ゲートSAA彼の地にて斯く戦えり   作:素面ライダー

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 予約投稿をするのを忘れて寝落ちしてた……。

 投稿が遅れて申し訳ありません……。

 それでは、本編スタート!
 


コアンの森の少女

 

 前回までの経緯

 

 伊丹、第3偵察隊(以下3偵)の隊長に就任

    ↓

*¹栗林及び黒川、銀座からアルヌスへ移動

    ↓

*¹アルヌス駐屯地にて各偵察隊の編成を発表

*¹栗林は伊丹、ハイセと同じ隊に配属され有頂天になるも、直後の顔合わせで現実を知る(笑)

    ↓

 帝国皇帝モルト、諸王国軍敗北の報を受け焦土作戦の実行を指示、更に第三皇女ピニャ·コ·ラーダへアルヌスの偵察を命じる

    ↓

 各偵察隊、特地深部へ進出

    ↓

 米国政府、日本への武器·弾薬類の援助を決定

 日本政府、銀座及びアルヌスで弾薬類を大量に消耗している事実を鑑み、それを受諾

    ↓

*²第4偵察隊、アルヌスを襲撃した武装勢力の残党と思しき100名弱の集団と遭遇·戦闘になるも、それを撃退

*²伊丹、戦闘を知らされ隊員らに訓告

    ↓

*²3偵、襲撃を受け荒らされたと思しき集落にて、アラックと名乗る少年とエフェスと名乗る少女を初め、数十名の現地住民と思しき者達と接触

*²後に武装勢力接近の報を受け、集落より離脱

    ↓

*²3偵、武装勢力の集落焼き討ちを目撃

*²伊丹、判断に迷うもその現場を見送る

*²後に集落に残っていた現地住民への聴取の結果、不条理な焼き討ちと略奪であった事が判明

*²司令部の判断の元、住民の救出及び焦土作戦の阻止が決定、3偵により実行に移される

    ↓

*²住民の救出後、武装勢力の追撃を受けるも、駆けつけた機甲小隊の援護により事なきを得る

*²武装勢力の指揮官数名を民間人拉致·放火·略奪の首謀者として逮捕

    ↓

*²3偵、本来の任務へ復帰

    ↓

 3偵、コダ村に到着

 現地住民より情報収集

 途中、村内にて家屋崩落事故が発生

 被災者救助のためSAAを起動させる

    ↓

 情報収集の後、3偵はコアンの森へ出発

 コアンの森へ向かう道中にて進行方向に空へ上がる大量の黒煙を目撃←今ココ

 

*¹ゲート外伝「栗林 志乃 特地にて、斯く戦えり」より

 

*²BD·DVD初回特典小説「ファーストコンタクト」より

  


 

 アルヌス東方約百数十㎞地点

 

 コダ村より東方コアンの森付近

 

「燃えてるねぇ……」

 

「燃えてますねぇ……」

 

 黒煙の火元と思しき場所が見える小高い丘の上に移動した伊丹達は、目的地の森が森林火災に見舞われている現場を目撃していた。

 

 伊丹達が今まで見てきた特地の文化レベルでは、現代と違い火を起こす事も一苦労なため、火の扱いには現代人以上に慎重なはずである。

 

 そのため、火災の原因が現地住民の火の不始末とは考え難かった。

 

 残る可能性は自然発火からの延焼だが……

 

「う~ん……大自然の脅威?」

 

「というより…怪獣映画です……」

 

 ……双眼鏡を覗いていた桑原がその仮説を否定し、伊丹に双眼鏡を手渡す。

 

「?」

 

 桑原の指差す方向へ双眼鏡を向けると……

 

「あれま!」

 

 銀座で見たワイバーンとはその体躯の巨大さもシルエットも明らかに違う、未知の「ドラゴン」がその口から炎を吐いて森を焼き払っていた。

 

「首一本のキングギドラか?」

 

「古いッスねぇ、おやっさん……エンシェントドラゴンッスよ……」

 

 桑原のセリフに伊丹が訂正を加えるが、ドラゴンと言えばブルース·リーを連想する世代の桑原にはピンと来ない。

 

「伊丹隊長。どうしますか?」

 

 栗林が伊丹に指示を求める。

 

「栗林ちゃ~ん、一人で行くの怖いからさ~、一緒について来てくれない?」

 

「イヤです」

 

「あ……そ……」

 

 伊丹の頼みを栗林はキッパリと断る。

 

「ギャオオォォォォンッ!!」

 

 バサッ!バサッ!バサッ!

