501のウィザード   作:青雷

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結束

「──菅野さん、そこに正座!」

 

「うぅ……」

 

 先日502に齎された新型ユニットへの慣熟訓練を行っていた直枝、ニパ、ひかり。そんな彼女たちの元へネウロイが襲来し、3人でそれを無事撃破したまでは良かったのだが……

 

「菅野さんも中尉になったんですから、もっと機材を大事にしてください!」

 

 格納庫で正座をさせられている直枝と、お説教するサーシャ。そして整備兵達の手によって修理されていくユニット──いつもと同じ光景だが、変わったこともある。ここまでの活躍を認められ、直枝が少尉から中尉へと昇進したのだ。

 

「階級は関係ねぇ!ネウロイはぶっ倒したんだ、それでいいだろ」

 

「良くありません!……全くもう……」

 

 今回のユニット破損の原因は、ある意味では事故と言えなくもない。

 直枝の戦闘スタイルは知っての通り、固有魔法である〔圧縮式超硬度防御魔法陣(めっちゃ硬いシールド)〕を利用した一撃必殺のヒット&アウェイを得意とする。今回もその例に漏れず、シールドを纏わせた自慢の拳でネウロイの機体をコアごと貫いたのだが……その際、ユニット内部に外気を取り入れる為のエアインテークから砕いたネウロイの装甲の破片が入り込んでしまい、ユニットのプロペラを回す魔導タービンが破損してしまったのだ。

 

 支給されたばかりの新型ユニットだろうとお構いなしに我道を突き進むのは、良くも悪くも直枝らしいと言ったところか。

 

「──あなたは"ブレイクウィッチーズ"なんて呼ばれるようになっちゃダメよ、()()()()()?」

 

 ため息をついたサーシャが格納庫の入口へそんな声を飛ばすと、お説教の様子を覗いていたらしいひかりとニパが顔を見せる。

 

「あの、サーシャさん。ブレイクウィッチーズって……?」

 

 これまでも何度か会話に出てくることのあった"ブレイクウィッチーズ"というのは、機材の損耗度外視で無茶な戦い方を敢行し、出撃の度にユニットを壊して帰ってくる502の隊員3人に向けて、いつしか付けられた呼称だ。

 メンバーは今まさに正座をさせられている直枝と、"ユニット壊し"の二つ名を持つクルピンスキー、そして度重なる不運に見舞われているニパの3人──最後の1人に関しては時として不可抗力でユニットが壊れる事もあるが──この3人には共通点がある。それは、502部隊の中でもとりわけ敢闘精神旺盛であるということだ。

 

「──それに!撃ちきってすらいない銃をポイポイ捨てるなとも言いましたよね?銃も弾薬もタダじゃないんですから、もう少し考えて使ってください!」

 

「う……そ、それに関しちゃ悪ィと思ってるって……」

 

 その後もサーシャのお説教は続き、直枝は夕飯までずっと正座の刑に処された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……クソ、まだ脚が痺れてやがる」

 

 その日の夜──部屋に戻って寝ようかと廊下を歩いていた直枝は、突き当たりを横切っていく人影を目撃した。

 

「ありゃあ……雁淵か?こんな時間に……」

 

 床の冷たさが痺れた素足に染みるのを堪えながら、直枝はひかりの後を追った。

 

「ねぇチドリ、あれからずっと連絡が無いけど、お姉ちゃん大丈夫かな……?」

 

「──心配すんな。孝美は簡単にくたばる奴じゃねぇ」

 

「菅野さん……」

 

 無人の格納庫で独りチドリに語りかけるひかりを、直枝は珍しく素直に励ます。

 

「孝美が半端なく強ェ事くらい、おめぇだって分かってんだろ。呉の海軍学校でアイツと会った時に思ったぜ──"オレの相棒はコイツしかいねぇ"──ってな」

 

「相棒……あの、菅野さん!それって私じゃダメですか!?」

 

「はぁ!?おめぇが相棒を名乗るなんざ100年早ェっての」

 

「じゃあ、どうすれば相棒にしてくれます!?」

 

 いつになく前のめりなひかりに少々面食らいながらも、直枝が返した答えはいたってシンプルなものだった。

 

「ンなもん簡単だ──強くなりゃいいんだよ。孝美の様にな」

 

「……そう言えば、菅野さんが戦う理由って何なんですか?」

 

