501のウィザード   作:青雷

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君の想いにありがとう

 翌朝──502部隊に課せられた本来の任務である船団護衛に出発するため、格納庫に集まっていた4人だが……

 

「……クルピンスキーさん、来ないですね」

 

「皆さんが起きた時は、ベッドにいたんですよね?」

 

「うん……」

 

「ひでぇ寝相だったけどな」

 

 じきに任務開始の時間だ。このまま来ないようであれば、最悪彼女抜きで出発しなければならない。

 

「──あ、来ましたよ!」

 

 出発時間ギリギリになって現れたクルピンスキーは、誰の目から見てもグッタリとしていた。顔色は悪く、足取りもフラフラと覚束無い。

 

「うぅ……キモチワルイ……」

 

「どうしたんですか!?顔がおかしいですよ!?」

 

 ひかりはまだ状況が飲み込めていないようだが、ユーリ達3人は一様に「やっぱりな」の一言を思い浮かべていた。

 というのも、クルピンスキーは直枝達が新型ユニットの試運転をやっていた昨日の夕方からずっと、補給物資に入っていたぶどうジュース(ワイン)をグビグビとラッパ飲みしていたのだ。いくらウィッチといえど、あれだけ飲めば二日酔いにもなる。彼女が飲んでいるものの正体を勘づいた直枝が再三の忠告をしたものの、それを聞かなかったクルピンスキーの完全な自業自得というわけだ。

 

「やぁ…ひかりちゃんはきょうもかわいいねぇ……?」

 

「少し休んでた方がいいんじゃ……」

 

「いや、どうしても行かなきゃ……ッ!」

 

 自業自得とはいえ不調の身体に鞭打ってでも出撃しようとするクルピンスキー。いつになく真剣な表情を見てニパとひかりが心配したのも束の間──

 

「ブリタニアのかわいこちゃんを、迎えに行くんだ……ッ!」

 

「……もう海に捨てよーぜ、コイツ」

 

 直枝の冗談とも本気ともつかない発言はともかく、こんな状態のクルピンスキーを連れて行くのは危険だ。せめて症状を落ち着かせてから、遅れて合流してもらうという手もあるが……

 

「ボクは大丈夫…!ほら、もう時間だし、しゅっぱーつ……!」

 

 覇気の無い音頭を取ったクルピンスキーを心配しながらも、一行は船団の元へとユニットを奮わせた。

 

「うぅ…あぁ……目が回る……ッ」

 

 先頭をユーリに代わり、最後方を飛ぶクルピンスキーは、やはりというべきかフラフラして危なっかしさを感じさせる。

 

「……おい、やっぱ基地で寝てろよ」

 

「でもぉ……ブリタニアのかわいこちゃんがぁ……!」

 

「コイツ…2発ぶん殴りてぇ……!──っと、おわぁッ!?」

 

 後ろを振り返りながら飛んでいた直枝の体制が一瞬乱れる。すぐに持ち直したが、それを見たクルピンスキーは青い顔で小さく笑った。

 

「ナオちゃん、飛び方がいつもより荒いよぉ……?ユニットのセッティング、合ってないんじゃなぁい……?」

 

「うっせぇ!酔っ払いは黙ってろ」

 

 直枝はこう言っているが、彼女が昨日まで使っていた《零式》と《紫電改》では、扱いの勝手も変わってくるはずだ。昨日の短い試運転だけでユニットの性質を完全把握できたとも思えない。

 新型を駆るのはニパとユーリも同様だが、ニパの《K型》はこれまで使っていたのと同じ《メッサーシャルフ》であり、基本的な乗りこなし方は変わっていないと見ていい。何より、あり合わせの部品でユニットを修理することも多いスオムス出身の彼女は、ある程度の感触の違いなどにも柔軟に対応できている。

 そしてユーリの《Mk.XVI》も同じ《スピットファイア》というだけでなく、ベースになった《Mk.Ⅸ》と比べて性能面に於ける劇的な変化は無い。そのお陰で《Mk.Ⅸ》とほぼ同じ感覚で乗りこなせていた。

 

「……しかし菅野さん。本当に大丈夫ですか?あまり酷いようなら──」

 

「あぁ?気にするこたァねーよ。こんなモン誤差の範囲だ、すぐ慣れる」

 

