501のウィザード   作:青雷

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501JFW〈Ⅱ〉
特訓


 501部隊が再結成されてからというものの、基地では美緒の指導の下、ウィッチ達が訓練に励んでいた。皆久しぶりの模擬戦や編隊の確認等をしている中で、目下美緒の悩みの種となっているメンバーが3人程……

 

「──ペースが落ちてるぞ!宮藤、リーネ!」

 

「はぁ…はぁ……はいぃっ……!」

 

「が、がんばりますっ……!」

 

 既に先着していた他のメンバー達は各自解散している中、こうして走り続けているのは芳佳とリーネ、そして意外にもペリーヌの3人だった。

 

「明らかに体力不足ね……」

 

「無理もない、と言いたい所だが……ここまでとはなぁ」

 

 なんとか走り込みを終え、息も絶え絶えに倒れ込んでしまう芳佳達。それを見たミーナと美緒は、一層頭を悩ませる。

 ブリタニアでの戦いが終わってから半年間、芳佳は扶桑で学生としての生活に戻っており、ペリーヌは前線から離れてガリア復興に専念。リーネもそれに同行していた。別に遊び惚けていた訳でもなし、そういった事情を考えれば、美緒の言う通り無理もない事なのだが……

 

「バルクホルン大尉の話では、午前中の飛行訓練でも問題が多かったって言うし……このままじゃ出撃させるには危険だわ」

 

「そうだな……よし──」

 

 少し考えた美緒は、

 

「宮藤、リーネ、ペリーヌ!お前達は基礎から鍛え直しだ!」

 

「は、はいっ!」

 

「少佐のご指導でしたら、どんな訓練でも耐えてみせますわ!」

 

「でも基礎からって、具体的に何を……?」

 

 リーネの質問に小さく頷いた美緒は、芳佳達の1番の問題点を挙げた。

 

「自分でも分かっているだろうが、今のお前達はブリタニアにいた頃より腕も体も鈍っている。まず基礎体力だが、これに関しては地道に鍛え直す他ないだろう。従って、今お前達に必要な訓練は魔法力の制御だ」

 

「魔法力の……?」

 

「そうだ。そして私には、その道のプロと言えるウィッチに伝手がある。お前達は彼女の下で修行をして来い。合格を貰えるまで、帰って来ることは許さん!」

 

「えぇッ……!?」

 

「そら、さっさと準備に取り掛かれ!」

 

 言われるままに身支度を始める芳佳達。その傍ら、訓練を見守っていたユーリが手を挙げる。

 

「あの、坂本さん。宮藤さん達の訓練に、僕も同行させてもらえませんか?」

 

「……魔法力制御にかけては、今や501の中でも最上位と言っていい腕前のお前が、か?」

 

「そう言って頂けるのは光栄ですが……ダメでしょうか?」

 

「まぁ、ダメとは言わんが…──いや、そうだな。一度初心に立ち返る事で、新たに得られる物もあるやもしれん。何よりいい経験になるだろう。行って来い!」

 

「ありがとうございます。準備してきます!」

 

 斯くして──ブランク3人組にユーリを加えた4人は、美緒から渡された地図を頼りに、訓練所へと飛び立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 基地を発って暫く飛び続けた4人がたどり着いたのは、ヴェネツィアの南部にある小島。

 つい先日ネウロイの支配下に落ちてしまったヴェネツィアだが、ここのような末端部には幾つか無事な地域も点在していた。

 

「ホントにここが訓練所、なんですか……?」

 

「少佐に頂いた地図では、ここの筈ですわ」

 

「でも、誰もいないよ……?」

 

 芳佳達が疑問に思うのも頷ける。美緒にはここへ訓練に向かえと言われたものの、周りには民家らしき建物が1軒と、後は林が広がるのみ。一般的な訓練所のイメージとは大きくかけ離れていた。

 

「うーん……ちょっと探してみよっか?」

 

「ねぇ芳佳ちゃん。アレ、なんだろ……?」

 

 リーネが指差す方向──頭上へ目を向けた4人は、空から落下してくる謎の物体を目にする。芳佳達が小さく悲鳴を上げながらその場から飛び退く一方で、ユーリは驚きこそすれ、落ちてくる物を受け止めてみせた。

 

「な、何なんですの急に……!?」

 

「これは……たらい?」

 

「全く、ネウロイかと思いましたわ……」

 

 

「──誰がネウロイだい」

 

