501のウィザード   作:青雷

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活動報告の方を更新いたしましたので、こちらを読み終えてからでもご一読頂ければ幸いです


青き瞳の追憶

 私が彼女──ナタリアと出会ったのは、確か彼女が8歳だった頃。

 

 皆からナターシャと呼ばれて親しまれていた彼女は、オラーシャ陸軍のウィッチだった。

 軍に入りたての頃は辛い訓練や実戦の恐怖でいつも泣いてばかりだったけど、仲間達と協力して、自分もたくさん訓練を積んで強くなって、いつしかエースと呼ばれるようになっていった。

 

 私はそんな彼女の使い魔である事を誇りに思ってた。

 ナターシャは昼夜を問わず空を見るのが好きで、それに因んだシニィという名前をつけてもらった。オラーシャ語で「青い」という意味らしく、彼女は私の瞳をよく「青空みたいで綺麗」と言ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 ある日。基地の近くに大きなネウロイが出てきて、ナターシャとその仲間達は戦った。なんとか勝つ事はできたけど、皆で怪我をして動けない人を助けてる時に、事故が起きた。

 救助に協力してくれてた、偶然基地に来ていたブリタニアの偉い人の上に、木が倒れそうになったんだ。ナターシャはそれを庇って……片脚を失くした。

 普通ならウィッチはシールドを張って身を守れるんだけど、まだ見つかってない怪我人がいるかもしれないから、ってナターシャに言われて、その時の私は辺りを探し回ってた……ナターシャを、守ってあげられなかった。

 怪我を治すことができる魔法なんてのもあるらしいけど、そんな都合のいいものはあの時のオラーシャには無かったんだ。

 

 目を覚ましたナターシャは、とにかく泣いて、叫んで、悔しがってた。ウィッチにとって脚はストライカーを履く為に必要不可欠なのに。それを失くした自分はもう飛べないんだ、って。部隊の仲間の娘達も一生懸命励ましてくれたけど、彼女達は彼女達で仕事があるから、来られない時もあった。

 

 でもそんな中で、ナターシャが怪我をしてから毎日ずっと病室に来てくれた人が1人だけいた。彼女が助けた、ブリタニアの偉い人──正確には、その副官をしてた人なんだけど──ラファエルっていう若い男の人だった。

 

 ラファエルは、ナターシャが目を覚まして暫くはずっと謝ってた。ナターシャが脚を失くしたのは自分のせいだ、って。怒りも悲しみも、やり場のない気持ちは全部自分にぶつけてくれ、って。

 ナターシャは最初こそ、ラファエルの言う通りに色んな言葉を一方的に投げつけてたけど、1週間くらい経ったらそれも収まって、今度は逆にナターシャが謝ってた。酷いことを沢山言ってごめんなさい、って。

 本当に悪いのは、肝心な時にナターシャを守れなかった私なのに……それでも私の頭を優しく撫でてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 それから数年後──ナターシャはウィッチ隊を辞める事はせず、車椅子で生活しながら新人の娘達の先生をしていた。元々人にものを教える才能があったみたいで、新人さん達からの評判もいい。けど、皆どこか腫れ物扱いしているようにも見えた。

 ウィッチも一応軍人だから、怪我の理由が戦いなら「名誉の負傷」として持て囃すきらいがある。でも不幸な事故で飛べなくなったナターシャには、どう接していいのか分からないんだと思う。

 ナターシャ自身それは薄々気づいてたみたいで、基地の中を移動する途中、通りがかった人達の「元エース」って言葉を聞く度にちょっと辛そうだった。

 

 そんな彼女がめげずに頑張っていられたのはやっぱりラファエルが支えてくれてたからだと思う。

 驚くべき事にラファエルは偉い人の副官を辞めて、休暇を全部使ってオラーシャに残ってくれてたんだ。

 実はこの時「負傷したウィッチにご執心のラファエル」なんて陰口を叩かれてた事を後から知った時には、何も知らないくせに、って思った。

 ラファエルはナターシャがやりにくくなった日常生活のあれこれを甲斐甲斐しくサポートしてくれた。私も色々手伝う気満々だったんだけど、流石に限度があるから……ラファエルがいてくれて本当に良かった。

