501のウィザード   作:青雷

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1万字を超えなかったのは久しぶりです……


フレイアー作戦

 負傷していたクルピンスキーとユーリの怪我も完治し、万全な状態になった502部隊。そんな好調に拍車をかけるかのように、ひかりと直枝のコンビネーションという新たな戦法が形になってきたこの頃──502の面々は、本日2度目のブリーフィングルームに集合していた。

 

「──マンシュタイン元帥に、敬礼!」

 

 ラルの号令で、全員一斉に席を立ち敬礼を送る。その目線の先には、カールスラントの軍服に身を包んだ壮年の男性が。彼こそはカールスラント軍の頂点に立つエアハルト・フォン・マンシュタイン元帥。"グリゴーリ"撃滅の為に結成されたペテルブルグ軍集団の総司令官であると同時に、かつて行われたカールスラント撤退戦を成功させる一因にもなった功労者である。

 

「うむ、座ってくれたまえ。──突然すまないな、ラル少佐」

 

「いえ。それで、今日はどういった用向きで?」

 

「既に一部の者には内密に伝えていたが、ペテルブルグ軍集団による"グリゴーリ"攻略の為の"フレイアー作戦"についてだ」

 

 欧州に於ける豊穣の神の名を冠したこの作戦は以前から立案自体はされていたのだが、苦しい戦況下で決行に踏み切れずにいた所、先日の502部隊の活躍による補給路の復活を受けて士気が向上。作戦の発動が正式に決定したのだ。

 

「──そこで、君達502部隊にも本作戦への参加を要請したい」

 

「その作戦ですが……501部隊がガリアを解放した手段に準ずるのでしょうか?だとするなら、あまりにもリスクが高いと思われますが」

 

 結果的にガリア解放の決定打になったとはいえ、その後自身が世界に対する脅威となってしまったウォーロック。もしあれと同じことをまた繰り返そうというのであれば、当事者たるユーリから直接話を聞かされているラル達としては手放しに協力するわけにはいかない。

 

「ほう、知っていたか……ウィッチは耳も早いな。──安心したまえ、ネウロイの技術は我々の手に余る。同じ轍を踏むつもりは無い」

 

 作戦は至ってシンプル。

 現在ムルマンに集結しつつあるペテルブルグ軍集団の総戦力を以て"グリゴーリ"を攻撃。そうすることで巣内部から湧き出てくるネウロイの生産力を壊滅させ、無防備になった巣へ突入。巣を形成しているコアを、この日の為に製造された超大型列車砲による砲撃で撃ち抜く。というものだ。

 

「列車砲って、あの船で運んでたでっかい奴……だよね?」

 

「けどコアをぶち抜くったって、どうやって巣の中のコアを見つけんだよ……?」

 

 ネウロイの巣は巨大だ。話に聞く大型列車砲とやらも、手当たり次第に撃てるような連射性能は持ち合わせていないはず。一撃で確実に仕留めるならば、予め目標であるコアの位置を特定しなければならないが……

 

「………!」

 

 暫し考え込んだ直枝は、ある可能性に思い当たる。同時に、隣にいるニパやラルにロスマンを始め、部隊の全員が同じ予想にたどり着いた様だ──唯一、ひかりを除いて。

 

「諸君らの疑問はもっともだ。だが心配はいらん。作戦決行に差し当たって、コアの特定に当たる〔()()()()()()()()()も既に選定済みだ」

 

 〔魔眼〕──その2文字で、直枝達の予想は確信に変わった。

 

「ちょっと待て!まさかひかりにやらせる気かよ!?」

 

「ダメです!絶対ダメ!」

 

「えっ……私、ですか……?」

 

 当のひかりはまだ状況がよく飲み込めていないようだ。

 

「──落ち着きなさい。菅野さん、ニパさん」

 

「けどよ先生!こんなひよっ子がネウロイの巣に突っ込んでって無事で済むと思ってんのかよ!?今までとは訳が違ェんだぞ!?」

 

 ひかりが有する〔魔眼〕は通常のそれとは違い、ネウロイと接触しなければ発動しない。即ち、ひかりが"グリゴーリ"のコアを特定するには、ひかり自らが巣へと突入しなければならない事を意味する。

 当然巣に近づけば近づく程、敵の攻撃も激しくなる。そんな針の筵の具現とも言える状況下では、ひかりの無事は保証できない。極端な話「死ね」と言われているも同然だ。

 

「作戦開始まではまだ1ヶ月あります。その間に私がひかりさんを育て上げれば、何も問題はありません」

 

