「──入るぞ、ミーナ中佐」
「失礼しまーす……」
赤城がブリタニア基地を出航した翌日──ミーナの執務室に、資料を抱えた美緒と芳佳が訪れていた。内容は以前サーニャ達が夜の空で遭遇した、歌を歌っていたと思しきネウロイに関するデータだ。
「あのネウロイが出現した時、全国各地で謎の電波が傍受されている。それぞれ波形はバラバラだが…照合した結果、サーニャが歌っていた歌と酷似している事が判明した。あのネウロイは、サーニャの行動を真似ていたと見て間違いなさそうだ」
横で美緒達の話を黙って聞いている芳佳は、誕生日を迎えた夜間任務の時の事を思い出す。あの時聞こえた不協和音は今でも耳に残っている。
「分析の規模を広げよう。これから忙しくなるぞ──この事はバルクホルンやハルトマン達にも伝えておいた方がいいな。2人をここに──」
「あの、バルクホルンさんなら今日は非番です。朝早くにロンドンへ出て行きました」
朝方、ずっと意識不明のまま入院していたバルクホルンの妹、クリスが目を覚ましたという報せが届いたのだ。いてもたってもいられなくなったバルクホルンは私用厳禁のストライカーを履いてまでロンドン市内の病院へ向かおうとしたのを、芳佳とハルトマンが必死になって止めたのは記憶に新しい。結局ハルトマンの運転する車で病院に向かったことで、2人は基地を留守にしていた。
「いつもはあんなに冷静でルールに厳しい人なのに…ふふっ、ちょっと意外ですよね」
「……無理もないわ。彼女にとって、妹さんは戦う理由そのものだもの。誰だって、自分にとって大切なもの──守りたいものがあるから、勇気を振り絞って戦えるのよ」
──それこそ、命すら惜しくない程に──
そう続けようとした自らの口を、寸での所で噤む。ミーナの脳裏には、昨晩のユーリの言葉がチラついていた。
あの言葉──具体的な意味こそ明言されていないが、察するに「自分が501の皆を守ってみせる」という意味合いだろう。これまでミーナが1人胸の内に抱えてきた責任と重圧を、ユーリが肩代わりする。と……
これまでも大型ネウロイを1人で相手したり、視界の悪い雲海の中でネウロイの高速機動に追随したりと、他にも色々と無茶をしてきたユーリだが、その度にミーナと美緒、時にはバルクホルンも一緒になって厳重注意をしてきた。その甲斐あってか最近では無茶な行動も鳴りを潜めており、安心していたのだが……
(あの言葉…あの目……あの人と同じだった)
あの時のユーリは、軍に志願した時のクルトと同じ、覚悟を決めた者の目をしていた。ミーナには、ユーリがクルトと同じ道を辿ってしまうのではと思えて仕方がない。何度自分に言い聞かせても、何度頭の中から追い出そうとしても、疑念は消えてくれない。
無意識に机の下の手を強く握り締める。
「……とにかく、できる限り早いに越したことはない。あいつらが帰ってきたら知らせるとしよう。ご苦労だったな宮藤、戻っていいぞ」
「あ、はい。失礼します」
芳佳がペコリと頭を下げて執務室を出て行くのを見届けた美緒は、一層真剣な顔で1通の封筒をミーナに差し出した。封を解いたミーナは、無言で中身に目を通す。
「以前からお前が調べさせていた、ユーリの身元に関する調査結果だ。先に中身は見せてもらった」
ミーナの伝手で、連合軍にいた頃──501に来る前のユーリに関する情報を秘密裏に探ってもらっていたのだが……結果を最後まで読み終えたミーナは、眉をひそめる。
「これはどういうこと……!?」
「私も最初は目を疑ったさ。だがお前の伝手なら、嘘の結果を寄越すはずもあるまい。その紙に書かれていることは事実だ」
──調査の結果、現在連合軍本部所属の軍人に、ユーリ・R・ザハロフという名前は存在せず──
険しい顔をするミーナは、美緒に促されて2枚目の資料に目を通す。
「そしてもう1つ。ユーリの父親についてだ」
ユーリやサーニャを始めとするオラーシャ人の名前には「父称」といって、必ず父親の名前が付く。
