501のウィザード   作:青雷

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信じてますから

 時は、"フレイアー作戦"前まで遡る──

 

 車に揺られてペテルブルグの駅に到着したひかりは、ここで落ち合うはずのスオムスからの迎え人の姿を探していた。

 

「スオムスの人ってことは、ニパさんみたいな制服着てるんだよね……?」

 

 辺りを見回すも、行き交う人々は皆男性の軍人や、その家族等が殆どで、スオムス特有の水色の制服は見つからない。……実の所、迎えに来るのが必ずしもニパと同じウィッチであるとは限らないのだが。

 

「もしかして、予定よりも早く着いちゃったのかな……?」

 

「お、いたいた──ヨウ!」

 

 首を傾げるひかりの背中へ不意にかけられた声。後ろを振り向くと、そこにはひかりの見知った顔があった。

 

「エイラさん!サーニャさん!迎えって、お2人のことだったんですね!」

 

「ま、話は後ダ。そろそろ列車が出る時間だし、ちょっと急ぐゾ」

 

 エイラ達に連れられ、改札を潜る。乗り込んだ列車は乗客も少なく、3人は他に誰もいない最後尾の車両に腰を下ろした。

 

「それで、どうしてお2人が……?」

 

「迎えに来て欲しいって連絡があったの。ニパさんとユーラから」

 

「特にニパの奴、ひかりの事すんげー心配してたゾー?」

 

「ニパさん達が……そっか」

 

 基地を発つ際、ギリギリまでひかりを見送ってくれたニパの顔を思い出し、口元を緩める。彼女だけでなく、どうやらユーリもひかりの身を案じてくれていたらしい。

 

「あっ……──?」

 

「どうした、サーニャ?」

 

 ふと、サーニャの魔導針が反応を示す。付近の空に何かを捉えたようだ。窓を開けて外を見てみると、青空に引かれた10本の軌跡が目に入った。

 

「502が出撃したのカ……」

 

「……あの中に、ユーラもいるのね」

 

 心配そうな目で空を見上げるサーニャ。膝の上に置かれた陶器の様な手に、小さく力が込もる。

 

「サーニャ──心配すんなヨ。アイツはちゃんと帰ってくる。ワタシらと約束しただロ?」

 

「うん……」

 

「……そういえば、ユーリさんって502に来る前はエイラさん達と同じ501にいたんですよね?」

 

「ん?ああ……そうだナ。──その辺、オマエはどれくらい知ってるんダ?」

 

「えっと……501部隊でガリア開放の為に戦った後、事故でペテルブルグに流れ着いた。って聞いてます」

 

 一部を除くひかり達502の面々がラルから聞かされているのは、あくまで表面上の出来事のみ。当然ウォーロックの事も、ユーリが本当はどこに所属していたのかも、彼女達は知らない。

 

「そうか──そんじゃ教えてやるよ。501でのユーリがどんなだったか」

 

「エイラ……?」

 

 いいの?という視線を向けるサーニャに、エイラもまた視線で、大丈夫だ。と伝える。彼女とてひかりに要らぬ事を話すつもりはない。あくまでユーリとの思い出を聞かせるだけだ。

 

「その代わり、502でのアイツの事も聞かせろよナ?」

 

「勿論です!楽しみだなぁ……!」

 

「面白い話には、美味しいお菓子(お供)が必要だよナ~……ほら、手ェ出せよ」

 

 言われるままに手を差し出したひかり。そこへ、エイラの手にある小さな箱から黒い菱形の欠片がポロポロと落ちてくる。

 

「エ、エイラ?それ、もしかして……」

 

「なんですか、コレ……?」

 

「ニパから貰ったことないのカ?スオムスの美味しい飴でな、サルミアッキっていうんダ」

 

「わぁ……!スオムスのお菓子ってこんな感じなんですね!」

 

「そんなに沢山……ひかりさん、止めておいた方が──」

 

「大丈夫ですよ!私、お菓子大好きですから!──いただきまーす!」

 

「ま、待ってひかりさん……っ!」

 

 サーニャの制止も空しく、ひかりは両手いっぱいに乗った十数粒ほどのサルミアッキを()()()()()()()

 

「どうだ、いけるダロ?」

 

「ムグムグ……ふい(はい)んんふ(おいし)……──」

 

 ふと、ひかりの言葉が止まる。目には涙が浮かび出し、心なしか顔も青くなって──

 

「──んっ、んんんん~~~~~~ッ!」

 

「お、おい大丈夫カッ!?」

 

「ひかりさんしっかり!」

 

 3人以外無人の車両内で、声にならない叫びが響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──んッ、んッ……っぷはぁ──はぁ~……」

 

「大丈夫……?」

 

「はい、何とか……まだ少し後味が残ってますけど」

 

 独特の風味に悶えながら、口の中のサルミアッキを水で半ば流し込むように飲み込んだひかりは、ややぐったりしている。

 

「オマエもダメか……美味いんだけどなァ。ユーリの奴も何てことない顔で食ってたんだゾ?」

 

「そ、そうなんですか……!?」

 

「あくまで2~3粒の話でしょ。さっきのひかりさんと同じ量は流石にユーラでも無理だと思うわ……」

 

