501のウィザード   作:青雷

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例の如く長くなったので、分割です


Sei bitte vorsichtig

「──たった今下原から報告があった。ペトロザヴォーツク地区のネウロイの掃討が完了したそうだ」

 

「これで、ムルマン港との補給ルートが開通しましたね」

 

 サトゥルヌス祭に年越しと、年末行事を経た新年。

 502部隊はブリタニアから来る大規模補給に備え、補給ルートの安全確保に取り掛かっていた。その補給船団には新型のユニットも積まれており、常に機材と物資の不足に頭を悩ませる502にとって、この補給は安全確実に完了しなければならない。

 

 そんな事情を鑑みてか、当日はラル達502部隊にも船団を護衛する"ラッセルシュプラング作戦"が発令されていた。

 

「……しかし、妙ですね。ムルマン港の補給線は安全なはずなのに」

 

 サーシャの疑念は、この場にいるラルやロスマンも同じものを抱いていた。基本的にネウロイは巣を中心に行動しており、自分が出てきた巣から遠方へ出向くことはない。ブリタニアからバレンツ海にあるムルマン港へ向かうルートは周辺にネウロイの巣が存在しない為、道中護衛を要する程の危険は無いはずなのだ。

 

「新型ユニットを守る為…にしても、我々に出撃要請が出る程ではないように思えます」

 

「であれば、新型以外にもよほど重要な物が積まれているのかもしれんな──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃──格納庫では、大きな木箱を前にひかり達が目を輝かせていた。この木箱は先日エイラ達が持ってきた補給物資の1つで、まだ開封されていない最後の1個だ。

 

「中身は何でしょうね?美味しいものとかだったらいいなぁ……!」

 

「ほら菅野、早く開けよ!」

 

「そう急かすんじゃねぇよ」

 

 ニパも直枝も、期待に胸を躍らせながら箱の蓋を外す。緩衝材に包まれ入っていたのは……

 

「──ちぇっ、なんだ武器かぁ。ぶどうジュースに期待してたんだけどなぁ」

 

 そうぼやいたのはクルピンスキー。年越しパーティーでワインを飲み、出撃できないほど酔っていたはずだが、まだ飲み足りないというのか。

 

「ここ最近は補給路の確保で出撃が続いていましたし、少しでも武器弾薬が増えるのは喜ばしい事ですよ」

 

「そうだけど……ユーリきゅんは真面目だなぁ」

 

「……その呼び方は止めてくださいとお願いしましたよね?」

 

 落胆するクルピンスキーを他所に、ユーリ達は箱の中身を確認していく。

 

「おっ、リベレーターまである。──って、弾入ってねぇじゃねぇか」

 

「かわいい!何ですかそれ!?」

 

「か、かわいいかな……?」

 

 リべレーターに対し予想外の食いつきを見せたひかりに、クルピンスキーが悪戯っぽい笑みを浮かべながら解説をする。

 

「これはね子猫ちゃん。ケルト魔法がかかったお守りなんだよ──ほら、全体がルーン文字の形をしてるだろう?」

 

「ルーン文字、ですか……?」

 

「そう。敵の弾が当たらないように、っておまじないが掛かってるんだ」

 

「へぇ…!扶桑の破魔矢みたいですね!いいなぁ、欲しいなぁ……!」

 

 このように感激しているひかりだが、当然リベレーターにそんな起源など無い。弾除けのおまじないも、ルーン文字型の形状も、全てクルピンスキーの冗談。これはどこまでいっても携帯用の小型拳銃でしかないのだ。

 

「ボクとデートしてくれたら、これはひかりちゃんにプレゼントするよ?」

 

「えぇ…じゃあいりません」

 

「ハハッ、うそうそ。ひかりちゃんにあげるよ」

 

「やったぁ……!」

 

「──ひかり信じちゃったよ……ああも騙されやすいと、ちょっと心配になってくるなぁ」

 