 そこへ、連絡係を担っていたニパのインカムに緊急入電が。輸送船団がネウロイの襲撃を受けたとのことだ。

 

「そのルートはネウロイが出ないはずなんじゃ……!?」

 

「何事にも例外はつきものです。急ぎましょう──!」

 

 エンジンを奮わせようとしたユーリ達の間を縫って、後方から一気に飛び出す影があった。言うまでもなく、クルピンスキーだ。さしずめ、随行しているブリタニアのウィッチが危険に晒されていると知り、気合が入ったのだろう。

 一転して先頭に立った彼女に続き、ユーリ達も速度を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バレンツ海を航行中だった大規模補給船団は、予期せぬネウロイの襲撃に対し劣勢を余儀なくされていた。

 単機とはいえ大型ネウロイの攻撃は激しく、護衛艦は次々と撃沈されていく。更には随行していたブリタニアのウィッチも撃墜されてしまい、船団はネウロイに対する有効な攻撃手段だけでなく、何より重要な防御面の要を失った事になる。

 最重要物資と念押しされた積荷を有するエルスワース号だけでも無事に送り届けるべく、旗艦自らが盾となって懸命にネウロイに立ち向かう。そんな必死の抵抗を嘲笑うかのように放たれた深紅の閃光が、艦橋に突き刺さろうとした時──間に割って入った何者かが、青白い障壁を展開し閃光を阻んだ。

 

「間に合った……!──こちらは第502統合戦闘航空団、クルピンスキー中尉!これより船団を援護する──!」

 

 シールドを解除したクルピンスキーの前に、直枝、ニパ、ひかりも続々と集結する。ユーリはここよりも高い位置から、ネウロイを補足していた。──因みに、今度はきちんと顔を隠している。

 

 ウィッチ達が増えたことを受け、ネウロイ側も本格的な戦闘体制に移行したのだろう。刺々しい球状の機体が左右に割れ、2体に分裂した。

 

「ナオちゃんとニパ君は左側!ひかりちゃんはボクと一緒に右側を倒すよ!ユーリ君は上から援護よろしく!」

 

 いくら敵が分裂しようと向こうが2体に対しこちらは5人だ。経験にムラがあるとは言え、実力的には申し分ない。何より強力な後方支援があるのが心強かった。万が一直枝達が危うくなっても、ユーリがしっかりカバーしてくれるはずだ。

 

 そう、思っていたのだが……

 

 

『緊急連絡!3時の方向に新手のネウロイ出現!離脱中の補給船団目掛けて接近してきます!』

 

 

 旗艦からの連絡を受けて横を向けば、少し離れた海上を飛行する円盤型の機影が見て取れた。

 

「新手だと……!?」

 

「あちゃあ…これで実質3対5か……しょうがない──ごめんユーリ君、指示変更。新手の相手を頼んでいいかな?」

 

「ユーリさん1人でですか!?」

 

『しかし、皆さんの方は……?』

 

「こっちはボクが上手くやるよ。──それに、敵が1体ならユーリ君は集団より1人で戦う方がやり易いでしょ?」

 

『……分かりました。可及的速やかに撃墜の後、応援に向かいます。援護が必要であれば言ってください』

 

「ありがとう。──それじゃ気を取り直して、行くよ──ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 各々の相手に向かって突撃していく502部隊。

 ユーリはクルピンスキーの指示通り、新手のネウロイに向かってシモノフの銃口を差し向ける。

 対するネウロイもユーリの存在を確認したのか、動きを見せた。円盤状だった機体が解け、空を這う蛇へと姿を変えると、頭部に相当するネウロイの先端装甲が4つに開き、クルクルと回転し始める。次第に細く収束していく4枚の装甲の中心で、深紅の閃光が瞬いた。

 

「ッ───!」

 

 それを見たユーリは、即座に引き金を絞った。狙いは甘い。それでも撃ったのは、弾丸に対し敵が回避行動なりを取ることで攻撃を少しでも遅らせ──シールドに全神経を集中させる時間を稼ぐ為だった。

 

 次の瞬間、花弁の如く一気に展開された装甲から、信じられない太さの光線がユーリに向けて放たれた──!

