501のウィザード   作:青雷

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初陣

 朝食を取り終えたユーリは、美緒監修の下で射撃訓練を行っていた。傍らにはリーネと芳佳の姿もある。

 

「よし、撃ってみろ」

 

 美緒のゴーサインを受けたユーリは、愛銃であるシモノフ対装甲ライフルのサイトを通して遠く離れた海上に設置された四角い的を狙う。ゆっくり引き金を絞ると、轟音と共に銃口に取り付けられたマズルブレーキが火を噴き、対装甲ライフル特有の巨大な弾丸が発射された。放たれた弾丸は真っ直ぐ飛んで行き、標的を粉々に粉砕してみせた。

 

「うん、命中。見事なものだな」

 

 固有魔法である右目の魔眼を眼帯で隠した美緒は、関心しながら伏射姿勢のユーリを見下ろす。

 

「ユーリさんもリーネちゃんと同じ狙撃手なんだね」

 

「うん。しかも私と違って1発命中…なんか自身無くなってきちゃうな」

 

 この前に的を撃ったリーネは1発目が惜しくも目標を逸れ、続く2発目で見事目標を捉えてみせた。狙撃手にとって、実戦ではこの1発が戦局を分けることもある為、リーネは日夜狙撃精度の向上に努めているのだ。

 

「私からしてみれば、ビショップ軍曹の方が凄いと思います。以前の出撃で基地に迫るネウロイを見事に撃墜したと聞いていますが」

 

「でもあの時は芳佳ちゃんが助けてくれたから…私1人じゃ、何も出来ませんでした」

 

「それは当然かと思われます」

 

「そう…ですよね……」

 

 気落ちするリーネを見たユーリは小首を傾げる。そこへ芳佳が食ってかかった。

 

「あの、そんな言い方はないと思います!リーネちゃんは一生懸命ネウロイと戦って、基地やブリタニアの人達を守ったんです!」

 

「いいの芳佳ちゃん。実際、私なんてまだまだだし……」

 

 そんな2人を見たことで、ユーリは芳佳の言いたいことを理解した。

 

「……誤解を生むような言い方をしてしまい申し訳ありません、言葉足らずでした。私の言った"当然"というのは、戦場に1人放り出されて状況を変えることなどまず不可能だということです。世界各国の名立たるウィッチ達でさえ、1人でネウロイを倒せる者はそう多くないはずです。それこそ、カールスラントのエースであるハルトマン中尉やバルクホルン大尉のようなレベルでなければ難しいでしょう」

 

 この501部隊も、ネウロイ討伐の際には編隊を組んで出撃する──無論、やむを得ず単独で戦うこともあるし、基本的に1人で任務にあたる事の多いナイトウィッチも存在しているが──仲間のウィッチや、各国の軍と強力して戦わねば勝つことが難しい。ネウロイはそれだけ強大な敵なのだ。

 

「ですから、ビショップ軍曹が気を落とすことは一切ありません。味方と助け合い戦うのが普通であって、その必要がない者は…最早、軍人ではなく兵器と称した方が適切かと」

 

「ザハロフの言う通りだ、リーネ。お前は母国を守るプレッシャーに打ち勝ち、立派に皆を守ってみせたんだ。少しくらい胸を張ってもいいんだぞ?」

 

「坂本少佐……はい、ありがとうございます。ユーリさんも」

 

「いえ、お礼を言われるような事では」

 

 体を起こして銃を持ち上げたユーリは、次に控えている芳佳へ順番を変わる。手にした銃を構えて射撃位置に付いた芳佳だったが……

 

「……あの、坂本さん?」

 

「どうした宮藤?早く撃て」

 

「あの、的は……?」

 

「的ならあるだろう」

 

 眼帯をずらして遠方を見据える美緒。その視界には、ユーリやリーネが粉砕したのと同じ的が。

 

「ええっ!?む、無理ですよ届きません!それ以前に見えませんし……!」

 

「はっはっはっは!──冗談に決まってるだろう。お前が狙うのはあっちだ」

 

「もー、止めてくださいよ……」

 

