多分無印の話が終わるのは次回か次々回あたりになると思うので、その中にどれくらいユーリに関する情報を入れられるか分かりませんが。
もしかしたら本編で書ききれなかった情報とかが載るかなーといった感じです。
マロニーの命令によって解散する事となった501JFW。
同日の内に基地からの退去を命じられた隊員達は、各々の荷物を持って基地を出ようとしていた。
「──全員、忘れ物は無いな?」
「はい……」
元々ブリタニア出身のリーネは然して問題はないが、芳佳達扶桑組と美緒の付き添いであるペリーヌは、以前にも世話になった空母赤城に乗って帰る手筈になっている。シャーリーとルッキーニは古びたレシプロ機。サーニャとエイラは貨物列車の荷台に揺られて北方大陸行きの列車が停まる駅へ、それぞれ出発した。
そしてミーナ達カールスラントの3人がバスに乗り込み出発したのを基地の窓から見送ったユーリは、基地の指令室へ足を向ける。
かつてとは随分様変わりしてしまった指令室ではマロニー直属の部下達が忙しなく動いており、どうやらウォーロックの調整を行っているようだ。
「──閣下。1つ、お伺いしたいことがあるのですが」
「何だ、私は見ての通り忙しい。手短に済ませろ」
指令台に立つマロニーの元へ向かったユーリは、帰還した時からずっと気になっていた疑問を投げかける。
「──ウォーロックの動力にネウロイのコアが利用されているのは本当ですか?」
一瞬、マロニーの目が見開かれる。
「……
ユーリがこの事を知ったのはミーナ伝手ではなく、ネウロイの巣で人型に見せられた映像が原因だ。
「私もウォーロックのことは存じ上げていましたが、開発にネウロイが関わっているとは初耳だったものですから」
「……お前は考えたことがあるか。ネウロイをこの世から撃滅した後の事を──」
世界を滅ぼしかねない脅威であるネウロイに対抗できるのはウィッチのみ。如何に過去の戦いで功績を積み上げた優秀な軍人であろうと、ネウロイ相手では全く歯が立たず、今やウィッチの方が国に対する影響力を強めつつある世の中だ。現にここブリタニア戦線でも、国民や皇室から支持されているのはブリタニア空軍ではなく、あくまでウィッチ達のいる連合軍なのだから。
いくらネウロイと戦う力があるとはいえ、年端もいかない少女達が英雄だなんだと持て囃されるこの状況を政治的に見た場合、快く思わない者はマロニー以外にもごまんといる。
ならば、ウィッチに頼らずともネウロイを倒すことのできる手段を手に入れればいい──そういったコンセプトの下に開発されたのがウォーロックだった。
毒を持って毒を制す──既存の兵器が通用しないネウロイに対し、同じネウロイの力を軍事利用することで敵を倒そうと試みたブリタニア空軍は、秘密裏にネウロイのコアを回収し、こうしてウォーロック
これが完成に至れば、ウィッチ達よりも遥かに高い火力、遥かに高い速度でネウロイを撃滅することができる。何より機械なのだから、壊れた箇所は修理すればいいだけ。生きた人間であるウィッチよりも圧倒的に使い勝手がいい。
そんなマロニーの「ウォーロック計画」実現の下準備として501に送り込まれたのが、ユーリだった。
来るウォーロックの量産態勢を確立させるに当たり、マロニーの養子であるユーリが前線で戦果を挙げることで、マロニーの発言力を高める狙いがあった。
当然、〔炸裂〕という強力な魔法を有するユーリの存在が明るみに出れば、連合軍はユーリを自分たちの勢力に引き込もうとするだろう。そうさせない為に、ブリタニア空軍はウォーロック共々ユーリの存在をもここまでひた隠しにしてきたのだ。
計画が順調に進めば、ブリタニアの技術の粋が込められたウォーロックが世界中で戦果を挙げ、救世の英雄としてネウロイがいなくなった世界の
──そうなるはずだったのだ。
「それもこれも、あの忌々しい扶桑の小娘のせいで全て台無しだ!奴がネウロイと接触するような事態さえなければ、まだ未完成なウォーロックを前線に出すこともなかった!」
ウィッチーズを排斥した今、ブリタニアに残された戦力はウォーロック零号機とユーリのみ。
これから彼らがやろうとしている事を考えれば、多勢に無勢は免れない過小戦力だ。
「ユーリ、お前にもウォーロックと共に出てもらうぞ。聞いての通りウォーロックはまだ未完成だ、そのフォローに回れ。いいか、今こそ欧州に巣食うネウロイ共を全滅させ、お前の父親の──ラファエルの仇を取るのだ!」
