ようこそ請負人のいる教室へ   作:型破 優位

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氷山の一角

 特別棟で坂田達と解散したオレ達はそのまま寮へと戻った。

 堀北とも今日は一度解散して明日から本格的に動き始めよう、そう思ってエレベーターを降りると、堀北も何故か一緒に降りてくる。

 オレに何か話があるのだろうか。

 そのまま部屋までついてきた。

 

「お邪魔するわね」

 

 誰もいないのに堀北は律義にそう口にして、部屋へと上がった。

 断られるという選択は無いのかズカズカと奥まで進んでいくその様はまさしく暴君に相応しいが、何か話したいことがあるのは確実だろう。

 あの堀北がただ寛ぐためにオレの部屋に来ることは絶対にない。

 お茶ぐらいは出した方がいいのだろうか。

 

「それで要件は何だ? 長くなるようならお茶でも出すが」

「そうね、お願いするわ」

 

 長くなることが確定した。

 いや堀北は傍らから見ればかなり整った顔立ちをしているし、二人きりだから緊張していないと言えばウソになるが変な期待は持たない。

 だってあの堀北だしな。

 コップ二つにお茶を注ぎ、部屋まで持って行く。

 

「それで話はなんだ?」

「須藤君の件、綾小路君はどのように考えているのか改めて聞かせて。それに櫛田さん達がどう動いているのかも少し気になるわね」

「状況が気になるなら最初からメンバーに参加すればよかったんじゃないか?」

「それはできない相談ね。私は彼自身を認めていないもの。クラスのために仕方なく手を考えているだけ。遠慮なく言うなら、見放していいとさえ思っている」

「確かに須藤は前回の中間テストもギリギリだったな。だがそれで見放すという選択はあまりにも早計だと思うぞ」

「彼は一度痛い目を見た方が良いわ。それでもし退学ということになれば、彼はその程度だったというだけよ」

 

 それが現実だと言い放つ。

 その眼には迷いの一つもない。

 この思い切りの良さは堀北の美徳でもあるが、今の堀北においては毒にしかならないな。

 

「退学によるペナルティが分からない以上、迂闊に退学者を出す考え方には賛同できない」

「マイナスポイントは存在しない。それはこの前証明されたはずよ」

「だが退学によるペナルティは証明されていない。違うか?」

 

 退学者を出したクラスのペナルティはどのクラスも知りたがっているはずだ。

 あるいは既に知っている人もいるかもしれない。

 

「無実は勝ち取れなくても停学に留めるぐらいで、退学は避けるべきだと思わないか?」

「……貴方、最初から分かっていたのね。無実を勝ち取ることが難しいことも、須藤君の欠点が招いた事件だという事も、須藤君には反省してもらうためにも罰が必要だという事も」

 

 堀北の視線が訝しむようなものへ変化した。

 オレと自分の考えが同じだということにしたいのだろう。

 着実に包囲網が形成されてきている気がするがまあいい。

 

「堀北がAクラスを目指すなら、須藤の身体能力は役に立つはずだ。身体能力も実力のうちだろう?」

「具体的にどのように役に立つのか教えて欲しいわね。まさか体育祭なんて言うつもりはないのでしょう?」

 

 貴方に示せるのかしら、という挑戦的な目で問いかけて来る。

 だが残念かな、俺はその答えを持ち合わせてはいない。

 

「さあ、オレは知らない」

「話にならないわね」

「だが()()()なら知っているかもしれないぞ」

「……なんですって?」

 

 ただでさえ目付きが悪いのに、その睨むような表情で怖さ三割増しだ。

 顔が整っていると怒っている顔も怖くなるというのは本当らしい。

 俺は携帯を取り出し、電話をかける。

 相手は二コール程で出た。

 

『もしもし? まさか綾小路から電話が来るとはな』

「坂田か。悪いな急に電話して。今大丈夫か?」

『大丈夫だがどうした?』

 

 スピーカを押して堀北にも会話が聞こえるようにする。

 

