2つに分けようかとも思いましたが、この戦いは今回で終わりとなります。
はい、結構長いです。
尚、ユーリ君のプロフィールもアップ致しました。
ガリア国境付近での戦いにて、芳佳がユーリの助けに入っていた頃──ネウロイと化したウォーロックの攻撃で被害を受けた旧501基地では、ミーナ達が混乱に乗じて基地への侵入を果たしていた。
司令室に乗り込み、固有魔法で強化された持ち前の怪力を以てマロニーの副官を瞬く間に戦闘不能へ追い込んだバルクホルン。これまで前線には出ず、基本的に内地勤めだった他の軍人達は彼女の強さにすっかり萎縮し、抵抗する気も失せたようだ。
デスクに積み上げられていた資料や記録に目を通したミーナは、盛大な溜め息をつく。
「ウィッチーズを陥れる為に、随分色々となさったようですね、閣下?」
険しい表情で自分を見下ろしてくるミーナに、マロニーは悔しげに口元を歪める。
「ウィッチーズに取って代わる戦力を得る為にネウロイのコアを回収。しかもそれを周囲に報告せず、挙句の果てにこのような事態を招いた……他国の船に被害も出ている以上、軍法会議は免れませんよ」
「……もっと早く宮藤の事を信じてやっていれば、こんな事には……ザハロフを1人で行かせることにもならなかった」
バルクホルンの口から溢れたユーリの名前に、マロニーは眉をひそめる。
「……何故そこでユーリの名前が出てくる」
ミーナは、マロニーにユーリから渡された手紙のことを話した。それを聞いたマロニーは驚愕する。
「ユーリの奴め……いつからだ!いつから私を裏切っていた!?」
「っ……元はと言えば貴様のせいだ!トレヴァー・マロニー!貴様がウォーロックを開発しなければ、あいつが1人でウォーロックと戦う事もなかったんだ!」
「お前達のような小娘にはわかるまいな。空軍大将として国の未来を預かる私の考えなど!」
「皮肉なモンだよねー、その結果がコレだもん」
すかさず返されたハルトマンの言葉に、マロニーは何も言い返せない。実のところ、ウォーロックは時間をかけて調整を重ねていけばこんな事態にはならなかったかもしれない。こうなった主な原因は、軍の理解を超えた芳佳の行動なのだ。彼女が馬鹿な真似をしなければ、ウォーロックは完璧に制御できていたはず。
だがこの事を引き合いに出してしまうと、裏を返せば、マロニーは後のことを考えずにウィッチーズを排斥してしまった事にもなる。機密漏洩を防ぐ為に仕方が無かったといえ、これ以上の屈辱を味わうのはマロニーとしても御免だった。
「閣下、ここからウォーロックを停止させることはできますか?」
「できればとうにやっている。だがウォーロックはこちらの制御を完全に離れたのだ。強制停止命令も意味を成さなかった」
「暴走しているということか……完全に敵に回ったと見て間違いなさそうだな」
その時、窓際で外の様子を伺っていたハルトマンが切迫した声をあげた。
「──大変だ!アカギが沈みそうだよ!それに、誰かがウォーロックと戦ってる!」
「ザハロフか!?」
ミーナが空間把握の固有魔法を発動させ、海上の様子を探る。沈没していく赤城の近くでウォーロックと戦っているのは……
「宮藤さん……!それにこの波形は──美緒のユニット!?」
美緒はミーナ達が芳佳を連れ戻しに行っている間、ペリーヌの助けを借りて車椅子のラックに分割した自分のユニットを潜ませていた。だが彼女は今療養中の身。あんな状態で飛べば、今度こそ間違いなく生きて帰っては来れないだろう。だから美緒に代わって芳佳がその翼を借り受け、今ウォーロックと戦っているのだ。
「ユーリさんは……