例えばサーニャの場合「サーニャ・ウラジミーロヴナ・リトヴャク」は父親であるウラジミール氏の名前を受け継いでいることになるのだ。
そしてユーリのフルネームは「ユーリ・ラファエレヴィチ・ザハロフ」──父親の名前は「ラファエル」だということが分かる。
「連合軍の中にラファエルという名前の軍人は何名かいたが、皆年齢や結婚歴がユーリと合致しない」
「単に軍属じゃなかった、というだけじゃないの?」
「私も最初はそう思ったさ。だがこれを見ろ。ラファエルという名の男はブリタニア空軍にも1人だけいた。階級は大佐。少将の右腕として補佐も務めており、結婚歴もある。時期もユーリの年齢と合致した。更に──その結婚相手は、オラーシャ出身のウィッチだったそうだ」
「じゃあ、その人がユーリさんの……今どこにいるの?」
ミーナの問いかけに、美緒は首を横に振る。
「…既に亡くなっている。母親の方は子供を出産して暫くした後、ネウロイの攻撃に巻き込まれて。ラファエルは戦死だそうだ」
「そう……」
「だが不可解な点もある。まず、ラファエルの戦死後、子供は彼と親密だった人物が身元引受人になったそうだが、その人物の名前は愚か、ラファエルとの詳しい関係性も分からないこと。次に、子供の名前も不明で、親子の写真すら残っていないことだ」
「……写真はともかく、身元引受人の名前が分からないのはおかしいわね」
「ああ。明らかに作為めいた何かを感じる」
子供の名前が分からない以上、まだラファエル氏がユーリの父親だという確証はない。
だがあそこまで徹底的な軍人としての教育を施されてきたのだ。一般人夫婦の子供とも考えにくい。
「ユーリの奴め、思った以上に面倒な生い立ちなのかもしれんな」
そして、そのユーリはというと……
「──リーネさんっ!」
「っはい──!」
ユーリの合図で、リーネはボーイズ対装甲ライフルの引き金を絞る。放たれた弾丸は、ユーリを追い掛け回していたルッキーニのストライカーに命中した。……といっても、装填されているのは模擬戦用のペイント弾の為、被弾しても害はない。
「あぁ~っ!やられちゃったぁ……」
「マジかよ…!あの距離で動くルッキーニに当てやがった」
「余所見してていいんですか?シャーリーさん──」
「あっ…やば!」
リーネが見事にルッキーニを撃ち抜いたことに気を取られたシャーリーを、今度はユーリが狙う。オレンジ色のペイント弾がシャーリーのストライカーに大きな斑点模様を作ると同時に、頭上から審判を務めるペリーヌの甲高いホイッスルが鳴り響いた。
「そこまで。──ユーリさんとリーネさんのチームの勝利ですわ」
「すごいよリーネちゃん!あんな遠くから当てちゃうなんて!」
「ありがとう芳佳ちゃん…でもユーリさんが2人を引きつけて、狙いやすい場所に誘導してくれたから……」
「謙遜は無しですよ。リーネさんの狙撃の腕はかなり上達してます。それはシャーリーさん達も感じてるはずですよ」
「ああ。ちっこい上にすばしっこいルッキーニを狙うのは相当ムズイ。ユーリのサポートがあったとはいえ、当てたのは素直に胸張っていいぞリーネ」
「そうそう!この立派なおムネをね~!」
リーネの背後から忍び寄ったルッキーニが、リーネの胸に手を伸ばす。
「きゃあっ!?ル、ルッキーニちゃん…!やめっ──ひゃあんっ!」
「んん~…リーネまたおっきくなったんじゃない?前より揉みごたえが……」
「んっ…ルッ、キーニちゃ……んんっ!ダメ……そこは──!」
為す術もなくルッキーニにいいようにされるリーネ。そこへ、先程よりも鋭く力強いホイッスルの音が。
「あっ…あなたたち何してますの、みっともない!ユーリさんだっているんですのよ!?もっと淑女としての慎みを──」
「そう熱くなるなよペリーヌ。それにユーリだって年頃の男子だぜ?目の保養も必要だろ。なぁ?」
振り返ったシャーリーの視線の先には、体ごと背けて今しがたの行為を見ないようにしていたユーリがいた。
「僕に振らないでくださいよ…女性陣の間ではスキンシップで済むのかもしれませんが、僕がそれに言及するのは遠慮しておきます」