「……任務了解。与えられた命令を、遂行します」
一礼して司令室を後にしたユーリは、一旦自室に立ち寄ってから滑走路へ向かう。
これまで発着に使っていた格納庫入口には長大な鉄骨が突き立てられ、厳重に封印されている。唯一ユーリのユニットとハンガーだけが外に運び出されており、1人の整備兵がユニットの最終チェックを行っていた。
「ザハロフ曹長。ストライカーユニットの整備、既に完了しています」
「ご苦労様です」
「……我々も、元いた基地へ帰ることになります。この基地で、最後にあなたのユニットを整備させて頂けて光栄でした」
「……思えば、整備兵の皆さんにも結構なご迷惑をおかけしましたね」
「とんでもないですよ。…ザハロフ曹長がユニットがボロボロになるような無茶をするのは、それだけ、我々整備兵の事を信頼してくれているからだと、皆勝手にそう思っていましたから。……私はこれで失礼します。ご武運を」
敬礼してその場から走り去っていく整備兵の後ろ姿を見送ったユーリはユニットを履くと、ケーブルに繋がれた状態ですぐ横に屹立するウォーロックを見上げる。
「………」
暫し無言でウォーロックを凝視し続けるユーリだったが、インカムから司令室の声が聞こえてきたことで意識を引き戻す。
『──これより、ガリア地方制圧作戦を開始します。作戦内容は、欧州地方を占領するネウロイの巣の排除。主にネウロイ討伐はウォーロックが請負い、万が一討ち漏らした個体が出た場合はザハロフ曹長、フォローを頼みます』
「任務了解。出撃準備、完了しています」
ユーリがハンガーに格納されたシモノフを掴むと同時に、ウォーロックも作戦前の最終調整を終えて起動する。
『ウォーロック零号機、発進せよ──!』
両足からエンジンを噴かせたウォーロックは、見る見る内に加速していく。滑走路から離陸する直前に、先んじてハンガーから発進していたユーリが急遽増設された機体背部のグリップに掴まった。
動力からしてウィッチとは一線を画するウォーロックの加速力は凄まじいもので、あっという間にストライカーの出せる平均速度を越えてみせる。直後に高速飛行形態へ変形したウォーロックは、ユーリを連れてガリア方面へ一直線に飛翔していった。
少し、時は戻り──基地から離れたバス停では、ミーナ達カールスラントの3人がバスを途中下車していた。本来はもう少し基地に近い場所で下りたかったのだが、マロニーの手の者の監視が中々離れてくれなかったのだ。
「──やっと監視もいなくなったわ」
「……このままカールスラントに帰って、祖国奪還の為に戦った方が良かったかもな」
「…何言ってんの?引き返そうって言いだしたの、トゥルーデじゃん」
「や、それはだな…!宮藤には、借りがあるから……」
「にひひっ、そうだねぇ。でっかい借りがね~?」
ユーリが501に入ってくる前の事だ。当時のバルクホルンは、妹が半ば植物状態も同然になったことで自分を顧みない無謀な戦い方をしており、それが祟って戦闘中に負傷してしまった。重傷を負った彼女は芳佳の治癒魔法によって命を救われ、それが、後に目を覚ました彼女の妹との再会に繋がったのだ。
あの時芳佳に救われていなければ、バルクホルンは妹を独り残してこの世を去っていたかもしれない。以降、芳佳には返しても返しきれない程の大きな恩ができた。
「つ、つまりだな!アイツを失意のまま扶桑に帰してしまっていいのか!?誇り高きカールスラント軍人がそんな真似を──!」
「はいはい、気持ちは十分に分かってるわ」
まくし立てるバルクホルンを抑えたミーナは、真剣な表情で基地の方を見据える。
「それに、宮藤さんが言ってた事も気になるの」
「それって…ネウロイと友達になるー!ってやつ?」
「いいえ。あの時宮藤さんは、ウォーロックがネウロイと接触していたかのような事を言っていたでしょう?」
「ああそっちか。でも、信憑性には欠けるんじゃない?だってネウロイの巣で見たって言うんでしょ?」
「そうだな。こちらを同士討ちさせようという敵の罠かもしれん」
「……少なくとも、宮藤さんの言葉が嘘か誠か──それを確かめられるかもしれないわ」
「え?なになに!?もしかして、基地に盗聴器とか仕掛けてあるの?」
「そんな暇が無かった事はお前だって分かっているだろう、ハルトマン」
「盗聴器は無いけれど──コレがあるわ」
ミーナがポケットから取り出したのは、飾り気の無い1通の手紙だった。