「奴はこの前にネウロイの巣でも戦っていたんだ。寧ろ、少ない弾数でよく持ち堪えたものだ」
「私達も早く行こう!ミヤフジだけじゃ心配だ!」
力強く頷いたミーナは、ハルトマンを伴い格納庫へ走る。手早くマロニー一派の拘束を済ませたバルクホルンも、急いでその後を追った。
一方──
「──なあ、サーニャ。本当に良かったのカ?戻ってきテ」
「エイラは嫌だった?」
「や、嫌とかそんな……!ワタシはサーニャと一緒ならどこへでも行くサ。けどさ、ホラ……ユーリの奴」
当初は列車に揺られて北方の地を目指すはずだったエイラとサーニャは、列車を下りてその足を基地へと向けていた。というのも、道中エイラの隣で寝息を立てていたサーニャの魔導針が突然ネウロイの反応を示し、ユーリに危険が迫っている事を知らせたのだ。
それが分かるなり基地へと引き返したサーニャ。エイラも何も言わず続いたものの、胸の内ではユーリとの最後の会話が蘇っていた。
──これはお返しします。もう、僕が持っているべき物ではありませんから──
サーニャ(とついでに自分)が一生懸命選んだプレゼントを、あんな突き返すような真似をされて尚、ユーリを助けに向かおうとしているのは「仲間だったから」という理由で無理をしているのではないかと心配していたのだが。
「あの時のユーラ、すごく寂しい目をしてた。
ユーリの行動は、きっと彼の本意ではない。何か止むを得ない事情があったのだろうと、サーニャは最初から信じていた。
それはエイラも同様だ。あの時は感情に駆られるままユーリに掴みかかってしまったが、そんな彼女を軽くいなしてみせたユーリの所作は極めて優しいものだった。エイラを傷つけまいとして相当加減をしていたのだろう。もしユーリが本当に自分達を裏切り──あの頃のユーリに戻ってしまったというなら、そんな気遣いはしなかったはずだ。今頃エイラの陶器のような白い腕には締め上げられた跡の1つでも残っていたことだろう。
「……ま、それでもサーニャからのプレゼントを突っ返したのは納得いかないんダナ。後で1発ひっぱたいてやル」
「フフッ……急ぎましょ、エイラ」
エイラにちょっかいをかけられるユーリの姿を想像して小さく笑ったサーニャは、エイラ共々並木道を駆けていく。目的である旧501基地は、もうすぐそこだ。
一度は離散した501の面々が再び集おうとしていた頃──弾切れということもあり芳佳に戦場を任せ、全速力で基地に戻っている最中だったユーリは、背後からエンジンの駆動音を捉えた。ストライカーの魔導エンジンとは似て非なるその音に後方を伺うと、そこには赤いボディで風を切って飛行する古びたレシプロ機の姿が。そしてその機体には、ゴーグル付のヘルメットを被ったウサギのパーソナルマークが描かれていた。
「あのマーク……まさか──!?」
「──よぉユーリ!少し見ない間に大変な事になってんなぁ!」
「──やっほーユーリ!」
機体をユーリの隣に付けた飛行機のパイロットは、言わずもがなシャーリーだった。後部座席には同乗者であるルッキーニと、更にはペリーヌと美緒の姿もある。なんでも、芳佳とウォーロックの戦いの衝撃で赤城から振り落とされそうになっていた所を間一髪で救出したのだとか。
「基地に少佐とペリーヌを送ってくけど、お前も乗ってくか?」
「そうしたいのは山々ですが……これ以上は乗れないのでは?」
「へーきへーき!ホラ、とっとと乗った!置いてくぞ──!」
