501のウィザード   作:青雷

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聖夜の再会

「──どうやら菅野さんとニパさん、ユーリさんの主導で、お祭りを計画しているようです」

 

 執務室へ諸々の報告に訪れたロスマン。そんな彼女を、ラルは訝しげな目で見ていた。

 

「……そうか。なら今日はその3人は非番でいい」

 

「ふふ、寛大なんですね?」

 

「違う。今は哨戒任務さえ減らして、物資を節約したい状況だ」

 

「あら。てっきり隊長もお祭りに興味があるのかと」

 

「む……まぁな。──ところで、今日は随分と機嫌が良いようだが」

 

「そう見えますか?うふふ」

 

 満面の笑みで笑うロスマンに言い知れぬ怖さを覚えたラルは、これ以上詮索するのは止めることにした。

 

「ところで、クルピンスキー中尉の風説の流布に対する懲罰の件ですが──」

 

「……モミの木」

 

「は……?」

 

「サトゥルヌス祭にはツリーが必要だろう」

 

「ああ……了解しました」

 

 この後、クルピンスキーは斧を片手に森へ出向くこととなる。──"私は虚偽の情報を流布しました"というパネルを首から下げて。

 

 場所は移り、格納庫──3人は予定していた通り、サーシャの教えを受けながら木彫りの人形制作に取り掛かっていた。

 

「──サトゥルヌス祭の事、ひかりさんに教えてないの?」

 

「うん。びっくりさせたくてさ」

 

「なるほどね──あ、菅野さん出来た?」

 

「へへ…どうよ。我ながら傑作」

 

 直枝の掌には、小さな木彫りの動物がいた。

 

「へぇ…菅野上手いじゃん」

 

「可愛い猫ね…!」

 

「……犬だよ」

 

 直枝の意外な才能に驚いていると、ユーリも木を削っていたナイフを置く。

 

「わぁ…!ユーリさんも上手!」

 

「こいつは……タヌキか?」

 

 ユーリの作った人形は何らかの動物を表していることはすぐに理解できる。ただしその形状というのが、2本の足で立ち、胴体には丸い円盤状のものを抱えているというもので、丸みを帯びた耳やずんぐりしたフォルムも相まって、扶桑で有名な動物であるタヌキを想起させた。

 

「一応、猫のつもりで作ったんですが……扶桑では"招き猫"というコインを抱いた猫の人形が縁起がいいとされる、とお聞きしたことがあったので」

 

「サトゥルヌス祭で招き猫って……どっちかっつーと年明けだろ」

 

「……そうなんですか?」

 

「まぁ悪りぃモンじゃねぇし、いいけどよ……サーシャ、赤い塗料ってあるか?」

 

「えっと、確か……」

 

 そんなこんなで順調に人形が量産されつつあったところへ、新たな来訪者が……

 

「おはようございまーす……」

 

「えっ、ひかり!?」

 

「まずいぞ、隠せ隠せ──!」

 

「そんな急に──えと…菅野さん、そこに正座!」

 

「ハイッ!」

 

 突然のひかりの来訪に慌てて作業の痕跡を隠蔽する4人。木材類は後ろでいつものお説教を再現するサーシャと直枝に任せ、ニパとユーリはひかりに部屋へ戻るよう2人掛りで説得にかかる。

 

「ダメじゃないかひかり!まだ寝てなきゃ……!」

 

「大丈夫ですよ。熱も下がりましたし」

 

 ニパはひかりの額に手を当てて熱を測ってみる。確かに昨日よりは格段に熱が下がっているようだが……

 

「まだ完全に下がりきってないよ。部屋に戻ろ?」

 

「そうです。病み上がりで無理をすれば、再度悪化する危険性だってあります」

 

「や、でも私、昨日ずっと寝てた分トレーニングしないと──」

 

「万全じゃない状態でトレーニングをしても、効果は望めませんよ!」

 

 どうにかしてひかりを部屋に帰そうと粘る2人だったが、

 

「──ただいまー!いやぁやっと帰って来れたよー。あ、ひかりちゃーん!見て見て、君の為に一番でっかいツリー採ってきたからね!」

 

 これ以上ないバッドタイミングでモミの木を持ち帰ったクルピンスキーによって、その努力は水泡に帰すのだった──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──はい。完成です」

 

 食堂では、下原が中心となってサトゥルヌス祭用の料理を完成させたところだった。その食材となったキノコは、ひかりへのサプライズを台無しにした罰としてクルピンスキーがロスマン監修の下採ってきたものを使用している。

