501のウィザード   作:青雷

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離反

 ガリア国境付近にて確認された人型ネウロイに、美緒が撃墜された──現在彼女は基地の集中治療室に運び込まれ、懸命な処置の末に何とか命を繋ぎ留めることには成功。

 しかし依然として容態は好転しておらず、後は彼女の気力次第──それが医師の見解だった。

 

「──お、ユーリ」

 

「……エイラさん、サーニャさん」

 

 ミーナが執務室に戻ったことを聞いたユーリは、重い足取りでミーナの元へ向かっていたところ、その道すがらエイラとサーニャの2人に出くわした。

 

「大変だったみたいダナ。人型のネウロイが出たんだって?」

 

「……はい」

 

「まぁ元気出せヨ。坂本少佐ならきっと大丈夫だって」

 

「……はい」

 

「アー…サ、サルミアッキ…食うカ?」

 

「……はい」

 

 3回目の返答で、ユーリは心ここにあらずといった様子であることを察したエイラは、自らの実力不足を悟り

 

「……すまんサーニャ、交代」

 

 と、サーニャにバトンタッチする。

 

「ユーラ…坂本少佐が怪我をしたのは、魔法力が衰え始めていたからよ。ユーラのせいじゃないわ」

 

「そうダヨ。宮藤ならまだしも、なんでオマエが落ち込んでんダ」

 

「……知ってたんです。坂本さんがウィッチとしての限界を迎えていることは。あの時、力づくでも止めるべきだったのに、僕は……ッ!」

 

 やり場のない怒りを何とか飲み込んだユーリは「失礼します」と一言告げ、歩みを再開する。

 

「ユーラ……!」

 

 自分を呼び止めるサーニャの声に、足を止める。

 

「心配してくださって、ありがとうございます」

 

 それきり、ユーリはサーニャ達の方を振り向くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──申し訳ありませんでした」

 

「ユーリさん……」

 

 ミーナの執務室を訪ねたユーリは、開口一番深く頭を下げる。

 

「僕は、坂本さんを助けられませんでした。あの時、あんな大口を叩いておきながら…僕は……!」

 

「そんなに思い詰めないで?ユーリさんが責任を感じることじゃないわ。全員の──いいえ、彼女を止められなかった私の責任よ」

 

 美緒が格納庫に向かう際、当然ミーナは出撃を止めた。だが美緒はそれを聞かず、ミーナもまた美緒を強引にでも止めることをしなかった。

 

「それにね。あなたがそんなに落ち込んでいたら、美緒が起きた時に困っちゃうでしょう?だからこの話はこれでおしまい。気持ちは嬉しいけど、ユーリさんまで余計なものを背負う必要はないわ」

 

「ですが……」

 

「ごめんなさい。宮藤さんへの事情聴取の準備をしなきゃいけないから、ね?」

 

「……分かりました。失礼します」

 

 もう一度深く頭を下げて部屋を出ていったユーリ。その背中を見送ったミーナは、椅子に深く凭れる。

 

「……ええ、そうよ。こんな辛い気持ちを、彼にまで背負わせる訳にはいかないもの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日──芳佳の連日に渡る治癒魔法が功を奏したのか、美緒は目を覚ました。皆一様に彼女の無事を喜ぶ中で、芳佳にはミーナより10日間に渡る自室禁固の処分が下される。彼女はそれを受け入れた。

 

「芳佳ちゃん、大丈夫かな……」

 

「仕方ありませんよ。独断専行、命令無視、そのせいで上官が負傷し…あまつさえ、敵を取り逃がす。軍規違反もこれだけ重なればかなりの重罪です。軍法会議にかけられなかっただけ、まだマシな方でしょう」

 

 芳佳の身を案じるリーネはユーリ監修の下、今日も日課の狙撃訓練に励んでいた。といっても、もうリーネの狙撃の腕はかなりのもので、ユーリが新しく教えるようなことはもう無いに等しいのだが。

 

「今日はここまでにしておきましょう。お疲れ様でした」

 