「……何それ、誰から?」
「丁度2人が居ない時だったから、知らないのも無理はないわね。これは、ユーリさんから渡されたものよ」
「なっ…ザハロフの奴が……!?」
──短期間とはいえあなたの部下でしたので、ご挨拶くらいはしておくべきかと
基地から出発する直前──ミーナが1人になった所を見計らって、ユーリはこの手紙を手渡した。
その場では開封しないよう念押しすると、用は済んだとばかりに立ち去ったユーリだったが、手紙の内容に関しては一切聞かされていない。
「……ミーナ、それってアレじゃないの?ほら、ラブなレター的な」
「バッ、バカを言うなハルトマン!あああのザハロフだぞ!?そんな、上官にいきなりラッ…ラブレターなど渡すはずが…!」
「何でトゥルーデが動揺してんのさ……?」
「ともかく、開けるわよ?」
ハルトマンの冗談はさておき、あのユーリの事だ。このタイミングで意味のない事はしないはず。
一縷の期待と共に、ミーナは便箋を広げた。
───────
既に501部隊は解散し、私は元隊員…最早そう自称するのも烏滸がましい身の上ではありますが、
短い間とはいえあなたの部隊に所属していた以上、隊長であるミーナ中佐の命令は全て完遂すべき
そう判断しました。
よって紙面上とはなってしまいますが、隊長に命じられた最後の命令を以下にて遂行します。
報告:〈ユーリ・ザハロフ、宮藤芳佳両名によるネウロイの巣内部調査の結果〉
ネウロイの巣の内部にて、人型ネウロイは敵対行動は取らず、我々に過去の戦いの
何かを訴えてかけているような印象を受けました。
先の宮藤軍曹が口にしていた
「ネウロイの巣の内部にてウォーロックがネウロイと接触している光景を見た」
という証言ですが、私も彼女と同じものを目にしています。よって彼女の証言は真実であります。
また、信じるかどうかはお任せする他ありませんが、私は洗脳らしき攻撃は受けていません。
まだ確認こそ取れていませんが、ウォーロックにはネウロイの技術が秘密裏に利用されている。
その可能性が非常に高いと推測されます。
報告は以上です。
これをどこで読まれているか、私には分かりません。
しかし、この事実を知ってもどうか、何もせずに原隊へお戻りください。
未知の部分が多いネウロイの技術を搭載したウォーロックは確かに危険です。
ですが同時に、ネウロイに対する強力な兵器に成り得るのもまた事実。
こんな方法しか取れない自分を情けなく思うばかりですが、
これでもう、皆さんが危険を冒してまでネウロイと戦う必要は無くなります。
どうか、私に任せてください。
───────
ミーナが最後まで読み終えると、それを聞いていたバルクホルンは強く手を握り締める。
「"何もするな"…?ユーリの奴、一体何を考えてる!?ウォーロックにネウロイの技術が使われている事を
「本気で止めに行った方がいいんじゃないの?コレ」
「そうね…少なくともコレが書かれた段階では、まだ情報の裏を取った訳ではなさそうだけど」
鉛筆で書かれた手紙から目を離さずに答えるミーナは、末尾の一文の下に何やら跡が残っていることに気づく。恐らく一度書いた文章を消したのだろう。綺麗に消してあるが、鉛筆の芯が刻みつけた筆跡までは消しゴムでは消せない。
少し考えたミーナは地面をなぞって指先に土埃を付けると、件の箇所を軽く擦り始める。同じ事を何度か繰り返す内に、僅かに凹んだ筆跡部分が土汚れの中に文字を浮かび上がらせた。
そこには……
──万が一ウォーロックが悪用されたり、人類にとって危険な存在となった場合
──その時は、僕が責任を持って全てのウォーロックを破壊します
という旨が書かれていたようだ。
「本気…なのかな?」
「確かに、ユーリさんの魔法ならウォーロックを破壊することは不可能ではないでしょうけど……」
ミーナ達3人は、ウォーロックが実際に戦う場面を目にしている。ストライカーよりも遥かに高い速度を出し、ネウロイにしか使えないはずのビーム兵器を搭載したウォーロック相手では、彼1人で勝てるとは思えない。
「ウォーロックが敵になるのは分かるが、悪用とはどういうことだ?」
「……多分だけど、ユーリさんはこの戦いが終わった後の事を言ってるのよ」
このまま計画が進められれば、十中八九ウォーロックは量産されるだろう。そしてその圧倒的な力で世界中のネウロイを駆逐したとする。その後の世界に於いて、ウォーロックは果たしてどうなるのか?