 

「サダちゃん、味見していい?」

 

「もう、ジョゼったら。皆の分も食べちゃダメよ?」

 

「分かってるよ~!」

 

 待ちきれないといった様子のジョゼに、下原はキノコスープを1杯取り分ける。そこへ、各所準備作業の進捗を確認して回っていたユーリとロスマンが通りかかった。

 

「──あら。料理、完成したのね」

 

「はい。良かったら、先生とユーリさんも如何ですか?」

 

「そうね……あの偽伯爵が採ってきたキノコだもの。今の内に美味しいか確認しておきましょうか」

 

「先生もご一緒だったんですから、流石に今回は大丈夫かと思いますが……」

 

 そう言いつつもしっかりスープの皿を受け取るあたり、ユーリも恐れているのだろう。あの惨劇を繰り返してはならないと。

 

「では、いただきます──っと」

 

 掬ったスープを口に運ぼうとした瞬間、ユーリの頭からヘアピンが外れた。一旦味見を中止してヘアピンを拾い上げたユーリは、きちんと髪を留め直してから改めてスープを食べようとしたのだが……

 

「っ…く──フフフ……ッ」

 

「……ジョゼさん?」

 

「プッ…クスクス……」

 

「ふぅ…ふぅ…ッ~~!」

 

「下原さん?ロスマン先生も……どうかされたんですか?」

 

 気づけば、ユーリを除く全員が内から込み上げる何かを必死に堪えている様子だ。

 

「分からない…けど、急に、笑いが……ッ!」

 

「笑い……?」

 

 次の瞬間、堰を切ったかのように3つの笑い声が食堂に響き渡った。

 

「ヒッ…ヒィ……も、もしかしてこれっ……ど、どk──アハハハハッ!」

 

 いつもの清楚な立ち振る舞いは何処へやら。大笑いする下原を見て、ユーリは今自分が口に入れようとしていたスプーンを口元から離し、皿ごと遠ざける。

 

「──下原さーん?なんかすごい声してるけど、何かあったの……ってホントに何があったの!?」

 

「ニパさん!──僕にもわかりません。ただ下原さんが作ったきのこスープを食べた途端、皆さんが壊れたように笑い出して……」

 

「きのこって……ちょ、これ"ワライタケ"じゃん!れっきとした毒キノコだよ!何でこんな物スープに……!?」

 

「クククッ……ク、クルピンスキー中尉が、絶対美味しいからって──ッフフフフ!」

 

「ク、クルピンスキーさんは……!?あの人はどこに……!」

 

「──ボクをお呼びかな?ユーリ君」

 

 姿を現した全ての元凶であるクルピンスキー。彼女の手には、味見用の小皿とスプーンが……

 

「いやぁやっぱり…フフッ、つまみ食いはジ…ジョゼ君のせんばいとっきょ──ダッハッハッハッハッハ!」

 

 普段の凛々しい(?)彼女とは正反対な本能に任せた大笑いを他所に、ニパは立ち尽くす。

 

「そんな…これじゃ祭りが……!」

 

 そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、スピーカーから警報が鳴り響いた。

 

 

『中型ネウロイ1機が接近中!502部隊は出動をお願いします──!』

 

 

「行きましょう、ニパさん!」

 

「ああもう、こんな時に──ッ!」

 

 ここにいる4人は到底戦える状態ではない。格納庫で作業しているはずの直枝とサーシャは──

 

「ギャーッハッハッハッハッハ!」

 

「プッ…ククククク……!」

 

 見事にキノコの毒にやられ、こちらも大笑いしていた。

 

「こっちもかよ……!」

 

「仕方ありません。僕達だけで出ましょう!」

 

「うん!」

 

「ニパさん!ユーリさーん!」

 

 ユニットを履き発進しようとしたところへ、ひかりも警報を聞いてやって来た。彼女はきのこスープに手をつけておらず正気を保っているが、それ以前に病み上がりの身だ。出撃させるのは危険すぎる。

 

「ひかりは来ちゃダメ、じっとしてて!上官の命令だよ!」

 

「あぅ…分かりました……」

 

 珍しくニパが上官権限を行使したことで、ひかりの出撃は防げた。後はネウロイを倒すだけだ。

 

「行きましょう!」

 

「発進──ッ!」

 

 ユニットがハンガーから外れた瞬間、基地に接近していたネウロイの光線が放たれる。直撃こそしなかったが、格納庫前に屹立していたツリーが倒れ、炎上してしまった。

 