 

 そうこうしているうちに、「ドラゴン」が咆哮を上げると、空の向こうへ飛び去って行った。

 

 その間、隊員達は銃を構えるなどして「ドラゴン」を警戒していた。

 

「……栗林……」

 

「何でしょうか?」

 

「あのドラゴンさ……何も無い森を焼き討ちする習性があると思う?」

 

 いつになく真面目なトーンで伊丹は尋ねる。

 

「ドラゴンの習性に興味がお有りでしたら、隊長自身が見に行かれてはいかがですか?」

 

「いや、そうじゃなくてさ……」

 

「?」

 

 栗林はそれに気付かず皮肉めいた口調で返答するが、その勘違いを伊丹は即座に否定する。

 

「コダ村の村長が言ってたろ?……あの森には集落があるって」

 

「ッ!?」

 

「やベェッ!」

 

 伊丹の言葉でその事を思いだし、隊員達が色めき立つ。

 

「おやっさん!野営は後回しだ!」

 

「了解です!全員!乗車準備!」

 

 桑原の号令で、隊員達はそれぞれ割り当てられた車両に搭乗する。

 

 急激に舞い上がった黒煙の影響か、その日の夕方から翌朝にかけて大雨が降り続けた。

 

 そのお陰で翌日の昼には火災は鎮火していた。

 

 伊丹達は火災が完全に鎮火するのを待ち、森林跡地の捜索を開始した。

 

 情報通り集落があるなら生存者がいるかもしれないからである。

 


 

 アルヌス東方約百数十㎞地点

 

 コダ村より東方コアンの森()()

 

「まだ地面が暖かい……」

 

「これで生存者がいたら奇跡ッスよ……」

 

「ドラゴン」を目撃した翌日、目的地であった森の中に集落があると想定して、伊丹達は森の跡地を捜索していた。

 

 そこには無事な樹木は一本も残っておらず、所々に元は樹木だったと思しき炭化した木が林立している。

 

 しばらく進むと開けた場所に出てきた。建物があったと思しき瓦礫があることから十中八九、情報にあった集落だと思われた。

 

 森林が無事であったならば、到着に半日はかかっていたところである。

 

「ハイセ!熱源探知(サーモグラフィー)は?」

 

「……無理ですね、そこかしこに余熱が……」

 

「ドラゴン」の炎により、集落跡地のいたるところに余熱があり、熱源からの生存者の捜索は不可能であった。建材に石材が多用されている事も理由のひとつだろう。

 

 よく見ると……いや、精神衛生上良くないので見ない様にしていたが、跡地のそこかしこに炭化した人型の「何か」が転がっている。

 

「……た…隊長……これって……」

 

「……倉田……言うなよ……」

 

「うヘェ~……吐きそう……」

 

 倉田は胃の辺りを押さえて、その場を離れる。

 

「仁科!勝本·戸津を連れて、東側をまわってくれ!」

 

「了解!」

 

「倉田と栗林は俺と西側を探すぞ!」

 

「探すって……何を?」

 

「う~ん……生存者かな?」

 

 栗林の言葉に伊丹はそう言って肩を竦めた。

 

「ハイセと富田は周辺を警戒!特に対空警戒を怠るな!」

 

「わかりました!」

 

「了解!」

 

 ハイセ達は着装しているSAA………《獄卒·弐式 特地仕様》に搭載されているセンサー類をフル活用して警戒に務める。

 

 小一時間かけて集落跡地を捜索したが生存者は見つからず、住民は全滅したものと考えられた。

 

 その後、隊員が手分けして生活様式の資料になりそうなものを廃墟から探索·回収し始める。

 

 そんな中、伊丹は一旦集落の中央にある井戸の側に腰掛けていた。

 

 そこへ、クリップボードを片手に栗林がやって来る。

 

「隊長。集落内の建物は、倒壊したものを含め大小32棟。確認できた遺体は27体…少なすぎます。大半は倒壊した建物の下敷きになったものと思われます」

 