 

 そうそう。これくらいの時に気づいたんだけど、どうやらラファエルには私が見えてるみたい。

 ご先祖様にウィッチがいたとかで、とっても弱いけれど自分にも魔法力が流れてるんだって教えてくれた。もっと早く教えてくれれば良かったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 更に数年後──ナターシャとラファエルは結婚した。

 これを機にナターシャは完全に軍を辞めて、ラファエルの奥さんになった。しかもお腹の中には2人の子供もいるんだって。

 ……これは後から知ったんだけど、ウィッチって子供を作ろうとすると魔法力が無くなっちゃうらしい。でも、何でかナターシャはお腹に子供が出来てからも私のことが見えていた。ちょっと半透明に見える、とは言ってたけど。

 

 ラファエルは少し前からブリタニア本土で軍務に復帰するようになって忙しいみたい。

 一緒にブリタニアに行かないかって話もしたんだけど、ナターシャは子供が産まれるまで待って欲しいって。

 2人でいる時間は減ったけれど、毎月最低1日は時間を作って会いに来てくれるし、電話は毎週必ず3回くれる。海を越えてもナターシャのことを気にかけてくれてた。

 

 それから月日が経って、ナターシャのお腹が大きくなってきた頃──ナターシャは私にこんなことを言ってきた。

 

 

 ──最近夢を見るの。私とラファエルが、ストライカーユニットで飛んでる夢。

 

 

 しかも2人の間にはちっちゃなストライカーを履いたちっちゃな子供がいるんだって。「もしかしたらこの子もウィッチなのかもね」なんてナターシャは笑ってた。

 

 

 ──ねぇ、シニィ。もしこの子がウィッチだったら、その時はあなたが支えてあげて。多分、私はもうすぐ完全に魔法力が無くなって、あなたとこうしてお話することも、撫でてあげる事も出来なくなると思う。でもあなたが私の大切な家族だってことは変わらない。そんなあなただから、この子を守ってあげて欲しいの。

 

 

 この時の私は、そんな寂しいこと言わないで、って思ってたけど……時間は止まってくれなかった。

 産まれたんだ。ナターシャとラファエルの子供が。お医者さんは男の子だ、って言ったけど……私には分かった。そんな私を通じて、ナターシャにも分かっちゃったみたいで。

 

 

 ──そっか。約束、したよね。

 

 

 そう言ってナターシャは私の頭を撫でて、抱きしめてくれた。

 10年以上一緒にいた彼女と別れるのは寂しいけれど、約束だから。それに離れ離れになるわけじゃない。私はこの子の中で、2人を見守ってるから。魔法力を自由に使えるようになったら、この子にお願いしてまたナターシャとお話するんだ。

 

 

 ──今までありがとう、シニィ。これからよろしくね。

 

 

 こうして私は、新しく産まれた家族と契約した。

 最後にナターシャが教えてくれた、この子の名前はユーリって言うんだって。

 よろしくね、ユーリ。これからは私が一緒だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──それ以降、ナターシャとお話することは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ごめんなさい。

 

 

 ユーリが産まれて3ヶ月が経った頃。ネウロイに全部壊された。

 

 

 ご め ん な さ い 。

 

 

 ラファエルとナターシャと私が暮らした家も……()()()()()()()()()()

 

 

 ご め ん な さ い 。

 

 

 ……ごめんなさい……守れなくて、ごめんなさい……また痛い思いをさせて、ごめんなさい……

 

 

 ネウロイ達がいなくなった後、崩れた家の下からシールドで守られたユーリを見つけたラファエルの顔は、嬉しそうに悲しんでいた。

 ラファエルは泣きながら「ありがとう、シニィ」って何度も言ってくれたけど、そんな風にお礼を言われる資格なんて私には無いよ……

 