「くっ…このぉ──ッ!」

 

『──ニパ、ザハロフ。聞こえているな?』

 

「隊長!ご無事でしたか」

 

『…ここまで敵の接近を許したのは、何らかの能力によるものだと思われる。くれぐれも注意しろ』

 

「了解!……良かった。隊長はまともだった」

 

 一抹の安堵を胸に飛翔する2人。その目が遠方を飛ぶネウロイの姿を捉えた。

 

「見つけたッ!」

 

「援護します──!」

 

 先行したニパがネウロイの背面上に周り、MG42が火を噴く。ばら蒔かれた7.92mm弾がネウロイの装甲を削っていくが、攻撃を受けるなりネウロイの姿が掻き消えていく。

 

「消えた…!?観測班が見つけられなかったのはコレの所為か……ッ!」

 

「恐らく迷彩によるカモフラージュ……実体は間違いなく近くにいるはず」

 

 ユーリも目を凝らして周辺を探すが、ネウロイの姿は発見できない。そんな時だった。

 

『ニパさん!11時の方向です!』

 

「ひかり…!よし──っ!」

 

 地上からこちらを観測しているひかりのサポートで敵の位置を割り出したニパ達だが、指示された方向へいくら進めど敵の姿が見つからない。

 

「ひかりさん!今も敵はこの方向にいるんですか──!?」

 

「はい!こっちからはネウロイも、2人の姿も見えてます!」

 

「下のひかりからは見えてる……──ユーリさんッ!」

 

「──はいッ!」

 

 急降下したユーリが雲の下から空を見上げると、そこからはネウロイの漆黒の機影がバッチリ視認できた。

 

「裏返しますよ──!」

 

 真下から放たれた徹甲弾がネウロイの機体をカチ上げ、上下をくるりと反転させる。

 

「今だ──ッ!」

 

 ユーリの作った隙を突き、ニパが一気に畳み掛ける。降り注ぐ弾丸の雨はネウロイの機体後部に隠されていたコアを露出させ、その勢いのままコアを砕いた。

 

「やった!ひかりのお陰で倒せたよ!」

 

『やりましたね!ニパさん!』

 

 ネウロイの残骸である金属片が舞い散る中、勝利を称え合うニパとひかり。その様子を黙って見守っていたユーリが、ふと空を見た時──

 

 

「っ──ニパさんッ!」

 

 

 突如、ニパの背後で真紅の光が点滅した。それを見るなりユーリはニパの元へ飛び、寸でのところで光線からニパを守るシールドを展開する。ユーリの強固なシールドがニパに襲いかかる光線を阻む一方で、同じ場所から新たな閃光が放たれた。一直線に突き進む閃光が狙う先はただ1つ──シールドからはみ出ている、ユーリのストライカーユニットだ。

 

 それに気づいたユーリも即座にシールドの範囲を広げるが……光線の方が一瞬早かった。

 ユーリの右脚のユニットは光線を掠めてしまい破損。ニパを残して落下していく。

 

「ユーリさん!──どういうことだよ!?ネウロイは確かに倒したのに……!」

 

 光線を防ぎ切った後、ニパはすぐさま攻撃された方向に銃を向けるが、その先には何もない。青空と雲が広がるのみだ。

 困惑するニパに、何とか不時着したユーリが無線を繋ぐ。

 

『ニパさん気をつけて!もう1体います!しかも──』

 

 先の光線の発射位置からして、ネウロイがニパと同じ高度にいるのは間違いない。1体目と同じように姿を隠す迷彩能力を持っていることまでは想定の範囲だったが……

 

『……どうやら、2体目の迷彩能力は完璧なようです。地上からも姿が見えません』

 

「そんな……!どうやって倒せばいいんだ」

 

 少し考えたユーリは、地面に仰向けに寝そべるとシモノフを空に向けて構える。

 

「ニパさん、よく聞いてください。今から()()()()()()()()()()()()。合図をするまで、高度を下げて退避してください」

 

『えぇっ!?爆撃…って、空に!?』

 

「いいから早く!」

 

『わ、わかった──!』

 

 ユーリの指示通り、ニパは高度を下げる。これで邪魔なものは一切無くなった。

 

「さぁ、姿を見せろ──!」

 

 シモノフが立て続けに火を噴く。亜音速にまで加速された徹甲弾達は瞬く間にニパがいた高度まで駆け上がり、内包したユーリの魔法力が6つの地点で同時に〔炸裂〕する──!