「坂田。一つ聞きたいんだが、身体能力が高いヤツがクラスに役立てる場面はあるのか?」

「なんだその質問。勿論あるに決まっているだろ」

「良ければ教えて欲しい」

「ああ、良いぞ」

 

 教えてくれるのか。

 少しぐらいポイントを払う覚悟はあったのだが、どういう風の吹き回しなのだろう。

 

『代表的なのはやっぱり部活動だな。大会に出て良い成績を残せればプライベートポイントが出るし、場合によってはクラスポイントにも直結するというのは担任から聞いているだろう?』

「……いや初耳だ。坂田は担任から聞いたのか?」

 

 オレ達が聞いたのはプライベートポイントのことだけだ。

 ポイントを要求してこなかったのは既に説明されてると思ってたからか。

 

『ああ。AクラスだけじゃなくBクラスも同じ説明をされたらしいから、贔屓とかではなく学校側から与えられる情報だぞ。Dクラスの担任は情報漏れが多くないか?』

「オレもそう思う」

 

 あまりに不平等だ。

 クラス全員に多少のポイントを請求しても良いレベルだと思っている。

 

『まあいいや。とりあえず上のクラスに上がりたいなら部活動のクラスポイントは意外と馬鹿にならないぞ』

「具体的なクラスポイントは決まっているのか?」

『そこはまだ分からないが決まっているとは思うぞ。んで? それだけでいいか?』

「待ちなさい」

 

 どうしても聞きたいことがあるのだろう。

 あくまで静観を決めていた堀北が質問を投げかけた。

 

『いたのか堀北。どうした?』

「部活動以外でクラスポイントを増やす何かはあるのかしら?」

『そりゃあるだろ。クラス対抗なんだから』

「たとえばどういったものか教えてくれないかしら?」

『さあ、どうだろうね』

 

 ここが境界線みたいだ。

 それにしても坂田が今どこまで情報を握っているのか、非常に興味がある。

 

「またポイントを取るのかしら? 貴方ポイントには困っていないわよね。それとも溜めなければならない理由でもあるのかしら」

『ポイントの使いどころは沢山ある。あればあるだけ良いし理由を教える義理が無い。それでどうするんだ?』

 

 坂田の情報収集能力は敵に回ると非常に脅威だ。

 だからこそ可能な限り接点は持って起きたい。

 堀北もいるし、良い機会だろう。

 

「なあ坂田。情報はポイントだけでしか買えないのか?」

『よく勘違いされるんだけど、俺は対価を求めている訳でポイントを求めている訳ではない。物でも俺の知らない情報でも、その内容に見合う対価かどうか判断するだけだ』

「——質問いいかしら」

『どうぞ』

 

 ハッとした表情で問いかける。

 堀北も気が付いたみたいだ。

 

「たとえばDクラスの成績優秀者を売るとしたら、貴方は何ポイントくれるのかしら」

『平田、櫛田、高円寺、堀北、幸村、(ワン)。成績優秀者という括りならこの六人は知っている。それ以外にいるのならその根拠と共に教えてくれ。その心意気に免じて一人につき1万ポイントあげよう』

「1万ポイントでは少ないわね。これからのことを考えるなら10万ポイントはくだらない情報よ」

 

 堀北の中で10万ポイントの価値を見出しているヤツがクラスにいるのか。

 今回の事件でいるかもわからなかった目撃者を即見抜いた観察眼を持つ堀北ならもしかしたら見つけているのかもしれない。

 

『良いねぇ。俺好みだ』

「それでどうなのかしら。払うの? 払わないの?」

『残念ながら努力賞として2万ポイントだ。そいつは既に知っている』

「もし間違っていたら倍貰うけど?」

『堀北が言いたいのは綾小路だろ』

 

 堀北が悔しそうに口を閉ざした。

 本当にオレなのか。

 堀北からそのような評価を受ける覚えはないが、素直に喜ぶべきなのに堀北から言われると裏がありそうで素直に喜べないな。

 

『俺が挙げたのはあくまで成績優秀者、ということだけ伝えておくよ。聞きたいことは終わりか?』

 