 

 

 だ っ て 私 は、 ま た 守 れ な か っ た 

 

 

 

 ──ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい

 

 

 ──ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい

 

 

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい──

 

 

 どれだけ謝っても、もうナターシャには会えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……今度はラファエルが死んだ。私とユーリがオラーシャからブリタニアに移り住んで1年が経とうとしていた頃に。戦場でネウロイに殺されたらしい。

 

 

 ──ユーリを頼む。

 

 

 これが、私が最後に聞いたラファエルの言葉。人っていうのはこんなにも簡単に、何の前触れもなく、驚く程呆気なく死んでしまうんだって事を、改めて実感した。

 

 どうして?なんで?なんで皆、私の傍からいなくなっちゃうの?

 

 ……せめて、約束は守らなきゃ。ユーリは──ユーリだけは。絶対に守ってみせるから。絶対に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私としてはこれだけでも十分地獄のような思いをしてきたけれど、ユーリにとっての地獄はここからだった。

 

 そして、私にとっての地獄もまだ終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死んだラファエルの代わりに、その知り合いだったらしいマロニーって人がユーリを引き取った。空軍大将って事は、とても偉い人みたい。良かった、こういう人は基本的に前線には出ないはずだから、ユーリの身が危険に晒される事はなさそう。

 

 事実、引き取られて以降は平和そのものだった。仕事で忙しいマロニーの代わりに、ベビーシッターの人がユーリのお世話をしてくれた。時々ドジなところもあるけど、とてもいい人だった。

 

 ……けど、そんな平和は本当に短いものだった。

 

 

 ──あの、お耳に入れたいことが。

 

 ──なんだ?

 

 ──例のあの子、もしかしたらウィッチかもしれません

 

 ──どういうことだ?

 

 

 気付かれた……ッ!

 

 ユーリが寝かされていたベッドのすぐ脇にある棚から、マロニーがこれまで貰ってきた勲章の1つが落ちて来たのをシールドで守ったその瞬間を、ベビーシッターに見られてしまったらしい。

 これまでもそういう事はあったけど、細心の注意を払ってきた。なのに、ここに来て見られるなんて……!

 

 私はこの失敗を今でも悔やんでいる。悔やんだところでどうしようもないのはわかっているけど、悔やまずにはいられなかった。ある意味では、ユーリが享受するはずだった平穏を私が壊してしまったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男の子でありながら魔法力を持ってることがバレたユーリは、それまで暮らしてた豪華な家から、軍の施設にある無機質な部屋に移された。

 それでもユーリが3歳になって、自分の足で立って、走れるようになるまでは普通と変わりなかったと思う……少なくとも、この頃はまだ私も気が楽だった。

 

 本当の地獄はここからだ。

 

 ある日、部屋に見知らぬ男の人が入ってきて、急に「本日から訓練を始める」なんて言い出した。

 最初こそ部屋の中を10周とか可愛いものだったけれど、ロクな休憩も入れずにスクワット10回、その次は腕立て10回と言い出した辺りから雲行きが怪しくなってきた。こんなの、3歳の子供に耐えられる訳がない。

 

 ユーリは腕立てを10回まで頑張ったところで、体力の限界が来て崩れ落ちる。

 男の人は再開するように言うけど、ユーリはもう動けない。遂には泣き出してしまった。

 

 

 ──泣くんじゃない、立てッ!

 

 

 きつい怒号と共に、鞭が振り上げられる。

 

 ……止めて、この子を傷つけないで!

