501のウィザード   作:青雷

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おかえりなさい

 ネウロイとのコミュニケーションを図るという前代未聞の"トラヤヌス作戦"が失敗に終わってから、早くも1週間が経った。

 ヴェネツィア北部を占領した新たなネウロイの巣は、ユーリの覚醒魔法〔爆裂〕によって配下のネウロイの大部分を一度に失った為か、目立った活動はせず、時折単独でネウロイが出現する程度に収まっている。

 

 しかしそのネウロイへの対処にすら満足に手が回らないというのが現状だ。現れる敵はどれもコアを持たない哨戒機だったことが幸いし、なんとかウィッチの手を借りずとも対処できていたが、もしコアを有する中型以上のネウロイが出現すれば、軍の装備だけでは太刀打ちできない。

 

 こういう時の為にロマーニャ及びヴェネツィアの防衛にあたっていた504部隊も、"トラヤヌス作戦"失敗によるネウロイの巣との交戦によって壊滅状態。当初の基地は物資もろともネウロイに蹂躙されてしまい、未だに完全復旧の目処は立っていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新たに504部隊に充てがわれた基地。そこから車で程なくした所にある病院には、肩を負傷したアンジーと、魔法力の過剰消費によって倒れたユーリが入院していた。

 

「──アンジー、怪我の具合はどう?」

 

「ああ。順調に快復に向かってると聞いている。今日また検査があってな、その結果次第だが、近い内に退院できそうだ。出撃できるようになるまでは、まだ掛かるだろうがな……」

 

 ベッドの上のアンジーと話しているのは、お見舞いに来たパティ。ベッド脇のチェストには花の入った花瓶と小さなバスケットが置いてあり、中には差し入れに持ってきたジェーン&ルチアナ作のドーナツが入っている。

 

「……その、ゴメンね。あの時助けに行けなくて……」

 

「またその話か?──気にするなと言っているだろう。基地に向かっていたネウロイの迎撃で手が離せなかったのだから仕方がないし、寧ろシェイド中尉は自分の役目を立派に果たしたじゃないか」

 

「でも……でもさ。やっぱり私は助けたかったよ。アフリカの時も色々あったから……いくらユーリが一緒にいたとはいえ、傷ついた仲間が必死に戦ってるのに助けに行けないのは……嫌だった」

 

 膝の上で手を握り締めるパティは、アフリカ戦線で苦い経験をしてからというものの、胸の内に悔しさと後悔を募らせていた。決して仲間を信頼していないわけではない。ただ、仲間を守りたいという気持ちが人一倍強い彼女にとって、胸に秘めた後悔を上塗りすることになってしまったのは、歯痒い事この上なかっただろう。

 

「そうか……そうだな。シェイド中尉の言うこともよく理解できる。その気持ちはありがたく受け取っておく」

 

「……あのさ、アンジー。きっとまだ戦闘は続くと思う。だから、その……もしまたアンジーが危なくなった時は──」

 

「……ああ。その時はよろしく頼む」

 

「うん……!」

 

 嬉しそうに微笑んだパティは、バスケットに手を伸ばす。

 

「そうだ、お腹空いてない?ルチアナとジェーンがドーナツ作ってくれたんだけど」

 

「道理でいい匂いがすると──だが生憎、もう少しで検査の予定でな。その後でゆっくりいただくとしよう」

 

 残念そうに笑ったアンジーは、ドーナツ入りのバスケットをジッと見つめる。

 

「アンジー……?」

 

「ああいや。"トラヤヌス作戦"の時、戦場でザハロフ准尉と交わした約束を思い出したんだ」

 

「約束って?」

 

「ロマーニャの美味い店を教えてくれと言われた。情けなくも意気消沈していた私を叱咤する為の口実だったんだろうが、約束した以上は、その準備もしておかねばと思ってな」

 

「あははっ、ユーリがそんな事言ったんだ?私もアンジーのオススメのお店、知りたいな」

 

「なら丁度いい。退院したら、シェイド中尉も候補探しに付き合ってくれ。私のおすすめと言われたが、やはり准尉と同郷であるシェイド中尉から見た意見も欲しいからな」

 

「それは嬉しいけど……お、お手柔らかに……?」

 

 アンジーの食に対する熱意は並々ならないものだ。きっとユーリへ勧める店を探すのにロマーニャ市街の店をいくつもハシゴして、吟味に吟味を重ねることだろう。それに付き合うのを想像したパティは、取り敢えず当日は目一杯お腹を空かせておこうと決めた。

 

「……アンジーもこう言ってるんだし、早く目を覚ませばいいのにね」

 