「正真正銘のバカだな、アイツ」

 

 武器以上の意味を持たないリべレーターに目を輝かせるひかり。それを呆れた様子で見ていた菅野とニパは、銃の下に同梱されていたその他の物資を改める。その中に、異彩を放つ小さな箱が入っていた。

 

「……あれ、コレ何だろ?」

 

「ん?──"クルピンスキーへ"って書いてあるな。おめぇ宛か?」

 

「僕個人へのプレゼント……ってことは、スペシャルなぶどうジュースかな!?」

 

 期待に胸を膨らませ小箱の蓋を開けると、中には色とりどりのマカロンが収められていた。

 

「あ、お菓子だ!美味しそう……!」

 

「お菓子もいいけど、ぶどうジュースが良かったなぁ……あムッ」

 

 文句を言いながらもマカロンを齧るクルピンスキーだが、彼女の歯は、本来柔らかい食感であるはずのマカロンにあるまじき硬い何かに行き当たる。

 

「うぇ…っ何だコレ?」

 

 突然の事に堪らずマカロンを取り落とした所をユーリがキャッチ。クルピンスキーに代わり、マカロンの断面を確認する。見たところチョコレート風味の生地の中に、何やら金属のような固形物が混入しているようだ。

 

 生地を半分に割り、中に入っていた異物を取り出してみると……

 

「これは……ロケット?」

 

 マカロンの中に仕込まれていたのは、手の平サイズのペンダントロケット。中に写真を入れて持ち運べるタイプのものだ。

 

「……隊長達に知らせた方がよさそうです。行きましょうクルピンスキーさん」

 

 ロケットの中身を見たユーリは、クルピンスキーを連れて隊長室へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──マイクロフィルムをお菓子に隠すなんて……余程の重要事項、という事でしょうか?」

 

 ユーリ達がラルの元へ持ち込んだロケットの中には、数枚の小型フィルムが入っていた。それを現像・引き伸ばしたものが、現在ラルの手にあるバインダーへファイリングされている。

 

「クルピンスキー、本当に心当たりはないのね?」

 

「あるとすれば、いつぞやデートに誘った子猫ちゃんだけど……手の込んだラブレター、ってわけでもなさそうだし?」

 

 クルピンスキーの冗談を他所に、目の前の資料に目を通していたラルは小さく息をつく。

 

「潮時だな──」

 

 そう言って、ラルはバインダーを無造作に投げ出す。机の上を滑り目の前までやってきた資料を一目見たユーリは、小さいながらも確かな驚愕の表情を浮かべた。そこには、ユーリにとって因縁深い存在が描かれていたからだ。

 

「もう隠す必要もあるまい。()()()について、お前が知っている事を全て話してもらうぞ。ザハロフ」

 

「……分かりました。──その兵器の名称は"ウォーロック"──本当の意味で、ガリアを占領していたネウロイの巣を破壊した存在です」

 

 ユーリは、ブリタニアで起きた一連の事件と計画のを全てラル達に打ち明けた。……勿論、計画に関わっていた自分のことも、全て。

 

「──以上が、ブリタニア空軍トレヴァー・マロニー元大将による"ウォーロック計画"の全容と顛末です」

 

「ネウロイのコアを兵器利用するだなんて……」

 

「ネウロイを以てネウロイを制す──そんな作戦が実在したとはな」

 

「見た感じ、攻撃力も最高速度もウィッチ(ボクら)より上っぽいね。こんなのが戦場に出てきたら、ネウロイとの戦いもずっと楽チンなんだけどなぁ」

 

「しかし、結局ウォーロックは暴走。ネウロイだけでなく、友軍までもを攻撃する無差別破壊兵器になってしまった──緊急停止も動作しなかったことから、やはり動力として利用されたネウロイのコアが何らかの影響を及ぼしたものと考えられます」

 