シャーリーに急かされるまま主翼に捕まったユーリは、ユニットの動力を落とす。お陰で、ここまでぶっ通しで回し続けていたユニットを少しでも休ませると同時に、決して十全とは言えない残りの魔法力も温存できる。シャーリーの厚意を有り難く受け取り、ユーリ達は真っ直ぐ基地を目指した。
シャーリー達を乗せた飛行機が基地の滑走路に着陸すると、そこには──
「おーい!」
封印されていたハンガーの前でこちらに向かって大きく手を振っているハルトマンと、ミーナにバルクホルン。更にはサーニャとエイラ、リーネの姿までもがあった。そしてその全員が、両足にストライカーユニットを履いている。
一連の件に関する負い目からミーナ達と目を合わせることができないユーリは、どうにか声を搾り出す。
「皆さん……
「もういいんだ、ザハロフ。これ以上1人で抱え込むのは止せ。部隊としての501は確かに解散させられたが、私達は今こうしてここにいる。それだけで十分だ。──1人でよく頑張ったな」
そうユーリを諭したバルクホルンは、優しく頭を撫でる。恐る恐る顔を上げたユーリは、穏やかな目で自分を真っ直ぐに見つめるバルクホルンを見て、彼女は妹を持つれっきとした姉なのだということを思い出す。
短い付き合いながら、501の面々の事はある程度は知っていたつもりだったが、ユーリが目にしたのはまだまだ上辺だけに過ぎなかったようだ。
「──っていうか、ユーリ怪我してるじゃん!大丈夫なの!?」
ハルトマンが指差すのは、ユーリの左腕だった。ウォーロックの攻撃を掠めたことで出血が見られていた傷口にはスカーフを結んで応急処置が施されているが、所詮は急場凌ぎ。スカーフには血が滲んでいる。
「幸い、宮藤さんに少しだけ治癒魔法を掛けて貰ったお陰で血は止まってます。少し痛みはしますが、大丈夫です。戦えます」
「……どうするミーナ?」
バルクホルンに意見を仰がれ、少し考えたミーナは……
「ユーリさん。貴方には色々と言いたい事もあるけれど、それは事が全部終わってからにします。今はウォーロックを撃墜して宮藤さんを助ける為にも、貴方の力を貸して頂戴」
「ミーナ……!ホントにいいわけ?」
「ただし──」
ユーリの正面に立ったミーナは、両手でユーリの顔をそっと優しく包み込む。
「──死なずに、絶対に生きて帰ること。いいわね?」
「……はい!」
力強く頷いたユーリは、やれやれと首を振るバルクホルンから1丁の銃を渡される。芳佳や美緒が使っている九九式二号二型軽機関銃だ。シモノフに比べれば軽く、反動の小さいコレならば片手でも何とか扱える。
その後も芳佳が本来使っていたユニットを引っ張り出したり、手早く武器弾薬類の最終チェックをしたりと、各々が出発に向けての準備を終えようとしていた所で、一足先に準備を終えていたサーニャがユーリに声をかけた。傍らにはエイラの姿もある。
「ユーラ、ちょっといい?」
「サーニャさん?何を……?」
サーニャは何も言わず、ユーリの前髪に手を伸ばす。大人しくされるがままになっていると、小さくパチン、という音が聞こえた。
「──うん。これでいつものユーラに戻ったわ」
サーニャが笑顔で見つめるユーリには、あの時ユーリがサーニャに返した──人生で初めて貰った誕生日プレゼントである菱形のヘアピンが着けられていた。同時に、髪で隠れていた双眸も顕になる。
「良かった……もう大丈夫ね」
「大丈夫、とは?」
「サーニャが言ってたんだヨ。オマエが寂しくて泣きそうな目ェしてたっテ」
「え……そんな顔、してましたか?」
「してたしてた。こ~んな顔だったなァ~?」
悪戯っぽい笑みを浮かべたエイラは、ユーリの顔をグニグニと弄り回す。
「ちょ、エイラさん!やめてくらさい……っ!」