以前、ミーナは美緒とこんな話をしたことがある。
──もしネウロイがいない世界であったなら、きっと人間同士で争っていたのではないか──
その時は冗談交じりに口にした言葉だったが、今になってそれが現実味を帯びてきている。
ユーリがその時のことを覚えていたのかは定かでないが、ネウロイとの戦いでウォーロックが敵に回るにせよそうでないにせよ、役目を果たした後、アレが人類に牙を向ける前に破壊する。そう言っているのだ。
「──すぐにでも基地へ戻りたいところだけど、流石に警備が厳重なはずだわ。今はとにかく、反撃の機会を伺いましょう」
ユーリを止めに行く事ができないのを歯がゆく思いながらも、バルクホルン達は離れた場所にある基地を見据えるのだった。
──亜音速で飛行するウォーロックから振り落とされないよう、前方にシールドを張って衝撃から身を守っていたユーリは、程なくしてネウロイの巣へ到達した。キリのいい場所でグリップから手を離したユーリは、そのまま巣に突撃していくウォーロックを見送りながら自身もシモノフを構える。
敵の接近を察知したらしいネウロイ陣営も、巣の中から幾筋もの閃光をウォーロックに浴びせるが、飛行形態のウォーロックは難なくそれらを躱していく。
しびれを切らしたように黒雲の中から姿を現した大型ネウロイが一層苛烈な攻撃をウォーロックに放つ。それを正確無比な動きで回避しながら、ウォーロックは先端の機首を展開。敵が打つのと同じ真紅の閃光を放った──!
ウォーロックの光線はネウロイのコアを正確に撃ち抜き、大型ネウロイは登場から程なくして機体を無数の破片へと四散させた。
「……こちらユーリ。ウォーロック零号機、大型ネウロイを撃破しました」
『フハハハッ!見たか!最早、我々の力はネウロイを超えたのだ!』
無線越しに高笑いするマロニーを他所に、ユーリは目の前に依然健在の巣を見上げていた。改めてウォーロックの力に内心舌を巻いていたところだったが、そんな余裕もすぐに吹き飛んだ。
『──閣下!新たなネウロイが2機…いえ、3機出現しました!』
『構わん、殲滅しろ!』
ウォーロックはもう一度真紅の閃光を放つ。その攻撃はやはり敵を一撃で撃破するが、敵が減る傍から新たな敵がわらわらと湧いてくる。人型の戦闘形態に移行したウォーロックは両腕から光線を放ち攻撃の手数を増やすが、それでも敵の増加速度には追いつけない。
『ネウロイの数、8…9…10…どんどん増えています!このままでは、ウォーロックの処理能力が限界を迎えて最悪停止する危険性が……!』
『ぐぬぅ……ユーリ!』
「戦闘行動を開始します──!」
ユーリは既に照準済みだったシモノフのトリガーを絞り、ウォーロックの刺客にいたネウロイを撃ち抜く。〔炸裂〕の魔法により機体内部で爆発した徹甲弾は、内部のコアごとネウロイを木っ端微塵に撃ち砕いた。
間髪入れず次の目標──今まさにウォーロックへ攻撃しようとしている個体に狙いを定め、引き金を引いた。轟音と共に放たれる徹甲弾がネウロイを次々粉砕していく。未だ増え続ける敵の一部をユーリが引き受けた事で、ウォーロックの処理能力にもいくらか余裕が戻った。そのタイミングを見計らい、マロニーは新たな指示を部下たちに飛ばす。
『
『しかしこのシステムを使うには、共鳴させるコアを持ったウォーロックが最低5機必要です!1機しかいないこの状況で発動すれば、仮に正常可動しても零号機は回路が焼き切れて使い物にならなくなります!』
技術主任の意見で悔しげに歯噛みするマロニー。その間にも、ユーリはウォーロックを必死にネウロイ達の攻撃から守っていた。
残弾も残り少ない中、撃ち尽くした弾倉クリップを交換し、再び狙撃態勢に入った瞬間──背後に庇っていたウォーロックからキィィィン、という甲高い音が鳴り響いた。
「これは……!?」
決して心地いいとは言えない金属が擦れるような音に顔を顰めるユーリが周囲を見回すと、そこには驚くべき光景が広がっていた。
