ユーリが504部隊に合流して、僅か2日。ネウロイ相手の実戦に代わって部隊内での模擬戦を何度かこなし、連携も板についてきた頃──"トラヤヌス作戦"を2日後に控えた504部隊の元へ、とある案件が舞い込んできた。
「──取材、ですか?」
「ええ。まだ仮のタイトルだけど──"世界初のウィザードへ独占取材!胸の内に隠された秘密とは!?"──だそうよ」
その存在を世に知らしめるきっかけとなった"フレイアー作戦"以降、世界初のウィザードであるユーリへの注目は際限なく上昇している。その話題性に目をつけたのか、リベリオン誌からユーリを取材したいというオファーがあったのだ。
「作戦前の大事な時だし、私も少佐も最初は断ろうと思ったんだけど、どうも訳アリというか……ただの取材ってわけじゃないみたいなの」
醇子が手にしている手紙。オファーを寄越した記者から渡された物だというそれには、見覚えのある名前が記載されていた。
──502部隊隊長 グンドュラ・ラル
「内容はまぁ……"ユーリのインタビューをしっかりサポートしてあげて"ってとこかしら。直前の知らせになっちゃって悪いけど、取材は明日。あなたさえ良ければ、この話は受けるつもりだけど、問題ない?」
「はあ……僕は大丈夫ですが……」
「じゃあ決まりね。先方に連絡しておくわ」
ユーリを隊長室から帰し、2人きりになったドッリオと醇子。その表情が、やや真剣みを帯びる。
「──にしても、インタビューとは502の隊長さんも面白いこと考えるわね」
ラルが記者に持たせた手紙には、インタビューの"裏の目的"が記載されていた。掻い摘むと──
民衆に対するユーリ・ザハロフの人気を高めるサポートをして欲しい。それが彼を守ることに繋がる。
ユーリが世界の民衆達から一定の人気を博するようになれば、以前ラルが危惧していた最悪の事態を防ぐ為の更なる予防線に成り得る。詳細こそ記載されていないものの、ラルが至って真面目にドッリオ達へ協力を要請しているという事は、この短い文面からでも伝わった。
「502部隊のグンドュラ・ラル少佐というと……あまりいい噂は聞きませんが」
「そう?私は結構好きよ。1回会った程度だけど、気が合いそうだったし」
「そ、そうですか……」
醇子はラルと面識はないが、遊び心が旺盛すぎるドッリオと気が合うという時点で嫌な予感しかしない。
「ま、如何にもウチ向けな案件だし、手伝ってあげようじゃない。ユーリもれっきとした504部隊の仲間だしね」
そう意気込んだドッリオは、善は急げとばかりに準備を始めるのだった。
そして翌日──基地の談話室は一層の賑やかさを見せていた。それもその筈、部屋の中には504部隊の隊員達が全員集合している他、更に新たな顔が1人追加されているのだ。
「──あたしはデビー・シーモア。リベリオンでカメラマンをやってる。まずは取材に応じてくれたことを感謝するよ。ユーリ・ザハロフ准尉」
差し出された手を握り返す。銃など握った事もなさそうな、柔い感触。だが彼女も彼女で取材の為に各地へ飛んでいるからか、不思議と貧弱には感じなかった。
「こういう取材は初めて?緊張してる?」
「……正直、戸惑ってはいます」
「ははっ、そんなに警戒しなくていいよ。502部隊のラル少佐とはちょっとした知り合いでね。最初はペテルブルグに行ったんだけど、そしたら君はもう別の部隊に行ったって言われてさ。使える手を全部使って、大急ぎでロマーニャまで来たって訳」
流石に疲れたよ。と軽口を叩くシーモア。他所には知らされていないはずのユーリの動向を一体どうやってキャッチしたのかと思っていたが、どうやら情報源はラルだったらしい。
「それと、504部隊の皆さんも。お手を煩わせてすみませんね」
「いーのいーの。気にしないで。ウチとしても全面協力させてもらうわ。──といっても、基本的には私だけだけどね」