 ユーリは知る由もないが、芳佳やリーネからしてみれば美緒なら本気で言いかねない、と信じてしまうのも無理はない。

 

 気を取り直した芳佳が銃を構えた瞬間───けたたましい警報が基地内に鳴り響く。

 

 

『皆聞こえる?出撃よ──』

 

 

「ミーナ、今シャーリーとルッキーニは哨戒に出てるんだったな?」

 

『ええ。でも今回ネウロイが出現した場所とはちょうど逆側なの。2人にも現場に向かうよう連絡するけど、どうしても時間はかかるわ』

 

「分かった。すぐに出る!──ザハロフ、初陣だ。お前の実力を見せてもらうぞ」

 

「──了解」

 

 芳佳とリーネには基地で待機するよう言い残し、美緒はユーリを伴って格納庫へと走った。

 今回の出動メンバーは、前衛にバルクホルンとハルトマン、中央にエイラとペリーヌ、後衛に美緒とユーリが割り当てられている。

 

「フン、精々落とされないよう気をつけることだな」

 

「トゥルーデったらまだそんなツンケンしてるわけぇ…?」

 

「軍人である以上、どれだけの腕を持っていようと、然るべき時に使い物にならねば意味がない。少なくとも今回の戦いを生き残らない限り、私は奴を背中を預けるに足る仲間とは認めん!」

 

「全くもー…そんなに気にしないでいーよ?これでトゥルーデなりに心配してるんだろうからさ」

 

「おいハルトマン!新兵に適当なことを──!」

 

 ユニットを履いた2人が言い合いがヒートアップする前に、ユーリはその場を収めようと会話に割って入る。

 

「──認める認めないはともかく、命令は了解しました。ネウロイを倒し、無事帰還できるよう努めます」

 

「よし、行くぞ──!」

 

 美緒の号令で、一斉にハンガーからユニットが発進する。滑走路から離陸すると美緒の指示通り編隊が組まれ、出現したというネウロイの元へと急行した。

 

 

 

 

 

 

 

 暫く飛行を続け、高度が5千メートルに達した辺りだろうか。魔眼で遠方を見据えた美緒が、ネウロイの姿を補足する。

 

「──見つけた!接敵まで30秒だ、ペリーヌはバルクホルンに、エイラはハルトマンに付け!ザハロフ、お前は後方支援を頼む!」

 

『了解!』

 

 中央の2人がポジションを入れ替え、前衛の僚機として後ろに付く。やがて先頭を飛ぶバルクホルン達も、こちらに向かって飛ぶずんぐりとした長珠形状の大型ネウロイを目視で確認した。移動速度こそ速くないが、そのサイズたるや過去に確認されている大型の中でも1、2を争うスケールだ。

 

 

「行くぞ!戦闘開始──!」

 

 

 銃を構え直した一同は左右に分かれ、左右からネウロイに攻撃を開始した。後方支援を命じられたユーリは少し離れた場所で動きを止め、戦場全体を視界に収める。

 現在はバルクホルン隊が右から、ハルトマン隊が左からネウロイの装甲を削りにかかっており、各僚機の2人もそれに倣っている。そして指揮を執る美緒は取り巻きとして大型の内部から出現した小型ネウロイの放つ真紅の光線を回避、またはシールドで防ぎながら、魔眼によるコアの捜索に取り掛かっていた。

 

(流石、各国でエース級の実力を持っているだけある。後方支援とは言われたものの、出る幕が見つからない)

 

 よく訓練されているのだろう、ネウロイを猛撃するバルクホルンの死角は、僚機であるペリーヌがしっかりとカバーしているし、ハルトマンとエイラはそもそも攻撃が当たらない。両者共軽快な動きで攻撃を回避し、着実にネウロイの装甲を削り続ける。

 

「コイツ、やたら硬いゾ!」

 

「装甲の再生速度も心なしか早く感じますわねっ──!」

 

「狼狽えるな!銃撃を一箇所に集中させればダメージは入る!ペリーヌとエイラは小型を掃討!ハルトマン!少佐がコアを見つけるまで、私たちで食い止めるぞ!」

 

「オッケー!」

 

