501のウィザード   作:青雷

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姉と妹

 ブリーフィングルームにて──

 

「──先程、"グリゴーリ"を監視していた偵察部隊が全滅しました」

 

「全滅だと……!?」

 

「報告では、先日バレンツ海に出現した球体型ネウロイが再生した個体との事です」

 

「そんな馬鹿な……ッ!あの時、ボク達が確かに倒したはずだ!」

 

「そうです。同型のネウロイという可能性も……」

 

 クルピンスキーが狼狽するのも無理はない。あのネウロイを倒した瞬間は、クルピンスキーだけでなく、あの場にいた直枝やニパ、ユーリ達も確かに目にしているのだから。あの時、ネウロイは確かにコアを破壊され、無数の破片となって散っていったはずなのだ。

 

「ですが事実です。これを見なさい──」

 

 ロスマンが、背にしていた写真を指し示す。そこにはあの時クルピンスキー達が戦ったのと寸分違わぬネウロイの姿と、その機体に溶けるようにして取り込まれている1機のストライカーユニットが写されていた。

 

「あのユニット、確かにボクのだ……いや、でもコアは確かに……何で……!?」

 

「そう熱くなるな、クルピンスキー」

 

 状況を整理できずに混乱するクルピンスキーを宥めたラルは、ロスマンの手を借りてコルセットを着用する。彼女がこれを身に着けたという事は……

 

「……隊長、まさか」

 

クルピンスキー(おまえ)が仕留めきれなかった相手だ。ならば私が出るしかないだろう?──行くぞ、孝美。反攻作戦前の肩慣らしだ」

 

「……はい!」

 

 これまで総指揮に徹し現場へ出る事の無かったラルが出撃の意を見せたところへ、ブリーフィングルームの扉が勢いよく開け放たれる。

 

「──待ってくださいッ!」

 

「ひかり……!?」

 

「何しに来たの!?」

 

 ブリーフィングの乱入者──ひかりは孝美の叱責にも屈せず、毅然とした態度で口を開く。

 

「私も、作戦に参加させてください!」

 

「あなたには無理だと何度言えば──ッ」

 

「そんなの──やってみなくちゃわかんないっ!」

 

 真っ向から孝美と睨み合うひかり。お互い譲らないまま訪れた沈黙を破ったのは、ラルの声だった。

 

「──いいだろう」

 

「隊長……っ!?」

 

「ひかり。もしお前の〔接触魔眼〕が孝美のそれに勝るのなら、どんな手を使ってでもお前を502に置いてやる」

 

 孝美の意思に反してひかりへチャンスを与えるラルに、ひかりは顔を輝かせる。

 

「ただし──その場合、お前に代わって孝美にカウハバへ行ってもらう。お前が勝負に勝ったところで、孝美と一緒に戦うという望みは叶わないが──それでもやるか?」

 

 ひかりがここまで諦めないのは、孝美と共に戦いたい一心からだ。憧れた姉と肩を並べて飛び、戦えるようになりたい。そんな彼女に対し残酷とも言える選択を迫るラルだったが……

 

「……やりますっ!だって今の私は、502部隊の一員だから!」

 

 それでもひかりは一歩として退くことをしない。ここまでずっと抱き続け、自身を支えてきた願いは叶わないというのに……否、既に彼女が胸に抱く想いは、孝美への憧憬だけではないのだろう。苦楽を共にしてきた502部隊の一員として、ここで皆と共に戦いたい──ひかりにとって、502部隊は孝美と同等以上の大きな存在に膨れ上がっていた。

 

「いい面構えだ──孝美、お前はどうする?」

 

 予想外の展開に、少しの間考えた孝美は、

 

「……いいわ。どちらがこの部隊に相応しいか、ハッキリさせましょう」

 

 孝美の意思が確認できたことで、502結成以来初の部隊総出で現場に向かう事になった。

 各々が手早く出撃準備を進める中、ユーリは孝美に声をかける。

 

「……昨日言ったように、僕はひかりさんの意思を尊重します。しかし、だからといって彼女を見殺しにする気もありません。必要と感じたなら、例え勝負に水を差すことになろうと必ず助けます」

 

「……そう」

 

「ですから、たか──雁淵中尉は、ひかりさんとの勝負に集中を。彼女の成長を、ちゃんと見てあげてください」

 

