マウンテン・ティムに相棒がいてもいいじゃない   作:不知東西屋

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第5話:オエコモバ

 悪魔の手のひらを脱出してからは4人で競うように旅を続けることになった。

 

 正直、2ndステージ中間地点の街に到着した時はホッとした。

 なにせ初日の追跡劇からムリをしすぎた。

 

 事情は僕と同じはずなのだが、3人は本当にタフだ。

 中間地点への着順で(ポイントにはまったく関係ないのに)張り合いだしたときは苦笑いしか出なかった。

 

 それはともかく、街に着いたら最初にやることは決まっている。

 馬を休ませ、次の旅の準備をすることだ。

 

 馬たちに水と飼い葉をたっぷりとやって、念入りなブラッシング。

 別に示し合わせたわけではないが、ジャイロたちも同じようにしている。

 だが、ジョニィの足が不自由な分、作業を終えるのはこっちの方が早かった。

 

「それで、出発は今日の夕方ってことで良いのかい?後続とはだいぶ差があるはずだ。もう少し長めに滞在して馬の疲労をしっかり抜いてやる手もあると思うけど」

 問いかけると、マウンテン・ティムは慎重な口ぶりで応じる。

 

「最終的には夕方、馬の状態を見て決める。だが、初日以降はトラブルなく来ている。十分、後半のレースにも耐えられるだろう。」

 

 僕は肯く。

「分かった。ジャイロたちは強行軍を選びそうだし、負けるわけにはいかないもんな。」

 

 そこまで話したとき、風に乗ってかすかに蹄の音といななきが聞こた。

 数は1つ。

 

「誰か、到着したみたいだね。」

 傍らのマウンテン・ティムに声をかければ、ハンサム顔に緊張が走っている。

 

「どうしたんだ。何かあったかい?」

「分からないか?ベンジャミン・ブンブーンの馬によく似た兆候。街に到着したのに、むしろ緊張と興奮が増した。主人の血なまぐさい感情を察した馬の反応だ。」

 

「まさか、またジャイロへの刺客か?」

 半ば反射的に連想してしまった。

 マウンテン・ティムもその可能性は頭にあっただろうが、ひとまず首を横に振った。

「それは分からんが、注意は必要だな。もし無法を働くつもりなら、放ってはおけない。」

 

 ジャイロを狙った刺客だろうと、レースの賞金狙いの悪党だろうと、僕たちの国で無法を働こうというのなら見過ごすことはできない。

 

 僕たちは建物の影から街の入り口、レース運営の事務所周辺の様子をうかがった。

 相手の男はすぐに分かった。

 

 レースの職員と話をしているドレッドヘアーの男だ。

 砂漠を超えてきたとは思えない薄着で、露出した手足にはいくつも時計の模様の入れ墨が入っている。

 

 かなり奇抜な格好だが、変わった出場者の多いこのレースでは驚くには当たらない。

 それよりも問題は、離れていても伝わってくる

「血なまぐさい男だな。いままで10人殺したと聞いても納得しちゃいそうだ。」

 

 男は職員との話を切り上げ、ホテルの方へ歩き出す。

 マウンテン・ティムが唸るように言った。

「あの歩き方。足音を殺し、息を潜めている。まるで獲物を狙うクーガーのように。平和にチェック・インする気はなさそうだな。」

 

 自分もホテルに向かって歩き出すマウンテン・ティムを追いながら僕は尋ねた。

「どうするつもりだい?」

「俺はヤツを先回りしてホテルに侵入する。お前はこのままヤツを尾行してくれ。挟み撃ちだ。」

 

 スタンド能力(オー!ロンサム・ミー)で通風口からでも侵入するつもりだろうと察した僕は肯いた。

「分かった。無茶はしないでくれよ」

「お前もな」

 

 短く言葉を交わして別れる。

 マウンテン・ティムはホテルの裏手方向へ、僕は男を追って正面側に向かう。

 

 油断なく周囲を伺い、何かを探しているようにしながらも、男の歩みは速かった。

 ためらうことなく、ホテルへと入っていく。

 

 若干の間をおきながら、僕も後に続く。

 

 幸い、休息に入る前だったから腰にはロープ、銃、それに鞭も収まったままだ。

 手早く銃の弾丸だけ確認した。

 

