ようこそ請負人のいる教室へ   作:型破 優位

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評価を沢山いただきまして、感激しております。
テンション上がってなんだかんだで投稿しちゃってます。


日常

 テストまで残り一週間を切った。

 あの後すぐにテスト範囲が変更されていることを確認できたらしく、感謝の言葉と以降定期的に連絡が櫛田から届くようになった。

 申し訳ないことに全て未読無視しているが、毎日送ってくるあたり琴線に触れる何かがあったのだろうか。それなら先日の件は成功だ。

 ちなみに綾小路と堀北は一切連絡をよこさない。

 こちらからも用がなければ送らないため、あれ以降の連絡は一切ないのが現状だ。

 でも今はこれで良い。

 

 Aクラスでも動きがあった。

 まずは坂柳。

 彼女はどうやら早い段階から一つの『答え』に辿り着いていたらしいが、葛城の動向を見るために勉強会は行っているみたいだ。

 その葛城も恐らく気が付いてはいるのだろうが、確信を持てないのか何かを見落としているために決め手が欠けているのか、その『答え』を使わずに素直に勉強会を行っているようだ。

 お互いがお互いに勉強会を行っているが、それを受けている生徒の顔が余裕か真剣かは一目瞭然だった。まあどちらにしても退学者が出るようなクラスでは無いためどっちでも良い。そもそも『答え』は基本的に勉強が苦手な生徒に対しての救済処置であり、各クラスにとってもこれからの学校生活における前座程度の意味にしか過ぎない。

 そう思っていたのだが、この展開は少し予想外だ。

 

「まさか葛城が『答え』を買いたいとはね。どういう風の吹き回し?」

「坂田が持っている情報ならこちらも信用できると判断したまでだ。それで、いくらだ?」

 

 場所は特別棟。

 授業も終わり帰りの準備をしていたところで葛城が声をかけてきたのだ。

 いくら気がついているとはいえ、堅実派の葛城がこれに手を出してくるとは少し意外だった。

 テストが残り三日に迫ったから。

 それも理由の一つではあるだろうが、恐らく一番ではないのだろう。

 あの警告が思った以上に効力を発揮したのか坂柳の動きを不審に思っているのか、どちらにしろ根幹には安定思考があるのは間違いないと確信できる。

 

()()()()()()()()()というものを買いたいんだよな?」

「ああ」

「そうか。それなら4万だ」

「支払おう」

 

 二つ返事でポイントが送付される。俺は端末に四万ポイント入ったのを確認して葛城に綾小路達と全く同じ資料を渡した。

 

「それを見れば分かるだろう」

「これは……二年生と三年生が一年生の時の一学期中間テスト。それと小テストか」

 

 これが今回テストを乗り切る『答え』だ。

 

「全く同じ問題だろ? 小テストの極端に簡単な十七問も、極端に難しかった終盤の三問も今回のヒントだったってことだ」

 

 恐らく葛城に足りなかったピースは小テストだろう。過去問を使うという手は普通の人にも思い浮かぶが、例えそれで二年生と三年生のテストを買ったとして、今年も同じ問題だねと決められるかといえばそうもいかない。

 あと一つ。

 答えが毎年同じというヒントになるその一つが葛城には無かった。

 

 故に面白くない。

 値下げ交渉をして欲しかったのが本音だ。

 テストは持っているから小テストだけ欲しい、という交渉なら5000ポイント程で済ませたのに。

 

 ちなみに坂柳も俺からテストを買ったが、理由は葛城よりも単純かつ明快だ。

 ただただ貰いに行くのが面倒だから1学年分のテストだけ買う。

 これだけ。

 しかしその一言だけでも、坂柳は一つの『答え』に辿り着いていると理解できるものだ。

 よって坂柳には8000ポイントで売った。

 

「まあ自由に使ってくれ」

「そうさせてもらおう」

 

 これで依頼は終わりらしい。

 まあ中間テストでこれ以上の利益は見込めないだろうし、初のイベントごとではこんなものか。

 二年生と三年生からそれぞれ2万ポイントでテストを購入したが、支出4万に対して結果的に5万8000ポイントが返ってきた。ポイント的には今回マイナスになると思っていたが蓋を開ければ黒字収支だ。