 ピリ付いた空気を纏う孝美を刺激しないよう、それだけ言って自分のユニットの元へ向かうユーリの背中を、孝美はそっと見つめる。

 

(名前で呼んでくれていいのに……──お言葉に甘えて、ひかりを頼むわね)

 

 胸中で呟いた孝美は改めて、ひかりの為に、ひかりをこの勝負で下す決意を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

「──やはり、狙いは作戦の為に集結した艦隊で間違いなさそうね」

 

 無線から入る情報によれば、ネウロイはムルマン方面へ進行中とのことだ。敵としても、あれほどの戦力は放置しておけないということだろうか。

 

「孝美、ひかり。〔魔眼〕でコアの位置を捉え、私に報告しろ。より早く、より正確に位置を見抜いた方を勝者とする」

 

 

「「了解ッ!」」

 

 

 ラルの手には孝美から借り受けたS-18対装甲ライフルが握られており、雁淵姉妹から受け取った位置情報を頼りに、彼女がコアを撃ち抜く手筈となっている。

 

「ひかりはずっとお姉さんと一緒に戦いたいって言ってたのに……何でこんな事に……」

 

 先行する姉妹を後ろから心配そうな目で見ているニパ。そのすぐ横を飛ぶジョゼもまた、この勝負に不安を零す。

 

「そもそも、孝美さんとひかりさんじゃ実力も経験も差がありすぎるよ……」

 

 孝美の〔魔眼〕は遠視能力も併せ持っており、離れた位置から広範囲を見渡すことが可能だ。対するひかりの〔接触魔眼〕は、発動の為にネウロイとゼロ距離まで接近しなければならず、射程は無いも同然。ネウロイに肉薄する手間と難易度を考えれば、圧倒的に孝美に有利なこの勝負だが……

 

「それでもあの娘は、万に一つの可能性に賭けた。私達と共に戦う為に──そして、自分の成長を姉に見せる為に──!」

 

 これまでずっとひかりの訓練を見てきたロスマンは、彼女が積み上げてきた努力と、その想いを知っている。ひかりの挑戦は無謀極まりないが、今に至るまで幾度となく彼女に叩きつけられた不可能の3文字を持ち前の根性で跳ね除けてきたひかりならば──!

 

「見えた──11時の方向、ネウロイです!」

 

 下原の報告で、全員が空を浮遊する巨大な球体を肉眼で捉える。その姿は、正しくムルマンで戦ったあのネウロイそのものだった。ネウロイもこちらの接近を察知したらしく、幾筋もの光線を繰り出してくる。

 

「よし、行くぞ──ッ!」

 

 ラルの号令で部隊は散開。ネウロイに一斉攻撃を仕掛ける──!

 

「一気に決着させる──!」

 

 孝美はネウロイの攻撃をシールドで防ぎながら魔眼を発動。漆黒の機体に潜むコアを特定する。

 

「目標捕捉──H-4699、T-9326!」

 

「流石に早いな──!」

 

 即座にコアの位置情報がラルに伝達され、その座標位置が示すポイント目掛けてラルは引き金を絞る。正確な狙いで放たれた20mmベルテッドケース弾は孝美が示した位置に命中し、見事コアが撃ち抜かれる様を〔魔眼〕で確認した孝美だったが……

 

「そんな……っ」

 

 通常ならば崩壊を始めるはずのネウロイは、未だ活動を続けている。驚愕する孝美の目には、破壊されたコアの破片が凝集し再形成されていく光景が視えていた。

 

()()()……()()()()……ッ!?」

 

「嘘……!?」

 

「そんなの、どうやって倒せば……!」

 

 衝撃の事実に、下原もジョゼも動揺を隠せない。それはこの場の全員が同様だった。

 

(まさか本当にコアを再生しているのか……!?)