 

 全員の意識がたらいに集中する最中、突如聞こえた声に、またも驚きの声が上がる。

 

「た、たらいが喋った……!?」

 

「いえ、まさかそんなはずは……!」

 

 困惑する4人の前に、またも空から、新たな影が降り立った。

 

 

「──全く。挨拶も無しにウチの庭に入るなんて。近頃の若いのは躾がなってないねぇ……!」

 

 

 そんな言葉と共に現れたのは、1人の老女だった。先程のたらいも彼女が投下したのだろう。突然そのような仕打ちを受けた事も勿論だが、それ以上に4人の驚きと興味を惹いたのは、箒に跨り宙に浮かんでいるという彼女の出で立ちだった。

 

「──突然の訪問、申し訳ありません。アンナ・フェラーラさんでお間違いないでしょうか?」

 

 気を取り直したユーリの謝罪と問いかけに、彼女は首肯を返す。

 

 彼女の名はアンナ・フェラーラ。元ヴェネツィア空軍所属のウィッチで、退役時の階級は大尉。この第二次大戦が開戦するよりずっと前からウィッチとして空を飛んでいた、歴史の生き証人とも言うべき人物だ。

 何よりも特徴的なのは、彼女の頭部から覗いている動物の耳──使い魔との契約がまだ活きていると言う点。要するに、彼女はとっくに20歳を超えているにも関わらず、今に至るまで魔法力を保持し続けている事を意味する。それは彼女が箒に乗って空を飛んでいた事から見ても間違いない。ましてやストライカーではなく、何の変哲もない藁箒で空を飛んでいるのだ。彼女を魔法力制御のプロと称した美緒の言葉に嘘も誇張も無いようだ。

 

「あ、あのっ!私達、坂本少佐の命令で訓練に来たんです!合格を貰うまでは絶対帰るなって言われました!」

 

「あぁ……その話かい。──取り敢えずその脚に履いてるモン、脱ぎな」

 

 アンナに言われ、脱いだユニットを物置に仕舞った4人。そこへ1人1つずつ渡されたのは、これまた何の変哲もないバケツだった。

 

「──それじゃあアンタ達には、今晩の食事とお風呂の為に、水を汲んできてもらうよ」

 

「水汲みですか……?」

 

「えっと、水道──井戸とかは……?」

 

「井戸ならあっちだよ」

 

 井戸の方向を指差すアンナだが、そちらへ目を向けた芳佳達は思わず言葉を失う。井戸が設置されているという場所は古びた遺跡の切り立った断崖の上。それだけならまだしも、とにかく遠い。全力で走っても片道20~30分はかかりそうだ。大陸から離れたこの孤島には水源が無く、水が出るのはあそこしか無いと言う。

 

「あ、でもストライカーを使えば……!」

 

「そうですわ!ストライカーで飛んでいけばこのくらいの距離──」

 

 真っ先に倉庫へ向かうペリーヌだったが、その前にアンナが立ちはだかる。

 

「誰がそんなモン使っていいって言ったんだい?」

 

「えっ……?」

 

「もしかして、あんな遠い所まで歩いて行くんですか……!?」

 

「そんなことしてたらあっという間に日が暮れちまうよ!──ほら、コイツを使うんだ」

 

 そう言って各自渡されたのは、またまた何の変哲もない1本の箒。先程アンナが空を飛ぶのに使っていた箒と同じものだ。尚、本数の都合ユーリには渡されていない。

 

「これで飛べ、という事ですか?」

 

「それ以外に何があるって言うんだい。そら、さっさと行きな!」

 

 呆然としていたのも束の間、アンナに尻を叩かれ、芳佳達は見よう見真似で箒に跨った。

 

「──行きますっ!」

 

 アンナとユーリが後ろで見守る中、魔法力を発動させ、それを箒へと込めていく。徐々に箒が持ち上がり、それに伴って3人の足も地面から離れていくが……

 

「うぅ……い、痛い……っ」

 

「く、くい込む……」

 

「くっ……ッうう……ッ!」

 

 上昇は、揃って一定の位置で止まった。理由は言わずもがな「痛いから」の一言に尽きる。何が?とは聞かぬが仏だ。

 

 やがて集中力が切れ始めたのか、箒がバランスを崩し始める。最初に芳佳、次いでリーネだ。ペリーヌはというと、表情こそ苦しげだが、どうにか姿勢を保つことに成功していた。