 かつてサルミアッキを勧めた時、5粒程食べた辺りでそっと皿を下げたユーリ。嫌いな食べ物が無いといえど許容範囲には限度がある。サルミアッキは魚の肝油と比べれば幾分マシではあったものの、エイラやニパ達スオムス人のようにパクパクと摘める程適応できなかったようだ。

 もっとも、それしか食べ物が無いという状況になったならば、エイラ達の言うように何食わぬ顔で食べるのだろうが。

 

「……あの、さっきから気になってたんですけど。ユーラって……?」

 

「ユーリの愛称だよ。ほら、ニパの本名はニッカだし、アイツはワタシの事イッルって呼んでるダロ?あれと同じダ」

 

「愛称……仲の良い人同士で呼び合うあだ名ってことですよね?」

 

「そうよ。私のサーニャって名前も、本名を縮めた愛称なの」

 

「へぇ……!お互い愛称で呼び合うなんて、サーニャさんはユーリさんのこと、大好きなんですね!」

 

「えっ……!?」

 

 そう言って笑うひかりに食ってかかったのは、サーニャではなくエイラだった。

 

「ハァ~~~ッ!?何言ってんだよオマエ!?」

 

「え……違うんですか?」

 

「違うに決まってんダロ!あ、いや、違うというか……えと……!──ど、どうなんだサーニャ……ッ!?」

 

「ユーラの事は好きよ?」

 

「えぇッ!?サ、サーニャ……!?!?」

 

「──勿論、エイラの事も」

 

「えッ!?……っと、それは、つまり──さ、3人で、ってことカ……!?ま、まぁユーリの奴ならまだ……いやでもワタシはサーニャと……!けど、サーニャがああ言うんじゃ──あーもー!どうすればいいんだよォ~~~ッ!」

 

 小声でブツブツと呟いて頭を抱えるエイラを他所に、サーニャは言葉を続ける。

 

「それから、芳佳ちゃんにミーナ中佐、バルクホルン大尉、ハルトマン中尉──501部隊の皆が好き。皆大切な仲間で、家族だから」

 

 そう言って微笑んだサーニャに、ひかりも笑みを返す。

 

「仲間は家族……いい言葉ですね!──私も502の皆と、そうなれたら良かったな……」

 

 そんな言葉と共に、彼方の空を眺める。同時にサーニャの魔道針が再び反応し、作戦が開始したことを報せた。

 

「……やっぱり心配カ?」

 

「ちょっとだけ……本当は、私が心配するような人達じゃないんですけどね!皆さん、本当に強いですから」

 

「……思い出話はまた今度ダナ。ちょっと待ってロ──っと」

 

 席を立ったエイラは、棚の上の荷物を探る。不思議そうな目をするひかりにサーニャは、

 

「どんなに強くても関係ないわ。仲間だもの、心配するのは当然よ」

 

「そういう事ダ。──ジャジャーン!」

 

 得意げな顔をしたエイラが窓際に置いたのは軍用の無線機だった。ダイヤルを弄って周波数を合わせると、スピーカーから雑音混じりの通信が聞こえてくる。

 

「……今のところ、順調に戦えてるみたいダナ」

 

 今回の作戦でバックアップを担当するスオムス軍にも、事前に作戦の概要が周知されている。流石に巣が相手ということもあって連合軍側も被害ゼロとはいかないが、現状作戦通りに事を進められているようだ。

 

 暫く固唾を飲んで戦況に耳を傾けていると、突然スピーカーからノイズが溢れ出た。戦場で撃った超爆風弾の衝撃で電波障害が発生しているのだ。

 

「あーもう、いいトコだってのニ──!」

 

 文句を言いながら無線が復活するのを待つこと十数分──息を吹き返した無線から聞こえてきたのは、総指揮を務めるマンシュタインの切迫した声だった。

 

 

『雁淵中尉!真コアが視えないとはどういうことだ!?』

 

 

「真コア……って、何ダ?」

 

「何か起こってるのは、間違いないみたいだけど……」

 

 初めて聞く言葉に首を傾げるエイラとサーニャ。そんな中、唯一状況を理解できたひかりは、そうと分かるなり駆け出していた。

 

「お、おいひかり──ッ!?」

 

「お姉ちゃんを止めなきゃ──ッ!」

 

 目指すは客車の更に後ろ──貨物車両。そこにはひかりのユニットが──あるはずだった。

 

「えっ……!?」

 

 客車のドアを開けた先に待っていたのは、列車が走っていた線路と、雪で彩られた林道。そこに貨物車の姿は無かった。貨物車両は発車直前で客車と切り離され、別ルートでカウハバへ向かっていたのだ。

 

「……私、行きます!」

 

「ハァ!?行くって、どこヘ……!?」

 

「それに、ユニットも無いんじゃ……!」

 

「やってみなくちゃわかりません──ッ!」

 

 そう言うなり、ひかりは無謀にも走る列車から宙へ身を踊らせた。

 上手く受身を取れず雪の上に転がり落ちたひかりは、打ち付けた身体の痛みも無視して走り出す。閃光と硝煙が飛び交う戦場を目指して──。

 

「ひかりさん、大丈夫かしら……」

 

「ン~……多分大丈夫ダ。ホラ──」

 

 瞬く間に遠ざかるひかりの姿を心配そうに見つめるサーニャに、エイラは1枚のカードを示した。

 

 ──正位置を指す、"法王(ハイエロファント)"のカードを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は現在へ戻り──

 

「発動──〔絶対魔眼〕──ッ!」

 

 生まれ持った魔眼の力を解放した孝美の髪が、鮮やかな赤へと染まっていく。そして髪色と同じ赤い光を湛える双眸は、先程まで見えなかった"グリゴーリ"のコアをハッキリと捉えていた。

 

(コアはッ……真コアはどこ……ッ!?)

