新章突入です。
それでは、本編スタート!
第3偵察隊、特地へ
連合諸王国軍の壊滅から数日後……
帝国首都 帝城ウラ·ビアンカ
「陛下、連合諸王国軍はアルヌスにおいて敗北。死者·行方不明者はおおよそ六万。再起不能となった者を含めればおおよそ十万。生き残った者どもは散り散りとなり、故郷への帰路に就いたとの事です」
「フム……予定通りだな……」
城内の謁見の間で、側近であるマルクス伯の報告を聞いていた帝国皇帝モルト·ソル·アウグスタスは満足そうに頷く。
「わずかばかりの損害に怯えておった元老院議員たちも、これで安堵できよう」
「しかし、『門』より現れた敵の動向がいささか気になりますが……」
「ウム……ならば、
「と、おっしゃいますと?」
「何、そんなに難しい事ではない…」と、モルトはマルクスに策を伝える。
「敵が動き出したならば、アルヌスより帝都に通ずる全ての町·村·集落から糧食を根こそぎ運び出して焼き払い、井戸·水源には毒を流し込むのだ。さすれば、いかに屈強な軍勢も立ち往生するであろう」
自国……というより民衆の損害度外視の焦土作戦をモルトはしれっと言ってのける。
「焦土作戦…ですか……しばらく税収が下がりますな……」
「致し方あるまい……離宮の建設を延期にし、園遊会を幾つか中止に………」
マルクスも民衆が地獄を見る事になるであろう事をさして気に留めず、モルト共々手前勝手な会話を続けた……それが、どれほど自分の首を絞める事になるかを、全く考えずに………。
「カーゼル候あたりが、うるさいかと存じますが……恐れ多き事ながら、一部の元老院議員と連携して非常事態勧告を発して陛下を罷免·排斥しようとする動きが……」
非常事態勧告(または元老院最終勧告)は帝国政府の最高意志決定とされており、これを元老院によって発行されれば皇帝と言えど逆らう事が出来ない。
これは言わば帝国の最高権力者である皇帝が、独裁ないし暴挙に出た場合に国家の破滅を避けるための一種の安全装置なのである。
だが……
「ならば、しばし好きにさせておくがよい。いい加減、彼奴らの小言も鬱陶しくなってきておったからの……枢密院には「良きに計らえ」と伝えておけ」
……さして危機感を覚えず、モルトはその様に命じた。
「は?…ハハッ!」
モルトの言う「良きに計らえ」というのは、要は自身が罷免される前に枢密院によって証拠を捏造し、先手を打ってカーゼル達を国家反逆罪で失脚させろ……という事である。
その意図を正確に悟り、マルクスは一礼する。
「全く……元老院議員としての恩恵を権利と勘違いしている者が多い。余を追い落とそうなどと……思い上がるにも程がある。ここらで一度、元老院を整理せねばな……」
皇帝としての恩恵を権利と勘違いしているモルトが「テメェはアホかッ!!一度、赤ん坊から人生やり直せッ!!」と怒鳴られても文句の言えない様なセリフをさも当然の如く呟いていた。
そして、マルクスに退出を命じようとする。
と、そこへ──
バンッ!