本来ここにいなければいけないのは取材を手伝うドッリオと、そのお目付け役である醇子のみなのだが、他の面々もユーリという人間をよく知りたいという興味から、単なる野次馬精神といった様々な理由でこの場に居合わせている。
「それじゃあ始める前に、この取材の趣旨を簡単に説明させてもらうね。今回の取材は、ウィザードとしてのザハロフ准尉だけじゃなく、彼個人としての側面も押し出していこうと思う。例えば私生活に関する事とかね。そうして、インタビューを読んだ人達に君という人間に対する親近感を与えるのが、この取材の狙いだよ」
軍人然とした堅苦しいものではなく、あくまでフランクな内容にすることで、世界初のウィザードであるユーリへの印象を良くする。そうすることで、軍は国民達から反感を買う事を嫌ってユーリに対し大っぴらに手を出せなくなる。それがシーモア及びドッリオに協力を要請したラルの狙いだった。
「じゃあ早速始めようか。ドッリオ少佐は、昨日渡した資料の中から気になったものをピックアップして、ザハロフ准尉に質問をするインタビュアーを頼むよ」
「任せて。それじゃあまずは名前とスリーサイズを──」
「隊長?」
いきなりとんでもない質問をし始めたドッリオに、早速醇子がストップをかける。
「えっと、確か胸囲が──」
「ユーリさんも答えないでいいから!」
「えっ……は、はい」
「どーして止めるのよタケイ?これを読む人の中には、ユーリのスリーサイズを知りたい人だっているかもしれないじゃない」
「そういう問題じゃありません!スリーサイズは無しです、無し!私の友人の教え子なんですからね一応!?」
「ちぇ~……っ」
不満そうに唇を尖らせるドッリオによって、本格的にユーリへのインタビューが幕を開けた。
──────────────────────────────────────
ドッリオ「まずはお名前と階級をお願いします!」
ユーリ 「ユーリ・R・ザハロフです。階級は、先日准尉へ昇進させて頂きました」
ドッリオ「好きな食べ物は?」
ユーリ 「基本何でも食べられますが、ブリタニアやペテルブルグでいただいた扶桑のお味噌汁は美味しかったですね」
ドッリオ「扶桑の家庭料理ね。食の嗜好は庶民派、と。──ザハロフ准尉といえば、欧州東部戦線での活躍が記憶に新しいですが、その前はあの501部隊にも参加していたんですよね?」
ユーリ 「はい。義勇兵として501部隊に志願して、先輩方からご指導をいただきました」
ドッリオ「501のあったブリタニアと502のペテルブルグでは環境もかなり違ったと思いますが、大変だった事は?」
ユーリ 「そうですね…やはりペテルブルグは欧州でも有数の激戦区ですから、あまり物資に余裕がありません。なので、機材や武器弾薬だけでなく、食料等もできる限り無駄にならないよう大切に使っていました。ネウロイと戦うにはきちんと食べて体力をつけないといけませんし、かと言って食べ過ぎもいけません。その辺りの調整は、炊事を担当してくださっていたウィッチの方に感謝ですね」
ドッリオ「ふむふむ……ここからは、そんな激戦区を渡り歩いてきたザハロフ准尉の内面を深堀していきたいと思います。まず最初に──ズバリ、最も尊敬している人は?」
ユーリ 「最も、と言われると、やはり501部隊の隊長を務めていたミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐でしょうか。ブリタニアでは、本当にお世話になりました。ご迷惑をお掛けしたこともありましたし、お詫びも兼ねて、いつか恩返しができればと思っています」
ドッリオ「あぁ、ヴィルケ中佐ね!私も中隊長会議で会った事あるわ。物腰柔らかくて優しそうなのに、仕事できるオーラ凄いわよねあの人。……もしかして、ユーリってばああいう人がタイプだったり?」