「さしずめ、コアにシステムを侵食された、という所かしら……501部隊はそのツケを払わされた訳ね」

 

「そして、その馬鹿げた計画の尖兵だったユーリ(お前)は機密処分をくらい戦死認定。この世に存在しないウィザードとして我々の元へ流れ着いた──と」

 

「……はい。今までお話しできず、申し訳ありませんでした」

 

「まぁ、それに関しては何も言わん。ブリタニアの連中がお前という上玉をあっさり手放してくれたお陰で、結果的にウチの戦力が潤ったわけだからな」

 

 ユーリがここに来た時、ラル達から受けた事情聴取──そこで感じた違和感や疑念の全てが晴れた。突然魔法力に目覚めた無名のブリタニア軍人は、その実、世界初のウィザードとして501部隊と共に肩を並べ戦っていたのだ。それほどの実績を持つ存在を面倒な根回し無しで手に入れることができたのは、ラル達502部隊にとって僥倖と言う他ないだろう。

 

「確かに、よくよく思い返せば色々と不思議だったんだよね。魔法力に目覚めたばかりで、ユニット履くのも初めてのはずなのに、随分軽々と乗り回してたし。それもこれも、501部隊で戦ってたんなら全部納得だ」

 

「……しかし困りましたね。501部隊が巣を撃破した真相がこれでは、我々も同じ手段をとることはできません」

 

「そうだな。──だが、一連の話を聞いて分かった事がある。いくら巣といえどネウロイの数には限りがあり、倒し続けていればいつかは巣が(カラ)になるはずだ」

 

 "グリゴーリ"撃滅にあたって司令部にこの情報が知れれば、十中八九、火力を集中させてネウロイに対し消耗戦を仕掛けることになるだろう。

 

「……ということは、まさか?」

 

「ああ。ムルマンに向かっている船には、"グリゴーリ"攻略の切り札が積まれているに違いない」

 

 察するに、消耗戦へ持ち込むのに必要な大火力を備えた兵器だろうか。ラルの予想通りであれば、この輸送船団が502部隊へ護衛を要請してきたのも頷ける。

 

「光明が見えてきたな。皆にも作戦説明だ。エディータ、手伝え」

 

「はい」

 

 その場は解散となり、ラルとロスマン以外はそのまま食堂へ。

 遅れてやって来た2人によって、輸送船団護衛作戦の全体説明が昼食と同時並行で行われた。

 

「──以上が、今回の作戦の概要です。出発は明朝。安全なルートではありますが、くれぐれも油断はしないように」

 

「参加するメンバーは5名。作戦指揮は──クルピンスキー中尉が執れ」

 

「待ってよ、ボクが指揮するのぉ?出撃だけならまだしも、指揮とかあまり得意じゃないんだけどなぁ……」

 

「はぁ……船団には、非常時に備えてブリタニアのウィッチが1名同行しています」

 

 クルピンスキーのこの反応を予測していたのか、嘆息したロスマンは1枚の写真を差し出す。写真には、その船団に同行しているというブリタニアのウィッチの姿が写されていた。

 

「か、かわいい…!──作戦指揮、喜んで引き受けます!隊長殿!」

 

 あっさり丸め込まれたクルピンスキーに、ラルは他の参加メンバーの選出も委ねる。

 

「うーん…じゃあ残りは──ナオちゃんにニパ君、ひかりちゃんと……後はユーリ君がいれば安心かな」

 

「決まりだな。今指名された者は出撃に備えておくように。私からは以上だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の深夜──静まり返った射撃場に、一定の間隔で銃声が鳴り響く。銃声の主はカールスラント製のMP43突撃銃。そしてそれを構えるのは、隠れてこっそり訓練中のクルピンスキーだった。

 そんな彼女の元へ、ロスマンが現れる。

 

「──ユーリさんは分かるけれど、どうしてあの3人を選んだの?」

 