「あ、はい…お疲れ様です」

 

 担いだシモノフを格納庫に仕舞ったユーリは、その足で芳佳の部屋に向かった。南京錠でロックされたドアの前で、中にいるはずの芳佳に呼びかける。

 

「宮藤さん。聞こえますか?」

 

 程なくして、返事が返ってくる。

 

「その声……ユーリさん?」

 

「はい。扉越しですみませんが…少し、話を聞きたくて。あなたが人型ネウロイと接触した時のことです」

 

「……!あの、私…あのネウロイに今までと違う何かを感じたんです。あの時、私はネウロイと分かり合えたような気がしたんです!もしかしたら、ネウロイと戦わずに済む方法があるかも──!」

 

「宮藤さん落ち着いて。……言いたい事は分かりました。ですが、僕はそれを否定せざるを得ません」

 

「……ユーリさんも、ネウロイは全部敵だって言うんですか?」

 

「それは勿論、ですが根拠はあります。──宮藤さんは、スオムスのカウハバ基地で出現したと言われてるネウロイをご存知ですか?」

 

「スオムス……?いえ」

 

「当時スオムス義勇軍に所属していたウィッチが、そのネウロイに洗脳を受け、連れ去られる事件がありました。敵の目的は、ウィッチ側の大きな戦力であるエース隊員の戦い方を情報として盗むこと。加えて、味方のウィッチが洗脳を受けて他のウィッチを攻撃し始めることもあったと聞きます。このせいでスオムス義勇部隊の方々は大いに苦戦を強いられたそうです」

 

 ユーリとて記録でしか目にしていない情報だが、これまで単調な動きしかしてこなかったネウロイが優秀なウィッチの戦い方を学習した結果、どれ程の脅威になるか…容易に想像はつく。

 

「そして問題のネウロイですが──人型をしていた、と。記録にはそう残されています」

 

「そんな……」

 

「宮藤さんの視点では、確かにネウロイが友好的なコンタクトを取ってきたように思えるかもしれません。しかし、向こうがこちらの思考をコントロールする術を持っていると分かった上で見ると……僕が何を言いたいか、わかりますね?」

 

 芳佳があの時感じた気持ち、感覚──その全てが、ネウロイのマインドコントロールによるものであったとしたら?あの時美緒達が駆けつけていなければ、芳佳はあのままネウロイの巣に連れ去られて頭の中から情報を抜き出されていたかもしれない。もっと言えば、本格的な洗脳を受けて501と敵対させられる可能性だってあったのだ。

 

「あなたがやった事は、あなたが思っているより、もっとずっと危険な事だったんです。その事を忘れないでください」

 

 芳佳の返答を待たず、ユーリはその場を後にする。部屋の中で項垂れる芳佳は、今しがたユーリに聞かされた話を反芻していたが……

 

「でも、やっぱり私──」

 

 

 

 

 

 自室に戻ったユーリは机の引出しを開けると、長方形のホルダーを取り出す。中にはシモノフの14.5mm徹甲弾が1発納められており、それを手に取ったユーリは魔法力を発動させ、意識を集中させる。すると、ユーリの中の魔法力が弾丸に込められていく。

 

 そのまま30分程経つと、ユーリは止めていた息を吐き出すようにして魔法力を収めた。

 

(これでやっと必要量の半分ちょっと……できればもう少し貯めておきたいところだけど、またいつ出撃があるか分からないからな)

 

 かれこれ1週間程続けているこの作業。ユーリの魔力総量から、訓練や出撃に障らない程度の量を目分量ではあるが逆算して、少しずつ弾丸に込め続けている。

 

「今日は訓練も休みだし、少しは無理できるか……よし」

 

 再び魔法力を発動させたユーリは、もう一度弾丸に魔法力を込め始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は日付を跨いだ夜中──ユーリを除く501の面々は、ブリーフィングルームに緊急招集を受けていた。

 

「──宮藤さんが脱走したわ!」

 

「へぇ~、ミヤフジの奴やるなぁ」

 