これまでウォーロックとユーリに集中砲火を浴びせていたネウロイ達が突如攻撃を止め、周辺を一定の軌道で周回し始めたのだ。それだけでなく、巣の中から次々と新たなネウロイ達が現れてはその輪の中に加わっていく。
『コッ…C・C・Sが勝手に動いています!どうやら、ウォーロックが自らシステムを起動した模様……っ!』
『……ウォーロックのC・C・S、正常に稼働しています!巣に存在していた全てのネウロイを制御下に置きました!これは予想以上です……!』
指令室に設置されたモニターには、ウォーロックによって形成された制御ネットワークに無数のネウロイが支配されている様が映し出されている。兵士達がそれを驚きと喜びに満ちた表情で見ていると、突然周囲のネウロイの反応が凄まじい勢いで
同じ頃、戦場ではウォーロックを中心に周囲を漂っていたネウロイ達が一斉に攻撃を始めていた。ただしその矛先が向いているのはウォーロックでも、ユーリでもない。絶え間なく飛び交う真紅の閃光が向かう先は、仲間であるはずのネウロイだった。敵は急に同士打ちを始めたのだ。
時折飛んでくる流れ弾は全てウォーロックの斥力場シールド──当然、魔法力由来のものではない──によって阻まれ、即座に撃ち返された光線で撃墜される。結果として、ウォーロックの最小限の動きだけでネウロイの群れを瞬く間に壊滅させることに成功した。
「…こちらユーリ。ウォーロック、ネウロイを全て殲滅しました」
ユーリの報告を聞いて、インカムの向こうで歓喜に沸く指令室。そんな中、不意にウォーロックの反応を示すビーコンが消失した。
『なんだ…?──閣下!ウォーロックがこちらからの制御を遮断したようです』
『何だと…?ユーリ!そちらはどうなっている!?」
「ウォーロックには特別変化は見られませんが……」
そう言って背後を振り向いたユーリは、鋭く息を飲んだ。そして即座にそこから距離を取る。
「……前言を撤回します。ウォーロックに異変が起きているようです」
いつでも撃てる状態でスタンバイしたユーリの眼前では、漆黒に染まったウォーロックがメインカメラを赤く光らせていた。
そして次の瞬間、ウォーロックは急激に高度を下げて飛び去っていく。直ちに後を追ったユーリの視界の先では、一隻の艦船が海上を進んでいた。
(あれは確か…赤城。宮藤さん達が乗っているはずの船)
ふと嫌な予感が頭を過ぎった──ユーリはユニットのエンジンを全開にして、全速力でウォーロックに追いつこうとする。
「間に合え──っ!」
彼我の距離は約200メートル程──あと少しというところで動きを止めたウォーロックは、両腕を広げて真紅の閃光を放った──あろう事か、赤城に向かって。
海上を駆け抜けた膨大な熱量が弾け、衝撃と爆音を伴い海面を割る──幸いな事に直撃こそしなかったが、赤城艦内は大きな揺れに見舞われていることだろう。
『扶桑の空母アカギが攻撃を受けています!』
『何ィ!?』
『ウォーロック、制御不能──暴走しています!!』
『馬鹿なッ!?』
マロニーの側近はウォーロックの緊急停止を打診するが、マロニーはこれを却下する。マロニーの悲願の根幹を成す貴重な試作機だ。今緊急停止シークエンスを発動してしまえば機体は海中に没し、回収できなくなる。仮にそれが叶ったとしても、ここまでひた隠しにしてきたウォーロックの存在が明るみになる事は避けられないだろう。そうなれば当然連合軍のウィッチ達からの横槍が入り、計画は頓挫・凍結してしまう。それだけは何としても避けねばならない。
だが味方を攻撃しているこの状況を放置しておくわけに行かないのもまた事実。歯噛みしたマロニーは、断腸の思いで決断を下した。
『止むを得ん……緊急停止の用意をしろ!』
『はっ!』
司令室で対処が行われる最中、現場では赤城が自衛の為戦闘態勢を取ったところだ。対空兵装を展開した赤城は機銃の一斉掃射で弾幕を張り、ウォーロックの攻撃を封じる。ユーリも赤城の攻撃に巻き込まれないよう、遠距離狙撃で援護をしていた。
司令部がウォーロックを緊急停止させる決断をしたのは耳に入っている。あと少し時間を稼げば、この混乱も終息するはずだ。
(頼む、急いでくれ──!)