「陛下ッ!」
──凛とした声が響き、謁見の間に一人の年若い女性が入って来る。
「ピニャよ、どうしたというのだ?騒々しい……」
入室した女性──帝国第三皇女ピニャ·コ·ラーダにモルトが訊ねる。
年の頃は二十歳前後の赤毛の美人である。
「無論、アルヌスの丘の事です!未だアルヌスの丘は異世界の賊徒共に占拠されていると聞きました!」
………といっても、それは「黙っていれば」という前置詞が付くが………。
「帝国が危機的状況にあるというのに、陛下は何をなされておられるのかッ!?マルクス伯ッ!貴様、陛下に事実を報告申し上げたのであろうなッ!?」
「も…勿論でございます。帝国·連合諸王国両軍の攻撃によって、多大な犠牲を払いましたが異世界の賊徒による進攻を見事食い止めたと……」
「この
歯に衣着せぬ物言いで、ピニャはマルクスに詰め寄る。
「現在、丘を奪還するために軍の再建を……」
「何年かかると思っているのだ!?その間、敵がおとなしくしてくれていると思うかッ!?」
舌鋒鋭く、ピニャは詰問した。
このように、ピニャは黙って微笑んでいれば超一流の芸術品の如き美貌を持つ女性なのだが、口を開けば情け容赦ない毒舌を放つ事から貴族から恐れられており、年頃であるにも関わらず嫁の貰い手がいない事──「(意訳)あの様な毒舌に四六時中晒されるなど…とてもではないが耐えられない!」と、とある若手男性貴族が涙目で語る──にモルトは頭を悩ませていた。
モルトは嘆息しつつ手を挙げ、2人の舌戦を止める。
「……確かに敵の動向は無視できぬな。とはいえ、再建中の軍から人手を割く事もできぬ。丁度よい、ピニャよ…そなたの騎士団でアルヌスへ偵察に向かってはくれぬか?」
「妾が?騎士団と共に?」
「そうだ。そなたのしている事が“兵隊ごっこ”でなければ…の話だがな」
含み笑いをしつつ、モルトはピニャに命じた。
要するに「嫌なら黙っていろ」という事だ。
「どうだ?行ってくれるか?」
「……確かに承りました…父上……」
モルトの意図を理解しつつも、任務を受ける事自体は名誉な事であるため、ピニャはそれを引き受けた。
「ウム、成果を期待しているぞ」
内心、全く期待していない様子で厄介払いをするかの様にモルトはピニャを送り出した。
後に、まさかこの任務が彼女と帝国の運命を一変させるほどの出逢いに繋がるなどとは、この時ピニャとモルトは考えもしなかった。
アメリカ合衆国 ワシントンD.C.
ホワイトハウス 大統領オフィス
「補佐官、特地はフロンティアだよ」
「その通りです、大統領」
現アメリカ大統領…ディレルは補佐官にそう語った。
「
ディレルは芝居かかった口調で特地の可能性を並べ立てる。まるで
「だが、
「
補佐官は自衛隊が特地入りしてからの予想される戦略を説明する。
「いかに強大な戦力を有しているとはいえ、限られた数しかない以上は要地を押さえる戦略しか取れません。今は情勢の見極めに専念しているのでしょう」
「慎重だな……北条らしい……」
ディレルはそう言って、コーヒーを
「ご安心ください、大統領。日本は
「それでは不足なのだよ。もっと積極的に関与するべきではないのかね?」
スタッフの一人が「
ぶっちゃけ、これはもう野盗の談合と変わらなかったりする。
「どうかね?陸軍の派遣を検討してみては……」
「大統領、残念ですが我が国は中近東だけで手一杯です。戦力的にも予算的にも余力はありません。どうでしょう?武器·弾薬の支援のみに留めては……」
別のスタッフが現実的な意見でディレルに待ったをかける──もっとも、彼も「余力が無い」という事を理由に止めているだけで、考えはあまり変わらないが……。
「そうだな……肩入れのし過ぎは禁物だ……」
そして、ディレルは悪辣な笑みを浮かべつつ──
「火中の栗は日本に拾わせよう」
──厄介事は全て日本に押し付け、自分たちで甘い汁だけ吸い尽くす事を決定するのであった。
全くもって、身勝手極まる言いぐさである……
アルヌス東方約百数十㎞地点
コダ村~コアンの森の中間地点
「空が青いねぇ。さ~すが異世界」
大気汚染とは無縁の特地の青空を堪能しつつ、高機動車の助手席で
現代人にとって、電線も航空機もない文字通り「抜けるような青空」というのは珍しいものなので無理もないが………。
「こんな風景、北海道にだってあるッスよ……」
一方で、高機動車のドライバーを務める
「……俺はもっとファンタジーなの想像してたんスけど……妖精とかケモ耳娘とか
「異世界ってだけでも十分ファンタジーだろ?」
