暴虐の魔王と世界の破壊者   作:カトポン

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 どうも、おはこんばにちは。
 大学の試験が始まり、無事に単位を取れるか心配になっているカトポンでございます。
 30話を迎えた今回は、一癖も二癖もあるキャラクター達が登場します。
 それでは、第30話をどうぞ。


第30話 アノス・ファンユニオン

 授業が終わり、昼休み。

 生徒達は一斉に立ち上がり、昼食をとる為に教室を出ていく。

 王笏については再び学院で鑑定し、得点が決まるようだ。流石にもう一度盗ませるような真似はしないだろうし、これで大丈夫だろう。

 

「アノス様」

 

 俺達が立ち上がろうとすると、白服の女子生徒がアノスに声をかけてきた。相手は、先程エミリア先生に食ってかかったミサ・イリオローグだ。

 

「なんだ?」

「先程は庇ってくださり、ありがとうございます」

「あぁ、気にするな。お前を庇った訳じゃない」

 

 アノスがそう言うと、ミサはにこやかに笑った。

 

「でも、おかげで処分を免れました。アノス様が王笏を見つけてくれなかったら、きっとしばらく学校に来られなかったでしょうから」

 

 処分を受ける覚悟で自分の意見を通そうとしていたのか。

 

「ミサだったな?」

「はい。名前を覚えていてくださったなんて、光栄です」

「1つ訊きたいんだが、統一派というのは何だ?」

 

 それは俺も知りたかった。

 少なくとも、現在の皇族至上主義に異議を唱える者達の集まりって事は分かるが、統一派の主張は今も良く分かっていない。

 そんな事を考えていると、笑顔を崩さずにミサは答える。

 

「今のディルヘイドは、殆ど皇族が統治しているのはご存知かと思いますが」

「おおよそ見当はついているが、詳しくは知らない。教えてくれるか?」

 

 どうやら、アノスも見当はつけているものの、詳しくは知らないようだった。

 

「はい、喜んで」

 

 ミサは快く承諾し、説明を始めた。

 

「ディルヘイドの各地を統治するのは魔皇ですが、魔王学院を出ても魔皇になれるのは始祖の血を完全に受け継ぐ皇族だけです。権力の殆どは皇族にあり、あたしたち混血はディルヘイドの事を決める事が出来ません。魔族は今、能力の有る無しに関わらず、皇族とそれ以外の者に二分されているんです」

 

 これまでの皇族の発言を聞く限りでは、ここまでは大体予想通りである。

 

「そんな皇族至上主義を掲げる皇族派に対して、皇族も混血も分け隔てなく、魔族を正しく統一しようというのが統一派です」

「学院で統一派の活動は認められていないのなら、他の所でもたぶん禁止されてると思うんだが、満足に活動出来てるのか?」

 

 なんなら、統一派が現れ始めた時点で皇族に潰されてもおかしくないと思うんだが。

 

「勿論、簡単な事ではありません。ですが、あたし達、統一派にも有力な後ろ盾があります」

 

 なるほど、統一派にもバックホーンが居るのか。

 しかも、皇族からしてみれば謀反と言っても過言ではない統一派が潰されていない辺り、かなりの権力、もしくは実力があるのだろう。

 

「その後ろ盾ってのは?」

「七魔皇老の一人、メルヘイス・ボラン様です。七魔皇老でありながら唯一、統一派の考えに賛同してくださる御方です」

 

 え?統一派のバックホーンって七魔皇老の1人なの?

 七魔皇老はてっきりアイヴィス・ネクロンみたいに乗っ取られていると思っていたのだが、メルヘイス・ボランって奴は乗っ取られていないのか?