「建物ひとつにつき3人暮らしていたとして、大体100人近くの人が全滅って事か?」

 

「……酷いものです……」

 

 伊丹は報告を聞きながら、提げている水筒の水を飲もうとして中身が無い事に気付く。

 

「ふ~む……この世界のドラゴンは集落を襲う事もあるって報告しとかないとな……」

 

「銀座での戦闘や門の攻防戦でも昨日見たものより大分小型でしたが飛行するドラゴンが確認されていて、そのドラゴンでも比較的柔らかい腹部を12.7㎜徹甲弾を使用してようやく貫通との事でした」

 

「へぇ~、ちょっとした装甲車だねぇ……」

 

 そう言って、伊丹は立ち上がり──

 

「ドラゴンの巣と出没範囲も調べておかないと……ッと……」

 

 ──井戸の傍らに落ちていたロープ付の桶を井戸に投げ入れる。

 

 コ────ン……

 

「?」

 

 しかし、そこで井戸の中から聞こえないはずの音が聞こえた。

 

「なんだ?」

 

「今、「コーン」って音が……」

 

 そう言って、栗林が懐中電灯で井戸の中を照らすと──

 

「ッ!?」

 

「人だッ!人がいるぞッ!!」

 

 ──金髪ロングヘアーの少女が、気を失って水面に浮かんでいた。

 

 ……額に大きなタンコブを作って……。

 


 

 シュルッ!シュルッ!バシャンッ!!

 

 懸垂下降で井戸の中に降りた伊丹は即座に少女の保護に掛かる。その途中で少女の耳が普通の人間のそれではない事に気付く。

 

「エルフ?」

 

 伊丹の言う様に、少女は耳の上部が尖っていた。俗に“エルフ耳”と呼ばれる形である。

 

 だがモタモタしてると少女が低体温症になりかねないので、伊丹は急いで…だが確実に少女の身体を自分に固定させる。

 

「いいぞ!上げてくれ!」

 

 ブロロロ……ガガガガ……

 

「ゆっくり!ゆっくりだ!」

 

 桑原の号令で73式小型トラック(パジェロ)のフロントに備え付けているウインチとバック走行を併用して伊丹達を持ち上げる。

 

 やがて、伊丹が井戸の縁から顔を出し……

 

「人命救助!急げッ!」

 

「「「「「「「「はいッ!」」」」」」」」

 

 伊丹の号令で隊員はそれぞれ作業に掛かる。

 

「まあ…人じゃなくて…エルフだけどね……」

 

 伊丹は背負っている少女を見て、そう呟いた。

 


 

 伊丹が少女を救助する前日……

 

 コアンの森にある名も無き集落

 

「テュカ…テュカ!起きなさい!」

 

 昼のうららかな日差しが差し込む屋内のソファーで昼寝をしていた少女………テュカ·ルナ·マルソーは父親に揺り起こされる。

 

 年の頃は16、7ぐらい()()()()美少女である。

 

「ん…う~ん……なぁに?お父さん……手を出した女の人の元恋人とか旦那さんに、追い回されてるから匿ってくれって言うならお断りよ?」

 

「せっかく、気持ちよく寝てたのに」と目を擦りながら、のそのそと起き上がる。

 

「あ~…いや、()()()そうじゃなくてだな……」

 

「じゃあなに?お父さんが手を出した女の人が、何人か鉢合わせになったから、居たたまれなくなって逃げて来たの?」

 

「いや…だから、そうじゃなくて……」

 

 テュカの父親──ホドリュー·レイ·マルソーは、()()()()()に焦りを感じつつも言葉に詰まる。

 

 と、その時──

 

 バサッ!バサッ!バサッ!

 

「……………ッ!!」

 

「~~~~~ッ!!」

 

「ッ!?」

 

「ギャオォォォォス!!」

 

「あれは……炎龍!?」

 

 ──外から異様に大きな羽音と複数の悲鳴が聞こえて窓の外へ目を向けると、空に炎龍のシルエットが見えた。

 

 ホドリューに目を向けると、棚の中から武器を取り出そうとしていた。急いでテュカも弓を手に取ろうとするが──

 

「やめなさい、テュカ。君は逃げるんだ。君に万が一の事があったら、私はお母さんに叱られてしまうよ」

 

 ──ホドリューはテュカに逃げる様に促す。

 

「私も戦うわ。炎龍が相手じゃどこに逃げても一緒よ。それに、手勢は一人でも多い方がいいでしょ?」

 

 だがテュカはホドリューの制止を聞き入れずに、武器を手に取った。

 

 一方、既に集落内は地獄絵図と化していた。

 

 キュボッ!ブオォォォォッ!!

