ようこそ請負人のいる教室へ   作:型破 優位

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依頼

 放課後になり、カフェへと向かった。

 一之瀬には四時にカフェに来るよう連絡を入れていたのだが、どうやら急用で四時半以降になるとのこと。急いでいる訳でも無いし時間の時間の猶予を取ると言ったのは自分だ。席取りと暇つぶしを兼ねてゆったりとしよう。

 そう思ってふと入り口に目を向けた途端、見慣れた人影が二つ。

 

「あら坂田君、偶然ですね」

「本当に偶然だったら別に良いんだけどな」

「本当に偶然ですよ?」

 

 首を傾げながらそういう姿は非常に愛くるしいものだが、明らかに嘘をついていると分かるのはどうなのだろうか。

 俺は放課後すぐにカフェに向かっている。

 対して坂柳は俺よりも後に教室を出ており、注文をして席について一息したタイミングで現れた。

 それに加えてここのカフェは俺のお気に入りの場所でもある。

 ここに着く時差的にも俺に用があったのは間違いない。

 

「とりあえず何か頼みなよ、二人とも」

 

 メニュー表を渡し、各々が一品ずつ注文する。

 

「坂田君はこの後何かご予定でも?」

「ああ、毎日忙しいよ本当に」

「そうでしたか。事件の進捗についても聞いてよろしいでしょうか」

 

 俺の行動を教えろってことか。

 当然のように教えて貰えると思っているのが腹立たしいが、たしかにこれぐらいなら教えて構わないレベルだ。

 線引きをしっかりと理解しているのを喜べばいいのか、またB、Dクラスはどのように動いているかは分かっているから当然と言えば当然なのだが。

 

「簡単に言えばこれから大詰めだ」

「思ったよりも早いですね。Dクラスは今日も各クラスを巡っているみたいですが、坂田君はどのように証拠を掴んだんでしょうか」

「いや、掴んだというよりは既に持っていたという方が正しい」

「監視カメラがないところだと都合が良いというのは本当にそのままの意味だったということですね」

「その通りだ」

 

 おっと、この情報が欲しかった訳じゃないのか。

 表情の変化が一切ない。

 今回の坂柳は意図があまり読めないな。

 人並みに興味を持っているものだと思っていたのだが、本題は何なのだろう。

 少し思考に耽っていると、坂柳がふふっと笑いかけてくる。

 

「普段からそんな気を張っていては持ちませんよ」

「それならさっさと本題を話して欲しいね」

「もう少しお話していたかったのですが、坂田君がそういうのであれば仕方ありません」

 

 坂柳と話すのは実際気を遣う。

 過去関わってきた人の中でも上位に入る部類だ。

 ちなみに坂柳よりも上に行くと命が関わってくる可能性が出てくるので文字通り次元が変わってくる。

 

「坂田君は重要なことの一切を直接会って決めますが、それはどうしてなのでしょうか。私のメッセージにも返信がありませんし」

「ああ、俺は基本的に渡された電子機器は信用していない。契約書も紙媒体だし、連絡も必要事項以外は基本送らないし返さない。対応は全員同じだよ」

「私と坂田君の関係はその程度だったんですね……」

「残念ながら坂柳に限らず全員その程度だよ」

 

 悲しそうな顔をするな女狐が。

 ずっと黙っているけど神室がゴミを見るような目をしているぞ。

 常に連れまわされているが、こいつも坂柳が見ていない時はかなりあからさまだな。二人の関係を考えたら当然の対応ではあるけど。

 

「そうですか。残念ですが仕方ありません。それなら直接お願いしましょう」

「何を?」

「真澄さんを自由にして良いのでこれから私の依頼は全て無償にしていただけませんか」

「はあ? ふざけないで」

「ふざけていませんよ。それでどうですか、坂田君。答えの方は」

「ちょっと——」

 

 ふむ。

 確かにこの学校へ来る前に自分自身を差し出してきた依頼人がいたが、あれは依頼も依頼で対価がそれしかなかったために受け取っただけであり、常に受け取る訳ではない。

 いやそういえばこの学校でも一人いたか。

 あれはまた別だな。

 しかし自分の身体ではなく他人を差し出すのが如何にも坂柳らしい。

 そもそもそれは依頼ではなく行動の制限だ。

 

「魅力的な提案だけど受け取れない。それで?」

「では今回坂田君がどのように動いたのか、事件が解決した後聞かせてください。依頼で動いているのであれば人は伏せて構いません」

 