 入り口での待ち伏せを警戒して慎重に接近。

 中をのぞき込めば、廊下の先、ジャイロの部屋のドアが開いていた。

 

(くそ、思った以上に相手の動きが素早い。)

 僕が心の中で悪態をつきながらホテルの入り口をくぐるのと、部屋の中からドレッドヘアーの男が出てくるのは同時だった。

 

 虚を突かれたが、とっさに銃を抜いて相手を牽制しようとする。

 しかし、ドレッドヘアーの男はこっちをチラリと見ると大して興味もなさそうなそぶりで口を開いた。

 

「おいおい、そんなところに突っ立てると危険だぜ。」

 一瞬、何を言われたのか理解できなかった僕をよそに、男は廊下の隅で伏せるように身を低くした。

 

 ドグオォアアッ!!

 

 何が起きたのか分からなかった。

 爆発で吹き飛ばされたと知ったのは後になってから。

 

 気がついたときには、砂だらけ、傷だらけでホテルの前の通りに転がっていた。

 異常に気がついたレースの職員とジャイロたちが近づいてこようとしているのが目に入ったが、耳鳴りがひどくて何も聞こえない。

 

 だが、そんなことはすぐにどうでも良くなった。

 もっと、重大なこと。

 10mほど先に、バラバラになったマウンテン・ティムの身体を見つけてしまったからだ。

 

「マ、マウンテン・ティム!!」

 自分の身体の痛みも忘れて立ち上がっていた。

 マウンテン・ティムの手足がもげ、体中から血が流れ出している。

 

 そんなはずはないと心が叫ぶ一方で、理性が彼の生存を絶望視しようとする。

 大げさでなく、足下が崩れていくような感覚に襲われた僕の視線の先。

 

 バラバラになっていたマウンテンティムの身体や手足が動いた。

「な!?」

 驚き、後に理解が追いついてくる。

 

「そうか、スタンド能力。ロープで身体をバラバラにしてダメージを逃がしたのか!」

 ホッとして腰が抜けそうになった。

 

 同時に、回復し始めた聴力が彼の声を捉えた。

「オレから離れろォー!!近くに潜んでいるぞォォー!!スタンド能力だァァッ!!」

 

 その言葉に、僕、ジャイロ、ジョニィの3人は一斉に臨戦態勢になる。

 

「いるぞッ!絶対にそいつに触られるなあッ!そいつが敵だッ!逃げろォオオオオッ」

 マウンテン・ティムが叫ぶ。

 

 同時に爆発の煙に紛れたドレッドヘアーの男がジャイロに向かって襲いかかった。

 

 ズバァアア!!

 

 低い姿勢から腕が振り切られる。

 ジャイロがそれを危ういところで跳び退ってかわす。

 

「なんなんだよぉぉ~、あのカウボーイはぁぁ~。どォ~ゆうう~体してんだああああ~」

 奇妙に間延びした調子で男がつぶやく。

 

 その顔を見たジャイロが吐き捨てるように言う。

「オマエは……!」

 男のことを知っているらしい態度。

 

 それは男の方も同じだった。

「久しぶりだな…、ジャイロ…、ツェペリ」

 

「くそっ!なんてこったッ!ジャイロ、触られたぞッ!今ッ!ヤツに指で触られたッ!」

 男をにらみつけるジャイロに対して、マウンテン・ティムが警告をとばす。

 

 その言葉通り、ジャイロは男に触れられていたらしい。

 鉄球を握っている右手に奇妙なピンがいくつも現れる。

 

「なんだ!?こりゃああ~」

 動揺するジャイロに、マウンテンティムが言う。

 

「ジャイロ、おまえは『部品(ピン)』を付けられたッ!それがそいつの能力だッ。爆発するぞッ!『部品(ピン)』が飛ばないように手でおさえろッ!」

 

「!?…え?なんだってェ!?」

 まだ状況を完全に理解できていないジャイロに対し、再度マウンテン・ティムが叫ぶ。

 

「いいからジャイロ、早く『部品(ピン)』をおさえろォォーッ!オレの時と同じだッ!!そのピンが飛んだら爆発したんだッ!」

 

 切羽詰まった僕たちの様子に対して、男の口調はいっそのんきと言ってもいいものだった。

「なんだよ…教えてんのかよ…」

 

 ようやく、自身の状況を理解したジャイロが左手で鉄球を持った右手を押さえる。

 

