始まりは交換日記   作:アシュリー2400

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第6話

三度月夜視点

お風呂場へ到着した私を待っていたのは機械の操作でした。

機械の操作方法は日記に情報がありましたが、知識と実践は別でした。

操作を一つ終える度に本当に大丈夫なのか気になり、手が震えるのでございます。

幸いだったのは近くに人がいなかったことで、もし誰かがいれば怪しまれていたでしょう。

月咲ちゃんなら難なくこなせているはずのことに、手間取っているのですから。

 

どんなにお互いを真似しても不可能なものがある。

分かっていたことでしたが、このような場面でそれが表れることになろうとは……

 

自宅のお風呂はいつも母様のおかげで用意が済んでいて、私は入るだけ。

これもまた貴重な経験に違いないのですが、状況が状況なだけに心臓に悪い体験でした。

私の家では食事にルールがあるのですが、月咲ちゃんの家ではお風呂にルールがあるようです。

最初に父様が入り、そこからお弟子様が一番弟子様から順に、末弟子様まで一人ずつ交代で入る。

月咲ちゃんは最後に入ることになっているようです。

これも、女性は男性を立てるという工匠区の歴史の表れなのでしょう。

私の番が回ってくる頃には自由時間が始まる。

残念ですが、月咲ちゃんとの待ち合わせに間に合いそうにありません。

お風呂は自分の家で入ることにし、頼まれた用事を済ませたら出発することにしました。

 

お風呂の準備が終わると、お父様はお風呂に入られました。

お弟子様方はお風呂の順番を待つ間、工房とは別の場所で思い思いに時間を過ごしているようです。

お父様とお弟子様の新しい着換えを用意して網棚に奥と、お父様が脱がれた衣服をかごに詰める。

それを持って洗濯場へ移動すると、今度はかごから出します。

衣服は衣服ごとに網袋に入れる決まりがあるようで、その通りにして洗濯機に入れる。

 

やってみて分かりましたが、これだけでも額に汗が滲む労働となりました。

私は今日だけですが、月咲ちゃんは毎日このような家事を続けていて、母様もまた。

月咲ちゃんの日ごろの苦労と愚痴も理解できるというものです。

 

頼まれた用事を終えた頃には、父様は既にお風呂を出て着換えを済ませておりました。

時間は出発時間まで余裕がありましたが、出発の支度にかからねばなりません。

月咲ちゃんの部屋へ戻って支度をしていると、父様が部屋を尋ねてこられました。

 

「お父ちゃん、どうしたの?」

「……月夜。元気だったか?」

 

それはあまりに唐突で、私は思考が止まってしまいました。

言葉を返せない私にお父様は言葉を続けます。

 

「怒ってるわけじゃないから勘違いしないで欲しいんだ。

まさか、こんな形で月夜にまた会えるとは思わなかったからな」

「……また?」

 

その言葉に妙に引っ掛かりを覚え、思わず言葉に出ました。

 

「月夜はまだ小さかったから覚えていないだろう。

俺が母さんと別れて…お前たちに物心がついてから、一度月夜と会ってるんだ」

「それは一体いつ……?」

「クリスマスの時期だったはずだ。当時、月夜は俺が父だとは気づかなかった。

だが、それも無理もない。俺と母さんのことは知ってるだろう?」

「は、はい……」

「それからは一度も会うことはなかったし、名乗り出ることもできなかったからな」

「…………」

「母さんは元気でやってるのか?」

「はい。毎日、明槻家のために努めに勤しんでいます」

「そうか、元気でやってくれてるか……」

「お、お父様。もしお差支えなかったら教えて下さい」

「なんだ?」

「どうして私が月咲ちゃんじゃないと?」

「俺と月咲は十年以上親子やってるんだぞ。それに成長の違いだってあるからな」

「左様でございますか」

 

それから、私はお父様と時間を忘れて語り合いました。

父様が母様と別れてから月咲ちゃんとどんな時間を過ごしたのか。

仕事はどのようなことをしていて、お弟子様方とどのように接しているか。

タケ様という方は最年少でも頼りにしている方であることなど。

そして、今でもお母様を愛していることを……

 

「分かっていても俺は自分を直せない。歴史がそうさせるなんて言わないさ。

これは俺自身の性格で、それが母さんに月咲にも…月夜にも迷惑をかけた」

「いえ、私は……」

「将来、月夜にも伴侶ができる日が来るかもしれない。きっと月咲にもだ。

その時はどうか、強くは言えないが……俺たちみたいにならないで欲しい。

俺たちは道を誤ったが、二人には……」

「……心得ております」

 

そこまで言うと、お父様は俯かせていた顔をあげて歩み寄られ、そして―――

 

「……俺なんかのために会いに来てくれてありがとうな」

「こちらこそ。お父様にお会いできてよかったでございます」

 

お父様は私の頭を撫でて、頭をポンポンと優しくされました。

思いの丈はぶつけたつもりでしたが名残惜しい。

しかし、迫る待ち合わせの時間が夢のような時間の終わりを告げました。

 

「外まで送る。コーヒーを買いに行ってもらう体で出れば大丈夫だ」

「お気遣いいただいて……」

「せめて、これくらいのことはさせてくれ。支度が出来たら台所でな」

「ありがとうございます」

 

支度を終えて台所で合流すると、お父様と一緒に外へ出ました。

一日のうちの少ししか一緒にいなかったのに、ずっと一緒にいたような不思議な感覚。

外へ出て振り向くと、最後に声をかけられる。

 

「母さんのこと、よろしく頼むぞ」

「はい。お父様も月咲ちゃんのことを」

「もちろんだ。……元気でな」

「お父様もどうか」

 

それを最後に、私は振り返ることなく水名神社へ出発しました。

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