 

 焦燥感に駆られながら、赤く輝くコアの中に潜む真のコアを探す孝美。当然、"グリゴーリ"はそんな彼女を見逃してはくれない。複数の砲門による集中砲火が孝美に襲いかかる──!

 

 孝美の〔絶対魔眼〕は、通常よりも高い次元でのコア特定を行える代償として、身体への多大な負担と、シールド能力が著しく低下してしまう。絶え間なく襲い来る光線を必死に防ぐ孝美のシールドは早くも不安定になっていき……

 

(シールドがッ……保たない……ッ!!)

 

 降り注ぐ閃光にシールドが掻き消されそうになったその時──孝美とは別のシールドが展開され、彼女の身を守った。

 

「──なる程。やはりひかりさんのお姉さんですね」

 

「ユーリさん……!」

 

 孝美の前に降り立ったユーリに続き、直枝やニパ、502の面々が続々と集結する。

 

「ったく、やると思ったぜ。1人で先走りやがって」

 

「ロスマン先生から聞いたよ、〔絶対魔眼〕のこと!」

 

「だって、()()ひかりさんの姉でしょう?こういう状況になったら、絶対に無茶をすると思ってね」

 

「1人で行くなんて、水臭いです!」

 

「私達も一緒ですよ!」

 

 そう言って笑いかける皆に少々面食らう孝美に、ラルは、

 

「言っただろう?1人で早まるなと。何の為に我々がいると思っている──」

 

 孝美を守るように陣形を組んだ502部隊は、彼女に代わって、ネウロイの攻撃を受け止める盾となる。

 

「皆さん……ありがとう。──〔絶対魔眼〕──ッ!」

 

 防御を味方に任せ、再び覚醒魔法を発動させる。それを察知した"グリゴーリ"も再び攻撃を仕掛けてくるが、先程とは違い今の孝美には心強い仲間が傍にいる。一度仲間を守ると決めた彼女達の盾は、いくら強力な攻撃を受けようと決して揺らぐことはない。

 

「──目標、最終補正──完全……補足ッ──!」

 

 自らの弱点を特定されることを恐れた"グリゴーリ"は、孝美を守る盾を乗り越えるように上方から光線を放つ。しかし──

 

「もう……不意を突けると思うな──ッ!」

 

 それを見越していたかのように、彼女を守るシールドがもう1枚展開された。ユーリのシールドだ。

 ムルマンでのクルピンスキー、先日のひかりと、"グリゴーリ"から湧いてくるネウロイは総じてこちらの油断を突いてくる個体が多かった。であれば、生みの親である巣本体もまた同じような手を使ってくるだろうと警戒していたのだ。

 

 不意打ちも失敗に終わり、作戦本部へコアの座標が伝えられる。

 

「真コア……ッ……グリッドH-58954、T-87449……ッ!」

 

 

『了解。座標、入力します──!』

 

 

 無事に役目を果たした孝美は、今の報告を最後に力尽きたように落下していく。只でさえ負担の大きい〔絶対魔眼〕を連続で発動したことで、体力の限界が訪れたのだ。

 

「孝美さん──ッ!」

 

 落ちていく孝美をいち早く抱き留めたジョゼは、治癒魔法を発動させながらゆっくりと降下していく。

 

「孝美!大丈夫か!?」

 

 無事に地上へ降りた孝美とジョゼの元へ駆けつける直枝達。治療を受ける孝美に外傷は見られないが、覚醒魔法の連続使用による肉体へのダメージは決して小さくない。このまま治癒魔法を掛け続ければじき回復するだろうが、孝美にこれ以上の戦闘継続は不可能と見ていいだろう。

 

 皆が孝美の身を案じる一方、本部では孝美が身を呈して届けた座標位置へ、"グスタフ"を差し向けていた。

 

 

『"グスタフ"、グリッド入力──照準及び、術式展開完了!いつでも撃てます!』

 

『発射ァ──ッ!』

 

 

 マンシュタインの一声で、兄弟(ドーラ)の仇とばかりに"グスタフ"が吼えた。一際大きく空気を震わせ放たれた魔導徹甲弾は、特定された真コア目掛けて飛翔していく。これが命中すれば、今度こそ──!