 本来ここに来るはずだった孝美は、ネウロイを倒し平和になった世界をこのチドリと一緒に旅したいと話していたのを、ひかりは昨日のことのように思い出せる。ひかりはそんな孝美の背中を追うように、彼女のような立派なウィッチになりたいと戦場に身を投げた。

 

「決まってんだろ。どッから来たかも分からねぇ変な連中に、一方的に好き勝手やられてムカつくじゃねぇか!」

 

 いかにも直枝らしい回答に、ひかりは小さく吹き出す。普段ならばここで直枝が「何笑ってんだよ!」と食って掛かりそうなものだが、孝美の話をしていたからか、今回はそのような素振りはない。

 

「──だがな!その為には強くならなくちゃいけねぇ。今よりもっと、もっとだ!」

 

「……私はともかく、菅野さんは今でも凄く強いじゃないですか?そんなに焦らなくても──」

 

 

「──ダメだッ!」

 

 

 突然荒げた菅野の声が、辺りの暗闇に消えていく。

 

「菅野さん……?」

 

「……オレよりも、クルピンスキーやユーリの方がずっと強ぇ。けどオレは絶対にあいつらより強くなって、ネウロイ共を1匹残らずぶっ潰す……!1秒でも早くな!」

 

 そう意気込んだ直枝にひかりも威勢良く協力を申し出たが、そこはいつもの様に「100年はえーよ」と軽くあしらわれてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝──ブリーフィングルームに集結した502部隊は、ラルから今回の任務の説明を受けていた。足を負傷し動けないクルピンスキーはこの場にいないが、左手の傷が回復しつつあるユーリは参加している。

 

「"グリゴーリ"殲滅にあたって、この地点からペトロザヴォーツクへ向かっているネウロイを排除しろ──という軍司令部からの命令だ」

 

「折角取り返したのに、もう……」

 

 ペトロザヴォーツクの基地は、つい先日ユーリ達も訪れた場所だ。ムルマンからの補給線を奪い返す為に、数日かけて付近のネウロイを掃討したわけなのだが……もう再侵攻の手が伸びているらしい。

 

「ラドガ湖を挟んでいるとはいえ、ペトロザヴォーツクは"グリゴーリ"の目と鼻の先ですからね……悔しいですが、無理もありません」

 

「でもそれじゃあ、このままネウロイの進行を許したら──」

 

「また補給が止まっちゃう……!」

 

 下原もジョゼも、かつて自分達が戦ったネウロイの能力によって湖が凍結し、結果的に基地の物資困窮へと繋がってしまった苦い経験を持つ。

 

「そんな……ッ!クルピンスキーさんとユーリさんが怪我までして守ったのに!」

 

「落ち着いてくださいひかりさん。まだペトロザヴォーツクがネウロイの手に落ちたわけではありません」

 

「要するにネウロイを倒せばいいんだ。やる事はいつも通り……そうだろ隊長?」

 

「ああ、その通りだ。直ちにペトロザヴォーツクへ向かい、ネウロイが基地に到達する前に叩け」

 

 斯くして、出発していったメンバーを見送ったユーリは、ズタズタにされ未だ完治には至っていない左手を見つめる。

 怪我をした当初よりも巻かれた包帯は薄くなり、あまり重くなければ物を持つのも苦ではない程度には回復している。しかしライフルを支えようとすると、やはり手の平に鋭い痛みが走るのが実状だ。

 唯一治癒魔法を扱えるジョゼに治療を頼もうにも、彼女の治癒は芳佳のそれより数段劣る──否、芳佳の治癒魔法が飛び抜け過ぎていると言った方が正しいか──事に加えて、ジョゼは治癒の最中、身体が発熱するという副次作用も抱えている。そんな彼女にかかる負担を考えると、既に一度治癒を頼んでいる手前「復帰したいから早く傷を治して欲しい」とはとても言えない。

 

「……まぁ、皆なら大丈夫だ。ロスマン先生も、サーシャさんだっている」

 

 部隊でのトップクラスの実力者であるクルピンスキーはあの有様だが、サーシャもロスマンも彼女に引けを取らない実力と経験がある。きっと無事にネウロイを倒して帰還するはずだ。

 

 

 

 ───そう、思っていたのだ。

 

 

 

「………」

 

 その日の夕食は、とにかく閑散としていた。誰も一言も発さず、食器の音だけが静かに飛び交う。献立こそいつも通りの美味しいメニューなのだが、それでも寂しさが拭えない原因は、新たな空席だろう。

