この素晴らしい世界の火継ぎを!   作:出没する18禁

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大変お待たせしております。



第14話

街から外れた丘の上。

 そこには、お金の無い人や身寄りの無い人がまとめて埋葬される共同墓地がある。

騎士はあまり墓地に良い思い出がなかった。

(墓地…か。とりあえずグレートクラブを取り出せるようにしておくか。)

この世界では埋葬方法は土葬。

そう、死体をそのまま埋めるだけだ。

そのせいか、死体に霊が乗り移りゾンビと呼ばれる存在になる事が度々あるのだ。

騎士達が墓地にいる訳はカズマ少年の資金集めのためにゾンビメーカー退治のクエストを受けたのだ。

ゾンビメーカー。名前の通りゾンビを作るモンスターだ。綺麗な死体に乗り移り、ほかの死体を眷属にしてしまうらしい。しかしゾンビメーカーの戦闘能力は弱いらしい。

今の時刻は夕方にさしかかろうとしていた。

 騎士一行は墓場の近くで夜を待つべくキャンプをしていた。

「ちょっとカズマ、その肉は私が目を付けてたヤツよ! ほら、こっちの野菜が焼けてるんだからこっち食べなさいよこっち!」

 

「俺、野菜苦手なんだよ、焼いてる最中に飛んだり跳ねたりしないか心配になるから」

 

「あ!アクアずるいです!お肉取りすぎですよ!」

 墓場からちょっと離れた所で鉄板を敷いて焼肉しながら夜を待つ。

騎士はあまり腹は減っていなかったため、鉄板の下の火を眺めながら計画を練っていた。

 (一応篝火を作っておくか。いや、カズマ少年もいるのだ。説明が……厄介だな。)

カズマとアクアが肉の取り合いをする中、騎士は難儀するのであった。

 

────────────────────

騎士が火を眺めていると

カズマ少年がマグカップを取り出し水を入れると

「ティンダー」と唱えた。

するとカズマの指から火が出た。

細く揺らめく火を見た騎士は何を思ったか呪術の火を取り出した。

カズマの家庭魔法【ティンダー】とは違い温もりは感じない。

「……!?騎士さん!?手ぇ燃えてます!燃えちゃってますよ!?」

カズマ少年がお湯を吹き出しながら言う

「あぁ。燃えている。」

 

「あぁ。じゃないですよ!早く消さなきゃ!!」

 

「これは…。この火は大丈夫だ。もっとも、これが火であるかすら定かではないが。」

 

「えぇ…。騎士さんってほんと謎ですね。」

 

騎士は少し沈黙した後。

呪術【ぬくもりの火】を唱えた。

 

空中に"火”が浮かぶ。

 

「うわ、なんですか。これ…。なんて言えばいいんですかね……。あたたかいって言えばいいのか…?」

 

「何よこれ、火?なんか……、なんか変にぬくいわ、それに落ち着くし……。騎士のくせになんか生意気ね。このッこのッ」

アクアがぬくもりの火を消そうとする。

 

「アクア。やめてください。この火けっこうぬくくて心地良いんですから。何でしょう……。カエルの中の温かさに似てます。」

 

「知りたくもない情報教えてくれるな。」

カズマ達が談笑に花を咲かせる間、騎士はただ、ただただ団欒の火を眺めながら夜を待っていた。

 

─────────────────────

 

「……冷えてきたわね。ねえカズマ、受けたクエストってゾンビメーカー討伐よね? 私、何か、そんな小物じゃなくて大物のアンデッドが出そうな予感がするんだけれど」

 月が昇り、時刻は深夜を回った頃。

 アクアがそんな事をぽつりと言った。

「……おい、そういった事言うなよ、それがフラグになったらどうすんだ。今日はゾンビメーカーを一体討伐。そして取り巻きのゾンビもちゃんと土にかえしてやる。そしておいしいご飯食べて馬小屋で寝る。その計画以外のイレギュラーな事が起こったら……。騎士さん。お願いいたします。」

(……私は用心棒では無いのだがな……。しかし、まあ着いてきている時点で私もそのつもりだったか…。)

騎士はコクリと頷いた。

 敵感知を持つカズマ少年を先頭に、カズマ達は墓場へと歩いていく。

すると、

「敵感知に引っかかったな。居るぞ、一匹、二匹……三匹……四匹……」

(4匹か。少し多いな。しかし問題まあ、誤差の範囲だろう。)

 