 

 私はシールドでユーリの身を守った。何度鞭を振るっても結果は同じ。怖い顔をした男の人はそれが気に入らなかったらしい。ユーリが自分の意思でシールドを張っていると考えた男の人は、罰としてその日の夕食を与えなかった。

 

 次の日──また叩かれそうになった所を、私が守る。すると今度は夕食だけじゃなく昼食も抜かれた。

 

 また次の日──信じられない事に、丸1日食事が与えられなかった。その日口にできたのは水だけ。

 

 誰もいない部屋に、ユーリのすすり泣く声とお腹の音だけが響く。

 

 

 このままじゃまずい。どうにかしなきゃ。でも私に何ができる?ユーリを守る事しかできない。でも守ったらこのままご飯も食べさせてもらえない。それじゃあ──

 

 

 それじゃあ、私は……っ

 

 

 次の日──またあの男の人が部屋に来て、訓練を始める。

 

 これまでよりも数を増やし、部屋を20周するところから始まるが、流石に丸1日水だけでは力が出るはずもなく、1周したところで倒れてしまう。

 

 

 ──立て。

 

 

 鞭の男の声が静かに響く。もう一度。それでも立たないユーリに、男はわざと足音を響かせながら近づいてくる。ユーリの恐怖が私にも伝わってきた。でも……

 

 

 ……ユーリ、ごめん……ッ

 

 

 ──立てぇッ!

 

 

 振り下ろされた鞭が、初めてユーリの体を叩いた。続けて2回、3回と鋭い音が部屋の中に消えていく。

 

 

 ──痛いッ!痛いよぉッ!

 

 ──口答えするな!叩かれたくなければ訓練を再開しろッ!

 

 

 ユーリは泣きながら、フラフラとした足取りで走り始める。鞭と怒号に尻を叩かれ、涙と鼻水でグズグズになりながら20周を走り終えたユーリに、男は無慈悲にも次なるメニューを課した。

 けどどれだけ怒鳴っても、叩いても、もうユーリに体力は残されてない。嘆息した男は小さな包みと水入りのボトルを放る。

 

 

 ──本日分の食事だ。もっと食べたければ訓練に励め。お前の努力次第では1日3食に戻してやる。

 

 

 男が部屋を出て行き、ユーリだけが残される。ユーリは床を這ってまずは水のボトルに手を伸ばす。口の端から零しながらも水を飲むと、どうにか体を起こして包みを開いた。

 中に入っていたのはチーズ──ただし、角砂糖よりも小さくカットされたものが1つだけ。

 

 それでも何も無いよりはと、ユーリはチーズを口に放り込む。当然、その程度で腹が膨れる訳がない。水を飲み干したユーリは、泣き喚く気力も無くして気を失うみたいに眠りに落ちた。

 

 

 ……ごめん。ごめんね。ユーリ。

 

 

 ユーリを守るって約束したのに。この子を守る為に守れないのが、私にとって一番辛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから暫く──ユーリは本当に頑張った。毎日毎日叩かれながら、小さな体で、言われるままに身体を鍛え続けた。段々体力がついてくると、今まで身体を動かすだけだった所に勉強が入ってきた。

 普通の子供が学校で習うような事だけじゃなくて、軍のルールとか、軍人としての心構えとか、そんなものまで教え込んでくる。勉強している時にも、ユーリの横には鞭を持った大人が立ってた。流石に分からないところを聞いたくらいじゃ叩いたりはしてこなかったけど、一度間違えたり、一度教えられた事をまた間違えると容赦なく叩かれた。

 

 この時も、私はシールドを張らなかった……

 

 勉強が始まってからは、ベッドと洗面台と机以外無かった部屋に本が置かれるようになった。1人でいる時も勉強しておけ、って事だと思う。……勉強は大事だけど、今のユーリはまともに寝る時間も取れてないのに。それでもユーリは、本が置かれた意図を汲み取って勉強した。

 

 ある日の夜──いつもみたいに厳しい訓練と勉強が終わって、1人になった部屋で、ユーリは虚ろな目をしながら本を読んでた。

 

 

 ……ユーリ?

 

 

 ふと、本のページに小さな染みができる。もう1つ、またもう1つ。

 ユーリは泣いてた。泣き叫ぶでもなく、顔を歪めもしないで。ただ静かに涙だけを流してた。

 

 それを見た私は、もう我慢できなくて……初めて、ユーリの前に姿を現した。

 

 

 ───?