あの船には芳佳だけでなく、車椅子状態で自由に身動きできない美緒と、付き添いのペリーヌも乗っているのだ。彼女達を無事に扶桑へ返す為にも、赤城を落とさせるわけには行かない。
『──準備、完了しました!』
『やれ!緊急停止──!』
マロニーの指示で、ウォーロックの緊急停止シークエンスが実行される。その結果はすぐに明らかとなった。シールドで対空射撃を防いでいたウォーロックの動きが急激に緩慢になり、シールドが消滅。対空射撃を受けて機体は撃墜された。
──かに思えたが。
爆煙の中から無傷のウォーロックが姿を現し、赤城に向かって本格的に攻撃を始めた。2筋の閃光が航空甲板を切り裂き、長大な光はそのまま遥か遠方の基地にまで到達。埠頭の一部を焼き払った。
『ぬぅ…何故だ!?何故停止しない!?』
『ウォーロック、こちらからの信号を全く受け付けません!』
『こうなれば…ユーリ!ウォーロックを止めろ!』
マロニーに言われるまでもなく、ユーリの行動は迅速だった。周辺を高速で飛行し、一撃離脱を繰り返すウォーロックの軌道を先読みし、的確に銃弾を命中させる。攻撃が妨害されたことで、赤城の乗組員達もユーリの存在に気づいたらしい。誤射しないよう、対空射撃が少し弱まる。
ウォーロックが再び攻撃を仕掛けるまで、ほんの少しだが猶予がある。その隙にユーリは赤城に無線をつないだ。
「空母赤城、聞こえますか?あの機体は私が相手をします。貴艦はすぐにここを離脱してください!それが無理なら全員脱出を!」
『ウィッチ…いや、この声は男か……!?』
「いいから早く──!」
一先ずユーリの要請を飲んだ赤城の杉田艦長は、すぐさま全速転身を命じた。
ゆっくりと進路を変え戦場離脱を開始する赤城だが、当然ウォーロックはそれを許さない。甲板に向けて攻撃をしようと両腕を構える──
「そうは、させない──ッ!」
中距離から放たれた徹甲弾がウォーロックの腕部先端に命中し、攻撃を妨害する。だが当たりが浅いらしく、対ネウロイ戦を想定し頑強に作られている機体を損傷させるには至らなかったようだ。
ウォーロックがユーリを新たに排除対象と認識しているのか、機体がこちらを向いたタイミングを狙って、続く第2射──コアが格納されているはずの頭部を照準した瞬間、ウォーロックは片腕から繰り出した光線でユーリを攻撃してきた──!
