今回は、前2つに比べればマトモだと思います。まぁ、少し長いですがそこはご愛嬌という事で、
それでは、第15話をどうぞ。
翌日。
「聞いてもいい?」
デルゾゲード魔王学院の第二教練室で授業が始まるのを待っていると俺の隣に座っているミーシャがそう聞いてきた。
「俺が答えれる物だったら」
「誕生日は何をあげたら良い」
「誕生日か・・・誰にあげるんだ?」
渡す人物によって、喜ぶプレゼントは変わってくるからな。どんな人にあげるかは知っておきたいところだ。
「サーシャ・・・明日」
サーシャにあげるのか。それに、明日誕生日だったんだな。
「ミーシャが考えた物なら、どんな物でも喜ぶと思うぞ」
ミーシャが少し考え込み、口を開いた。
「・・・服が、良い・・・」
「なら、そうすれば良いと思うぞ」
正直、服とかそういうのには疎いので、ミーシャの力にはなってやらないが、きっとサーシャに似合う服を見繕う事だろう。
ただ、サーシャの奴明日誕生日だったのか・・・。俺も何か誕生日プレゼントをあげた方が良いのだろうか?
そんな事を考えていると、サーシャが俺達の方へやって来た。これぞ、まさしく、噂をすればなんとやらという奴である。
「おはよう」
サーシャは当たり前のような表情を浮かべ、俺達に挨拶すると、アノスの右隣の席に座る。
「お前の席はそこだったか?」
「変えてもらったのよ。班員同士で固まってた方が楽でしょ」
確かに移動する手間は省ける。それに、こうなる事は分かっていたので、俺は特段驚くことではなかった。
「そうそう。私の元班員も貴方の班に入りたがってるんだけど」
「それなら、もう断った」
さらりと言うアノス。
「はぁ!?なんでよ?班別対抗試験は人数が多ければ多い程有利なのよ!?」
まぁ、サーシャの言ってることは正しい。
「気分じゃなかった」
アノスの一言にサーシャは唖然とする。
「特に困らないだろう。俺とフィリウス、お前達2人がいれば戦力は十分だろ」
確かに、アノスの言う通りだ。なんなら、アノス1人でも勝てる。
「班別対抗試験ではそれで良いかもしれないけど、クラス対抗試験は5人以上、学年班別対抗試験は7人以上いないと参加できないわ」
そんな決まりがあるのか。確かに、参加出来なくては流石のアノスでも勝てない。
「それは知らなかった」
「はぁ・・・先が思いやられるわね」
呆れたようにサーシャは呟く。
丁度、その時に授業開始の鐘が鳴り、ドアが開くとエミリア先生と知らない誰かが入ってきた。
黒の法服と外套を纏い、帽子を被っており、ここまで聞いたら普通の先生だろうが、肝心の外見は骸骨だった。俗に言うアンデッドというのにピッタリなソイツが七魔皇老の1人であるアイヴィス・ネクロンなのだろう。
七魔皇老と呼ばれているだけあって、普段は騒がしい生徒たちも、アイヴィス・ネクロンが姿を現した途端に静まり返った。
「この前お話しした通り、本日は大魔法教練を行います。七魔皇老アイヴィス・ネクロン様による、二度とは聞けない魔法の深淵に迫る授業になりますから、心して聞いてください。特に」
エミリア先生はアノスをじっと見る。
「アノス・ヴォルディゴード君。くれぐれも失礼のないようにお願いしますね」
エミリア先生はアノスに釘を刺す。
正直、アノスに釘を刺したところで無駄だと思うが、まぁ何も言わないよりかはほんの少しだけだが、効果があるかもしれない。
「言われなくても、それぐらいは分かっている」
「なら、いいのですが・・・」
エミリア先生が安心したのも束の間、アノスはすくっと立ち上がる。
「よう、アイヴィス、久しぶりだな」
エミリア先生は顎が外れそうなぐらいに口を開き、驚きをあらわにした。エミリア先生が釘を刺してから、10秒も経たずにこの有様なのでアノスには釘を刺したところで無駄であり何の効果もない事が証明された。