「そうだな……」

 

 パティとアンジーが目を向けた先──ベッドを仕切るカーテンの向こうには、未だ眠ったままのユーリと、パティと一緒にお見舞いに来たルチアナがいる。ここ1週間、ユーリの声を聞いていない。アンジー曰く、時折目を覚ましているような気配は感じたようなのだが、それも数える程度だという。

 

「ユーリさん……」

 

 カーテンの内側で、ルチアナはユーリの名前を呟く。ここに運び込まれた時点で目立った外傷は無し、魔法力の過剰消費が原因で眠っているだけ。というのが医師の見解であり、その魔法力だって、1週間も経てばほぼ全快に至っていておかしくないはずなのだが……

 

(まさか、このままずっと……なんて事──)

 

 そんな縁起でもないことを考えてしまい、小さく(かぶり)を振る。

 

「ルチアナ。ユーリの様子、どう……?」

 

 沈んだ気持ちを感じ取ったのか、心配したパティが顔を覗かせた。ルチアナが首を横に振ると、パティは、そっか。と息をついた。

 

「お医者様の話じゃ、もう目を覚ます程度の魔法力は戻っているはずなのよね?」

 

「そう聞いてます。……もしかしたら、あの魔法を使ったのが原因かもしれない。とも……」

 

「ああ……アレね。基地から避難してる時、私達も見えた。確か、502部隊がオラーシャの巣を破壊した時も、同じような爆発があったって……」

 

 ユーリの覚醒魔法は、発動と回復の際、身体へ掛かる負担が大きいことが懸念材料だ。それを短期間で2度使った事が影響して、ユーリの目覚めを遅らせているという可能性も考えられる。

 

「何か、出来ることはないんでしょうか……」

 

「悔しいけど、直接どうこうできるようなことは無いでしょうね……あるとすれば、早く目を覚ますように祈るくらい」

 

 ルチアナは傷跡が残るユーリの手を取り、そっと両手で包み込む。

 

「ユーリさん……皆待ってますから」

 

(ルチアナ……もしかして……)

 

 その様子を見たパティは何かを感じ取ったが、詳しい話を聞くことはしなかった。代わりに別の話題を振る。

 

「──にしても、ユーリの手。すっごい傷跡よねー。確か502にいた頃、ネウロイのビームをほぼゼロ距離で防いだんだって?」

 

「確かに……ホント凄いですよね、ユーリさん──あっ」

 

 ふと、ルチアナの脳裏にあるアイデアが降ってきた。するとルチアナは、何やらブツブツと呟きながらユーリの手をジッと観察し始めた。

 

「ル、ルチアナ……?」

 

「──すみませんパティさん。私、先に基地に戻ります!」

 

「えっ?あ、ちょっと──!?」

 

 急ぎ足で病室を出て行ったルチアナ。残されたパティは呆然としながら、ベッドの上のユーリを見下ろす。

 

「……ほんと。早く目を覚ましてあげてよね。私だってアンジーを助けてくれたお礼したいんだから」

 

 それだけ言って、パティはアンジーの元へ戻る。そこで丁度アンジーの検査の時間が来たらしく、パティはそのまま彼女に付き添って診察室に向かった。

 

 ユーリだけが残された病室。開けた窓から春の風が吹き込み、ユーリの頬を撫でる。すると──

 

「───」

 

 伏せられていた目が、ゆっくりと開かれた。身体を起こし、窓の外に広がる空を見上げる。

 

「……行かないと」

 

 独りそう呟いたユーリは、傍らのクローゼットに収められていた自分の軍服に着替える。最後にヘアピンで髪を留めると、しっかりとした足取りで病室を出ていった。

 

 運良く誰とも鉢合わせることなく病院を抜け出したユーリは、更に運のいい事に発進直前の車を見つけた。そして近くにいた車の運転手と思しき男性が「504部隊基地へ向かう」と口にしていたのを耳にする。

 そうと分かるなり、ユーリは基地に常備する用の医療品が積まれているのであろう車の荷台に忍び込む。やがて車は出発し、ユーリは息を潜めて、504部隊の新たな基地へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──新たな基地を初めて目にするユーリだが、格納庫がどこにあるのかはひと目で分かった。車が完全に停車するのを待たず荷台から飛び降り、格納庫へ走る。

 武器弾薬などが不十分なせいで中は閑散としており、数機のユニットが鎮座しているのみ。その中に見慣れた自分のユニットを見つけたユーリは、迷わず足を通した。

 魔法力を流し、エンジンを始動。発進ユニットに収納されていたシモノフを掴む。

 