 

 以前ユーリがブリタニアで戦ったウォーロックは、人為的に手を加えられたことで、コアを完全に破壊しなければ動き続ける特性を有していた。事と次第ではコアの再生まで行えるのではと危惧していたが……全くの別個体とはいえ、まさか本当にそんな真似をするネウロイが現れようとは。

 こうなれば仕方ない、とシモノフを構え直し、先程孝美がラルに伝えた座標の位置を狙う。

 

「雁淵中尉!すみませんが──」

 

「待って!」

 

 勝負に介入しようとしたユーリを制止した孝美は、今一度魔眼に意識を集中する。

 

「これは……コアの中で、何かが動いて……まるで、()()()()()()()()()()ような──」

 

「……なる程。そういう事か」

 

 孝美の調べで、謎は解けた。このネウロイはコアを再生しているのではない。

 同じように結論にたどり着いたラルは、光線を掻い潜りながら雁淵姉妹に指示を飛ばす。

 

「恐らくそれが真のコアだ!そいつをピンポイントで撃ち抜かない限り、何度倒そうとコイツは再生する!」

 

 厄介な特性が判明した途端、球体型のネウロイが左右に分裂し、一転攻勢に出てくる。断面から夥しい数の子機を吐き出し、ウィッチ達はその対処に追われてしまう。矛先は勿論孝美にも向けられており、襲い来る子機達を果敢に撃墜していくが……

 

「くっ、魔眼に集中できない……ッ!」

 

 〔魔眼〕というのは個々人で微妙に性質が異なるものだ。例えば美緒の魔眼は、遠方を見渡しながらコアを高い精度で特定できる代わりに、その可視範囲は狭い。

 孝美の場合、遠距離視に加え広範囲を捕捉することができる代わりに、その分精度にバラつきがあるのだ。しかも今回はコアの中を自由自在に動き回る"真コア"を捕捉しなければならない。その為に意識を集中する必要があるのだが、倒しても倒しても群がってくる子機達が孝美の集中を悉く妨害してくる。

 

 歯噛みしながらもどうにか隙を作ろうと奮戦する孝美の横を、風のように駆け抜けていく影が──勿論、ひかりだ。

 

「くっ──まだまだ──ッ!」

 

「頑張れひかり──ッ!」

 

 ニパを始め周囲からの援護を受けながら、子機達の間を縫うようにしてネウロイへ接近していくひかりは、避けきれない敵は迎撃、それも間に合わない場合のみシールドを展開して、上手く攻撃を捌いていくが……

 

「数が多すぎる……!これじゃひかりさんが!」

 

 まるでサーシャの危惧が現実に影響したかのようなタイミングで、ひかりは子機と衝突。シールドのお陰で傷こそ負っていないものの、小柄な身体は大きく弾かれ、体勢も崩されてしまう。

 格好の的となったひかりに、夥しい数の子機達が一斉に襲い掛かる──!

 

「ひかり──ッ!」

 

 孝美が妹の名を叫んだ瞬間、後方から放たれた弾丸がひかりの間近に迫っていた子機を一息でなぎ払う。続けて飛来したロケット弾が、周辺の子機達も一掃した。後方からの援護に徹していたユーリとロスマンの攻撃だ。

 

「どうやら補修が必要なようね、ひかりさん。思い出しなさい、あなたが502(ここ)で得たものを。あなたの飛び方を──!」

 

「道は僕達が開きます。あなたは真っ直ぐ、一直線に──!」

 

「先生、ユーリさん──はいッ!」

 

 すぐさま体勢を立て直したひかりは、再びネウロイへ接近を開始する。ロスマンの教えを、エイラの動きを思い出しながら、襲い来る子機を左右に躱して真っ直ぐ突き進んでいく。行く先に分厚い壁があろうとも、後ろから飛来する徹甲弾がそれを撃ち砕き、ひかりが進む道を作る。

 

 一方、孝美は敵が集中していないネウロイの上方からコアを捕捉しに掛かる。

 

「──目標、重捕捉──!」

「あと、少し──ッ!」

 

 ひかりがネウロイに到達するまで、僅か100メートル──

 

「行け、ひかり──!」

 

「ひかりさん──!」

 

「──目標、補正──!」

「やぁあああああ──ッ!」

 

 残り50メートル──

 

「──目標、最終補正──!」

「届けェ───ッ!!!」

 

 残り──ゼロメートル。

 目一杯突き出されたひかりの左手がネウロイの装甲に触れた瞬間、ひかりの視界に紅い結晶体の姿が浮かび上がる。後はコアの位置を伝えるだけ──!