 危険であることに変わりはないが、戦いの素人だったひかりをここまで鍛えて見せたロスマンであれば、それも不可能ではないかもしれない。例えばあのエイラに匹敵する回避技術を習得できたなら、或いは……

 

「……残念だが、作戦決行はこれより7()()()だ」

 

「7日……!?」

 

「どういうことでしょうか。内示では、作戦決行は1ヶ月後だったはずでは?」

 

 淡い希望を打ち砕いたマンシュタインに、微かな怒気を孕んだラルが理由を問いただす。

 

「──"グリゴーリ"が動き出したのだ」

 

 白海上空に留まっていた"グリゴーリ"が、極めてゆっくりではあるが内陸部へ移動してきているらしい。只でさえ白海という東部戦線の補給の要を抑えられ苦しんでいるというのに、勢力圏がペトロザヴォーツクだけでなくムルマンにまで伸びてしまえば完全に補給を絶たれてしまう。そうなれば502部隊は、連合軍が必死に取り戻したペテルブルグを今度こそ放棄しなければならない。既に1ヶ月も待てないところまで、敵は進軍を始めているということだ。

 

 しかし、このやむを得ない状況を聞いても尚、直枝は食い下がる。

 

「ふざけんな……ッ!」

 

「止めろ菅野」

 

「いいや止めないね!隊長こそ、ひかりをみすみす死なせるようなこんな命令断っちまえよ!」

 

 作戦の成功は確かに大事だ。特に今回の"フレイアー作戦"はこの東部戦線の行く末を左右する重要な戦い。失敗も出し惜しみも許されない。しかしだからといって仲間の命を軽視できる程、502部隊は現実主義ではなかった。

 

「……私も反対!大切な仲間を危険な目になんか遭わせらんないよ!」

 

 直枝に同調したニパが手を挙げたのを皮切りに、他の面々もそれに続く。

 

「ま、子猫ちゃんを1人で行かせるわけにはいかないよね?」

 

「そうです。どうしてもと言うのでしたら──」

 

「──私達もひかりさんと一緒に行きます!」

 

 クルピンスキー、下原、ジョゼも揃って否を唱えた。

 

「本当に、他に方法は無いんでしょうか?」

 

「他の方法、か……」

 

 サーシャの問いを受け、ラルは後方の席に目をやる。その先で、ここまで黙して話を聞いていたユーリと目が合った。何かを確認するかのようなラルの視線に、ユーリは小さく頷きを返す。

 

「閣下、1つご提案が──」

 

「君達は何か誤解をしているようだな。この作戦、雁淵軍曹を使うつもりなど無い」

 

 ラルの言葉を遮ったマンシュタインに、一同は眉を潜める。話の流れを振り返ってみても、コア特定の役目はひかりに白羽の矢が立ったとしか思えないが……

 

「……そろそろか」

 

 腕時計を一瞥したマンシュタインがそう呟くと、どこからかエンジン音が聞こえてくる。この場のほぼ全員の耳に馴染むこの音は、ストライカーユニットの駆動音だった。

 

「ムルマンからペテルブルグ(ここ)まで時間通り──流石というべきか」

 

「アレ……ウィッチ、だよね?こっちに向かって来てる」

 

 ジョゼの言う通り、基地に向かって白い軌跡を残しながら空を舞う音の主は、大きく旋回して基地の滑走路へ向かう。突然の事で呆気に取られる502部隊だったが、その正体に気づいた者が3人いた。

 

「あれって……もしかして──ッ!」

 

 顔を輝かせたひかりは、一目散にブリーフィングルームを駆け出していく。皆が驚く中、彼女と同じように謎のウィッチの正体を見抜いていた直枝の顔にもまた、喜色が浮かんでいた。

 

「──これで、502部隊も在るべき正しい形に戻るだろう。これまで現場の判断でよく頑張ってくれたな、少佐」

 

「……恐縮です」

 

「では、私はこれで失礼する──と、そうだ」

 

 踏み出しかけた足を止めたマンシュタインは、ラルとロスマンにだけ聞こえる声で最後にこう付け加える──

 

「……少佐。先程君が口にしかけた、()()()()()()()も、後ほど報告書に纏めて提出するように」

 

 それだけ言い残し、マンシュタインは堂々とした足取りで部屋を出ていく。威厳を放つ背中が見えなくなったところで、ラルは小さく息をついた。

 

「とんだ狸爺が……」

 

「隊長が独断でユーリさんとひかりさんを502に入れていた事は、お咎め無しのようですね」

 

「……代わりに、少々面倒な事になりそうだがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──本日を以て、502統合戦闘航空団に着任しました。雁淵孝美中尉です。──リバウ以来ですね、ラル少佐」

 

