501のウィザード   作:青雷

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今回のサブタイは「ローマの休日」みたいなノリでつけましたが、特に意味はないです
ホントにその場のノリです


ユーリの休日

 壊滅した504基地がそうであるように、基地機能を十分な水準まで回復させるには時間と手間がかかる。

 戦闘に必要な武器弾薬は勿論、機材類を整備する為の器具や燃料、通信インフラの確立、その他各種周辺機器の設置。緊急用の医薬品も備えが必要だ。そんな中で、前述の武装類に次いで優先度が高くなるものといえば、やはり食料だろう。

 腹が減っては何とやら。食料不足が与える影響が単なる空腹のみにとどまらないという事は、いつぞやの502部隊が証明している。そしてそれは、急遽再結成された所為で、あり合わせの物資しか手元になかった501部隊も例外ではなく……

 

「──というわけで、本日はローマ市街への臨時補給を実施します。何か欲しい物がある人は、事前に伝えておいて下さいね」

 

 未だ本格的な補給の目処が立っていない為に、隊員自らが市街へ出向いて物資を調達する──比較的状況が落ち着いている地域ではそう珍しい事でもないが、訓練と出撃の繰り返しだった501の面々にとっては、久し振りに訪れたお出かけのチャンスだ。

 ……とは言っても、そこはやはり軍人というべきか。率先して街に出たいと手を挙げる者は殆どおらず、補給には運搬用の大型トラックを運転できるシャーリーと、生まれ故郷ということで土地勘のあるルッキーニ、ローマの街を見てみたいと手を挙げた芳佳の3人に、意外にも手を挙げたユーリを加えた4人が向かう事となっている。

 

「──宮藤さん。買い物のリストは纏まりましたか?」

 

「えっと……あ、エイラさんがまだです」

 

「エイラさんの分なら先程僕が伺いましたから、これで全員分ですね。行きましょうか」

 

 ユーリの手にはエイラから渡されたメモが。紙面には、彼女がサーニャの為にと頼んだ枕の色や柄、材質といった細かな注文がびっしりと書き連ねてある。果たしてオーダーメイド以外でこれらの要件を全て満たす理想の枕が存在するのか……ユーリがそんな疑問をぶつけてみたところ、エイラは悩みながらも最低限譲れない部分をピックアップし、妥協点とした。

 

 美緒から買い物用の資金を受け取り、準備は完了。運転席にシャーリー、助手席にユーリ。そして芳佳とルッキーニを荷台に乗せたトラックは、ローマ市街を目指して発進した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 基地を出発して数分後──荷台から車内へ移った芳佳はぐったりとしていた。原因は至ってシンプル、車酔いである。

 彼女とて乗り物に酔いやすい体質ではない。そもそも、いくら乗っていたのが荷台とはいえ、トラックで酔っているようではストライカーで飛ぶことなど夢のまた夢だ。

 もしこの状況を美緒が目にすれば「修行が足りん!」と一喝するだろうが、その隣でユーリもまた疲れた顔をしているのを見れば、話が変わってくるだろう。

 

「うぅ……気持ち悪い……」

 

「まさか……シャーリーさんの運転がああも大胆だったとは…──」

 

 出発してすぐの頃は、正に平和そのものだった。

 助手席で地図を確認していたユーリが、もうすぐ崖道に差し掛かる為、スピードを緩めるよう忠告したその瞬間──ハンドルを握るシャーリーは、あろう事かギアを一気に高速(トップ)へシフトさせたのだ。驚きに目を剥いたのも束の間、悪路を猛スピードで進み始めるトラック。カーブに差し掛かってもその速度が落ちる事はない。どうやら脱輪するかしないかというギリギリの所を走っているらしく、後ろから芳佳の恐怖に満ちた悲鳴が聞こえてきた。

 挙句の果てにはスピードに乗ったトラックが崖から大ジャンプをかまし、大幅なショートカットを成功させたのだった。

 