愚痴を溢す倉田を伊丹は宥める。趣味が近い事もあって、この2人は基本的に仲がいい。
『僕はアルヌスで散々実感したんだけどね』
別の車両──1 1/2tトラック改(通称、中トラ改)に搭乗している
「佐々木二尉は最前線にいましたからね……それに、二尉が見たのはコボルトとかオークとかゴブリンとかの戦闘種じゃないですか?俺はもっと夢のあるのを期待してたんスよ……」
『う~ん……見た感じ
「サイコパスじゃないですかそれ……そんなの俺だって怖いですよ………」
「まあ、下手な害獣より人間の方が怖いってのはわかるけどな……
『そんなんじゃないですよ……』
伊丹は部下達と会話に花を咲かせながら、現在彼が預かっている「第3偵察隊」隊長に任命された時の事を思い返していた。
連合諸王国軍を撃退した翌日……
特地派遣部隊 第五戦闘団 仮設テント
「調査…ですか?それがいいかもしれませんねぇ……」
アルヌス周辺の哨戒任務の後、上官の
「それがいいかもじゃない!君が行くんだ!」
伊丹の言動に、檜垣は思わずキレ気味に返す。
「……まさか、一人で行けと?」
「そんなこと言うわけないだろう……」
変わらず呑気な態度の伊丹に、檜垣は呆れ気味に脱力した。
「とりあえず、深部情報偵察隊を六個編成する。君の任務は、その内一つの指揮だ。可能ならば今後の活動に協力が得られる様に、現地住民と友好的な関係を結んで来たまえ!」
檜垣は気を取り直し、伊丹に任務の内容を説明する。
「はぁ…ま、そういう事なら……」
「よろしい!伊丹 耀司二等陸尉、第3偵察隊の指揮を命ずる!」
こうして、伊丹は第3偵察隊の隊長にされた。
されちゃったのである。
「ああ、それから…特機教導隊からSAAクラダーとオペレーターが各1名それぞれの偵察隊に出向して来る。失礼の無いようにな!」
「は、はぁ……了解しました」
「……と言っても、君の知っている顔だからそう構える必要はない。その方が君も気楽だろう」
「知っている顔……ですか?」
「……行けば解る」
そう言われて、伊丹は半ば追いたてられる様に司令部テントを出た。
その後──
「うぉッ!マジか!?」
──自分の部隊にハイセとヒデが出向して来る事に驚いたり……
「ハイセッ!?」
──第3偵察隊の顔合わせのための集合場所に伊丹が出向くと、そのハイセが白目を剥いて気絶していたり……
「ちょっ…待っ……会って早々何を……ッ!」
──顔を会わせたばかりの部下である
「伊丹二尉……俺もここにいるんスけど……」
──存在を忘れられた倉田が、思いっきり凹んでいたり……
「駐屯地を一歩出ると、こういう危険もある。今後も気を引き締めて、任務に掛かってくれ!」
──偵察に出た早々に、第4偵察隊が武装勢力の残党と思しき集団の襲撃を受けて、それを撃退したという報告を受けたり……
「あ~……
──現地住民と思しき少年と少女に会った事を切っ掛けに、現地武装勢力と一悶着起きたり……
「あ~……
──最初に発見した
「いいッ!?」
「わぁッ!何だ何だ?」
──そのコダ村で家屋の倒壊事故が起きて、被災者救助のために、SAAを出して住民の度肝を抜いたりしたものの、それ以外は特に大事なく平穏に過ぎて行った。
「倉田、この道をしばらく行くと、小さな川が見えるはずだ。そこを右折して、川沿いに進め。その先に、コダ村の村長が言っていた森が見える」
後席で地図を広げた
「おっ、言った通りの川だ。頼りにしてるよ、おやっさん」
伊丹の言う通り、桑原の言っていた川が見えた。
特地では人工衛星が無いため、GPSやナビゲーションシステムなどは全く役に立たない。そのため現在地の確認は、地図とコンパスを使用しての昔ながらの方法のみが頼りとなる。
そこで伊丹は経験豊富な桑原に、その役割を一任していた………押し付けたとも言うが………。
「頼られついでに意見具申。森の手前で、一旦野営しましょう」
「うん、賛成!」
桑原の意見に伊丹は即座に賛成する。
「あれ?一気に乗り込まないんですか?」
「あのねぇ……今から森に入ったら、夜になっちゃうでしょ?何が出てくるかわからない森の中で、野営なんてやだぜ?それに森の中に集落があったら、そこの人達を脅かしちゃうでしょ?」
倉田の疑問に、伊丹がおどけながらも答える。
「俺達は国民に愛される自衛隊だよ?現地の人達と仲良く交流して、活動しやすくするのが俺達の役割だからね……」
そう言って、伊丹は懐から手帳を取り出しページを開く。
「あ~……
「棒読みッスねぇ……駅前留学に通った方が……」
「うるせぇっ!」
ポカッ!
