501のウィザード   作:青雷

32 / 53
絶対魔眼

「──本当にスオムスに行っちゃうのかよ、ひかり……?」

 

「あはは……そうですね……」

 

 502基地では、カウハバ基地へ向かうひかりを仲間達が見送りに集まっていた。

 各々から激励の言葉や道中に食べる弁当などを受け取ったひかりの前に、最後に進み出たのは、クルピンスキーだった。

 

「コレ、やっぱりひかりちゃんが持ってた方がいいんじゃないかなって」

 

 差し出されたのは、以前クルピンスキーの命を救ったリベレーター。外装の歪みこそそのままだが、中身は修理を終えてちゃんと銃としての機能を取り戻している。

 

「クルピンスキーさん──ニパさんから聞きましたよ、コレ本当は武器なんですよね?」

 

「アハハ、バレちゃったか。──どうせなら1発くらい入ってた方が、お守りっぽいよね」

 

 そう言って、リベレーターに弾丸を1発だけ装填する。

 

「うん、これでオッケー。──銃弾にひかりちゃんが怪我しませんように、って魔除けのおまじないをかけておいたからね」

 

「またまた~、もう騙されませんよ?」

 

「おっと、手厳しいなぁ。でも、込めた想いは本物だよ?向こうに行っても、これを見る度にボクの事を思い出してくれたら嬉しいな。夢の中でも会いに行くよ」

 

 クルピンスキーが残したウィンクを最後に、贈り物を全て受け取ったひかりは迎えの車に乗り込む。程なくして、車はスオムス駅に向けて発進した。

 

「みなさ~ん!お元気で~~~!」

 

「ひかりぃ──!」

 

 遠ざかっていくひかりの姿に我慢の限界が来たのか、ニパは車を追って走り出す。しかしユニット無しの生身では追いつけず、やがて窓から身を乗り出していたひかりの姿は全く見えなくなってしまった。

 立ち尽くすニパの背中に、直枝とユーリが声をかける。

 

「……行きましょう。ニパさん」

 

「作戦会議、始まるぞ」

 

「──んで──2人共なんで追いかけないんだよ……」

 

 ニパは背中を向けたまま、震えた声を絞り出す。

 

「……追いかけたところでどうにもなんねぇだろ」

 

「ッ──私達の仲間だろっ!?ひかりは菅野の相棒じゃなかったのかよ!?」

 

「落ち着いてください、ニパさん。──気持ちはよく分かりますが、今僕達がひかりさんを引き留めてしまえば、昨日の勝負に臨んだひかりさんの覚悟を、否定することになります」

 

「ッ……」

 

「今僕達がすべきは"グリゴーリ"を撃破することです。──戦いましょう。ひかりさんの分まで」

 

 ユーリの説得を受けて滲む涙を拭ったニパは、力強く頷く。

 そうして3人は、仲間たちの待つブリーフィングルームへ──対"グリゴーリ"攻略の大規模反攻作戦、"フレイアー作戦"の最終作戦会議に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──周知の通り、"グリゴーリ"は現在時速5キロで南西に移動している。目標はペテルブルグ──この502基地と見て間違いない。従来の、出現した敵に逐次応戦する策を捨て、こちらから敵に打って出る大反攻──それが"フレイアー作戦"である」

 

 北方軍が"グリゴーリ"内部の観測に成功した結果、巨大な渦状を巻いた瘴気の雲の内側に巨大な巣の本体があり、そこからネウロイが発生しているということが判明した。早い話が、巣の本体は動く生産工場というわけだ。

 

「我々の目的は巣の本体の破壊。その為の切り札が、コレだ──」

 

 作戦の説明を行うマンシュタインが部下に合図を送り、プロジェクターの画面が切り替わる。記録写真に代わって映し出されたのは、巨大な2つの砲塔だった。

 

「これが、超巨大列車砲──"グスタフ"と"ドーラ"だ」

 

 本作戦の為に開発された2つの列車砲は、カールスラント技術省の力を結集した史上最大の火砲だ。その口径は800ミリと、戦艦の主砲すら優に超えるスケールとなっている。

 