それを回避することには成功したが、ウォーロックの狙いはユーリではなかったらしい。ユーリを攻撃した際、空いた片腕はしっかりと赤城を捉えており、真紅の閃光が船体前方の甲板を大きく抉りとった。更にその下に位置していた各主兵装の弾薬に誘爆したことで船体に穴が空き、大量の海水が内部に流れ込む。
このままでは船が沈没するのも時間の問題だろう。
「くっ…この──ッ!!」
ウォーロックに接近しながらシモノフを撃つ──いつもより甘い照準で放たれた徹甲弾、しっかり命中さえすればユーリの固有魔法によって一撃必殺は確実。そうでなくとも、ウォーロックに痛手を負わせるくらいはできるはず──だがウォーロックにはあの斥力シールドがあった。ユーリの弾丸はそのシールドに阻まれ、威力は減衰させられてしまう。
「なら──!」
ユーリは停止した弾丸で〔炸裂〕を発動させる。内部に込められた魔法力が弾け、ウォーロックの至近距離で爆発が起こった。
空母の対空兵器も数発の直撃は耐えてみせた装甲だ。今更外側からの爆発程度で手傷を負わせられるなどとは思っていない。ユーリの狙いは、この爆煙によってウォーロックの視界を僅かにでも封じる事にあった。
ウォーロックも負けじと光線で煙を切り払うが、その先にユーリの姿はない──ユーリの姿は、ウォーロックの背後にあった。
「──この距離なら、シールドは張れない──!」
銃口が狙うのは、ウォーロックの脚部エンジン──確実にコアを撃ち抜くためにも、まず敵の機動力を削ぐ道を選んだようだ。
超至近距離で放たれた徹甲弾は、装甲を
これによって機体の姿勢制御が難しくなったウォーロックはふらつき始め、徐々に高度を落としていく。
このまま海に落ちてくれ──そんなユーリの望みは、いとも容易く裏切られた。両腕を大きく広げたウォーロックが、手当たり次第に光線を乱射し始めたのだ。
幸い射線は上方に向いている為、既に赤城から退艦した船員達が巻き込まれることはないだろうが、時間的にまだ全員脱出できていないはずだ。
光線が船の外装を次々抉っていく中、ユーリは限界まで広げたシールドで船を守る。その背後では、船員達が次々と脱出艇で船外に出ているところだった。このまま船を守りきれれば、ユーリも戦いに集中できる。
できるのだが……残っている弾は僅か1発のみ。予備弾薬も先の戦闘でほぼ使い切ってしまっていた。次の1射を外してしまえば、ユーリの攻撃手段は無いに等しい。
この後どうするか…それを考えながらシールドの維持に注力していると、ユーリの目がシールド越しにあるものを捉え、同時に食いしばっていた口元を一層悔しげに歪ませた。
「クソ…完全にネウロイ化してるのか……!」
今しがたユーリが吹き飛ばしたウォーロックの右足脚──その損傷部から、徐々にではあるが機体が再生しつつあった。もし完全修復を許せば、残弾1発のユーリでは撃破が困難になる。
せめて早く船員達の避難が終わってくれれば、最悪相打ち覚悟の射撃でコアを吹き飛ばすことも可能かもしれない。
やがて、背後から「これで最後だ!」という声が聞こえた。避難完了の合図を受け取ったユーリはシールドの範囲を狭め、ウォーロックに突貫する──!
「ぅ…おおおぉぉぉ──ッ!」
ユニットを全開にしたシールドチャージはウォーロックの姿勢を崩し、一瞬だけ光線の乱射が止まった。その隙を逃さず、ユーリはシモノフの銃口をウォーロックの頭部──コアが格納されている箇所に突きつける。対するウォーロックも両腕の間にいるユーリ目掛けて、両腕の発射口を差し向けた。
間髪入れず引き金が引かれ、ゼロ距離で吐き出される徹甲弾がウォーロックの装甲をえぐろうとした瞬間──ウォーロックはまだ生きている左の推進器を噴かせて急旋回。そのせいで体制を崩されたユーリの銃弾は本来の狙いから逸れる。はずだった──
「──その動きはもう知っている!」
細部こそ違うが、ざっくり言えば以前人型ネウロイにやられた時と同じ事だ。まず外れることのないゼロ距離射撃に於ける急旋回──同じ苦汁を舐めるわけには行かない──!