「サーニャに悲しい思いさせやがっテ~!これくらいで済ませてやってるんだから感謝しロ~!」
何とか解放されたユーリは、抓られた頬をさすりながらも真剣な表情で真っ直ぐ2人を見る。
「……確かに、お2人には酷い事をしてしまったという自覚はあります。すみませんでした」
「どーせオマエの事だから、『501を裏切った自分に
「エイラさん、何故僕の思考を?占いというのは、そういう事もできるものなんですか……?」
「ンなわけないだロ……とにかくだ!ソレはオマエが持ってて初めて意味がある物なんだから、もうあんな事すんなヨ」
「……はい。改めて、大切にします」
ユーリの言葉を聞いて、サーニャとエイラは嬉しそうに微笑んだ。
「──皆、準備はいいわね?これより、至急宮藤さんの救援に向かいます!」
ミーナを先頭に、501の面々は滑走路を飛び立つ。最後の1人を迎えに行く為に──。
──発進してから暫く飛行を続けていると、遥か遠方に赤い閃光が垣間見える。ウォーロックの放つ光線だ。芳佳はここまで、見事に敵を抑え込んでいたようだ。
「宮藤さんも、魔法力は相応に消耗してるはずだわ。急ぎましょう!」
ユニットの出力を全開にして救援を急ぐ一同だが、遠方のウォーロックは両腕を広げて光線の集中砲火を芳佳に浴びせかけようとしている。いくら彼女のシールドが頑丈とはいえ、まともに受け続けていては防御を突破されるのも時間の問題だ。
「けど、ここからじゃ遠すぎる──!リーネの狙撃でも、ギリギリ届かないだろ──!」
シャーリーの言う通り、現在長距離狙撃を行えるのはリーネのみ。しかし射程延伸の術を持つ彼女でさえも、現在地点からウォーロックを攻撃するには距離がある。
「芳佳ちゃん……っ!」
ボーイズ対装甲ライフルのサイトを覗き込むリーネは、その先で戦う芳佳に焦燥感を募らせる。イチかバチかで撃つべきか?だが当たるかどうかは賭けだ。敵に気づかれていない今の状況で外してしまえば、もうこの距離から芳佳を援護することはできなくなってしまうだろう。
「──方法ならあります」
「だがザハロフ。今のお前では狙撃は無理だ!」
「ええ、ですから──リーネさん、失礼します」
「ふぇ──っ!?」
リーネの背後に回ったユーリは、突然リーネの肩を抱く。加えて銃のグリップを握る彼女の手に、自分の手を重ね合わせた。
「ユっ、ユユユーリさん!?急に何を……!?」
「生憎僕は狙えない状態ですが、固有魔法は使えます。リーネさんの固有魔法に、僕の固有魔法を重ね掛けすれば、この距離でも──!」
「で、でも……その、ち、近いです……!」
「魔法を作用させるタイミングをリーネさんに合わせないといけない都合上、コレが一番やり易い体制かと……すみません。不快だとは思いますが、この一撃だけ我慢してください」
「はっ、はいぃ……っ!」
耳元で発せられるユーリの声と息にこそばゆい感覚を覚えながら、リーネはボーイズをしっかり構え直す。ユーリは魔法によるブーストしかできない以上、照準から射撃まで全てリーネに一任される。集中しなければ。
「すぅ──ふぅ──……っ!」
大きく深呼吸し、遠方で芳佳に対し苛烈な攻撃を行うウォーロックをサイト越しの視界に収める。
「大丈夫、届きます──僕とリーネさん、2人でなら──!」
「はい──っ!」
突如、リーネとユーリの間に不思議な感覚が生まれた。お互いの息遣いや、力み具合。心臓の鼓動までもが手に取るように分かる。2人の意識は次第に溶け合い、思考が完全にシンクロしたその刹那──!
「ッ───!!!」
トリガーが絞られ、轟音と共に13.9mm徹甲弾が撃ち出される──!