 こっちが正真正銘の本音か。

 どこまで俺ができるのかを見定めたい。

 そんな感じだろう。

 依頼というよりは試験に近いものだな。

 

「対価はどうする?」

「そうですね。坂田君の言う事を一つ聞く、というのはどうでしょうか」

 

 俺の動き方によってはその一つが最後の共闘になる可能性もある訳だ。

 その可能性は限りなく低いけどな。

 

「良いよ。依頼主と依頼については隠すけど動いた内容と結末はちゃんと話す。それで良いか?」

「はい、それではこちらの契約書にサインをお願いします」

「用意周到だな」

 

 出された契約書を確認する。

 内容は簡易的なもの。

 

・坂田真緋瑠は六月末に起きた事件について全て正確に話すこと

・上記が成された場合坂柳有栖は坂田真緋瑠の依頼を一つ聞くこと

・本書の契約が成されなかった場合、全プライベートポイントを違約金として支払うこと

 

 以上の三つだ。

 なるほど。

 今の話は囮だったわけか。

 

「一つだけ訂正しな。俺は依頼主とその依頼内容、依頼に伴う対価以外の全てを正確に話すのであって、文字通り全ては話さない」

「やはり気が付かれましたね。流石です」

 

 引っかけようとして嬉しそうに笑うな。

 実際のところこれくらいの罠なら俺も仕掛ける。

 主に最初の依頼を受けるときに仕掛けるのだが、これに引っかかる奴の評価は勿論下降修正だ。

 俺が指摘した部分が坂柳の自筆で訂正されたのを確認し、もう一度流し読みしてから契約書にサインをして携帯端末で写真を一枚。

 原本を坂柳に返す。

 

「これをコピーして月曜日にくれ。事件解決後にこの契約書を持ってどこかで落ち合おう」

「ええ、それでは頑張ってください」

「ありがとう。伝票はそのままでいいよ」

「ではお言葉に甘えさせていただきますね」

 

 言い残し、カフェを出ていく坂柳と神室。

 時間を見ると待ち合わせの時間まで残り十分を切っていた。

 一之瀬と話す前に坂柳と会っているのがバレたら面倒なことになっていたから、案外ギリギリだったのかもしれない。

 

 とりあえず二杯目を注文し、席へと戻る。

 待ち時間は五分とかからず、二杯目のココアを口にしたと同時に一之瀬の姿を視認した。

 その後に綾小路、堀北と続き、男子生徒も一人——いや待て、明らかに人数がおかしい。

 

「綾小路はまだ分かるが……予定よりも倍の人がいるな」

「貴方の手間を少なくしてあげたのよ。むしろ感謝しなさい」

「神崎君は私が呼んだの。坂田君と直接会ってみたいって。綾小路君は朝一緒に居たからね。折角だから呼んだんだけど……もしかしてダメだった?」

 

 にゃはは、と本当に笑う奴いるんだな。

 初めて見た。

 実際に見たら引く部類の笑い方だと思っていたが一之瀬だと不快感が無い。

 

「俺が一之瀬に頼んだのだ。責めるなら一之瀬では無く俺にして欲しい」

「そういうことじゃないんだが……まあ良い。どうせ堀北も似たような内容だし相談の時間を与えたのは俺だ。当然直接聞きたいこともあるだろう」

「助かる」

 

 しかしこれでは座れないな。

 仕方ないので場所をファミレスに移動することにしよう。

 夕飯にはまだ早いが場所を取っているのだから注文をするのは当然の責務だ。

 必要経費……なのだろうか。

 

「好きなもの食べていいぞ。ポイントは俺が出す」

「え、良いよ良いよそんな―――」

「そう。それなら遠慮なく」

 

 そう言って堀北はベルを押し、次々と高いメニューを注文していく。

 というかこれ、綾小路の分も勝手に頼んでないか。

 ドリンクバーも勝手に全員分付けたし。

 神崎と一之瀬なんてまだメニュー見始めたぐらいなんだぞ。

 

「堀北、注文をすることは止めないが一之瀬と神崎のメニューが決まるまで待ってやれよ」

「私は早く食べたいもの」

 

 絶対に嘘だ。

 ポイントを減らすことを狙っている。

 まあファミレスで俺のポイントを減したいなら胃袋にダークホールでも入れて出直してくるんだな。

 どちらにしろこのファミレス代は損だし。

 

「頼むからには全部食べろよ」

「必ず食べるわ。綾小路君が」

「無茶言うなよ……」

 

 あの綾小路が呆れていると分かる程の表情変化を見せた。

 表情筋が死んでいないようで何よりだ。

 