僚機の2人は各長機のサポートに徹し、バルクホルンとハルトマンのカールスラントエース2人が大型ネウロイを猛撃する。

後方のユーリも、美緒やペリーヌ達が処理しきれない小型を狙撃で援護。既に20機以上撃墜している。

 

「──見えたっ!コアを発見!私が出る!ザハロフ、援護しろ!」

 

「了解」

 

 捕捉したコア目掛けて突貫する美緒。そんな彼女にネウロイの攻撃の矛先が向くと、亜音速で飛来した徹甲弾が命中し、敵の照準を妨げる。高度を上げて上方からネウロイを狙うユーリの狙撃だ。続けて2発、3発と、美緒の進行を妨害する小型ネウロイを悉く撃ち抜いていく。

 ユーリの援護を受け、美緒はネウロイの正面下部に向かって機関銃を構えた。至近距離から撃ち出された弾丸がネウロイの装甲を破壊していく。これならば程なくしてコアを破壊できるだろう。

 

 このまま事もなげに撃破まで行けるかに思われたのだが……

 

「──っ!?コイツっ……!」

 

『少佐!まだ破壊できないのか!?コアは見つけたんだろう!?』

 

「ああ、確かに見つけた!今も見えてる!だが、いくら撃ってもコアが出てこない!」

 

『えぇー!?どういうことさ!?』

 

 困惑するバルクホルンとハルトマン。だが誰よりも驚いているのは当の美緒自身だ。

 美緒の魔眼は確かにネウロイのコアを捉え、こうして至近距離から攻撃を続けているわけなのだが、どういうわけか装甲の下にあるはずのコアが露出してこない。

 

 ひとつの仮説に行き当ったユーリは、インカムを美緒に繋ぐ。

 

「……発言、宜しいでしょうか。坂本少佐」

 

『なんだ!?』

 

「少佐は現在もコアを確認できていながら、その場所に攻撃を加えてもコアが露出しない…であれば、このネウロイのコアは機体の最深部に位置しているのではと推測します」

 

『最深部……このデカブツのか!?』

 

 直に美緒の銃は弾が尽きる。すると彼女に残された武器は背中の扶桑刀だけだ。彼女が愛用しているこの刀は魔法力を流すことでネウロイの装甲も両断できる。

 

 だが今回は敵が従来よりも大きい上に、装甲も硬いときた。全力を出してもコアまで攻撃が届くかどうか……

 

「こ…んのぉ──!シュトゥルム!!」

 

 大気中のエーテルと風を纏う固有魔法を発動させたハルトマンがネウロイに突っ込む。強固なネウロイの装甲をも抉り取る威力を持つこの魔法によって大型ネウロイの装甲が一部削り取られるが、それでもまだコアには届かない。

 

「ハルトマンの魔法でもダメなのか…っ!」

 

「クソ…このままではジリ貧だ」

 

「どうにかできないのかヨ!」

 

 優勢が一転、消耗戦に持ち込まれてしまった。ウィッチ達はユニットを駆動させるために常時魔法力を消費し続けている。このままでは魔法力が足りなくなり、撃墜されることは必至だろう。

 だが501の主力達でも、このネウロイを倒すことは難しい。一度撤退するか、こちらに向かっているはずのシャーリーとルッキーニを待つのが最善だろうが、こちらの動揺を悟ったかのように大型の内部からワラワラと小型のネウロイが押し寄せてくる。

 

 比較的自由に動けるのは後方にいるユーリのみ。であれば、すべき事は1つ。

 

「──緊急につき、無断で失礼します。皆さん、大型から距離をとって下さい。アレは私が引き受けます」

 

『どういうことだ!?』

 

『何か作戦があるってこと!?』

 

「作戦と言える程ではありませんが、ネウロイを撃破するにはこれが最適解かと。イェーガー中尉達が到着するまでどれ程かかるかわからない以上、先にこちらが削りきられてしまう可能性は捨てきれません。ハルトマン中尉の魔法も、乱発できるようなものではないとお見受けしました」

 

 通信しながらも自分の周囲にいる小型ネウロイをシモノフで粉砕していくユーリは、近辺の小型をあらかた片付けると、大型ネウロイに向かって引き金を絞る。然して精密に狙ったわけではない弾丸は一直線に突き進み、大型ネウロイの体勢を崩した。