リーネの〈射撃弾道安定〉にユーリの〈射撃威力強化〉が上乗せされた、正に一撃必殺の鋼鉄の槍は、空を斬り裂いて一直線に突き進む。流星の如く飛来した弾丸はウォーロックの胴体に命中し、上半身と下半身を真っ二つに分断してみせた。
戦闘不能となったウォーロックはそのまま落下していき、沈みゆく赤城に墜落。それがトドメとなって、赤城は完全に海中に没した。
無事に芳佳と合流を果たした一行は、一先ず再会出来た事を喜ぶ。バルクホルンは両脇に抱える芳佳のユニットは必要なかった、と安堵しながら呟いていたが、ユーリは赤城共々ウォーロックが沈んでいった海面をジッと見つめている。
「どうかした?ユーリ」
ハルトマンの問いかけを受け、ユーリの脳裏ではある光景が蘇っていた。
「宮藤さん、坂本さん。念の為、すぐに自分のユニットを履いてください。……まだ、終わっていないかもしれません」
ユーリの勧めで、芳佳と美緒は自分のユニットに履き替える。
芳佳が戦場に現れる直前──ユーリは一度ウォーロックを撃墜している。しかし程なくして、ウォーロックは海中より再び姿を現した。もしウォーロックのコアがまだ無事とすれば……
そんなユーリの予感は現実となってしまった──突如海面が盛り上がり、下から巨大な影が浮上してくる。
その正体は、破壊された機体を赤城と融合させ蘇ったウォーロックだった。
大まかな外見こそ赤城そのものだが、木製の甲板は見る影もなく漆黒に染め上げられ、ネウロイ特有の幾何学模様が走る。更には船首部分にウォーロックが融合しており、ネウロイとも兵器ともつかぬ異形の姿をとっていた。
「最早アレはネウロイでも、ウォーロックでもない──別の何かだ!」
海を脱して空へと飛び立っていく「何か」──敢えてウォーロックと呼ぶ事にする──は、直下に集まっていたウィッチーズに向かって突如攻撃行動を開始した。機体の随所に見られる砲門から真紅の閃光が幾筋も放たれる──!
「総員、回避──ッ!」
ミーナの指示が飛び、全員その場から素早く飛び退く。空を切った閃光は海面に突き刺さり、盛大な爆発を引き起こした。
ウォーロックを取り囲むようにして上昇していくウィッチーズ各位。そんな中、美緒はミーナの空間把握の力を借りた魔眼を用いて、巨大な機体を俯瞰で透視する。その結果、赤城だった船体の中心部に巨大なコアがあり、それが船首部分のウォーロック及び機体全域にエネルギーを供給している事が判明した。
「我々ウィッチーズを除いて、アレを止められる者はいない。──いいかお前達!恐らくこれが、このブリタニア戦線に於ける最後の戦いだッ!」
「──ストライクウィッチーズ!全機攻撃態勢に移れ!目標、アカギ及びウォーロック!」
「「了解──ッ!!!」」
501を統べる2人の隊長の命令を受け、ウィッチ達は遥か上空へと飛翔していく。破壊すべき目標であるコアは、赤城の機関部に位置している。現存戦力では、外側からの破壊は難しいだろう。誰かが内部に入り込み、直接コアを叩くしかない。
差し当たり適任なのは、扶桑のウィッチであり赤城にも乗船した経験のある美緒か、或いは──
「──私が行きますっ!」
「私もっ!」
「わ、ワタクシも…内部なら少し分かりますわ!」
美緒と同じく赤城に乗船していた期間の長い芳佳と、そこにリーネとペリーヌが同行することとなった。
残るメンバーは、3人が中に突入するのをサポートする役目を負うことに。
「各員、攻撃開始──ッ!」
その一声を皮切りに、各々がウォーロックに激しい攻撃を加えていく──!
「フフッ、おっさきぃー!」
「おい待てハルトマン!抜けがけは許さんぞ──ッ!」
真っ先に飛び込んでいったのは、2大エースであるハルトマンとバルクホルン。不意を突いて一番槍の座を掴んだハルトマンは、機敏な動きで敵の攻撃を避けながら、赤城に肉薄していく。
「──シュトゥルムッ!!」
強烈な風を纏い突撃するハルトマンの攻撃は、甲板を大きく抉り取ってみせた。それに負けじと、バルクホルンも攻撃を開始する。
「でぇやぁ──ッ!」
両腕に携えたMG42Sが吠え、魔法力を付加された弾丸の雨によって赤城の船体が瞬く間に削られていく。
そんな彼女達に続くように、サーニャとエイラも息の合った攻撃でウォーロックにダメージを与えていく。
4人の猛攻によって周囲への攻撃の手が緩んだのを見逃さず、シャーリーとルッキーニが攻撃を仕掛ける──!
