マウンテン・ティムに相棒がいてもいいじゃない 作:不知東西屋
トップ集団のゴールからおよそ10分後。
サンチョ・パンサの手綱を引いてゴールゲートをくぐった僕をガヤガヤと言う喧噪が包みこんだ。
新聞記者らしい男との話を打ち切って、マウンテン・ティムも出迎えてくれる。
「おつかれさん。」
「ありがとう。」
差し出されたコップを受け取り、水を飲む。
「それで、結果は?」
半ば以上の確信を込めて尋ねれば、マウンテン・ティムはニッと笑って掲示板を指さした。
周りには自分の着順を確認しようとする選手で人だかりになっていたが、一際高いところに刻まれた文字ははっきりと読み取れる。
1位:マウンテン・ティム、2位:サンドマン、3位:ディエゴ・ブランドー、………。
「やったぞ!!マウンテン・ティム、流石だ!!」
「ああ、なんとか勝った」
踊り出しそうな僕とは対照的に、マウンテン・ティムの言葉はかすかに歯切れが悪い。
彼にしては珍しい様子に疑問がわく。
「どうしたんだい。何か、あったのか?」
「まあ、な。少しばかり、してやられた気分ってとこだ。今から話すが、その前に馬を休めてやろう。」
それもそうだ。
馬は僕以上に疲れている。
水と飼い葉をやって、明日10:00の2ndステージまでに体力を回復してもらわなきゃならない。
考えることは誰も一緒か。行列に並んで水を汲み、無料の食事も確保。
馬2頭と人間2人で昼食をとる。
「実はな。順位こそ1位だが、俺はゴールまでにジャイロを追い抜くことが出来なかったんだ。」
「何だって!?」
驚いて声を上げた僕に、マウンテン・ティムは淡々とゴール前の攻防を説明してくれる。
「あの鉄球の技術だ。俺がDioやサンドマンを抑えて、ジャイロを捉えたと思ったときだ。奴は鉄球を使って背中のマントを独特の形状に膨らませた。そして、向かい風に対して切り上がる帆船の様にサンタアナを推進力に変えて加速して見せたんだ。」
「まさか」
信じられないと言う気持ちと納得する気持ちが同時にわいてきた。
最後の2000m。
メキシコから吹く強風、サンタアナに対して、他の選手は1人きりで勝負を挑んでいた。
いわば、1対1。
2人で闘った僕達は1対2。
ジャイロは敵を味方につけて0対2の状況を作り出したということ。
にわかには信じられない。でも、確かにそれなら負けるかもしれない。
「着順はジャイロ、俺の順。しかし、下り坂の終わり、奴が鉄球を投げつけた岩の上にインディアンのサンドマンがいた。アレが走行妨害と判定されて、ジャイロはペナルティ。俺が繰り上げで1位に収まったってわけだ。」
「なるほど。それでどうにもスッキリしない顔をしていた訳か。らしくないね」
僕の口調がからかいを含んでいるのが分かったのだろう。
マウンテン・ティムもおどけた調子で肩をすくめた。
「らしくない、か。勝ち負けは運の部分も大きいし、どんな勝ちでも勝ちは勝ちなんだが、こういうのはどうも収まりが悪いな。」
この台詞を聞いて、僕はできるだけ不敵な笑みを浮かべようとした。
「じゃあ、こうしよう。1stステージは僕たちの負け。この1位はジャイロからの借りだ。SBRは長い。この先、どこかで借りを返す機会は必ず来るさ。そこで奴に借りを返した上で、」
ここまで言えば、マウンテン・ティムにも僕の言いたいことが分かったらしい。
ニヤリと笑って最後の台詞を引き取った。
「2ndステージ以降も俺たちが勝つ。」
水の入ったカップが掲げられる。
僕も同じように掲げ、軽くぶつける。
「ああ、もちろん!」
話は決まった。次も僕たちが勝つ。
………。
次のステージに対する心構えも決まり、本格的な準備に取りかかろうと言うところで、僕たちに話しかけてくる奴がいた。
「失礼します。マウンテン・ティム、少しよろしいですか。」
最初はぶしつけな新聞記者か何かかと思ったが、よく見れば見覚えのある男だった。
胸に星形のバッチを着けたこの地域の保安官助手だ。
どこの国でも同じかもしれないが、基本的に保安官と役人の話にいいニュースは滅多にない。
僕は悪い予感がしたが、マウンテン・ティムは感じよく応じる。
「ああ、ちょうど昼食も終わったところだ。なにかあったのか?」
若い保安官助手は恐縮しきり。やや早口になって要件を伝える。
「保安官からの依頼です。至急、1stステージのスタートから8000mの地点に来ていただきたいと」
言語道断の申し入れだった。
ただでさえ今日のレースで疲れているのに、明日からはさらに過酷な砂漠のコース。
準備しすぎることはないし、時間はいくらあっても足りない状況だ。
一言言ってやろうと口を開きかけた僕をマウンテン・ティムが制止した。
「保安官は話の分かる、常識のある人物だ。その彼がムリを押して頼んでくるんだ。それだけの事態ってことさ。…、了解した。すぐに向かうと保安官に伝えてくれ。」