 

「・・・アノス様。もし、統一派に興味がおありなようでしたら、メルヘイス様をご紹介しましょうか?」

 

 ミサが居る以上、統一派がアイヴィス・ネクロンを乗っ取った奴の息にかかっている可能性は低い。確か、ミサはアノスに敵対していなかった気がするし。

 だが、メルヘイス・ボランはどんな奴だったかは覚えてないというより知らない。乗っ取られているのか、いないのかも知らないので味方なのか敵なのかも分からない。

 それに、メルヘイス・ボランに会うかどうか決めるのはアノスだ。俺はアノスの配下なのでアノスの指示に従うだけである。

 

「そうしてくれるのなら有り難いが、そんなにすぐ会えるものか?」

「はい。アノス様でしたら、是非にとおっしゃると思います」

「何故だ?」

「あたし達、統一派はアノス様が暴虐の魔王と信じています。班別対抗試験での圧倒的な力や、大魔法教練で見せた魔法研究の叡智、いずれにおいても凡百な魔族に成せる業ではありませんから」

 

 皇族という枠で考えなければ、何で考えるのかと言われたら多くの人が実力だろう。そして、実力に於いてアノスは他の追随を許さない。

 

「あの・・・どうなさいました・・・?」

 

 アノスも考え事をしていたのか、ミサの言葉で我に返る。

 

「いや。なら、メルヘイスに話をつけてくれ」

 

 そう口にすると、ミサは嬉しそうに微笑んだ。

 

「分かりました。それと、良かったら、これからあたし達の仲間が居る場所に来ませんか?皆、アノス様が来てくださったら、凄く喜ぶと思います」

「案内してくれるか?」

「部外者だが、俺も良いか?」

 

 あたし達の仲間という事は、統一派のメンバーが集まっているという事だろう。統一派にどんな奴らが居るのか気になるので、俺も行きたいのだが、ミサは許可をくれるのだろうか。

 

「はい!フィリウスさんも大丈夫ですよ」

 

 どうやら、俺もついていって大丈夫らしい。

 ミサが踵を返し、統一派のメンバーが集まっている場所へと案内する。

 ミサの案内のもと、教練場のある建物から出て、外に進む。

 

「2人も来るのか?」

 

 俺達の後ろにぴたりとついてきているミーシャとサーシャに声をかける。

 

「サーシャが行きたいって」

「貴方が良いんだから行ったって良いでしょ。私も貴方と同じアノスの配下なんだから」

 

 まぁ、俺が行っても良いんだからサーシャ達も大丈夫だろう。

 

「って訳でミサ。2名追加だが、大丈夫か?」

 

 ミサはくるりと振り向き、笑顔を浮かべた。

 

「構いませんよ。お2人もアノス様が暴虐の魔王だと信じていらっしゃるんですよね?」

 

 ミーシャはこくりと頷くが、サーシャはツンとした態度で口を開いた。

 

「一緒にしないでくれるかしら?私は信じてるんじゃなくて知ってるの」

 

 しょうもない事で張り合ってんな〜と思っているとミサが口を開く。

 

「そうなんですね。でも、混沌の世代のサーシャさんがそうおっしゃるんでしたら、説得力が増しますよね。尚の事、大歓迎ですよ」

 

 ミサはニコニコとした笑みを浮かべる。

 

「出来たら、何を知っているのか教えて欲しいですけれど・・・?」

「それは私が決める事じゃないわ」

 

 ミサがアノスを見る。

 

「証拠など無いぞ。あれば、不適合者にはなっていない」

「でも、サーシャさんは知ってるって・・・」

「この3人は特別だ」

 

 ミサは一瞬押し黙り、「そうですか」と呟いた。

 何が特別なのか気になったのだろうが、それ以上は訊いてこようとはしなかった。

 後、何故かサーシャは嬉しそうだった。

 

「ねぇ貴方の仲間って事は統一派の事でしょ。デルゾゲードで統一派の活動は禁じられてるんだから、集まったりしたら目をつけられるんじゃないかしら?」

「大丈夫ですよ。その件についてはあたし達も随分悩みましたが、目をつけられても問題ない大儀名分を思いつきました」

 

 ミサが足を止めた場所は、ユニオン塔の1つだ。

 デルゾゲードの敷地にはいくつもの塔が建っており、そのうちのいくつかは学内で生徒たちが共通の趣味や興味のあることを行うユニオン活動の場所として提供されているらしい。

 ユニオンについては剣術の鍛錬を行う剣術ユニオンや、魔法の研究を行う魔法研究ユニオンなど、様々な物が存在する。

 この世界での部活とかサークルとか同好会みたいな物なのだが、この塔は何のユニオンが活動しているのか塔の入り口にあるプレートを見てみると・・・。

 

「・・・アノス・ファンユニオン・・・」

 

 此処ってユニオン塔じゃなくてファンクラブの拠点だったか?