 ──と、そんな事があり。盛大に内蔵をシェイクされた芳佳とユーリはこうしてダウンしているというわけだ。そんな2人を気遣ってなのか、ルッキーニは芳佳達の肩を叩く。

 

「見て見て!ローマの街だよ!」

 

 車窓の外には、過ぎ行く街道の風景に混じって、巨大な建造物が。

 

「うわぁ……!すごーい!」

 

「芳佳はローマ来るの初めて?」

 

「うん!──ねぇ、あれは何?」

 

「あれはコロッセウム。昔の闘技場だよ」

 

 初めて目にするローマの街並みに感激を禁じえない芳佳。気付けば酔いも吹き飛んでおり、そんな彼女に、ルッキーニはローマの名所を次々と紹介していった。

 

「ローマって、古い建物が沢山残ってるんだね」

 

「ロマーニャの中でも、ローマは特に歴史ある街だからな。ネウロイとの戦いが本格化する前は、今よりもっと沢山の人が観光に来て賑わってたって話だ」

 

「ふふーん!凄いでしょー?」

 

「うん!すっごく素敵な街だね!ルッキーニちゃんが生まれた街なんでしょ?」

 

「ん。まぁね」

 

「そういやアフリカにいた時は、ずっとローマの自慢話してたよなー?」

 

「ふふっ──ルッキーニさん、本当にローマの街がお好きなんですね」

 

「だってだって!ホントにいい街なんだもーん!」

 

「はいはい。分かった分かった」

 

 このままローマの魅力を一から語り始めそうなルッキーニだったが、彼女が口にしたのは「ストップ」の声だった。言われるままに停車したトラックの横には、1軒の雑貨店が。

 

「ここでいいのか?」

 

「うん!ここは大抵の物揃ってるんだ」

 

 扉を押し開けた先の店内は外から見るよりも広く、ルッキーニの言う通り多種多様な商品が並んでいた。高級そうな食器やインテリアに、ロマーニャを始めとする様々な国の酒、食品コーナーには美味しそうなパンも置いてある。確かに大抵の買い物はここで済ませられそうだ。

 

「えーと、まずリーネちゃんの紅茶と、次にお花の種で……」

 

「中佐の言ってたラジオは……お、あった」

 

「ハルトマンさんの目覚まし時計はどうしましょう?バルクホルンさんは"1番音が大きいやつを頼む"と仰ってましたが」

 

「そうだなぁ……コレとかうるさそうじゃないか?」

 

 各々で隊の皆から頼まれたものを探し集める中、ルッキーニは自分用のお菓子を物色していた。馴染みある店だけあって選ぶのにそう時間は掛からなかったようで、彼女のバスケットには沢山のお菓子が詰め込まれていた。……因みに、この中にはハルトマンの分も入っている。

 

「──シャーリーさーん!お洋服選ぶの、手伝ってもらっていいですかー?」

 

「おーう、いいぞー」

 

 芳佳とシャーリーが洋服コーナーに向かう一方、ユーリはエイラに頼まれたサーニャの枕を探していた。

 

「えーと……"色は黒で、赤のワンポイントがあると良し。素材はベルベット、それが無ければ手触りのいいもの。中綿は水鳥の羽根で、ダウンかスモールフェザーetc."──本当にあるのか?こんな枕」

 

 エイラに渡されたメモを改めて読み返してみるが、やはり注文が多いと言わざるを得ない。サーニャの為に高品質な枕を贈ろうという彼女の気持ちもよく分かる。妥協点こそ示されているものの、ユーリとしてもできる限りエイラの要望は叶えたいのが正直なところではあるのだが……

 

 寝具コーナーに並ぶ枕をいくつか物色してみるも、中々コレ!というものが見つからない。色は合致していてもワンポイントが入っていなかったり、手触りが良くても色が黒とはかけ離れた明るい色だったりと、どこかが合致しては別のどこかが外れる。この繰り返しだ。

 

 どうしたものかと悩むユーリ。そんな時、1つの枕が目に留まった。

 

「これは……赤ズボン隊のマーク?」

 

