501のウィザード   作:青雷

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通しで書こうと思ったら思いの外長くなったので、キリのいい所でカットした前編をお送りします。



プレゼント・フォー・ユー

「おはようございま……一体何事ですか、この状況は?」

 

 昨夜の夜間飛行訓練を経た翌日──目覚ましとして寝起きの運動を少し長く行っていたユーリが食堂へ向かうと、そこには死屍累々の光景が。

 

 生存者は美緒、ミーナ、芳佳、シャーリーの4人のみ。他は全員苦い顔でグッタリとしている。

 

「あ、おはようございますユーリさん」

 

「宮藤さん、一体何があったんですか?まさか、敵の攻撃が……!?」

 

「違います違います!皆さんコレを飲まれたんです」

 

 そう言って芳佳が差し出したのは、中型の一斗缶。表面には漢字で「肝油」と書かれている。

 

「ヤツメウナギの肝油です。ビタミンが豊富で、目にも良いんですよ。坂本さんが持ってきたんです」

 

「そんなものが……」

 

 猪口に注がれた肝油をジッと凝視する。透明感のある色味だが、匂いを嗅いでみると魚特有の生臭さが鼻につく。普通に嗅いでこうなのだから、口に入れた時どうなるか…青い顔で固まっているバルクホルンを見れば一目瞭然だ。

 

「ユーリさんもどう?結構いけるわよ?」

 

「……まぁ、ミーナの言葉を信じるかどうかは任せるとして……薬だと思えば飲めんこともない。試しに飲んでみろ」

 

(…これを用意したのが坂本さんである以上、毒や人体に有害なものでないのは確か。バルクホルンさんやサーニャさん達はあんな状態だが、部隊の隊長であるミーナさんは元気そのもの。何かを我慢している様子もない。ならば、信じるべきは隊長──!)

 

 キラキラと照明を反射する液体を前にゴクリと唾を飲み込んだユーリは、意を決して猪口に口を付け、一気に傾ける。

 

「…ッ………っ?」

 

 肝油を飲み干したユーリは、眉をひそめる。

 

「……確かにクセのある匂いですが、言う程不味いものでも……」

 

「そうよね?慣れればグイグイ飲めるというか──」

 

「いえ、それはちょっと……」

 

「はっはっは!初めての肝油の感想がそれとは、大した奴だ」

 

 愉快そうに笑う美緒の後ろで、何やらシャーリーが芳佳に耳打ちをしている。

 

「……けどさ宮藤、それってユーリの奴もミーナ中佐と似たような味覚ってことなんじゃないのか?」

 

「そんなことない……と、思いたいです…けど……」

 

 ユーリの名誉の為に言っておくと、彼からしてみても肝油は決して美味しくない。美緒の言ったように薬として見ればまだ我慢できるレベルだったというだけの話だ。飲めて2杯が限度、3杯目以降はバルクホルン達の後を追うことになる。その点に於いて、コレをグビグビ飲んでいるミーナとは違うのだという事をどうか分かって欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなひと騒動を経て、ユーリ達はまたサーニャの部屋で出動まで待機していた。

 

「へぇー、2人のいた国って寒いトコなんだ」

 

「オラーシャもスオムスも、欧州からユーラシア大陸にかけての寒冷地に位置する国ですからね。スオムスに至ってはマイナス30度を下回ることもあるとか」

 

「マイナス30度……私凍っちゃうよ」

 

「スオムスに比べりゃ、他所の国の冬なんか可愛いもんダ。オラーシャも東の方は寒いらしいけどナ」

 

 サーニャの故郷であるオラーシャ帝国は、ネウロイのヨーロッパ侵攻によって領土の大部分を占領され、国民達は挙ってウラル山脈を超えた国の東へと疎開している。だがウラル付近は寒冷地、中東方面は砂漠地帯と、どちらも人が住むには厳しい環境ということもあり、苦労しているようだ。

 

 サーニャの家族も疎開して難を逃れたようだが、結構な期間、連絡が取れていない。

 

「でも良かった。無事に避難できたんだね」

 

「良かったってなんだヨ?オラーシャはとにかく広いんだぞ、人だって多い。その中から人探しをするなんて、簡単じゃないんダ」

 