 

 ──そんな希望を閉ざすように、"グリゴーリ"の機体から禍々しい瘴気が噴出。分厚い雲となって巣を覆い隠してしまう。

 

 

『本体ネウロイ周辺に、雲が復活していきます──ッ!』

 

『何だと……ッ!?』

 

 

 そのまま突っ込んでいく魔導徹甲弾は、突如として時が止まったかのように空中で静止した。ネウロイが吐き出す瘴気の雲が、ウィッチに於けるシールドのような役割を果たしているのだ。

 更に雲から発生した赤雷が弾丸を襲い、最後の望みを掛けて放たれた魔導徹甲弾はバラバラに破壊されてしまった。

 

「……魔導徹甲弾、破壊されました……」

 

「そりゃ無いよ……!」

 

 勝機を絶たれ途方に暮れる502部隊。そこへ、倒れた孝美の名を呼ぶ声が──

 

「お姉ちゃん───!」

 

 この場の全員が聴き馴染んだ、この声の正体は、

 

「ひかり……ッ!?」

 

「ウソ、戻ってきたの!?」

 

「お姉ちゃん──ッ!お姉ちゃん、しっかりして!死んじゃダメ──ッ!」

 

「落ち着いて、ひかりちゃん。孝美ちゃんなら大丈夫だよ」

 

 クルピンスキーが孝美に縋り付くひかりを宥めると、ひかりは目を丸くして、本当に?と言うように周りを見る。

 

「で、でもお姉ちゃん〔絶対魔眼〕を使って……」

 

「確かに〔絶対魔眼〕は身体に大きな負担をかけますが、使ったからといって死ぬようなものではありません」

 

「孝美さんの脈も体温も正常よ。心配ないわ」

 

 ユーリとジョゼの説明を受け、ひかりは胸をなで下ろす。どうやら孝美が初めて彼女の前で〔絶対魔眼〕を使った時のことを思い出し、誤解していたらしい。あの時は孝美のカバーを行うウィッチがいない状況での発動を強行した結果負傷してしまっただけで、今回のように味方のサポートを受けられる状態で発動するのが〔絶対魔眼〕本来の運用方法なのだ。

 

「皆さんが、お姉ちゃんを助けてくれたんですね……!ありがとうございます……ッ!」

 

「ん──ひかり……」

 

「お姉ちゃん!」

 

 目を覚ました孝美は、消耗を滲ませるか細い声でひかりに語りかける。

 

「ごめんね……倒せなかった……」

 

「そんな……!謝ることなんて!」

 

 実際、様々なアクシデントに見舞われながらも502はあの時点で打てる最善を尽くした。それでも尚倒しきれなかったのだ。

 

 行く手を邪魔するウィッチ達がいなくなったことで、"グリゴーリ"はオラーシャの空を我が物顔で進んでいく。更に行き掛けの駄賃のつもりか、残弾を失った"グスタフ"を完膚なきまでに破壊していった。

 

「このまま、ペテルブルグが落とされるのを黙って見てることしかできないのかよ……ッ!?」

 

「本当に、もう打つ手は無いんでしょうか……?」

 

 下原の言葉を聞いて、ユーリはラルを真っ直ぐ見つめる。

 

「隊長──」

 

「分かっている。だがこの状況を打開するにはピースが足りん……!」

 

 ここで一度、状況を整理しよう。

 孝美にコアの位置を見破られた以上、真コアはまた移動しているはずだ。例え"グリゴーリ"の強固な装甲を破壊出来るだけの武器があっても、巣を覆う瘴気の雲をどうにかしない限り近づくことができず、またコアの位置も特定できない。

 

 劣勢も劣勢なこの状況を打ち破るには……

 

「……真コアの位置が分からないんですよね?──私が見つけます!〔接触魔眼〕を使わせてください!私は諦めたくありません!」

 

「オレもだ!身体はピンピンしてるし、魔法力だって残ってる!最後の一滴を絞り尽くすまで、絶対に諦めたくねぇ──弾が無くても、この拳がある!オレがぶん殴ってやるッ!」

 

「無理だよ……!只でさえまともに近づけないのに」

 

 コアを探す〔魔眼〕と、それを破壊する弾丸()。必要な内2つのピースは集まった。しかしラルが思い描く逆転劇にはまだ足りない。敵の接近を阻む雲を突破する手段が……!

 

(あと1つなんだ──どこだ、どこにある……!?)

 

 脳裏で必死に思考を巡らせるラル。すると──

 

「ッ……?」

 

 ふと、背中に熱を感じた。かつてカールスラント撤退戦で負傷した、まさにその箇所──腰の古傷が、ラルをどこかへ導くかのように疼いているのだ。

 

 導きに従い、進んだ先で──パチン、と最後のピースが嵌る。

 少し小突けば即崩れ去るような、脆くも、その先に確かな勝利が待ち受ける逆転の道筋が完成した。

 

 

『──502の諸君。よく健闘してくれた。だが最早我々に反撃の術は残っていない……撤退だ』

 

 

 これ以上の作戦続行は不可能と判断したマンシュタインだったが、それに否を唱える者がいた。

 

「──待ってください元帥。我々に策があります」

 

 

『策だと……?』

 

 

 この絶望的な状況に活路を見出したラルは、不敵な笑みを浮かべ言い放つ。

 

 

「菅野、望みを叶えさせてやる──()()()()()……ッ!」

 

 

「……!──っへへ、盛り上がってきたぜェ──!」

 

 直枝が意気込む一方、周囲は戸惑いの表情を浮かべている。一体どうやってこの少ない戦力で"グリゴーリ"を倒すというのか。

 

「──待たせたなザハロフ。お前の虎の子の出番だ」

 

「……使わずに済めばいいと言っていた割には、嬉しそうですね?」

 