台詞の後半、保安官への返事の部分を聞いた保安官助手はあからさまにホッとしていた。
そのまま、挨拶もそこそこに保安官のもとに走り去っていく。
「僕も一緒に行こうか?」
「いや、お前は明日の準備を進めておいてくれ。くれぐれも念入りに頼む。」
「分かった。そっちも気をつけて」
ゴースト・ライダーにまたがってコースを戻っていくマウンテン・ティムを見送り、僕も準備に取りかかる。
水、食料、装備品。
最悪、水くらいしか補給できないことも考えていたが、商魂たくましい行商人が店を開いていて助かる。
若干どころではなく割高だが、値段は生き物だし、こっちには1stステージの賞金もある。必要なものは惜しまず買うことにしよう。
お金があるって、いいことだなあ。と、実感。
あちこちの店をのぞいている最中、5位のジョニィ・ジョースターとジャイロが連れ立っているのを見かけた。
それほど親しい様子でもないが、ひょっとしたら組んだのかもしれない。
過去の負傷から下半身の自由が効かないらしいが、ジョニィの乗馬技術の高さはレース中に間近で見た。
それが“鉄球”のジャイロと組むとなると一段と手強くなりそうだ。
足下を見てくる行商人と値段交渉をしながら、重量と必要性を天秤にかけていくつかの品物を手に入れた後で、キャンプ用のテントに腰を据える。
まずやるのは馬のブラッシング。これは重要な仕事だ。
馬の筋肉をほぐしてやる効果もあるし、丁寧に体中をブラッシングしてやれば、自然と間近で馬の身体をチェックすることになる。
故障の元になる些細な異変にも気がつける。
いつも通り念入りに作業を行い、そろそろ終わりにするかというところでマウンテン・ティムが戻ってきた。
「おかえり。どうだった?」
「予想通りやっかいな話だ。まあ、後で話すさ。」
そういう表情は言葉と裏腹に活力が感じられる。
この顔は前にも見たことがある。大方、どこかでいい女でも見つけたのだろう。
もう31で、ワイオミング中の女の子を夢中にさせているのに、マウンテン・ティムには少年並みに純情な部分がある。
恋するカウボーイ、アリゾナを行く。やれやれいくら何でもカルすぎる。文章にしても新聞社が買ってくれるとは思えないな。
まあ、元気が出たならよしとしよう。昼時の煮え切らない表情よりは100倍マシだ。
僕は内心で肩をすくめ(もちろん、表情には出さない。)、カウボーイがゴースト・ライダーにブラシを当てている間に夕飯の準備をすることした。
今日のメニューはチリコンカンにしよう。
………。
「本当に、やっかいな話だな。」
夕飯をとりながら話を聞いて、僕は思わず悪態をついた。
レース中に起こった3人の殺害事件。
内臓がひきづり出された異常な死に様。
内臓の巻き付いた拳銃と何故かはじけ飛んだジーンズのボタン。
話を聞いただけで、おなかいっぱいになるところだが、極めつきにマウンテン・ティムが捜査を引き受けたという。
胸焼けして、ため息すら出ない。
「明日は後方からスタートして犯人の追跡をすることになる。」
今のところ唯一の有力な手がかりは犯人のものである馬の足跡のみ。
真ん中が山型に欠けた蹄鉄だけだ。
明日はそれを追跡する。
頭が痛いことこの上ないが、捜査への協力も犯人の追跡にも異論はない。
マウンテン・ティムが行くなら、僕も行く。シンプルなルールだ。
「話は分かった。でも、1つ確認しておきたい。」
「なんだ?」
「犯人のことだけど。事件現場を見た印象でどうだった。なにか、常識を越えた力を持っていると思うかい?」
あなたと同じような、とは口にはしない。
「可能性は高いと思うが、分からないな。何か特殊な技術やトリックの可能性もある。」
「なるほど、確かなのはとても一筋縄でいく相手じゃないってことだね。」
僕が肩をすくめてお手上げのジェスチャーをする。
マウンテン・ティムは苦笑した。
「つまりは、いつも通りってことだ。」
まったくもってその通り。
心配ご無用。いつも通り、解決間違いなしだ。
とは言え、明日は今日以上にタフなイベント目白押し。
僕もマウンテン・ティムもサッサと寝て、身体を休めることにする。
毛布にくるまり、眠りに落ちるまでのわずかな時間。事件について考える。
気になるのは被害者の数。
何故、3人なのか。
状況から見て、犯人の引き金はかなり軽い。
その上、自分の殺り方にも相当な自信を持っている。
なにせ、周り中に人目のあるレース中なのにお構いなしだ。
そんな奴だ。殺れるなら、いくらでも殺ったはずだ。
なのに3人。
この数字には何か理由があるんじゃないか。
そこまで考えた辺りで、僕の意識は完全な眠りに落ちた。
今のところ、主人公はスタンド使いじゃないです。
目覚めるかどうかも未定です。