「いっけぇ──!ルッキーニィ──ッ!」
「アチョ──ゥ!」
お得意の超スピードによって加速したシャーリーは敵の攻撃を掻い潜りながら、抱えていたルッキーニを力の限り投げ飛ばす。更なる加速を上乗せされたルッキーニは前方に多重シールドを展開し、超高速の弾丸と化してウォーロックに突撃する──!
いくらウォーロックといえど、この攻撃を受ければ機体はスクラップとなって今度こそ再起不能になるだろう。そう思われたのだが──
「──なッ!?」
驚愕の声を上げたシャーリーが見たのは、溶け合うように融合していた脚部を切り離し、ウォーロックの機体が赤城から分離する光景だった。その結果ルッキーニの攻撃はウォーロックを完全には捉えきれず、船首部分を大きく損壊させるだけに留まった。
「ウソー!そんなのアリ──!?」
ネウロイ特有の謎の力によって脚部エンジン無しでも飛行するウォーロックがルッキーニへ攻撃しようとすると、どこからか放たれた銃弾がそれを妨げる。
「──ユーリ!」
「アレの相手は僕が!宮藤さん達はここから内部に突入してください!」
『はいッ!』
左腕は添える程度にしか使えないが、対装甲ライフルに比べれば可愛いもの。右腕だけでも十分反動を受け止められる。
『シャーリーとルッキーニはユーリの援護に回れ!このデカブツ、どうやらコアの1部を切り離していたらしい。ウォーロック側のコアも破壊するんだ!』
「そんなことも出来んのかよコイツ!?」
「ウォーロックに使われていたコアは、従来のネウロイよりも頑丈です。場合によっては、完全に破壊しなければコアそのものを再生される危険もあります。油断せず行きましょう」
「うっし、気合入れるぞルッキーニ!」
「オッケー!やっちゃいますかー!」
得物を構え、果敢にウォーロックへ向かっていく3人。対するウォーロックは、両腕を大きく広げて周囲に光線を乱射する。
「ちぃ──!ルッキーニ!」
「アイサー!」
無造作に放たれる光線を懸命に掻い潜る中、僅かな隙を突いてシャーリーとルッキーニの銃口が火を噴く。ばら蒔かれた.30-06スプリングフィールド弾がウォーロックの両腕の関節部に命中し、広げていた腕がダラりと落ちる。この程度の損傷ならばすぐに再生されてしまうだろうが、お陰で決定的な隙が生まれた──!
「今だ!ユーリ──ッ!」
「はい──ッ!」
無防備になったウォーロックのコアが格納された頭部のハッチ目掛けて、ユーリは至近距離から銃撃を浴びせる。全弾撃ち尽くす勢いで行った攻撃により、頭部ハッチは炎上──後に爆発を起こした。
すぐさま距離をとって、爆煙が晴れるのを待つ。これまで幾度と無く復活を遂げたウォーロックが完全に破壊されたのを肉眼で確認しない限り、油断はできない。
ユーリを始める3人が固唾を飲んで見守る中、煙の中から壊れかけのウォーロックがユーリ目掛けて飛び出してきた。突然の反撃に備えていたお陰で回避行動に移れたユーリだったが、ここで思いもよらない事態に陥る。
ウォーロックの腕の先端部がまるで人の指のように枝分かれし、退避しようとしていたユーリの脚をユニットごと鷲掴みにしてきたのだ。
「ぐぅっ──ッ!」
「ユーリ!クソ──ッ!」
ユーリをしっかり捕まえたまま、ウォーロックはストライカーを優に超える速度で滅茶苦茶な方向へ飛び回る。直ちに助けに向かうシャーリーだったが、一度は音速さえも超えてみせた彼女の速さを以て尚、ウォーロックに近づけない。単純な直線勝負なら追いつけただろうが、上下左右へ狂ったように飛び回る敵の動きに付いていくことができないのだ。狙いの定まらないこの状況で迂闊に撃てば、最悪ユーリに当たってしまう。考える間にも彼我の距離はどんどん開いていき、遂には豆粒程にしか見えないくらい離れてしまった。
「っ──うぅ───ッ!」