「はっし──」

 

 

「──待ちなさい」

 

 

 背後から飛んできた、ユーリを制止する声。そちらへ目をやると、そこには隊長であるドッリオが腕を組んで立っていた。

 

「病院から連絡があったわ。あなたがいなくなったってね」

 

「……勝手な真似をした事は謝ります。しかし、ネウロイが出たんですよね?」

 

「あなた、どうしてそれを……」

 

 確かに、ロマーニャのすぐ隣に位置するアドリア海にネウロイが出現した事はここにも連絡が来ている。しかしそれは10分程前の事で、通信設備の無い病室にいたユーリがそれを知る術は無いはずなのだが。

 

「眠っている間、感じたんです。皆が──僕の仲間(かぞく)が戦っている」

 

「だから、助けに行くつもり?」

 

「そうです」

 

 即答してみせたユーリに、ドッリオはため息をつく。

 

「これでも一応隊長だからね。退院したての部下をすぐ戦場に出すなんてさせられない」

 

「………」

 

 最悪無断発進することも考えたユーリだが、ドッリオの言葉はまだ終わっていなかった。

 

「──けど。あなたが504にいるのは"トラヤヌス作戦"が終わるまで、って話だったわね?」

 

「……!」

 

「いくら階級が上だって、指揮下にいないんじゃ命令もできないし、仕方ないわよねぇ──」

 

 でもね?と、ドッリオは更に続ける。

 

「それとこれとはまた別よ。一度でも仲間として戦った以上は、やっぱり危険な目に遭って欲しくはない訳。それは分かってくれるわね?」

 

「それは……しかし──」

 

 ドッリオの言いたいこともよく理解できる。だがユーリも引き下がる訳には行かない。彼女達の気持ちを無視して発進すべきか葛藤するユーリは、いつからか響いていた小さな笑い声を耳にする。その声の主は、やはりというべきかドッリオだった。

 

「ごめんごめん。そんな顔させたかった訳じゃないの。回りくどい事はするもんじゃないわね」

 

「ドッリオ隊長……?」

 

「私がこの場を見逃すには条件があるわ」

 

 ドッリオが提示した条件は2つ。

 

「まず1つ目──何でもいいわ。面白い、興味深いと思ったことに触れてみなさい。あなたの中はまだ空白だらけよ。もっと沢山のものを詰め込んで、もっと沢山の世界に触れなさい。最終的に夢まで見つかれば尚良し。いいわね?」

 

 無言で頷きを返すユーリ。続けて示された2つ目の条件とは──

 

 

「2つ目──仲間の為に命を懸けるのは立派だけど、仲間を守る為に命を捨てるのは止めなさい。絶対にダメよ」

 

 

「それは──」

 

 見捨てろ。という事ですか?──そう続けようとしたユーリの胸を、ドッリオの褐色の指先がトンと叩いた。

 

 

「どうせ守るなら、自分も仲間も全部守ること。それが、あなたの大切な人達の笑顔を守ることに繋がるわ」

 

 

 あなたが死んだら本末転倒でしょ?とウィンクしたドッリオに、ユーリは

 

「……はいっ!」

 

 そう、力強く答えてみせた。それを聞いて安心したのか、ドッリオはいつか見せた優しい笑みを浮かべると、ユーリが進む道を開けた。

 

「隊長、お世話になりました。短い間でしたが、504部隊での日々は……面白かったです」

 

「……そう、なら良かったわ。──さぁ行きなさい!あなたの家族が待ってるわよ!」

 

「ユーリ・ザハロフ、発進しますッ──!」

 

 ユニットを固定していたボルトが外れ、ユーリは空高く飛び立っていく。みるみる小さくなっていくその姿を地上から見上げるドッリオは、

 

「面白かった、か──最後に嬉しいこと言ってくれるじゃない。その言葉、本気にしちゃうわよ……?」

 

 どこか不敵な笑みを浮かべるドッリオ。そんな彼女の執務室には、名前の入っていない、白紙の転属願いがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、ネウロイが出現したアドリア海では──

 

「待て宮藤!1人では無理だッ!」

 

 海面に浮かぶ大艇の上で空に向かって叫んでいるのは、扶桑海軍の坂本美緒。その視線の先で独り、果敢にネウロイに立ち向かうは宮藤芳佳。かつて501部隊にも所属していた2人のウィッチは、"トラヤヌス作戦"失敗により大きな痛手を受けたロマーニャを支援する為に渡欧中の所をネウロイに襲撃され、応戦中だった。

 