 ロスマンの質問に、クルピンスキーは撃ち終えたMP43を手際よく分解(オーバーホール)しながら答える。

 

「……先生はさ、ボクらがあとどれだけ飛べると思う?」

 

「突然どうしたの?」

 

「いやさ。ボクらは開戦以来──先生に至っては更に前のヒスパニアからずっと戦ってきて、もう十分過ぎる程の経験があるじゃない?」

 

「……そうね。気がついたらこんなにも長い間戦っていたわ」

 

「今、ボクらが居なくなったら、この基地はどうなるんだろうね」

 

 502部隊はカールスラント奪還の為の攻性部隊だ。直枝やニパ、下原にジョゼと優秀な隊員が揃っているものの、やはり502部隊がここまで戦い続けてこられたのはクルピンスキーやロスマンといった、対ネウロイ戦のベテラン達の存在が大きい。クルピンスキーの実力とロスマンの教え。どちらか1つでも欠けていれば、502はより苦境に立たされていたことだろう。

 

 しかしそんな彼女達も、前線から退かざるを得ない時はやってくる。ロスマンは19歳。クルピンスキーとラルは18歳と、ウィッチとしての寿命を目前に控えているのが現状なのだ。

 今はまだ問題なく戦えているが、魔法力の衰えがいつ表層化してくるかはその時になるまで分からない。きっちり20歳を迎えるまでは何事もないかもしれないし、ほんの数時間後には飛ぶだけで精一杯になってしまうかもしれない。

 

 もし仮に、クルピンスキーやロスマンが一気に前線から身を退くことになった場合、502部隊の戦力的損失は無視できないものになってしまう。最悪、部隊の存続にも関わってくるだろう。

 

「──だからさ、できるだけあの娘達に経験を積ませてあげたいんだ。ボクや先生が傍で見てあげられる内にね」

 

「そういうことなら、菅野さんとニパさんは納得だけれど……ひかりさんは?」

 

「ほら、ナオちゃんもニパ君もボクに似てバリバリの前衛だからさ。ひかりちゃんが2人のフォローに回れれば、ぴったりなバランスだろう?──何より天下のエディータ・ロスマン先生が目をかけてるんだ、理由はそれで十分でしょ」

 

「クルピンスキー……」

 

「あ、ユーリ君を指名したのだって、ちゃんと理由はあるんだよ?彼、後ろで戦場全体をよく見てるから、先生に代わる現場指揮官になれそうだし。──隊長なんかはあがり迎えても指揮官として基地に残りそうだけど、やっぱり現場で直接指揮できる人がもう1人いれば、残ったサーシャちゃんの負担も軽くなるかな。ってね」

 

 かつて行われた部隊を2つに分けての同時作戦がいい例だ。ああいった作戦を展開できたのも、サーシャとロスマンという指揮を行える者が双方のチームにいたからこそ。クルピンスキーは、いつかできるその空席にユーリを充てがうつもりのようだ。

 

「……いつもそれくらい真面目な所を見せておけば、少なくとも部隊の皆からの印象くらい変わったんじゃないかしら?」

 

「心外だなぁ、ボクはいつだって大真面目さ。女の子のハートを射止めるのに全身全霊を傾けているとも!」

 

「全く……そんなこと言って、また私の教え子を誑かすのは止めて頂戴ね」

 

「なに、先生。もしかしてひかりちゃんにヤキモチ妬いてる?心配しなくても、先生の方から求めてくれれば、ボクはいつでも準備オーケーなのに」

 

「何の準備よ……?」

 

「やだなぁ。いくらボクでも、流石にレディの前でそんな事を言うのは憚られるというものだよ。──そういえばひかりちゃんで思い出したんだけどさ。ボク、実は気づいちゃったんだよね」

 

「気づいた……ってまさか──」

 

 ロスマンが思い当たったのは、ひかりの持つ固有魔法〔接触魔眼〕。実戦で使用するには危険な能力ということで、本人を除けばラルとロスマンしか知らないこの存在を、まさかクルピンスキーは勘付いていたというのか……?