「まず、"グスタフ"が"グリゴーリ"に撃ち込むのは、この超爆風弾だ。これを使って巣を覆う雲を消滅させる。そうして剥き出しになった本体を破壊する役目は"ドーラ"が担う。"ドーラ"に装填されている対ネウロイ用()()()()()は、陸上ウィッチ延べ数百人分の魔法力を充填しており、これを本体のコアに叩き込むことで決着をつける!」

 

 スクリーンに映し出された魔導徹甲弾に、ユーリとラルが僅かながら反応を示した。それに気づいてか否か、マンシュタインは更に言葉を続ける。

 

「本体ならば我々が打てる手は以上だったが、幸運にもここに来て更なる助力を受けられる事となった。──そうだな、ラル少佐?」

 

「はい──」

 

 皆の視線を集めながら席を立ったラルは、その目をユーリに向ける。

 

「ここにいるユーリ・ザハロフ曹長の力があれば、"グリゴーリ"本体を攻撃する魔導徹甲弾の性能を、もう数段引き上げることが可能です」

 

「うむ。先んじて報告書を読ませてもらったが、皆にも改めて説明してくれるかね」

 

 ラルがマンシュタインに打診したのは、ユーリの〔炸裂〕を用いて魔導徹甲弾の威力をさらに向上させるという案だ。既に陸上ウィッチ達の魔法力に満ちている弾芯に追加でユーリの魔法力を混ぜ込み、着弾と同時に爆破させることで、より確実にコアを破壊する。

 

「──上空1100メートルに位置する"グリゴーリ"を撃ち抜くには、最低でも巣から10キロ圏内まで接近しなければならないが……見ての通り、そこは敵の攻撃範囲内でもある。502部隊諸君の任務は、列車砲が"グリゴーリ"を射程圏内に収めるまで護衛する事だ。そして雁淵中尉はコアの位置を特定せよ!」

 

 

「「了解!」」

 

 

「では、10分後に出発だ。各自出撃準備に取り掛かるように」

 

 会議が終わり、隊員達が格納庫へ向かう中、ラルはユーリに小さく耳打ちする。

 

「……ザハロフ。例の物の準備はできているか」

 

「はい。──しかし先程の話を聞くに、マンシュタイン元帥にこの事は……?」

 

「お前はあくまでも最後の切り札だ。使わずに済めばそれで良し。だがもし使うならタイミングが重要になる。私が指示するまで、お前も()()は使うな。いいな?」

 

「……了解」

 

 斯くして、手早く準備を終えた502部隊は各自ストライカーに脚を通し、これから死線を共にする獲物を握り締める。

 

「いいか、"グリゴーリ"を倒すまで帰れると思うなよ!──502統合戦闘航空団、出撃──ッ!!」

 

 

「「了解ッ!!」」

 

 

 陣頭指揮を執るラルに続き、他の面々も次々と基地を飛び立つ。孝美を最後にして、502部隊は"グリゴーリ"の元へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飛び続けること十数分──眼下に敷設された線路の上を重々しい音と共に往く2両の巨大な列車を確認した。あれこそが、この作戦の要である超巨大列車砲"グスタフ"と"ドーラ"の姿だ。

 

「──10時の方向、"グリゴーリ"を確認した」

 

「ネウロイの巣……実際に見るのは初めてだ。──ユーリさんはガリアの巣を見たことあるんだよね?」

 

「ええ。ですが……一度相対した程度で、慣れるものではないですね」

 

 距離こそ離れているが、視線の先で禍々しい存在感を放つ"グリゴーリ"から発せられる威圧感は、これまで戦ってきたネウロイ達の比ではない。かつてウォーロックと共に単身でガリアの巣と交戦した経験のあるユーリもまた、肌を刺すような嫌な感覚を覚えていた。

 

 