 

「いつまで地面をウロウロしてるんだい!こんなんじゃ夕飯に間に合わないよ!」

 

 満足に飛ぶこともままならないこの状況に痺れを切らしたアンナは、大きく手を叩く。これによってギリギリで繋ぎ止められていた集中の糸が完全に切れ、遂に3人の箒は制御を失い、あらぬ方向へと暴れ始めた。振り落とされまいと必死に箒にしがみつく3人だったが、早くもリーネが転落してしまう。

 

「全く、この程度で魔女とは片腹痛いねぇ……──リーネ(アンタ)は無駄にデカいモン付けてるから、バランスが取れてないんだよっ──と」

 

「ひゃうっ……!?」

 

 いつからか明後日の方向に目を向けていたユーリには何が起こったのか分からないが、リーネが短い悲鳴を上げる。

 

「で──芳佳(アンタ)はいつまで回ってんだい!」

 

「ほっ、箒に聞いてください~~~~ッ!」

 

 箒共々空中でぐるぐる回り続けていた芳佳は、目を回した事で魔法力の供給が途切れ、そのまま地面へ真っ逆さまに。

 

「ぐ…ぬぬぬぅ……ッ!」

 

「おや、ペリーヌ(アンタ)は中々やるじゃないか」

 

「こっ、この程度……ッ!ウィッチと…してっ……と、当然っ…ですわ……ッ!」

 

「そーかい、そーかい──」

 

 あくまでも気丈に振る舞うペリーヌの箒を、アンナは下から小突き上げる。力らしい力の込もっていない、本当に些細な接触だったが、そんな些細な干渉でペリーヌの箒はあれよあれよとバランスを崩していく。

 

「ふっ……んんん~~~~ッ!」

 

 箒がほぼ垂直になっても諦めずに粘ったペリーヌだったが、それが続いたのも僅か3秒程。諸々我慢の限界が訪れ、箒から落ちてしまう。

 

「これじゃ、アンタ達には永遠に合格はやれそうにないねぇ……」

 

 嘆息するアンナは、落下した芳佳を助け起こすユーリに目を向ける。

 

「──アンタもやるかい?ここにいるって事は、修行しに来たんだろう?」

 

「……はい。挑戦させてください!」

 

 近くにいたリーネから箒を受け取ったところで、ユーリは跨るのではなく、腰掛ける形で箒に乗るようアンナから指示される。何故?とは聞かないお約束だ。

 アンナの指示通り、箒を腰の後ろに構えたユーリは魔法力を発動させ、まず箒を浮遊させる。丁度いい高さに上がって来た所で箒に腰を乗せ、上昇を再開したのだが……

 

「あっ、危ない──!」

 

 リーネの叫び声と同時に、バランスを取ろうとグラついていたユーリの体は真後ろに転げ落ちてしまう。打ち付けた頭に鈍い痛みを感じるユーリを案じて、リーネと芳佳が駆け寄ってきた。

 

「だ、大丈夫ですかユーリさん?結構な勢いでしたけど」

 

「………」

 

 ユーリからの返事がない。それどころか、じっと目を瞑ったまま身動きひとつしないではないか。呼吸はしている為生きているのは間違いないが、もしや打ち所が悪かったのだろうか……?

 

「………」

 

 数秒の沈黙の後、パチリと目を開けたユーリは、起き上がるなりもう一度箒を手に取る。

 2度目の挑戦。先程は箒をある程度浮かせてから腰を乗せていたが、今度は最初から箒を腰に触れさせた状態でのスタートだ。芳佳達が固唾を飲んで見守る中、箒共々ユーリの体が少しずつ浮き上がっていく。慣れない姿勢でバランスを取るのに注意を割いているせいか、上昇こそゆっくりではあるものの、先ほどの芳佳達と比べてしっかりと浮遊できていた。

 

「……ほう。ユーリ(アンタ)、この娘達とは違うね。男ってだけじゃない。魔法の込め方を分かってる」

 

 僅か2度の挑戦でここまで出来た時点で、アンナとしては合格とは行かないまでも及第点だったようだ。

 

「その様子じゃ慣れるまでそう掛からないだろう。アンタだけでも水汲みに行ってきな」

 

「分かりました」

 