 どうやら窓から外に出て、そのままストライカーで雨の中飛んでいったらしい。

 

「もしこれが上層部に知られたら厄介なことになる。その前に急いで連れ戻さないと──」

 

 ミーナの言葉を遮るように、壇上の電話が鳴った。嫌な予感を感じながら受話器をとったミーナは、深刻な面持ちで伝達事項を皆に伝える。

 

「──司令部より、宮藤芳佳軍曹の撃墜命令が下ったわ。出撃メンバーはすぐに支度をするように……司令部直々の指示で、既にユーリさんが先行して向かっているそうよ」

 

「ユーリが……!?」

 

「アイツ、いないと思ったら……」

 

「彼なら大丈夫だとは思うけど、我々も早く合流しましょう──」

 

 ミーナの指示の下、カールスラント組とシャーリー、ルッキーニの5人で芳佳とユーリの追跡が始まった。

 雨で視界が悪い中でも戦えるサーニャとエイラは念のため基地で待機。ペリーヌは美緒の看病。そしてリーネは、脱走した芳佳の代わりに今日1日自室で謹慎しているよう言い渡された。

 

 格納庫から飛び立っていく出撃メンバー。そんな中、ハルトマンはバルクホルンに囁く。

 

「……ねぇトゥルーデ、ユーリは上から直接言われてミヤフジを追っかけてったんだよね?」

 

「話を聞く限りではな。それがどうした?」

 

「……まさかユーリ、本当にミヤフジを撃ったりしないよね?」

 

「そんな訳あるか。あのザハロフだぞ?501に来たばかりの頃ならまだしも、今のあいつが脱走兵とはいえ仲間を撃つはずがない」

 

「そーだよね。だったら、いいんだけどさ……」

 

 ミーナを介してではなく、上層部から直接ユーリへの指示が飛ぶ──普通ならまずないこの状況に言い知れぬ不安感を募らせていたハルトマンは、この感覚が杞憂で終わることを強く願いながら、先を急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、一足先に芳佳を追いかけたユーリは、日が昇った空の中、少し離れた所に芳佳の姿を見つけた。武装はしておらず、ユニットだけを履いている。

 

「あの辺は……そうか、この前の──」

 

 芳佳が目指していた場所は、以前人型ネウロイと遭遇した場所だった。そこから少し行けば、ネウロイの巣がある。

 

「──宮藤さん!」

 

「っ……ユーリ、さん」

 

「──宮藤芳佳軍曹。あなたは脱走兵として、現在身柄を追われる立場にあります。おとなしく投降してください」

 

「ユーリさんお願いです!私、自分の目で確かめたいんです!」

 

「それはできません──宮藤軍曹、もう一度言います。投降してください。これ以上は、あなたに銃を向けることになる」

 

「ユーリさん……っ!」

 

 勿論、ユーリとて芳佳に銃を向けたくはない。ましてや撃つなど以ての外だ。だがこのままでは芳佳は再びあの人型ネウロイと接触し、今度こそ帰ってこれなくなってしまうかもしれないのだ。

 

「…そうです、ユーリさんも一緒に!直接見ればきっと分かります!だから──」

 

 尚も食い下がる芳佳に、いよいよ銃を向けようとした瞬間──どこからか、黒い影が飛来した。例の人型ネウロイだ。

 ユーリはすぐさま距離をとり、銃口を突きつける。芳佳はその間に割って入った。

 

「待ってくださいユーリさん!」

 

「宮藤さん…あなたという人は……!」

 

 歯噛みするユーリだが、確かにネウロイが芳佳の無防備な背中を攻撃する様子はない。それどころか、以前交戦したユーリにさえも敵対の意思はないとばかりに何もしてこないのだ。

 

 少しだけ考えたユーリは、僅かに銃口を下げる。

 

「──そこまで言うなら行きましょう。ただし危険だと感じた時は、例えあなたが割って入ろうと躊躇なく撃ちます。それでいいですね?」

 

「ユーリさん……ありがとうございます!」

 