『──マンシュタインだ。私の呼びかけに応じこの地へ集ってくれた勇士諸君らへ、総指揮官として感謝の言葉を送りたいところだが……生憎、それ程の猶予は残されていない。その言葉は、見事"グリゴーリ"を討ち果たした末に、勝利の凱歌と共に送らせてもらおう。諸君らの奮戦に期待する!』

 

 

 作戦前の最後の言葉を無線越しに聞く兵士達へ、マンシュタインは高らかに宣言する──

 

 

『時間だ。──"フレイアー作戦"、開始──ッ!!』

 

 

 その一声を皮切りに、最前線に配備された対空火砲による先制攻撃が始まる。砲撃の大部分は"グリゴーリ"の瘴気の雲によって阻まれたが、着弾した数発に反応して巣の内部から夥しい数のネウロイ湧いて出てきた。

 空だけでなく陸からも侵攻してくるコアを持たない小型のネウロイ達へ戦車部隊も応戦を開始し、本格的に"フレイアー作戦"の火蓋が切って落とされた。

 

「"グスタフ"及び"ドーラ"、まもなく敵攻撃範囲内に到達します!」

 

「ザハロフ!お前はニパとジョゼと共に列車の守りに着け。落とすのは近づいて来る奴らだけでいい、後はシールドに集中しろ!」

 

「はいっ!」

 

「ニパ、ジョゼ!列車砲が発射準備に入れば、ザハロフは守りに参加できなくなる。その間はお前達が頼りだ。気合を入れろ!」

 

「了解っ!」

 

「頑張ります!」

 

「──列車砲、敵の攻撃範囲に到達!」

 

「来るぞ!何としても列車砲を守り抜け──ッ!」

 

 豪雨のように降り注ぐ光線を回避して周辺へ散っていった502部隊は、襲い来る敵を片っ端から撃破していく。

 

「どうしたクルピンスキー!5秒で1体がノルマだぞ──!」

 

「3秒あれば十分でしょ!隊長こそ、久しぶりの出撃でバテないでよ──!」

 

「誰に向かって言っている──ッ!」

 

 ラルとクルピンスキーの2人は、抜群のコンビネーションで次々ネウロイを落としていく。その動きには一切の淀みも迷いもない。カールスラントのエースの本気は、群がる中型ネウロイ程度歯牙にもかけない強さを誇っていた。

 

 実力では特に抜きん出ているこの2人だが、他の隊員達も負けてはいない。

 

「ウォ──リャアアアアアアアア───!」

 

 力強い気勢と共に敵中へ切り込んでいく直枝。その後ろには孝美が続いており、魔眼の力で直枝の死角から迫るネウロイのコアを捕捉。一撃で沈めていく。

 周辺のネウロイを手当たり次第に落としていた2人はいつしか背中を合わせ、灰色の空にいくつもの粒子の花を咲かせた。

 

 一方、列車の元に留まり防衛を担っていたニパ達は──

 

「ぐっ……!何だよこのビームの数!?」

 

「勢いも威力も桁違い……ッ!」

 

「お2人共しっかり!射程圏内まであと少しです!」

 

 ジリジリと巣に迫る列車砲を阻もうと、幾筋もの閃光が降り注ぐ。ニパ達はその全てをシールドで防ぎ続けていた。敵の大部分は前で戦う直枝達が捌いてくれているが、当然それを抜けてくる個体も存在する。ニパもジョゼも予想以上に激しい敵の攻撃に反撃の隙を見い出せずにいたが、それでもどうにか耐え続けていられるのは、やはり後ろの"ドーラ"の防衛を担当しながら迫るネウロイを撃ち落としているユーリの存在が大きいだろう。

 

 しかしそれでやっと凌げている状態だ。やがて列車砲が射程圏内に突入し、ユーリが魔導徹甲弾へ魔法力の充填を始めれば、後は2人だけでこの激しい攻撃を抑え込まねばならない。

 

「負け、るかァ……ッ!」

 

「私達がッ、頑張らなきゃ……ッ!」

 

 列車砲が射程に到達するまで、後1分──

 

 

『──超爆風弾、発射用意!』

 

 