ユーリ 「そういうつもりで言った訳では──」
ドッリオ「それじゃあ次の質問ね。ザハロフ准尉はいつもヘアピンを着けてますが、大切なものなんですか?」
ユーリ 「はい。ブリタニアで誕生日を祝って頂いた際、プレゼントとしていただきました」
ドッリオ「プレゼントという事は、501のウィッチの皆さんから?」
ユーリ 「はい。大切な宝物です」
ドッリオ「うんうん。もらった物を大切にするのはいいことね。そこで聞きたいんですが、准尉のここまでの活躍と、世界初のウィザードということも相まって、さぞモテるんじゃないですか?」
ユーリ 「モ、モテる……?」
ドッリオ「ウィッチ同士の恋愛はそう珍しいことじゃないですけど、ウィザードであるザハロフ准尉なら周囲の女性──それこそ、同じ部隊にいたウィッチから愛の告白の1つや2つ、された経験があるんじゃない?」
ユーリ 「……そういった事は全くありませんでしたね。僕がいたのはどちらも最前線でしたから──語弊のある言い方になってしまいますが、皆さんそういった事に目を向ける余裕も無かったと思います。……一部例外もありますけど」
ドッリオ「なる程……では逆に、准尉から見た場合はどうでしたか?1人くらいは好みのタイプとかいたんじゃないですか?」
ユーリ 「あの、取材の趣旨が変わりつつあるのでは……?」
ドッリオ「いいからいいから!どうなの?」
ユーリ 「好みと言われても……女性と接した経験自体多くないので、正直よく分からないです」
ドッリオ「えぇ~?じゃあじゃあ、ウチだったらどう?」
ユーリ 「……はい?」
ドッリオ「504部隊には好みの娘とかいないの?これは自慢だけど、ウチの子達皆可愛いでしょ?」
ユーリ 「いえその、もちろん、皆さん非常に美しい女性であることは承知してますが……」
ドッリオ「でしょでしょ~!我ながらいい人選だったと思うわ!ドミニカ達が来てくれたのも、ラッキーだったわね──っと、話を戻して……それで、どうなの?私的には……ルチアナなんかどう?同じ狙撃手だし、結構気が合うんじゃないかしら。ルチアナはいい子よ~?」
ユーリ 「そう言われましても……どう答えればいいんですか」
ドッリオ「どうも何も、正直に答えればいいのよ。──それとも何?もしかしてユーリは"自分より背の高い女なんて認めん!"とか言っちゃうタイプ?」
ユーリ 「背……?身長と、その人への好感度に何の因果関係があるんですか?」
ドッリオ「ほほう?つまり、愛さえあれば関係ないと……」
ユーリ 「──とにかく……その、仲良くして頂けたら嬉しいです。これ以上は問題発言になりそうなので、勘弁してください」
ドッリオ「はいはい。えーっと、これだけは絶対聞いて欲しいって質問があるわね。なになに──ザハロフ准尉はウィッチの方々と同様にストライカーユニットを履いて飛んでいますが、ズボンはウィッチ達と同じ女性用のものを履いてるんでしょうか?それとも裾の長いズボンなんですか?──だって」
ユーリ 「そういう疑問を持つ方もいらっしゃるんですね──僕が履いてるズボンは、一般の男性兵士も履いてる膝丈のズボンとそんなに変わりませんよ。ユニットを履く時邪魔にならないよう、裾を少し詰めてあります」
ドッリオ「でも結構綺麗な脚してるし、女物のズボン履いてても違和感なさそうよね。試しに履いてみたら?」
ユーリ 「絶対に嫌です」
ドッリオ「なんでよー。502部隊では女装したこともあったって聞いたわよー?」
ユーリ 「どこから聞いたんですかその情報!?」
ドッリオ「とある筋からの
ユーリ 「し、してないです!だいたいなんで僕が女装なんか……!」
ドッリオ「焦ってるのが見え見えよ~?機会があったら、ユーリに私秘蔵のコスチュームを着てもらおうかしら──っと、流石に
ユーリ 「うぅ……」