 アンナの予想通り、程なくしてユーリは箒での飛行に慣れてきた。今やアンナと遜色ないレベルで箒を乗りこなせるようになっている。

 未だ芳佳達が浮遊するのに四苦八苦している傍らで、ユーリは箒の先端にバケツを3つ引っ掛け、水汲み作業を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、ユーリ以外まともに飛べないまま迎えた訓練2日目──芳佳達はどうにか地面から足を離して移動出来る程度の上達は見せていた。が、しかし……猛スピードで直進するばかりで曲がれなかったり、バランスを崩して箒から落ちたり、挙句の果てにはぴょんぴょんジャンプする箒に必死にしがみつく始末。お世辞にも箒を操れているとは言えない有様だった。

 

「うぅ……どうして上手くいかないんだろう……」

 

「魔法力、足りてないのかな……?」

 

「そんなはずはありませんわ!ユーリさん以上の魔法力を持ってる宮藤さんでこの有様ですもの、きっと他に理由があるはずです」

 

 小休憩ついでにあーだこーだと考えを巡らせる3人。丁度そこへ、今日もまた独りで水汲みを行っていたユーリが井戸から引き返してきた。小さく息をつくユーリに、リーネが申し訳なさそうに口を開く。

 

「ごめんなさいユーリさん、任せきりにしちゃって……」

 

「そう急がずとも──とは言えない状況ですね。こちらは大丈夫ですから、皆さんも頑張ってください」

 

「色々試してはみてるんですけど、箒が思い通り動いてくれないんです」

 

「何かコツはありませんの?箒を安定させる方法とか……」

 

「コツ、ですか……」

 

 自分が飛べるようになった時の事を思い出し、当時の感覚の言語化を試みる。

 

「箒を飛ばすのではなく、自分を飛ばす──と言いますか。箒はあくまでも魔法力を込める媒体と考えれば、自然と安定すると思います」

 

「……ごめんなさいユーリさん。ちょっと何言ってるか分かんないです……いや、聞こえてはいるんですけど」

 

「ま、宮藤さんが分からないのは当然ですわね」

 

「ペリーヌさんは分かったんですか?」

 

「……と、当然ですわ!つまり、その……ユーリさんの言った通りです!」

 

「分かってないんですね……」

 

 ペリーヌが苦笑いするリーネに反論していたところへ、アンナが様子を見にやって来る。訓練の首尾を聞いて呆れたように嘆息したアンナは、座り込む芳佳達を横に並ばせた。

 

「──いいかい?アンタ達はストライカーユニットって機械にずっと頼って飛んでた。まずはその機械に頼った飛び方を一度忘れなきゃダメなんだよ」

 

「でも、忘れてどうすれば……?」

 

「箒と一体化するんだよ。空を飛ぶ箒に乗ろうとするんじゃなく、箒を自分の体の一部だと感じるんだ。そして、自分の足で一歩踏み出す!──そんなイメージで魔法を込めるんだよ」

 

 箒は体の一部──空を飛ぶには、その「一部」だけを飛ばそうとするのではダメだ。アンナの言葉を反芻しながら、3人は今一度魔法力を込める。すると……

 

「ゎ……うわぁ!飛べた!」

 

「すごい!綺麗に飛べてるよ、芳佳ちゃん!」

 

「うん!リーネちゃんも!」

 

 芳佳もリーネもペリーヌも、見違えたようなしっかりとした姿勢で自らを宙に浮かせることに成功した。

 

「いいかい。魔法力のコントロールで大切なのはイメージだ。自分の中の魔法力をどんな形で発動させるか。それさえイメージ出来れば、大抵の事は出来る」

 

「ありがとうございます!アンナさん!」

 

「礼を言うのはまだ早いよ!今までユーリ(この子)に任せきりだった分、今度はアンタらが働きな!」

 

 地上から飛んだ声に尻を叩かれ、3人は井戸を目指して飛んでいく。アンナは笑みを浮かべながらそれを見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜──芳佳達が入浴している間、ユーリはアンナにある相談を持ちかけていた。

 

「──ふぅん……なる程ね。要するに、固有魔法の性能をもう一段引き上げたいって訳だ」

 

「はい。単純な威力強化よりも、何か応用を利かせた使い方が出来れば、と」

 

 〔炸裂〕は魔法力制御が密接に関わってくる魔法だ。美緒をして「その道のプロ」と言わしめた彼女であれば、何かヒントをもらえるかも知れない。少し考えた末に、アンナの口から出た答えは──

 

「そういう事なら、特別教える事は無いよ」

 

