"フレイアー作戦"完了から3日後──事後処理として白海周辺のネウロイの掃討作戦を終え、束の間の安息を享受していた502部隊の元へ、とある来客があった。
ブリーフィングルームに集められた502の面々の前には、メガネをかけた金髪の少女の姿が。
「──お初にお目にかかります。カールスラント技術省所属、ウルスラ・ハルトマン中尉です」
「技術省……?」
聞き慣れない名前に首を傾げるひかりに、ニパが小声で説明する。
「ほら、"フレイアー作戦"の時に使った列車砲あったでしょ?アレ作った人達だよ」
「ああ、あのおっきい大砲!」
「へぇ。初めましてだけど、ホントに
「止めなさい。彼女は列車砲の実戦データを受け取るついでにここに来ただけよ。──早速、本題に入ってもらえるかしら?」
「はい──」
ウルスラは抱えていたバインダーを開き、中に入っている書類を読み上げる。
「本日は、現在ムルマン基地にて静養中のユーリ・ザハロフ曹長の診断結果をお届けに参りました」
「ユーリさんに、何かあったの……?」
隊員達の声を代弁したロスマンに、ウルスラは資料を読み上げることで答える。
「──覚醒魔法〔爆裂〕の使用によって魔法力を全て使い果たしたザハロフ曹長ですが、入院してから今日までの僅か3日で魔法力の約8割程が回復しているそうです。」
「ンだよ、辛気くせぇ顔してるから何かと思ったら、普通に吉報じゃねぇか」
ユーリの魔法力は並の航空ウィッチを凌ぐ。それを全て使い果たしたとなれば、8割回復するのにも相応の時間がかかるはずだ。瀕死のユーリがペテルブルグに流れ着き、満足に動けるようになるまで1週間かかった事を考えれば、丸3日と言うのは驚異的な回復速度だと言える。
「──医師の見解では、その
「……続けて」
「魔法力に関しては未だ未解明な部分が多いですが、本来魔法力を使い切ってからの回復はゆっくりと時間をかけて行われます。その理由に、回復に際して人体にかかる負担を抑えるよう、無意識下で回復速度を調節しているのではないかという説があるそうです」
つまり、先の戦いで身に宿る膨大な魔法力を一瞬で使い果たし、そこから驚異的なスピードで回復を果たしたユーリの体には、目には見えない大きな負荷が──それも一瞬の大量消費と短期間での大量回復を合わせた2倍──かかっているはずだ。というのが、検査を担当した医師達の見解だった。
精密検査の結果、ユーリの身体が〔爆裂〕の負荷に耐えられるのは、推定7回──今回の戦いで1度発動した為、後6回〔爆裂〕を使用した場合……死に至る可能性も十分考えられるとのことだった。
「──中尉、ひとつ聞かせてくれ」
「何でしょう?」
ここまでジっと腕を組んで話を聞いていたラルがおもむろに手を挙げる。
「その話──既に上層部にも知られているのか?」
ラルの質問の意図を汲み取れず、隊員達は怪訝な表情を浮かべる。一方、質問を受けたウルスラは、極めて落ち着いた声音で答えた。
「それについてもう1つ──アドルフィーネ・ガランド少将より伝言を預かっています」
ウルスラの口から出てきた名前に、502の面々がざわめき立つ──唯一ひかりだけ、そのざわめきの中から外れているようだが。
「マジかよ……ガランド少将つったら、オレだって知ってる大物だぞ」
「あの、ガランド少将って……?」
「ひかり知らないの……!?少将はね──」
アドルフィーネ・ガランド──カールスラント空軍所属の元ウィッチであり、現在は連合軍最高司令部にて世界各地で戦うウィッチ隊の総監を務めている。所謂
「──じゃあ、世界中のウィッチの中で1番偉い人……ってことですか?」
「そう。……でも、そんな人が伝言ってなんだろ」
「聞かせてくれ、中尉」
では。と、ウルスラは小さく咳払いをしてから、ガランドからの伝言を伝える。曰く──
「ザハロフ曹長の覚醒魔法については、私から上層部へ伝えてある。"次にアレを使ったら彼の命の保証はない"と。そういうことだから、安心するように。──以上が、少将から頼まれた伝言です」
「……って、ちょっと待て。おめぇさっき後6回って言ってたじゃねぇか!適当なこと言ってんじゃねぇぞ!」
「菅野さん落ち着いて。ウルスラ中尉、それはつまり──?」
サーシャの問いかけに、ウルスラは小さく頷いた。
「はい。ガランド少将は、ユーリさんの置かれた状況を大いに脚色して報告されたようです」
「そうか……向こうで少将に会ったら、感謝していたと伝えてくれ」
「了解しました。──では、私はこれで失礼致します」
メッセンジャーとしての役目を終え、ムルマンへ戻っていったウルスラを見送ったラルは、隊長室のソファに深くもたれ掛かる。向かい側に同席しているロスマンが静かに口を開いた。
「隊長、先程の話ですが……」
「上層部の事か──ザハロフに、後が無いギリギリの状況になるまで魔導徹甲弾の使用を許可しなかったのは、奴の覚醒魔法を本当に最後の切り札だと周囲に印象付ける為だった」