ドッリオ「気を取り直していくわよ。──といっても、もう終盤なんだけどね」
ユーリ 「大部分、隊長の私的な質問ばかりじゃないですか」
ドッリオ「細かいことは気にしなーい。じゃあ次行くわよ───」
──────────────────────────────────────
インタビューもいよいよ終盤。ドッリオはユーリに質問を投げかける。
「ザハロフ准尉が、ウィザードとしてネウロイと戦おうと思ったきっかけはなんですか?」
ここまで戸惑いながらもスムーズに答えてきたユーリだが、ここで初めて、明確な沈黙が流れる。
ユーリのウィザードとしての出自や戦うきっかけは、今や軍事機密扱いだ。ましてやこれは世界中に頒布される雑誌の取材、絶対に真実を明かすわけにはいかない。
かと言って、何か高尚な理由があるわけじゃないのも事実。逡巡しながらチラリと目を向けた先では、ドッリオが優しげな目でユーリを見つめていた。答えを催促するでもなく、助け舟を出すでもない。「答えなら分かっているだろう」とでも言いたげな彼女の視線を受けたユーリは、考えた末に、恐る恐る口を開いた。
「……最初は、特に理由らしい理由なんてありませんでした。"僕はウィザードだから戦わなければいけない"と、そう言われ続けたから──然して疑問も抱かず、そういうものなんだと思っていたんです」
「統合戦闘航空団で戦う内に、心境の変化があったってことね?」
「はい。501部隊と、502部隊──どちらからも大切なものを教えて頂きました。今の自分にとって、どれもかけがえの無い経験です。僕を仲間だと言ってくれる方々の大切なものを守りたい、その気持ちに報いたい──今は、それが僕の戦う理由です」
自分勝手な理由ですみません。と目を伏せるユーリ。ドッリオは小さく微笑み、続く質問を投げかける。
「これが最後よ。──ザハロフ准尉は、この戦いが終わったら、何がしたいですか?」
再びの沈黙。無理もない。ユーリは本来、役目を終えれば使い捨てられるはずだった兵器だ。501部隊との交流を経て、その運命から解放されたはいいものの、肝心のユーリ本人は──わかり易く言えば、仕える先がマロニーから仲間達へ変わったに過ぎない。骨組みだけだった心に肉こそ付いたが、それでもまだ、彼が人としてこの戦いを生き抜く為に必要な
「──ま、今はまだ分かんないか。ネウロイとの戦いで、それどころじゃないもんね」
「……すみません」
「いーのいーの。気にしないで──さて。シーモアさん、インタビューはこんな感じで大丈夫?」
「うん。写真も沢山撮れたし、いい記事になりそうだ。准尉も取材ありがとう。──あとコレは少佐に。ほんのお礼です」
ドッリオと握手を交わしたシーモアは、彼女に1通の小さな封筒を手渡して基地を去っていく。
「お礼って何かしら……」
中身が気になったドッリオが早速封筒を開封すると──
「ムフフっ……あらあらぁ~?」
入っていたのは1枚の写真らしく、中身を改めたドッリオの表情が、ニヤニヤと心底楽しそうに緩んでいく。
「ふ~ん。なるほどねぇ?へぇ~?」
何やら意味ありげな目でユーリの身体を舐め回すように見るドッリオ。流石に気になったのか、近くにいたフェルやドミニカ達もこぞって彼女の手元を覗き込んだ。
「えっ……?えぇえええええええ──ッ!?」
開口一番驚愕の声を上げるフェル。
「嘘でしょ……
「……はい?」
フェルはドッリオから受け取った写真を手に、写真とユーリとで視線を行き来させる。
「あの、一体何が──」
そこはかとなく嫌な予感を感じつつ、ユーリは意を決してフェルの持つ写真を覗き込もうとするが、寸での所でフェルが手を引っ込めてしまう。
「取材の時は少佐の冗談かと思ってたけど──」
公開された写真には、カールスラントの民族衣装に身を包んだ黒髪の少女が写っていた。
「…………」