 

 

 そりゃあビックリするよね。部屋の中に急にオオカミが出てきたんだもん。でも大丈夫、怖くないよ。

 

 ユーリにそう語りかけようとして──して……え……?

 

 なんで?話せない。ナターシャと契約してた時はお話出来たはずなのに、なんで……ッ

 

 

 ……ずーっと後になって気付いた。ナターシャが死んだあの日──私は崩れる家からユーリを守る為にシールドを張った。ラファエルが見つけてくれるまで、ずっと。まだ赤ちゃんだったユーリの体が壊れちゃわないように、頑張ったんだけど……多分それが原因で、私の方が壊れちゃってたんだ。

 

 

 ……もう、私は誰ともお話ができない。目の前で泣いてる家族を勇気づけてあげることすら、できないんだ。

 

 

 ──だれ……?

 

 

 それでも……それでも何かしてあげたくて。私はユーリが広げてた本のページに目が止まった。ページにはオラーシャの景色を撮った写真が載ってて、その下に書いてあった小さな文字を、私は鼻先で指し示す。

 

 

 ──シ、ニ──シニィ……?

 

 

 そうだよ。あなたのお母さんがつけてくれた、私の大切な名前。ほら、私の眼を見て。青空みたいでしょ?

 ……なんて、やっぱりユーリには全く伝わってないみたい。せめて少しでも安心できるように、私はユーリに寄り添った。

 

 ごめんね。私がもっとちゃんとしてたら、もっと上手くやれてたら、こんな辛い目に遭わずに済んだよね。痛い思いをしなくて済んだよね。いっつも肝心な所で役立たずな私だけど、ユーリが頑張ってるって事、ちゃんと分かってるから。ずっと傍にいるから。

 

 だから……希望は捨てないで。

 

 いつかユーリが大きく、強くなって、こんな部屋(ところ)から出られたら──きっと、外には楽しい事がいっぱいあるよ。同じくらいの歳の子と楽しくおしゃべりしたり、一緒にご飯を食べたり、ゲームをしたり……きっと、沢山の幸せが待ってるはずだから。

 

 だから……お願いだから。生きることだけは、諦めないで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──それから、十数年が経った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はその間、あの代わり映えのない殺風景な部屋以外の景色を目にしてない。勿論ユーリも。

 そのユーリは、良くも悪くも成長した(変わってしまった)

 昔は泣いてばかりだった訓練も難なくこなせる様になって、沢山勉強して頭も良くなった。

 

 でも、そんなユーリに笑顔は無い。10年以上に渡って続いた厳しい生活は、ユーリから人間らしさを少しずつ取り上げていった。

 

 もうユーリは叩かれても泣かない。けど、褒められても笑わない。まるで冷たい人形みたいだった。

 たまに部屋に来る軍人達の話を聞いてると、遠くない内にユーリは何かの作戦に駆り出されるらしい。……正直、こうなることはずっと前から予想してた。私じゃそれを防げないから、せめて無事に生き抜ける強さを手に入れられるように。って、見守ってきたけど……いざそれが近づいてると思うと、不安で一杯になる。

 

 そんな中、ここでの生活に於いて唯一の幸運と巡り合った。

 ユーリが作戦に参加するにあたって、ストライカーの使い方を教える為にブリタニア軍のウィッチの人が教官になってくれたんだけど、その人がとてもいい人だったんだ。

 

 名前は……確か、ヴァイオレット・ウィリアムズ大尉。グローリアスウィッチーズっていうおっきな部隊の人で、ウィッチの中でも珍しいナイトウィッチなんだって。

 

 ヴァイオレット大尉とのストライカーを使った訓練は、私としても数少ない心が休まる時間だった。大尉はユーリの事を気遣いながら、丁寧にユニットの扱い方を教えてくれた。他にも、ユーリは狙撃手の方が向いてる~とか、魔法力の使い方が上手だね、とか。色んな事を教えてくれて、沢山褒めてくれた。私から見ても教え方がとても上手で──少しだけ、ナターシャの事を思い出した。