 だが坂田の考えるオレというのは、成績優秀者という枠内に収まるような括りではないらしい。

 成績優秀者ではないが、オレがその六人と肩を並べられると考える根拠。

 何を持ってそう考えているのか、今までで一番興味が湧く話題だ。

 

「ああ、終わりだ。悪かったな急に電話して」

『こういった電話なら大歓迎だ。またな』

 

 しかし残念かな、今はまだ聞くタイミングではない。

 携帯には通話終了の文字が浮かんでおり、数秒後、堀北とオレの携帯が同時に鳴る。

 確認してみると、坂田から1万ポイント送付されていた。

 参加賞だろうか。

 有難く貰っておこう。

 堀北はしっかりと2万ポイント送付されたみたいだ。

 

「随分とオレを高く評価しているんだな」

「勘違いしないで。あくまで坂田君から可能な限り多くポイントを貰おうとしただけ」

「今は良くても、オレにそんな価値がないと後で坂田が判断したらどうするんだ?」

「それはあり得ないわ。貴方には命をかけてでも10万ポイント分の活躍をして貰うだけだもの」

「鬼かよ……」

 

 よくオレのことを知ってくれていた坂田。

 お前はこの鬼からオレを助けてくれた英雄だ。

 

「実際貴方はクラスで一番未知数なのよ。円転滑脱(えんてんかつだつ)無為徒食(むいとしょく)雲水不住(うんすいふじゅう)。当てはまりそうで当てはまらないものばかり」

「どれも実に微妙な例えだな。人を褒める類いで使う物じゃないぞ……」

 

 もっといい例えがあるだろうに。と、堀北はジロっと訝しむような目を向けてきた。

 

「そういうところは和光同塵(わこうどうじん)とも言えるし。一番気持ち悪い存在よ、貴方は」

 

 ……なるほど。

 今あげた四字熟語なんて知らないのが普通だったか。

 失敗した。

 

「一番気持ち悪いは言い過ぎだ。それを言うなら坂田はどうなんだ」

「彼も確かに不気味ね。でも気持ち悪いのはやはり貴方よ」

 

 おいそんなに気持ち悪いと言われたら強靭なメンタルを持っているオレでも流石に傷つくんだぞ。

 しかも本人に悪意がないところが一番恐ろしい。

 ふと、思案顔になる堀北。

 先程とのギャップは凄まじいが、顔がいいからか案外サマになっている。

 

「……ねえ綾小路君」

「なんだ」

「貴方は坂田君についてどう思うのかしら」

 

 やはり坂田も不気味なのだろう。

 きっと内心ではオレよりも不気味に思っているはずだ。

 きっとそうだ。

 

「本当の中立だな。対価を差し出せば本当にAクラスも裏切るだろう。だが当然オレ達の敵になる可能性もある」

「そうね。本当に彼がクラス対抗に興味を持っていなくて良かったと思うわ」

 

 そういう考えの持ち主は少なからずいるし、オレも興味ない。

 だが坂田の場合、本当にそうなのか。

 

「Aクラスで唯一派閥に属さない生徒。派閥に属さなくても派閥争いを生き残っていくだけの実力が彼にはあるということね」

 

 派閥に属していない。

 派閥に興味がないのではなく、それが自分の行動を制限する足枷になると考えていたら?

 堀北の決めつけは非常に不味い。

 

「本当に坂田がクラス対抗に興味が無いと思うのか?」

「どういう意味かしら」

「オレはむしろ逆だ。あいつはクラス対抗が激化していることを望んでいるように思える」

 

 今まで坂田が行ってきたことだけでも、その判断は可能だ。

 

「坂田は今Cクラス以外のクラスと関係を築いている。初めて坂田と会った時を覚えているか?」

「ええ、忘れるはずがないわ」

「あの時坂田は偶然オレと目が合ったと言ったが、実際には違う。ずっとオレ達を気にしていた」

「確かに……あの時の流れはあまりにも仕組まれたものだったわね」

 

 あの時気がつけたのは偶然だ。

 本当にたまたま目が合った際に初めて探られていることに気がついた。

 理由は定かでは無いが、最初からオレ達を狙っていたのだ。

 