待て。この少女の顔立ちには見覚えが無いだろうか?そもそも少女というか、どこか少年のようにも見えるというか……何より、彼女(?)が髪に着けているヘアピン。ユーリが今まさに着けているものと非常に酷似している。いっそ同じものだと言われた方が納得できる程だ。
それもその筈。何故なら──
「……な──なんでその写真があるんですかッ!?」
この写真は、去年ペテルブルグの502基地で執り行われたサトゥルヌス祭の折に、ユーリが隊員達の前で披露させられた女装姿を撮影したものだからだ。カメラマンは言わずもがなクルピンスキー。
しかし。しかしだ。あの時ロスマンの手によってフィルムは回収されており、クルピンスキーが写真を現像するのは不可能なはずなのだが……
とにかく。今はあの写真を一刻も早く奪い取り、処分しなくては。そうと決めるなり、ユーリはフェルの持つ写真に手を伸ばす。不意を突かれたフェルだが、危うい所で写真を避け、ユーリから距離を取る。これを皮切りに、談話室内での熾烈な鬼ごっこが幕を開けた。
「ちょ、フェルさん逃げないでください!」
「なによいいじゃない別に!似合ってるって言ってんでしょ!」
「そういう問題じゃありません──!」
懸命に逃げ回っていたフェルだが、やはり身体能力ではユーリに分がある。距離は程なくして縮まり、もう少しでユーリの手が写真に届く──その時だった。ユーリとは別の手がフェルから写真を奪い、ユーリの手は虚しく空を切る。
「──へぇ、男にしちゃ様になってんじゃん。ま、ジェーンの方がこの服を着こなせるに決まってるけどな」
「ドミニカさん!ソレを渡してください!」
「なんだ、コイツが欲しいのか?なら取ってみせろよ、ホラ」
ヒラヒラと写真を見せつけるドミニカに、ユーリは向かっていく。だが伸ばす手はどれも空を掴むばかり。ドミニカは生まれつき動体視力に優れており、彼女の趣味であるボクシングでも活かされている。それはこのような悪戯に於いても遺憾無く発揮され、ユーリとて素人でないにも関わらず、彼女はまるで未来視でもしているのかと疑いたくなるような軽快さで次々とユーリの手から写真を避けていた。
傍目から、小さな子供が取り上げられたおもちゃをムキになって取り返そうとしている図にも見えていたこの攻防は、ドミニカが唐突に写真を投げた事で終わりを迎えることとなる。
「ホラ、取ってこーい」
無造作に投げられた写真は風を切って飛翔する。偶然その先にいたルチアナは慌てて写真をキャッチしたが……
「へ──?」
写真を取った次の瞬間、ルチアナの前には、投げられた写真に向かって飛び込んで来るユーリの姿が。ギリギリ写真を掴めなかったユーリはそのままの勢いでルチアナとぶつかり、ガタガタッ!という音と共に倒れ込んでしまう。
「うぅ……」
シールドのおかげで痛みは無いが、突然の事で混乱するルチアナ。体を起こそうと目を開けると、
「──ひっ!?」
顔のすぐ横に何かが勢いよく叩きつけられる。それが、倒れた自分の上に覆いかぶさるユーリの手だと気づくのに、数秒の時間を要した。
「ルチアナさん──」
「ひ、ひゃいっ……!」
「写真、渡してください」
「どっ、どうぞ……っ」
至近距離で詰め寄るユーリに、ルチアナは堪らず写真を渡す。何とか目的を達したユーリは、写真を破きながら安堵の息を漏らす。そこでようやく、自分が今何をしているのか気がついた。
床に仰向けで横たわるルチアナと、彼女の身体を跨ぐようにして覆い被さる自分。ルチアナの目尻にはうっすらと涙が浮かんでおり……
「──すっ、すみませんでしたルチアナさんっ!今退きますからっ!」
大慌てで飛び退いたユーリ。次の瞬間、脳天に凄まじい衝撃を感じた。次いで、衝撃の起点から鈍い痛みが込み上げてくる。
「ユーリさん?自分が何をしたのか、分かってるかしら?」