 ユーリが腰のホルダーから抜き出したのは、1発の徹甲弾──否、これこそラルの要請でこの日の為に作っていたユーリお手製の魔導徹甲弾だ。

 

「最初はコイツを直接巣にぶち込んでやろうと思っていたが、今の状況ではそうもいかん。──そこで、だ。魔導徹甲弾(コイツ)を菅野の手に移植する」

 

「弾丸を手に……?」

 

「正確には、この魔導徹甲弾に込めてある魔法力を菅野さんの手袋に移します」

 

「なる程な──って、ああっ!?しまった……!」

 

 困ったように顔を覆う直枝の手は何にも覆われていない素手──いつも着けていたはずの手袋が、忽然と姿を消していた。実は、ひかりが基地を出発する直前に餞別として手袋を渡してしまっていたのだ。

 

「──菅野さん、はいコレ!ずっとポケットに入れといて良かったです」

 

 幸運にも手袋を持ってきていたひかりのお陰で、必要なものは全て揃った。

 

「では、いきますよ──」

 

 ユーリの手で、魔導徹甲弾に充填されていた魔法力が全て直枝の手袋へ転移される。焦げ茶色だった手袋は今や魔法力の眩い輝きに満ち溢れ、渦巻く力の解放を今か今かと待っているようだった。

 

「おお……!すげぇなコレ。おめぇこんなもん作ってたのかよ」

 

「今、菅野さんの右手には僕の全魔法力に等しい力が宿ってます。文字通り、魔拳といったところですかね」

 

「へっ、おもしれぇ。早くぶん殴りたくてウズウズしてきたぜ!」

 

 一方、ラル達も逆転の為の準備に取り掛かっていた。

 ラルの獲物に装着された42LP投擲銃に括りつけられている紫色の結晶──古傷が導いた最後のピース、超爆風弾の弾芯の破片だ。こうもバラバラにされてしまっては流石に雲を全て吹き飛ばす程の威力は期待できないが、炸薬弾と合わせれば突入ルートを開く程度の効果は望めるだろう。

 

「作戦は簡単だ。私がコイツで雲に穴を開け、ひかりと菅野が内部へ突入。他の者は2人を援護しつつ、ひかりが魔眼でコアを特定し、菅野が殴る。──孝美の話では、一度再生した"グリゴーリ"の真コアは3つに重なった外殻で守られているらしい。気合を入れて殴れよ。何せチャンスは1度きりだ」

 

「1回で十分だ!──そうだろひかり!」

 

「えっ……?」

 

「なぁにアホ面してんだ。孝美が戦えねぇ今、オレの相棒はおめぇだろ。大体、おめぇの〔接触魔眼〕が無きゃ、真コアを殴りようがねぇしな」

 

「──はいッ!」

 

 コツンと拳を突き合わせたひかりは、最後に孝美と言葉を交わす。

 

「……失敗は許されないわ。ひかりに出来る?」

 

「出来るとは言い切れない。でも、やってみなくちゃ分かんないし──やらなきゃ、出来る事も出来ないから!」

 

「……うん、そうね!ひかり、チドリを使って。──いってらっしゃい」

 

「うん!いってきます!」

 

 孝美から翼を譲り受けたひかりは、今一度空を翔る──今度は姉の代わりではなく、雁淵ひかりとして。502部隊の一員として、役目を果たす為に。

 

「さぁ、奴をぶっ飛ばしに行くぞ──ッ!」

 

 

「「了解──ッ!」」

 

 

 戦えない孝美と、その治療の為に残ったジョゼを除く総力を以て一転攻勢に出た502部隊。

 

「──以前の戦い。確かに先にコアを見つけたのは孝美だったが、よりピンポイントにコアの位置を示していたのはひかりだった。たった一度のチャンス、私はひかりに全てのチップを賭けよう!──他に、この馬鹿な賭けに乗るバカはいるか?」

 

「ハハッ、いーんじゃない?その賭け、ボクも乗ったよ!」

 

 クルピンスキーだけではない。この場にいる全員が、馬鹿しか乗らないギャンブルにオールインを表明した。

 

「──ひかりさん。あなたは決して優秀な教え子ではなかった。でも努力は誰よりもしてきたわ。──費やした努力の価値がどれ程のものか、この戦いで証明してみせなさい!」

 

「ロスマン先生……──はいッ!」

 

「"グリゴーリ"との距離、12000!」

 

「このまま進行を続ければ、15分後にはペテルブルグが飲み込まれます!」

 

「5分でカタをつける!行くぞ──!」

 

 遂に巣の攻撃範囲に到達した一同。黒雲から放たれる牽制代わりの雷撃の合間を縫って、ラルがMP43を構えた。

 狙う先は、サーシャが固有魔法を駆使して突き止めた、雲の層が薄い箇所──

 

「そこだ──!」

 

 42LP投擲銃の引き金が絞られ、炸薬弾が雲の中で弾ける。爆発に反応した超爆風弾の破片が、僅かに残っていた力を振り絞り、勝利への活路を開いた。

 

「今よ──ッ!」

 

「突入します!──フォーメーション・アロー!」

 

 サーシャの指示で一直線に陣形を組んだ突入メンバーは、一気に雲の中を駆け抜ける。冷たい雲のトンネルを抜けた先では、"グリゴーリ"が鎌首をもたげて一同を待ち受けていた。触手状に解けた大量の砲台が、その先端に深紅の光を灯す。