 自室で療養中のクルピンスキーに続いて、サーシャの姿が無い。彼女は今日の出撃の折、敵の攻撃を避けきれなかった直枝を庇い負傷してしまったのだ。

 

 メンバーの大部分が意気消沈といった様子の中、特に気を落としていたのは当然直枝だ。先程から全く食指が動いていない。

 

「……菅野。ちゃんと食べなきゃ力出ないよ」

 

「分かってる……いただきます──」

 

 小さく呟いた直枝はゆっくり夕食を食べ始めるが……食欲そのものが湧いてこないのだろうか、目の前のスープが減る気配は無い。

 

「菅野。明日、あのネウロイに再攻撃を掛ける。出撃したいのなら無理にでも食え。空腹で力が出ないようでは困る──他の者も、各自体を休めておくように」

 

 ラルの静かな叱咤を受け気を持ち直したのか、表情を引き締めた直枝は今までの沈みっぷりが嘘だったかのように食べ始める。必ずや今回の失態を取り返さんと燃える直枝の瞳が、ユーリは少しだけ気になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──菅野さん」

 

「……ユーリ(おめぇ)か。何か用か?」

 

 その日の夜、昨日のひかりと同じように格納庫に独り佇んでいた直枝の元へ、ユーリが現れた。

 

「サーシャさん、目を覚まされたそうですね」

 

「ああ。またすぐ寝ちまったけどな」

 

 短いやりとりの後に流れる沈黙を破ったのは、ユーリだった。

 

「……ニパさんからお聞きしました。今日のあなたはどこかピリピリしていた──と」

 

「………」

 

「ひかりさんからも──もっと強くならなければいけない。昨晩、そう仰っていたそうですね」

 

「……それがどうした」

 

 言葉を考えているのか、少し間を置いてからユーリは続ける。

 

「……菅野さん。あなたの理想はなんですか?あなたの追い求める強さとは、どのようなものですか」

 

「決まってんだろ。ネウロイ共を1匹残らずぶっ倒せるだけの力だ。どんな敵だろうが、何体いようが関係ねぇ、どんなに絶望的な状況だろうとオレ1人でひっくり返せる位ェの力……!」

 

 それを聞いたユーリは、静かに口を開く。

 

「……菅野さん。あなたが求めるべき強さは()()ではない」

 

「は……!?何が言いてぇ」

 

「そんな強さを手に入れたところで、今あなたが抱いている無力感が消えることはありません」

 

「……オレじゃ無理だってか。オレじゃお前らには一生追いつけねぇって言いてぇのかてめぇは──ッ!?」

 

 激昂する菅野は、目線の下からユーリの胸ぐらを掴む。

 

「ッ……偉そうな事言いやがって!──ああそうだよ!オレは1人じゃ何もできねぇよ!今までだってッ……誰かに手伝ってもらわなきゃ満足にネウロイ1匹倒せやしねぇッ!けどッ──!」

 

 俯けていた顔を上げれば、彼女の黒い瞳には悔し涙が滲んでいた。

 

「けどお前らは違うだろうがッ!!この前だって、お前もクルピンスキーも1人でネウロイをぶっ倒してるじゃねぇかッ!……なぁ教えてくれよ、どうすりゃそんなに強くなれる!?どうすりゃそれだけの力が手に入るんだよッ!?」

 

「……何をそこまで焦っているんですか」

 

「焦るに決まってンだろッ!周りに散々でけぇ口叩いといて、自分(てめぇ)の力じゃ肝心な時に仲間の1人も守れねぇオレの気持ちがッ……!おめぇに分かるかよッ!?」

 

「分かりますよ。どんなに強い力を持とうと大切な人を守れない……自分の力の存在意義すら疑いたくなる。そんな思いをした経験は、僕にだってあります……ッ」

 

 思い起こされるブリタニアでの記憶──ユーリは501部隊の中でも間違いなく最強と呼べる〔炸裂〕(チカラ)を持っていた。正に一騎当千。大型ネウロイすらも僅か数発で撃墜し、小型の群体も当たればまとめて消し去ることが可能だ。

 しかしそれ程の力を持っていながら、美緒の負傷を未然に防ぐことができなかった。それだけに留まらず、美緒を撃墜したネウロイは取り逃がし、更にはウォーロックの始末(自分が負うべき責任)すらも満足に果たせない。それで「皆を守る」などと豪語していたのだから、全くお笑い種だ。