 

 ユーリの弾丸をいとも簡単に飲み込んで真っ直ぐ突き進む光線に対し、ユーリは両手を使っての全力防御を行った。

 

「グ──ウウウゥゥ……ッ!!!」

 

 限界まで広げた広範囲シールドでの防御が功を奏し、後ろにいる船団への被害もゼロに抑える事に成功する。だが……

 

(今の攻撃……防ぐので精一杯だった。もう2発──いや、あと1発撃たれたら、船団を完全に守りきれるか……!?)

 

 痺れが残る両手の感覚を確かめたユーリは、背に回していたシモノフをしっかりと握り直しネウロイに向かっていく。

 あの極太光線──あれ程の高出力であれば、まず連射は利かないはずだ。次を撃たれる前に本体を叩くしかない──!

 

 接近してきたユーリに対し、蛇型ネウロイは開いていた先端の装甲を2枚分離し、遠隔操作できる小型砲台として周囲に散開させる。そして自身もまた光線を放ちながら、ユーリとの本格的な交戦を開始した。

 

 ただでさえネウロイがグネグネとのたうつせいで狙いにくいというのに、四方八方様々な角度から光線を撃ってくる子機は、ユーリにとって厄介な事この上なかった。機関銃であれば弾幕を張って対抗する事もできるが、速射性で圧倒的に劣る対装甲ライフルではそうもいかない。子機達は目まぐるしく周囲を飛び交いユーリに狙いをつけさせず、かと言って子機の処理に集中力を割けば、離脱中の補給船団の元へ親機の接近を許してしまうことになる。

 防御の合間を縫ったユーリの苦し紛れの攻撃は全て満足に狙いをつけられないまま、空を切るばかり。

 歯噛みするユーリは完全に子機に足止めを食らってしまい、親機が船団の元へ接近を始めた。

 

「マズい……ッ!」

 

 どうにか子機を振り切って親機を追うが、そうはさせじと背後から子機達が攻撃を仕掛けてくる。それを回避する視界の端では、いよいよ補給船団を射程圏内に収めたらしいネウロイが再びあの高出力砲を撃つ準備を始めていた。

 

「間に合え───ッ!」

 

 子機の妨害をくぐり抜け、親機の元へ急ぐ。しつこく付いてきた子機達はユーリの妨害を止め、先んじて親機の元へ。子機を統合し完全体になったネウロイは補給船団に向け、あの閃光と呼ぶには巨大な一撃を放とうと──

 

 

「させ──るかァァァァ──ッ!!!」

 

 

 煩わしいゴーグルを投げ捨て、寸での所でネウロイの眼前にたどり着いたユーリは、再び全力のシールドを展開する──先と違い、ほぼゼロ距離だ。光線の発射口に蓋をするように展開されたシールドを押し破ろうと、間髪入れずあの極太の光線が発射された。

 魔法力の障壁1枚を隔てた先で、膨大な熱量が荒れ狂う。シールドを維持して必死に踏ん張る左腕はガクガクと震え、シールドを抜けてきた衝撃が肌を裂き、紅い飛沫を頬に飛ばした。

 

 

「ぐっ──オオオオオァァァ───ッ!!!」

 

 

 やがて、光線の熱量に耐え切れずネウロイの漆黒の機体に亀裂が走る。亀裂はどんどん広がっていき、ネウロイ自身の体を自壊させた。

 我慢比べに勝利したユーリは、砕け散る装甲の内に隠されていたコアへシモノフを突きつける。左腕だけでの防御という無茶と引き換えに掴んだこの機を、逃すユーリではない──!

 

「───!」

 

 最早照準など不要。

 無言の気合と共に絞られた引き金。これまでの鬱憤を晴らさんばかりに咆哮したシモノフが、その牙を以てコアを噛み砕いた。

 

「ハァ…ハァ…──皆は!?」

 

 金属片となって散っていくネウロイを尻目に、ユーリはあの分裂型を相手する4人の方へ目をやる。

 目線の先では、直枝達が相手をしていた個体の片割れが爆散していく。しかしもう片割れは依然として攻撃を続けていることから、どうやらあちらの方がコアを有する本体らしい。

 

『──ユーリさん!そこからクルピンスキーを助けられませんか!?今1人で戦ってるんです!』

 