 加えて、ここからウラル山脈までの間にはネウロイの巣も存在している。まずそれをどうにか排除しないことには、扶桑方面へ大きく遠回りしない限り近づく事ができない。

 

「そうかもしれないけど…でも、サーニャちゃんの家族は生きてるから。……正直、羨ましい……生きてる限り、諦めなければいつかまた会えるよ。きっと」

 

 芳佳の父親は既にこの世を去っている。どれだけ待っても、どれだけ会いたくても、もう会うことはできない。その辛さを知っている芳佳だからこそ、この言葉には重みがあった。

 

(……僕からしてみれば、宮藤さんも十分羨ましい……なんて言葉は、言うべきじゃないな。そもそもこんな事考える時点で不謹慎極まりない。反省しろ、僕)

 

 部屋の隅で独り鎮座するユーリは、以降口を開くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方になり、任務前に汗を流してさっぱりした一同は、今夜もまた夜の空へ出る。前回は芳佳が初の夜間飛行ということもって、あまり遠方まで出向かないと決めた上での非武装だったが、今回からは全員武装した上での訓練だ。

 

 早くも慣れたのか、もうサーニャ達の手を取らずとも雲海を抜けられるようになった芳佳は、楽しそうに夜空を舞う。

 

「──ねぇ聞いて!今日、私誕生日なんだ!」

 

「えっ、なんで言わなかったんだヨ!」

 

「……私の誕生日は、お父さんの命日でもあるの。それで言おうか迷ってたら、結局言いそびれちゃった」

 

「バカだなぁ。こういう時くらい楽しい事を優先してもいいんだゾ?」

 

「そういうものかなぁ…?」

 

「ふふっ……宮藤さん、耳を澄ませて?」

 

 サーニャに言われるまま耳を欹てるも、当然聴こえてくるのは風を切る騒がしい音のみだ。しかしここで、突然耳に付けたインカムにノイズが走った。何事かと驚く芳佳だが、その正体にすぐに気づく。

 

「これって…音楽?」

 

「……もしや、国際放送の電波を?」

 

「そう。夜になると空が静まって、遠くの電波もこうして拾えるようになるから。夜に1人で飛ぶときはいつも聴いてるの」

 

 ナイトウィッチが広域探査に用いる術式にはいくつか種類があり、一部は基地などに設置されたレーダーにも利用されている。遠方の電波をキャッチして、波形をそのままインカムに投写することでこのような芸当も可能なのだ。

 

「……全く、2人だけの秘密じゃなかったのかヨー……」

 

「ごめんねエイラ。でも、今日は特別だから」

 

 サーニャは2人に聞こえないよう、小声でエイラに謝る。サーニャは501の中で最も親しいエイラにだけこの事を教えており、エイラとしても、それを知ってるのは後にも先にも自分だけだろうと思っていたのだが……

 

「んー……まっ、しょーがないナー」

 

 サーニャの笑顔に負けて溜飲を下げたらしいエイラは、軽やかに周りを旋回する。

 

「──あ、そういえばサーニャちゃん。部屋のカレンダーの今日の部分に印つけてあったよね?今日って何かの記念日なの?」

 

「ああ、今日はサーニャのたん──」

 

「───ッ!?」

 

 エイラの言葉を遮るように、サーニャの魔道針が大きく反応を示す。同時に、どこからか気味の悪い呻き声にも似た音が木霊する。

 

「何、この音……?」

 

「声──いや違う、歌……?」

 

 耳障りなこの音もとい声は、一定のリズムを取りながら音が変化している。似ても似つかないが、ユーリはこれと同じようなものを耳にしたことがあった。

 

「……以前、サーニャさんが歌っていた歌を真似てるつもりか」

 

「敵か、サーニャ!?」

 

「ネウロイなの!?」

 

「──3人共避難して!」

 

 そう言うなり、サーニャはエンジンを奮わせて高度を上げていく。ユーリ達もすぐさま後を追うが、それよりも先にネウロイの攻撃がサーニャに襲いかかった。

 

「サーニャちゃんっ!!」

 