501のガリア解放に続く2度目の巣の攻略──そんな一大作戦でユーリが活躍すれば、まず間違いなくその存在は世界中に知れ渡る。"グリゴーリ"を一撃で消し去ってみせたユーリの覚醒魔法の事を知れば、上層部はユーリを世界各地のネウロイの巣の攻略に駆り出すはずだ。
それでも、ラルが本人から話を聞かされた時点では「覚醒魔法の発動は弾丸の生成に長い時間を要する」という明確な難点があった。仮にユーリが予てより生成しておいた魔導徹甲弾で決着がついたとしても、それを口実にユーリだけが各地の巣をたらい回しにされる事態を防ぐ算段はあったのだ。
……だが、ユーリは文字通り自らの身を削り真の〔爆裂〕を使ってしまった。それに加えて先程ウルスラから聞かされた報告だ。これにより、ラルの計画の土台が揺らぎを見せることになる。
「……隊長は、上層部がユーリさんを兵器同然に使い潰すのではないか、と?」
「確証もなければ根拠もない、所詮私の妄想だがな──悲しいことに可能性がゼロとも言い切れん」
余計な時間を掛けずとも、魔法力さえ回復していれば発動できてしまう本来の〔爆裂〕は、世界各国──特にカールスラントやオラーシャ、オストマルクを始めとした、ネウロイに国土を奪われた者達にとって、祖国奪還の為の強力な武器になる。当然彼らとて無理強いはしないだろうが、頼みさえすればユーリはそれを受け入れてしまうだろう。
現状確認できている巣の数は10を超えるが、ユーリの命を全て使い潰す前提なら6つ、ギリギリで踏み止まるとしても5つの巣を攻略できる。立て続けに複数の巣を破壊できればネウロイ側に大きな痛手を負わせることになり、結果的に世界からネウロイを殲滅する為の大きな足がかりになるはずだ。
「だがガランド少将のお陰で、一先ずその未来は回避できたと見ていいだろう。彼女の言葉であれば、上層部も軽視はできんだろうからな」
「……ですが気掛かりな事もあります。いくらウィッチ隊総監といえど、行動が早過ぎませんか?まるで、誰かに予め頼まれていたかのような……」
「そうだな……大方、過保護な保護者が口を出してきたんだろう。例えば、赤髪の
「……はい?」
突然表情を凍りつかせたラルに小首を傾げたロスマン。次の瞬間、ラルは悔しげに呻きながら両手で顔を覆った。
「エディータ……訂正する。やはり最悪の未来は避けられなかったようだ」
「……ああ──フフッ、こちらも"グリゴーリ"攻略でそれどころじゃなかったとはいえ、見事に出し抜かれましたね、隊長?」
「覚えておけ──ミーナ……!」
同刻、ムルマン基地──病室のベッドで体を起こすユーリの前では、首に単眼鏡を下げた妙齢の女性が椅子に腰掛けていた。
「──とまぁ、そういうわけだ。いい上官を持ったな、ザハロフ曹長」
「……なんというか、思った以上に色んな方々の手を煩わせてしまったようですね」
「そりゃあそうさ。君は世界にとって、突然現れた大きな希望なんだ。……今の話を聞いて尚、人類の未来の為にその力を貸してくれるかい?」
「……はい。僕に出来ることがあるのなら、全力を尽くします」
「そう言ってくれて嬉しいよ。──私としては、是非君には最後まで戦い抜いて、その先の未来を見て欲しいと切に思うがね」
「未来、ですか?」
「ああ。君が戦う理由はあくまで仲間の為であって、祖国や世界の為ではない。そうなった理由は、世界の美しさをまだ知らないからだ。だから知って欲しい。ネウロイを倒し、平和を取り戻した世界を──君が仲間達と守り抜いた世界の素晴らしさをね」
そう言って立ち上がった女性──アドルフィーネ・ガランドは、ユーリをまっすぐ見据えて言い放つ。
「長くなったが、本題に入ろうか──ユーリ・ザハロフ
「504部隊……その作戦というのは?」
ガランドは窓の外に広がるバレンツ海に目を向けながら答える。
「"トラヤヌス作戦"──君も遭遇した事のある、
「ネウロイとの、対話……!?」
「──君には期待しているよ、"
Next unit code: 504JFW "Ardor Witches".
And……
Return unit code: 501JFW "Strike Witches".
はい、これにて本当に502編終了です。
皆様覚えておりますでしょうか?ユーリ君の通称の件を。
最後にガランド少将が口にしましたが、彼は今後「魔弾(フライクーゲル)」の名前で知られることになります。
最初は「魔弾の射手」にしようと思ったんですが、調べたらワイトの角丸隊長と被ってたので…
プロットがある程度固まっていた501編と違い、ざっくりとした結末以外は手探りだった502編をなんとか書ききることができました。皆さんの応援のおかげです。ありがとうございます。
次回の更新は……まぁいつも通り、いつになるかはわかりません。果たして早いか遅いか。
とりあえず「紅の魔女」をもう一度読みながら、見切り発車の準備を続けます。
(まるで成長していない)