 

 爆発に次ぐ爆発──広範囲に渡り空を埋め尽くした6つの爆炎は、その空域に漂っていた姿無き漆黒の機影の存在を浮かび上がらせた。

 

「敵影確認!ニパさん──ッ!」

 

「やああああぁぁぁ──ッ!」

 

 あぶり出された敵の姿を見失う前に、ニパが突攻を仕掛ける──!

 至近距離での集中砲火──例えコアを捉えられずとも、削られた装甲が再生するまでの間は敵の位置を視認できる。

 だがニパはあくまでもここでこのネウロイを倒すつもりだった。直感に任せ、目の前の機影に向かって引き金を絞る──が、数十発の弾丸を吐き出した辺りで、MG42の機関部から異音が発せられた。それっきり弾が発射されなくなる。

 

「嘘だろ、詰まったァ!?」

 

 ニパにトラブルが起きたのを聡く感じ取ったのか、ネウロイ側も光線を連射して攻撃できないニパを追い詰めていく。

 

「くっそ……何でこんなにツイてないんだよ──!」

 

 放たれる光線の数々をシールドで防ぐニパ。その遥か向こうでは、ネウロイが爆炎から抜け出し再び姿を眩ませようとしていた。

 

(せっかくユーリさんが作ってくれたチャンスなのに……ッ!)

 

 悔しさで歯を食いしばったその時──ニパの背後から、数発のロケット弾が飛来した。それらは何もない空間──厳密には姿を隠したネウロイに命中し爆発する。

 

「この攻撃……!?」

 

 

『今よ、エイラ──!』

 

『コア確認、っと──!』

 

 

 まるで宙に浮いているように見える露出した内部のコア目掛けて、ニパではない誰かによる射撃が浴びせられる。的確にコアを捉えたその射撃は、迷彩型ネウロイをあっという間に金属片と四散させた。

 

「今の、誰が──」

 

 

「──よぉ、ニパ!いい子にしてたカー?」

 

「敵、撃破確認。異常なし(オールグリーン)──久しぶりね、ニパさん」

 

 

 ニパの耳に届いた、慣れ親しんだ声。その正体は──

 

 

「──エイラ(イッル)!サーニャさん!」

 

 

 ──その正体は、サンタクロースのコスチュームに身を包んだ、スオムス空軍所属のトップエースであるエイラ・イルマタル・ユーティライネンと、同じく現在スオムス空軍に身を置いているサーニャ・V・リトヴャク。502部隊に来てから久しく会っていなかった、ニパの旧友達だった。

 隣国であるスオムスの同僚や上官達が、ニパの為にと補給物資を輸送用ソリに積んで運んできてくれたのだ。

 

「こっちへ向かっている途中でネウロイの反応を探知したから、急いで駆けつけたの。間に合って良かったわ」

 

「姿が見えないネウロイも、サーニャの広域探知の前じゃ丸裸同然だからナ!ワタシ達の敵じゃないってことダ」

 

「助かったよ…!せっかくのチャンスも、無駄になっちゃうとこだった」

 

「チャンスって、さっき起きたあの爆発のこと……?」

 

「うん!あ、そうだ。2人にも紹介するね。きっと驚くよ!」

 

 そう言ってニパが地上へ目を向け、エイラ達もそれに倣う──

 

「っ…───ッ!!!」

 

 微かに口元を震わせたエイラは、次の瞬間ユニットを全開にして急降下を始めた。目指す先は、ここまでずっと、言葉もなく、地上から彼女達を見上げていた──

 

 

「ユーリィイイイイイ───ッ!!!」

 

 

 銃を投げ捨て、握り締めた拳を振り抜く。繰り出された一撃はユーリの横面を綺麗に捉え、数メートルに渡り殴り飛ばした。

 突然の事に驚く暇もなく、ユニットを脱装したエイラは倒れたユーリの上に馬乗りになって胸ぐらを掴み上げる。

 

「オマエのせいだ!オマエのせいで皆おかしくなったんダッ!」

 

「ッ………」

 

「あれから皆必死でオマエの事探して、そしたら急に上の連中からオマエが死んだって言われて…ワケ分かんないまま、機密だとかで誕生日の写真ッ…宮藤が持ってるの以外ぜんぶ燃やされて……ッ!ミーナ隊長も、坂本少佐も、宮藤もシャーリーもルッキーニも!──みんなッ…皆、暗い顔のまま解散して……ッ!」