 破壊された機体を再生しながら芳佳に向かってビームを放ち続けるネウロイは、見ての通り一度倒したのだが、弱点であるコアが機体内部を自由自在に動き回る特性を持っていた事で完全撃破には至らなかったのだ。

 装甲の硬さと再生速度に秀でるこのネウロイは、芳佳単独で撃破することは難しい。倒すには複数人による同時多重攻撃を仕掛ける他無いが、生憎美緒のユニットは大艇が襲撃を受けた時に損傷しており、現在急ピッチで修理を行っている最中。ユニットが最低限飛べるようになるまでの3分間、芳佳だけで持ち堪えられるかどうか……

 

「くうっ……!」

 

 敵の攻撃を防ぎ、躱しながらの攻撃でコアを発見しても、トドメを刺す前に別の場所へ逃がれてしまう。後を追おうとすれば、そこを狙ったネウロイの攻撃が襲いかかる──やはり芳佳1人では厳しいと言わざるを得ない。

 

「──宮藤!後ろだッ!」

 

「えっ──きゃああああぁッ──!」

 

 徐々に疲弊しつつある芳佳の不意を突き、深紅の閃光が襲いかかる──ギリギリでシールドが間に合い直撃こそ逃れたが、衝撃に耐えられなかった芳佳は大きく吹き飛ばされてしまった。

 

「宮藤──ッ!!」

 

 美緒の声で、手放しかけた意識を繋ぎ留めた芳佳は、こちらを攻撃しようと光を灯すネウロイを確認した。

 

(シールド……張らなきゃ──守らなきゃ)

 

 頭ではそう思っていても身体がついて来ない。そんな時だった。視界の中でグルグルと荒れ狂う空に、光が瞬いた──

 

 風を切って飛来したその光は、芳佳ではなくネウロイに命中。轟音と共に漆黒の装甲を破壊した。

 

「まさか──!」

 

 喜色を浮かべる美緒の頭上を、2つの航跡雲が駆け抜ける──!

 

 

「ィヤッホ──ゥ!」

 

 

 そんな声と共に戦場へ飛び込んできたのは、赤いジャケットに身を包んだウィッチ──

 

「──シャーリーさん!」

 

「──シャーリーだけじゃないよ~?」

 

 続いて芳佳の傍に降りてきたのは、小柄なツインテールのウィッチ──

 

「えへへっ!チャオー、芳佳~!」

 

「ルッキーニちゃんも!」

 

 応援に駆けつけたのは、シャーロット・イェーガーとフランチェスカ・ルッキーニ──どちらもかつて芳佳達と共に501部隊で戦った戦友だ。

 

「ねぇ見た見た!?今の全部命中したでしょ~!」

 

「うん!すごいすご──うわぁッ!?」

 

 久方ぶりの再会に水を差すように繰り出されたネウロイのビームを躱し、2人は攻撃を続けるシャーリーに合流する。

 

「──でも、2人ともどうしてここに?」

 

「そりゃ聞きたいのはこっちだよ。何で──」

 

「って、話してる暇無いかも──!」

 

「おっと──!」

 

 軽い雑談をする時間すら与えてくれないネウロイは、先のルッキーニの長距離射撃を受けて尚ピンピンしている。

 

「えぇ~。いいトコ当てたと思ったのに、さっきの効いてないのォ……?」

 

「これまでのやつより再生速度が速いの……!」

 

「チッ……只でさえ硬くて厄介だってのに。あたしらじゃ火力が足りないか……!」

 

 そんなシャーリーの声に応えるように、また別方向から弾丸が飛来する。芳佳達3人の攻撃にも動じなかったネウロイは、初めて大きく体制を崩した。

 この一撃の威力に秀でた長距離狙撃──対装甲ライフルの攻撃だ。

 

「──芳佳ちゃーん!」

 

「リーネちゃん!良かった、無事だったんだ!」

 

「うん!ガリアから今着いたの!」

 

「──全く。感激してる場合じゃありませんわよ?」

 

「ペリーヌさん!」

 

 ガリア復興に専念していたペリーヌとリーネに続き、新たな攻撃の手がネウロイに向けられる。どこからか飛来したロケット弾がネウロイに命中し、爆発を起こした。ロケット弾が残した軌跡を辿った先には──

 

「エイラさん!サーニャちゃん!」

 

 先行したエイラは、背後から発射された多数のロケット弾をものともせず、まるで見えているかのように躱しながら自身もネウロイに攻撃を加えていく。

 

 各地から集い、どんどん数を増やしていくウィッチ達。極めつけに、こちらへまっすぐ向かって飛んでくる3つの人影が──

 

