501のウィザード   作:青雷

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仲間だから

「改めて──本日着任するはずだった雁淵孝美中尉に代わってこの部隊に入ることになりました、妹の雁淵ひかりさんです」

 

「雁淵ひかりです!よろしくお願いしますっ!」

 

 元気よく自己紹介をしたひかりは、深々と頭を下げる。それに対し、隊長であるラルから順番に自己紹介をしていったのだが……

 

「……おい、菅野の番だよ」

 

「知るかよ」

 

 自己紹介は直枝の番で止まった。以前ユーリが自己紹介した時と同じように。頑として名乗る気がない直枝はひかりを睨みつけ、ひかりもまた睨み返す。両者の間に火花が散り始めた所へニパが仲裁するように割って入り、本人に代わって直枝のことも紹介する。

 

 そして……

 

「ユーリ・R・ザハロフ、曹長です。階級こそ上ですが、僕もここに来てまだ日が浅いので。同じ新人同士、よろしくお願いします」

 

「………」

 

「……雁淵軍曹?」

 

「──あ、はっはい!よろしくお願いします!」

 

 慌てて礼を返したひかりは、興味深そうにユーリを見ている。

 

「あ、あのロスマン先生……すごく失礼かもなんですけど……あの人、男の人ですよね?」

 

「えぇ。彼は男でありながら、私達と同じように魔法力を持つウィザードよ」

 

「教科書で少しだけ読んだことはあったけど、本当にいるんですね……」

 

「戸惑うのも無理はないわね。少しずつ慣れていけばいいわ──紹介も終わったことだし、食事にしましょう」

 

 カチャカチャと食器の音が響く中、隊の中で最もフランクなクルピンスキーが早速ひかりに声をかける。

 

「ねぇ、雁淵さん。ひかりちゃんって呼んでいいかな?」

 

 会って早々に名前呼びは挑戦的過ぎるのでは?とユーリは思った。それを裏付けるかのように、人当たりのいいひかりが反応を返さない。彼女の呼び名に関してはある程度段階を踏んだほうがいいだろうか…と、向かいに座っているひかりへ目をやると……

 

「…っ……──」

 

 スプーンを持ったまま、うつらうつらと船を漕いでいた。ここまでの長旅に加えて、初めての実戦で疲れが溜まっていたのだろう。

 

「……子猫ちゃんは休ませてあげた方が良さそうだね」

 

「食べ終わったら私が部屋に連れてくよ」

 

「えぇ、そうしてあげて。ニパさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝──ユーリは今日もニパと直枝と共に朝のランニングを行っていた。

 

「ハッ、ハッ──ユーリさん凄いね。こないだと同じペースなのに──」

 

「今後出撃も増えるでしょうし、あまり時間も掛けていられませんからね──」

 

 以前、ユーリがバテバテになってからまだ日も経っていないが、過密気味にすら思える怒涛の自主トレーニングの甲斐もあって体力はほぼ元通りになっている。お陰で未だに筋肉痛が抜けきっていないのだが、今のユーリは周囲にそうと感じさせない程のパフォーマンスを発揮していた。

 

「へっ、何ならまた勝負するか?今度もオレが勝つだろうけどな──」

 

「……ご遠慮させて頂きます」

 

 流石に、この筋肉痛を抱えながら全速力の直枝に付いていける自身はユーリに無い。

 

「ンだよ張り合いねぇな──っくし!……最近、冷えてきたな」

 

「そうかなぁ……?」

 

 小さくくしゃみをした直枝に、ニパは呑気な答えを返す。

 

「……お前はスオムス人だからな、そらそう思うだろうよ──ユーリ、お前はどうだ?」

 

「確かに、少し気温は下がっているようにも感じますが……寒いという程では」

 

「お前ら揃いも揃って……」

 

 ユーリは生まれこそオラーシャだが、育ちはブリタニア(の軍事教練施設)だ。まだほんの序の口とはいえ北国の寒さを味わうのはこれが初めてなのだが、母方の血のお陰だろうか、生まれつき寒さにはある程度の耐性を持っていた。

 

「……あれ?ねぇ菅野。前、誰か走ってるよ──」

 