ユーリは慌てず、急旋回で振り回された慣性に逆らわないよう身体を捻って姿勢を制御する。そして再度銃口を突きつけた。距離こそ多少離れたが、今度こそ外さない。少なくとも残っているもう片方の脚は奪ってみせる。敵の機動力を完全に奪うことさえできれば、今のユーリにもウォーロックを破壊する手段はあるのだから。
だがウォーロック側もただ狙われるばかりではなかった。ユーリに向かって突きつけるのは、機首外側に搭載された機銃──威力では光線に劣るが、実弾兵器である分発射までにラグがない。ましてやこの至近距離…ユーリのシールドが間に合うとは思えない。
そんな声もない考えが交錯したのはほんの一瞬──2種の異なる破裂音が同時に響いた。
片や、小刻みに発せられる軽快な音。片や、空気を穿たんばかりの轟音。
そんな音を伴い発射された大小の弾丸は、お互いに標的を捉えた。ユーリの徹甲弾はウォーロックの頭部ハッチに大穴を穿ち、ウォーロックの弾丸は予測よりも早く展開されたユーリのシールドによって大部分が阻まれたが、それをすり抜けた数発の内1発がユーリの左腕を掠めた。光線に比べれば威力も低く牽制程度にしかならない機銃だが、口径はそれなりの大きさだ。掠った程度とはいえ、ユーリの軍服の袖を引き裂き、その下に隠れていた白い肌を赤く染めるのは容易だった。
「はぁ…はぁ……ッ!」
動力部を打ち抜かれたウォーロックはそのまま海中へ真っ逆さまに落ちていく。その様を痛む左腕を押さえながら見下ろすユーリは、安堵の息をつく。そこへ、下の方から何やら声が聞こえてきた。
──ありがとう!
──助かったぞ!
──アンタのお陰だ!
そんな感謝の言葉をユーリに投げかけているのは、脱出艇に乗った赤城の乗組員達。そういえばと思ったユーリは、波に揺られるボートを1つ1つ確認していく。
「……そんな」
ユーリは、脱出した乗員達の中にいなければならない3人がいないことに気づく──芳佳達だ。
脱出に遅れた?──いや、あの時確かに「自分達で最後だ」という言葉が聞こえた。少なくとも脱出はしているはず。
ならウォーロックの攻撃に巻き込まれて?──いや、強固なシールドを持つ芳佳も一緒にいたのだ。ちょっとやそっとの攻撃で突破されるとは思えない。
何故、何故、何故?疑問符ばかりが頭を駆け巡る。どうして彼女達はいないのだ?
「…僕は、また……守れな……っ」
茫然自失とするユーリ。そのせいで、眼下の海面を突き破ろうとする影に気づくのが遅れた。
盛大な水飛沫を撒き散らしながらユーリのすぐ後ろへ浮上してきたのは、今しがた引導を渡したはずのウォーロックだった。その証拠に、ウォーロックのコアハッチにはくっきり弾痕が残っている。
ユーリの攻撃は間違いなくウォーロックを捉えており、コアにも命中していた。しかしネウロイのコアを兵器利用するにあたってマロニー達がアレコレ手を加えたせいで、通常のネウロイよりもコアそのものの強度が上がっていたのだろう。自分自身を巻き込まないよう〔炸裂〕を使わなかったのが完全に裏目に出てしまった形だ。ウォーロックのコアは徹甲弾に穿たれ欠損しているものの、まだ動ける程度の機能は保持していた。
ギギギ…とぎこちない動作で両腕を持ち上げたウォーロックは、真紅の閃光をユーリに向けて放つ──!
銃弾よりも遥かに速い速度で襲い来る光線。この距離では今度こそシールドも回避も間に合わない。シモノフには最早弾丸は残っておらず、刺し違えることも叶わないだろう。
死を覚悟する暇もなく光に焼かれようとしていたユーリの前に、大きなシールドが展開された。放たれた真紅の閃光はそのシールドが完全にシャットアウトし、ユーリに傷1つ負わせることはなかった。
光線が止むと、間髪入れず銃弾が彼我の間に割って入り、ウォーロックはユーリから離れる。そんなユーリを庇うように前に降り立ったのは──
「──助けに来ました!ユーリさん!」
「宮藤、さん──」
本来持ち得ないはずのストライカーユニットを履き、本来少女には不釣合いな機関銃を携えた扶桑の少女──宮藤芳佳は、
ウォーロックのコアが頑丈に~のくだりは完全ご都合オリ設定です。本当にそんなこと出来たらブリタニアの技術力は世界一ィ!になっちゃいますね。
最初はウォーロックvs芳佳&ユーリにしようと思ったんですが、現時点で501最強の矛と盾が揃ってるならウォーロック相手でも結構楽勝なのでは…?と思ってユーリとサシで戦ってもらいました。一応勝ちはしましたが実質痛み分けですね。