「真面目な奴だなぁ」
「大事なことですから。そもそも、こういう事にならないよう、501に来た時は自分の部屋に篭っていようと思ったんですけどね」
「ああ、そういうことだったのかアレ。てっきりお前が女嫌いなのかと思ってたから、克服に協力してやろうと思ってたんだけど」
「違いますよ。大体、女性が苦手ならシャーリーさんと握手出来ませんし、ルッキーニさんに組み付かれた時点で倒れてるんじゃないですか」
「あー、それもそうか」
「それより次を始めましょう。確か次は宮藤さん・ペリーヌさんチームと、シャーリーさん達でしたね」
「──くぅ……納得いきませんわ!どうして宮藤さんみたいなちんちくりんが、坂本少佐の得意技である左捻り込みを使えるんですの!?」
本日分の模擬戦を全て終えたユーリは芳佳達を先に風呂に向かわせて、自分はストライカーに付着したペイント弾の塗料を落としていた。そこへ唯一残ったペリーヌの愚痴を作業の片手間に聞いているところだ。
因みに結果はシャーリー&ルッキーニチームが0勝、芳佳&ペリーヌチームが2勝、ユーリ&リーネチームが1勝1敗と、低高度での模擬戦という条件付きではあるが、芳佳とペリーヌが勝ち越した。
「随分ご立腹ですね、ペリーヌさん」
「当然でしょう!きっと、ワタクシの知らない間に坂本少佐に教わったに違いありませんわ!」
「僕が知る限りでは、そんな気配はありませんでしたが……」
「あなたとワタクシでは情報量が違いますのよ情報量が!毎朝1人で訓練する坂本少佐を部屋の窓で見守ることから、ワタクシの朝は始まるんですからねっ!」
勢いに任せてとんでもない事を言っている自覚がペリーヌにあるのかどうかはさておき、確かにユーリとしても芳佳が急に左捻り込みという高等技術を使えるようになった理由は気になる。
「そんなに気になるなら、宮藤さんに直接聞いてみればいいのでは?」
「言われなくともそのつもりですわ!あんの豆狸…事と次第ではただじゃ置かないんだから!」
憤慨するペリーヌは芳佳たちがいるはずの浴場へ向かった。
「……愉快な人だな」
ペリーヌに対する第一印象は、精々"気位の高いお嬢様"と言ったところだったが、いざ接してみるとプライドこそ高くも思考は柔軟で、戦闘時は味方に合わせるのが上手い。私見だが、ゆくゆくは美緒と同じ戦闘隊長になれる素質もあるように思える。
欠点とするなら、高いプライドが邪魔をして初対面の人間との円滑なコミュニケーションにやや難が見られることと、美緒に心酔し過ぎているきらいがある所だろうか。尊敬できる上司に心酔することはそう珍しくないと聞いたことはあるが、ペリーヌのアレが果たしてどの程度のものなのか、ユーリには知りようが無かった。
ひとまず考えるのを止めたユーリは、ユニットの汚れを落とすことに集中するのだった。
場所は戻り、ミーナの執務室。
そこには美緒とミーナの他に、妹のお見舞いから戻ったバルクホルンとハルトマンの姿もあった。予定では先ほどのネウロイに関する情報を共有するだけのはずだったが、バルクホルン達はミーナにあるものを突き出す。
「悪いが、中身は勝手に見させてもらった。どういうことか説明してくれ」
病院から帰る際、バルクホルン達の乗ってきた車に差し込まれていた一通の手紙。差出人は不明。宛先にはミーナの名前が使われていた。その内容は──
──深入りは禁物。これ以上知り過ぎるな──
「少なくともこんな手紙、普通じゃないでしょ。どんな意味か興味あるよねぇ」
口調こそいつも通りのハルトマンも、その顔は真剣だ。そんな彼女達に答えたのは美緒だった。
「別に何もやましいことはしてないさ。なぁミーナ?」
「えっ?──えぇ。私達はただ、ネウロイの事を調べていただけよ」
「それでどうしてこんな手紙が届く?」
「差出人に心当たりは無いの?」
「寧ろあり過ぎて困るくらいだ」
今やネウロイとの戦いに於いてウィッチ達の存在が重要なことは言うまでもないが、その事を快く思わない者も軍の中には多い。以前ミーナ達をロンドンの基地に呼び出した上層部もその手合いだ。