 目の前にある黒い枕には赤い猫のワンポイントが入っており、手触りも良い。流石にエイラの要望と完全一致とはいかなかったが、中の素材にも拘っているようだ。

 赤ズボン隊は504部隊の隊長も務めるドッリオの提案で、こういった様々なグッズを開発しては売上を活動資金や国の運営に充てているという話だが、まさかこのようなタイミングで彼女達に救われる事になろうとは。

 

 赤ズボン隊枕を手にシャーリー達の元へ戻ったユーリ。頼まれていた物が一通り揃った所で、最後に自分達の買い物を済ませようという話になった。

 

「──ユーリは何買うんだ?」

 

「それが……欲しい物と言われても、特に……」

 

「そういうとこは相変わらずだなぁ……よし──」

 

 シャーリーに勧められ、ユーリは暫く1人で店内を見て回ることに。

「何でもいいから、ちょっとでも興味が湧いたものを買ってみろ」という彼女の言葉を参考にふらりと訪れたのは、様々な本が並ぶ書籍コーナーだった。

 ざっと見ただけでも、ジャンルは多岐に渡る。子供向けの絵本に、これまた様々なジャンルの小説。詩集、伝記、生き物や植物を纏めた図鑑──美緒やバルクホルンが喜びそうな効率のいいトレーニング法を載せた本もあった。

 ユーリは小説コーナーの中から本を1冊手に取ると、軽く中に目を通してみる。

 

 タイトルは"時を翔けた魔女"──主人公は、両親をネウロイに殺され復讐を誓ったウィッチ。ある日突然、彼女は時を越える固有魔法を発現させ、生前の両親と過去の世界で出会い、正体を隠しつつ2人が死なないよう奮闘する──という話らしい。

 

 復讐心から戦いに明け暮れていた少女が、過去へ飛ぶことでどんな道を歩むのか。それが純粋に気になったユーリは、一先ずこの本を購入することにした。

 

 会計に向かう道すがら、通路の棚を何の気なしに流し見していると……ふと、ユーリの足が止まった。視線の先の商品棚には、何やら短い筒状のものが立ち並んでおり、一見して何に使うものなのか見当もつかない。

 試しに手に取ってみる。筒の側面は鮮やかな紫色をしているのに対し、天面は黒一色──否、中央に穴が空いていた。筒の中を覗き込んだユーリは、思わず言葉を失った。

 

 筒の中では、色とりどりの煌びやかな欠片が複雑に組み合わさり、紋様を形作っていた。それはちょっとした衝撃で崩れ去り、新たな別の紋様へとすぐさま姿を変える。

 

「──綺麗でしょう?」

 

 不意に掛けられた声で、ユーリは我に返った。声の方へ目をやると、この店の店主らしい老女が、微笑ましげな目を向けている。

 

万華鏡(カレイドスコーピオ)を見るのは初めてかしら?」

 

「は、はい……あっ、申し訳ありません。売り物を勝手に」

 

「ふふっ、いいのよ。買う前に見てもらいたくて置いてるんだから」

 

 筒を棚に戻したユーリは、これがどういったものなのかを店主に尋ねた。

 

「これはね、筒の中に入っている鏡を使って色んな模様を楽しむものなの。先端にビーズやガラス片を入れられるんだけど、種類や形、大きさで、見れる模様も全然違うのよ。面白いでしょう?」

 

「確かに、今まで見たことのない光景でしたが……いずれ全ての模様を見尽くしてしまうのでは……?」

 

 言外に「すぐ飽きてしまうのではないか」と言ったユーリにも、店主は優しく笑って答えた。

 

「そう思うでしょう?でもね、そうはならないの。──私はね、万華鏡は誰でも使える魔法なんじゃないかって思うのよ」

 

「魔法……?」

 

「そう。万華鏡の中には無数の世界が広がっている──その全てを見通すことは出来ないし、一度見た世界(紋様)は二度と見ることが出来ない。同じに見えても、必ずどこかが違う。万華鏡を覗いて見える世界は、その1つ1つが全て奇跡──運命なの。沢山の世界の中から、自分だけが知っている景色と運命的に引き合わせてくれるなんて、魔法みたいじゃない?」