 

 俯けられたエイラの頭が、コツンとユーリの胸に預けられる。表情は隠れて見えないが、時折耳に入って来る嗚咽と啜り泣く声で、今彼女がどんな顔をしているのか容易に想像できた。

 力なく持ち上げられた拳が、弱々しくユーリの肩を叩く。

 

「フザケンナバカ…ッ──いままで、どこでなにしてたんだヨ……っ……!」

 

「エイラさん……」

 

「──ユーラ」

 

 2人の元へ降り立ったサーニャは、白い両手でユーリの顔を包み、確かめるようにジッと凝視する。

 

「……サーニャさん、僕──」

 

 続けようとした言葉は、サーニャがユーリを優しく抱きしめたことで遮られた。

 

「何も言わなくていいわ。生きてる、って──私達が知ってる、あのユーラだって分かったから。それで、十分…ッ──よかった…!いきてて…ユーラ……っ!」

 

 抱きしめる腕に力を込めたサーニャの頬を涙が伝う。

 何度、また聞きたいと思った声だろう。何度、また見たいと思った顔だろう。

 ──何度、また会いたいと思ったことだろう。

 

 長いようで短い時を経て、元501部隊の3人は聖なる日に再会を果たしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜──度重なるアクシデントに見舞われつつも、エイラ達が持ってきた補給物資を用いて無事にサトゥルヌス祭は行われた。

 

 色とりどりの料理がテーブルに並べられ、皆飲み物片手に談笑していた中、

 

「──おい、雁淵」

 

「は、はいっ!?」

 

「……ん」

 

 直枝はぶっきらぼうに、ひかりへあるものを差し出した。

 

「うわぁ…かわいい!」

 

 ひかりが受け取ったのは、オラーシャで古くから親しまれる"マトリョーシカ"。日中にサーシャ達が作っていた木彫りの人形だ。

 

「それ、真ん中から開くのよ。開けてみて」

 

 サーシャに言われ人形を2つに開いてみると、中から一回り小さいサイズのマトリョーシカ人形が出てきた。

 

「へぇー、面白い!」

 

「それ、もう2段階開くんだよ」

 

「そうなんですか?」

 

 最初の人形をニパに預け、2体目の人形を開く。中から出てきたのは……

 

「コレ……招き猫、ですか?」

 

「よく分かったね?それ、ユーリさんが作ったんだよ」

 

 現れたユーリのタヌキもとい招き猫は、抱えている硬貨を除き全身が綺麗な赤で染められていた。基本的に商売繁盛等を祈願して飾られることの多い招き猫だが、赤い招き猫は病除けという意味を持つのだという。当然ユーリはそんな事は知らず、色を付けたのも直枝の提案を受けてのことだ。

 

「すごい可愛いです!これも開くんですよね?」

 

 招き猫の中に入っていたのは、直枝が作った小さな人形だった。

 

「うわぁ…!可愛いブタ!」

 

「イ・ヌ・だッ!どーしてユーリの招き猫が分かってオレのがブタなんだよ!?納得いかねー!」

 

「まぁまぁ菅野。褒めてくれてるんだからいいじゃん!」

 

 憤慨する直枝を宥めるニパ。

 その様子を、少し離れた場所からエイラが見守っていた。傍らにはサーニャとユーリの姿もあり、元501部隊のメンバーで積もる話もあるだろうという皆の配慮だった。

 

「──正直、ちょっと心配だったんだけどナ。アイツ、502で浮いてンじゃないかっテ」

 

「そんなことないですよ。寧ろ、僕はニパさんに何度も助けてもらいましたし」

 

「マジかヨ…あのニパだぞ?」

 

「まぁ、確かに彼女は不運に見舞われることが多いですが……それでも、この502部隊に必要な存在だと、皆さんそう思っているはずです」

 

「ふーん……ま、アイツも成長したって事ダナ」

 

「ふふっ、エイラ。ニパさんのお父さんみたい」

 

「まぁナ!スオムスで一緒だった頃、ニパを育てたのはワタシといっても過言じゃないからナ!」

 

「あのエイラさんが…人を育てる、ですか……?」

 

「何だよ、何か文句あんのカー?」

 

「……いえ、何も」

 

「言いたいことがあるならはっきり言え~ッ!」

 

「うわっ!?エ、エイラさん止めてください!飲み物持ってますから──!」

 