「──だが、こんな品のない真似をする奴の見当くらいはつく。恐らくあの男は、この戦いに於いて重要な何かを既に握っている。私達はそれに触れてしまったんだろう」
美緒が言う「あの男」とは……
「トレヴァー・マロニー……ブリタニアの空軍大将さ」
──ユーリの自室。ストライカーの清掃を終えたユーリは、自室で以前から進めていたとある作業に取り掛かっていた。シモノフの14.5mm徹甲弾を手に持ち魔法力を発動させたユーリは、目を伏せて意識を集中させている。
「……っはぁ…はぁ──今日はこれ位が限界か」
魔法力を収め、ベッドに倒れこむ。手から転がり落ちた弾丸は、淡い魔法力の光を帯びていた。
「コレが完成すれば……きっと皆を守れる。もう少し早く手を着けておくべきだった」
深呼吸して息を整えたユーリが弾丸をホルダーに収めた時──
「──っ!?敵襲……」
僅かにフラつく体に喝を入れ、ユーリは格納庫へ向かった。
「──来たか、ユーリ。今回の敵は単機だが、必要によってはお前の力が頼りだ。頼むぞ」
「坂本さん…出撃するつもりですか」
「……お前までミーナと同じことを言うな。大丈夫、私はこんなところで死にはしない──よし、出撃するぞ!」
美緒の号令で、ミーナ、エイラ、サーニャ──そして自主訓練で既に外にいるらしい芳佳とペリーヌを除く
501の全メンバーが格納庫から飛び立った。
ユーリは前を飛ぶ美緒に一抹の不安を覚えたが、情報では今回の敵は単機。もし前回のような分裂型であった場合は、例え命令を無視することになっても〔炸裂〕で一気に敵を掃討する方針を固めた。
場合によっては模擬戦と先程の作業で残存魔法力が些か心配ではあるものの、そこは皆にカバーしてもらうしかない。
『──坂本少佐、ペリーヌです!今合流します!』
待機していたペリーヌが部隊に合流するが、一緒にいたはずの芳佳の姿がない。
「宮藤はどうした!?」
「それが……」
警報が鳴った後、ミーナからその場で待機を命じられた2人だったが、芳佳はそれを無視してネウロイを足止めしようと単独先行してしまったのだという。確かに最近の芳佳は成長が目覚しいが、如何せん実戦経験はまだ豊富とは言えない。1人でネウロイを食い止めるのは無理がある。
「宮藤が1人で……」
「申し訳ありません。元はといえばワタクシが……」
「その話はネウロイを倒した後だ。急ぐぞ!」
魔導エンジンを大きく奮わせた美緒に続き、ユーリ達も速度を上げる。皆一様に芳佳の事を心配している中で、ユーリはリーネが物憂げな顔をしているのを確認した。
「……リーネさん。どうかしましたか?」
「もしかしたら、芳佳ちゃんが先に行っちゃったのは私の所為かもしれないんです。模擬戦の後、お風呂で芳佳ちゃんを
「坂本さんも言ってましたが、その事についてはまた後で反省しましょう。今は宮藤さんと合流して、ネウロイを倒すのが先決です」
「……はいっ」
リーネが気を引き締めると、各員のインカムに基地からの通信が入る。
『サーニャさんが広域探知で宮藤さんとネウロイの接触を確認したわ!でも、それ以降の情報が分からないみたいなの』
「どういうことだ…そちらから宮藤に引き返すよう言えないのか?こっちから何度も呼びかけてるが、通じないんだ」
『こっちも同じよ。もしかしたらネウロイが電波をジャミングしているのかも……』
通信妨害──今までこんな真似をするネウロイとは接触したことがない。
「くっ……まだ追いつかないのか!?」
『近づいてはいるわ。けど、ネウロイはガリア方面へ引き返してるらしいの』
「現れただけで、何もせずに巣へ戻っているということですか…?」
これまでのネウロイはどれもブリタニア方面を目指して侵攻する個体がほとんどだった。サーニャ達が遭遇したような例外もあるが、基本的に奴らは人類に攻撃を仕掛ける目的で姿を現す。
(確か数年前、スオムスのウィッチがネウロイに連れ去られる事件があったはず……宮藤さん…っ!)