 俺の困惑を余所に、ミサは得意気に言う。

 

「ふふふー、どうですか、これ。アノス様のファンとなり、アノス様を応援するファンユニオンを結成しました。あたし達が行っているのは統一派の活動ではなく、ただ純粋にアノス様の日頃の発言や、凛々しいお姿について、素晴らしい事を言っていたなぁとか、格好いいね、とか、そういう事を語り合っているだけなのですよ」

「馬鹿なのっ!」

 

 ミサの得意気な発言に、サーシャは激しく突っ込んだ。

 こういう時、サーシャみたいなツッコミキャラが居ると凄く安心するな〜としみじみ思う。

 

「そうは言いますけど、魔王学院の学則に則っていますから、そうそう処分は受けません。ルールを守っている限りは、メルヘイス様の口添えも効果がありますから」

 

 ミサはそう言いながら、ユニオン塔の扉を開く。

 

「それに、アノス・ファンユニオンは世を忍ぶ仮の姿ですよ。この中では、日々いかにして皇族派の圧政をくじく事が出来るのか、真剣な議論が繰り広げられています」

 

 ユニオン塔へ入ると、中にいた生徒が一斉にアノスの方を振り向いた。

 

「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!アノス様っ、アノス様よぉぉっ!!」

「嘘ぉっ、本当だっ。なんで?どうして!?」

「どうしようぅぅっ?今、あたし、もしかして、アノス様と同じ空気吸っちゃってないっ!?」

「そっ、そうだよぉぉぉっ、これってこれって、間接キスだぁぁぁっ!」

「お、お、おおお、落ちつきなさいよっ!そしたら、あんた、此処に居る全員と間接キスしてるわよっ!」

 

 サーシャと俺は白い視線を向けた。

 

「真剣な議論が、何だったかしら?」

「統一派の活動はアノスを愛でる物だったか?」

「あ、あはは・・・お恥ずかしながら、世を忍ぶ仮の姿の筈が、気がつけば皆アノス様の魅力にコロリとやられてしまってですね・・・」

「恥ずかしいなんてもんじゃないわ」

 

 その時、1人の女子生徒が意を決した様子でアノスの前に立った。

 

「あ、アノス様!こ、これに調印(サイン)してもらえませんか!?」

 

 そう言って、女子生徒はアノスの前に〈契約(ゼクト)〉を展開した。

 契約内容は生涯アノスのファンでいることを誓うというものだった。当然、アノスには全くデメリットのない契約である。

 

「ちょっと、貴方、抜け駆けは駄目よ!私もお願いします!」

「私も!」

 

 次々とアノスの周囲に生徒達が集まり、〈契約(ゼクト)〉を展開する。

 

「これは今の時代じゃ良くある事なのか?」

 

 アノスがミーシャに尋ねると、彼女はふるふると首を横に振った。

 

「人気者だけ」

「人気だからと言って、この〈契約(ゼクト)〉はどうかと思うが?何の意味があるんだ?」

「2千年前はファンユニオンはなかった?」

「あいにく聞いた事すらない」

 

 ミーシャはじっと考え、言った。

 

「皆、忠義を示したい」

「なるほど・・・」

 

 そう言ったアノスは、どこか遠くを見る。まるで、過去を思い起こすかのように。

 

「あ、あの、皆さん。いきなりそんなことをしてはいけませんよ。物事には順序というものがありますからね」

 

 調印(サイン)をねだってくる女子生徒達との間に、ミサが割って入った。

 

「貴方以外、まともな人が居ないみたいね。統一派って、大丈夫なの?」

「・・・皆さん、やる時はやると思うんですが・・・あはは・・・」

「そうじゃなかったら、それこそヤベェよ」

 

 普段から、こんな有様だったら統一派は只のヤベェ奴等だと思われるのは間違いない。

 

「まあ、気にするな、ミサ。調印の1つや2つ、いくらでもしてやる」

「えっ? そうなんですか?じゃ、お願いしますっ!!」

 

 ミサはものすごい勢いで〈契約(ゼクト)〉を使い、頭を下げた。

 俺もサーシャもお前もか、という目でミサを見る。

 

