マウンテン・ティムに相棒がいてもいいじゃない   作:不知東西屋

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第4話:悪魔の手のひら

 そこからの3時間はかなりハードな追跡劇になった。

 

 見晴らしのいい地点では姿を捉えられるものの、ジョニィもジャイロ(いつの間にか合流していた。)も一流の騎手。

 なかなか差が詰まらず、いたずらに時間と疲労が積み重なっていく。

 

 互いに馬が潰れかねないハイペースだった。

 

 だが、岩場の登りでついに相手に疲れが見えた。

 

 登りの途中からズルズルと明らかにペースが落ちる。

 それを見たマウンテン・ティムがさらにペースを上げた。

 

 彼と彼の愛馬ゴースト・ライダー・イン・ザ・スカイをよく知る僕にも驚くべきことだったが、ゴースト・ライダーにはまだ余裕がありそうだった。

 

 僕とサンチョ・パンサもなんとかついていくが、こちらは完全に限界間近だ。

 

「スニベル。ジョニィ・ジョースターはなんらかの『呪われた能力』を持っているだろうが、必ず!ここは彼を逮捕して終わらせる!生死を問わずッ!」

 

 普段であれば「了解!」と勢い込むところなのだが、先ほどからゴースト・ライダーから感じる異常なまでの余力に、ずっと感じていた違和感が不吉な予感へと変わる。

 

 この感覚をどうにか伝えなければならないと、必死で追いすがる。

「待ってくれ、ちょっと待つんだ!!」

 

 マウンテン・ティムは突然妙なことを言い出した僕を、怪訝な、ほとんどイラだったような表情で一瞥した。

「なんだ、トラブルなら後から追いついてこい。今、ここでジョニィ・ジョースターを逃がすわけにはいかない。」

 

 そう言われたとき、僕は見た。マウンテン・ティムの鉄製の馬具が彼の身体に奇妙にピタリと張り付いているのを。

 感じた。僕の馬具や鉄のボタン、それに腰の拳銃がぐいぐいと彼の方向へ引っ張られるのを。

 

 瞬間的に、いくつかの事柄が僕の頭の中で連鎖的に結合した。

 事件の被害者の数は3人。

 ひきづり出された内蔵と内臓に絡まった拳銃。

 はじけとんだボタン。

 

 今、前方のジョニィ、ジャイロ、そしてマウンテン・ティムで3人。

 引っ張られる鉄製の馬具、ボタン、拳銃。

 

「いいから、止まってくれ!異常な事態が起きているぞ。すでに!!」

 

 僕が叫ぶと同時に数十m先でジョニィとジャイロが落馬した。

 馬がけつまずいたわけでも、暴れたわけでもない、不自然な落馬だ。

 

 必死の叫びが通じたのか。マウンテン・ティムが馬の足を止める。

 同時に自身の身体に起きている異常に気がついた。

 

「な、なんだ!?この『ひっぱり込むような力』は」

 馬上でマウンテン・ティムの身体が前方に引きづられてバランスを崩す。

 

「まずい!進む方向に引っぱられていたから、気がつかなかったんだ。すでに、近づきすぎている!!」

 僕が絶望の声を上げた刹那。

 

 今まさに落馬しようとしていたマウンテン・ティムの両手が光の様なスピードで振り抜かれ、そこから伸びたロープが過たず、後方の岩を捉えた。

 

 頑丈なロープに支えられマウンテン・ティムの前進が止まる。

 さらにその上を能力で移動することで2人から距離をとった。

 

 僕はひとまず危機を脱したことに胸をなで下ろし、ジャイロとジョニィはロープ上で分割されたように見えるマウンテン・ティムの身体に目を丸くしていた。

 

 マウンテン・ティムは2人を油断なく見おろしながら口を開いた。

「この今の状況、3人とも近づくと、ヤバい事が起こるようだな。そして、オレは追跡の相手を誤解していたらしい。ジョニィ・ジョースター。今オレをひっぱっている『磁力』のような力は誰の能力なんだ?詳しく教えてもらおう。何が起こっているのかを……!」

 

 そこからは腹を割った情報交換になった。

 ジャイロとジョニィから真犯人がブンブーン一家の父親、息子、娘の3人組であること。

 ジャイロの不可思議な鉄球の技は、マウンテン・ティムやブンブーン一家の能力とは異なる『技術』であることが告げられた。

 

 マウンテン・ティムからは『悪魔の手のひら』という呪われた土地と自身が能力を身につけたいきさつが話された。

 

 『悪魔の手のひら』は不可思議な力によって、流砂を伴い移動する。

 そして、選ばれた者には力を、選ばれなかった者には容赦のない死を与える場所だ。

 

「この能力を『立ち向かうもの(スタンド)』とオレは個人的に呼んでいる。…、間違いない!ブンブーン一家も『悪魔の手のひら』にふみ入ったやつらなんだ」

 

 そこまでで一旦話を区切り、さらに2人から距離をとる。

 離れるごとに引き合う力は弱くなるらしくジャイロたちにも少し余裕が戻ってきた。

 