「チェッ!おしい」

 男が面倒くさそうに舌を鳴らす。

 

「絶対、指をはなすな!!それが『ルール』だッ!まるで『地雷』だったッ!その部品(ピン)が空中にはじけ飛ぶッ!そしておまえの手は爆発するんだ!!」

 

 マウンテン・ティムから次々と投げつけられる不吉な情報に流石のジャイロも顔色が変わってくる。

「おい……、どうなってんだ!?この時計みたいな『輪っか』!オレの指と一体化してるぞッ!しかも本物の『機械』みたいに見えるッ!4本くらい見えるぞ!」

 

 

「それが『スタンド』だッ!『スタンド』とは精神のエネルギーのこと…、オレたちの心の中にまるで存在するかのように見せ…、そして『破壊』もする!『爆発』もそのエネルギーだッ!」

 

 マウンテン・ティムはケガを推して可能な限り情報を与えようとする。

 

「ピンがはじけ飛んでスイッチが入るッ!『地雷』といったのはそういうことだッ!ヤツはその間に爆発の衝撃から安全なところまで離れることが出来るッ!」

 

 その言葉を裏付けるように、男が一歩下がった。

 

「ジャイロ…。そいつ今、君に『久しぶりだ』といった!そいつのことを知っているのか?」

 そう尋ねたのはジョニィだ。

 

 ジャイロは男をにらみつけたまま質問に答えた。

「ああ…、名前は『オエコモバ』。2年前、こいつは国王の馬車を爆破したテロリスト…!!国王は乗っていなかったが巻き添えで子供2人を含む5人が死亡した。…、そしてこいつは捕らえられて死刑判決を待っていたが脱獄した。 

 獄中なぜかほんの少しの爆薬を持っていて、看守の耳の中に入れ爆殺!脱獄したんだ」

 

「おまえのオヤジさんは元気か?ジャイロ・ツェペリ、聞くところによると処刑人の任務を引退したそうじゃないか?オレの脱獄に対して責任をとって…。そりゃそうだよなぁ。部下である看守の死に、責任はあるよなあ。国王からの『任命』だもんなあ」

 

 挑発するようなオエコモバの言葉に、ジャイロの表情に険しさが増す。

 

「そしてこのアリゾナ砂漠の通過は、神の御技だ!ぶったまげたがよオオオ。オレの爆弾の特技はこの体の中の能力として身についた…。神から与えられた使命と受け取ったぜ!」

 宣言するように言うオエコモバ。

 

「ジャイロ、もうひとつ言っておく!『スタンド能力』から身を守る手ッ取り早い方法は…!!ヤツ本体が死ねば!!『能力』も同時に消滅するッ!!」

 

 際限なく高まっていた緊張感はマウンテン・ティムのその発言で頂点に達した。

 

 ジャイロが右手のピンを押さえながら身構え、オエコモバもこちらをにらみつけながらブツブツと吐き捨てる。

 

「いろいろと親切に指導するのもいいけどよオオ。すでにジャイロ・ツェペリの『右手』は封じてやったぜ……。それってよォォ、借金でクビがまわらないヤツが『闇金融』からカネ借りちゃったのと同じ事よ。もうどーしよーもないって事!」

 

ドシュッ!!

 

 オエコモバが何かをこっちに蹴り出した。

 

「ジャイロッ!地面だッ!何か蹴ってよこしたぞッ!!」

 ジョニィが声を上げる。

 

 マウンテン・ティムも叫んだ。僕に向けて鋭く。

「ネズミだッ!スニベルッ、近づかせるなーッ!!爆弾になっているッ!!」

 

「了解ッ!!」

 はじかれるように、僕と僕の右手が動いた。

 腰の牛追い鞭を抜き取り、振り抜く。

 

 僕がマウンテン・ティムより優れていると断言できる唯一のもの、それがコレだ。

 鞭の射程5m。その中でなら誰よりも素早く標的を捉えてみせる。

 

 狙い澄ました一撃がジャイロの足下に迫るネズミを打ち据えて、オエコモバの方へとはじき返す!

 

「なんだとォオオ!?」

 オエコモバが驚愕の声を上げる。

 だが、惜しくもネズミはオエコモバと僕たちの中間で炸裂した。

 

 ボグォオオッ!!