 

 ある程度飛ぶのに慣れてくると、ユニットを履いたまま射撃訓練をするようになったり、夜間飛行の訓練も始まった。ストライカーを使う都合上、訓練で大尉が一緒にいてくれる時間も長くなって、男の人の怒鳴り声を聞く回数も随分減った。

 ヴァイオレット大尉はちょっとお茶目な人みたいで「才能があるから」って突然空戦軌道を教える事もあった。ユーリもユーリでやってみたら出来ちゃったりして、やっぱりナターシャの子供なんだなって。

 

 

 ……ユーリが自由になったら、こんな人と一緒に暮らせればいいのに。

 

 

 そんな私の思いも空しく、ユニットの習熟期間は終わりを迎えた。同時に、ヴァイオレット大尉はお役御免になって元の任務に戻っていった。

 

 ありがとう、大尉。ユーリがあなたみたいな人に出会えて、本当に良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ここから先は、もう知ってる通り。

 

 ユーリは501部隊に入って、大切な人達と出会う。色んな無茶をしながら、色んな人たちに支えられて、少しずつだけど前に進んでる。

 

 不安もあったみたいだけど、変に遠慮しなくていいんだよって教えてくれた人がいたから。もう、大丈夫だね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……でもね。私は怒ってるんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうして……なんで覚醒魔法なんてものを編み出しちゃったの?あんな危険なもの、気付かなければよかったのに。

 分かってる。アレのお陰で助けられた人達もいたってことは、分かってる。でも……その度にユーリの体がボロボロになっていくのは、見たくないよ。

 

 

 お願いです、もうユーリが覚醒魔法を使わないといけないような事がありませんように。

 

 

 だってユーリは、気づいてないんでしょ?

 

 

 あの時──オペレーション・マルスで一度魔法力を使い果たしたユーリが、また飛べた理由……

 

 

 私も感じた、ユーリの中で「何か」が弾けた──ううん、()()()音。

 

 

 それは多分、ウィッチ(ウィザード)の身体に備わってる安全装置みたいなもので。

 

 

 それが壊れた今、ユーリの身体は魔法力の回復速度が尋常じゃない程早くなってる。魔法力を使い切るような事態にならなければ、大丈夫だと思うけど……万が一魔法力を使い切ってしまったら、急速回復の代償としてあの時と同じ──それ以上の苦しみが襲いかかる。

 

 

 さらに事を悪化させたのは、直前であの剣に魔法力を喰われた事。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──あの時ユーリの身体には、覚醒魔法を一度使うのと同じだけの負担がかかってしまった。

 

 

 

 このことに気づいてるのは、多分私だけ──この事を、誰にも教えてあげられない。

 

 

 だから、こうして祈る。すぐ傍で一緒に戦いながら、切に願う。

 

 

 

 

 どうか、どうか。この子の行く手が穏やかで幸せな未来でありますように。

 

 

 

 




母ナターシャが魔法力と一緒にユーリ君に遺した碧眼のツンドラオオカミ シニィ。
今となっては世界でただ1人(匹)、産まれる前からユーリ君のことを見守ってくれてる存在です。
シニィが中々ユーリ君と分離したがらないのは、もうあのような悲劇を二度と繰り返さないという決意の表れなんでしょうね。今もユーリ君を守る為、頑張ってくれてます。

そしてシニィが語ってくれたユーリ君の「現状」。唯一それを知るシニィはもうユーリ君に語りかける事ができません。
オペレーション・マルスのあの時、烈風丸によって急速に喰い尽くされた魔法力。
そこに魔法力を全回復させる代償が重なり、不運にも〔爆裂〕を使わずして消費されてしまった1発。

この事実は誰も、ユーリ君本人も知りません。


彼の命は、残り4発。


それでは皆様。また、いつか。
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