「クルピンスキーさんが……!?」

 

 ひかりからの通信を受け、目を凝らす。見れば、確かにネウロイの攻撃はある一点に集中しているように見える。あそこにクルピンスキーがいるというのか。

 

 走る痛みと血による滑りでリロードに手間取りながらも、ユーリはクルピンスキーの応援に向かう。

 ハッキリ目視できる距離まで近づいたところで、シールドを展開していたクルピンスキーが攻撃に耐え切れず弾かれてしまった。黒煙が尾を引いていることからユニットが破損しているらしく、あれでは体勢を立て直すのも困難だ。

 

 そこへとどめとばかりに、ネウロイの子機が迫る──!

 

「クルピンスキーさん──ッ!」

 

 使えない手の代わりに腕を支えにしてシモノフを構えた瞬間、あろう事かクルピンスキーはユニットを履いた脚で迫るネウロイを()()()()()。常識を超えた行動に驚くのも束の間、返ってきた子機と衝突したことで親機のコアが露出する。

 

『コア──!』

 

 すかさずクルピンスキーの銃に取り付けられた42LP投擲銃から大型の炸薬弾が発射され、コアに命中。ユーリの〔炸裂〕と比べれば小さい爆発の後、半球型の機体が無数の金属片となって弾けた。

 

『ふぅ……皆無事かな…──ッ!?』

 

 ネウロイ撃破を確認し息を抜いたクルピンスキーだったが、爆煙の中から飛び出してきた崩壊間際の子機に反応が遅れ、特攻をもろに食らってしまう。ユニットが外れて真っ逆さまに海へ落ちていく彼女を、誰も受け止めることはできなかった。

 

「──無事ですかクルピンスキーさん!?返事をしてください!」

 

 一番最初に駆けつけたユーリは、海に浮かぶ彼女の安否を確認する。やがてゆっくりと目を開けたクルピンスキーの口元には、穏やかな笑みが讃えられていた。

 

「──ほんの冗談のつもりだったのになぁ……ありがとう、ひかりちゃん。君の想いがボクを守ってくれたんだね」

 

 そう言って胸ポケットから取り出したのは、酷く変形したリべレーター──苦戦する直枝達の元へひかりを応援に向かわせる際、クルピンスキーを心配した彼女が渡していったものだ。ネウロイの死に際の特攻はこのリベレーターが受け止め、結果的にクルピンスキーの命を救うお守りとしての役目を果たしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 斯くして、無事に補給船団はムルマン港へ到着。積荷は無事に送り届けられた。撃沈された護衛船の乗員達も無事に脱出したらしく、負傷者こそ出たものの死者は0人。予想外の事態に見舞われたものの、護衛は大成功と評していいだろう。

 

 翌日──4人は足を骨折したクルピンスキーのお見舞いに、基地の病室へ向かっていた。

 

「昨日は大変でしたねぇ。まさかあんな所にまでネウロイが出てくるなんて」

 

「クソ…あんニャロウ。オレ達が手こずった相手を1人で倒しやがった」

 

「子機とはいえ、ネウロイを蹴り飛ばしたのには驚きましたね……」

 

「……他人事みてぇに言いやがって。おめぇも似たタイプの大型を1人で倒してんじゃねーか」

 

「倒しはしましたが、実質痛み分けのようなものですよ。お陰で左手はこの有様です」

 

「最初見た時ビックリしたよ……ユーリさんの左手、血で真っ赤だったもん」

 

 負傷したユーリの左手は包帯でぐるぐる巻きにされており、全治数週間との診断を受けた。利き手ではない為食事などには困らないだろうが、基地に戻ったらジョゼに治癒魔法で治りを少しでも早めてもらうつもりだ。

 

「えっと……あ、ここですね!──クルピンスキーさーん」

 

 ノックをしたひかりが病室の扉を開けると……

 

「あんな強いネウロイを倒すなんて、凄いです!」

 

「いやぁ、ハハハ。──君みたいに可愛い女の子の為なら、いつだって駆けつけるよ?」

 

「やだもう、お上手なんですから……!──ハイ、あ~ん」

 

「あ~ムッ!──んん~!やっぱり可愛い子に食べさせてもらうと、りんごも数倍甘く感じるなぁ!」

 