 

「普段は隠れて見えないけど───あの娘、中々()()よね!」

 

 次の瞬間、意味ありげに両手をワキワキとさせるクルピンスキーに、オーバーホール直後でまだ射撃の熱も残っているMP43の機関部(レシーバー)が押し当てられる。

 

 銃声に代わって、クルピンスキーの苦悶の声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝──予定通り格納庫に集まった出撃メンバー5人は、各々準備を終えて出発を目前に控えていたのだが……

 

「──おい、大丈夫かよそれ?」

 

「うーん、頼むから1000キロ保ってくれよ……!」

 

 早くも不運の兆候を見せ始めたニパのユニットは、排気口から黒い煙を咳き込むように吐き出している。先行きが不安な自らの翼を不安げな目で見下ろすニパの隣には、対照的にワクワクした表情のひかりがおり、自分の首の後ろで何やら紐を結んでいた。

 

「……おめぇ、それ持ってく気か?」

 

「えへへ~、いいでしょう!あげませんよぉ?」

 

「いや、いらねぇよ……」

 

 ひかりが大事そうに襟元に仕舞ったのは、昨日クルピンスキーにもらったリべレーター。紐を括って首からぶら下げられるようにしたらしく、未だにコレがお守りだと信じているようだ。

 

 そしてその原因であるクルピンスキーはというと……

 

「"夜空の星"──"大輪の薔薇"──違うなぁ……"君の瞳に"の次はなんて台詞がいいかなぁ?ねぇ、ユーリきゅんはどう思う?」

 

「いっそ口説くのを止めてみては如何でしょう?」

 

「何を馬鹿な!彼女との出会いはこれっきりかもなんだよ!?またいつ会えるかも分からないんだし、ボクという存在をしっかり刻み付けたいじゃないか!──いや、もしかしてアレかい?"押してダメなら引いてみろ"的な恋のテクニックの事を言っているのかな?」

 

「……もう何でもいいですから、とにかくユニットを履いてください。もう出発の時間ですよ」

 

「もうちょっと!もうちょっとだけ待って!あと少しでいい台詞が浮かんできそうなんだ」

 

 例のブリタニアのウィッチの写真片手にグズるクルピンスキーの背に、突如冷たいものが走った。

 

「──いつまでここにいる気かしら、伯爵様?」

 

「せ、先生……!これは、その──ギャフッ──!」

 

 餞別として鈍い音と共にクルピンスキーへたんこぶをプレゼントしたロスマンは、呆れた様子で息をつく。

 

「ユーリさん。こんな指揮官だけど、よろしく頼むわね。必要だと思ったら、任務に支障が出ない程度に殴るなり蹴るなりしてくれて構わないわ。私が許可します」

 

「……体罰に関してはともかく、微力ながら善処します」

 

「ああ、それと──先方には、こちらから送る護衛は全員ウィッチだと伝わっているわ。ブリタニア海軍にまで例の事が知れているかは分からないけれど、万が一顔を見られても平気なように、一応これを持って行きなさい」

 

 ロスマンから渡されたのは、スカーフとゴーグル。もし必要と感じたなら、これで目と口元を隠せということだろう。同時に、服装に関しては男装ということで通すようにも言われた。幸い似たようなタイプのクルピンスキーが同行している為、然程不審には思われないはずだ。

 

「さぁ、もう出発しなさい!時間は待ってはくれないわよ──!」

 

 ロスマンに尻を叩かれユニットを履いたクルピンスキーを最後に、一行はムルマン行きの長旅へ出発するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飛び続けること数時間──ペテルブルグから300キロ地点に到達した辺りで、一行は羽やすめの為ペトロザヴォーツク基地へ降り立った。

 現地の整備班によるユニットのメンテナンスを待つ間、5人も昼食を摂っていたのだが……

 