 久しぶりに戯れ合うエイラとユーリを見て、サーニャは嬉しそうに微笑む。

 

「あ、そうだ──ユーラ。元501の皆にも、ちゃんと無事を知らせてあげて。……部隊が解散する時も、皆すごく落ち込んでたから」

 

「そーだゾ。ミーナ隊長なんか、3日くらい毎晩泣いてた…っテ。坂本少佐とか、バルクホルン(大尉)ハルトマン(中尉)がずっと付き添ってたんだからナ」

 

「そう……ですか。本当に、すみませんでした。その、外部と連絡をとろうとすると、どうしても僕の正体を明かさなければいけなくなるだろうと思って……」

 

 ユーリが抱えていたその辺の事情も、2人は理解している。最初こそどうして早く連絡しなかったのだと怒っていたが、ユーリから直接話を聞いた後は「ユーリはこういう奴だった」と納得してくれた。

 

「でも、またこうして会えて本当に良かった。そのヘアピンも、まだ着けててくれたのね」

 

「当然です。初めて頂いたプレゼントですし。大切にすると、お2人に約束しましたから」

 

 それを聞いたエイラとサーニャは、意味ありげに顔を見合わせる。

 

 

「じゃあ、ついでにもう1個約束しろヨ──」

「──もう、1人で黙って遠くに行かないで」

 

 

 そう言って、エイラはユーリの袖を摘み、サーニャはユーリの手を取る。

 

「……はい。約束です」

 

 そこで、502部隊の皆から3人にお呼びが掛かる。どうやらサトゥルヌス祭の記念に写真を撮ろうということらしい。

 

「では、撮りますよ──」

 

 通りがかった整備兵に撮影を頼み、横に並んだ12人に向けてシャッターが切られる。

 この日、ユーリの存在を証明するものがこの世界に1つ増えた。

 














 ガリア領、カールスラント国境付近。マーストリヒト・アーヘン空港──
 某日、いつものように書類作業に没頭していたミーナの元へ、ハルトマンが駆け込んできた。

「──ミーナ居る!?」

「ハルトマン中尉。入る時、せめてノックくらいして欲しいのだけど……それで、どうしたの?」

「コレ!今さっき届いたんだよ!」

 ハルトマンが見せたのは、1通の手紙。飾り気のない、至って普通の封筒だった。

「手紙…ペリーヌさん達からかしら?」

「ユーリからだよ!ユーリから手紙が──」

「──止めて頂戴」

 ユーリの名前が出た瞬間、ハルトマンの言葉を遮ってミーナが釘を刺す。

「ハルトマン中尉。死者の名前を軽率に扱う行為は、悪戯の範疇を超えています。…今後、二度としないように」

「ミーナ……」

 立ち尽くすハルトマン。その時、何者かがハルトマンから手紙を奪い取りミーナに突きつけた。手紙を見るなり走り出したハルトマンを追って来たバルクホルンだ。

「ミーナ。読むんだ」

「……言ったでしょ。彼はもう死んだのよ。死者から手紙なんて届くはずがないわ」

「現にこうして届いている。お前宛にだ」

 無理矢理押し付けられ、ミーナは辟易しながらも手紙を開封した。
 大方、自分を元気づけようと彼女達が仕組んだものだろう。もう大丈夫、気にしていないと何度も言っているというのに。
 然して期待もせずに、綺麗に折りたたまれた便箋に目を通す──。


「────!」


 ──ポタリと雫が落ちる。1つ、また1つと。気づけば涙が溢れていた。

 口元を覆い、堪らず泣き崩れるミーナ。そんな彼女に寄り添う2人の戦友達の目にも、涙が滲んでいた。

「……エイラは最後までずっと言ってたよね。ユーリは大丈夫だって。それにほら、ブリタニアの戦いの時にもさ、約束してたじゃん──"絶対に生きて帰る"って」

501部隊の誰もが遅かれ早かれユーリの死を受け入れていた中で、誰よりも強く彼の生存を信じていたのがエイラだった。


──アイツの事占ったら、何度やっても幸運って出るんだヨ!
──ワタシの占いは当たるんダ!


そう言って、最後の最後までユーリの捜索を続けるようミーナに打診していたのもエイラだった。

「フッ──命令を完遂したなら直ちに報告をしろと、次に会った時、精々キツく言い聞かせないとな?ミーナ」

「……っ……!ええ、そうね──」

涙ながらに笑みを浮かべる3人の前には、手紙に同封されていた1枚の写真があった。

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