 早朝の霧に包まれているが、3人の前を走る人影。紺色のセーラー服に包まれたそれは、間違いなくひかりの背中だった。

 

「……抜くぞ──!」

 

 前にいるのがひかりだと分かるなり、直枝はペースをあげて一気にひかりを追い抜く。ニパとユーリもそれに倣うが、直枝のように抜き去りはせず、ひかりの両隣でペースを合わせた。

 

「おはよう、雁淵さん!」

 

「あっ、おはようございます──!」

 

「おはようございます。雁淵軍曹も自主トレですか?」

 

「はいっ!」

 

「2人共おせーぞ!」

 

「えぇ?なんだよもぉ……!」

 

「すみません、お先に失礼します──」

 

 急かされた2人は、満足にひかりと話す暇もなくペースを上げ直枝についていく。ぐんぐん離れていく3人の後ろ姿を見たひかりもまた、一段ペースを上げた。

 

「……ねぇ、雁淵さん付いてきてるよ?」

 

「ほっとけ。あん時ゃ病み上がりだったとは言え、ユーリですらバテたんだ。素人が付いてこれるわけねぇ──!」

 

 そう言って走り続ける直枝だが……

 

「ぜぇ…はぁ…っ!も、もうダメだぁ……ッ!」

 

「頑張ってくださいニパさん。もう少しです」

 

「あ…ありがと……っ、2人共すごいな。雁淵さんなんて全然息が乱れてないや」

 

「凄まじいスタミナですね……」

 

 基地の周りを一周し終え、肩で大きく息をするニパと、彼女を気遣うユーリ。そんな2人が見上げる階段の上では、先んじて到着していた直枝とひかりが言い争っていた。

 

「──お前なんかじゃ孝美の代わりは務まらねぇ!オレと孝美(アイツ)でネウロイの巣をぶっ潰すはずだったんだ……なのに、てめぇが弱ぇから──ッ!」

 

「……そうです。私が弱かったから、そのせいでお姉ちゃんが……でも、頑張って絶対強くなります!」

 

「頑張るだけで強くなれりゃ世話ねぇンだよ!今必要なのは即戦力だ!」

 

「やってみなくちゃ分かりません!」

 

 どちらも一歩として退くつもりは無いようだ。見かねたニパが疲れた体に鞭打って仲裁に入る。

 

「ちょっと2人共、喧嘩は止そうよ。仲間なんだしさ?」

 

「仲間じゃねぇ!……弱ぇ奴は他の奴まで危険に晒すんだ……仲間ごっこがしてぇなら、さっさと扶桑に帰れ!」

 

「あ、ちょっと菅野──!」

 

 ニパの仲裁も空しく、直枝は走り去っていってしまった。

 

「……あー、ごめんね?菅野、口は悪いけど、悪い奴じゃないんだ。なんて言うか……あいつはあいつなりに、必死なんだよ」

 

「……分かってます。私がもっと強ければ」

 

 明らかに気落ちしているひかりを懸命にフォローするニパ。その様子を階段の下から見ていたユーリが、そこに加わることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、朝食を終えた502部隊は、ブリーフィングルームに集まっていた。

 貼り出された地図にはペテルブルグを含む欧州地方全域が描かれており、今も各地で戦い続けている統合戦闘航空団の所在も表記されている。

 

「──現在我々の前には、最重要攻略目標だったネウロイの巣"アンナ"と、南方に位置する"ヴァシリー"があります。それに加え今回、白海(はっかい)にも新たな巣が出現しました」

 

 ラルによって"グリゴーリ"と命名された新たなネウロイの巣。

 この巣が陣取った場所──オラーシャ北部の内陸からバレンツ海に続いている白海は、この欧州東部戦線に於ける補給の要だ。"グリゴーリ"から現れるネウロイの影響圏は着実に広がりつつあり、補給路が完全に絶たれるのも時間の問題。もしそれを許してしまえば、502部隊はこのペテルブルグから退却を余儀なくされる。

 本来502部隊に課せられた任務は、オラーシャ方面からのカールスラント奪還だ。さし当たって目下優先すべきは、カールスラントへの進路上に立ちはだかる"アンナ"及び"ヴァシリー"の殲滅だが、それを確実に遂行する為にも、"グリゴーリ"を真っ先に排除し補給線を再確保しなければならない。そして、その為の時間的猶予も決して長くはない。