 そう言って顔をほころばせる芳佳。それとは対照的に無表情──というかそもそも顔が無い人型ネウロイは、2人をガリア方面──ネウロイの巣へと案内し始めた。

 改めて見ると、巣の巨大さには圧倒される。一体どのような原理・方法でこんなものが作り出されたというのか。

 

 人型ネウロイは巣の下に空いた穴から内部に入っていく。芳佳とユーリはその後に続き、前人未到のネウロイの巣へと足を踏み入れるのだった。

 

「すごい……雲の廊下みたい」

 

「何があるか分かりません。十分気をつけてください」

 

 通路を道なりに進むこと数分──やがて2人は開けた球状の空間に出た。中には灯りがないはずだが、不思議なことに芳佳達はお互いの姿を視認できている。

 

「これが……ネウロイの巣の内部」

 

 思わずユーリがそう零した瞬間、フラッシュと共に空間の壁面に幾何学模様が走り、眼下に欧州地域の地図が映し出される。その上では、煌々と光る結晶体を前にした人型ネウロイがこちらを見上げていた。

 

「あれって、コア……だよね」

 

「宮藤さん──!」

 

 緊張の面持ちで人型ネウロイとその傍らに浮かぶコアの元へ向かった芳佳。ユーリはまだ人型に対する警戒心が拭えないこともあり、少し離れた場所から彼女たちの様子を見ている。

 

「あ、あの──!」

 

 芳佳が意を決してネウロイに話しかけようとした瞬間、彼女を囲むようにいくつもの窓が浮かび上がる。どうやら映像を映し出すディスプレイの役割を持っているらしいその窓は、まず一番最初に地球を、次に突如現れた世界最初のネウロイの巣へ人類が攻撃を仕掛けていく映像を映し出した。

 機銃をばら撒きながら飛行する航空機を、ネウロイは深紅の閃光でいとも容易く撃ち落としていく。やがて場面は転じ、ネウロイが街を火の海にしていく光景を挟んで、ウィッチ達との戦いの様子に移り変わった。

 海上を這う様にして飛び、幾筋もの閃光を掻い潜るウィッチ──その正体は、なんと美緒だった。

 

「坂本さん……!」

 

 恐らくこれは過去の戦いの記録映像。負傷している美緒が現在進行形で戦っているわけではないはずだが……彼女も責任を感じていたのだろう、芳佳の口から悲鳴にも似た声が漏れた。

 

 そして映像は再び切り替わるのだが……映し出されたのは、奇妙な光景だった。

 

「これ…ネウロイの、コアの破片……?」

 

 白衣を着た男達は、撃墜されたネウロイの破片を回収。そして再び場面は変わり、今度はどこかの建物の中のようだ。ガラス張りのケースの中で輝くコアと、そこから伸びるケーブル。その行き先を見たユーリは、鋭く息を飲んだ。

 

「何、アレ……?」

 

 一体自分が何を見せられているのか分からない、といった様子の芳佳だったが、またも移り変わった映像を見て小さく驚く。次に映し出されたのは、芳佳がこの人型ネウロイと始めて接触した時のやり取りだった。

 ユーリ曰く、この時芳佳はネウロイに洗脳されかけていたのではないかという話だったが……

 

(私は──)

 

 芳佳はネウロイに向かって右手を差し出す。対する人型ネウロイも、人間の手の形に変化させた右腕を芳佳に向けて差し出した。

 ユーリは万が一の時すぐに撃てるよう、シモノフのトリガーに指を掛ける。後は指に力を込めるだけ……ほんの僅かな時間ながら、実際よりも長く感じられた緊張の瞬間は、何かを感じ取ったらしい人型ネウロイの消失によって破られた。

 

「──ッ!?」

 

「待って!──ねぇ!どこに行ったの!?」

 

「宮藤さん、とにかくここを出ましょう!」

 

「でも──!」

 

「外で何かが起きているのは確かです。それを確かめるためにも、まずは外に出ましょう。出口は僕が作ります」

 

 ユーリは手近な壁に向かってシモノフを構えると、薬室内の銃弾に魔法力を充填する。

 

(ここはネウロイの巣だ。多分、普通よりも装甲は硬いはず──)

 

 いつもより多くの魔法力を充填させたユーリは、引き金を静かに絞る。轟音が中の空間に反響し、徹甲弾が壁面に衝突する──!