「来たか──!」

 

「3人だ──!」

 

 501部隊の隊長を務めたミーナと、カールスラントでもトップクラスの実力者であるバルクホルンにハルトマン。501の中でも指折りの実力者達が合流を果たしたことで、形成は逆転。美緒も修理を終えたユニットを駆り、空を翔る仲間達に加わった。

 

「ミーナ中佐!総攻撃だ!」

 

「分かってるわ!フォーメーション・カエサル──攻撃開始ッ!」

 

 

「「了解ッ!!」」

 

 

 ミーナの統率の元、ウィッチ達は一転攻勢に出た。

 

「っし、行くぞルッキーニ!」

 

「うん!」

 

 先陣を切ったのはシャーリーとルッキーニだ。攻撃を躱しながらシャーリーが敵を牽制。その隙に高度を上げたルッキーニが、急降下攻撃を仕掛ける──!

 それに気づいたネウロイもルッキーニを撃ち落とそうとビームを放つが、小柄で的の小さいルッキーニはその間をすり抜け、展開したシールドを起点に固有魔法を発動。シールド越しにネウロイと接触した瞬間、彼女の〔光熱〕の魔法によって強力な熱エネルギーが発生。一気に放出することで、ネウロイの装甲を一撃で溶解させた。

 

「よそ見をしている暇はありませんわよ──ッ!」

 

 そこへ続いたペリーヌがすれ違い様に〔雷撃(トネール)〕を放ち、敵全体の表面装甲を剥離させる。当然ネウロイもすぐさま修復にかかるが……

 

「リーネさん!」

 

「はいッ!」

 

 まだ再生しきっておらず攻撃の通りやすい部位に、リーネの放った徹甲弾が突き刺さる。明確なダメージを受け、堪らず雲の中に逃げ込んだネウロイ。視界の悪い雲中であれば、完全再生までの時間を稼げると、そう思っていた──

 

「逃がすカッ!サーニャ──!」

 

「うん!」

 

 ネウロイを追って雲に飛び込んだエイラは、サーニャの手を引いて視界の悪い雲の中、ネウロイを追撃する。雲よりよっぽど視界の悪い夜闇の中でも戦える2人にとって、この程度では隠れた内に入らない。そのまま雲の外まで追い立てられたネウロイに向かって、サーニャがフリーガーハマーを発射。全弾命中したロケット弾が装甲を破壊し、ネウロイの動きを更に鈍らせた。

 

 間髪入れず、外で待ち受けていたハルトマンとバルクホルンが追い打ちをかける──!

 

「アハハッ!遅い遅い!そんなんじゃあくび出ちゃうよ──!シュトゥルムッ!」

 

 軽快な動きでネウロイとの距離を詰めたハルトマンが、固有魔法による風を纏い、竜巻となって敵に突っ込む。大きく抉り取られた装甲を再生する時間を与えず、銃弾の雨がネウロイに降り注ぐ──!

 

「ズ……ォリャアアアアア──ッ!!!」

 

 両手に携えたMG42一斉掃射から、銃身を握ってのストックによる打撃。バルクホルンの凄まじい怪力から繰り出される一撃は、ボロボロだったネウロイの装甲を破壊。内部に潜んでいたコアを露出させた。

 

「コアが──ッ!」

 

「任せろ──ッ!」

 

 飛び出した美緒が背中の扶桑刀を抜き放ち、まっすぐ敵に突っ込んでいく。対するネウロイも美緒を近づけさせまいと幾筋ものビームを繰り出した。

 

「少佐──ッ!」

 

「美緒ッ!」

 

 美緒はもう戦闘に耐えうるだけのシールドを張ることができない。そんな状態で戦場に赴くだけでも危険だというのに、彼女は旋回する様子もなく、まっすぐ突き進んでいく。

 

「手出し無用ッ!」

 

 自分を止めようとした仲間達を制止した美緒は、見事な身のこなしでビームを全て回避していく。その動きは回避の達人であるエイラを彷彿とさせた。

 手数では落とせないと判断したネウロイは、それならばとビームを集束させ、強力な一撃を以て美緒を迎え撃つ。攻撃範囲の増した極太のビームは、先のような最小限の動きで回避できるものではない。今度こそ当たる──誰もがそう思った時だった。

 

「斬り裂けッ!烈風丸──ッ!」

 

 何と美緒は、自らの前に掲げた扶桑刀でビームを受けた。あろう事か、そのまま深紅の閃光を文字通り斬り裂いて進んでいく。

 常軌を逸しているとしか言えない美緒の行動に危機感を覚えたネウロイは、露出したコアを逃がすことで緊急回避を試みる。いくら〔魔眼〕でコアの位置が分かると言っても、攻撃の直前にコアを逃せばまだ戦える、と。

 

 しかし───!

