終・月咲と月夜
水名神社に先についたのはウチで、月夜ちゃんは五分遅れで到着した。
お母ちゃんにバレたことでもしやと思っていたが、月夜ちゃんもバレたようだ。
一ヵ月の交換日記では資料として不十分だった、というわけではない。
例え一年書き溜めて一年かけて真似したとしても、親の勘が入れ替わりを見抜いていたことだろう。
「ウチ、お母ちゃんとお風呂入っちゃった!」
「なんと、そんなことが!」
「月夜ちゃんは一緒に入ったことある?」
「幼い頃は入っていたことがありますが、それからは……」
「じゃ、やっぱりあれは……」
「お二人でゆっくり話せる時間を持ちたかったのでしょう。
お風呂場なら他に誰もいないですし」
「もしかして、月夜ちゃんもお父ちゃんと一緒に?」
「とんでもない。用事をこなすだけで手いっぱいでした。
とてもお風呂に入る時間はなかったでございます」
「うぅ、それはごめんね」
「いいえ。家に帰ったらゆっくり入ります。
今夜はとても貴重な体験をさせていただいたと、感謝しているでございます。
母様がかつてこなし、月咲ちゃんが今こなしている家事を一部でも体験できた。
そして、父様と語り合えたのですから」
「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ。
ウチもお母ちゃんとたくさん話合えてすっきりした」
「……今回の計画。最後にバレてしまいましたが、むしろ良かったと思っています」
「結果的には、思っていたよりもずっといい結果になったと思うよ」
「おかげで、目標と申しますか、新たに夢が一つできたでございます」
「どんなこと?」
「母様、父様、そして月咲ちゃんと一緒に家族写真を撮ることでございます」
「家族写真?」
「えぇ。私たち家族が集った写真は赤ちゃんの時のものだけ。
だから、今の私たちの姿で父様と母様が一緒に写った写真が欲しいでございます」
「それはいいね。いつ叶うか分からないけど、ウチも一枚欲しいな」
「今すぐは無理でしょう。ですが、いつかは……」
「そうだね。……そろそろ帰らないとお父ちゃんが心配するから、今日はこれで」
「はい。私も母様が心配しますので、また明日ここで」
夢のような非日常の時間はあっという間に、けれど思い出としては永遠に。
ウチらは水名神社をあとにして、本来の家へと歩き出して日常へ戻っていく。
こうして入れ替わり計画は失敗と成功の両方の下に終わった。
家族写真を撮るという新たな夢と共に。
翌日、竹細工工房にはいつもの時間が流れていた。
朝の起床と同時にお父ちゃんとお弟子さんを起こし、朝ご飯の用意をする。
それらが終わると学校へ向かう支度が待っている。
昨日のことはお父ちゃんは何も言わなかった。
ウチも敢えて何も言わなかった。
朝の会話もいつもの会話で、いってきますとともに家を出る。
そこへタケさんから声がかけられる。
「月咲ちゃん、ちょっとだけいいかな」
「急いでるけど少しなら。どうしたのタケさん」
「ん~…聞きにくいことなんだけどさ、昨日と今日で胸のサイズ変わってない?」
「!!!!」
「それとも気のせいかな」
「タケさんのエッチ馬鹿変態!!」
タケさんの脛に一撃キックを見舞うと、私は学び舎へ駆け出した。
塀の向こうには新たな日常が待っている。