「あ、あ・・・あぁぁ・・・アノス・ヴォルディゴード君っ! あなた、アイヴィス様に・・・なんという気安い口の利き方をっ!!」
アノスの行動に、ひそひそと生徒たちの話し声が聞こえ始める。
「・・・やばい・・・やばいぞ、あいつ、今度こそ確実に死んだ・・・」
「ああ、さすがに七魔皇老はやりすぎだろ・・・」
「ていうか、アイヴィス様が怒ったら、俺たちまで巻き込まれるんじゃ・・・」
「ちょ、勘弁してくれよ、不適合者・・・」
アノスは、第二教練場のざわめきに動じる事なくアイヴィス・ネクロンを見据える。
「申し訳ありません、アイヴィス様!アノス・ヴォルディゴードはただちに除名いたしますので・・・!!」
「よい」
アイヴィス・ネクロンは鷹揚にそう言った。
「久しぶりだと言ったな」
「2千年ぶりだ。覚えていないか?」
「2千年。なるほど、どうりで」
合点がいったように、アイヴィス・ネクロンが頷く。
「残念ながら、我は2千年前の記憶を失っている。覚えているのは我が主、暴虐の魔王の事のみだ」
「ならば、俺の事を覚えている筈だが?」
「そなたは、始祖に縁のある者か?」
それを聞いたアノスはアイヴィス・ネクロンに近づく。
「なるほど。忘れているのなら思い出させてやる」
アノスは、アイヴィス・ネクロンの顔面を鷲掴みにする。
その瞬間、教室中がパニックに陥った。
「ちょっと!?」
「何してるんですか!?アノス・ヴォルディゴード!!」
アノスの行動にはサーシャも立ち上がり、エミリア先生も今までにないくらい大声で注意するが、アノスは無視して、手の平に魔法陣を描いていく。
「思い出せ。自らの主を。我が名はアノス・ヴォルディゴードだ」
アノスはアイヴィス・ネクロンに魔法を行使するが
「・・・無駄だ。この頭に記憶は残っておらぬ。思い出せぬのではない。消えたのだ。完全に失われたものは、〈
「ならば、これでどうだ?」
「・・・これは・・・何をしているのだ・・・?我の頭に記憶が・・・映像が入り込んでくる・・・」
「貴様の頭から記憶が完全に消え去っているのなら、〈
「・・・馬鹿な・・・!時間を遡るだと・・・?時をも超越する大魔法が存在するというのか・・・!?」
「起源魔法の一種だ。使い勝手はかなり厳しいがな」
何をしているのかは良く分からないが、アイヴィス・ネクロンはアノスによって2千年前の記憶が走馬灯のように頭に流れている・・・という訳か。
「・・・確かに我は記憶を2千年遡った・・・」
「だが、無かった」
無かったという事は、アイヴィス・ネクロンにはアノスの記憶が無かったという訳か。
「何故、記憶が戻らぬ?」
「お前の記憶は2千年前に遡って綺麗に消されたという事だ。いつの時代か定かではないがな」
要は、過去が改竄された。アイヴィス・ネクロンの頭には、初めからアノスの記憶が無かった事にされたのだ。
「なるほど。しかし、礼を言おう、アノスとやら。それが分かっただけでも収穫だ。我に敵対する何者かがいるという事が分かったからな」
「なに、気にするな。それより、授業を始めてくれ」
アノスが席に戻っていくと、生徒達がひそひそと話す。
「・・・無事で良かった・・・」
アノスが自分の席に座ると、ミーシャがそう言った。
「貴方ねぇ・・・」
サーシャは、アノスの行動にハラハラしていた。
さて、先程の騒動に引きずられる事なく、アイヴィス・ネクロンは低い声を発した。
「本日は我がネクロン家の魔術、融合魔法についての講義を行う」
アイヴィス・ネクロンが黒板に融合魔法の魔法陣を描いていく。
「ちょっと、アノスにフィリウス。ノートに書くなり、記録水晶に保存しなくていいの?」
サーシャが俺達にそんな事を聞いてくる。
「模写とか苦手だし、一度見たり聞いたりすればだいたい分かる」
