マウンテン・ティムに相棒がいてもいいじゃない 作:不知東西屋
明けて9月26日は前日と変わらぬ快晴。
絶好の砂漠日和かつ追跡日和だった。
時間は9時55分。スタートまで、あと5分だ。
しかし、2ndステージは1200kmの長距離レース。
スタートダッシュの意味も薄いとあって、周りの連中も昨日と比べればリラックスしている。
「マウンテン・ティム。この新聞読んだかい。」
「いや、なにか面白い記事でも載ってるか?」
「ああ、この2ndステージの優勝候補はサンドマンとマウンテン・ティムだと書いてある。どっちもアリゾナが地元だし、昨日の成績も良かったからね。」
「ソイツは光栄だな。期待に応えるためにも、野暮用はサッサと片付けて、レースに専念することにしよう。」
確かに、血なまぐさい野暮用は一刻も早く済ませたい。
それとなく、腰の得物を確認する。
拳銃、投げ縄、それに牛追い鞭。使い込まれた道具の感触が頼もしい。
いよいよ、レースと殺人犯の追跡の時間だ。
『さあ、スタートです!!』
1stステージ同様アナウンスと同時に花火が打ち上がり、皆が一斉に動き出す。
僕たちもスタートするが、スピードは抑え、スルスルと位置を下げていく。
まずは殺人犯の足跡を見つけなければ始まらない。
しかし、周囲は4000頭近い馬が走っている。
上手いこと見つけられるかどうか。
相手の殺しの手口より、むしろそっちが心配になってくる。
一方でレースの方は大盛り上がりだ。
騒ぎの中心はまたもやジャイロ・ツェペリ。
50km先の水場を目指す正規ルートを放り投げ、砂漠中央を最短距離でぶっちぎろうって言うイカれたチャレンジ。
遠回しな自殺と言われても納得してしまうが、正直、この男とポコロコだけはもう何をしても驚かない。
むしろ、ジャイロに追随する者が現れたことに驚いた。
まずは、ジョニィ・ジョースター。やはりジャイロと組んだということだろう。
そして、ミセスロビンソン。
さらにその後ろにバラバラと続いていく奴らがいる。
アリゾナの砂漠を舐めているのか。
装備を整えた騎兵隊でさえ、全滅したことがあるんだぞ?
僕なら、いくら頼まれても御免こうむる。
そんな風に挑戦者達を見下していた僕の思考は、相棒の声で現実に引き戻された。
「スニベル、あったぞ。この足跡だ」
指さされた先には聞いていたとおり、中央が山型に欠けた蹄鉄の跡。
予想より遙かに早い発見。
本来なら喜ぶべきだが、僕は青くなった。
「くそ、本気かよ。この足跡、砂漠のど真ん中へ向かっているじゃないか。」
「ああ、厳しいコースだが、殺人はどうやっても止めなきゃならない。」
マウンテン・ティムの声には動揺はない。
僕はため息をついてから、肯いた。
「そうだな。もちろんさ。砂漠も殺人犯も華麗にクリアして、2ndステージも1位獲得と行こう。」
覚悟を決めて砂漠へと脚を踏み入れる。
接近すると針を飛ばしてくる危険なサボテン“チョヤッ”や岩陰に潜むガラガラヘビを警戒しながら追跡すること6時間。
僕たちの前に死体が1つ現れた。
「これは、ゼッケンによればミセス・ロビンソン。チョヤッの針に全身を貫かれているけど、他殺かな?」
僕がそう言うと、馬の蹄鉄を検めていたマウンテン・ティムも険しい顔で言う。
「そうかもしれないが、昨日の殺しとは手口が違うし、コイツの馬の蹄鉄は欠けていない。だが、俺たちが追っている男もここを通過しているな。ほんの30分前ってところか。」
神父でも牧師でもない僕たちには、それ以上ミセス・ロビンソンにしてやれることはなかった。
少しばかり後ろめたいが、大地に横たえたまま追跡を再開する。
しかし、すでに夕方近い。追跡中とは言え、ムリは禁物だ。
僕は馬を進めながら尋ねる。
「今日は何処まで粘るつもりだい。」
マウンテン・ティムも追跡中断のタイミングは考えていたらしい。
悩むそぶりもなく返事が返ってくる。
「展開次第だが、日没までに姿を捉えられなければキャンプすることにしよう。」
「日没までだね。わかった。」
そこから1時間と少し。
僕たちは確実に追跡を行い、ターゲットとの距離を縮めていった。
順調な展開。
しかし、日没直前。本来の予定では追跡を中断するタイミングで、マウンテン・ティムが追跡開始以来、初めて考える様子を見せた。
「スニベル。お前、この足跡をみてどう思う。」
視線の先にはいくつかの足跡。
その中の1つ。中央が山型に欠けた蹄鉄の跡を見る。
「近いね。たぶん、10分以内にここを通過してる。」
マウンテン・ティムがうなずき、僕の意見を補足する。
「ああ。そして、凶暴さと馬の興奮が増している。襲撃の兆候だ。」
「つまり、この先で誰かが襲われていると?」
「おそらくな。予定とは違うが、このまま追跡を続ければ襲撃を防ぐか、被害者の救助することが出来るかもしれない。馬の調子はどうだ。追跡の続行は可能か?」
僕は馬の首筋をなで、汗のかき方と体調を確認する。
「ここまで慎重に走ってきたからな。まだ、余裕はある。大丈夫。やれるさ。」
「なら、行くぞ。カンテラを用意してくれ。」
マウンテン・ティムの決断。無論、僕に異論はない。
事態がさらに動いたのはそこからさらに1時間の後。
大きく広がったイバラのブッシュ。その脇に人と馬の気配。
「……。」
マウンテン・ティムの目配せでカンテラの灯りを吹き消す。
一瞬の視線のやりとり。
(僕が行こうか?)