 

「あの……ネウロイの巣って、倒せるものなんでしょうか?」

 

 緊張の面持ちで手を挙げた下原の問いはもっともだ。何せこれまでの短くも長いネウロイとの戦いの中で、巣を破壊したという事例は一切無かったのだから。

 

 ──ただ1つ。501部隊を除いて。

 

「ですが……肝心の方法が分からないのでは……」

 

「──ザハロフ。お前はどう思う?」

 

「……僕、ですか?」

 

「ああ。以前ブリタニアでネウロイとの戦いを経験したお前の意見を聞かせろ」

 

 席を立ったユーリは、少し考えてからゆっくりと口を開く──

 

「──巣の破壊は、可能かと思われます」

 

 この一言で、この場の全員が驚きに目を見開く。しかしユーリの言葉はまだ続いた。

 

「具体的な方法は不明だとしても、501部隊にできて、502部隊に不可能という道理はありません」

 

 ユーリはブリタニア空軍ではなく、501部隊の一員として巣の破壊に参加している。あの時は様々なイレギュラーが重なった末での勝利だったが、ユーリとてただ気休めでこう言ったわけではない。事実、巣を破壊する手段は存在する。

 

「ユーリの言う通りだ。どんな敵だろうが、オレがぶっ潰す!」

 

「その意気だ菅野。──私もザハロフと同意見だ。今から弱気になっているようでは勝てる戦いも勝てんからな。──雁淵、お前は午後から訓練だ。それまでに基地の中を案内してもらえ。ザハロフはこの後、私の部屋に来い。以上、各自勤務表通りに動け」

 

 各々席を立ち持ち場へ向かう中、ユーリはラルと一緒に彼女の執務室へ向かう。

 ロスマンはひかりの訓練の準備に取り掛かっており、部屋の中にはユーリとラルの2人だけしかいない。

 

「──さて。お前を呼んだのは、先の事についてだ」

 

 ラルが言っているのは、先ほどユーリが口にした「巣の破壊は可能」という言葉のことだ。

 

「お前の過去について詮索はしない。そう踏まえた上で答えろ。あの言葉は、"自分ならば巣を破壊できる"──という意味か?」

 

「……はい」

 

「……冗談ではないようだな。詳しく聞かせろ」

 

 覚醒魔法──決して数は多くない固有魔法保有者の中で、稀にその力をもう一段階引き出せる場合がある。先の戦いで孝美が戦闘不能に陥る一因となった〔絶対魔眼〕もその1つだ。

 そしてユーリもまた、この覚醒魔法にあたる力を持っている。

 ブリタニアでの戦いでウォーロックを消し去る際に使用した、魔導徹甲弾を用いて放たれる大威力砲撃──〔爆裂〕。当時は不完全な状態で使用することとなったが、完全な状態であれば大型ネウロイは愚か、理論上ネウロイの巣でさえも一撃で消し去ることが可能だ。

 

「──それはすぐに発動できるものか?例えば今日、明日だ」

 

「……可能か不可能かと問われれば、可能ではあります。ですが……」

 

「やはり、そう美味い話ではないか」

 

 戦闘で大きな利を齎す覚醒魔法にも当然欠点はある。孝美の〔絶対魔眼〕は発動に際し使用者へ大きな負担が掛かる上に、発動中はシールドの硬度が著しく低下する。単独での発動は本来想定されていないものだった。

 そしてユーリの〔爆裂〕の欠点は、発動に要求される魔法力の量だ。アレは本来、徹甲弾にユーリの全魔法力を一瞬で圧縮充填して放つもの──1発撃つだけでユニットを回す魔法力すらも枯渇し、すぐさま戦闘不能に陥ってしまう。その対応策として、日頃から魔法力を少しずつ銃弾に蓄積するという手段を取っていたのだ。しかし発動時の安全が得られた代償として、一度の発動に対しかなりの準備期間を要する事となってしまっている。

 

「──おおよそでいい。完成までにどれ程かかる?」

 

「まだ完成に至った事がないので確約はできませんが……安全を期すなら約3ヶ月程はかかるかと」

 