 

 ユーリが今ここに至るまで、ユーリ1人だけの力で成し遂げた事などただの1つとして存在しない。成功の陰には、必ず誰かの助力があった。

 

「僕もクルピンスキーさんも、1人で戦っているわけではありません。仲間と助け合い、協力して戦ってこそのウィッチです。誰の助けも必要とせず、1人で力を振るい敵を殲滅するだけの存在は、血の通わない兵器も同然──最早、ネウロイと変わらない」

 

 1体1体が強大な力を持つネウロイに対し、人類はウィッチを中心に団結することで立ち向かってきた。

 世界単位で見ればまだまだ不完全と言わざるを得ないが、それでもここまで戦ってきた。結束こそがウィッチの──人類最大の武器なのだ。

 

「……心配せずとも、いつかはあなたが望む形の強さを手に入れることができるはずです。ですが、それは今ある最大の武器を捨ててまで手に入れるものではありません」

 

 クルピンスキーの強さを支える"経験"は、時間と共に積み重なってきたものだ。直枝1人がどんなに焦ったとて一朝一夕で手に入れられるものではない。当のクルピンスキーも、その経験の裏には仲間の存在があるはずだ。

 

「今ある、武器……」

 

「確かに、個の力が強いに越したことはありません。しかしそればかりを追い求めてしまうと、余計に孤独と無力感に苛まれるだけですよ」

 

 極端な話、ユーリの力を最大限活かすならば、チームを組むよりユーリ単独で戦う方が効率がいい。周囲に巻き込む味方がいなければ、思う存分〔炸裂〕の効果を発揮できるからだ。しかしそれでも、先日のムルマンのように不利な戦いを強いられることもある。左手をボロボロにしながらもどうにか1人で撃破したが、他に誰か1人協力者がいればユーリの負傷は無かったはずだ。

 あまりにも突出し過ぎた力は味方をも置き去りにし、やがて力の持ち主を孤立させてしまう。その結果自らが傷を負う危険性をも孕む、諸刃の剣なのだ。

 

「……少々、生意気が過ぎましたね。失礼します」

 

「……おめぇはどうなんだ」

 

 頭を下げて格納庫を出ようとするユーリを、直枝が呼び止める。

 

「大抵のネウロイを1人で倒せちまうようなすげぇ力を持ってて、オレらが足手纏いだって思わねぇのか」

 

「……そうですね。状況によりますから、一概には。ですが──」

 

 小さく直枝の方へ振り返ったユーリは、真っ直ぐ目を見つめる。

 

「──少なくとも僕は、502の皆さんを僕より弱いだとか、格下と思った事は一瞬だってありませんよ」

 

 最後に「まぁ、入りたてだった頃のひかりさんはまた別ですが……」と付け加えたユーリは、今度こそ格納庫を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日──ラルの予告通り、ペトロザヴォーツクへの再攻撃作戦が実行された。

 観測班によれば、幸い目標のネウロイは昨日と同じ座標位置に留まったまま移動はしていないらしく、ペトロザヴォーツク基地を守りながら戦う事態にはならずに済んだ。今度こそ決着をつけなければならない。

 

 サーシャが離脱した穴を埋めようとユーリも出撃を申し出たのだが、ラルは未だ完治に至っていない左手を理由にそれを却下。曰く「満足に狙えない狙撃手がいても邪魔になるだけだ」と。

 渋々命令に従ったユーリは、隊長室でラルと共に現場の状況に耳を傾けていたのだが……

 

『なっ……分離ですって──!?』

 

『どうする菅野ッ!?』

 

『落ち着け!コアの位置は分かってんだ、コアさえ叩きゃ──!』

 

 最初こそ502に分があるかに思えた戦況は、あっという間に覆された。

 正面に向けての火力が凄まじい今回の大型ネウロイに対し、現場指揮を担当するロスマンは部隊を2つに分け、直枝、ニパ、ひかりの3人で背後から機体の裏にあるコアを破壊する手筈だったのだが……

 

『うそ──形まで変わった!?』

 

『クソッ!これじゃコアの位置が分かんねぇ……ッ!』

 

 ネウロイは高火力の前部砲門と、コアを擁する後部を切り離す。更に分離した後部が形状を変化させ、火力の高い前部砲門と同じ形態をとった。これでは前回の戦闘で割れていたコアの位置情報はもう使い物にならず、直枝達3人で、あの蜂の巣をつついたような激しい弾幕を躱しながらコアを捜索しなければならない。