「何度も言うがあいつは中立だ。今は協力をしているが、もし坂田に対価を支払って味方に付けようとするヤツが居た場合、坂田はどうするだろうな」

「……まさか、Cクラスが坂田君を味方に付けると言いたいの?」

 

 もし一之瀬が対価を支払っていなければ、坂田はCクラスにつくだろう。

 

「一之瀬に何か要求されたかを確認しなければならない。もし要求されていないのであれば、早いうちに手を打たないと取り返しのつかないことになる」

「……綾小路君、今すぐ一之瀬さんに確認しなさい」

「さっきメッセージは送った。返信待ちだ」

 

 段々と理解してきたのだろう。

 坂田という爆弾の存在を。

 あいつは恐らく、自分を火種にしてクラス対抗を激化させようとしている。

 全員が坂田真緋瑠という存在を求め、争うように。

 これはあくまで仮定だ。

 確証を持たせるための材料がオレには無い。

 オレもまだ坂田がどういう人間なのかを把握できていないからな。

 

「でもまだ彼はこの事件についての情報は持っていない。可能性は否定しないけれど、何も情報を持っていない彼がCクラスに引き抜かれることなんてあるのかしら」

「二重スパイというだけでも厄介な存在だ。こちらが何か画策できたとしても筒抜けだったら意味が無い。それにあいつの言動はあまりにも不自然だった」

「不自然?」

「思い出してみろ。何故『俺も協力する』ではなく、『俺もAクラスとして協力する』と言ったんだ? クラスに興味が無いあいつが」

 

 思い当たる節があるのか黙り込む堀北。

 おかしな話だろう。

 クラスに興味が無いやつがクラスの名前を持ち出してくるなんて。

 その理由付けも違和感のないものだったのが恐ろしいところだ。

 

「あいつはAクラスの坂田としてあの場にいただけだ。坂田個人として動いていない」

 

 考えて、坂田という人物を見極めろ。

 お前が理解しなければならない。

 本当にAクラスを目指すのなら、坂田という人間は必ず立ちふさがることになる大きな壁だ。

 スッと立ち上がる堀北。

 

「明日の放課後坂田君に話を聞くわ。貴方も来なさい」

 

 そう言い残してオレの部屋から出ていく。

 とりあえず最悪の事態にはならなそうだ。

 お前にはオレの隠れ蓑になって貰わなくてはいけない。

 せめて坂田と渡り合える程度になるまで、サポートぐらいやってやろう。

 

 

 

♦  ♦  ♦

 

 

 

 

 今日の早朝ランニングは久しぶりに一人となった。

 別に一之瀬に何かしたとか寝坊したとかいう訳では無く、一之瀬がクラスメイトから寄せられた寮に対する要望を伝え行くためランニングする時間が無かったためだ。

 だから以前のコースに戻して俺のペースで走ってみたものの、前回が三か月近くも前という事もあってとにかく暑かった。早朝で、しかも夏用のウェアにしても暑いのだから本格的に夏が来たことを感じる。

 

 だが今のルーティンは結構気に入っているし、何年も続けていることだからいまさら変えるつもりもない。朝を早めたところで空白の時間が生まれてしまうだけだ。

 結局気合と根性で暑さを耐えることに決めて、朝のルーティンを終わらせる。

 時間はいつもより十分以上遅れているが、今日は仕方ないだろう。

 普通に疲れた。

 

 寮生活ということもあり学校はとても近いため、基本的にこの時間帯に登校する生徒は非常に少ない。そして数分遅れていようと対して差は無いほどには、俺の登校時間は早かった。

 しかし例外というものは存在する。

 寮を出てすぐの通学路で見つけた、ストロベリーブロンドの長髪の後ろ姿。

 その隣に昨日見た茶髪の男子生徒。

 見間違うはずもなく、一之瀬と綾小路だった。

 

「おはよう、綾小路、一之瀬」

「おはよう、坂田」

「おはよー坂田君。そういえば登校中に会うのは初めてだね?」

「今日はいつもより遅い時間に出たんだ」

 