背後で凄まじい威圧感を放つ醇子のげんこつを受けたのはユーリだけではないらしく、フェルとドミニカもユーリ同様、痛みに顔を顰めていた。
「談話室で暴れるんじゃありません。特にユーリさん、あなたは節度ある行動を今一度心がけるように」
「は、はい……本当に、申し訳ありませんでした……」
醇子と、一番迷惑をかけてしまったルチアナに心から謝罪をする。幸いにもルチアナは怒っていないようで、醇子もこれ以上罰を与えることはしなかった。
その日の夜──入浴を済ませたユーリは、部屋に戻る途中でルチアナと鉢合わせた。
「……あ」
「ルチアナさん……その、昼間は本当にすみませんでした。改めてお詫びを──」
「いっ、いえそんな!ユーリさんに悪気があったわけじゃないのは分かってますし、そんな気に病まないでください。それに……」
「それに……?」
「……いえ、何でもないですっ!おやすみなさい!」
それだけ言って、ルチアナは行ってしまう。残されたユーリは、やっぱり嫌われてしまっただろうか……と肩を落としながら、トボトボと自室へ足を向けた。
一方、先に自室へ戻ったルチアナは……
「ふぅ……私、変なこと言ってないよね……?」
月明かりが差し込む暗がりの部屋で、扉に背を預け座り込むルチアナ。彼女の脳裏には、昼間のユーリとのハプニングが思い起こされていた。
ルチアナとてロマーニャ空軍に身を置くれっきとした軍人だ。ロマーニャでは女性を口説く男性も多く、彼女も男性兵士から声をかけられたことが何度かある。整備兵達とも日常的に会話をする以上、決して男性に免疫がないわけではないはずだ。なのだが……
(私、あの時すっごくドキドキしてた……ユーリさんの顔、あんな近くに……もし、一歩間違えたら。まちがえたら──)
益体もない想像をしてしまったルチアナは、それをかき消すように
(ダメダメ!大体、ユーリさんは私みたいな大きくて地味な子──)
好みじゃない。そう続けようとした時、またも脳裏に昼間のことが……
──身長と、その人への好感度に何の因果関係があるんですか?
──つまり、愛さえあれば関係ないと……
(だからぁ~~~~~ッ!!!!)
堪らずベッドに顔を埋め、両手でボスボスとマットレスを殴る。一頻り暴れて落ち着いたところで、ルチアナも諦めがついたらしい。
潔く認めるしかないようだ。自分はユーリに好意を抱いているという事実を。
これは所謂一目惚れ、というやつでいいのだろうか。
胸に秘めた初めての恋情をどうすればいいのか。そんな迷いを抱きながら、ルチアナは眠りに就いた。
~余談~
某日、502部隊基地。
「~~~♪」
「何を見てるの?」
「ああ、先生!ほらコレ!」
「コレって……あの時の写真?」
「可愛く撮れてるでしょ?ボク、あがり迎えたらウィッチ専属のカメラマンになろっかなぁ」
「何言ってるのよ──じゃなくて、どうやって現像したのよ!?フィルムは確かに処分したはず──」
「それはボクにも。急に"特別報酬だ"って隊長から渡されたんだよね」
「隊長が……?もう、ユーリさんからも恨みを買わなければいいけど……」
「"そこは全くもって心配ない"って言ってたし、大丈夫なんじゃない?それより、次はナオちゃんかニパ君、どっちがいいと思う?」
「調子に乗るんじゃないわよ偽伯爵!今度はカメラごと没収しようかしら……」
「先生ってばまたヤキモチ?心配しなくても、先生のこともちゃんと撮ってあげるよ。2人きりの時に、ね?」
クルピンスキーの脛に、鈍い音と共にロスマンのつま先が命中した。
暫くぶりの更新となりました。
先月の中頃にはもう半分近く書けていたんですが、デュエル開始の宣言をしたりヒスイ地方に行ってたりで一気に時間が奪われ……
あといらん子リブート読んだりもしてました。アレ中々見つからなかったの何で…?
今年はルミナスもアニメが始まりますし、楽しみですねぇ。