 ロスマン達の応援があれば不可能ではなかったかもしれないが、生憎そちらも手が離せない。コアを持たない方の個体は、何度撃墜しようと再生して襲いかかってくるのだ。

 

『もうちょっとだったのに……!』

 

 ひかり達が必死にシールドで身を守る最中、コア持ちの本体はそのまま戦場を離脱しようと飛び去っていく。

 

『とにかくコアだ!コアの位置さえ見つかれば……ッ!』

 

 逃すまいと本体を追いかけるが、雨のように降りかかる弾幕の中ではコアを探すこともできない。

 

「……ッ!」

 

 劣勢も劣勢なこの状況に居ても立ってもいられなくなったユーリは、皆の応援に向かうべく格納庫へ足を向けようと──

 

「──待て、ザハロフ」

 

 しかし、この状況に至ってもラルはユーリを制止した。ユーリは一瞬足を止めたが、すぐに歩みを再開しようと足を踏み出す。

 

 ──そこへ、無線からひかりの声が聞こえた。

 

『ラル隊長!私に──私に〔接触魔眼〕を使わせてくださいッ!』

 

「接触、魔眼……?」

 

 初めて耳にする単語に、ユーリは進めかけていた足を返していた。

 

『どういうことだ雁淵──!?』

 

『私、ネウロイに()()()コアが見えるんです!』

 

『触るだと!?おめぇ正気か!?』

 

 これまでラルとロスマンしか知り得なかったひかりの固有魔法〔接触魔眼〕は、その名の通りネウロイと物理的に接触することでしか発動しない。即ち、ひかりはあの激しい弾幕をくぐり抜けネウロイと肉薄しなければならないことを意味する。

 

『止めなさい雁淵軍曹!アレは使用禁止と言った筈よ!』

 

「っ──聞こえますかひかりさん!今から応援に向かいます、ですから無茶は止めてください!」

 

 堪らず無線を取ったユーリも、ひかりに魔眼の使用を止めるよう呼びかける。実際目にしなくとも分かる。突破力に秀でた直枝ですら抜けられないとなると、敵の攻撃は相当なものだろう。只でさえ魔法力が少ないひかりでは、接近する程威力の増すネウロイの光線を防ぎきれない。かと言って全て避けきれるほど、彼女自身の技量が高いわけでもない。

 その点、射程範囲外から長距離狙撃を行えるユーリならば、〔炸裂〕でネウロイをコアごと撃破することが可能だ。

 

『それじゃダメです!待ってる間に逃げられます!──お願いです隊長!今使わないでいつ使うんですか!?』

 

 瞳を伏せ暫し考えたラルは、ユーリからレシーバーを取り上げ決定を下す。

 

「──いいだろう。〔接触魔眼〕の使用を許可する」

 

「隊長ッ!?」

 

「菅野。雁淵を援護しネウロイの元へ連れて行け」

 

『あぁ!?やらせるってのかコイツに!?』

 

「これは命令だ、菅野中尉。雁淵が魔眼でコアを特定し、お前がトドメを刺せ」

 

『ッ……けど……』

 

「聞いているのか!菅野中尉」

 

『ッ~~~分かったよ!連れてきゃいいんだろ連れてきゃ!!──雁淵!やるからには足引っ張んじゃねーぞ!』

 

『はいッ!』

 

 それを最後に通信が終わり、隊長室に沈黙が訪れる。

 

「……どういうつもりですか」

 

「雁淵本人が言い出した事だ。何より、あの状況を打開するにはこれしかない」

 

「〔接触魔眼〕……3人でも苦戦するネウロイにひかりさんがたどり着けると?」

 

「その為に菅野がついている。それでは不足か?」

 

「そういうことでは……ただ最近の菅野さんは……」

 

 昨夜の直枝の様子を思い出す。サーシャが負傷した時の事といい、ムルマンでの護衛任務以降、直枝は少しでも早く強くなろうと思うあまり、どこか生き急いでいるようにも思えるのだ。

 

「管野直枝を嘗めるなよ。奴は私がこの部隊に招いたウィッチだ。ここで折れるようなタマなら、そもそも502に呼んでいない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃、空では──

 

「──駄目だ。こんな作戦、馬鹿げてる。失敗するに決まってる」

 

「菅野さん……?」

 