 高く買わせる予定だった綾小路達には安く売ってしまったが、その分得られた情報があるので勿体ないとは思わないし、逆に買うと思ってなかった葛城に高く売りつけられたのでポイント的にも美味しい。

 それと二年生、三年生になると生まれる()()なども確認できた。

 前段階の試験であるが故の自由性が有利に働いたおかげだな。

 

「ところで坂田、一つ聞いても良いか」

「内容次第だけど、聞くだけ聞くよ」

「俺みたいにテストを買った奴は他に誰がいる?」

「残念。教えられないね」

「ポイントを払う準備もあると言ったらどうだ?」

 

 まあこうやって言ってくる奴がいるのは必然だ。

 お金を払えばなんでも教えてくれる。

 そう考えているのなら、俺に対する理解度が圧倒的に足りていない。

 

「顧客情報は守秘義務があるからね。ポイントでも買うことはできないよ」

「そうか」

 

 これが学校なら分からないが、俺個人のことは俺の匙加減で決まる。

 ポイントを支払う準備があると言っていたが、恐らく買うつもりはなかっただろうな。

 むしろその逆。

 葛城が俺から買ったことを秘密にするのかどうかの確認程度だろうか。

 それならまだ良いのだが。

 

「それにしても意外だね。葛城ならあのメールがどういう意味か聞くかと思っていたんだけど」

「聞いたら教えてくれていたのか?」

「さあどうだろうね。そこは自分で考えてみなよ」

「ならば聞かない。警告文であることはしっかりと理解している。そのために今日はポイントでテストを買ったのだ」

「納得できたようで何よりだ。俺はこの後別の人とここで待ち合わせているから先に帰ってくれ。健闘を祈るよ」

 

 思ったより理解度が高いようだ。

 それでもまだ保守的思考の範疇。

 攻めるならもう少しギリギリが好みだが、まだ日も浅いということで今は及第点ということにしてあげよう。

 俺の激励に二つ返事で頷いた葛城は、不満を残しながらもその場を後にした。

 

 

 

 

♦    ♦    ♦

 

 

 

 

 テストが終わり、六月も流れるように過ぎていった。

 この一か月で何があったかといえば、CクラスがBクラスにちょっかいをかけていたということだけだろうか。

 テストは全クラス退学者を出すこと無く終えることができた。

 ちなみに俺は全教科満点。正直見る必要は無い難易度であり、さらに答えを知っているのだから満点以外はあり得ない。

 六月は学校生活始まってようやくきた本当に何も無い月と言えた。Cクラスあたりは暗躍をしているようだが、そこまで目立っているとは言えない感じだ。

 

 そして今日は七月一日。

 五時半に目を覚ました俺はお風呂場に向かい、お風呂を沸かしてジャージに着替える。

 連絡事項等の確認のため端末を開き、違和感。

 ポイントが増えていないのだ。

 本来ならポイントが支給される日のはずだが、端末を見てもポイントが支給された形跡はない。俺の知らないところで何かをやらかしたとしても、Aクラスに限って全ポイント吐き出したということもないはずだ。

 何かしらの不備があったかクラスポイントに影響があるような事件が月末に起きたのか。今まで正常に動いてきた前者のシステムを疑うよりは後者を疑った方が良いだろう。

 

 一先ず朝の日課をやらなければならない。

 早朝ランニングだ。

 毎朝五時半に起床し、風呂を沸かして六時半までランニング。シャワーを浴びて洗濯機を回し、朝食を取って洗濯物を干すというのが一連の流れとなる。

 早起きは三文の徳なんて言葉があるが、俺もその言葉通りしっかりと恩恵を受けていた。

 

「おはよー、坂田君」

「おはよう、一之瀬」

 

 寮を出た先で待っていたのは入学してから一番プライベートな時間を共にしているであろう女生徒。

 一之瀬帆波。

 ストロベリーブロンドの長髪にスタイル抜群のプロポーションを持ち、頭も良ければ人当たりも良い、さらにはBクラスのリーダーにして櫛田同様男女クラス学年を問わない人気者という八方美人も真っ青なスペックをしている。