 以前ユーリが魔導徹甲弾の制作を試みた時は、部隊の仲間を守りたい一心で結構な無理をしていた。お陰で約1週間という極めて短期間に予定の半分程の魔法力を充填出来ていたわけなのだが、ここはブリタニアよりも厳しい状況下に置かれている戦場だ。軽率な魔法力の消費を行えば、いざという時満足に戦えない危険性がある。

 

「3ヶ月……分かった。そのつもりで弾丸の精製を始めろ。ただし無理はしてくれるなよ?お前は貴重な戦力だ。只でさえ孝美がいないというのに、お前にまでくたばられては困る」

 

「……善処します」

 

 一例してラルの部屋を出て行ったユーリ。独り残されたラルは、組んだ両手の下で不敵な笑みを浮かべ、

 

「……とんだ宝を拾ったものだ」

 

 そう独り言ちるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──やはり、そうですか」

 

「うん。雁淵さん、結構苦労してるみたい。さっき飛んでるとこチラっと見たんだけど、速度が安定してなかった」

 

 食堂で一息つくユーリは、先客のニパからひかりの様子を聞かされていた。

 彼女の飛行は戦場で一度見たきりだが、その時でさえも飛ぶのがやっと、という印象を受けた。恐らくひかり自身の身に宿る魔法力が、ユニットの要求量に対し絶対的に不足しているのだろう。寧ろそんな状態でよく飛べたと思うべきか。

 

「やっぱり、扶桑に帰されちゃうのかな?せっかく仲間になれたのに……」

 

「仲間だからこそ、ということもあります。少なくとも、今のまま雁淵軍曹がここにいても命を落とす危険ばかりが付き纏うでしょうから」

 

 もしひかりがユニットの整備等にも意欲を見せていたなら、或いは整備兵として身を置くこともできただろうが、彼女自身は前線で戦うことを望んでいる。当然、このまま彼女が無残に命を落とすのを看過できる者はこの基地に誰ひとりとしていない。だからこそ直枝は彼女に早く帰国するよう言っていたのだ。

 

「何か力になってあげたいけど……う~ん」

 

 頭を抱えたニパがテーブルに突っ伏した所で、基地内に警報が響き渡った。

 

「緊急出動!?行こう──!」

 

「はい──!」

 

 急ぎ格納庫へ向かった2人。そこでは既に直枝達が出撃準備を始めており、傍らにはひかりの姿もあった。

 

「今回、ユーリさんは下原さんやジョゼさんと一緒に基地での待機をお願いします。また前回のような事が無いとも限りません」

 

「そうですか……了解しました。ご武運を」

 

 珍しく待機を命じられたユーリは、後に続くロスマンの言葉に耳を疑うことになる──

 

「──ひかりさん。あなたも出撃しなさい」

 

「っ…!?──はいッ!」

 

「おい!何でこんな奴まで出撃させンだよ!?」

 

「訓練の一環です。ラル隊長が許可しました」

 

 直枝と同じことを思っていたユーリは怪訝な目でラルを見つめるが、彼女は黙して佇むのみ。この決定を覆す気はないようだ。

 出撃メンバーが基地を発ったのを見送ったユーリは、執務室へ戻ろうとするラルの背中を呼び止める。

 

「──何故?と言いたげだな」

 

「彼女には実戦経験が圧倒的に不足しています。今出撃させても──!」

 

「だからこそだ。動かない的相手の訓練より、実戦の方が得られるものはずっと多い」

 

「しかし、それで命を落とすことがあれば──!」

 

「どれだけ訓練してから出撃させたところで、初の実戦である事に変わりは無い。戦場に於いて、訓練通りに行くことなど無いに等しい事くらい、お前なら分かっているだろう」

 

「それは……」

 

「何より、雁淵ひかりは魔眼使いの可能性がある。それを確かめる為の出撃だ」

 

「……!」

 

 もしそれが事実であるなら、502部隊としても願ったり叶ったりだ。学生上がりの素人が一転、孝美の代役として鍛えるに値する価値が生まれる。完全に説き伏せられてしまったユーリにラルはインカムを投げ渡すと、装着するよう促す。無線越しに、現場の様子が聞こえてきた──

 

 

『──ひかりさん、コアは見える!?』

 