 

「アッ!」

 

「ぎゃあァァァッ!!」

 

 炎龍の吐き出す火炎(ブレス)によって戦闘能力の無い住民が次々と炎に巻かれる。

 

 ヒュンッ!バヒュッ!ビュッ!

 

 カンッ!キンッ!バキンッ!

 

 キュバッ!ゴォォォォッ!!

 

「ガッ!」

 

「ギャアッ!」

 

 ゴォッ!ブォンッ!

 

「アァッ!」

 

「がァッ!」

 

 戦える者も炎龍へ弓矢を放つが、ある者は火炎(ブレス)で炎に巻かれ、ある者は前肢や尻尾の打撃で身体をバラバラに引き裂かれ次々と惨殺されていく。

 

「テュカ!ここにいては危ない!外へ出よう!」

 

 ホドリューはテュカに集落の外へ脱出する様に促す。

 

「テュカーッ!!」

 

 そこへ、テュカの幼なじみのユノが必死の形相で走り寄って来た。

 

 その後ろでは、炎龍が「わーい♪ごはんだー♪」と大口を開けて迫ってくる。

 

「ユノッ!!」

 

 ユノは恐怖で顔を引き()らせ──

 

 バクンッ!!

 

「あぁ……ユノ……ユノが……」 

 

 バキパキ…ゴリッ…ポキ……

 

 ──テュカの眼前で、炎龍に()()()()()補食された。

 

 更に炎龍は「いっただっき♪マンモ~ス♪」と言わんばかりにテュカに狙いを定める。

 

「テュカッ!ダメだッ!!──────ッ!!」

 

 ドヒュンッ!!

 

 ホドリューは叫んだ後、精霊魔法で風を纏わせて発射速度を倍加させた矢を放つ。

 

 ズドンッ!!

 

「ギャオオォォォォンッ!!」

 

 ホドリューの放った矢は、狙い違わず炎龍の左目に突き刺さった。

 

「目だッ!目を狙えッ!!」

 

 壮年のエルフが弱点に気付き、そこを狙う様に指示するが──

 

 ブォッ!!

 

「がッ!」

 

「あァッ!」

 

 ──炎龍が「テメェッ!メシのジャマしてんじゃねぇッ!コノヤローッ!」と言わんばかりに前肢や尻尾を振り回して暴れる。一応注釈するが、この炎龍はメスである。

 

 周囲にいた運の悪いエルフは、振り回した前肢等に引き裂かれた。

 

 そして、再びテュカに狙いを定めるが──

 

「テュカッ!逃げなさいッ!!」

 

 ズンッ!!

 

 ──ホドリューが間に入って、炎龍の口内にショートソードを突き立てる。

 

「グガァァア……」

 

 炎龍が「痛ぇ……爪楊枝が歯茎に……」と言わんばかりに動きを止める。

 

 その隙にホドリューはテュカを抱き上げ、集落の井戸まで連れて行き──

 

「ここに隠れているんだ!いいね?」

 

 ──テュカを井戸の中へ放り込んだ。

 

「お父さん!」

 

 テュカが井戸内の水面に落下する直前に見たものは、背後に炎龍が迫る中でテュカに笑顔を向ける父の姿であった。

 


 

 その後に起こった事はテュカ自身にも具体的には分からなかった。

 

 その後、死んだ魚のような目で井戸の縁を見上げていた。やがて大雨が降りだし、一晩中それが降り続けていた中でもテュカはそのままであった。

 

 井戸の外から次々に聞こえて来る知人達の悲鳴や炎龍のブレスで集落が焼き払われる音から、集落の住民は自分を残して全滅したと思われた──が、テュカの中では「全滅した」という事実を否定していた。

 