 

 基本的に一度見れば忘却してしまうだけの夢と同じように、万華鏡の景色もふとした拍子に崩れ去り、二度と同じものを目にすることは出来ない。代わりに、それこそ夢のような光景を届ける万華鏡は、魔法力を持たずとも、誰にでも扱える魔法──笑顔の魔法とでも言うべき力を持っているのではないだろうか。

 人生も同じ。一度経験した事を再び味わうのは、過去の自分よりも少しだけ成長した自分──成長したが故に、前回とは違った結果を招く事もあるだろう。

 だからこそ、一度しか無い"一瞬"を大切に生きていく事が重要なのだ。と、彼女は語った。

 

「──なんてね。後ろ半分は私の主人の受け売りなの。がっかりさせちゃったかしら?」

 

「いえ……良い考え方だと思います」

 

「なら良かった。あなたみたいな若い子にも共感してもらえて、きっとあの人も喜んでるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の買い物を済ませた3人が店の入口に戻ると──

 

「……おい、ルッキーニはどこだ?」

 

「私は見てないです」

 

「僕も……」

 

 先に買い物を済ませてシャーリー達を待っていたはずのルッキーニの姿がない。店内を隈なく探してもおらず、車に戻っているわけでもない。彼女に任せていた荷物諸共、忽然と姿を消していた。

 

「ったく、どこ行っちゃったんだよアイツ……」

 

「そう時間は掛かっていないはずですし、あまり遠くへ行っていないといいんですが……」

 

 ここはルッキーニの生まれ育った街だ。そんな彼女に限って迷うことはないはずだが、それはそれとして心配ではある。何より、ルッキーニに預けた荷物の中には、まだ手に入っていない食料を買う為の資金も入っている。このまま合流できなければ、最重要目的である食料難を解決できないのだ。

 

「もう少しだけ待ってみて、それでも戻って来ない様なら、探しに行きましょう」

 

 ユーリの提案を受け、何をするでもなく車の中で時間を潰す3人。しかしどれだけ待てどもルッキーニが戻ってくる気配は無く、一行はルッキーニの捜索を開始した。

 

 道行く人に目撃情報を聞いてみたり、彼女の行きそうな場所を探してみたりと、あれやこれや知恵を絞ってみたはいいが……

 

「あぁー…もう全然みつかんねー……」

 

「せめて写真でもあれば、少しは違ったんでしょうか……」

 

「お腹も減ってきたし、もうヘトヘトです……」

 

 この様子を見れば分かる通り、収穫はゼロ。些細な情報すら手に入らなかった。そこへ追い打ちをかけるように、空腹が彼女らを襲う。手元にあるのは先程の買い物で余ったお釣りだけで、それも一時凌ぎの軽食に全て使ってしまった為、今は正真正銘の一文無しというわけだ。

 

 一度最初の店に戻ってみるか等と話していると……

 

 

「──ユーリ?」

 

 

 不意に名前を呼ばれる。目の前のシャーリーとも芳佳とも違う、しかし聞き覚えのある声に振り返ると……

 

「やっぱり!久しぶり──ってほどでもないか。元気にしてる?」

 

「パティさん……!?それに、アンジーさんも……!」

 

 そこにいたのは、504部隊の隊員であるパティだった。隣には同じく504の隊員であるアンジーの姿もある。

 

「この2人、知り合いか?」

 

「はい。504部隊でお世話になった方々です」

 

 初対面となるユーリ以外の4人が互いに自己紹介をしたところで、話は本題に入る。

 

「それで、准尉達はこんな所で何をしていたんだ?随分と深刻そうな顔をしていたようだが」

 

 ユーリから事情を聞かされた2人だが、やはり彼女達もルッキーニらしき姿は見ていないとのことだった。

 