「──キミ可愛いねぇ!ペトロザヴォーツクにキミみたいな娘がいるってもっと早く知ってたら、ここのネウロイの掃討作戦はボクが行ってたのになぁ」

 

「あはは……ありがとうございます」

 

 出された食事よりも、食事を運んできてくれた女性士官の方に目を輝かせるクルピンスキー。女性士官の方も褒められて悪い気はしていないようだが、初対面でいきなり口説きにかかるクルピンスキーに些か引いているようだ。

 

「これ食ったらすぐ出発すンだから、ちょっかいかけてんじゃねぇよ」

 

「イタタ……!もう、ナオちゃんってば。ヤキモチ妬いてるならそう言えばいいのに」

 

「マジで殴りてぇ……!」

 

 クルピンスキーは、引っ張られた耳をさすりながら昼食のパンを食べ始める。その横で、ユーリは女性士官に小さく謝罪をしていた。

 

 そんな一幕を経て、メンテナンスを終えたユニットと共に再出発。指揮を執る立場でありながら、どこか呑気なクルピンスキーに直枝達が苦言を呈しながら飛んでいると、眼下の陸地が途切れ、辺り一面が青一色に染まった。

 

「あ、海ですよ!」

 

「やっと白海だぁ……!」

 

「……クルピンスキーさん」

 

「うん。ちょっと急ごうか」

 

 どうやらユーリと同じことを考えていたらしいクルピンスキーは、早いところ白海を横切ろうと提案する。というのも、この白海に出現した新たなネウロイの巣"グリゴーリ"が理由だ。

 

「ここからじゃ見えないけど、水平線の向こうは"グリゴーリ"の勢力圏内だからね。今ボクらがいるこっちの方は安全海域らしいけど、急ぐに越したことはないよ」

 

「クソッ……このまま突っ込んでって倒してやりてぇぜ」

 

「焦らない焦らない。巣の撃破はあくまで最終目標なんだから。今は任務が優先だよ──」

 

 提案通り足早に白海を横断した一行は、森林地帯での小休止を挟んで更に歩を進める。やがて雲の切れ目から、海に面した軍港基地が顔を覗かせた。

 

「見えたよ、あれがムルマン基地だ」

 

「はぁ…やっぱ1000キロは疲れるなぁ」

 

「ハハハッ。船団の到着は明日だから、今日はゆっくり休むといいよ。ニパ君も、そのユニットもね」

 

 1000キロに渡る長距離飛行に耐えかね、ニパのユニットはいよいよ本格的に不調を訴え始めていた。今朝方の様子を鑑みれば、寧ろここまでよく保ってくれたというべきだろうか。

 

 ニパを支えながら滑走路に降り立った5人はユニットを整備班に預けると、探検がてら港の様子を見て回ることに。

 

「はぇ~…ムルマン基地って広いんですねぇ。物資もあんなに沢山……」

 

「先行して運ばれてきた補給物資だね。あれでもほんの一部だよ。後から来る船団には、もっと大量の物資が積まれてる」

 

「まだ増えるんですか!?想像つかないです……」

 

「──ねぇ、あのデッカイの何だろう?」

 

 周囲を見回していたニパが指差すのは、コンテナの上に横たえられた巨大な筒──人が持つにはあまりに大きな何かの砲身らしきパーツだ。

 

「戦艦でも作ってんのか、ここは……?」

 

「アレだけでは何とも言えませんが、可能性としては十分有り得そうですね」

 

 直枝達はまだ知らないが、ユーリとクルピンスキーはこの大規模船団に"グリゴーリ"攻略の為の新兵器が積まれているのではないかというラルの予想を聞かされている。海上戦力の中でも最大級たる戦艦ともなれば、巣の攻略に大いに貢献してくれそうなものだが……

 

「むむっ…アレは──!」

 

「……何か気になるものでも?」

 