 司令室となっている北方軍基地から、マンシュタインの指示が飛ぶ。それに呼応し、先頭を進んでいた"グスタフ"が砲塔を転回し、射撃準備に入る。

 

 

『ザハロフ曹長、魔導徹甲弾への魔法力充填を開始せよ!』

 

 

「了解!──ニパさん、ジョゼさん!」

 

「うん、聞いてた!こっちは私達で耐えてみせるから……!」

 

「ユーリさんも、自分の役目を……ッ!」

 

「……頼みます!」

 

 シモノフを背に回し"ドーラ"に降り立ったユーリは、冷たい徹甲弾の底面に手を当て、意識を集中させる。

 装填されている魔導徹甲弾は既に魔法力の充填が完了している為、ユーリ自身の消費魔法力は然程多くない。が、ユーリの〔炸裂〕が作用するのはあくまで()()()()()()()だ。普段と同じようなやり方では他人の魔法力にまで固有魔法を作用させることはできない。

 

「こっちに来んじゃねェ──ッ!」

 

「邪魔しないで──ッ!」

 

 "グスタフ"発射に伴い、直枝と孝美も列車防衛に合流し進路上のネウロイを迎撃する。

 

(焦るな、慎重に、冷静に……魔法力の流れを掴め……!)

 

 神経を研ぎ澄まし、弾芯の内部で荒れ狂う魔法力の流れを読む。

 100人分を超える膨大な魔法力を内包した弾芯は、魔法力制御に秀でたウィッチ数人掛りでようやく安定させたと聞いている。そこへユーリが無理やり魔法力を充填させてしまうと、その安定が崩れ弾芯が破損、若しくは魔法力が流出・拡散してしまう危険性がある。それを防ぐ為にも、中で渦巻く魔法力の流れに沿うように、慎重に魔法力を込めなくてはならない。

 一度流れを掴みさえすれば、後は弾芯内部を駆け巡る魔法力がユーリの魔法力を全体へ行き渡らせてくれるはずだ。

 

 

『"グスタフ"、発射準備完了──!』

 

『超爆風弾、発射ァ──!』

 

 

 赤色の砲身に魔法陣が展開され、凄まじい衝撃と共に超爆風弾が発射される。青白い軌跡を描いて一直線に飛翔していく爆風弾は前方にいたネウロイを容易く蹴散らし、"グリゴーリ"の周囲に渦巻く暗雲を跡形もなく消し飛ばした。

 

「アレが……巣の本体……」

 

「思った以上にデカいね……あんな大きな大砲を作るわけだ」

 

 サーシャとクルピンスキーも圧倒される存在感を放つ"グリゴーリ"の本体。纏わりつく威圧感を振り払うかのように、ロスマンがフリーガーハマーを数発発射する。瘴気の雲が消えたことで命中こそするようになったが、単体でもネウロイを屠れる威力を持つロケット弾を受けても尚、漆黒の装甲には傷ひとつ見られない。

 

「……やっぱり、通常兵器では歯が立たないみたいね」

 

 

『雁淵中尉、コアの特定を!』

 

 

「ッし、行くぞ孝美──!」

 

「ええッ──!」

 

 魔眼の効果範囲まで孝美を援護するべく、ラル達も後に続く。

 対する"グリゴーリ"は、円盤状に纏めていた触手状の砲門を展開。四方八方からの多角的な攻撃で行く手を阻む。降りかかる幾筋もの閃光を躱し、或いは防ぎながら"グリゴーリ"を魔眼で捉えた孝美は、装甲の下に潜むコアを補足にかかる。

 

「目標、重捕捉──!」

 

 意識を集中させ座標位置を絞っていく孝美を直枝がシールドで守り、それを更に仲間たちがフォローする。"グリゴーリ"の攻撃の矛先は孝美だけでなく背後の"ドーラ"にも向いており、そちらではニパとジョゼがシールドを張って必死に"ドーラ"とユーリを守っていた。

 

「目標、補正──最終補正──」

 

「もう、少しで……ッ!」

 