 

 直撃ではないとはいえ、かなりの衝撃に僕たちは転倒する。

「うあああああっ!!」

 

「ジャイロ、手をはなすなッ!指を決してはなすなァーッ!!」

 マウンテン・ティムの叱咤に応えて、ジャイロがピンを力強く押さえ直す。

 危ういところだったが、ピンは飛ばない。

 

 そんな最中、同じく爆発の衝撃で転倒していたオエコモバが体についた埃を払いながら立ち上がった。

「フゥ~。今の攻防、すごく手に汗握っちゃったよなぁ~。砂漠でこの能力を身につけて丸4日だが、オレは今自分の能力の全てをここで理解したよ」

 

 語る表情には嫌な余裕がある。

「神の御技に『弱点』はなかったってことをな…。せいぜいガンバってピンがはじけないよう押さえつけてなよ」

 そう言うと、話は終わったとばかりに背を向けて去って行こうとする。

 

「ジャイロ!ジョニィッ!ヤツを絶対に逃がすなよッ!」

 マウンテン・ティムが発破をかけるが、オエコモバの余裕は崩れない。

 

「逃げるもなにもさ~。もう終わりって事だぜ……。ジャイロはあと3歩も歩けないさ…、手に汗握れば握るほどなあああああーッ」

 

 その台詞の意味を1番に理解したのは、直接スタンド攻撃を受けているジャイロだった。「下がれジョニィッ!オレに近づくなッ!」 

「え!?」

 鋭く発せられた警告にジョニィが戸惑いの声を上げる。

 

「気がついたかい……。汗であろうとなんであろうとその手から離れるものは…、それはピンが抜け落ちるという事だ」

 まるで囚人に対して行う死刑宣告のようにオエコモバが告げる。

 

「あ…、汗がッ!?ジャイロ!手に汗をかいているのかッ!」

 ジョニィの言葉。それで僕とマウンテン・ティムにも状況が理解できた。

 

「汗といっしょに手の中のピンがしみ出て来てるというのかッ!」

 マウンテン・ティムが危機感のこもった声を出す。

 

「くそ!やってられねえぜッ!どうする…!?押さえれば押さえるほど汗をかいてくるぞッ!」

 追い込まれたジャイロが呻くように言う。

 

「5個6個とピンがにじみ出て来ているぞッ!!」

「ふき取れジャイロッ!汗をふき取るんだッ!」

 ジョニィとマウンテン・ティムが口々に叫ぶ。

 僕も含めてすさまじい焦燥感に襲われていた。

 

 そんな伸るか反るかの場面で、果敢に攻めるのがジャイロ・ツェペリだ。

「だめだッ!汗とピンが一体化しているッ!流れ出してくるぜ!くそっーっ、ヤツをやるしかねえッ!この鉄球を放り投げてやつをブッ倒すッ!」

 

 オエコモバは自分をにらみつけるジャイロに対してニヤニヤとした笑みを返しながら、馬にまたがろうとしている。

 

「なるほど~!それもいいかもな~。どうせ右手が吹っ飛ぶんなら……、一か八かやるだけやって鉄球を投げてみるのもいいかもな…。でも、手から離れた瞬間粉みじんだけどな……」

 

 ジャイロは投球フォームに入ろうとするが、その手からはピンが次々と抜け落ち始める。

 

「ピンが抜け落ちたぞォオーッ!ジョニィッ!もっと下がれッ!もっと後ろに下がってろォー!」

 覚悟を決めたジャイロが警告を発しながら、鉄球を振りかぶる。

 

「ジャイロォーッ!!」

 ジョニィの絶叫

 

「うおおおおおおおおおお!!オラアアァーッ!!」

 応えるようにジャイロが咆哮する。

 

 ボッ!!

 

 ジャイロの右手で力がはじけた。

 瞬間、爆発の衝撃が右足に向けて体表面を駆け抜けた。

 

 ドグォオオオ!! 