(いや、俺が行く。フォローを頼む。)
マウンテン・ティムが腰のロープに手を添え、背中を向けてうずくまる男に近づいていく。
僕は脇に控えながら、拳銃を抜いて身構えた。
本当は牛追い鞭の方が得意だが、流石に距離がありすぎる。
油断なく歩を進めながらマウンテン・ティムが口上を述べる。
「合衆国およびアリゾナ・テリトリーの法のもと、保安官代理としての任務を授かった。3名のレース参加選手殺害容疑でおまえを逮捕する。両手をみせてゆっくりそこから出て来い。状況しだいでは処刑の権限ももっている。」
フードを目深にかぶった男は顔の高さに両手をかかげると、ゆっくりと上体をこちらに向けた。
遮るもののない砂漠の月光が男の顔を照らし出す。
「ジョニィ・ジョースター!?」
そこにいたのは1stステージ5位入賞のジョニィ・ジョースターだった。
ならば、組んでいたはずのジャイロは何処だ。
周囲に潜んでいるのか。
それとも、彼が次の被害者になってしまったのか。
ジョニィを視界に捉えたまま、周囲にも注意を向ける。
ゴッ!!
ジョニィが猛烈な勢いで投げつけた蹄鉄をマウンテン・ティムがロープでキャッチする。
「こいつッ。マウンテン・ティム、大丈夫か?」
拳銃を撃とうとしたが、すでにジョニィはイバラのブッシュの中に潜り込んでいる。
「大丈夫だ。が、コレは……、血か?」
何故か投げつけられた蹄鉄には血が付着していたらしい。
僕は不吉なものを感じたが、マウンテン・ティムは動じることなく、再度ジョニィに向けて声をかける。
「なにしようってんだ?妙なことは考えるな!追跡はここまでで俺はレースに専念したいんだ。」
僕は気がついたことを指摘する。
「どうやら、ブッシュの左側は崖になっている。馬で追いかけるには大回りする必要があるぞ。」
「なるほど、その間に逃げようってことか」
マウンテン・ティムの目が凄みを増した。
「……、逃がすかよ」
ドシウウウ!!
ヘビのような狡猾さと鷹のようなスピードでマウンテン・ティムの手からロープが放たれる。
「ぷぐ、うげっ!!」
苦しげなうめき声がブッシュから聞こえてくる。
間違いない。ロープはジョニィの首を捉えている。
「そっちから出てくるか?それともそのトゲを持つブッシュからひきづり出そうか?」
なおも抵抗を続けるジョニィに対しマウンテン・ティムが能力を発揮する。
その名も『オー!ロンサム・ミー』
自分の身体を分割し、ロープの上を自在に移動させられる。
すでに両手がジョニィを制圧すべく、ブッシュの中、ロープの先端へと送り込まれている。
「よし、流石マウンテン・ティムだ。」
思わず快哉を叫んだが、不意にロープがハリを失って地面に落ちた。
マウンテン・ティムが悔しげに吐き捨てる。
「ナイフを2本持ってたのか?切られた…」
ブッシュの向こうで馬が走り去っていく。
「驚いた。彼が犯人だったとは」
この言葉に僕は小さな違和感を覚えた。
だが、理由が分からず言葉は口から出なかった。
確かにジョニィ・ジョースターだったのは、今しがた僕も見たのだ。
とにかく、今は追跡すべき時だ。
どちらにせよ。捕まえれば全てはっきりするはず。
僕たちは再び馬を走らせ始めた。