 孝美がコアの位置を特定するのと同時に、ユーリの方も魔導徹甲弾への魔法力充填が完了しようとしていた。

 

「完全補足!──グリッドH-2541、T-0429──!」

 

 

『"ドーラ"、発射用意──!』

 

 

「魔法力充填、完了。術式同期、開始──」

 

 弾芯に自らの魔法力を混入させたユーリは、続いて"ドーラ"の発射術式と〔炸裂〕の同期を開始する。少しでも同期がズレれば術式が正常に作動しなくなり、再発射まで致命的なロスが生じてしまう。細心の注意を払いながら術式を重ねるが……"ドーラ"の発射を許すまじと"グリゴーリ"は複数の砲門を束ねた強力な一撃を繰り出してきた──!

 

「ジョゼさん──ッ!」

 

「うん──ッ!」

 

 その攻撃に、ニパとジョゼは互いのシールドを重ね合わせての全力防御で対抗する。最初こそ拮抗していた両者だが、次第にニパ達の方が押され始める。

 

「ぐぅ……ッ!くそッ!くそォ……ッ!」

 

「突破、されちゃう……ッ!」

 

 諦めずにシールドを維持し続ける2人。その背後では"ドーラ"が術式の展開を始めており、発射まであと少しというところだった。最終的に"ドーラ"が破壊されようと、コアの位置を掴んでいる以上は魔導徹甲弾さえ発射できれば勝ちだ。

 

 撃つのが先か、討たれるのが先か──ニパとジョゼとのギリギリのせめぎ合いを制したのは、"グリゴーリ"だった。

 

 502の中でも防御に秀でた2人のシールドを突破し、深紅の閃光が"ドーラ"へ命中──するかに思えた瞬間、その閃光を阻む障壁が新たに展開された。

 

「ユーリさん……ッ!」

 

 寸での所で防御が間に合ったユーリだが、その片腕は未だに"ドーラ"へ触れている。術式の同期がまだ完了していないのだ。

 

(間に合うか……ッ!?)

 

 "ドーラ"を守る為のシールド維持に意識の何割かを割いてしまった所為で、あと少しで完了するはずだった術式の同期が一気にペースダウンしてしまう。

 

 

『"ドーラ"、術式展開完了!』

 

『ザハロフ曹長!そちらはどうだ!?』

 

 

「術式同期率、95%……!あと、少しで……ッ!」

 

 

『……10秒後に魔導徹甲弾を発射する!いいな!?』

 

 

「了、解……ッ!」

 

 しかし"ドーラ"を守りながらでは間違いなく間に合わない。歯噛みするユーリは、不意にシールドを維持していた方の手にかかる圧力が弱まったのを感じた。

 

「ユーリさんの10秒は、私達が稼ぎます──ッ!」

 

「早く──ッ!」

 

 再びシールドを展開して守りに加わったジョゼとニパ。守りを彼女達に任せ、ユーリは全神経を術式同期に回す。

 

 

『"ドーラ"発射まで10、9、8、7──』

 

 同期率、96%──

 

『6、5、4──』

 

 98%──

 

『3、2、1──!』

 

 

「ッ──!」

 

 

『魔導徹甲弾、発射ァ──!』

 

 

 砲身に展開された魔法陣を介して砲弾に術式が付与され、稲妻のような砲声と共に一撃必殺の魔導徹甲弾が発射された。

 同時に攻撃を防いでいたニパ達も離脱し、"ドーラ"の装甲にネウロイの光線が突き刺さる。

 大破した"ドーラ"を見下ろすユーリの表情は、悔しげに歪んでいた。

 

「ハァ、ハァ……っ……間に合わなかった……!」

 

 発射カウントが残り1秒に達した時点で99%まで完了していた術式同期だが、間に合わないと判断したユーリは〔炸裂〕の術式を破棄していた。今"グリゴーリ"に向かって射出された魔導徹甲弾には、"ドーラ"本来の術式しか付与されていない。