 

「──さあ早く!あの程度じゃすぐに再生します!」

 

 爆煙が晴れると、そこには直径1メートル程の穴が空いていた。何とか人1人がくぐり抜けられる大きさだが、もたもたしていてはユーリの言う通りすぐに塞がってしまうだろう。

 ユーリに促されて何とか迷いを振り切った芳佳は出口に向かって真っ直ぐ飛ぶ。外に出るまであと少し──そんな時だった。

 

 ユーリが穴を開けた壁とは別の方向から、突然深紅の閃光が奔った──!

 その閃光は2人のいる方向に向かって近づいてくる。

 

「宮藤さん急いで──ッ!」

 

「わぁあああああぁぁぁ──!」

 

 閃光はコアを消し去り、その勢いのまま芳佳達まで巻き込もうとしてくる。ユニットのエンジンを全開にしたユーリ達は、辛くも外へ脱出することに成功するが……

 

「ッ──宮藤さん!」

 

 巣が破壊された衝撃で吹き飛ばされた芳佳は、意識を失って真っ逆さまに落ちていく。すぐさま助けに向かおうとしたユーリだったが、それよりも早く彼女の元にたどり着いたシャーリーとルッキーニによって芳佳の身柄は無事に確保された。

 

「大丈夫?芳佳」

 

「うん……」

 

「…あれは──」

 

 巣の外で待機していたらしいミーナ達と合流したユーリは、基地がある方向へ高速で飛び去っていく何かを目にする。その正体については一先ず置いておき、ユーリはミーナの前に進み出た。

 

「ミーナ隊長。連絡が遅くなり申し訳ありません」

 

「そのことに関してはまた後で報告を。──宮藤軍曹、無許可離隊の罪であなたを拘束します」

 

 芳佳を囲むようにして、一行は基地へ進路を向ける。ミーナ共々最後尾で芳佳を見張っていたユーリは、前方に見えてきた501基地の滑走路に何者かが立っているのを見つけた。数は8~9人程だろうか。

 

 怪訝に思いながらも着陸したミーナ達は、自分達を待ち構えていた人物と向かい合う。

 

「──脱走兵の確保、ご苦労だった。ミーナ中佐」

 

「……まるでクーデターでも起こすようですね、マロニー大将」

 

 多数の兵士と銃口を以てミーナ達を迎えたのは、ブリタニア連邦の空軍大将──トレヴァー・マロニー。以前ミーナに脅迫染みた内容の手紙を寄越したとされている男だ。

 

「クーデターとはとんでもない。これは正式な命令に基づいた配置転換だよ」

 

 マロニーの手に握られているのは、ブリタニア空軍司令部からの文書。ミーナとてこれが偽物だとは思わないが、それでも彼らがウィッチ達に銃を向ける理由が分からない。

 

「これより、この基地は私直属の配下である第1特殊強襲部隊──ウォーロックが引き継ぐことになる」

 

 マロニーの言葉と共に、どこからか飛来した流線型の航空機。機首部分を展開し人型に変形したソレは、ゆっくりとマロニーの背後に降り立った。

 

「君たちは既に現場で目にしているだろうが、これは我々が開発した対ネウロイ殲滅無人兵器〔ウォーロック〕──君達ウィッチに代わる、人類の新たなる武器だ」

 

「こんなものが……」

 

 ミーナ達は先の戦場でウォーロックが人型ネウロイを一瞬で撃破したのを目撃している。自分達に秘密裏でそんな兵器が開発されていたことに驚きを隠せずにいた。

 そこへ基地の中から兵士達に連行されてきたリーネ、エイラ、サーニャ、そして美緒とペリーヌが合流し、ウィッチーズが全員集合する。

 

