、どこか軍人じみてすらいる。

 

「……どうして、こんな怪我をしてしまったのですか?」

 

 ベッドのそばまで来ると、少女ーーーー帆風順子は少しだけ顔を曇らせ、操祈の包帯だらけの腕に視線を落とした。

 

 「ふうん、心配してくれるの?」

 

 操祈はベッドの上で体を少し起こしながら、にやりと口の端を吊り上げた。

 

 「でも、その顔……犯人を詰問しに来た警察官、みたいよ?」

 

 その声音にはどこか楽しげな響きすらある。だが、順子の表情は変わらない。

 

 「いいえ、私はただ……あなたが巻き込まれたのではなく、自分から関わったのではないかと、そう思っただけです」

 

 操祈の目が、わずかに細まった。

 思い出す。上条当麻と出会ってからの日々を。

 人生の中でも1、2を争う幸せの日々を。

 

 

 


 

 

 出会いは知人を介してだった。白井黒子という友達に呼ばれて行ったところに彼はいた。

 

『えっとぉ、初めましてぇ?食蜂操祈よぉ』

 

『あ、あぁ、俺は上条当麻ですぅ?』

 

 正直に言って、友達の友達というのはかなり気まずいものがある。お互いに変な空気のまま挨拶を交わした。

 私たちを会わせた張本人はジト目で見てくるし、どうするのが正しいのかわからなかったというのもある。

 

『なんですの、そのだらしない挨拶は』

 

 熱血教師なのぉ?という言葉は飲み込んで、仕切り直して挨拶をもう一度した。どうやらこの()()()()男は上条というらしい。

 上条は不思議な髪型をしている。まるでウニのような見た目だ。話を聞いてみると、毎朝ワックスでわざと一本一本丁寧に立たせているらしい。

 うん、ダサい。鼻で笑ったのは黙っておこう。

 

『今、鼻で笑ったよなぁ!?』

 

 バレていたが無視をする。知らんぷりだ。

 

『無視ですかそうですかそうなんですね!』

 

 決して、鼻で笑ってなどいない。心の中で嘲笑っているのだ。

 

『う、なんだかもっと嫌なことを言われた気がする……』

 

 なんて勘が鋭いの!?

 

 


 

 

 1

 

 

『きゃあ⁉︎』

『わっ、悪い‼︎』

 

 セミのうるさい真夏、8月の炎天下。特に用事もないのに歩いていた交差点。

 

 バラバラバラ!と乱雑な音が響き、荷物がアスファルトに散らばる。理由というのも、人の流れを逆行し走っていたツンツン男(前に話題になったおでんツンツン男ではない)が華奢な少女、食蜂操祈とぶつかってしまったからである。

 

 ぶつかった相手は、食蜂よりも二歳年上の男。彼女は目を凝らしてよく見るとその男が知人であることに気づいた。

 彼は四つん這いのような恥ずかしい格好で手早く荷物をかき集めていた。それを食蜂に押し付け、謝罪する。

 

『本当にごめんさい、急いでたんだ!って食蜂か』

『えっ、なによその残念そうな反応はぁ!!』

『すまん!怪我がなくてよかった!とにかく急いでんだ!』

『えっ、あ? ちょっとぉ……!』

 

 彼女の怒りに返答はなかった。

 ツンツン頭の男こと、上条当麻は彼の荷物をかき集めてから、走り去って行ってしまった。渡っていた横断歩道は青色が点滅を始めていたので渡り切った。

 

『……あら?』

 

 抱えた荷物の中に、明らかに食蜂の私物ではないものが入っていた。

 安物のケータイデンワーだ。持ち主の名前は携帯を開かなくてもわかる。これは上条当麻の携帯だろうと彼女は推測できた。これは彼が前に踏み潰しかけた携帯と同じ機種で、さらにストラップは趣味の悪いウニだ。極め付けは、電源を勝手に点ければ、画面には上条と、彼に少しだけ似ている少女。

 食蜂は後ろを振り返ったが、真っ直ぐの道にはもう彼の姿はなかった。

 

『どうするのよぉ、これ』

 

 風紀委員として大丈夫なのかとは思いもしたが、黒子とパートナーならば、なんとかなっているんじゃないかと思い、返すのは遅れた。

 

 

 

 

 2

 

 

 何となく、人と会いたくなくなった。 

 

 汗でシャツが肌に張り付く最悪な熱帯夜。もう慣れて迷うことも無くなった学生街をぽつぽつと歩き、人のいない方へと吸い込まれていく。より静かな方向へ、より気配のない方へ。学区を跨ぎ越え、気づけば暗い静寂の中に包まれていた。

 歩き回ってやっと見つけた土を被った看板には、見えづらい字で第21学区と書かれていた。学園都市には稀にしかない自然の残る場所で、そこそこ厳しい山が聳えている。ダムや人工湖などの超貴重な水源や天文台などが並ぶ、学生には全く無縁の学区だ。

 

 それでも彼女の足は止まらない。

 歩みを進め、延々と続く山道を歩く。森に囲まれているからか、心なしか冷涼な道だ。不思議なことに、虫は気配すら感じられなかった。

 彼女が最後にたどり着いたのは、何個かある山の1つ、その山頂部分。直径50メートルを超える円形の人工湖だった。

 真円の湖の中央には金属の塔が建てられており、その周囲はコンクリートで敷き詰められているのが水面に浮かんで見えた。

 