 直撃こそ回避したもののシールドを張る暇もなく、サーニャは左脚のユニットを破壊されてしまった。体勢を崩されて落ちていくサーニャをエイラがフォローし、芳佳とユーリは周辺を警戒する。

 

「バカ!1人でどうしようってんだヨ!!」

 

「…ネウロイの狙いは私、間違いないわ……私から離れて!でないと──」

 

「そんなことできるわけないよ!」

 

 片脚だけのユニットでネウロイと対峙するのは自殺行為にも等しい。戦闘はほぼ不可能と思っていいだろう。芳佳も夜間飛行に慣れてきたとは言え、夜間での戦闘は未経験だ。

 であれば、彼女とサーニャを基地に帰すべき──いや、より安全面を考慮するなら、経験も豊富で未来予知の固有魔法を扱えるエイラも同行させた方がいいだろう。

 

「……宮藤さんとエイラさんはサーニャさんを基地に連れ帰ってください。次の攻撃を防いだら、僕が先行してネウロイを引きつけます」

 

「1人でやる気かヨ!?てか、見えてんのカ?」

 

「見えません。ですがネウロイ側も、雲海に身を潜めたまま攻撃はできないようです。攻撃の直前、こちらを補足できる位置まで浮上してきます。光線の発射地点から敵の位置を割り出せば、僕1人なら何とか」

 

「それでも結構な博打だろ!敵がはっきり見えてた前の時とは違うんだゾ!?」

 

「しかしあのネウロイを放置しておくわけには──」

 

「──私がっ……!」

 

 衝突するユーリとエイラの間に割って入ったサーニャは、真剣な表情でユーリに訴えかける。

 

「私が…ネウロイの位置を教える。それなら雲の中でも戦えるわ。絶対に、足手纏いにはならないから……!」

 

「サーニャさん……」

 

「ユーリさん、私も手伝います!私がサーニャちゃんを絶対に守りますから、だから1人で戦うなんて言わないでください!」

 

「宮藤さんまで……」

 

「私もコイツで援護してやル。オマエなら巻き込まれないだロ」

 

 エイラが手にしているのは、サーニャが持っていたフリーガーハマー。単独でもネウロイを撃破できる大火力を備えた支援火器だ。着弾時に爆発を引き起こすが、ユーリのシモノフの射程距離ならば巻き込まれずに攻撃できる。

 

「……分かりました。サーニャさん、敵の探査をお願いします。」

 

「うん…っ!」

 

 力強く頷いたサーニャは、広域探査に意識を集中する。程なくして、敵の位置が告げられた。

 

「ネウロイは、ベガとアルタイルを結ぶ線の上を真っ直ぐこっちへ向かってる。距離、約3200──」

 

「こうカ…?」

 

「──加速してる。もう少し手前を狙って……そう。あと3秒」

 

 サーニャが伝える位置情報を基に、エイラがフリーガーハマーを照準する。

 

「──今ッ!」

 

「当たれヨ──ッ!」

 

 トリガーが引かれ、前方に配置された発射口から3発のロケット弾が尾を引いて射出される。直線状に着弾したロケット弾が起爆し、雲海に大きな穴を空けていく中で、その内最も遠方へ向けた一発に手応えがあった。

 

「──目標健在。こっちに直進して来てる。でも今の攻撃で速度は落ちたわ」

 

「了解、追撃します──!」

 

 ユーリは身を翻し、直下を通過するネウロイ共々雲海の奥深くに飛び込んだ。これで雲の上にいるエイラ達からは目視できなくなったが、サーニャだけは動向をキャッチしている。

 

 雲の中を突き進むネウロイを捉えたユーリは、足を止めずにシモノフの狙いを定める。轟音と共に徹甲弾が放たれ、依然高速移動中のネウロイに命中するが……

 

(弾道が僅かに逸れた…雲海の所為か!)