「ああ。久しぶりだな、孝美」

 

 格納庫に集結した502部隊の面々。その前に立っているのは、雁淵孝美──昏睡状態となって扶桑に送還された502本来の追加メンバーであり、ひかりの実の姉。今回の"フレイアー作戦"発動にあたって、コア特定に必要な〔魔眼〕を持つウィッチに選定されたのは他ならぬ彼女だった。

 

「本当に、復帰できたんだ……!」

 

「よかったね、ジョゼ」

 

 孝美が3ヶ月もの間昏睡状態になってしまったのを自分の力不足故だと密かに悔やんでいたジョゼは、瞳に涙を滲ませる。

 

「隊長や菅野さんからお話は常々聞いています。戦闘隊長のポクルイーシキンです」

 

 孝美を握手を交わしたサーシャは、そのまま孝美と初対面となるメンバー達の紹介をしていく。

 

「それと最後に──彼の事も」

 

()……?」

 

 サーシャの言葉を受けて小さく前に進み出たユーリは、失礼の無いよう気をつけの姿勢で自己紹介を始める。

 

「ユーリ・ザハロフ曹長です。この度のご快復、おめでとうございます。雁淵中尉」

 

「……は、はい。ご丁寧にどうも……えっと……」

 

「ま、驚くのも無理ねぇか。孝美、そいつは男のくせしてオレ達と同じ魔法力を持ってる、ウィザードってやつだ」

 

 初めて目にするウィザードという存在に、孝美も少々面食らっているようだ。

 

「まだ若輩者ですので、ご指導ご鞭撻の程、何卒宜しくお願いします」

 

「よく言うぜ。今更おめぇが何を教わるってんだ。──まぁ気持ちは分かるけどな。オレも海軍学校で教官だったコイツには、散々しごかれたもんだ」

 

「でも、菅野さんはしっかり付いてきたじゃない」

 

「おうよ!今ならあン時の3倍は余裕だぜ!」

 

 笑いながら旧交を温める直枝と孝美。そこに加わっていて然るべきひかりがこの場にいない事に、ユーリは今更ながら気がついた。

 

「話はその辺にしておけ。孝美も疲れているだろう。続きは中でするといい」

 

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」

 

 孝美共々基地へ戻っていく502の面々。その中で、ユーリと直枝、ニパの3人は姿の見えないひかりを探しに外へ出た。

 

「──あ、いた。お~いひかり~!」

 

 探し人はすぐに見つかった。滑走路の先端で独り立ち尽くしていたひかりは、ニパの呼びかけにも反応しない。

 

「ひかりさん。雁淵中尉と一緒にいなくていいんですか?」

 

「そうだぜ。待ちに待った孝美が来たってのによ。おめぇ一番喜んでたじゃねぇか」

 

「……はい。そう、ですよね……」

 

 先程と一転して覇気の無いひかりは、歯切れの悪い返事と共に両手を強く握り締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つい昨日基地に来たばかりだというのに、孝美は早くも502と面々と打ち解け始めていた。

 クルピンスキーとの模擬戦では彼女の本気を引き出した上で互角の勝負に持ち込み、昼食では孝美自らが手を振るい、生まれ故郷佐世保の郷土料理である皿うどんを振舞う。

 

「いやぁ、綺麗で強くて料理も上手だなんて、完璧だよね孝美さんて。ね、ひかり!──ひかり……?」

 

「えっ……?あ、はい!そうですね……」

 

 下原に匹敵する料理の腕前を見せた孝美に尊敬の眼差しを向ける中で、ひかりだけは未だに浮かない様子だった。ぎこちない笑みを浮かべたひかりは、まだ昼食も食べ終わらない内にそそくさと食堂を出て行ってしまう。

 

 その後もひかりと孝美が一緒にいる瞬間を誰一人として目撃することはなく、気づけば夜になっていた。

 

「──ロスマン先生。ひかりさんは雁淵中尉と仲がよろしくないんでしょうか?」

 

「そんなことは無いと思うわよ。隊長から聞いた話ではリバウの頃から姉妹仲も良かったみたいだし、ひかりさん自身、雁淵中尉の話をする時は嬉しそうにしていたもの。──ひかりさんの事が気になる?」

 

「……はい」

 

 ひかりは502に来てすぐの頃、よく「孝美のようなウィッチになる」という目標を口にしていた。扶桑の訓練校にいた頃も「身の丈に合わない」「無謀な夢」等、後ろ指を刺される事も決して少なくなかったと聞くが、それでも姉の背中を目指し走り続けてきた。念願が叶い、孝美と同じ部隊で肩を並べて戦えるというのに、ひかりからは嬉しさのかけらも感じられない。寧ろ孝美を避けているようにすら感じられる。