 木の葉に隠れていた日もようやく暮れて、夜空には綺麗な月が出ていた。うさぎが餅をつく様子がよく見える。彼らほどまで忙しくはなりたくないものだ。

 学生寮の門限はとっくに過ぎていた。寮監もとい白井(友達)お母さん(勝手に娘になった)は大騒ぎしているだろう。もしかしたら、白井まで連絡が飛んでいるかもしれない。

 

 楽しい。みんなとの語り合いが、遊びが。一緒にいる時間が。

 でも、何かが違う。食蜂操祈はそういうのがめんどくさくなっていた。白井たちや帆風に頼まれればやる気は出るが、それ以外の人間とは顔も合わせたくなかった。

 

『んにゃ〜〜〜』

 

 ころりと、湖の周りの緑に寝転ぶ。太ももの大部分が見えるほど短いスカートを気にもせずに。ちなみに猫の鳴き声を出したのに意味はない。伸びをしたら勝手に出ていたのだ。

 ハンドバッグからテレビのリモコンを取り出し、それを手の中で弄ぶ。そうしながら、食蜂操祈の頭の中で、彼女へのいたずらがぐんぐんと膨らんでいく。まるで、受精卵が細胞分裂を繰り返し、成体へと成長していくように。

 

 自身にとって大き過ぎるといって良いまで存在であるいつものメンバー。彼女たちと関係切るようなタイミングば既に遥か彼方。いつまでも続けていきたいと思っている。

 関連し、秘匿性が高いかもしれない彼女、白井黒子の件については、不本意ながら調べがつかなく、ひとまず休憩中である。

 

『なんていうか、疲労力っていうか、ずうぇーんぶめんどくさくなっちゃったわよねぇ』

 

 記憶。

 思い出。

 人間関係。

 それらすべて。

 なくても変わらないように感じた。

 いや、私なんかには不釣り合いなものなんだ。

 

 彼女はくるくると回していたテレビのリモコンを、儚げな手でゆっくりこめかみにあてた。その行為はまるで、銃で己の命を絶とうとしているかのように見えた。

 

 230万分の7の存在であり、当然ながら人命を軽んじている研究者に振り回される事も珍しくはない。そうした陰謀蔓延る場所に対処する忙しい毎日の中では、こんな感じに考えられるような暇はなかった。

 こうした時間に存在した食蜂操祈が現状の自分を見てしまえば、それこそ激昂してリモコンを鷲掴み、人格を改造してでもこんなバカなことはさせないだろう。自分を大切にしなさいと。

 

 だから、これは『魔が差した』のだ。

 五月病、適応障害のように気が緩んで、気が抜けていたのだ。

 そうでもなければ、絶対こんな言葉は口から出ないから。

 

『一度、頭の中、まるっきりリセットしちゃおうかしら? そうしたら、こういうの、まとめて取り除けるかしらぁ……』

 

 わざわざ口に出すことではない。食蜂はこんなことをまず思うはずがない

 

『なにやってんのかしらぁ、黒子ちゃんの秘密を暴いて見せるって決めてたのに』

 

 食蜂は何も面倒だと思っていない。疲労もしていない。彼女には大切な、素晴らしい、最高の親友がいるのだから。

 

『何を言ってるのかしら、恥ずかしいわぁ』

 

 食蜂は赤面状態である。自分で思っていて恥ずかしいことが何度も何度も頭で回っている。友達、大切、最高、忠誠。自分には少しもったいないかもしれないが、そんなものを持ってきてくれた彼女たちに感謝しよう。これからもずーっと一緒に進んでいく親友、仲間達を。

 

 

『ふふふ、結構なことが言えるのねぇ私ったらぁ』

 

 

 ♢

 

 

『あれ?お前、そんなトコで何やってんだ?』

 

 男の声があった。聞き覚えはかなりある。つい先日もぶつかったし、その前から遊んだりしていた彼の声だ。さっき言った、親友、仲間だと思っている人のうちの一人でもある。普通、そんな人が来たらどう思うのだろうか。

 

 やっばいわよぉ!親友とか仲間とか言っちゃった人よ!?どう顔を合わせればいいのかわからないわぁ!はっずかしい! 

 

『ななな、なん、何でもいいでしょぉ…………』

 

『いやいや、俺は風紀委員だぞ?黒子に言われたんだ、まだ寮に帰っていないらしいって。黒子曰く、義母様は今沸騰しているらしい』

 

『へ、へぇ!そうなのね!あ、これあなたの携帯!黒子ちゃん呼んですぐに帰るわぁ!!!』

 

 沸騰ってなによ!顔真っ赤で怒ってるだけじゃないの!?

 いやでも、寮監ならありえそうで怖いわね。

 

 

『あ、食蜂が持ってたのか!見つかってよかったぁ』

 

 上条は走り去っていく食蜂操祈に感謝を伝える。そして、携帯を開き食蜂にメールを送る。

 

《あんなに大の字で寝てたからパンツ丸見えだったぞ〜》

 

 

 

 

 

 黒子ちゃぁ〜〜〜ん!! 今すぐ戻ってェェェェェ!! 

 

 

 いやですのおおぉぉぉ!! 私まで怒られてしまいますのおおぉおぉぉ!! 

 

 

 どいて!! 上条殺せない!!! 

 

 

 何てこと言うんですのおぉぉぉぉおぉ!!! 

 

 

 あいつ私のパンツ見たのよおおぉぉお!! 

 

 

 そんな短いスカートじゃ当たり前ですの!!!! 

 

 

 本人に言うってデリカシーないよあの男!!! 

 

 

 本人じゃなきゃいいんですの!?!??? 

 

 

 そういうわけじゃなぁぁ〜〜〜い!!!! 

 

 

 

 

 夜中の学園都市に、とても大きな声が響き渡った。

 

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