「……そう、ですか」

 

「勘違いするんじゃないよ。アンタに伸び代がないってンじゃない。私がわざわざ口を出す必要がないってだけさ。アンタも聞いてただろう、魔法力の制御で重要なのはイメージ──自分の魔法を自力でここまで高められたんなら、しっかりイメージ出来ている証拠だ」

 

 当初、着弾と同時に爆発する仕様だったユーリの〔炸裂〕は、地道な訓練の甲斐あって、時間差での爆発や着弾させずグレネードの様にも使える等、ユーリ自身の手で研磨されてきた。今更外野が口を挟むより、このままユーリの感性に従って磨き上げるべきだと、アンナはそう判断したのだ。

 

「ただまぁ、そうだね……強いて言うなら、柔軟に考えればそれだけ別の使い方って奴が見えてくるんじゃないのかい?」

 

「別の使い方……分かりました。考えてみようと思います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全員入浴を済ませた芳佳達4人は、大陸と島を結ぶ橋の上で夜風に当たっていた。

 

「──よく考えてみたら凄いよね、昔の人って。皆箒で空飛んでたんでしょ?」

 

「私のお母さんも、昔使ってたって聞いたことあるよ」

 

「そういえば、リーネさんのお母様は──」

 

 リーネの母ミニー・ビショップは、約30年前に勃発した第一次ネウロイ大戦で英雄と呼ばれる程の活躍をした元ウィッチだ。彼女もアンナ同様、飛行技術が進化する前の時代を生きた1人だった。

 

「……でも、箒で飛ぶ事で本当に強くなれるのかしら?そこだけはまだ疑問ですわ」

 

「魔法力制御は重要ですよ。──それまでは飛ぶだけで精一杯だったのに、魔法力制御の訓練を続ける事で前線で戦えるようになったウィッチを、僕は1人知ってます」

 

 つい先月まで一緒に戦っていた、スタミナと根性が持ち味の少女の事を思い出す。彼女達は元気にしているだろうか。

 

「──明日も早いってのに、こんなトコで何してんだい?」

 

「アンナさん──私達、橋を見てたんです」

 

「橋……?橋がどうかしたのかい」

 

「アンナさんはあんなに上手に箒で飛べるんだから、橋なんて要らないんじゃないかな。って……」

 

 芳佳の言葉を聞いたアンナは、小さく顔を俯かせる。

 

「……確かに、私だけなら橋が無くても何て事はないさ。……けど、私の娘は魔法が使えなくてね」

 

 魔法力の遺伝。ウィッチの子供──特に女児は母親同様に魔法力を持って生まれる可能性が通常より高い。そんな中で、魔法力を持たずに生まれてくる子供も一定数いるのが実状だ。アンナの娘もその1人だったらしく、幸か不幸か、軍人としての道を歩む事はなかった。

 

「もうとっくに嫁に行っちまったが……年に数回、孫達を連れて会いに来てくれるんだ。この橋を渡ってね」

 

「その娘さんは、今どこにいるんですか……?」

 

 

「……ヴェネツィアさ」

 

 

「っ……!」

 

 何の気なしに行われた芳佳の問い。その答えを聞いたユーリは、密かに奥歯を噛み締める。

 

「あの、娘さん達は無事なんですか……?」

 

「大丈夫だよ。家族全員、無事に逃げられたって連絡があった。──自分達を守って戦ってくれたウィッチ達のお陰だ。ってね」

 

「その時戦ってたのって……」

 

「……壊滅した504部隊、ですわね」

 

「じゃあ──」

 

 芳佳は、振り向いた先で沈んだ表情を浮かべるユーリに目を向ける。

 

「……そうかい」

 

 おおよその事情を理解したらしいアンナは、

 

「言っただろう。娘達が助かったのは、あの時ネウロイと戦ったアンタ達がいたからだ」

 

「……ですが、市民の方々を護衛していたのは僕ではありませんし……何より、娘さん達が帰ってくる場所を守れませんでした」

 

「ったく、最近の若い子は……。──よく聞きな。領土は奪われても、また取り戻せる。でも命は一度失っちまったら二度と取り戻せない……アンタ達はその二度と取り戻せないモンを守ったんだ。少しくらい胸を張りな」

 

 ユーリはああ言っているが、実際あの状況では街まで守れる程の戦力も余裕も無かった。例え〔爆裂〕を用いたとしても、巣を覆う瘴気の雲がある以上は本体に有効なダメージを与えることが出来ない。