「一之瀬と神崎も気にすんな。お前達に言うのもあれだが、ポイントは沢山ある」

「にゃはは……やっぱり申し訳ないよ」

「勿体ないわよ一之瀬さん。あのケチな坂田君が奢ってくれると言っているのに」

「お前は俺の何を知っているんだ」

 

 少なくともケチと評されるようなことは一つもやっていないのだが。

 むしろ堀北にはポイントをあげてるだろ。

 

「じゃあ甘えようかな」

「すまないな、坂田」

「ああ、好きなだけ頼め」

 

 ケチだと言われたことを気にしているのではない。

 一之瀬は三ヶ月の付き合いになるし、神崎は良い奴だと思ったから好きなだけ頼めと言ったんだ。

 だから堀北、絶対にケチなんて言うなよ。

 

「それで早速なのだけど、貴方は今Aクラスとして動いているのよね。貴方個人じゃなくて」

「一之瀬にも全く同じことを聞かれたな。そうだよ」

 

 堀北が綾小路を睨んでいる。

 貴方その場にいたのよね? 私、その話聞いていないのだけど、という堀北の言葉が目に見えて分かる程の目力だが、綾小路は気づいていないフリをしてずっと俺を見詰めている。

 だがある程度は堀北も答えが分かっていたのかそこには追求しない。

 

「それで今から貴方個人の動きを決めるために放課後話し合う、ということで良いのよね?」

「その通り。神崎はそこまで知っているか?」

「ああ、一之瀬から聞いている」

 

 全員認識に相違はないようだ。

 それなら話を進められる。

 と、神崎がまだ何か言いたそうだ。

 

「坂田。俺は入学してから少し経って、一之瀬にお前について色々聞かされていた。そこから俺は坂田に対して、Aクラスだけど壁を感じさせない良いヤツだという認識を持っていた。だが今日聞いた話ではその欠片が微塵も感じられない」

「それで?」

「これはお前が望んでいることなのか? もし誰かに脅されているというのであれば力になりたいと思っている」

 

 そういう心配をしてきたか。

 確かに俺は派閥争いについてやクラスの情勢、学校について一之瀬と話していた。それが俺の本心で今の俺は脅されてやっていると、そう映っているのか。

 

「それは無いわね。彼は元々こういう人間よ」

「だからお前は俺の何を知っているんだよ」

「何か間違ったことでも言った?」

 

 いや、今回ばかりは正解だ。

 

「間違ってはいないけどな。神崎、これは俺の意思でやっていることだ」

「そうか……」

 

 少し残念そうな表情を見せる神崎。

 どうやら俺はBクラスの中で良い奴という評価を受けていたようだ。一之瀬も俺が肝心なことは全く話していないことぐらい理解しているのだろうが、その部分は隠して話したのだろうか。

 本来なら話す必要がないことではあるが、この学校において僅かな情報が命取りになることもある。もしそれを知ったうえで隠していたのだとしたら、本当の意味でお人好しだな。

 量が少ないが価格の高いサイドメニューが運ばれてきた。

 

「よし、早速だが一之瀬。答えを聞こうか」

「一つだけ確認良いかな」

「どうぞ」

「私達は今回Bクラスとして協力しています。それはこの事件の真相を明確にしたいという思いから。坂田君に依頼したら、この事件を必ず解決してくれるんだよね?」

「依頼は必ず成功させる。できない依頼は受けない。それが答えだ」

「なるほどね……分かった。私達Bクラスは坂田君にこの事件の解決を依頼します」

 

 堂々の宣言。

 堀北と綾小路は無言で見守っている。

 

「依頼内容は?」

「事件の解決。それもCクラスとDクラスどちらが本当に悪いかはっきりさせて欲しいな。Bクラスも同じようなことが起きないように」

 

 BクラスにとってC、Dのどちらが悪いかよりもこういう事件が起きて欲しくないという願いの方が強い。そして以前からの嫌がらせでクラスポイントを減らされるなどCクラスには痛い目を見ている。DクラスもCクラスにより非があると考えているためBクラスに協力を求めた。

 Dクラスにとっては損を減らすための、Bクラスにとっては今後損をしないための依頼か。

 

「何を対価にする?」

「5万ポイントでどうかな」

「分かった。違約金は——まあ、今回に限っては別にいいか。その依頼を受けよう。口約束では心許ないだろうし、ひとまず俺が本当に依頼を成功できるのかどうか、その一つの手札をここで見せちゃおうか」

「この場で……?」

 

 そう言って俺は一つの物を取り出す。

 それを奇怪な目で見つめる堀北と、まさかという表情の一之瀬と神崎。

 