 

散開(ブレイク)──ッ!」

 

 降り注ぐ光線を躱し、応戦しながら散り散りになった陣形を組み直す。

 

「いい!?菅野さん達が本体にたどり着くまで、何としても耐えるのよ──ッ!」

 

「ユニットが悲鳴あげそう……ッ!」

 

「壊しても怒んない──ッ!?」

 

「ちゃんと2人を送り届けられたらね!──下原さん、道は見つかった!?」

 

「はい!──左上、敵の攻撃が薄くなってます!あそこなら──!」

 

「ユーリさん──!」

 

「了解──ッ!」

 

 下原が見つけたポイントの砲台達目掛けて、ユーリが立て続けに引き金を絞る。1発1発が〔炸裂〕による強大な威力を備えた徹甲弾は、硬い装甲をものともせずに周辺の砲台を撃ち抜いていった。

 

「今ッ!」

 

「行くよ──ッ!〔マジックブースト〕──!!」

 

 ユーリが作った突破口へ、クルピンスキーが先導して切り込んでいく。懐へ飛び込んできたウィッチーズをこれ以上進ませまいと、"グリゴーリ"はすぐさま手近な砲門を集め一斉攻撃を図るが──

 

「邪魔を──ッ!!」

「するなァァァ──ッ!!」

 

 前に進み出たニパとクルピンスキーがそれを許さない。至近距離からばら蒔かれた銃弾の雨は周囲に群がる砲台を一掃し、その隙に本命であるひかりと直枝を前に送り出す──!

 

「あとちょっと──ッ!」

 

「いけええええええ──ッ!」

 

 蛇のような動きで襲い来る砲台達を躱し、躱し、躱し続け、2人はひたすら突き進む。攻撃を防ぐことなど一切頭にない。行く手を阻む障害は、信頼できる仲間が排除してくれる──!

 

「道を──開けろッ!」

 

 上空に身を置いたユーリは、ひかり達の進路上に顔を出す砲台達の頭を悉く破壊していく。いくらやってもひかり達の進行を止められないことに痺れを切らした"グリゴーリ"は、邪魔をするユーリの方にも妨害の手を差し向ける。回避や迎撃を余儀なくされたことで、ユーリの狙撃支援の手が止まる──だが、これでいい。

 

「これで最後──ッ!」

 

 隙を突いて放たれたユーリの弾丸が、コアのある中心部を遮っていた砲台をまとめて吹き飛ばす。これで道は完全に開かれた。ユーリの方にも手を回した分、ひかり達への攻撃が弱まったことも手伝い、2人はぐんぐん突き進んでいき──

 

「やぁああああああああ──!」

 

 目一杯伸ばしたひかりの手が、遂に"グリゴーリ"を捉えた。その瞬間、ひかりの〔接触魔眼〕によって真コアの在り処が示される。

 

「見つけたッ!あっちです──!」

 

 巨大な"グリゴーリ"の機体を這うようにして、コアを目指す2人。拳以外の武器を持っていない直枝の代わりに先行するひかりが、行く手を阻もうと最後の足掻きを見せる"グリゴーリ"の魔の手を撃ち払う。

 

「ったく、やりやがるぜ!──まさかコイツの後ろ(ケツ)に着く日が来るとはな──!」

 

 息の合った動きで最後の妨害をくぐり抜けた先で、ひかりは持っていた九九式を振りかぶり、

 

 

()()だァァァ───ッ!!!」

 

 

 魔眼が導いた真コアの真上に、銃口を力いっぱい突き立てた!

 間髪入れず、直枝もまた己が最も信頼する()を振りかぶる──!

 

 

うぉおおおおおお──ッ! 魔剣(ツルギ)ィ──いっせええええええええええええんッ!!!!

 

 

 突き立てられた九九式ごと、直枝の魔拳が"グリゴーリ"に牙を立てる。ひび割れた漆黒の装甲が砕け、内部のコアを覆う外殻をも破壊する。しかし直枝は力を込めるのを止めない──!

 

 

ウオオオオオオォォォ──ッ!!! ブ ェエエエエエエ───ッ!!!!!

 

 

 力の限り咆哮する直枝の拳が、2層目の外殻を打ち砕いた。2層目破壊の衝撃が伝わり、既に3層目にも深々と亀裂が入っている。これを壊せば、真コアが──!

 

「菅野さん、もう一発──!」

 

「……クッソ……も、鼻血も出やしね──」

 

「菅野さん──ッ!」

 

 予想以上に硬かったコアの外殻を2枚割るのに魔法力を使い果たしてしまった直枝は、悔しげに顔を歪めながら落ちていく。寸での所でその手を掴んだひかり。バランスを崩した拍子に、ポケットからあるものがこぼれ落ちてきた。

 出てきたのは、クルピンスキーに貰ったリベレーター──中には、クルピンスキーの想いが込められた弾丸が1発だけ入っている。

 

「ッ──!」

 

 迷わずリベレーターを掴み取り、真っ直ぐコアに向けて構える。この時ひかりの脳裏では、ロスマンとの訓練の日々が走馬灯のように駆け抜けていた。

 彼女が教わった、魔法力に乏しい自分の戦い方──全身に散らばる魔法力を1点に集中させ──

 