どうやらユーリと同じような推測に至ったらしい美緒が、魔眼で遥か前方を確認する。すると……
「見つけた!宮藤の他に、もう1人ウィッチが…いや、コアが見える。あれは人型のネウロイだ!」
その言葉に、一同は目を見張る。皆が真偽を確認するより早く、美緒はユニットを加速させた。
「──宮藤!何してる!?」
『──坂本さんっ!?』
物理的な距離が近づいたことで、ジャミングの影響が無くなったらしい。インカムから聞こえる声は、間違いなく芳佳のものだった。だが喜ぶのはまだ早い。今彼女はネウロイに肉薄しているのだ。
「早く撃て!撃つんだ宮藤──!」
『違うんです坂本さん!このネウロイは……!』
「いいから撃て!」
『ダメです!待ってください!』
攻撃するよう芳佳に指示を送る美緒だが、当の芳佳は何故かそれに応じない。
「惑わされるな!ソイツは人じゃない!」
「宮藤さん!せめてそこから離れてください、危険です!」
ネウロイと芳佳の姿を肉眼で目視したユーリも、シモノフの狙いを定める。撃てば当たる距離、芳佳に誤射するような真似はしないが、攻撃の余波に巻き込まれてしまう可能性がある。人型ネウロイという遭遇例の少ない未知の敵だからこそ、できれば〔炸裂〕で確実に倒しておきたいのだが……
「くっ…撃たぬなら退け!私がやる!」
『坂本さん!』
美緒が銃を構えたことで交戦の意思を感じ取ったのか、人型ネウロイは胸部に覗かせていたコアを収納し、両腕から光線を放つ。美緒はそれをシールドで防ごうとしたが……
「──いけないっ!」
ユーリの制止も虚しく、ネウロイの光線は美緒のシールドに命中。撃破したネウロイの破片すらシャットアウトできなかった彼女のシールドはいとも簡単に突破されてしまった。
咄嗟に持っていた銃で攻撃を防いだものの、それによって内部の銃弾が美緒の至近距離で一斉に誘爆した。
「ぐぁあああああああ──っ!!」
「坂本さん──っ!!」
意識を失い海に落下していく美緒の体を芳佳とペリーヌが受け止めに向かう。
『どうしたの!?一体何があったの!?』
耳元で聞こえる切迫したミーナの声。応答したのはリーネとバルクホルンだった。
「坂本少佐が撃たれて……!」
「シールドは張っていたはずなのに…まさか……っ!?」
「っ………!」
しっかりと銃を握り直したユーリは、独りで人型ネウロイに向かっていった。
「なっ……!?おい待てザハロフ!!」
無線越しに今どのような状況なのかを把握したミーナは、震えた声でバルクホルンに指示を出す。
『……バルクホルン大尉、ネウロイを追って!』
「だが少佐が……!」
『早く!命令よ!』
「……了解!──ハルトマン!私たちでネウロイとザハロフを追うぞ!リベリアン!後の指揮は任せる!」
シャーリーにこの場を任せ、501の2大エースはネウロイと戦うユーリの元へ急いだ。
一方──真っ先に人型ネウロイを追跡したユーリは、人型と壮絶なドッグファイトを繰り広げていた。
自分を追ってくるユーリに向かって、人型は両腕から光線を撃ってくる。
ユーリはそれをロールで回避し、上下逆さの状態になりながら敵を照準。じっくり狙う時間も惜しく、間髪入れず引き金が絞られる。放たれた徹甲弾は狙っていた胴体から逸れたが、ネウロイの右腕先端を破壊。一時的に敵の攻撃力を低下させることに成功した。