そんな事を騎士が考えていると、墓場の中央で青白い光が走った。

 それは、妖しくも幻想的な青い光。

 

 遠めに見えるその青い光は、大きな丸い魔法陣。

 

 その魔法陣の隣には、黒いローブの人影が居た。

 

「あれ。ゾンビメーカー……じゃない気がするんですが……」

 めぐみんが自信無さ気に呟いた。

「私もめぐみん少女に賛成だ。あれは、、、恐らくゾンビメーカーではないだろう。」

 

 その黒いローブの周りには、ユラユラと蠢く人影が数体見える。

 

「突っ込むか? ゾンビメーカーじゃなかったとしても、こんな時間に墓場に居る以上、アンデッドには違いないだろう。なら、アクアがいればまず問題はない。それに騎士さんもいるんだ。」

 

 その時、アクアがとんでもない行動に出た。

 

「あ――――――――っ!!」

 

 突如叫んだアクアは、何を思ったのか立ち上がり、そのままローブの人影に向かって走り出す。

「ちょっ! おい待て!」

 カズマの制止も聞かずに飛び出していったアクアは、ローブの人影に駆け寄ると、ビシと人影を指差した。

 

「リッチーがノコノコこんな所に現れるとは不届きなっ! この私が成敗してやるわっ!」

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長い時を経た大魔法使いが、魔道の奥義により人の身体を捨て去った、ノーライフキングと呼ばれるアンデッドの王。リッチー。

 強い未練や恨みで自然にアンデッドになってしまったモンスターとは違い、自らの意思で自然の摂理に反し、神の敵対者になった存在。

そんな存在が

 

「や、やめやめ、やめてええええええ! 誰なの!? いきなり現れて、なんで私の魔法陣を壊そうとするの!? やめて! やめてください!」

「うっさい、黙りなさいアンデッド! どうせこの妖しげな魔法陣でロクでもない事企んでるんでしょ、なによ、こんな物! こんな物!!」

 

 ぐりぐりと魔法陣を踏みにじるアクアの腰に、泣いてしがみつき止めていた。

 

(とりあえず亡者とは違って知性はあるようだ。)

 アクアは絡んでいる相手をリッチーだとか言い張っている。

とりあえず知性があるなら話してみても良いのではないだろうか。

 

「やめてー! やめてー!! この魔法陣は、未だ成仏できない迷える魂達を、天に還してあげる為の物です! ほら、たくさんの魂達が魔法陣から空に昇って行くでしょう!?」

 

 リッチーの言う通り、どこから集まってきたのか、青白い人魂の様な物がふよふよと魔法陣に乗り、そのまま魔法陣の青い光と共に、空へと昇って行く。

 

「リッチーのクセに生意気よ! そんな善行はアークプリーストのこの私がやるから、あんたは引っ込んでなさい! 見てなさい、そんなちんたらやってないで、この共同墓地ごとまとめて浄化してあげるわ!」

「ええっ!? ちょ、やめっ!?」

 

 アクアの宣言に、慌てるリッチー。

 アクアが手を広げ、大声で叫んだ。

 

「『ターンアンデッド』!」

 

 墓場全体が、アクアを中心に白い光に包まれた。

 アクアから湧き出すように溢れるその光は、リッチーの取り巻きのゾンビ達に触れると、ゾンビ達が掻き消す様にその存在を消失させる。

 リッチーの作った魔法陣の上に集まっていた人魂も、アクアの放った光を浴びていなくなった。

 その光はもちろんリッチーにも及び……。

「ぎゃー! か、身体が消えるっ!? 止めて止めて、私の身体が無くなっちゃう!! 成仏しちゃうっ!」

 

「あはははははは、愚かなるリッチーよ! さあ、私の力で欠片も残さず消滅するがいいわっ!」

 

「おい、やめてやれ」

 いつの間にかアクアの背後に立っていたカズマ少年は、アクアの後頭部をダガーの柄でごすっと殴った。

「っっぎゃー!? い、痛、痛いじゃないの! あんた何してくれてんのよいきなり!」

 

ギャーギャーと喚くアクアを無視して騎士は頭を抱えて震えながらうずくまるリッチーに声を掛けた。

 

「貴公災難だったな。もう大丈夫だ。」

そう言って騎士は手を差し伸べた。

 

「お、おい大丈夫か? えっと、リッチー……でいいのか? あんた」

アクアを落ち着けたカズマ少年がリッチーに声を掛けた。

 