 

「──撃つッ!」

 

 

 引き金を引くと、小さな反動を残して弾丸が撃ち出される。直枝のそれに比べれば可愛いすぎる一撃は、ひび割れていた最後の外殻を粉々に撃ち砕いた。

 

 しかし──

 

「1発ッ……足りない……ッ!」

 

 コアを覆っていた外殻は全て破壊し、剥き出しになった真コアはもう目の前。勝利は目前だというのに、ひかりにはもう武器がない。九九式は壊れ、リベレーターも残弾ゼロ。直枝のようにコアを殴るという真似もできない。

 

「負けられない──絶対、勝たなきゃダメなのに……ッ!」

 

 もう少し自分に力があれば、真コアまで攻撃が届いたかもしれない──そんな後悔を滲ませながら、ひかりは直枝共々真っ逆さまに落ちていく。ニパとクルピンスキーに抱きとめられた2人は、どうにか巣の端まで退避する。

 

「……ねぇ、何か方法は無いの?」

 

「少しずつですが、コアの外殻の再生が始まっています。ここを逃したら……!」

 

「わかってる……けど近づこうにも、こちらの弾薬が保たないわ。菅野さんももう戦えない、この状況じゃ……」

 

「失敗、ってこと……!?ここまで来たのに……!」

 

「ごめんなさいッ……私が、もっと強ければ……ッ!」

 

 絶望に打ち拉がれるウィッチ達。そんな中、静かな──しかしハッキリとした声が聞こえた。

 

「──下原さん、再生してるコアの外殻はまだ1枚だけですか?」

 

「えっ……?は、はい。菅野さんの右手に宿ってた魔法力のお陰で、再生速度はかなり遅くなっているようです」

 

「分かりました。──僕がやります」

 

「ユーリさん……!?」

 

「こんな事もあろうかと、魔導徹甲弾は()()1()()だけ用意があります。菅野さんが戦えない以上、撃てるのは僕だけですが」

 

 思わぬ吉報に、消えかけていた希望が再び見え始める。

 

「じゃあ、皆でユーリさんをサポートすれば……!」

 

「──いえ、皆さんは先に巣を脱出してください」

 

 思わぬユーリの返答に、全員が耳を疑った。

 

「……ユーリ君、まさか本気じゃないよね?」

 

「冗談を言ったつもりはありません」

 

「何言ってんだよユーリさん……!?ここに1人で残るなんて!」

 

 当然ながら納得しない仲間達へ、ユーリは手短に事情を話し始める。

 

「お恥ずかしい話ですが、僕も魔導徹甲弾を撃つのは初めてでして。爆発させた場合、実際にどれほどの威力になるのかは未知数──僕の近くにいたら巻き込まれる危険性があります」

 

「だけど……っ」

 

「弾を1発撃つだけですから、余計な時間もかかりません──皆さんが素早く脱出して下されば、の話ですが」

 

 いくら説得しようと、ユーリは頑として譲らない。実際問題、"グリゴーリ"を倒し得るのはユーリの魔導徹甲弾だけであり、彼の言い分も理に適っている。

 

「……ユーリさん。1つだけ、正直に答えてください」

 

 ユーリの目を真っ直ぐ見据えるサーシャは、戦闘隊長として何よりも優先しなくてはならない事が1つだけある。

 

「……あなた自身は、ちゃんと生きて帰って来ると約束できますか?」

 

 部隊をまとめる隊長の1人として、部下をみすみす死なせるわけにはいかなかった。

 

「……はい。皆さんが、僕は死なないと信じてくれるなら」

 

 真っ直ぐサーシャの目を見返して答えたユーリ。サーシャは逡巡した末に、戦闘隊長として命令を出す。

 

「──これより巣を脱出します!ニパさんは菅野さんを支えてください!」

 

「で、でも……!」

 

「これは命令です、カタヤイネン曹長!」

 

 こう言われてしまっては、ニパとしても逆らえない。まだ納得しきれないながらも、戦闘不能の直枝を抱えて雲の出口へ向かう。他の皆もそれに続き、ユーリ以外の6人は巣から脱出を始めた。

 

「もし死んだら、さすがのボクも怒るからね──!」

 

「どうかご無事で、ご武運を──!」

 

「ユーリさん。絶対、絶対死なないでくださいね──!」

 

 皆口々に激励の言葉を残し、雲の穴へ向かう。巣にユーリ1人が残った所で、シモノフを構え、射撃体勢に入る。

 

「悪いが、実験台になってもらうぞ。"グリゴーリ"──」

 

 ユーリの身体を魔法力の光が包み込み、特徴的な長い銃身に沿っていくつもの魔法陣が多重展開される。その様は、超巨大列車砲のそれと同じ──いや、魔法陣の数で言えばユーリの方が上か。

 

「圧縮術式、展開完了──」

 

 サイトの先で煌々と輝く"グリゴーリ"のコアは、既に外殻が1つ完全再生しており、再び複数の外殻でコアを覆おうとしているようだ。その邪魔をしようという意思を感じ取ったのか、"グリゴーリ"はユーリに集中砲火を仕掛ける──!