 

「──完全捕捉ッ!──グリッドH-1588、T-1127──ッ!」

()()です──ッ!!」

 

 淀みなく座標位置を送る孝美に対し、ひかりはコアのある位置に自分の銃口を突き立てる事で位置を知らせる。

 

 間髪入れず放たれたラルの狙撃は、ネウロイのコア──その内部に潜んでいた真コアを正確に撃ち抜き、今度こそ球体型ネウロイはその機体を金属片と変えて散っていった。

 

「ハァ…ハァ……どっち……!?」

 

 勝負の分け目は、早さと正確さ──果たしてひかりと孝美、どっちが先か──

 ひかりが結果を気にする一方で、他の隊員達は一先ずネウロイを撃破できたことに胸をなで下ろしていた。しかしその中で唯一、ユーリだけが気を緩めずに銃を抱えており……

 

「ッ──!」

 

 突如、銃口を持ち上げたユーリは、舞い散る金属片目掛けて引き金を絞る。弾丸が行く先にはひかりの姿が──

 

「ユーリさん何を──ッ!?」

 

 ユーリに詰め寄るロスマン達だったが、その答えはすぐに分かった。

 ひかりの背後から、まだ生き残っていた子機の1機が襲いかかってきたのだ。ユーリの放った弾丸はひかりから微妙に逸れた弾道を進み、子機に命中。一撃の下に粉砕してみせた。

 

「……もうその手は通用しない」

 

 以前クルピンスキー達がこのネウロイを倒した際も、同じ手口でクルピンスキーは危うく死にかけたのだ。あの時と同じ個体であるなら、同じ手段を用いてきてもおかしくはない。と、完全に撃破できたのを確認するまで油断せずにいた甲斐があった。

 

「ユーリさん……ありがとう、ございま──す───」

 

「ひかり……っ!」

 

 この激戦と、勝たなければというプレッシャーで張り詰めていた緊張の糸が切れたのだろう。意識を失い、真っ逆さまに落ちていくひかりを抱き留めたのは、孝美だった。

 

「ひかり──強くなったね……本当に、頑張ったね……っ」

 

 小さく涙を滲ませながら囁かれたその言葉は、幸か不幸か、ひかりの意識に届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は夕刻──勝負の結果が出た。

 特定したコアの位置はひかりも孝美も正確だったが、孝美の方が、僅かに早くラルの耳に座標を届けていた。どんなに僅差であろうと「より早く、より正確に」という勝敗条件を設定した以上は、それに則らねばならない。

 

 この基地には命令通り孝美が残り、ひかりはカウハバ基地への異動が、正真正銘、正式に決定したのだった。

 

「──ユーリさん。ちょっといい?」

 

「雁淵中尉……?」

 

 格納庫で独り、弾薬の装填作業を行っていたユーリの元へ、孝美が訪れた。

 

「お礼を言いに来たの。今日の戦い、ひかりを助けてくれてありがとう」

 

「同じ部隊の仲間として、当然です。──それも今日までですか」

 

「……502の皆には、悪い事をしたって自覚はあるわ。いくら実の姉とはいえ、大切な仲間を無理やり引き離したんだもの」

 

 深刻な面持ちの孝美を見て、ユーリはすぐさま言葉を返す。

 

「いえ、決して雁淵中尉を責めているわけではなく──すみません。もっと上手く冗談を言えれば」

 

「……ぷっ、フフフッ」

 

 ユーリまで落ち込むのを見て、孝美は思わず吹き出してしまう。

 

「ごめんなさい。ユーリさん、冗談言うような人って思ってなかったから」

 

 501に入ったばかりの頃と比べれば見違えたように丸くなったユーリだが、まだまだ傍目には真面目一徹な人間だと思われる事が多い。慣れない事はするものではないとよく言うが、今回に限っては、結果的にユーリの思い通りの方向に働いてくれたようだ。その証拠に、笑う孝美からはさっきまでの深刻な面持ちがすっかり消え失せている。

 

「なんだか力抜けちゃった。──ひかりはこんなに良い人達と一緒に戦って、強くなったのね」

 

 予てより親交のあったラルや直枝は勿論のこと、ニパやロスマンを始めとする502のメンバーは、誰もが優しかった。そしてユーリとの交流も経て、妹が良き仲間との出会いに恵まれたのだという事を知った孝美は、姉心に感謝の念を抱いていた。