 

 雲は水蒸気が凝集したものだ。その中は非常に湿度が高く、濃霧の中にいるも同然。密度の高い空気による抵抗に加え、お互い動き続けながらの狙撃では弾道を安定させるのが難しいのだ。リーネの固有魔法であればこのような状況でも狙った場所に当てることが出来ただろうが、生憎ユーリの〔射撃威力強化〕はその型落ち版。威力は上がるが、当たるかどうかはユーリ自身の技量に完全依存している。

 

 すぐさま弾丸を魔力でコーティングすることで対策することを考えたユーリだったが、ここで前方のネウロイが急速旋回を始める。サーニャ達の元へ引き返し、再度攻撃を仕掛けるつもりだろう。

 当然ながら、じっくりと準備する暇も与えてくれないらしい。

 

「っ………!!」

 

 舌打ちしたユーリは無理やり体を捻り、ネウロイの動きに追従する。強引なUターンで関節の節々が軋む感覚を味わいながらも体勢を立て直すと、ユニットのエンジンを全開にしてネウロイに急接近する。

 幸か不幸か、あくまでもネウロイの狙いはサーニャらしく、すぐ近くを飛ぶユーリに攻撃してくる様子はない。

 

(狙いが逸れるなら、狙わずとも当たる距離で……ッ!)

 

 シモノフを構えた瞬間──

 

『戻ってくるわ、エイラ!』

 

『戻って来んナ──!』

 

 インカムからエイラ達の声と、上方から何かが飛来する音が微かに聞こえる。恐らくフリーガーハマーを発射したのだろう。

 サーニャの正確な位置情報を基にしている以上、ユーリに流れ弾が当たるということはないだろうが、爆風には注意せねばならない。一度ネウロイから距離を取るべき状況だが、これ以上離れるわけにも行かない。フリーガーハマーの装弾数は9発。内6発は既に消費している。エイラが援護できる回数も残り少ないのだ。

 

 目標へ3発のロケット弾が迫る──しかしネウロイ側も学習しているのか、器用に舵を切って攻撃を回避してしまう。そのすぐ後を飛ぶユーリは爆風の及ばないネウロイの真下に張り付き、何とか動きについていった。

 

『クソ、いい加減出てこイ──っ!』

 

 エイラがフリーガーハマー最後の3発を発射した。その瞬間、ユーリは体を仰向け、直上のネウロイに銃口を突きつける。

 

(この状況なら──ッ!)

 

 ユーリの体を魔力光が包み、薬室内の弾丸に魔力が充填される。撃鉄が信管を叩き、轟音を伴って放たれた銃弾がネウロイに命中すると、ユーリのもう1つの固有魔法によって弾丸に込められた魔力が〔炸裂〕する──!

 

 ユーリの攻撃でネウロイの装甲が爆砕されると同時に、フリーガーハマーの弾頭も命中。ネウロイの上下で爆発が起こる。続く2発のロケット弾にもタイミングを合わせて射撃、そして魔法を発動──雲の上のエイラ達には、フリーガーハマーの攻撃でネウロイの機体の後ろ半分が吹き飛んだように見えていることだろう。

 

 斯くして、ここまでずっと雲海に身を潜めていたネウロイが姿を現す。雲の中を魚雷のように潜行していたのは、先端が鋭く尖ったミサイル型のネウロイだった。

 ユーリ達の攻撃を受け損傷し、戦闘継続は不可能と判断したのか、ネウロイはその尖端を向けてエイラ達目掛けて猛スピードで突貫を敢行してきた。

 

「っ───マズいっ!」

 

 それに対し、撃ち尽くしたフリーガーハマーを投棄したエイラは、自前のMG42Sに持ち替えてすぐさま迎撃に移る。バラバラと吐き出される7.92mm弾がネウロイを先端から粉砕していくが、ネウロイの勢いは止まらない。

 ユーリの攻撃で後ろ半分を喪失した分軽くなっているはずだが、それでも直撃すれば無事では済まないだろう。

 

「エイラ、ダメよ逃げて!私はいいから!」

 

「そんな暇あるかッ!」

 

 サーニャの警告を無視して、諦めずに撃ち続けるエイラ。そんな彼女を支援するため、芳佳はサーニャを背後に庇いながらシールドを展開した。膨大な魔法力を持つ芳佳の強固なシールドに阻まれたネウロイは、負けじとシールドの突破を試みる。

 