 俺と同じ時間に寮に戻っても、階層が一之瀬の方が上だ。そして俺はあらゆる準備をして出てきているためぱっぱと登校準備が終わるが、女子である一之瀬はそうもいかない。その時にしかできない準備でも充分時間がかかる。

 俺と一之瀬が登校中に合わないのはむしろ当然だった。

 

「それにしても意外な組み合わせだな。あの話か?」

「ううん、今日はたまたま会ったから一緒に登校してるの。坂田君もどう? 聞きたいこともあるし!」

 

 良いのか、と綾小路に視線を送ったら頷いてくれた。

 そういうことであればご一緒しよう。

 どうやら俺にいくつか聞きたいこともあるようだし。

 

「それで、何が聞きたい?」

「流石坂田君。お見通しってことだね」

「聞きたそうな顔をしていたからね」

「それじゃあ遠慮なく! 坂田君は私達に協力してくれるんだよね?」

「ああ、協力はする」

「それは坂田君個人として? それともAクラスの坂田君として?」

「Aクラスの坂田真緋瑠としてだ」

「そっか」

 

 少しだけ顔に影を落とした一之瀬。

 質問されることは分かっていたし、一之瀬もこう答えられると分かって質問したはずだ。

 自分で結論を出したにしては少し落ち込みすぎではないか。

 もしかしたら綾小路の入れ知恵かもしれないな。

 そうだとしたら一緒に登校しているのも頷ける。

 

「じゃあ坂田君個人としてはどうなのかな」

「何度も言うが俺は中立だ。敵でも味方でもない」

「……そうだね。うん、ずっと言っていた」

 

 俺は誰にでも等しく中立宣言している。

 坂柳にも葛城にも一之瀬にも、入学してすぐに担任である真嶋にだってそう言った。

 真嶋は止めようとはしたが俺のことをある程度知っているのか、早々に無駄だと判断して可能な限りAクラスの不利益にならないようにしてくれとだけ言われた。苦渋の決断だったのだろう。こんな爆弾抱えて本当に可哀想だと思う。

 

「本当に聞きたいのはそこじゃないだろ、一之瀬。俺がCクラスに付くかどうか。そうじゃないのか?」

 

 視線が集まってくる。

 時間的に人が少ないこともあって、声は通るし非常に目立つ。

 同じ寮から出ている生徒は全員一年生だということも要因の一つだ。

 

「……そうだよ。坂田君は私達にとって敵なのか味方なのか、はっきりして貰わないとこちらも困るんだよね」

 

 その切り替えの早さは流石だ。

 一之瀬は間違いなく頭が良い。

 物怖じせず対面で物を言える胆力も流石Bクラスのリーダーというべきか。

 だがそれ以前に異常なほど人が良すぎるな。

 その人の良さが一之瀬の欠点あり、弱点だ。

 

「何故俺がハッキリさせる必要がある。中立だとハッキリ言っている奴にどちらにつくかハッキリさせろという理不尽を理解できない訳ではないだろ」

「その通りだ」

「綾小路君……」

 

 今回は一之瀬に任せっきりかと思っていたがそういう訳ではないのか。

 まあそういうことなら別に乗ってやってもいいが。

 

「一之瀬。坂田はオレ達が立ち位置を決めろと言っているんだ。無償ではなく、依頼として」

「その通り。依頼をするのであれば個人的に動く」

「依頼……」

 

 歩くスピードを緩めて考え込むその姿は非常に様になっている。

 それにしても上手いな。

 俺を呼んだのはあくまでも一之瀬。綾小路はDクラスの問題に協力してくれている一之瀬を依頼人にする作戦なのだろう。

 昨日の今日だろうに一之瀬の性格をしっかりと把握している。

 

「今すぐには判断できないかな。放課後まで待って欲しい」

「分かった。その間にCクラスが接触してきても一之瀬を優先するから安心してくれ」

 

 綾小路。

 君が何を考えているかは分からないが乗ってあげよう。

 その道筋の先に何が見えているのか興味が湧いてきた。

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