「あ、あはは・・・良いじゃないですか・・・」

「えー、ミサ、ずるいわよ!抜け駆け、抜け駆け!」

「そうよそうよ。皆、アノス様の調印サイン1号になりたいんだから!」

 

 女子生徒達の抗議に、ミサは堂々と言った。

 

「いいえ、これだけは譲れません。アノス様を連れて来たのはあたしなんですから、あたしに調印サイン第一号の資格がある筈です!力尽くでも第一号は貰いますよ!」

 

 ミサが臨戦態勢に入ったからか、魔力の粒子が体から立ち上る。

 

「いくらミサでも、そう簡単にはやらせないわよ・・・!」

「そうだわ。何を捨てても、調印(サイン)第1号は譲れない!」

 

 他の女子生徒達も魔力を開放し始め、何故か一触即発という雰囲気になってしまった。

 

「ちょっとは落ち着けよ。調印(サイン)なんてどれも一緒だろ?」

 

 俺はこの場を何とかしようとしたのだが、女子生徒達はアノスの調印(サイン)第1号への熱い想いを口にする。

 

「いいえ。アノス様の調印サインには命を賭ける価値があるわ!」

「えぇ、例え此処で死んでも悔いはない。滑稽に見えるかもしれないけど、あたし達には譲れない物がある!」

 

 此処ってユニオン塔じゃなくて戦場だったかと思ってしまう。どんだけ、アノスの調印(サイン)第1号を欲しいんだよ。

 彼女達のリーダーであるミサはというと、達観したような表情を浮かべ、静かに声を発した。

 

「フィリウスさん。どうか笑ってやってください。アノス様を好きな気持ちでは一寸たりとも退けない。それがあたし達、アノス・ファンユニオンなのですから」

 

 それを聞いた俺はもう考える事をやめた。もう、どうにでもなれば良いと悟ったからである。

 アノス・ファンユニオンのユニオン塔は、魔力と魔力が火花を散らしている。

 今にも動き出しそうな雰囲気の中、アノスは口を開いた。

 

「ふむ。要は全員が調印(サイン)第1号になれば良い訳だろ?」

 

 その声で、ぴたりと女子生徒達は静止する。

 

「それはそうですが、しかし、全員が調印(サイン)第1号というのは矛盾しています。どんなに同時に調印(サイン)をしても、0.1秒、0.01秒の誤差があります。その差が第1号とそれ以外を分けますから・・・」

調印(サイン)第1号でそこまでムキになるなよ。0.1秒ぐらい、同時って事にして良いだろ」

「まぁ、信念は人それぞれだ。それを笑うつもりはない。が、俺を暴虐の魔王と信じるなら、それぐらいの矛盾を不可能のように言うのはやめる事だな」

 

 俺のぼやきにアノスはそう返すと、全員の〈契約(ゼクト)〉に調印した。

 

「あ、あれ?きゃああぁぁ!見て見て!調印(サイン)調印(サイン)されてるわ!」

「私も私も!それにそれに、見て!契約時間に0.1秒も誤差がない。0.00001秒も。全く同じ時間になってるよ!!」

「ほんとだぁぁ!これならみんな第一号だよぉぉぉ!!」

「でもでも、どうやって!!?こんな事ってあるの!?」

 

 驚きを示す女子生徒達に、アノスは言う。

 

「なに、〈時間操作(レバイド)〉で一瞬時間を止めて、それぞれの〈契約(ゼクト)〉に調印しただけだ」

 

 途端に悲鳴のような声が上がった。

 

「時間を止めて調印(サイン)なんて、超格好いいぃぃ!!」

「そんな事されたら、私の心臓も止まっちゃうよぉぉ!!」

「調印如きで騒がしい事だな」

「そう思うなら、調印如きで時間止めないでよね・・・」

 

 サーシャが横からそう呟くのだった。




 如何でしたか?〈契約(ゼクト)〉の調印に平然と時を止めるアノスさん。流石、暴虐の魔王です。
 アノス・ファンユニオンのメンバーもアノス様LOVE全開です。ミサさんもアノス様に調印して貰おうと必死でしたが、そのベクトルはそう遠くない未来に別の方向に向かうと思うと先が楽しみです。
 それでは、次回もお楽しみに。
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