 ……というよりは、父だけはあの状況でも生き残っていると信じようとしていた。今にも「やあ、テュカ。無事だったかい?」と井戸の縁から顔を見せて手を差し伸べて来ると………。

 

 やがて一晩中井戸水に浸かり続けた事により、身体の冷えたテュカは震え始める。

 

「私……このまま死んじゃうのかな?」

 

 いつまで経っても(ホドリュー)が迎えに来ない事もあって、そう弱気になって来た頃──

 

「──────」

 

「──────」

 

「?」

 

 ──井戸の外から話し声が聞こえ始め、思わず顔を上げると──

 

 ヒュウゥゥゥ……

 

 コ────ン……

 

 テュカの額に木桶が直撃して、そのまま気絶した。

 


 

「危なかったです……身体全体が真っ青だ。救助がもう少し遅かったら、低体温症で死んでましたよ……」

 

 ハイセがSAAのヘルメットに付いている熱源探知カメラ(サーモグラフィー)で、少女の体温をモニターしつつそう言った。

 

「とにかく、濡れた服を脱がさないと!」

 

「ごめん、切るよ!」

 

 3偵の看護要員(メディック)である黒川(くろかわ) 茉莉(まり)二等陸曹の言葉に頷き、ハサミを片手に少女の服を脱がそうとした栗林がはたと気付き──

 

「ハイセッ!こっちいつまでも見てんじゃないッ!他の野郎共も、こっち見んなッ!特に倉田ッ!」

 

 ──その場に居る男性陣に怒鳴りつける。

 

 3偵の顔合わせの時に、ハイセが栗林に問答無用でぶっ飛ばされた事が記憶に新しい事もあり、隊員達は蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げ出した。

 


 

「くぅ~…エルフっスよ、隊長!」

 

 半長靴の中に入った水を抜き靴下を絞っていた伊丹の傍らで、倉田は感激していた。

 

「お前、エルフ萌えか?」

 

「自分はケモノ娘一筋ですが?」

 

「何、当然の事を」と、倉田は答える。

 

「エルフが居るんですから、ケモノ娘もこの世界に居るって事じゃないですか!絶対に!」

 

「あー、そーだね……居るかもしれないね……」

 

 鼻息荒く続ける倉田に、伊丹はドン引く。

 

 古新聞を突っ込んだ半長靴を片手に、伊丹は距離を取る。

 

「伊丹隊長」

 

 水分を絞った靴下と古新聞に可能な限り水を吸わせた半長靴を履き直していた伊丹に、黒川が報告にやって来る。

 

 女性ながら黒川は190cmもの長身であり、150cm弱の栗林共々“3偵の凸凹女性自衛官(WAC)”と呼ばれていた。

 

「黒川二曹。どう?」

 

 黒川の長身に圧倒されつつ、伊丹は尋ねた。

 

「体温は回復してきました。おでこのコブもじきに治るでしょう。もう大丈夫だと思いますが…これからどうします?」

 

「ん~……見た所ここは全滅しちゃってるし、放っておく事も出来ないから、保護って事で連れて行きましょ」

 

「隊長なら、そう言うと思いましたわ」

 

「それって、僕が人道的だから?」

 

「さあ、どうでしょう?隊長が特殊な趣味をお持ちだからとか、あの娘がエルフだからとか、色々と理由を上げては隊長に失礼かと……」

 

「…………」

 

 黒川がにこやかな顔のまま、お淑やかな口調で毒を吐くその有様に、伊丹は冷や汗が頬や首筋や背中に伝え落ちていくのを感じた。

  


 

「了解!これよりコダ村経由で、アルヌスに帰還します!」

 

 司令部に一部始終を報告した伊丹は、保護した少女とその看護役として黒川を高機動車に同乗させ、帰還の途についた。

 

「よーし!出発!」

 

 伊丹の号令で、3偵の車両群が走り出す。

 

「隊長。エルフの標準血圧と脈拍はどれくらいでしょう?」

 

「え?……それは、現地の人に聞いた方が……」

 

 黒川が一般よりズレた知識と常識を持つ伊丹にダメ元で聞いてみるが、それこそ一般的な医学知識しか持ち合わせていない伊丹は返答に詰まった。

 