 何故諦めたのかと、ユーリを責めることはできないだろう。確かに諦めなければコンマ数秒ギリギリで完全同期に至れた可能性はあったが、失敗すれば魔導徹甲弾の発射そのものが止まっていたのだ。そのリスクを考えれば、ユーリの判断は適切だったと言える。

 

 最大火力を引き出すことは出来なかったが、それでも魔導徹甲弾に内包された魔法力は膨大だ。"ドーラ"の術式だけでも、当たれば"グリゴーリ"のコアを破壊できる。

 

 

『魔導徹甲弾、着弾まで推定5秒──4、3、2、1──』

 

 

 砲弾が"グリゴーリ"の装甲を貫き、巨大な漆黒の機影が一気に無数の金属片と変わる。その光景を間近で見ていた502部隊の面々は、揃って歓喜の声を上げた。

 

「やった…やったぞ孝美!」

 

「ええ!"グリゴーリ"撃破を確認、任務かんりょ──いえ、待ってくださいッ!」

 

 一転、切迫した孝美の声。彼女の視線の先で舞い散る金属片が凝集し、"グリゴーリ"がその姿を再構成していく。

 

 

『"グリゴーリ"健在ッ!機体が再生していきます!』

 

『どういうことだッ!?コアを破壊したんじゃないのか!?』

 

 

「嘘……ッ!?コアの中に、コアが……!」

 

「こいつも前の奴と同じタイプか……ッ!?」

 

 厄介な事に、前回の出撃で撃破した球体型ネウロイと同じく"グリゴーリ"もコアの中に真コアを隠し持っていた。いくら威力を高めた魔導徹甲弾でも真コアを捉えることができず、コアの外殻のみを破壊したということだろう。

 

 

『真のコアをピンポイントで撃ち抜かねば倒せないとは……"グスタフ"はどうなっている!?』

 

『まもなく発射準備、完了します!』

 

『よし。──雁淵中尉!その真コアは今も視えているのか!?』

 

 

「はい!グリッドH-66──え……ッ!?」

 

「どうした孝美!?」

 

「見えないっ……捕捉不能ッ!──真コアが視えませんッ!」

 

 魔眼を通してコアを捉える孝美の視界には、今の今まで補足できていた真コアが溶けるようにして姿を消す様が映っていた。いくら意識を集中すれども、視えるのは真コアを覆う外殻のみ。

 

 

『魔眼を用いても視えないとはどういうことだ……ッ!?』

 

 

「恐らく……真コアを覆う外殻が、私の魔眼を遮るシャッターになっていると推測されます」

 

 魔眼でコアの再生過程を見ていた孝美は、真コアを覆うコアの外殻が3つ重なっているのを目にしていた。恐らく再生する際、孝美の魔眼をシャットアウトできるようコアが変化したのだろう。

 残る魔導徹甲弾は、現在"グスタフ"に装填されている予備の1発のみ。外殻の中で動き回る真コアには、先程の位置情報が通用しない。

 

 

『グッ──"グリゴーリ"が進路を変更!先には──ッ……"グスタフ"がありますッ!』

 

『ぬぅ……こちらの狙いに気づいたか……ッ!』

 

 

 "グリゴーリ"に対抗しうる最高戦力である列車砲。その片割れである"ドーラ"は既に破壊されてしまっている。ここで"グスタフ"まで失うわけにはいかない。

 

「……やるしか……ない──ッ!」

 

 突如、孝美はエンジンを奮わせ、"グリゴーリ"に向かって急接近を開始する。

 

「孝美さん……!?」

 

「孝美ッ!?おい待て──!」

 

 ユーリと直枝がすぐさま後を追いかけるも、孝美を迎撃しようと放たれた流れ弾に足止めされて思うように近づけない。

 

「待て孝美!1人で早まるなッ!」

 

「隊長!これしか方法がないんですッ──!」

 

「馬鹿野郎……ッ!」

 

 単身"グリゴーリ"の前にたどり着いた孝美は、〔魔眼〕の真の力を解放する──!

 

 

「発動──〔絶対魔眼〕──ッ!」

 




次回、502編完結!?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。