 

 突如、ネウロイの直上から6つの弾丸が降り注ぎ、ネウロイの機体を端から吹き飛ばしていく。残ったのはコアが潜んでいる部位のみ。機体が欠損したこの状態では、もうどこにも逃げられない──!

 

 

「くらえええぇぇ!──必殺ッ! 烈 風 斬 ッ──!!!!」

 

 

 渾身の気合と共に放たれた美緒の斬撃は、ネウロイの機体をコアごと真っ二つに斬り裂いた。

 

 ウィッチ達の連携の前に敗北したネウロイは、壮絶な断末魔を残して弾け飛ぶ。キラキラと舞い散る破片の中、刀を収めた美緒は、

 

「はっはっは!──ウィッチに不可能はないっ!」

 

 そう、豪快に笑い飛ばすのだった。

 

「坂本さん凄いです!ネウロイのビームを斬っちゃうなんて!」

 

「流石少佐ですわ!」

 

「ああ。私もまだまだ戦える。お前達には負けてられんさ」

 

「リーネちゃんも!最後の坂本さんのサポート、かっこよかったよ~!」

 

「えっ?あの、芳佳ちゃん……」

 

「何?」

 

「アレ、私じゃないよ……?」

 

「えっ……?」

 

 謙遜ではなく、本当に何も知らない様子のリーネ。この場にいる中で、ネウロイの装甲を破壊出来るだけの威力を出せるのは、対装甲ライフルを持つリーネのみ。だからてっきり、リーネが美緒を支援したものだと思っていたのだが……

 

「全く……」

 

 嘆息した美緒は頭上を見上げると、

 

「──ようやく来たか!遅いぞ!」

 

「えっ……!?」

 

 美緒の声に、芳佳達も皆上を見る。その先には、ゆっくりとこちらへ降下してくる人影が──

 

「──これでも全速力で飛んできたんですが……僕が最後ですか」

 

「ああ。お前で最後だ───ユーリ!」

 

 懐かしい声、懐かしい名前──それを耳にした全員が息を呑んだ。

 

「ぁ……っ……ユーリさんッ!」

 

 第501統合戦闘航空団、最後の1人──ユーリが合流し、ガリアを解放した伝説のウィッチ達がこのアドリア海で実に半年ぶりの集結を果たしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ユーリィ!」

 

「ユーリさぁん!」

 

「うッ……!?」

 

 戦闘を終え、武装を解除したルッキーニと芳佳は、一目散にユーリの元へ走った。彼女達に勢いよく飛び付かれて倒れ込んだユーリの口から、くぐもった声が漏れる。

 

「良かった……っ……ホントに良かったです……!」

 

「ホンドによがっだよぉ~~!」

 

 大泣きする芳佳とルッキーニに便乗したのか、今度はユーリの頭に手が伸びてきた。

 

「ったく、心配させやがってぇー!生きてんなら早く連絡しろよな!」

 

「ホントホント!これはお仕置きが必要だよねぇ?ウリウリ~!」

 

 シャーリーとハルトマンは、荒い手つきでユーリの頭をワシワシと撫で回す。更にそこへエイラも加わろうとした所で、見かねたバルクホルンが止めに入った。

 

「全く……立てるか、ザハロフ?」

 

「は、はい……ありがとうございます。バルクホルンさん」

 

 差し伸べられた手を取って立ち上がったユーリに、バルクホルンは小さく咳払いをする。

 

「それはそれとして、だ。──何故もっと早く連絡しなかった!お前が行方不明になってから、私達がどれだけ必死にお前を探したと思う!?」

 

「っ……本当に、すみませんでした」

 

「ま、まぁまぁ大尉。コイツにも色々事情があったんダヨ。ワタシとサーニャも同じこと思ったけど、そこはほら、ワタシが1発ぶん殴っといたからサ」

 

「いーやそれでは気が済まん!私からも1発お見舞いしてやる。ザハロフ、歯を食いしばれ!」

 

「ちょ、本気かヨ……!?」

 

 どうにかバルクホルンを止めようとするエイラを制し、ユーリは前に進み出る。

 

「……どうぞ」

 

「……よし。行くぞ──」

 

 目を伏せ、言われた通り歯を食いしばって痛みに備えるユーリ。だが覚悟していたような頬への衝撃も、鈍い痛みも、訪れる事はなかった。戸惑いながら目を開けた瞬間、額に小さな衝撃とじんわりとした痛みが広がる。