 俺と同じで毎朝ランニングしており、同じ寮に住んでいれば当然会う回数も増える。初回は挨拶程度だったが、三か月近くも経てば話す程度の間柄にはなっていた。

 

「坂田君、今日ポイント入っていた?」

「いや入っていない。学校全体で何か起きたか、月末にクラスポイントを増減させる何かがあったかだな」

「そっかー——また龍園君なのかな」

「考えられるのはCクラスとDクラスだな。単独で何かやらかしたか、両方で問題が起きたか。俺の知らないところでAクラスがやらかしている可能性もあるけど」

 

 龍園はCクラスのリーダー格の男子生徒だ。

 恐怖によってクラスを纏め上げた暴君であり、一年生で最も目立つ行動を起こしている人物だろう。だが頭も良く回り、完全な証拠が残るようなことは一切しない。

 

「どちらにしろ支給されると言っていた日に支給されていないんだから、何かしらの連絡があるだろうね」

「そうだね。でも茶柱先生は言うのかな? 新しいテスト範囲も言ってなかったんでしょ?」

「一之瀬はわざとだと思っているのか?」

「うん。忘れていたというよりはあえて言わなかったって感じかな。理由は分からないけどね。坂田君は?」

「俺もそう思う。だけど聞かれたら答える人だとは思う。ポイントが入っていないなんて皆が気にする部分だから質問も出るだろうし、普通に答えるんじゃないかな」

「それもそっか」

 

 本来俺と一之瀬のランニングコースは違うのだが、一之瀬が俺にコースを合わせているため行きも帰りも同じだ。一般的に見ても確実に美少女の部類に入る彼女と毎朝ランニングできるのは勿論嬉しい。

 恋愛感情ではなく、純粋に男として眼福というのだろうか。

 普段のランニングより確実にペースを落としているが、その分情報が手に入るので気にしない。

 一之瀬のペースで片道三十分のコースを往復しておよそ一時間。

 六時半には寮に着くようにしている。

 一之瀬と別れたらジャージを含めて洗濯機に入れ、スイッチを押したら浴室に入って汗を流す。

 およそ二十分で出てお風呂を洗い、朝食を作る。ご飯は前日に炊飯器の予約を入れているため既に炊き上がっており、目玉焼きやウインナーといった朝の定番的なおかずとインスタントの味噌汁で完成だ。

 本来の一人暮らしなら洗濯機も回せないしご飯は大量に作り置きが必要でお風呂のお湯も取っておくのだが、この寮は全てが無料のため何一つ気にする必要は無い。

 

 朝食を終えたら洗濯物を干し、制服に着替えて学校に向かう。

 学校には特に待ち合わせて行く人もいないが、他の人に比べたら比較的早い時間に登校しているだろう。

 だが今日はいつもより人が多かった。

 恐らく皆ポイントの件で気になっているのだろう。

 俺が教室に入るとそれなりの視線が集まった。

 坂柳や葛城から俺についての話を既に聞いているのだろう。

 俺なら何かを知っているはず、という期待を込めた視線が向けられている。

 しかし残念かな、今回については俺も何が原因かは知らないのだ。

 

「おはようございます、坂田君」

「おはよう、坂柳」

「教室の雰囲気でもう分かっていると思いますが、坂田君はポイントが支給されなかった件について何かご存知でしょうか」

「いや全く。だけどある程度予想はできる」

 

 坂柳はこの問題には別に興味が無さそうだ。

 いや興味はあるが、それ以上にこの問題に対して俺がどのように動くかに興味を持っている。便宜上興味が無いように振舞っているのか。

 自意識過剰とかではなく、そういう()をしていた。

 

「原因はCクラスで間違いないと考えている。そしてその対象は高確率でDクラス、低確率でBクラス、大穴でAクラスだ。大方Cクラスがちょっかいを出して揉め事か何かを起こしたんだろうな」

「ポイントを払ってはいませんが、宜しいのですか?」

 

 心底驚いた、とオーバーにリアクションをしながら聞き返すその様は、分かる人には煽っているのだと分かる程度に凄みを持っていた。

 事実として俺も軽く小突いてやりたくなる程度にはイラッときている。

 俺はそんなに金の亡者に見えるのだろうか。

 