「それにしても、ミーナ中佐。私は脱走兵を撃墜するよう命令したはずだが?」

 

「存じています。ですが──」

 

「隊員は脱走を企て、それを管理する部隊長は上官の命令を守らない……全く残念だ、ウィッチーズ諸君──本日只今を以て、第501統合戦闘航空団ストライクウィッチーズを解散する!」

 

「えっ…そんな!どうしてですか!?」

 

「どうしてだと?それを君が問うのかね、宮藤軍曹」

 

「それは…っ、でも!だったら私が501を抜ければ──!」

 

「最早君が除隊して済む話ではないのだよ!ネウロイと戦う人類の守護者とも言えるウィッチーズの部隊がこうも無秩序なのが問題なのだ。そんな君達に、我が祖国であるブリタニアの防衛を任せるわけにはいかん!」

 

 マロニーの言葉は一応、筋が通っている。事実、501の面々──というかハルトマンを始めとするトラブルメーカー達はこれまでも命令違反で処分を受けた事があるし、それも1度や2度ではないのだ。

 

「501の隊員諸君は可及的速やかに原隊に復帰してもらう。今から荷物を纏めておくように」

 

 踵を返すマロニーに尚も食い下がろうと口を開いた芳佳だったが、背後に屹立するウォーロックを見て、ある事を思い出す。

 

「……そうだ、私見ました!それがネウロイと同じ部屋──実験室のような部屋の中で一緒にいるのを──」

 

「なっ……何を言い出すかと思えば、妄言も大概にしたまえ!最後くらい、大人しく命令に従ったらどうだね!」

 

 憤慨するマロニーだったが、すぐに落ち着きを取り戻す。そして──

 

 

「それと──()()()()()()()()()()()()()()と命令したのが聞こえなかったか?いつまでそちら側にいる気だ──ユーリ」

 

 

 驚愕の表情を貼り付け、501の全員が一斉に後ろを振り向く。これまでずっと顔を俯けて言葉を発しなかったユーリは、黙って前に進み出る。

 

「ユーリ……お前まさか」

 

「どういうことだよ……!?」

 

「まさか、ワタクシ達をずっと騙して……!?」

 

 口々に飛び交う言葉には一切答えないままマロニーの前で足を止めたユーリは

 

「……命令、了解しました。これより…原隊に復帰します」

 

「よろしい。以上で解散とする。ウィッチーズの諸君は直ちに荷物を纏めるように」

 

 今度こそこの場を立ち去るマロニー。少し遅れて後に続こうとしたユーリの背中を、サーニャとエイラが呼び止めた。

 

「ユーラ!」

 

「オマエ…本気でアイツのとこに行くのカ!?」

 

「……本気もなにも、()は元々こちらの部隊の所属です」

 

「でも……!」

 

「──リトヴャク中尉。コレは、お返しします。……もう、私が持っているべき物ではありませんから」

 

 そう言ってサーニャに差し出されたのは、以前ユーリの誕生日にプレゼントしたヘアピンだった。

 

「オマエ……ッ!」

 

 怒りが限界に達したらしいエイラはユーリに掴みかかろうとするが、ユーリはヒラリとそれを躱す。基本的に対ネウロイを想定した戦闘訓練しか積んでいない彼女達とは違い、ユーリは対人戦の訓練も経験している。格闘戦に於いて素人同然のエイラをあしらう程度、造作もなかった。

 

「既に命令は更新されています。皆さんも早く、ご自分の原隊へ復帰なさってください。──失礼します」

 

 ここまで一度として誰とも目を合わせることなく一礼したユーリは、格納庫へと入っていく。

 もう、ユーリを呼び止める者は誰もいなかった。

 




いつか別作品で「501出撃します!」にユーリを登場させた話を書いてみたいなーとか思う最近です。
反面「出撃します!」は時系列が2になってからなので、書くならまずは2まで行かなきゃかぁ…とも思ったり。
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