「どこかにいるヤツらを探し出して倒すしか旅を続ける方法はなさそうか?」

「いや……、その必要はないと思うよ」

 ジャイロの吐いた台詞に聞き慣れない声で返答がある。

 

「「ハッ!!」」

 4人が、4人とも虚を突かれた。

 

「探すこともないし、離れる必要もないよ。君たちが行けるのは、近づく方へだけだ。……ね?とうさん。とうさんがそう言った。」

 

 いつの間にか、ジャイロとジョニィの背後に男と女が1人ずつ迫ってきていた。

 背格好からブンブーン一家の父親ベンジャミンと娘のL.A.だろう。

 

 息子のアンドレの姿がないのが気にかかるが、ジャイロの攻撃で土手っ腹に風穴が開いていると言うし、既にリタイアしているのかもしれない。

 

 近づいてくるブンブーン一家には相手をカタにハメた側の余裕がある。

「手伝うか?L.A.一人でロープを切れるか?マウンテン・ティムの野郎のロープをよぉ~」

「え~!?出来るような、自信ないような」

 

 3人に対して勝ちを確信し、まだ無傷で馬上にいる僕もまるで問題にしていない態度。

 不遜にも見える敵の余裕。

 

 闘争の気配が周囲に満ちて、神経がヒリつく。

 

 真っ先に動いたのはジャイロ。

 ドバァッ!!と、うなりを上げて鉄球が放たれる。

 

 だが、次の瞬間。

 ズドォオオオオオ!!という地鳴りとともに地面から爆発的にあふれ出した黒い影が鉄球をジャイロとジョニィごと捕縛していた。

 

「これは!!『砂鉄』かッ!地面の中の『鉄』を集めて形にしているッ!!」

 ジャイロが叫ぶ。

 

 拘束され、引き寄せ合う磁力にあらがえなくなった2人の身体が密着させられる。

 このまま、3人ともが集められればどうなるか。

 

 危機にジョニィも絶叫する。

「マウンテン・ティムの方へつっ走っていくぞォォーッ」

 

「やらせるかよ!」

 僕はすでにL.A.に向けていた拳銃の引き金をためらいなく引いた。

 マウンテン・ティムもほぼ同時。

 

 しかし、一斉に放たれた10発近い弾丸は全て砂鉄の幕にはたき落とされた。

 やったのはそれまで見にまわっていたベンジャミン・ブンブーン。

 

「やっぱり、ひとりじゃあ危なっかしいなあL.A.!ヤツらの両手も砂鉄でふさぐんだよ!ヤツらに何もさせるな。幸せか?幸せだよなあ、ワシたちはよオ。さっさとマウンテン・ティムのロープを切れ」

「ああ~。父さん…、ぼく、とっても幸せだよォオ」

 

 銃弾のお返しとばかりにL.A.が操る砂鉄がマウンテン・ティムをさせていたロープを引きちぎる。

 

「ロ、ロープを切られたッ!」

 ジョニィが叫ぶ。

 3人が密着してしまえば一貫の終わり。僕はとっさに馬をとび出させる。

 

「マウンテン・ティム。こっちだ!」

 ジャイロたちに向かって転がり落ちてくるマウンテン・ティムの身体をタックルするようにして受け止める。

 

「や、やった。受け止めた」

 ジョニィが安堵するが、状況は良くなっていない。

 むしろドンドン追い詰められている。

 

「お、重いぞ。これは!?」

 マウンテン・ティムの身体を拘束していた砂鉄が僕の身体をも縛り付けようとする。

 

「ダメだッ、動きが封じられる!」

 強烈なパワー。必死に手綱にしがみつくが、時間稼ぎにしかならない事が分かってしまう。

 

 おそらく、この砂鉄は本来は“標的”である3人以外には効果は低いのだ。

 だから、さっきまで僕は後回しになっていた。3人を片付けた後でゆっくり料理してやるってとこだったのだろう。

 

 しかし、僕がマウンテン・ティムの身体を受け止め、密着したことで、マウンテン・ティムを拘束する強力なパワーの有効範囲に入ってしまったのだ。

 

「オメェらはもう、この磁界の中じゃあなにやっても無駄なんだよォオオオオオ」

 ベンジャミンが勝ち誇り、吠えるように叫ぶ。

 

(だ、だめか)

 絶望的な状況に僕の心に諦めが芽生えかける。

 

 だが、少なくともジャイロ・ツェペリはまだ諦めてはいなかった。

「ジョニィ!お前の手が空いているッ!やれっッ!おまえがやるんだッ!」

 声をはりあげ、ジョニィを叱咤する。

 

 鉄球の技術の応用で、マウンテン・ティムと僕が放った銃弾を回転させて武器にしろと。

 

「ジョニィ!やるしかねぇッ!!『LESSON3』だッ!おまえキャンプの時、回転させたって言ってたろうッ!弾丸も同じ事だッ!飛ばせッ!」

 

 ジョニィが怖じ気づく間も僕たちの身体に対する磁力と砂鉄の圧力は強まり続け、両手が、ついに手綱から離れてしまう。

「落ちるッ!2人の方に引き寄せられる!!」

 