伊丹は
『君の特地語も大概だけどね、倉田くん……もう一度、僕が直々にレッスンしてあげようか?』
「ッ!……か…勘弁してくださいよ、佐々木二尉……」
ハイセ(とついでにヒデ)は、わずか半日で特地語を完璧にマスターしていた。そんな彼に、3偵の面子が特地語を教わりに来るのは至極当然の流れであったが、一人の例外もなく、彼の教えを受けた直後には自力で習得する事を決意する。
何故ならば、彼の教え方は控えめに言っても『スパルタ』の一言に尽きるからだ。
日々の厳しい訓練を耐え抜いている屈強な自衛官がわずか一日で逃げ出すあたり、彼の教育の厳しさは推して知るべしである。
彼も昔は大学受験を控えた年下の友人に勉強を教えていた事があり、その時の生徒である
動作一つ、言葉一つが命取りになる世界であるため、厳しくならざるを得ないのである。
そんな彼の
「……あれ?」
「コラ!話を逸らす……ッ!?」
倉田が何かに気付いて声を上げ、伊丹も一瞬遅れてそれに気付く。
その彼らの進路上で──
「火事……?」
──もうもうと盛大に広がる黒煙が見えていた。
兵器解説
・1 1/2tトラック改(通称 中トラ改)
深部偵察各隊が、特地でSAAを運用するために用意された中型車両。
もともとは82式指揮通信車改の調達価格高騰化で、十分な数の指揮車両が調達できない問題に直面した防衛装備庁が、安価な指揮車両を必要とされたために開発が始められたもの。
銀座事件に前後して十数両の試作車両が完成していたので、特地に合わせて改良を施し、実戦テストを兼ねて各偵察隊に配備された。
1 1/2tトラックをベースに以下の改造·装備の搭載が施されている。
◦荷台を防弾式のコンテナに換装及び運転席のスペースと一体化
◦コンテナ前方の天板(右側)に小型対空レーダーを搭載
◦自衛用にリモコン操作式の74式車載機関銃を助手席上部の天板に搭載(回転砲塔式)
◦コンテナ天板(左側)に固定翼式小型UAVの射出用折り畳み式カタパルトを設置
◦コンテナ後部天板(右側)にガンナー用ハッチと旋回式の銃架を設置
◦運転室からコンテナ内部に移動可能
◦コンテナ内部前方にオペレーター席を設置(運転席からでも簡単な情報は閲覧可)
◦コンテナ内部中央にSAA用ハンガー及び充電設備を2機分搭載(隊に配備されたSAAは予備含め3機)
◦高出力の通信装置及び各種装備を運用するための高出力小型ジェネレーターを搭載
更に各偵察隊用として──
◦固定翼式小型UAV 1機
◦空撮用ドローン(民生品) 3機
◦SAA用消耗資材各種
──以上と各偵察隊の装備品が搭載されている。
また、特地の任務に赴くために車体のサスペンションが強化された。
次回は4/18の午前0時に投稿予定です。
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