 

 はじけとぶ右足。

 だが、右手は無事だ。

 

 大地に倒れるジャイロが苦痛に歯を食いしばりながら言う。

「鉄球の回転の『最終奥義』。ダメージの衝撃波を体表を伝わらせて足へと移した……。破壊は移動した…。あの野郎をブチのめす…、この腕を失うよりはマシってことさ…」

 

 驚くべき事に、ジャイロの投じた鉄球は馬上のオエコモバに命中していた。

 強烈な回転がテロリストの胸元を深くえぐっている。

 

「ジャイロォーッ」

 相棒の深手にジョニィが声を上げる。

 

 一方でオエコモバは不利と感じたか馬を発進させて逃げに出た。

 距離が遠かったか、それとも爆発の影響か、鉄球の一撃は致命傷には至らなかったのだ。

 

 その姿に、ジャイロが不屈の闘志を湧き上がらせて体を起こす。

「逃がすか…オエコモバ。国王の『使い』からの『手紙』に書いてあった……。ヤツは手に入れる気だ……。国王からの贈り物……。『ゾンビ馬』を手に入れろ。『ゾンビ馬』は『疲れ』と『キズ』をいやしてくれる……」

 

「!!お……、追うのか……!!ヤツを!」

 ジョニィが驚愕しながら言う。

 僕も同じくらい驚いていた。

 

 だが、ジャイロの口調は断固とした決意に満ちていた。

「当然だ。爆弾の能力は理解した。ヤツはオレの敵だッ!必ず仕留める!!」

 

 その言葉の通り、ジャイロが馬に飛び乗って駆けだしていく。

 ジョニィも慌ててそれを追う。

 

 僕は行かなかった。

 2人を見送る間も惜しんでマウンテン・ティムに駆け寄った。

 

「マウンテン・ティム。だいじょうぶか!?」

 地面に横たわる彼は、先ほどまでの戦いでエネルギーを使い果たしたかのように青白い顔をしていた。

 

「スニベル。おまえはケガはどうだ」

「僕の方はたいしたことない。でも」

 実際、大したことはなかった。

 精々、最初の爆発でふっとばされた時にあちこち擦り傷が出来たくらいだ。

 

「そうか。それならいい。」

 だが、マウンテン・ティムの方は重傷だ。

 

 スタンド能力(オー!ロンサム・ミー)で威力を逃がしたと言っても100%ではない。 顔面と特に両足のキズは深かった。

 

 状況をかみしめるようにマウンテン・ティムが1つ深呼吸をして、それから言った。

「オレはここでレースをリタイヤする。」

 

「なッ、そんな!?」

 最初に驚きがあり、その後で彼の負傷状況を改めて認識し、最終的に猛烈な悔しさが湧き上がってきた。

「なんでアナタがッ!チクショウ、クソッタレのテロリストのせいだッ!!」

 

 駄々っ子のようにわめく僕の姿にマウンテン・ティムは小さく苦笑した。

「泣くなよスニベル(べそっかき)。」

「で、でも、マウンテン・ティム!」

 

 さらに言いつのろうとする僕を、マウンテン・ティムは強い視線で黙らせた。

「このレースには陰謀が隠れている。それもケチな企てじゃない。莫大な優勝賞金ですら比較にならない、巨大な陰謀が。」

 

「それは、」

 僕もうすうす感じてはいた。

 この巨大なレースは国家の威信すらかかったイベントになっている。

 当然、我がアメリカ合衆国の政府も注目しているだろう。

 

 だと言うのに、なぜこう何組もテロリストが潜り込めているのか。

 アメリカ政府はそれほどに無能なのか?

 それとも、国家と同等以上の力が働いているからか?

 

 マウンテン・ティムは厳かに言う。

「俺はこの国で不正義がなされることを許すつもりはない。陰謀を突き止め、生みだされる悲劇があるのならブッ潰す。そのために、スニベル、お前の力が必要だ。」

 

 自分が最終的に彼に従うであろうことは最初から分かっていた。

 だから、無駄な抵抗を諦めて、心の整理をつけるためにため息を1つ。それから尋ねた。

「僕は何をすれば?」

 

 すでに答えを用意してあったのだろう。

 マウンテン・ティムは即答した。

「俺はレースをリタイアして外から陰謀を追う。お前はレースを続けて中から陰謀を追ってくれ。レースの中心はジャイロとジョニィだ。2人を追えば陰謀が見えてくるはずだ。」

 

 なかなかの無茶を言う。

 だけど、僕は迷わなかった。

「分かった。やってみる。」

 

「ああ、あともう1つ。」

「なんだい?」

「そろそろ医者を呼んでくれないか。流石にツラくなってきた。」

「あッ!」

 忘れてた。

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