「この携帯にはボイスレコーダーの音声が入っている。そこには何が起きたかの全てが記録されているんだ。対価の5万ポイントをくれたら今この場で聞かせよう。これだけでもどちらが吹っ掛けたのかの証拠としては十分だと思うぞ」

 

 幸いまだ放課後すぐのこの場所で人が溢れかえるということはないし、聞かれたところで問題は無い。

 

「もしこれが証拠にならないというのならそうだな、俺は依頼を放棄するとしよう。その場合、十倍の50万ポイントを返してあげるよ」

 

 そう告げて、俺は七桁目を指で隠しながらポイントを提示する。

 そこには80万程のポイントが表示されていた。

 ついに堀北の顔も驚愕に染まる。

 

「七桁目を見せちゃうと俺の資金力がバレちゃうからね。六桁見えれば嘘か本当かの判断には問題ないでしょ」

「貴方そのポイントをどうやって……」

「教える義理はないね。ほら俺も依頼が失敗したときの対価を示した。早速始めよう」

 

 理解が追い付いていないみたいだが、無理矢理進行する。

 今から流す音声はどちらが仕掛けたのかが完全に分かるもの。

 一之瀬からポイントが送付されたのを確認して、ファイルを選択し、再生ボタンを押す。

 

『おい須藤。最近お前調子乗り過ぎなんだよ』

『それはテメェらだろうが! 練習中もちょっかいかけやがって! いい加減にしろよ!』

『ちょっかいだ? 俺達ちょっかいなんて出してないよなあ? 近藤』

『ああ。むしろ練習に少し付き合ってやったぐらいだぜ』

『お前そんなことで怒っていたのかよ。短気ってもんじゃねえな』

『ああ!? テメェは誰だよ! 関係ないヤツは引っ込んでろ! 俺は小宮と近藤と話をしてんだ』

『関係なくはないぜ。俺は石崎だ。こいつ等が調子乗っている奴がいるせいで練習に集中できないみたいでなぁ。お前みたいな奴はさっさとバスケ辞めちまえよ』

『辞めないと痛い目を見るぜ?』

『何と言われようと辞めねえよ。俺にはバスケしかねえ』

『それなら仕方ねえ。やるぞお前ら』

 

 そこで再生を止める。

 出されたのは、完全に現場の音声を捉えたものだった。

 若干ノイズがあるとはいえ、何をしていたのか、どちらが喧嘩を吹っ掛けたのかが良く分かる代物。

 あまりに完璧な証拠が出てきてしまい、誰もが声を出そうとしない。

 

「あれ。堀北とか何かないのか? てっきり『そんなの証拠にならないわ』とか突っぱねられて50万ポイント要求してくるのかと思ったけど」

 

 まあその時の50万の支払い先は一之瀬になるんだけどな。

 

「……貴方これをどうやって録音したのかしら。貴方が裏で糸を引いていると言われた方が納得できるのだけれど」

「監視カメラが無い場所は入学してすぐに目星をつけていた。何かしら面白いことが起きると思ってな。だから俺は監視カメラが無い場所全てにボイスレコーダーを仕掛けている。勿論場所は秘密だし、今回のことでボイスレコーダーを置くことはできなくなりそうだけどな」

「なるほどな。特別棟へ調査に来ていたのに全く周りを見ていなかったのは、既にどういうところか知っていたからなのか」

「そういうこと。俺もこの事件について最初から知っていた訳では無い。特別棟で事件が起きたという話があったから確認をしたら録音できていただけだ」

 

 嘘ではない。

 本当に偶然録音できていたのだ。

 俺はその偶然を引き寄せるための変数を仕込んだだけに過ぎない。

 奥から店員が大量の料理を運んできたのが見えたため、携帯をしまって隙間を作る。

 それにしても頼み過ぎじゃないか?

 流石の堀北もこの量には後悔しているだろう。

 そう思って表情を伺ってみるが、特段思うところはないようだ。

 

「さあたくさん食べてくれ。もしかしたら俺のポイントを全部無くせるかもしれないぞ?」

「そうね。頑張るのよ綾小路君」

「本当に無理だからな! 絶対にやめろよ!」

 

 おお、綾小路から少しだけ本当の拒絶が見えた。

 そりゃ机の上に乗りきらない量の料理とか普通に考えたらやばいし、それでもようやく5桁に乗るかどうかのお値段なのだから当然と言えば当然か。

 しかもこれで全部ではない。

 ハンバーグにステーキにパスタ、ピザなど種類は豊富。

 あまりの量に一之瀬はにゃははと苦笑しており、神崎は何とも言えない微妙な表情をしている。

 一種のバイキングみたいだ。

 