「まぁ立ち話もなんだし、作戦会議も兼ねてお茶でもどう?私達も手伝うわ」

 

「いえ。わざわざお時間を取らせるわけには……!」

 

「大丈夫よ。時間ならたっぷりあるし。ね、アンジー」

 

「そうだな。それに──准尉、あの時交わした約束を覚えているか?」

 

「約束……トラヤヌス作戦の時の、ですか?」

 

「そうだ。少しばかり時間が掛かってしまったが、ちょうど先日、リストが纏まってな。味は保証する。シェイド中尉のお墨付きだ」

 

 トラヤヌス作戦の最中、その場の思いつきで交わした約束──アンジーおすすめの料理店を教えて欲しい。という約束を、彼女はしっかり果たすつもりらしい。何でもこの約束の為に、アンジーはパティを連れてローマ中の店という店をはしごしたのだとか。……結局1店には絞れず、パスタやピザ、スイーツといったジャンル毎にリストアップしたようだ。

 

 美味しい店を紹介してくれるのはありがたいのだが、今のユーリ達にはそれ以前の問題が……

 

「お恥ずかしい話なんですが……実は、今手持ちがほぼゼロでして」

 

「そんなに……?仕方ないわねー、奢ってあげる」

 

 

「「いいのか(んですか)ッ──!?」」

 

 

「すごい食いつき…──いいわよ。ユーリにはトラヤヌス作戦でアンジーを助けて貰ったしね。そのお礼」

 

「パティさん……ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます」

 

 パティ達に連れられて訪れたのは、多くの店が建ち並ぶ路地。その中の1つであるカフェだった。

 

「ここのケーキが美味いんだ。特にイチゴジャムのケーキは絶品だぞ。スポンジケーキにジャムと生クリームのみという非常にシンプルなものだが、きめ細かいスポンジのふんわりとした食感に、生クリームの甘さとジャムの芳醇な味わいがよくマッチしている。紅茶を合わせれば甘さもしつこくなく、いくらでも食べられてしまう。また、その紅茶も茶葉に拘っていてだな──」

 

「は、早いとこ注文しちゃいましょうか……全員同じのでいい?」

 

 席に着いて早々、ケーキについて語り始めるアンジー。初対面ながら芳佳とシャーリーが圧倒されている横で、ユーリだけはアンジーの話にしっかり耳を傾けている。

 程なくして到着したアンジーおすすめのケーキ。それを口にした芳佳は、

 

「……美味しい!──シャーリーさん!コレすっごく美味しいですよ!」

 

「美味いのはいいけど、ルッキーニを探す作戦会議もしなきゃなんだからなー?」

 

 一応この中では最も階級が上のシャーリーは、ケーキに夢中の芳佳を窘めつつ、自身も一口。

 

「……すっげー美味いなコレ!?」

 

「ですよね!?」

 

 ついさっきまでの真剣な表情はどこへやら。シャーリーもケーキの放つ魔力にあてられてしまう。そんな彼女達を他所に、パティはユーリと話をしていた。

 

「──なる程。それは災難だったわねぇ」

 

「ある意味では、いい経験になりました」

 

「それで?ドッリオ少佐に言われた事、実践できそう?」

 

「まだまだ手探りですけどね」

 

「それでも、自分から動けるようになっただけ進歩じゃない。今日だって何か買ったんでしょ?」

 

「はい。小説と……あと、コレを」

 

 ユーリが取り出したのは、あの万華鏡だった。

 

「懐かしいわね~。私も子供の頃、綺麗だなーって覗いてたわ──でも、何で万華鏡なの?」

 

「何故、と言われると難しいんですが……妙に心が惹かれた…いえ、少し違いますね。えっと──」

 

 ケーキを食べるのもそこそこに考え込むユーリ。再び口を開こうとしたその時──

 

 

「「──ッ!?」」

 

 

 ローマの街に、物々しい警報が鳴り響いた。これは……

 

「ネウロイ……!」

 

「あいつら、ローマにまで南下してんのか……!?」

 

「宮藤さん、シャーリーさん!」

 