 

「実はね……ひかりさんに、カウハバ基地への転属命令が出てるのよ」

 

「カウハバへ……?」

 

 スオムスのカウハバ基地といえば、ひかりが当初配属されるはずだった場所だ。負傷した孝美に代わってひかりがペテルブルグに残った事、その孝美が戻ってきたタイミングで転属命令が出たことを考えれば、自ずと事の真相は浮かび上がってくる。

 

「……雁淵中尉とひかりさんが、入れ替わる形になるんですね」

 

「ええ。隊長は、雁淵中尉がここに来る条件として、ひかりさんを最前線から離すようマンシュタイン元帥と取引をしたんだろう。って」

 

「そうですか……」

 

 来る"フレイアー作戦"に向けて、戦力は少しでも多いに越したことはない。状況を考えれば、孝美を502に迎えると同時に、ひかりもここに残る──差し引きゼロではなく、プラス1にするのが最適解だ。

 しかし一方で、孝美の気持ちもユーリには理解できる。彼女と同じような事を、ブリタニアの戦いでやった経験があるからだ。結論から言えば効果はまるで無かったが、ガリアの巣をウォーロックと共に撃破しに行く直前、ミーナに渡した手紙には「自分が何とかするから何もしないで原隊へ戻ってくれ」という旨を記していた。

 その気持ちを慮れば、孝美の言う通りひかりをカウハバへ向かわせるのが一番なのだろうが……

 

「………」

 

 ユーリは答えが出せないままに格納庫へ向かうと、夜の冷たい空気に晒されていたシモノフを担ぐ。そのままの足で、射撃場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜空に銃声を響かせながら、無心で的を狙うユーリ。これが何発目かも数えないままに弾丸をターゲットど真ん中へ命中させ続けていると、背後からパチパチと何者かの拍手が聞こえてきた。

 

「6発連続ど真ん中──流石、元501部隊ね」

 

「雁淵中尉……」

 

「邪魔しちゃってごめんなさい。良かったら、少しお話したいなって」

 

 銃を置き、手近な所にあった椅子に孝美を座らせる。

 

「僕が501にいた事は、隊長から?」

 

「ええ。──501部隊といえば、坂本少佐は元気にしてたかしら?」

 

 美緒が"リバウの三羽烏"の1人と呼ばれるに至ったリバウ撤退戦。そこで殿を務めた孝美は、当然美緒との面識もある。

 

「はい。訓練だけでなく、色々と相談にも乗っていただきました」

 

「相談って、どんな?正直、あの人なら大抵の事は"ウィッチに不可能はない!"で押し通しちゃいそうだけど……」

 

「それは何とも坂本さんらしい……いえ、相談といっても大した事では」

 

「うーん……部隊の人達と仲良くする方法。とか?」

 

「……中尉は読心術の心得でもお有りなんですか?」

 

 一発で正解の2文字を射抜いてみせた孝美に、驚きと囁かな畏怖の念を抱く。──といっても、ユーリが世界初の航空ウィザードであることを考えれば、周囲への相談事というのも絞られてくるのだが。

 

「──皆の事を名前で……なる程ね。菅野さんが言ってたのはそういう事」

 

「……菅野さんが何か?」

 

 直枝の言葉を思い出しているのだろう。小さく笑った孝美曰く──

 

 

 ──ユーリ(アイツ)、初対面の人間に一々名前で呼んでもいいか確認して来ンだぜ。でねーと一生階級で呼んでくるぞ。ホンットバカみてぇにクソ真面目だよな。

 

 

「──って」

 

「そ、そうですか……」

 

 ユーリが502部隊に来たばかりの頃を思い出す。あの時も直枝はユーリの事を笑っていた。

 

「……やはり、一々確認せずにいきなり名前でお呼びした方が、距離感は縮めやすいんでしょうか?」

 

「んー……一概には言えないかな。でも私はユーリさんのそういう所、いいと思うわ。ちゃんと確認するって事は、それだけ相手の気持ちを考えてるって事だもの。優しい人間である証拠よ。──正直、ちょっと安心しちゃった。ウィザードの人に会うのは初めてだから、緊張してたんだけどね。可愛い一面もあるんだって思ったら、それも消えちゃったわ」

 

 そう言って立ち上がった孝美は、ここまでジッと休んでいたシモノフに手をかけると、慣れた手つきでピタリと構える。同時に、柔和だった顔つきが一気に引き締まった。

 

「ふぅ……──ッ!」

 