「堀北、店にも迷惑掛かるからここまでにしておけ。俺も食べるし、一之瀬と神崎も好きなだけ食べてくれ。もしそれ以上頼むというのならそれでも構わないが、残したら俺はここの支払いはしないぞ」

「あら残念ね。折角貴方のポイントを少しでも減らそうと思っていたのに」

 

 たまにはこういう無駄遣いの仕方も良いのかもしれない。

 

 

 

♦  ♦  ♦

 

 

 

 

「ファミレスでこんなにたくさん食べたの初めてかも! 坂田君ご馳走様!」

 

 結局出された料理は全部食べた。

 全員が全員それなりに食べたし、俺もここ最近では一番食べたと思う。

 何より気になるのは綾小路だ。

 

「大丈夫か綾小路」

「きつい……死ぬ……」

「だらしないわね」

 

 お前が言うなと、その場の全員が思った。

 結局堀北は自分が食べたい量だけ食べて残りの全てを綾小路に押し付けたのだ。

 残したらポイントを支払うことが分かっている堀北は、綾小路の口に無理矢理押し込んで数人前を食べさせた。

 その結果が今に至る。

 

「坂田も綾小路と同じくらい食べていたが平気そうだな。普段からそんなに食べるのか?」

「俺はある程度食べたらお腹いっぱいだなとは感じるけど、食べられない訳じゃないんだ。お腹空いている訳じゃないけど入る。だからたくさんあるなら食べるけど一人前でも充分足りる」

 

 本当に便利な体質だと思う。

 美味しいと感じられる時間が長いのは良いことだ。

 それにしても量が量だったために結構長く居座ってしまった。

 途中から来た生徒たちに目立ってしまったが楽しかったし良しとしよう。

 気持ちの良い風が吹いている。

 今日も良い夜になりそうだ。

 

「それじゃあ解散ですかね。事件解決は任せなよ」

「うん。お願いね坂田君」

 

 寮が同じなら当然変える場所も同じだ。

 良い意味で言うなら余韻まで楽しめると言えるだろうし、悪い意味で言うなら一人を浸れる時間が少ないという事か。

 とりあえず楽しかった。

 勿論他の人も同じ気持ちであることを願う。

 

「あれ、エレベーター乗らないの?」

「俺は202号室。使う程でも無いからね」

 

 高所は利便性が悪いと痛感している。

 本当に寮の部屋が二階で良かった。

 

「それじゃあ一之瀬はまた明日。他の皆は月曜日に」

「うん、また明日!」

「……二人は明日何するのかしら」

「この前暑くなったねーって話してたら坂田君が夏服買わないとって言ってたから、私が一緒に行こうって誘ったの」

「夏服を買いに行くだけだ。この事件に関することは何も無いから安心しな」

 

 神崎は予め聞いていたのか何も反応が無かったが、堀北は怪しむように、綾小路は羨ましそうな顔で一之瀬と俺を見ている。

 残念ながら俺と一之瀬は普通の友人感覚で買い物に行くだけだから特段何も起きないぞ。

 その視線を一身に受けながら一之瀬達が乗ったエレベーターを見送った後、ささっと部屋に戻り風呂を沸かしてデスクトップを開く。

 俺の学校生活においてパソコンは結構必需品だ。

 契約書の作成から学内の見取り図、カメラの位置などほぼ全てを記憶させてある。

 

 監視カメラの位置で分からないのは生徒会室と職員室ぐらいだろうか。

 生徒会室は良いとして、職員室は鬼門の星乃宮がいる。

 いない隙を狙うか、真嶋に用事を見つけて調べに行くか。

 案外真嶋なら頼めば見せてくれそうだが、変に貸しを作るとAクラスのために動くよう仕向けられる可能性もある。

 それは——なしだな。

 そう心の中で頷いたと同時に、ぶるっと携帯が震えた。

 この時間は特に何も無かったはずだが——。

 

「……この学校、来て正解だったな」

 

 これは予想外。

 案外あっさりと終わるものだと思っていたのだが、どうやらこの事件、解決するだけでは終わらなさそうだ。




 新年あけましておめでとうございます。
 そしてお気に入り1000件ありがとうございます。
 去年のことなのでばらしますが、本当は暗殺教室クロスを投稿予定でした。
 ですが既出の作品と被るのでやめました。
 ちなみに渚か業が主人公の予定でした。
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