 

「ありがとう、ユーリさん。こんなダメな姉の代わりに、妹を信じてくれて──助けてくれて、ありがとう」

 

「……その言葉は、僕よりも他の皆さんに言ってあげてください。中尉からのお礼なら、きっと皆さんも喜ぶと思います」

 

 そう言って装填の終わった弾倉クリップを片付けるユーリは、横から自分をジッと見つめる孝美に気が付く。その表情は、心なしか不服そうにも見えた。

 

「雁淵中尉……?」

 

「……もう名前で呼んでくれないの?」

 

「いえ、それはその……やはり勝手に名前でお呼びするのは失礼かと……」

 

「そっか……昨日話した時にユーリさんとは仲良くなれたって思ったんだけど、私が勝手にそう思ってただけで、ユーリさんは違ったのね……」

 

「そ、そうではなく……!え、えと、あの──!」

 

 露骨に肩を落とす孝美に、ユーリは狼狽する。どうにか弁解しようと必死で頭を巡らせるユーリは、孝美が小さく笑っていることに少し遅れて気が付いた。

 

「ふふっ──冗談っていうのはこうやって言うのよ?」

 

「……勉強になります」

 

「それはそれとして──私のことは、名前で呼んで欲しいな。何なら呼び捨てでもいいのよ?」

 

「流石に呼び捨ては……では改めて、孝美さんと呼ばせていただきます」

 

 無事孝美と親交を結んだユーリは、用がある、と言って格納庫を出て行った。それを見送った孝美は、

 

「ウチは姉妹だけだけど、もし弟がいたら、あんな感じなのかな」

 

 そう、故郷での家族団欒の思い出に浸るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、所用で席を外したユーリはというと、基地の外に足を運んでいた。夕暮れの日を浴びる滑走路の先には、ポツンと人影が1つ。

 

「──部屋にいないと思ったら、ここにいらっしゃったんですね。ひかりさん」

 

「ユーリさん……」

 

「お隣、失礼します」

 

 断りを入れた後、ひかりの隣に並び立つ。目の前には太陽を反射して光る海が広がっていた、そこに向かって悩みや思いの内を叫べば、沈みゆく夕日と同じように、何も言わず飲み込んでくれそうな……そんな海が。

 

「……私、負けちゃいました」

 

 ふと、ひかりが口を開く。ユーリは黙ったまま、続きを待った。

 

「やっぱりお姉ちゃんはすごいなぁ……!私なんかじゃ、全然敵わないや。そんな私がお姉ちゃんとギリギリの勝負に持ち込めたんだから、結果としては十分ですよね!」

 

「………」

 

「そうですよ。お姉ちゃんと張り合えただけでも、奇跡みたい──最初は満足に飛べないくらいへっぽこだった私を、ロスマン先生が鍛えてくれて、下原さんは毎日美味しいご飯を作ってくれて。私がドジして怪我した時は、ジョゼさんが治してくれて。クルピンスキーさんはたまに変な事言いますけど、いつも部隊の皆を笑顔にしてくれた──」

 

 明るかったひかりの声が、次第に震え始める。

 

「サーシャさんは、怒ったらすっごくこわいけど……っバカな私が分からないこととか、丁寧に教えてくれて……ラル隊長は、わたしの我儘を何度もきいてくれて……っ……ユーリさんは、私が困ってる時は何だかんだ必ず助けてくれました……ニパさんは、よわよわだった私を"仲間だ"って受け入れてくれてっ……かんのさんは……っ、いつもわるぐちばっかりで、さいしょは嫌いだったけど──でも、相棒って呼んでくれた……っ……なのに……ッ!」

 

 気づけば、瞳から涙が溢れていた。一度決壊してしまえば、もう止めることはできない。

 

「いっぱい、いっぱいたすけてもらったのにッ……まけちゃったぁ……っ!ぐすっ──みんなのやくにたちたいって、おんがえししたいって、がんばったのに……ッ──」

 

 海に向かって、感情のままに泣き叫ぶ。もしここにいるのが他の誰かであったなら、きっと涙するひかりを優しく抱きしめたことだろう。

 

 だがユーリにできたのは、ただ隣にいることだけだった。

 ひかりが泣き止むまで、一声も発さず、ずっと。

 

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