「お前はここで落とす。ガリアに帰すわけには行かない──!」
現在のガリアはネウロイの領土──数的有利を取られる以上、深追いできない。今この場で奴を倒さなければ。できれば敵に張り付いて攻撃したいところだが、ユーリの銃はセミオートといえど速射性ではどうしても機関銃に劣る上に、取り回しが利かない。向こうの動きもこれまで戦ってきたネウロイより素早く、無闇やたらに撃っていては、弾切れの瞬間を狙われるだろう。
1番最初に牽制で3発撃ってしまった為、残弾は3発──1発1発を確実に当てていく必要がある。
その為には、不規則に飛び回る相手の動きを一瞬でも止めなければ。
少し考えたユーリは、ユニットを駆動させてネウロイに急接近する。当然向こうは光線を撃ってくるが、それを2重に重ねたシールドで防いだユーリは、ユニットの出力を一瞬だけ全開にする。
「ぐ……っ!!」
強烈なGに耐えながら、ネウロイに多重シールドを叩きつけた。突然のシールドチャージに人型ネウロイは一瞬怯んだものの、まだ活きている左腕でユーリの頭目掛けてほぼゼロ距離の光線を撃ってくる。当然、ユーリもそう来るであろうことは予測していた。
腕の先端に光が点った瞬間、ユーリは首と体を大きく捻って光線を回避した。
膨大な熱量がすぐ近くを駆け抜けていくのを肌で感じながら、ユーリはシモノフの銃口をネウロイの胴体に突きつける。
「これで───ッ!!」
終わり。そう思って引き金を引いたユーリだったが……
「な……っ!?」
放たれた銃弾が捉えることができたのは、ネウロイの左足の下半分のみ。撃たれる直前に急上昇することで、ユーリの狙いを外したのだ。
戸惑うユーリだったが、すぐさま気を持ち直してネウロイに銃口を差し向ける。しかしその時には既に、ネウロイ側の攻撃準備が完了していた。これでは間に合わない──!
「──ザハロフ!!」
不意に、ユーリと人型ネウロイの間を銃弾が駆け抜ける。応援に駆けつけたバルクホルンとハルトマンの攻撃だ。
相手の数が増えたのを確認したネウロイは、右腕が完全に再生した状態でも流石に分が悪いと判断したのか、攻撃を中断してユーリから距離を取る。
「1人で無茶をするな!」
「トゥルーデの言う通りだよ、今結構危なかったでしょ」
「……すみません、ありがとうございます」
「でも、お陰で結構手負いみたいだね。どうするトゥルーデ?今ここで倒す?」
「そうしたいのは山々だが…ここは退くぞ」
「えー!?どうしてさ?」
「ここはガリア国境の目の前だ。これ以上深追いすれば、あっという間に敵に囲まれるぞ。少佐も負傷している今、余計な危険を冒すわけにはいかん」
「ちぇー…そういうことなら仕方ないか」
人型ネウロイもこれ以上交戦するつもりはないらしく、攻撃してくる様子はない。
「殿は頼むぞハルトマン」
「オッケー、任しといて」
バルクホルンの先導で、ユーリは基地へ引き返す。自分の目でも後ろを確認したが、その時既に人型ネウロイは姿を消していた。
※サーニャのお父さんの名前は劇中にて登場しておらず、確定ではありません。作者の想像です。
約1ヶ月更新が空きました。まさかここまで長くなるとは当初の私は思っていなかったでしょうね。まぁ今でも忙しさの種はご存命なのですが。
取り敢えずストパン無印の話は最後まで書き通すつもりです。お付き合い頂ければと思います。