『ッ……!』

 

『──どう!?見えるの、見えないの!?』

 

『ッ……見えません……』

 

『……そう。いいわ、下がってなさい──!』

 

 

 もしや、という期待を持って耳を傾けていたユーリとラルだったが、結果は望んだものではなかった。

 

「……ハズレ、か」

 

 小さく嘆息したラルは格納庫を出て行く。残されたユーリは、引き続きインカムに意識を集中していた。

 

 

『──危ないッ!』

 

『ッ!?──キャアッ!──っぅぐ……ッ!』

 

『ひかりさん──ッ!』

 

『逃げろバカ──ッ!』

 

 

 切迫したロスマンと直枝の声。間髪入れず、何かが衝突するような音が聞こえた。

 

 

『菅野さん──!』

 

『ボサっとしてんじゃねぇ、死にてぇのか!!──ったく、言わんこっちゃねぇ。行くぞニパ──!』

 

『了解──ッ!』

 

 

 推測するに、危機に陥ったひかりを直枝が助けたのだろうか。ひかり自身、魔眼が発動しなかったことに対する疑問と落胆で注意力が散漫になっているようだ。

 最終的にネウロイはひかり以外の隊員達によって撃破。残敵の警戒を言い渡された直枝とニパを除く4人は、そのまま帰投することとなった。

 

「………」

 

 恐らくひかりは扶桑へ帰る事になるだろう。黙ってインカムを外したユーリは安堵していると同時に、どこか残念がってもいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 基地に戻ってきたひかりは正式に扶桑への帰国を言い渡されるはずだったが、ラルの「最後に思い出くらい持ち帰らせよう」という計らいで、ユニットの故障により墜落したニパの捜索及び救出に向かう事となった。

 あくまでも捜索が目的ということで許可が出たわけなのだが、予想外にも出先で新手のネウロイと遭遇。飛べないニパを抱えたひかりが直枝のサポートを行ったことで、無事にネウロイは撃破された。

 

 そんなひと仕事を終え無事に帰投した3人は、格納庫で全員()()()()()()()。これは"正座(セイザ)"という扶桑に伝わる伝統的な座法であり、習熟していないと1時間も続ければもれなく足が痺れて悶絶。歩くことすら困難になるという恐ろしい罰だ。──というのは502部隊の扶桑出身者以外の共通認識であり、本来は精神統一やマナーの一環として行われるもので、基本的にこのような罰として行われるものではない。

 こうなった理由というのも、帰投中に体力を使い果たした直枝とニパを抱えて飛ぶひかりが、基地を目の前にして海に墜落してしまったから。曰く不慮の事故ということでひかり自身が何をしたわけでもないのだが、「帰投するまでが任務です!集中力が足りません!」というサーシャのお達しでこうして正座をしている。

 

「──にしても、ひかりって結構無茶するよね」

 

「あはは……ニパさん、私のこと仲間だって言ってくれましたから。仲間なら助けないと、って」

 

「お陰で助かったよ。ありがとう」

 

 任務報告で執務室に呼び出された直枝を除いて談笑していた2人は、ここに来て疲れが襲ってきたのか、次第に寝息を立て始める。そんな彼女達の様子を入口から覗く影があった。

 

(仲間だから……か)

 

 ユーリ自身気付いているか定かでないが、ひかりの行動原理はユーリと似通う部分もある。彼女がここで戦いたい等と無茶を言っているのも、率先してニパを助けに向かったのも、根底にあるのは「家族や仲間の為」という思い。それは間違いなく、ユーリが501部隊で手に入れたものと同じだった。

 

 彼女達を起こさないようそっと近づいたユーリは、正座したまま寄り添って眠る2人に持っていたブランケットをかけ、格納庫を後にした。

 




今回は501編の最後で唐突に出てきたユーリ君の覚醒魔法について少し触れました。
この魔法が502部隊での戦いにおける鍵となると思います。……多分。

それと、プロフィールにもあるようにユーリ君には通称(二つ名)が無く、このまま無しで行こうかなと思っていたのですが、ちょっと中二臭い良さげなのを思いつきました。
登場がいつかはわかりませんが「こんなのかなー?」とか想像してお待ち頂ければと思います。

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