「作戦は中止だ。オレより、ユーリの奴に任せた方が、ずっと……」

 

「何言ってんだよ菅野!?早く追いかけないと、ネウロイが……!」

 

「菅野さん、何か変ですよ……どうしちゃったんですか!?」

 

「オレには無理だ……!クルピンスキーやサーシャみてぇにお前達を守れねぇし、ユーリみてぇに1人でネウロイを倒すこともできねぇ……」

 

「いつもの菅野さんらしくないです!ここで帰ったら補給路は──502はどうなるんです!?」

 

「ンなこた分かってんだよ……ッ!」

 

「私の〔接触魔眼〕と菅野さんの突破力、2人で協力すれば絶対に勝てます!」

 

「うるせぇ!ひよっこが生意気な事言ってんじゃねぇ!」

 

「ッ──今更何1人で勝手にビビってんですかッ!!」

 

「……何だと……ッ!?」

 

「さっきからずっと"オレ1人じゃ"って、菅野さんは1人で戦ってるつもりなんですか!?ここには私も、ニパさんだっています!私の力なら、菅野さんの助けになれるんです!でもそれには菅野さんの助けが無いと駄目なんです!どっちか1人でも諦めたら、その瞬間ダメなんですよッ!」

 

「ッ……分かって──」

 

「分かってないですッ!何の為に()()がいるんですか!菅野さん1人じゃ出来ない事でも、協力すれば絶対に出来ます!だからっ──やる前から"できない"なんて言わないでください!」

 

「く……ッ」

 

「菅野さん言ってましたよね?今度こそ絶対にあのネウロイを倒すんだって!なのに今更怖気づいて……そんなんじゃ、お姉ちゃんの相棒なんて1000年早いですッ!──それでも、ブレイクウィッチーズか──ッ!!」

 

 ひかりの必死な叫びが空に消える。ワナワナと拳を震わせた直枝は、大きく息を吸い込むと──

 

「てンめぇ──ッ!」

 

「──いだッ!?」

 

 眼前にいたひかり目掛けて、遠慮なしの頭突きをお見舞いした。

 

「ったく、黙ってりゃ好き勝手言いやがって!──あぁやるよ!やってやるよ!」

 

「菅野さん……!」

 

 弱々しかった表情が一転、ひかりがよく知る勝気な直枝に戻った安心から、ひかりの目尻に涙が浮かぶ。

 

「何泣いてんだ!ンなザマでネウロイに触れんのか!?」

 

「なッ……泣いてないです!」

 

「へっ、いい面構えだ。行くぞ雁淵、オレの真後ろにぴったり着いて来い!」

 

「はいッ!」

 

 気合いを入れ直した直枝を先頭に、ひかりと、彼女の背中を守るニパが続く。

 

(──そうだ。一体何をそんなにビビってんだよ菅野直枝!オレ(おまえ)はこんなとこで立ち止まっちゃいけねぇだろうが!)

 

 迫り来るネウロイの光線を躱し、シールドで防ぐ最中、直枝の脳裏を昨夜のやり取りが過る──

 

("最大の武器は結束"か──ならその力、見せてもらおうじゃねぇか──!)

 

 攻撃を受けても尚歩みを止めない直枝達にしびれを切らしたのか、ネウロイは光線を1つに集約させ、サーシャを撃墜したあの強力な一撃を放とうとしてくる。

 

「菅野!デカいのが来るよ──!」

 

「上等!このまま行く──ッ!」

 

 銃を投げ捨てた直枝はシールドを自らの拳に纏わせると、放たれた大型砲に対し拳を振りかぶる──!

 全てを灼き尽くす深紅の光線と少女の拳では、間違いなく前者が勝つ。と、誰もがそう思うだろう。しかしその拳を振るうのが菅野直枝であった場合に限り、その予想は逆転する。

 

「うおおおおおおおおおおおおお───ッ!!」

 

 本人が専ら打撃に用いている所為で勘違いされがちだが、直枝の固有魔法〔圧縮式超硬度防御魔法陣〕は、シールドの範囲を狭めることで強度を大幅に向上させる魔法だ。当然、その真価は防御力にある。

 高出力の光線を文字通り切り裂く様にして突き進む直枝の拳は、自らの後ろを行く仲間達へ一切の傷を負わせることはない。やがて光線が収束し、攻撃直後の大きな隙ができる。

 

「今だッ!行け雁淵──!」

 