 深く息を吐いて、吐いて、吐ききったその瞬間、シモノフの引き金が絞られた。銃声が轟き、徹甲弾最後の1発が的に突き刺さる。微かに硝煙を棚引かせる銃口を下げると、孝美は残念そうな笑みを浮かべた。

 

「……残念、ちょっとだけズレちゃったみたい。」

 

 空になった弾倉クリップを引き抜いてからそっとシモノフを横たえた孝美。彼女が撃った弾は、ユーリが先に残した弾痕の中心から僅か数ミリ程ズレたポイントに命中していた。遠目に見ればほぼ重なっているも同然の位置だ。これだけでもやろうと思ってそうそう出来る事ではない──正に不可能に近い所業だが、恐らくもう1発撃てば今度はユーリの弾痕にぴったりと重ねてくることだろう。

 

「……なる程、中尉も坂本さんの教え子という訳ですね」

 

「ユーリさん程しっかり教えを受けたわけじゃないけどね。その点では、多分下原さんの方が少佐との付き合いは長いんじゃないかしら」

 

 実は扶桑にいた頃、美緒の厳しい訓練でこってり絞られては泣きながら彼女の同期に慰めてもらっていた経験を持つ下原もまた、美緒の教えを受け継ぐ立派なウィッチになった。この502での戦いぶりがそれを証明している。

 やはり扶桑のウィッチというのは皆、美緒と同じくどんな難題も乗り越える熱い(もの)を秘めているということなのか。であるなら、尚の事ユーリには分からない──

 

「──ひかりさんの事は、信じてあげないんですか?」

 

「ッ………」

 

 笑っていた孝美の顔が、途端に真剣な表情に変わる。

 

「……信じる信じない以前に、あの子を危険な目に遭わせたくないの。ひかりが502でどんな事をしてきたか、全部聞いたわ」

 

「だったら……」

 

「分かってる。私だって本当は、あの子を褒めてあげたい。"頑張ったね"、"強くなったね"って、抱きしめてあげたい……でも今それを私が認めてしまったら、あの子はきっと私と一緒に戦うって言うに決まってるわ。ひかりは何があっても諦めない子だって、私が一番よく知ってるもの」

 

 ひかりのカウハバ行きは、既に司令部から正式な辞令が下されている。今更嫌だといった所でどうにかなるものでもないが、その程度で諦めるようなひかりではないということは、あの日──502に入れて欲しいと頼み込んできたひかりを目にしていたユーリでも分かっている。

 

「確かにひかりは強くなった。ネウロイ相手でも立派に戦えるようになったわ。……けど次の相手は巣よ。これまでの戦いとは何もかもが違う。それはユーリさんもよく知ってるでしょう?」

 

「……はい」

 

「だから、今はとにかくあの子を諦めさせないとダメなの。その結果、ひかりに嫌われることになっても……後悔は……ッ」

 

「……僕は以前、必死に努力していたひかりさんに心無い言葉をかけてしまった事があります。"あなたの力では無理だ"と。──しかし彼女はそんな僕の予想を超えて、大きな壁を乗り越えてみせた。……まぁそれも、様々な偶然がいい方向に働いた結果だと、そう思っていたんですが」

 

 だから、ひかりの異動の話を聞いた時どうすべきか迷った。またあの時のような奇跡が起こるとは限らない。いくら502の仲間が一緒とはいえ、孝美の言う通り相手はネウロイの巣なのだ。

 

「僕の中でも答えは決まりました。僕は──ひかりさんが諦めない限り、彼女の気持ちを尊重します」

 

「無茶よ……ひかりが生き残れると、本気で思ってるの?」

 

「"ウィッチに不可能はない"──それが坂本さんの言葉であるなら、僕が信じない理由はありませんよ。()()()()

 

「失礼します」と頭を下げてから、シモノフを担いで射撃場を後にする。

 今の言葉で孝美の考えが変わるとは思わない。そもそも、彼女とて間違ったことは言っていないのだから。結果的に意見こそ違えたものの、ユーリ自身の気持ちに整理がついた事と、何より孝美は姉としてひかりの事を想っているのだという事実が分かっただけで、彼女との会話には十二分に意味があった。

 

 唯一、ユーリの胸に引っかかっているとするならば──

 

(……試しにいきなり名前で呼んでみたものの、やはりまずかっただろうか……)

 

 という、先のやり取りとは打って変わって緊張感の欠片も無い考え事であった。

 




ブレイブ放送当初から心・技・体全てを兼ね備えたパーフェクトお姉ちゃんと名高い孝美さん。
コミュ力が高い分、ユーリ君に対する言葉遣いや距離感が難しかったです……
上手いこと表現できているといいんですが。


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