「ああ、行くぞ!」

 

「ちょ、行くって……!?」

 

 食事中という事で外していた手袋を掴んだユーリは、芳佳とシャーリー共々トラックに走る。慌てて後を追ったパティとアンジーを荷台に乗せたトラックは、警報が鳴ったばかりでまだ人の少ない街道を、街の広場に向けて駆け抜けていった。

 

「ねぇ──!何か手立てはあるわけ!?」

 

「当然──ッ!」

 

 ここで、窓から顔を覗かせていた芳佳があるものを捉える。

 

「いました!ルッキーニちゃんです!あの塔の上に──!」

 

「あれかッ!──っし、振り落とされんなよォ──!」

 

 シャーリーはブレーキと同時にハンドルを切り、豪快にドリフトを決める。芳佳が指し示した塔の下で車を停めると、ユーリは荷台を覆っていたシートを勢いよく引き剥がした──!

 

「これって……!」

 

「ストライカーユニット……!ここまでずっと積んでいたのか!?」

 

「備えあれば、ってね──!」

 

 ユーリと芳佳に続き、シャーリーも自らのユニットを駆り、ローマの空へ身を躍らせる。

 

「どうしよう……私達はユニット持ってきてないし……!」

 

 やや取り乱している様子のパティの肩を、アンジーが叩いた。

 

「落ち着けシェイド中尉。我々は我々に出来る事をするんだ」

 

「アンジー……うん、そうだね。まずは街の人の避難誘導──!」

 

 パティ達が行動を開始した直後、塔を滑り降りて来たルッキーニもユニットを装着して離陸。シャーリー達と合流した。

 

「ロマーニャは私が守るんだ──ッ!」

 

「ルッキーニ!1人で先走るな!」

 

「でも──ッ!」

 

「分かってるよ。でも1人で行くなってことだ」

 

「僕達も一緒です!」

 

「そうだよ!ルッキーニちゃんの生まれた街だもん。一緒に守ろう!」

 

「皆……うん!ありがとう!」

 

 やがて、街へ侵入してきたネウロイの機影を肉眼で確認した。敵は単機。このメンバーであれば、十分に戦える。

 

「敵の流れ弾が街に当たるとマズい──ルッキーニ!あたし達3人であいつを上に引き付ける、その隙にお前がコアを探すんだ!」

 

「了解ッ!」

 

 シャーリーの指示通り、芳佳とユーリはネウロイの上方から攻撃を加え、敵の攻撃を上方向へと引き付ける。これで一先ず、街への被害は抑えられるはずだ。

 そしてその間にも、すばしっこく周囲を飛び回るルッキーニによって装甲を削られていたネウロイは、早くも機体の下部に潜んでいたコアを露出させた。

 

「シャーリー!コア見つけたよ!」

 

「よし、"X攻撃"だ!宮藤は下に回れ──!」

 

「はい──ッ!」

 

 大きく旋回した芳佳がルッキーニと合流。残ったシャーリーとユーリは引き続きネウロイへ攻撃を続け、敵をより自分達側──上空へと引き付ける。

 

「よし、良いぞ──そのままこっちに来い……!」

 

「もう少し……!」

 

 あと少しで目的の位置に誘い出せるという所で、敵側もこちらの狙いに気づいらしい。攻撃の矛先はシャーリー達ではなく、自身の下から接近してきていたルッキーニへと向けられた。

 だがそれも想定の範囲内──!

 

「ルッキーニちゃん──ッ!」

 

 ルッキーニに向けて放たれたビームの大部分は、先行する芳佳の強固なシールドによって阻まれる、それでも尚放たれ続けるビームの合間を縫うようにして、ルッキーニは前方に多重シールドを展開。続けて己の固有魔法を発動させた。

 

「てやぁああああああああああ──ッ!!!」

 

 当初と比べて狙いは逸れたものの、進路を即座に修正したルッキーニは、ユニットのエンジンを全開にして真っ直ぐコアへと突っ込む──!