 

「あの……」

 

「お前の502部隊での働きは私も知っている。お前がしでかした事と、オラーシャの巣の撃破への貢献を加味した結果、デコピン(これ)が妥当だと判断したまでだ。異論は認めん」

 

「は、はい」

 

「──皆。積もる話は一旦おしまい。連合軍総司令部からの命令を伝えます」

 

 辞令を片手に呼びかけたミーナの声に、全員が耳を傾ける。

 

「まず、旧501メンバーは原隊に復帰後、アドリア海にてロマーニャへ侵攻する新型ネウロイを迎撃、これを撃滅せよ──尚、必要な機材は追って送るが、それまでは現地司令官と協議の上、調達すべし」

 

「ははっ、流石に手際がいいな。ミーナ」

 

「ええ。ガランド少将のお墨付きよ」

 

「──なぁんて言ってるけど、ホントは無理矢理少将の同意を貰ってきたんだよ」

 

「人聞きが悪いぞハルトマン。過程はどうあれ、命令は命令だ」

 

「えっと……つまり、どういうことですか?」

 

 命令の内容をよく飲み込めていない芳佳の質問に、ミーナは小さく笑ってから答える。

 

「私、ミーナ・ヴィルケ中佐。以下──」

 

──坂本美緒少佐

 

──ゲルトルート・バルクホルン大尉

 

──シャーロット・イェーガー大尉

 

──エーリカ・ハルトマン中尉

 

──サーニャ・リトヴャク中尉

 

──ペリーヌ・クロステルマン中尉

 

──エイラ・イルマタル・ユーティライネン中尉

 

──フランチェスカ・ルッキーニ少尉

 

──リネット・ビショップ曹長

 

──宮藤芳佳軍曹

 

「──以上、11名を以て、ここに第501統合戦闘航空団 ストライクウィッチーズを再結成します!」

 

 

「「了解ッ!」」

 

 

 再び集った501部隊だが、芳佳はその中に1人の名前が存在しない事にいち早く気がついた。

 

「あの、ミーナ隊長……ユーリさんは……?」

 

「……ユーリさんには、私達とは別に総司令部からの命令が下りてるわ」

 

「え……じゃあ……」

 

「ユーリはあたし達と一緒じゃないって事かよ……!?」

 

「……まぁ、僕はあくまで民間からの義勇兵として501に参加したという事になっていますから。復帰する原隊が無い以上、命令の遂行は難しいですね」

 

「そんな……!」

 

 顔を曇らせる芳佳達。ミーナはユーリに下った命令を伝える。

 

「──ユーリ・ザハロフ准尉。前任務である"トラヤヌス作戦"の支援を完遂後、貴官に対する命令権は、第501統合戦闘航空団隊長に委任する。別命あるまで待機せよ」

 

「──!」

 

 ユーリへの命令権は501部隊の隊長に委任される──この場合、総司令部からミーナへと権利が移った事になる。

 

「──よって私、ミーナ・ヴィルケ中佐は、ユーリ・ザハロフ准尉に第501統合戦闘航空団への参加を要請します」

 

 ユーリは姿勢を正し、答える。

 

「了解!──またお世話になります。ミーナさん」

 

「やった!これでまた皆一緒ですね!」

 

「全員揃ったー!」

 

 晴れて全員が揃った所で、ユーリは皆に向かって頭を下げる。

 

「改めて……皆さん。ご心配をおかけして、本当にすみませんでした!」

 

 この謝罪に応えたのは、美緒だった。

 

「全くだ。──だがよくやった。ミーナとの約束をちゃんと守った上に、私達がいない場所でも勇敢に戦い、多くの人々を救った。お前は本当に大した奴だ」

 

 そう言って、ユーリの頭を撫でる。力強くも優しいその手に、ユーリの胸の内から何か熱いものが込み上げてきた。

 

「あれぇ~?もしかしてユーリ、感動のあまり泣いてる?」

 

「な、泣いてないです……っ!」

 

「照れることないじゃん。よしよし、頑張ったね~!」

 

「や、やめてくださいよハルトマンさん……!」

 

 戯れつくハルトマンをどうにか振りほどいたユーリの前に、芳佳が進み出る。

 

 

「ユーリさん──おかえりなさい!」

 

 

 部隊全員の言葉を代弁した芳佳に、ユーリは目元を軽く拭ってから言葉を返す。

 

 