 そもそも、カールスラントを中心に各所の戦力を結集してどうにか倒せた"グリゴーリ"以上の規模を持つヴェネツィアの巣を相手に、小隊規模の戦力で応戦する方が無謀なのだ。

 そんな不利な状況下で、市民達が避難するまで戦い抜いた504部隊に──ユーリに感謝こそすれ、非難する者はいなかった。

 

「そうですよ!ユーリさんも、フェルナンディアさん達も……皆怪我してでも立派に戦ったんですから!」

 

 治りかけの状態とはいえ、芳佳はフェル達の傷を実際目にしている。それだけでもヴェネツィア撤退戦の壮絶さが伺い知れた。

 

「……はい。ありがとうございます」

 

 ユーリが気を持ち直したところで、4人はアンナからとっとと寝床に着くよう仰せつかる。芳佳達はアンナにも優しい一面があるのだという事に笑みを浮かべながら、床に就くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迎えた翌日──すっかり箒の扱いに慣れた様子の芳佳達は、ユーリと4人掛りで1つの大きなたらいに汲んだ水を持ち帰っていた。

 

「最初からこうすれば、もう少し楽にいっぱい運べたのにね」

 

「この調子なら、お風呂のお湯も肩まで浸かれるくらいになるかな?」

 

「うん、頑張ろ!ね、ペリーヌさん!」

 

「えっ?ま、まぁワタクシはどっちでもいいのですけれど……」

 

「そうと決まれば、少しペースを上げましょうか」

 

 そんな提案をしたユーリが、ふと辺りの空を見回した時──青空の中で、不自然に瞬く光があった。

 

「……ペリーヌさん。今の、見えましたか?」

 

「ええ。あれはまさか……」

 

「ネウロイ……!?」

 

 当初の予定よりもスピードを上げた4人は、島にいるアンナの元へ急ぐのだった。

 

「──アンナさんッ!ネウロイがこっちに向かってます!」

 

 島に降り立つなりアンナの元へ走った芳佳達。勢いよく開かれたドアの向こうで、電話を終えたアンナが受話器を置く。

 

「丁度今、アンタ達の基地から連絡があったよ」

 

「では、誰かが出撃を?」

 

 ユーリの問いに、アンナは首を横に振る。

 

「基地の部隊は、今から出撃したんじゃ間に合わないそうだ」

 

「そんな……!」

 

 そうこうしている内にも、ネウロイはこの島へ接近しつつある。あまり時間は残されていない。

 

「……僕が出ますッ!」

 

「ダメだ。聞いた話じゃ、敵は中型でも結構な大きさだそうだ。1人で相手するのは無茶ってモンだ」

 

「っ……だったら、私達も戦います!」

 

「もっとダメに決まってるだろう!アンタ達がここに来た理由、忘れたわけじゃないだろうね!?」

 

「でも戦わなきゃ、島も橋も壊されちゃいます!見捨てるなんて出来ません!」

 

「そうです!家族が帰ってくるお家なんですよね?」

 

「それに。この橋が無くなったら、お孫さん達が帰って来た時の目印が無くなってしまいますわ」

 

「アンタ達……」

 

「行きましょう──!」

 

 手袋をしっかり着け直すユーリに続き、芳佳達はユニットと武器がしまってある物置小屋に向かう。

 数日ぶりに足を通したユニットに魔法力を流し、4人は勢いよく空へ飛び立っていった。

 

 敵の姿はすぐに発見できた。もう島から目と鼻の先まで近づいて来ている。早く撃墜しなければ、戦っている内に島を蹂躙されてしまうだろう。

 先頭を飛ぶペリーヌの指示で、実際に編隊を組んだ経験のある彼女とリーネが攻撃。芳佳とユーリがそれを援護する形を取る。

 

「攻撃開始──ッ!」

 

 先行するペリーヌとリーネが攻撃を開始。彼女を援護しつつ先導に従い進むリーネを、更に後ろから芳佳とユーリがカバーする。

 ビームを躱しながら至近距離からの銃撃を浴びせていくが、ペリーヌと芳佳の銃では有効打を与えることができない。リーネのボーイズ対装甲ライフルでも大きなダメージには至らず、すぐに再生されてしまっていた。

 

「装甲が硬い……!ユーリさんッ──!」

 

「了解──ッ!」

 