一方のユーリ。上半身を振り回されないようボディに掴まり、強烈なGに耐えながらウォーロックをよく見てみると、コアの格納ハッチはかなりの損壊率。内部のコアも露出しており、ひび割れが酷く、輝きもどんどん鈍くなっている。コアが力を失い、ウォーロックが停止するまでは時間の問題だろう。
つまり、この乱暴極まりない高速軌道に耐え抜けばユーリの勝ち──というわけには、残念ながら行かなかった。
ユーリは、耳元を駆け抜けていく荒々しい風の中に、異質な電子音が混ざっているのを捉えた。不意に、脳裏を嫌な予感が駆け巡る。
「自爆ッ……する気か──ッ!」
ウォーロックは兵器だ。それも、対ネウロイに限ったものではない。これは想像に過ぎないが、ネウロイとの戦いが終わった後でも兵器として利用されていたであろう代物。人類にとって未知のテクノロジーの塊であるネウロイのコアと、それを搭載したウォーロックが万が一敵対国家に渡ってしまった場合、技術の流出を防ぐ為に兵器を自爆させるというのは、そうおかしな話ではない。
まだプロトタイプにも関わらず、この零号機には自爆機能が搭載されていたのだろう。マロニー達開発陣もまさか使うつもりはなかったはずだが、あろう事かネウロイに利用されることになろうとは露ほども思っていなかったに違いない。
この状況は非常にまずい。このウォーロックもといネウロイはユーリだけでも道連れにするつもりらしく、幸か不幸か仲間達の方へ飛んでいく様子はない──少なくとも今はまだ。
寧ろ、戦場からどんどん遠くへ離れていっているようだ。時折視界に陸地が見えることから、欧州大陸に片足を踏み入れている状態と推測される。
とにかく、この巨大な爆弾が皆の元へ向かう前に、ユーリ1人でこの状況を打開しなければ。九九式は弾切れで既に投棄済み。残された攻撃手段はたった1つ──ユーリは右手を後ろに回し、腰に装着していた細長いホルダーに手を掛ける。その中に収められていたのは、1発の徹甲弾だった。
(まさか、こんな使い方をするつもりはなかったが……)
間違っても手放さないようしっかりと握り締めた徹甲弾は、ユーリやリーネが普段弾薬として用いる物とはどこか毛色が違って見える。それもその筈。この徹甲弾は、長い時間を掛けて少しずつ溜め込まれたユーリの魔法力に満ちているのだ。この魔導徹甲弾は本当ならば、ユーリの文字通り全魔力に匹敵する程の魔法力が圧縮充填されてやっと完成するのだが、残念ながら今充填されているのは予定の6割5分程。完成品には程遠いが、それでも今この状況に於いては十分過ぎる活躍が見込める。
「今度こそ……守ってみせる──僕の、家族を──ッ!」
ユーリは痛む左腕に鞭打って上半身をウォーロックの頭部ハッチに近づける。
「これで───終わりだァァァァァッ!!!」
徹甲弾を握った右腕を振り上げ、内部のコア目掛けて力の限り振り下ろす──!
真紅の結晶体に突き立てられた徹甲弾。その内部に充填された高密度の魔法力がユーリの固有魔法によって一気に解き放たれ、爆ぜる──!
これこそ、ユーリの誇る最強最大の攻撃魔法──〈爆裂〉──。
次の瞬間、ウォーロックを中心に巨大な爆発が引き起こされた。遠目でもはっきり目視できる程の、巨大な爆発が。
同時に──ウィッチーズが戦っていた赤城の船体も、内部のコアが破壊されたことで無数の破片と化し散っていった。
この日……人類は初めて、ネウロイから領土の奪還に成功したのだ。
しかしこの勝利の裏に、1人の少年の犠牲があったということを知る者は、ほんのひと握り。
ユーリ・R・ザハロフという世界初の航空ウィザードの存在は、ウォーロック計画という最大の機密事項と共に、人知れず闇の中へと沈んでいくのだ。
もう一度言おう。この日、人類は初めてネウロイから領土の奪還に成功した。
だがその大いなる勝利を手にしても、ウィッチ達が心の底から笑うことは無かった。