この世界に来てから分かったが、俺は完全記憶能力みたいなものを持っているようなのだ。みたいだと言ったのは、俺の場合一度見たものだけでなく、一度聞いたものまで全て記憶するのだ。こんなものまで特典にした記憶はないのだが、神様の手違いなのか偶然なのか・・・まぁ、この能力のおかげでノートを書く手間が省けたので助かっているから結果オーライだが。
ただ、その代わりなのか、絵を描いたりするのは苦手だ。模写でもいつの間にか形容しがたい絵になっていたりする。
「俺も記憶ならしている。ここにな」
アノスは人差し指でこめかみを叩く。
「・・・嘘、よね・・・?こんな複雑な魔法術式を見ただけで暗記できるわけないわ・・・」
驚き半分、疑い半分でサーシャは呟く。
「サーシャこそ、ノートを書いたり記録水晶で保存してないけど良いのか?」
「ネクロン家の秘術だもの。私は直系だし、基礎なんかとっくの昔にマスターしたわ」
そういや、そうだった。
「直系ということは、アイヴィスと親しいのか?」
「まさか。七魔皇老は雲の上の存在だわ。直系って言っても、私は16代目だもの。1番下だし、アイヴィス様と話をしたことなんて……1回しかないわ」
直系といえど、七魔皇老と話す機会は滅多に無いのか。
「今説明した通り、融合魔法の利点は魔力と魔力の融合にある。波長の違う別種の魔力を結合させることにより、強い魔法反応を生み、元の魔力を十数倍に引き上げることができる。これが初級融合魔法〈
アイヴィス・ネクロンの講釈が続く中、サーシャが俺達に小声で話しかけてくる。
「ねぇ、本当に覚えたの?適当なこと言ってないわよね?」
「疑り深い奴だな」
「だって、私がこの術式を理解するのに、1ヶ月もかかったのよ」
「俺はアイヴィス・ネクロンが言った事を覚えただけ。実際に理解した訳じゃない」
あくまで覚えただけであって、実際に使う事はたぶん出来ない。覚えるだけじゃなく、実際に理解した時に初めて使えるようになるだろう。
「お前が1ヶ月なら、俺が1秒で計算は合っていると思うが」
アノスのさも当然だと言わんばかりの発言に、サーシャがムッと睨む。どうやら相当不服だったらしく、その瞳には〈破滅の魔眼〉が発現していた。
「証拠を見せようか」
「どうやってよ?」
その時、ちょうどアイヴィス・ネクロンの説明に一区切りがついた。
「質問のある者はいるか?」
教室内には恐縮した雰囲気が漂っており、恐れ多くて、誰も手を挙げられないでいた。
「1ついいか」
そんな雰囲気をぶち壊すかのように、アノスがスッと手を挙げた。
「うむ、よかろう」
アノスが立ち上がると、生徒達のひそひそ話が聞こえてくる。
「その〈
さっきまでひそひそ話をしていたというのに、教室の空気が凍りつき、しーん、と物音一つしない静寂が訪れた。
「あ、ああ、あいつ・・・もうだめだ・・・今度の今度こそ終わりだ!エミリア先生の時とは訳が違うぞ・・・!!」
「ネクロンの秘術に欠陥があるって、つまり七魔皇老のミスを指摘してるってことでしょ?やばいなんてもんじゃないわよ・・・」
「大体、七魔皇老が開発した術式構造に欠陥なんてあるわけないだろうが・・・」
ザワザワと騒がしい生徒達とは裏腹に、アイヴィス・ネクロンは冷静に声を発した。
「欠陥とは?」
「この基礎魔法術式なら魔力の融合はできる。魔法反応によって、10数倍に魔力は引き上げられるだろう。だが、術式構造からいって、この融合は長くもたない」
ぐっと身構えるように生徒たちは魔法障壁を展開していた。
今にもアイヴィス・ネクロンが攻撃魔法で、教室を殲滅せんと言わんばかりだ。
「初見でそれに気がつくとは大したものだ」
教室中が肩すかしを食らったような雰囲気となる中、アイヴィス・ネクロンが黒板に融合可能時間などを書き加えていく。
「確かに融合魔法は持続時間が著しく短いという欠陥がある。基礎魔法術式の構造によるもののため、上級魔法になろうとも、この欠陥自体を消すことはできないのだ」
アノスがそれに加えて指摘する。
「並の使い手なら、融合時間は約3秒~5秒。これだけ派手な術式を組んで、それじゃ覚える価値のある魔法とは言えないな」