 ベッドの上には、美女にりんごを食べさせて貰いご満悦のクルピンスキーがいた。手足の怪我などどこ吹く風といった様子だ。

 

「ん?あぁ皆!お見舞いに来てくれたん──ってどうしたの、その顔?」

 

「……とりあえず、お元気そうで何よりです」

 

「そういうユーリ君もね。そっちは平気?」

 

「ええ、大事には──」

 

 

「あぁーっ!あなたはもしかして……!?」

 

 

 突然そう声を上げたのは、クルピンスキーにりんごを食べさせていた金髪の美女だ。立ち上がった彼女は、確かめるようにユーリをマジマジと見つめる。

 

「あ、あの……何か……?」

 

「──やっぱり!昨日、2体目のネウロイと戦って補給船団を守ってくれた方ですよね!?」

 

「あぁ、はい。それは僕ですが……」

 

「私、皆さんが到着する前に撃墜されちゃって……運良く補給船の上に落ちて、目を覚ましたらあの蛇みたいなネウロイがビームを撃とうとしてた所でした。せめてシールドで皆を守らなくちゃ、って思っていたところへ、あなたがすごく大きなシールドで船を守ってくれたんです!私あんなの初めて見ました!」

 

「もしかして。ブリタニアから船団に同行していたウィッチというのは……」

 

「はっ!私ってば──失礼しました!私はブリタニア海軍 第804海軍航空隊所属のノーラ・テイラー軍曹です。不甲斐ない私の代わりに、船団を守って下さったことを改めて感謝します。ありがとうございました!」

 

「そんな、不甲斐ないということは……あのネウロイの特性を考えれば、1人では厳しかったでしょうし。寧ろよく持ち堪えた、と言うべきではないでしょうか」

 

「そんな風に言って頂けるなんて……あの、もしお時間があるようでしたら。私に指導をつけてくださいませんか!?」

 

「えっ、僕が、ですか……!?」

 

「はい!船団の護衛ウィッチとして任務にあたる以上、やっぱりシールドの制御は大事だと思うんです!勿論、射撃とか飛行訓練とかも教えて頂けたら……って、流石に図々しいですよね!?すみません!」

 

「……ど、どうしましょう?」

 

「いいんじゃない?どうせ私達ももう1日ここにいるんだし」

 

「どうせなら、私達も一緒に訓練を付けてもらいましょうよ!」

 

「えぇっ…!?いえその、百歩譲ってテイラー軍曹の訓練を手伝うのはともかく、ひかりさん達はちょっと……ロスマン先生と同等以上の教えを付けられる自信なんてないですよ」

 

「じゃあ、引き受けてくださるんですね!やった…!ありがとうございます!」

 

 ノーラは感激の余り、ユーリの右手を取って胸の前で握り締める。同性であればいざ知らず、生憎ユーリは男だ。これ以上手を彼女側に引き込まれると、彼女の恵まれたスタイルも相まってまずい事になってしまう。

 

「わ、分かりました……大した事はお教えできないと思いますが、出来る限りの事はさせて頂きます。──ので、一旦落ち着いてください」

 

 ユーリに個別で指導を付けてもらう確約を取り付けたノーラが嬉しそうに笑う後ろでは、クルピンスキーが寂しそうな顔をしていた。

 

「……ライバルって、意外と身近にいるんだなぁ……──ングッ!?」

 

 ノーラの意識をユーリにかっさらわれたことで気落ちしているクルピンスキーは、不意に口にリンゴを突っ込まれる。

 

「ムゴ──ナ、ナホはん(ナオちゃん)……!?」

 

「……認めンのは癪だが、まぁ頑張ったじゃねーか。いつもあンくらい真面目にやれッつーの」

 

「むぐ……っ──ナオちゃ~ん、もっとボクを慰めてぇ~!」

 

「うえぇッ!?引っ付くな気持ち悪ィ!っつーか、怪我してんだから安静にしてろッ!」

 

「ボクは寂しいと死んじゃうんだよぉ~~!」

 

「ダァ~~ッ!やっぱコイツ殴りてぇ~~~~ッ!」

 




気づけば2万字近くになっていた…怖
見切り発車で始まった502編も終盤に差し掛かりました。

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