「──はい。ただいま戻りました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜──皆に散々心配をかけた罰として反省文という名の始末書を書き終えたユーリは、それを提出しようとミーナの執務室を訪れた。ドアをノックすると、中からミーナの声が返ってくる。

 

「失礼します──こちらを提出しに来ました」

 

「はい、ご苦労様」

 

 手渡された始末書を受け取る際、ミーナはユーリの左手の傷跡に気が付く。

 

「その手……」

 

「これはその、502部隊にお世話になっていた時、ネウロイとの戦いで……あ、でももう完治してますし、後遺症なんかもありませんから、何も心配は──」

 

 慌てて釈明するユーリだったが、その言葉が最後まで続くことはなかった。言い終わるより先に、ミーナがユーリの身体を抱きしめたのだ。

 

「ミ、ミーナさん……?」

 

「──ガランド少将から聞いたわ。あなたの覚醒魔法のこと」

 

「……そう、ですか……」

 

 ユーリはオラーシャの巣との戦いで1回。更に先日のヴェネツィア撤退戦でも、敵の追撃を振り切る為に〔爆裂〕を使用してしまった。そのお陰で、結果的にヴェネツィアの巣はここまで目立った動きを見せずにいたわけなのだが……これを聞かされた時のミーナの心境がどうだったか、考えるまでもない。

 ミーナが今こうして感じている、ユーリが心臓の鼓動(生きている証)。覚醒魔法を使い続ければ、これも止まってしまうのだ。

 

「約束して。これ以上覚醒魔法は使わないって──もう、大事な仲間(ひと)が帰ってこないのは嫌。あの時と同じ思いはしたくないの」

 

 それは果たして恋人(クルト)を喪った時の事か、バルクホルンや美緒を喪いかけた時の事か──どちらにせよ、ミーナは仲間を失うことを強く恐れ、怯えている。ユーリを501に引き入れこそしたものの、心の底では出撃させたくない──と、そう思っているかもしれない。

 

「ミーナさん……」

 

 ふと、ユーリの脳裏をある約束が過ぎった。

 

 

 ──どうせ守るなら、自分も仲間も全部守ること。それが、あなたの大切な人達の笑顔を守ることに繋がるわ。

 

 

 ユーリはミーナの肩をそっと掴み、彼女の目をまっすぐ見据える。

 

「……ごめんなさい。もし皆さんの身に危険が迫って、これ以外に手がないという状況になったら……僕は、きっと使ってしまうと思います」

 

「駄目よ……!そんな事したら──」

 

「わかってます。ですから代わりに別の約束と、お願いを──僕は、僕の大切な人達と、その人達が大切にしているものを守ります。皆さんの故郷、仲間、家族……もし、その中に僕が含まれているなら、僕自身も」

 

「ユーリさん……」

 

「ですから──もう一度、ミーナさんが背負っているものを、僕にも分けてくれませんか。今度こそ、守らせてください」

 

 ユーリの願いを聞いたミーナは、僅かに瞳を伏せてから言葉を返す。

 

「……だったら、私からも別のお願い──今度こそ、501部隊(わたしたち)にもあなたを守らせて」

 

 ユーリと同じように、ミーナ達もまた、ブリタニアの戦いでユーリを助けられなかった事をずっと後悔していた。結果的に生きていたものの、助けられなかったという事実は無くならない。だから今度は守られるだけではなく、自分達にも守らせて欲しい──それがミーナの、延いては501部隊全員の総意だった。

 

「……分かりました。でも無茶はさせませんからね」

 

「それはこっちの台詞よ。私達の目が黒い内は、無茶な真似ができるとは思わないことね」

 

 そう言って、2人は小さく笑い合った。

 






【挿絵表示】


復ッ活ッ!501部隊、復活ッッ!!


502、504部隊での経験を経て、色々と成長したユーリ君。
坂本さんの教えをモロに受けたことで502の辺りから扶桑人あるある、天然ジゴロ属性を開花させつつあるユーリ君。
そんな彼が再び501の皆と再会し、ドッリオ少佐に言われたように夢を見つけられるのか……

見つけられるのかは……私にもわかりません。


そしてこれは余談ですが、ミーナさんはユーリ君をトラヤヌス作戦に向かわせる代わりに、後の命令権を移譲してもらうようガランド少将と取引をしてました。
流石に永久的にミーナさん直属にする訳にも行かなかったので、妥協点として「501部隊隊長に委任する」→501部隊として活動している内は、ミーナさんが好きにしていいよ。ということになったわけですね。つまりヴェネツィアを奪還して501が解散したら、命令権は総司令部及びガランド少将に戻ります。
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