 僕たちの落馬、それに続く決定的な瞬間を想像したL.A.ブンブーンが感極まったように叫ぶ。

 

「合体するよおーッ!内臓何メートル飛び出るかなー!ハラワタ新記録出来るかなー!!」

 

「ジョニィやれェェェ!やるしかねえー!!」

 ジャイロの叫びはほとんど懇願のようだった。

 

 僕とマウンテン・ティムの身体がひとかたまりになってジャイロたちに急接近する。

 

 いよいよ密着してしまうと言うその時、それまで自信なく揺れていたジョニィの目がスゥッと据わるのを僕は見た。

 左の手のひらで、親指にはじかれた銃弾がうなりを上げた。

「ま…回った!回った!回ったぞッ!ジャイロッ!」

 

 だが、かすかに生じた希望の芽は文字通り踏みにじられた。

 ベンジャミン・ブンブーンの右足がジョニィの手首を踏みつけ、手のひらからこぼれ落ちた弾丸は地面に力なく転がった。

 

「もっとうしろ下がってろL.A.!最後まで気ィ抜いてんなよ。死にぎわの悪あがきには気ぃつけろだ」

 ベンジャミンが得意げに言う。

 

 反対にジョニィの声には失望がにじんだ。

「だめだジャイロ!出来なかったッ!僕には出来なかった!」

 勝負は完全に決した。

 

「い、いや、父さん…。」

 にもかかわらず、L.A.ブンブーンがおびえたような声を漏らす。

 

「ジョ、ジョニィ・ジョースター?」

「ジョニィ!なんだ、それは!」

 異変、いや奇蹟が起きようとしていた。

 

 さっき、ベンジャミンに踏みにじられたジョニィの左手。

 その指先の爪が、空気を裂き、鋭く回転していた。

「な、なんだこれ!?ジャイロ!?爪の方が回転してる!!」

 

「これは、まさか……、スタンド!!」

 マウンテン・ティムの声が驚愕に震える。僕も言葉を失っていた。

 

「どういう事だ。これは!?何の影響だ。……鉄球の回転に、そんなのはねえッ!」

 ジャイロの声も驚愕に満ちていた。

 

「父さんッ!早く戻ってッー、あ、足ッ!」

 おそらく、この時点で最もジョニィの爪の脅威を感じ取っていたL.A.ブンブーンが叫んだ瞬間、回転する爪がベンジャミン・ブンブーンの右足首を切りとばした。

 

「わぁあああああーーっ」

 野太い悲鳴。

 

 同時にさらなる一撃。

 無慈悲かつ強烈な斬撃がベンジャミン・ブンブーンの顔面から太ももまでを深く切り裂く。

 

 一目で、即死だと確信させるのに十分な破壊力だった。

 

「これはッ!?ぼくの手がッ!?いったいジャイロ!!どうなってんだ!?ぼくの指の爪がッ!もう止まってるが…」

 

 本人にとっても衝撃的だったのだろう。

 必死の形相でジャイロに意見を求めるが、聞かれた側の顔も困惑に満ちている。

「どういう事なのか見当もつかないぜ。そんなの鉄球の回転技術じゃあねえ!!」

 

 だが、悠長に問答をしている時間はなかった。

「よくもきさまッ!父さんのことををををををををををーーーーッ!!」

 父親を殺されて半狂乱になったL.A.ブンブーンが絶叫しながらジョニィに襲いかかる。

 

 研ぎ澄まされた砂鉄の爪が首筋に突き立てられる。

「血管ブちぎられてくたばりやがれェエエエエエー!!」

 

 だが、再び回転を始めたジョニィの爪がL.A.の足のつま先を切りとばし、ジョニィ自身はその勢いで跳ねるようにとびあがった。

 

「ぎゃアアアアアアアアアーーッ」

 耳をつんざくような悲鳴が上がり、同時に磁力と砂鉄の能力が消えた。

 

「やったッ!ヤツらの鉄の能力ッ!磁界が消えたッ!!」

 ジャイロが快哉を叫ぶ。

 

 そのまま、ジャイロとジョニィは爪の回転について議論を始めそうだったが、それにはマウンテン・ティムがストップをかけた。

「ジョニィ・ジョースタ-。その爪の回転が技術以上のものだとすれば、それは“スタンド”だ。お前は影響を受けたんだよ。“悪魔の手のひら”のな。」

 

 そして、慌ただしく出立の準備をしながら、2人も同じことをするように指示を出す。

 僕はもちろん、言われるまでもなく準備を始めている。

 

「早く馬に乗れッ!地面が動いて地形が変わるぞッ!すぐに脱出しないと、迷い始めるッ!」

 

 ベンジャミン・ブンブーンの亡骸を抱えたL.A.ブンブーンが僕たちを口汚く罵ってくるが、かまってやる余裕はない。

 

 いずれにしろ、彼女自身が重傷だ。生きてこの砂漠を抜けられる望みはない。

 ジャイロとジョニィもマウンテン・ティムの言葉に従い、僕たちは4人で素早くその場を後にした。

 




 今のところ、ここまでしか書いてないです。
 申し訳ありませんが、次話の投稿は未定です。
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