アイヴィス・ネクロンが鷹揚に頷く。
「確かに融合魔法に優位性がある場面というのは限られている。殆どのケースでは、他の魔法で代用した方が良いだろう。しかし、更に深く深淵を覗けば、あるいは化けるかもしれぬ魔法でもある」
「同感だ。俺が深淵を覗いたところ、真の融合魔法の基礎術式が分かった」
アノスの台詞に、アイヴィス・ネクロンは驚いたように魔力を震わせた。
教室中のノートというノートがパタパタとめくれ、ペンが落下する音が響く。
「・・・あっあぁぁ!終わりだぁぁっ。殺される、殺されるぞぉぉ・・・!」
「・・・い、嫌だぁ・・・死にたくない・・・!どうして不適合者なんかと同じクラスになっちまったんだ・・・!」
多くの生徒達がまるで死を覚悟したかのように、ガタガタと震えている。
「この術式構造を改良できるというのか?」
低い声に僅かな驚きが混ざる。
「簡単だ」
「・・・我が千年以上もの時を費やしてきた魔法術式なのだぞ・・・」
「まぁ、見ていろ」
「・・・ちょっと・・・融合魔法は、ネクロン家の秘術よ・・・。〈
サーシャがアノスを引き止める。
「七魔皇老が講師とはいえ、只の授業だ。死人が出たりする事はないだろ」
アノスが七魔皇老に殺される事は無いだろし、仮にアノス以外の誰かが死んでも〈
「フィリウスの言う通りだ。たかだか授業で、なにをそんなに心配している?」
「・・・べっ、別に・・・心配してるわけじゃないけど・・・」
ぷいっとサーシャはそっぽを向く。
「見ていろ」
アノスは黒板の前へ歩いて行き、黒板の魔法陣をサッと描き変えた。
「どうだ?」
アイヴィス・ネクロンはそれを見た瞬間、息を飲んだ。
数瞬遅れ、彼の体がわなわなと震え出す。
「これは・・・なんということだ・・・?融合時間が数100倍に・・・そうか、起源魔法の術式を組み込んだのか・・・。だが、起源魔法の術式を他の術式に組み込ませるなど、いったいどうやって・・・」
必死に魔法術式を解読しようとするアイヴィス・ネクロンに、アノスは事も無げに言った。
「簡単なことだ。融合魔法の術式を応用して、魔法術式同士を融合させただけだからな」
「な・・・!?」
アイヴィス・ネクロンは絶句した。思いもよらなかったのだろう。
「・・・なんという発想だ。アノス・ヴォルディゴード・・・と言ったな。まさか、我よりも先に融合魔法を研究している者がいるとは思ってもみなかったぞ」
「いや、アイヴィス。これはお前の成果だ」
「なに・・・?」
「俺が融合魔法の術式を見たのは今日が初めてだ。お前の研究なくしては、この魔法術式は完成しなかった。俺は最後の一押しをしたにすぎない」
アイヴィス・ネクロンは驚愕したような声を漏らす。
「なんだと・・・?初めて見た融合魔法の術式をここまで完璧に理解し、この僅かな間に完成させたというのか・・・!?」
「なに、早い遅いは物の数に入らない。あと千年もあれば、お前も気づいたはずだ」
そう言って、アノスは自分の席に戻る。
「・・・何故お前のような化け物が学院なんぞに通っている?教える事など何もないぞ、アノス・ヴォルディゴード・・・」
アノスの背中にアイヴィス・ネクロンが畏怖をもって呟いた。
途端にまた教室中がざわざわと騒ぎ始めた。
アノスは自席の椅子を引き、着席すると口を開いたままアノスを見ているサーシャに言う。
「ちゃんと理解してただろ?」
「・・・もう、なんて言っていいか分からないわ・・・」
サーシャは、そう言うのが精一杯のようだった。
如何でしたか?
新たな主人公の能力が判明したり、アノスのチートプレイだったり相変わらずな感じです。フィリウスの一度見たものや聞いた物を全て記憶するのは、士の「だいだい分かった」がモチーフとなっておりますが、もう普通の人間・・・いや、普通の魔族じゃない気がします。
それでは、次回もお楽しみに。