「大丈夫、きっと勝てるよ!サーニャちゃん!」

 

「サーニャが危ない時は私達が助ける!それがチームってやつダ──!」

 

 そこへエイラ達に当たらない射角を確保したユーリも、雲を抜けて攻撃に参加する。

 

「サーニャさん。あなたにはあなたと同じくらい、あなたのことを愛する家族も、あなたを大切に思う友も、あなたを支える仲間もいます。皆、守りたい、助けたいという思いは同じ筈です!──ですから、絶対に諦めないで!」

 

 放たれた徹甲弾が澄んだ空気を切り裂いてネウロイのボディを大きく抉り取る。その損傷部には、小さな輝きを覗かせる赤い結晶体が──

 

「っ──!!」

 

 意を決したサーニャは防御に集中する芳佳の九十九式軽機関銃を手に取ると、自身も攻撃に参加し始める。弾数が増えたことで装甲を削る速度も上がり、遂にネウロイのコアが白日のもとに晒された。

 

 魔力を纏った弾丸がコアを砕き、もう幾分も残っていなかったネウロイのボディが一気に崩壊する。凄まじい衝撃と共に飛び散る破片を防ぎきった芳佳は、安堵の息をつきながらシールドを解除した。

 

 元の静けさを取り戻した夜空で、健闘と無事を喜びながら佇むウィッチ達。その耳には、未だに音楽が聞こえていた。

 

「ネウロイは確かにやっつけたのに……!」

 

「ですが、この音は何か──」

 

「待って。これは違う…これは、お父様のピアノ……!」

 

 その事に気づいたサーニャは、片脚だけで器用にバランスを取って上昇していく。

 

「そっか、ラジオだ!この空のどこかから、サーニャちゃんに届いてるんだ!すごいよ、奇跡だよ!」

 

「いや、そうでもないかモ──何せ今日はサーニャの誕生日だったんダ。…いや、正確には昨日か」

 

「えっ、じゃあ私と一緒……?」

 

 時刻は既に0時を回っており、日付が変わってすぐだった。昨日は芳佳の誕生日であると同時に、サーニャの誕生日でもあったのだ。芳佳が見たというカレンダーについていた印は、それを示していたのだろう。

 

「サーニャのことが大好きな人なら、誕生日を祝うのは当たり前だロ?そんな人が世界のどこかに1人でもいるなら、こんな事も起こるんダ。だから奇跡なんかじゃなイ」

 

「……エイラさんて優しいんだね」

 

「べ、別にそんなんじゃねーヨ。バカ……」

 

 上空では、月を背にしたサーニャが魔導波を発している。長いこと言葉も交わすことが叶わなかった家族に向かって「自分はここにいる。あなたの気持ちはちゃんと届いている」ということを知らせるように。

 

 当然魔法力はウィッチでなければ感知できない為、現実的に考えるならばこの行為に意味はない。しかし、それでも思いは届いているはずだ。手紙でも電波でも、魔法でもない──不思議な力によって、必ず。

 

(誕生日……家族……どちらも僕の知らないもの……)

 

 ユーリは誕生日を祝われた経験はもちろん無いし、そうしてくれる家族もいない。

 自分が会いたいと思う(家族)も、自分に会いたいと思う(友達)も、自分が守りたいと思う()も、ユーリには何一つ存在しない。

 

 そんな自分がこうして戦えているのは、ただ目的があるからだ。ネウロイを倒し、与えられた目的を達成する──ただ、それだけ。

 

 最近、ふと思うのだ。目的を達成した後、自分はどうすればいいのだろう?どうなるのだろう?と。

 

 ユーリ・R・ザハロフは兵器だ。役目を終えた兵器は───

 

(……止せ、必要の無いことは考えるな。与えられた命令を遂行しろ。……ああ、それでも──)

 

 そこまで考えて、ユーリは誰にも悟られぬように手にした銃を握り締める。

 

 

「……本当に、羨ましいです……」

 

 

 月明かりの下、誰にも聞こえない声で、そう呟いた。

 




サーニャのラジオ電波傍受の仕組みは素人なりの「こんな感じかなー」って解釈ですので、悪しからず。
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