 固有魔法〔光熱〕によって灼熱の槍と化したルッキーニに大穴を穿たれたネウロイは、甲高い断末魔を残しながらその身を無数の金属片と変えて散っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事にネウロイの襲撃を退け、元の賑やかな喧騒が戻って来たローマの街。その広場では、ルッキーニがはぐれている最中に知り合ったらしい少女と別れの挨拶を交わしていた。また、一方では……

 

「──お疲れ様。大活躍だったわね」

 

「今回の功労者はルッキーニさんですよ。僕はただ手伝っただけです」

 

「そう謙遜するな。ネウロイから街を守ったことに変わりはない」

 

「なら、お2人もですね。アンジーさん達が市民の方々の避難誘導をしてくださったお陰で、僕達も戦いに集中できました」

 

「何。ウィッチとして当然の事をしたまでだ。──准尉達はこのまま501基地へ戻るのか?」

 

「はい。買った物をお渡ししないといけませんから。……まぁ、1番重要な食料(もの)は買えなかったんですけど」

 

 ……そう。食料調達用に残しておいた資金は、はぐれたルッキーニが道中で全部使ってしまったのだという。聞けばローマの子供達へ食事等を振舞ったというのだから、使い道としてはまだマシと言えるかもしれないが……食料不足が解決しないのは501部隊にとってかなりの痛手だ。

 

504部隊(ウチ)から少し分けてあげられれば良かったんだけど……生憎そんな余裕も無いのよね」

 

「まぁ、皆さんと協力して何とかしてみます。──パティさん、アンジーさん。今日はありがとうございました」

 

「こちらこそ。501部隊の面白い話も聞けたし、それに……」

 

 パティは意味有りげなニヤニヤとした視線をユーリの左手に向ける。

 

「……いいお土産話もできたことだしね」

 

「……?」

 

 最後にユーリが小首を傾げて、501部隊は自分達への基地へ向かって出発する。道すがらルッキーニは、行きの時の芳佳に代わって荷台に乗っているユーリにこんなことを聞いてきた。

 

「ねぇユーリ。ノバ…じゃなくて、のぶ…れす?なんとか~ってやつ、どういう意味か分かる?」

 

「……もしかして、"Noblesse oblige(ノブレス オブリージュ)"ですか?」

 

「そうそれ!」

 

「そうですね……直訳するなら"貴族の義務"──といったところでしょうか」

 

「きぞくって、ペリーヌみたいなのだよね?でも私、きぞくじゃないよ?」

 

 一層首を傾げるルッキーニ。

 

「あはは……もう少し解釈を広げるなら、"恵まれた才能や大きな権力を持つ者は、それらを正しい事に使わなければならない"──ですかね」

 

「正しい事って?」

 

「要するに人助けですよ。例えばお金持ちの人は、そのお金を自分の為だけじゃなくて、自分以外の誰かの為にも使うべき──そういった、力や財産に伴う責任を表す言葉です」

 

「うーん……わかったけど、わかんないや」

 

 そう言って、ルッキーニは荷台に寝転ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日──依然として食料難が続く501部隊の基地に、大量の支援物資が投下される。

 その送り主は……何と、ロマーニャ公室。一体何があったのか。現時点で真実を知るのは、昨日ルッキーニと2人でローマの街を練り歩いたロマーニャ公国第一公女 マリア・ピア・ディ・ロマーニャただ1人である。

 




気付けばもう6月も半ば。
来月からはいよいよルミナスウィッチーズが放送開始となりますね。


今回の話、当初は「アンジーセレクトのお店を手紙で教えてもらったユーリがシャーリー達と食べ歩く」みたいな感じで504のメンバーは出さずに行こうかなと思っていたんですが、思い切って出しちゃいました。
話数的にはほんの数話なのに、504メンバーのやり取りを書くのが随分久しぶりに感じます。

恐らくこのあとの504基地には、パティから「ユーリ、ちゃんと例の手袋着けてたわよ~良かったわね~」ってからかわれるルチアナがいると思います。
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