「なんでもかんでもポイントを要求するわけじゃない。今回話しているのはあくまで予想だ。しかも坂柳はそこまで興味ないだろ」

「はい、ないですね」

「じゃあ話の途中だけどここまでだ。不利益になるようなことはしないから安心しなよ」

「坂田君の話には興味がありますね。折角無料で聞けるのですし」

 

 イラつき3割増の笑顔だ。

 疾患があることを知らなければ軽いチョップぐらい出していたかもしれない。

 まあしないけども。

 

「その揉め事だけど、昨日起きた事なら分からないがそれ以前に起きた事なら場所は監視カメラが無い場所に限定される。昨日以前に起きた事ならたとえば——CクラスがDクラスの生徒を監視カメラの無い場所に呼び出して、喧嘩か何かが起きた、とかかな? それをどちらかが学校に訴え出たが監視カメラがないため判断が出来ず、結果プライベートポイントが給付されなかったという感じかな」

「予想という割には具体的ですね」

「俺がもし相手を貶める依頼を受けたら最初は似たようなことを使うからな」

「坂田君は意外と過激な考え方をお持ちなんですね」

「お前に言われたくない。まあ俺としては監視カメラが無いところでの事件だったらかなり都合が良いんだけどな」

「それは―――いえ、なんでもありません。それ以上は教えてくれませんよね」

「正解」

 

 ホームルームの鐘と共に、担任である真嶋が入室してきた。

 手には大きな紙がある。

 恐らくクラスポイントの書かれている紙だろう。

 ポイントについて誰かが聞かなければ質問しようかと思ったが、どうやら真嶋もその浮足立った雰囲気を察したようだ。

 誰が聞かずとも開口一番にポイントについて話をしてくれた。

 

「皆も気が付いていると思うが、今回少しトラブルが起きて一年生のポイント支給が遅れている。トラブルが解消次第ポイントの支給が行われるため、申し訳ないが少し待って欲しい。では次に、クラスポイントの発表だ」

 

 手に持っていた紙を広げて黒板に張り付けた。

 Aクラスのポイントは、1004ポイント。

 Bクラスが663ポイントでCクラスが492ポイントと続き、Dクラスが87ポイント。ポイントが支給されていないということは、まだ確定ではないということだ。

 それにしてもCクラスとBクラスのポイントの増加があまりにも少ない。一之瀬は軽くちょっかいを出されている程度だと言っていたが、思ったよりも酷いみたいだ。これは今回の問題を起こしているのはBクラスの可能性も多少は出てきたな。

 増加量はDクラスが一番多いが、彼らはテスト終了まで0ポイントだったため恐らくそれまでマイナスポイントがない。つまり六月分のマイナスが存在しないため他のクラスよりも増加量が多いのだろう。

 マイナスポイントは存在しないというあまり要らない情報が手に入ってしまった。

 

「一年生には中間テストを乗り切ったご褒美として最低100クラスポイントが支給されている。この調子でこれからも頑張ってくれ。以上だ」

 

 どうやら学校側も何が起きたのかは話してくれないようだ。

 しかし普段クラスに関わることなら何かしらの含みがある発言があるはずなのだが、今回はそれが無かった。Aクラスは関係ないということか。

 どちらにしろ確認すれば良い。

 ちょうど()()の時間も頃合いだ。

 




名前 坂田 真緋瑠(さかた まひる)
クラス 1-A
学籍番号 S01T004735
部活動 無所属
誕生日 8月3日(しし座)
身長 179cm
体重 71kg

 評価

学力 A
知性 A
判断力 A-
身体能力 A
協調性 D

《面接官からのコメント》
 学力、身体能力共に秀でており、過去の卒業生と比較しても非常に高いポテンシャルを保持している。損得勘定で行動している節があり協調性に欠ける面が見られるが、それを補ってあまりあるポテンシャルを秘めているためAクラスとする。

《担任からのコメント》
 初日からSシステムについて気がついている節があり、中間テストにおいても全教科満点と非常に良い成績を残しています。また二分化しているクラスにおいて両者の橋渡し的な役割を果たしているため、今後クラスが団結していく中で中心として動いてくれるよう期待しています。しかし友人関係は築いていても一歩線を引いたところにいるため、気の置けない友人ができるよう願っています。
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