 よく見ると、リッチーの足元が半透明になっており、軽く消えかかっている。

 やがて徐々に半透明になっていた足がくっきりと見える様に戻り、涙目のリッチーがフラフラしながら立ち上がった。

 

「だ、だ、だ、大丈夫です……。あ、危ない所を助けて頂き、ありがとうございました……っ! えっと、おっしゃる通り、リッチーです。リッチーのウィズと申します」

 言って目深に被っていたフードをはねのけると、現れたのは月明かりに照らされた二十歳位にしか見えない黒髪の女だった。

 

「えっと……。ウィズ? あんた、こんな墓場で何してるんだ? 魂を天に還すとか言ってたけど、アクアじゃないが、リッチーのあんたがやる事じゃないんじゃないのか?」

 

「ちょっとカズマ! こんな腐ったみかんみたいなのと喋ったら、あなたまでアンデッドが移るわよ! ちょっとそいつに、ターンアンデッド掛けさせなさい!」

 カズマ少年の言葉にアクアがいきり立ち、ウィズに魔法を掛けようとする。

するとカズマ少年が

「騎士さん。」

騎士は立ち上がるとアクアを羽交い締めにして組み伏せた。

 

「ちょっと!離しなさいよ!セクハラで訴えるわよ!」

もがくアクアを見てウィズがカズマ少年の背後に隠れ、怯えた様な困った様な顔をしながら、

「そ、その……。私は見ての通りのリッチー、ノーライフキングなんてやってます。それで、アンデッドの王なんて呼ばれてる位ですから、私には迷える魂達の話が聞けるんです。そして、この共同墓地の魂の多くはお金が無いためロクに葬式すらしてもらえず、天に還る事なく毎晩墓場を彷徨っています。それで、一応はアンデッドの王な私としては、定期的にこの墓場を訪れ、天に還りたがっている子達を送ってあげているんです。」

「それは立派な事だし善い行いだとは思うんだが……。アクアじゃないが、そんな事はこの街のプリーストとかに任せておけばいいんじゃないか?」

 カズマ少年の疑問に、ウィズが言いにくそうに憮然としたアクアをチラチラと気にしながら。

「そ、その……。この街のプリーストさん達は、拝金主義……いえその、お金が無い人達は後回し……と言いますか、その……、あの……」

 

 アークプリーストのアクアがいるので言いにくいのだろう。

 

「つまりこの街のプリーストは金儲け優先の者がほとんどで、こんな金の無い連中が埋葬されてる共同墓地なんて、供養どころか寄り付きもしないって事か?」

「え……、えと、そ、そうです……」

 

(まぁ。ただで引き受けるお人好しも多くないのだろうな。)

 

「それはまあしょうがない。でも、ゾンビ起こすのはどうにかならないのか? 俺達がここに来たのって、ゾンビメーカーを討伐してくれってクエストを受けたからなんだが」

 カズマ少年の言葉に、ウィズは困った表情を浮かべ。

「あ……そうでしたか……。その、呼び起こしている訳じゃなく、私がここに来ると、まだ形が残っている死体は私の魔力で勝手に目覚めちゃうんです。……その、私としてはこの墓場に埋葬される人達が、迷わず天に還ってくれればここに来る理由も無くなるんですが……。…………えっと、どうしましょうか?」

 

(…ふむ。どうしたものだろうか……ッ?!)

騎士が良い案がないか思案したその時アクアが騎士の一瞬の隙を突いて羽交い締めから逃れるやいなや

 

「私の目の前に現れたことを後悔するがいいわ!!喰らいなさい!!!!」

 

「ッ!!おい!アクア早まるな!!…この距離、、!? 騎士さんも間に合わない!ウィズ!逃げるんだァァ!」

カズマ少年が絶叫する。

 

「え、えぇ!?待って!まってぇ!!またあんなの食らったらほんとに消えちゃいます!!まっ、待ってぇ!!!」

 

「待たないわ!!邪を払うッ神々の聖なる光!!タァァァンアンデッドォォォ!!」

 

………。

何も起こらない。

【沈黙の禁則】

ロンドールの黒教会の奇跡。

その奇跡は範囲内にいる存在の魔法を封じるというもの。

 

(……ギリギリ…だったな。間に合ってよかった。)

騎士は【フィリアノールの聖鈴】をしまいながら

そう思った。

 

「た、たすかったぁ。」

へなへなとへたり込むウィズの声だけが暗い墓地に響いた。

 

 




次も頑張ります。
狼草マラソンがつらすぎて

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