 自分達では火力不足と判断したペリーヌは、後方のユーリに攻撃を代わると同時にリーネ共々退避する。

 2人が十分距離を取ったのを確認すると、獲物を構えネウロイを照準。引き金を絞るべく指に力を込めようとした時──ネウロイの機体で一際存在感を放っていた大きな赤い砲門から、強力な閃光が放たれた。

 

 空気を斬り上げるような軌道で遠方まで伸びていくビーム。この距離であれば十分回避可能だったが、ユーリが選んだのは回避ではなく、防御だった。

 

「ユーリさん!」

 

「くぅ……ッ!」

 

 シールドでビームを防ぐユーリの背後には、まさに4人が守ろうとしている島があったのだ。もしユーリが回避を選んでいたなら、ネウロイの攻撃によって島への被害は避けられなかっただろう。

 見事な反応で島を守ったユーリだったが、ネウロイはそこへ目をつけた。自身に対し有効な攻撃手段を持っているのであろうユーリが攻撃態勢に移れないよう、絶え間なく島目掛けてビームを放つ。当然芳佳達も助けに入ろうとするが、そうはさせじとビームの雨を降らせてウィッチ達の合流を阻む。

 

「倒そうにも私達だけじゃ火力が足りないよ……!」

 

「でもこの攻撃ではユーリさんと合流できませんわ──!」

 

 こうしている間にもネウロイは島へ接近している。悠長に考えている時間は無い。そんな時、芳佳がある提案をする。

 

「──1人1人で足りないなら、3人同時に行こう!」

 

「3人同時に……って」

 

3機編隊(ケッテ)なんて高度な事、私達じゃ──」

 

「──出来るッ!」

 

 

「「……!」」

 

 

「私達3人なら出来るよ!」

 

 傍からすれば何の根拠もない芳佳の言葉だが、リーネとペリーヌの胸には驚く程すんなりと入ってきた。

 

「……そうですわね。ワタクシ達なら!──行きますわよッ!」

 

「はいッ!」

 

 意を決して3機編隊による同時攻撃を試みる3人。

 現在主流である2機編隊(ロッテ)に比べて、3機編隊(ケッテ)は1人の長機と、その後ろに付く2人の僚機が相互支援の息を合わせることが非常に難しいとされている。その為の訓練を積んだ訳でもない3人が、ぶっつけ本番で出来るような事ではないはずなのだが──

 

「すごい……皆の動きが見える!」

 

「余裕を持って攻撃を躱せますわ!」

 

「箒の特訓のお陰だよ!」

 

 この戦いが始まる直前──彼女達は大きなたらいを4人で運んでいた。ストライカーの場合、スピードを調節する際はエンジンの回転数を目安にできるが、あの時彼女達が乗っていた箒にそんなものは無い。箒に込める魔法力の微妙な加減で速度を調節する他ない。即ち、急ぎながらも水入りのたらいを持ち帰ることが出来た4人は、お互いの速度や加速のタイミングをしっかり意識できていたという事だ。

 誰か1人でも遅れたり、また先行し過ぎればせっかく汲んだ水が海に還ってしまうあの状況が、図らずもこの3機編隊攻撃を可能とさせる大きな要因となっていたのだ。

 

 見事な連携でネウロイの攻撃を躱しながら攻撃を続けていると、砕けた装甲の内から赤く輝くコアが覗いた。しかし、やはり強固な装甲だけあって損傷は軽微。再生するのにかかる時間もほんの数秒といった所だろう。

 

 加えて、この場から離脱するつもりなのか、ネウロイは移動速度を上げる。このままでは島の直上を通過し、ネウロイの進路上のものは全て焼き払われてしまう。

 

「──私がやりますッ!」

 

 見る見る離れていくネウロイ目掛けてボーイズを突きつけたリーネは、サイトにコアを収めて引き金を絞る。放たれた徹甲弾は命中こそしたが、タッチの差で再生が終わるのが先だった。装甲の表面に傷をつけるのみに終わってしまう。

 再生が終わった事でネウロイ側にも余裕が出来たのか、お返しとばかりにリーネ目掛けて幾筋ものビームが放たれる──!