 

「流石に、大人しく撃たれてはくれないか……ッ!」

 

 幾筋もの光線をシールドで防ぎ続ける。次第にシールドがひび割れていく中。インカムに通信が入った。

 

 

『ユーリさん!本当に大丈夫なんだよね!?──信じていいんだよねッ!?』

 

 

 耳元で響くニパの声に、ユーリは小さく笑って声を返す。

 

 

「大丈夫ですよ。ニパさんを──502の皆さんを、()()()()()()()

 

 この言葉を最後に通信は途絶。ノイズだけが鳴り響く。どうやら彼女達は無事に巣を抜けたようだ。

 遂に集中砲火に耐え切れず、シールドが突破される寸前──ユーリはユニットのエンジンを全開にし、急降下する。追従してくる光線をくぐり抜け、"グリゴーリ"の真下に到達すると、真上にいる"グリゴーリ"に術式を展開した銃口を突きつけた。同時に、"グリゴーリ"の砲台達もユーリの周囲を取り囲み、全方位至る所で深紅の光が灯り始める。

 

「───!」

 

 互いに銃口を向けた一触即発の数瞬──シモノフの銃身に展開されていた多数の魔法陣を一気にチャンバー内の弾に集約し、ボルトの隙間から輝きが漏れ出す程の魔法力が一瞬で徹甲弾に圧縮充填される──それはまるで、スナイパーライフルのボルトを引き、初弾を装填する動作にも見えた。

 

 この激しい戦いの幕引きの瞬間は、とても静かだった。

 ユーリが引き金を絞った刹那──空気を割るようなシモノフの咆哮と共に、ネウロイのコアにも引けを取らない眩い輝きを湛えた徹甲弾が放たれる。文字通りユーリの()()()()を乗せ、美しい軌跡を描いて駆け上がる閃光の槍は、"グリゴーリ"の機体に大穴を穿ち、無数の亀裂を残しながら、羽撃きを止めることなく飛翔していく。

 

 やがて、"グリゴーリ"の機体の天辺から一筋の光が飛び出したかと思えば──次の瞬間、ペテルブルグを戦火に陥れんとしていた巨大な悪魔の中で、巨大な力が一気に爆ぜる──!

 

 本来の力を発揮したユーリの覚醒魔法〔爆裂〕は、漆黒の悪魔を滅ぼすだけに止まらず、辺りを渦巻いていた暗雲を跡形もなく消し去り、更に巣の上に渦巻いていた雲すらもかき消して、大きな()()()を空けてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 "グリゴーリ"の美しい残骸が舞い散る中、巣の外で待機していた502部隊のウィッチ達は、破片の中から必死に仲間の姿を探す。

 

「……!いました──ッ!」

 

 1番最初に見つけたのは、遠距離視の力を持つ下原だった。彼女の視線の先には、力なく宙を落ちていくユーリの姿が──このままでは、ユーリは地面に真っ逆さまだ。見たところ意識も失っており、ユニットも外れている。シールドによる衝撃吸収は期待できない。

 

 飛べる者は一斉にユニットを奮わせ、少しでも早く届けと願うように、手を伸ばす。

 

「届──けェェェ───ッ!」

 

 そう叫んだのは、果たして誰だったか。

 ともかく、そんな声に背を押されるようにしてユーリの手を掴んだ。

 

「ハァ……ハァ……間に合った──生きてるよね、ユーリさん!?」

 

 自らの名を呼ぶ声で目を開けたユーリは、視界に映った顔を見て小さく笑みを零す。

 

「……ええ、生きてます。信じてましたから。必ず助けてくれると──ニパさん」

 

 最初にユーリの手を取ったウィッチ──ニパは、酷く安心した顔に涙を浮かべる。そこへ、他の仲間達も続々と手を重ね、ユーリの体を支えるのに力を貸す。

 

「バカ……ッ!もし助からなかったらどうするつもりだったのッ!」

 

 厳しい叱責を飛ばすロスマンに、ユーリはか細い声で応える。

 

「……"何があっても仲間を助け、どのような敵を前にしても一歩も退かず、必ず生還する"──502統合戦闘航空団(ブレイブウィッチーズ)とは、そういう部隊でしょう?」

 

 どんなに絶望的な状況であろうと、仲間(ユーリ)の生存を信じて最後まで助けようとしてくれるはず──そんな彼女達を、ユーリもまた信じていたのだ。自分を信じてくれる仲間達のことを。

 

「全く……信じてくれるのは有難いが、気が気でなかったこちらの身にもなれ。……だがよくやった。それでこそ私の部下だ」

 

「……ありがとう、ございま──す……」

 

 その言葉を最後に、ユーリは完全に意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 1945年 3月──オラーシャ地方に出現したネウロイの巣"グリゴーリ"の完全消滅が確認された。

 

 雁淵ひかり軍曹は第502統合戦闘航空団へ正式に配属が決定。雁淵孝美中尉は、扶桑へ一時帰国する運びとなった。

 

 同時に──この戦いによって、502部隊に義勇兵として加わっていた世界初の航空ウィザード、ユーリ・R・ザハロフ曹長の存在が、全世界に知れ渡ることとなったのだった。

 




今回で502編は終わりと言いましたね。
アレは嘘……とかでは別にないんですが、もうちょっとだけ続きます。
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