 いくら一撃の破壊力が大きい対装甲ライフルでも衝撃を与えるのが精一杯で、装甲を()くのは容易ではない。

 

『待て!いくらお前の固有魔法でも、あのネウロイを1人で倒すのは無理だ!』

 

 資料に書かれていたユーリの固有魔法は〔射撃威力強化〕──魔力で銃撃の威力をブーストするというシンプルな能力だが、ユーリがここまでネウロイに放った銃撃を見て分かるように、大型に対する決定打には至らない。何発も打ち込み続ければやがて最深部に到達するかもしれないが、絶え間なく小型を吐き出し続ける大型ネウロイを1人で相手しながらでは時間が掛かり過ぎる。削った装甲は再生され、ユーリもやがてガス欠を起こすだろう。

 

 美緒の制止を振り切り、ユーリは狙撃で大型ネウロイの注意を引き付けながら高度を更に上げていく。美緒やバルクホルン達は当然後を追おうとしたが、大量の小型ネウロイがそうはさせじと邪魔をする。

 

 皮肉にも敵の手伝いがあって目論見通り美緒達からネウロイを十分引き離したユーリは、反撃で放たれる光線をシールドで防ぎながら弾倉クリップを交換した。

 

「──さて、始めましょうか」

 

 ユーリの身体を魔法力の光が包み込むと、そのまま狙いを定めてシモノフが火を吹く。発射された14.5mm弾が大型ネウロイ目掛けて一直線に飛んでいく様は、先程までと何ら変わらないように見える。

 だが…これまでは装甲の表面に浅めのクレーターを作る程度しか効果の無かったユーリの銃弾が敵に着弾すると、突如爆発音と共にネウロイの装甲が粉々に弾け飛んだ。

 

「ふむ……本当に硬い。普通なら1発で少なくとも半壊するんですが」

 

 ネウロイの光線を最小限の動きで避けながら、間髪入れず放たれる第2射。マズルブレーキが火を噴き、徹甲弾が抉り取られたネウロイの損傷部に着弾。またも漆黒の機体の一部が弾け飛ぶ。

 全体の半分近くをたった2発の弾丸で吹き飛ばしたユーリは、大型ネウロイの中心部に赤い光を発する結晶体を確認した。ネウロイのコアだ。

 それを見るなりシモノフを一層しっかりと構え、サイト内にコアを捉える。

 

「終わりです──!」

 

 柔らかく、しかし素早く絞られたトリガー。終焉を告げる轟音が鳴り響き、魔力を纏った鋼鉄の槍が真紅の結晶を貫き砕いた。

 一瞬の間を置いて、大型ネウロイの機体は無数の破片となって崩壊していく。それに伴い、あのネウロイの内部から湧いていた小型ネウロイの群れも同様に崩壊が始まっていた。

 

「ふう……任務、完了」

 

 小さく息を荒げたユーリが美緒達の元へ降下を始めると、そこへ偵察地点から飛んできたシャーリーとルッキーニが合流する。

 

「ありゃ、もう終わったのか?さっき上でデカいネウロイが爆発してたように見えたけど……」

 

「……ああ。ネウロイはたった今、ザハロフが撃墜した」

 

「おお、マジか!?遠目に見ても結構な大型だったのに、やるなぁアイツ──」

 

「すっごーい!」

 

 感心するシャーリー達を他所に、美緒達出動組は頭上のユーリを声もなく見つめる。

 

「ハルトマン、今何が起きたのか分かるか?」

 

「んー…とりあえず、ユーリがなんかすっごい攻撃でネウロイを倒したってことくらいは」

 

「……何はともあれ、無事にネウロイは倒したんだ。全員帰投するぞ。シャーリー達も、わざわざ来てもらってすまなかったな」

 

「いいっていいって。誰も怪我してないなら何よりさ」

 

「そーそー♪早く帰ろー!」

 

 消耗しているバルクホルン達に代わってシャーリーとルッキーニが先導を務め、一同は進路を基地へと向けるのだった。

 

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