 

「危ない!リーネちゃん──ッ!」

 

「きゃあ───ッ!」

 

 狙いが甘かったのか、迫るビームはどれもリーネの体には命中しなかったが、その内の一条がユニットの先端を捉えた。タービン部分を破損したリーネはバランスを崩し、海に落下していく。

 助けも間に合わないかに見えたその時──リーネの体を抱きとめる人影が。ネウロイの攻撃が止まった事で自由に動けるようになったユーリだ。

 

「大丈夫ですか、リーネさん!?」

 

「ユーリさん──はい!」

 

「マズい──もうすぐ島ですわ!早くコアを破壊しないと!」

 

 こちらも追いかけてるとはいえ、ネウロイとの距離はかなり開いてしまっている。リーネとユーリのスナイパー組でギリギリ届くかといった所だ。

 そこで、リーネは自分を後ろから抱き抱えるユーリにある提案をする。

 

「……ユーリさん。ブリタニアで最後に戦った時の事、覚えてますか?」

 

「えっ……?」

 

「お願いします!()()()と同じように──!」

 

 そう言われて、ユーリはリーネが何を考えているのかを理解した。ユーリがリーネの体をしっかりと抱え直し、銃を構える彼女の手に自分の手を重ねる。

 

「コアの位置は──!?」

 

「覚えてます!後は当たりさえすれば──!」

 

「大丈夫です──」

 

「──はい!私とユーリさんの2人なら、絶対に──!」

 

 重ねた手を起点に、2人の意識までもが重なっていく。互いの呼吸、心音、息遣いを感じながら、波長が完全にシンクロした刹那──弾丸が放たれた。

 ユーリとリーネの魔法を掛け合わせることで可能となる、銃の有効射程を超えた超長距離狙撃──風を切り裂き、咆哮の尾を引いて突き進む鋼鉄の槍は、リーネが睨んでいたただ一点を正確に貫く──!

 リーネ1人では仮に命中しても()けなかったであろう漆黒の装甲は、ユーリの魔法による後押しもあって一撃で崩壊。内部に潜んでいたコアをも撃ち砕いた。

 

「やった……!やりました!ユーリさんっ!」

 

「ええ!」

 

「お見事でしたわ。流石、501きってのスナイパーですわね」

 

「すごいよ2人共!私達、アンナさんの家も橋も守れたんだね!」

 

 空から見下ろす限り、島にも橋にも被害らしい被害は見られない。無事、ネウロイの手からアンナの島を守りきることに成功したのだ。

 全員で喜びに顔を綻ばせる中、何やらそわそわしていたペリーヌはひとつ咳払いをする。

 

「……ところで。その、あなた達はいつまでそうしているつもりですの……?」

 

「えっ……?」

 

 やや気まずそうなペリーヌの視線の先では、未だに抱えて抱えられての状態なユーリとリーネの姿が……。

 

「あっ……す、すみませんリーネさん!──えと、宮藤さん!肩を貸してあげてください」

 

 ユーリに代わって芳佳に支えられたリーネは、何度も頭を下げるユーリを恥ずかしそうに笑いながら宥める。

 

「そ、そんなに気にしないでください。頼んだのは私ですし、ユーリさんのお陰でネウロイを倒せましたから」

 

「そうですよ~!こーやってリーネちゃんに抱きついてると何だか落ち着くの、私も分かります!」

 

「よ、芳佳ちゃん……ッ!?」

 

「宮藤さん!ユーリさんの前で何をしてるんですか、はしたない!」

 

「だって本当に落ち着くんですもん~!ほら、ペリーヌさんもぎゅ~!」

 

 芳佳に引き込まれたペリーヌは、2人で左右からリーネを挟み込む形になる。確かに、最初はリーネのほんわかとした雰囲気にあてられて気を許しそうになったが……ふと、腕に()()()()()()を感じたことで我に返る。

 

「ハッ──!?ほ、ほら!馬鹿なことをやってないで、さっさと戻りますわよ!」

 

 ペリーヌに続き、4人はアンナの待つ島へ降り立つ。そこで島を守ってくれた感謝の言葉と共に、合格の2文字を受け取ったのだった。

 




最初は1人だけアンナさんにめっちゃ可愛がられるユーリ君なんてのも考えてたんですが、普通に同じ接し方に落ち着きました。

流石にユーリ君とて初見の箒はちょっと難しかったようですね。
ルッキーニは天才故に1発でビュンビュン乗りこなしてたみたいですが。
(↑小説版で描かれてるらしいです)

…そして、話の中では多少経ってるとはいえ女の子からプレゼントをもらった次の話で別の女の子に抱きつく(?)ユーリ君…w

えー、全て私のせいです。
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