「うん。中々お目に掛かれない、貴重な光景さ。見てごらん──」

 

 そう言われ、ユーリ達はクルピンスキーの視線を追う。その先では、3人のウィッチ達が開発部の人間らしき人物と何やら話していた。それを見て、ひかりは不思議そうな顔をしている。

 

「あの人達、ウィッチですよね?私達と同じ」

 

「……ああ、ひかりさんは初めてなんですね。彼女達は陸戦ウィッチ──僕達とは違い、空ではなく陸を舞台に戦う対ネウロイ戦の主戦力の方々です」

 

「その通り。ほら、彼女達のユニットもボクらのとは全然違うだろう?」

 

「はい。なんだかゴツゴツしてるというか…持ってる武器も重そうです」

 

 陸戦型ユニットは、航空型よりも稼働に要求される魔法力の量が少なく、また可能積載量では大きく上回る。航空ウィッチでは重すぎて運用できない強力な重火器を携え戦う彼女達は、ネウロイとの戦いに無くてはならない重要な存在だ。

 ……一方で、陸上ウィッチは航空部隊よりも()()()が段違いに高い。今目の前にいる彼女達は、そんな過酷な戦場を生き抜いてきた正真正銘の猛者達であるということも、どうか覚えていて欲しい。

 

「カールスラントとスオムス、それにオラーシャか──いいねいいねぇ!バックパックのベルトで引き締められた健康的なボディラインもさる事ながら、やはり目を引くのはむn──イダダダダッ!?」

 

「堂々と問題発言をしないでください。──全く、仮にも上官相手にこんな事はしたくなかったんですが」

 

 発言がエスカレートするクルピンスキーを、今度はユーリが止めた。ペトロザヴォーツク基地で直枝がやったのと同じように耳を引っ張るユーリは、言葉とは裏腹に手の力を緩める様子はない。

 

「隊長達の話では、新型ユニットがもう到着している筈です。確認だけでも済ませておきましょう」

 

「だな。場所は──あっちか」

 

「ちょ、ユーリきゅん!耳!分かったからせめて耳を~~~ッ──!」

 

 502部隊へ宛てられた物資のある倉庫へ向かった5人は、奥に鎮座していた補給ユニットを発見。機体を照らす照明に負けず劣らず目を輝かせた。

 

「──やった!オレの《紫電改》だ!これさえありゃあネウロイなんてイチコロだぜ!」

 

「うわぁ、ピカピカだぁ……!」

 

「横にある他の箱は何ですか?」

 

「これは…ラル隊長とロスマン先生のユニットだね」

 

 ラルは先の戦いで負った傷もあり戦場に出る頻度こそ少ないが、近い内に行われるであろう巣の攻略に備え彼女の力も必要ということだろう。この手厚い補給からも、嵐の前の静けさのようなものを感じられる。

 

「……あの、アレもユニットじゃないですか?」

 

 照明が届かない闇の中へ目を向けるひかりは、眼前の2機とは離れた場所にひっそりと佇む何かを見つけた。布が被せられて中身は見えないが、布越しに見える輪郭は目の前のユニット達と同じように見える。

 

 たまたま近くにいたユーリが怪訝に思いながらもその布を取り払うと──

 

「これは……」

 

「驚いたな。まさかブリタニアの名機《スピットファイア》まであるとはね」

 

 隠れるように安置されていたのは、ブリタニア製のユニットである《スピットファイア》──以前ユーリがブリタニアの戦いで使用していた《Mk.(9)》をベースにエンジン等の細部を強化された新型《Mk.XVI(16)》だった。

 

「しかし、一体誰が……?」

 

 他国から輸入したユニットを使うスオムス等の例外はあるが、基本的に統合戦闘航空団の隊員達は慣れ親しんだ自国の武器やユニットを使用する場合が殆どだ。その証拠として、直枝にはひかりと同じ扶桑の新型である《紫電改》、クルピンスキーにはカールスラントの《メッサーシャルフ Bf109K-4(K型)》が与えられている。