「やぁああああああ──!」

 

 行く手を邪魔するものは何も無い。ネウロイ目掛けて一直線に突っ込んでいくひかりの伸ばした手が、ネウロイの漆黒の装甲にしっかりと触れる。

 初めて自らの意思で発動させた〔接触魔眼〕により、ひかりの視界に赤く輝くネウロイのコアの在り処が映し出された。

 

「見つけた──ッ!」

 

 すぐさま体勢を立て直し、魔眼で探知した部位へ銃撃を集中させる。すると、削られた装甲の下から煌々と光を放つ結晶体が顔を覗かせた。

 

「コアだ!本当にあった!」

 

 一気に畳み掛けようとするが、ネウロイ側も黙ってやられるわけではない。機体を更に4つに分離させ、子機3つを差し向けた本体は逃走を開始する。

 

「今更遅ェんだよ!ニパ!雁淵──!」

 

 ひかりとニパがコアを持たない子機2つを集中砲火で一掃し、残る1機が直枝の前に立ち塞がるも、彼女にとってネウロイ1機を躱す程度、造作もない。

 

「くたばれぇえええええええ──!」

 

 拳が狙うはただ一点──!

 

 

(ツルギ)ィ───いっせえええええええええええん!!!」

 

 

 直枝の魔拳がネウロイのコアを打ち砕いたことで、無限に再生を続けていた子機達も一斉に崩壊を始める。

 

「ハァ…ハァ……はっ、これが結束の力って奴かよ──悪くねぇじゃねぇか」

 

 舞い散る金属片が粒子となって消えていく中、直枝は肩で息をつきながら独り呟く。

 

「菅野さん!やりましたね!」

 

 心底嬉しそうな顔をして自分の元へやってくるひかりに「今回くらいは素直に褒めてやってもいいか」等と思いながら、直枝は口を開く──

 

「──おう。やったぜ、()()!」

 

「えっ……今、なんて!?」

 

「ハッ……!?あ、ぃや……な、何も言ってねぇよ!」

 

「言いましたよ!"相棒"って!」

 

「じょーだんじゃねぇ!お前が相棒なんてありえねぇ!」

 

「絶対言いましたって~!」

 

 一層顔を輝かせて直枝をからかうひかり。そんな珍しい光景を見て小さく笑ったロスマンは、基地へ任務完了の連絡を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──そうか。ご苦労だった。全員帰投するよう伝えてくれ。──いい生徒じゃないか」

 

『胃に悪いです──』

 

 レシーバーを置いたラルは、そっと息をつく。

 

「……何とか、なりましたか」

 

「言っただろう。私の部隊を嘗めるな、と」

 

「……安心感が声から滲み出ているのが僕でも分かりますよ」

 

「……生意気な。──部下を大事にするだけなら誰でも出来る。時には信じて任せる事も必要ということだ」

 

「ふふっ……覚えておきます」

 

 斯くして、無事に帰投した今回の功労者である直枝とひかりだが……

 

「──菅野さん、ニパさん、ひかりさん!そこに正座ッ!」

 

 帰るなり、目を覚ましたサーシャから罰を受けていた。理由はもちろんユニットの破損。ただし今回は直枝とニパだけでなく、ひかりまでもがユニットを壊している。

 

「いやぁ、これでひかりちゃんもすっかり502部隊の一員だね。──同時に、ようこそブレイクウィッチーズへ!歓迎するよ」

 

「何言ってるんですか!クルピンスキーさんも正座ッ!」

 

「えぇ!?なぁんで~!?っていうか、ボク今脚こんなだよ──!?」

 

「散々ユニットを壊しても無事なんですから、今更この程度平気でしょう!」

 

 泣く泣く3人と一緒に正座をさせられるクルピンスキーに、502部隊の面々は思わず笑い出す。

 また1つ壁を乗り越え、結束を強めた502部隊。そんな彼女達に、新たな波乱の予感が待ち受けているとは、知る由もなかった……

 




今回怪我で戦いに参加できなかったユーリ君。
彼がお留守番してる時って大体話長くなりがちな気がするのは気のせい……?
……うん、気のせいだな。戦ってても長い話あるわ普通に。

さぁ、いよいよ"グリゴーリ"との決戦が近づいてきております。
ここまでの間にオリジナルストーリーとか1個くらい挟んでみようかなぁ、なんて思っていた過去の私はもういません。このまま502編、ラストまで突っ走ります。
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