『とりあえず、一般的な成人女性の平均値を基準にするしかないですね。いざとなったら、僕が間に立って症状を聞き出します……特地語が通じれば…の話ですが』

 

 そう言って、ハイセがフォローに回る。

 

「ドラゴンが来たら嫌っスねぇ」

 

「バカ!ホントに来たらどうすんだ!」

 

 倉田が見事にフラグをおっ立てたものの、幸いにもそれは回収されずに済んだのだった。

 


 

 アルヌスより東方約百数十㎞地点

 

 コダ村入口付近の広場

 

「何と!全滅してしまったのか!?」

 

 コダ村まで到着した伊丹達は、村長を呼び出してコアンの森で起こった一部始終を話していた。

 

 伊丹は最初、ハイセかヒデに通訳させるつもりだったが「コミュニケーションを人任せにしていてはいつまで経っても特地語が身につかない」というハイセの言葉により、できるだけ自力で話す様にしていた。

 

 村長は「何だ?また来たのか?」と怪訝な表情をしていたが、伊丹の話を聞いて途端に顔色を変えた。

 

「あー、私たち森行く、大きな鳥いた、森、村、焼けた」

 

 伊丹はそう言って、SAAのカメラでハイセが撮影した映像をタブレット端末で再生して村長に見せた。

 

 ちなみに現在、伊丹達が持つ単語帳には「ドラゴン」に概する単語が無いため、「鳥」と呼んでいる。

 

 ざわ…

 

 周囲の村人達は最初タブレット端末とそこに流れる映像に驚かされたが、それ以上に映像のドラゴンを見て驚愕する。

 

「こっ…これは古代龍じゃ!それも、炎龍じゃよ!」

 

 ざわざわ…

 

 村長の「炎龍」という言葉を聞き、村人達は更にざわめきだす。

 

 村長から「古代龍」と「炎龍」の単語が出てきたので、伊丹はさっそく手帳にメモする。

 

「炎龍、火、出す、人、たくさん焼けた」

 

「人ではなくエルフであろう。あそこはエルフの村じゃて」

 

 伊丹は更に「エルフ」と手帳にメモを取る。

 

「よく知らせてくれた、感謝するぞ!……おい!村中にふれて回るのじゃ!隣村にも使いを出せ!」

 

 伊丹に礼を言うと、村長は大慌てで周囲に指示を出す。

 

「えーと、一人、女の子を、助けた」

 

「ほぅ」

 

 伊丹はそう言うと、高機動車の後部扉へ村長を促す。

 

「……痛ましい事じゃ…この娘一人を残して、全滅してしまったのじゃな」

 

 高機動車の荷台で眠っている少女を見て、村長は気の毒そうに言った。

 

「この娘、村で保護……」

 

「習慣が違うでな、エルフの村に頼め。それに儂らは、逃げねばならん」

 

「村、捨てる?」

 

「そうじゃ。エルフや人の味を覚えた炎龍は、また村や町を襲って来るのじゃよ」

 

 村長の言葉を証明するかの様に、コダ村のそこかしこで村人達が避難のために荷物を纏める様子が見られた。

  


 

 兵器解説

 

・AAM-007J 《獄卒·弐式 特地仕様》

 

 量産型SAA獄卒·弐式を特地に合わせて改良したもの。

 

 主な変更点は──

 

 ◦脚部クローラーユニット、背面ブースターユニットを高出力化

 

 ◦現場での整備を容易にするため、内部構造を極力簡略化

 

 ◦部品交換を容易にするため、機体本体の素体に到るまでユニット化

 

 ◦長時間の作戦行動を可能にするため、バッテリーの高出力·高性能化

 

 ◦下半身の各関節部の強化

 

 ◦センサーカメラの高倍率化

 

 ◦熱源探知カメラの搭載

 

 ◦悪条件下での通信機能の強化

 

 ──が施されている。

 




 
 最近うつ病のせいで、思うように執筆が進みません………。

 その為、次回は5月2日の0時に投稿する予定でしたが、大幅に遅れるかもしれません。

 楽しみにしていた方々は、誠に申し訳ありません。

 できるだけ予定通りに、予定より遅れてもできるだけ早く投稿します。

 気長にお待ちいただければ幸いです。

 ご意見、ご感想をお待ちしております。

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