 そして502部隊にはブリタニア出身の隊員が所属しておらず、またユーリの生存も知られていない以上、ブリタニア側としても何故502が《スピットファイア》を欲するのか疑問に思って然るべきだが……

 

 口元に手を当て考え込むユーリは、ユニットが固定されたハンガーに1通の手紙が添えられているのを見つけた。中身に目を通すと──その口元に小さな笑みが浮かぶ。

 

 

 手紙には短く一言──"Sei bitte vorsichtig(どうか無事で)."──とカールスラント語で書かれていた。

 

 

「……ありがとうございます」

 

 この為にわざわざ根回しをしてくれたのであろう手紙の送り主に小さく感謝の言葉を呟いたユーリは、ありがたく新型を受け取ることに。

 

「いいなぁ、新型ユニット……」

 

 後ろでは、唯一従来のユニットを続投させることとなったニパが羨ましそうに3人を見ている。

 

「じゃあ、《K型(コレ)》はニパ君が使って」

 

「えっ!?でも、コレはクルピンスキーさんのでしょ?」

 

「いーのいーの。どの道ニパ君のユニットは壊れちゃったんだし、ボクも慣れてない新型でいきなり任務に出るのは自信無いからね。けどニパ君なら、すぐに乗りこなせるでしょ」

 

「いや、でも……」

 

「はい、決定。──それよりボクはぁ……」

 

 話を打ち切ったクルピンスキーは周りの箱を物色し始める。いくつか箱を開けた後に目当ての物を見つけたクルピンスキーは、ムフフ……と興奮を隠しきれない様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後──セッティング調整も兼ねて新型の試運転を終えた5人は、ユーリを除いて全員サウナへ。

 残ったユーリが基地の中を見て回っていると……

 

「──ザハロフ曹長?」

 

 不意に、誰かに名前を呼ばれた。反射的に振り返ろうとして、寸での所で踏み止まる。

 書類上ユーリは戦死したと方々に伝えられている。もし上層部に通ずる人間に生きていることがバレれば、任務どころではなくなってしまう。

 こうなるならムルマンに着いてすぐ、ロスマンの勧め通りに顔を隠しておくべきだったかと後悔していると、

 

「……覚えていませんか?ブリタニアの基地で……最後に、あなたのユニットを整備させていただきました」

 

 その言葉を聞いて、ユーリの脳裏にとある記憶が蘇る。

 

 

 ──この基地で、最後にあなたのユニットを整備させて頂けて光栄でした。

 

 

「まさか……」

 

 チラリと声の方を伺うと、

 

「やはり……!ご無事だったんですね!」

 

 そこにいたのは、ユーリがウォーロックと共にガリアを占領する巣の破壊に向かう際、ユニットの最終メンテナンスを請け負っていた、あの時の整備兵だった。補給船団の第1団に同乗し、ムルマン滞在中はユニットのメンテナンスを担当しているらしい。

 

「ガリアが解放されて以降、旧501基地に逗留していた全員にザハロフ曹長が戦死したと通達が来た時は、同僚も先輩も、皆悲しんでました。それに箝口令も敷かれて……今はどこで何を?ここにいらっしゃるという事は、軍に復帰されたんですか?」

 

「……他人の空似でしょう。そのザハロフという方は、()()()()()()()()()()()?心中は察しますが、箝口令を敷かれているということは、それなりの事情があるはずです。今のは聞かなかったことにしますから、ご自分の仕事に戻られてください」

 

 そう言ってその場を立ち去るユーリ。

 

「……そう言えば、先輩が話してたな。──502部隊の補給品目に《スピットファイア》がある──そういう事だったのか」

 

 僅かな情報から真相にたどり着いた整備兵は、それ以上何も言わず、もう大分離れてしまった彼の背中に敬礼を送った。

 

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