ゲートSAA彼の地にて斯く戦えり   作:素面ライダー

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 最近、暑くなったり肌寒くなったりと気温が落ち着かない今日この頃

 上着を羽織った時に限って夏日並みの暑さになったかと思えば、Tシャツ一枚で外に出た時に限って肌寒くなったりする

 まさか、俺の服装の逆になるように外の気温が変わったりしてるんぢゃねーよな……

 ま、それはそれとして、本編スタートっス

 あ~、猫モフりたい……
 


イタリカの危機

 

 日本標準時 14:10頃

 

 アルヌス北方約百数十㎞地点

 

 テッサリア街道上

 

「おいおい……前方から上がる煙を見るのは二度目だぞ?」

 

 伊丹はそう言って全車停止させる。ハッキリ言って嫌な予感しかしない。

 

「やだなー、この道あそこに向かってない?どう思う?」

 

 伊丹は比較的日本語が達者で、特地の風習などに詳しいレレイに尋ねる。

 

 そのレレイは桑原から借りた双眼鏡を覗いていたが、訝しげな顔をしていた。

 

(逆さ?)

 

 どうやら双眼鏡を逆から覗いていた様で、改めて双眼鏡を除き直して煙の方向へ目を向ける。

 

「あれは煙」

 

「理由はわかる?」

 

「畑焼く煙ではない。季節が違う。人のした何か『鍵』?でも大きすぎ」

 

「あの辺りが、イタリカのはずですが……」

 

「『鍵』じゃなく『火事』ね。全車周辺警戒!特に対空警戒を怠るな!」

 

 先日の炎龍の事もあるので、伊丹は特に対空警戒を厳にする様に部下たちに促す。

 

「中トラ改!固定翼式無人偵察機(UAV)を飛ばしてくれ!現地の状況を確認したい!」

 

『了解!』

 

 伊丹がそう命令を下すと、ハイセはさっそく中トラ改の天板に取り付けてある折り畳み式カタパルトを展開した。その後、続けてUAVをカタパルトに設置する。

 

 その間に、古田(ふるた)が可動式パラボラアンテナを取り出して外に出た。衛星放送に使用される様なそれはポールに接続されており、アンテナが車の屋根から突き出る形になる様にそのポールを後部扉の脇に固定する。

 

「なに?どうした、ロゥリィ?」

 

 作業を見守っていた伊丹の横へと身を乗り出したロゥリィへ尋ねると──

 

……血の臭い

 

 ──うっとりとした顔を煙の方向に向けつつ、特地語でそう呟いていた。伊丹は不穏な言葉が聞こえたよーな気がしたが、聞こえない事にする。

 

 バヒュッ!

 

 ポールの固定が終わった後、ケーブルを繋いでアンテナを調整してからカタパルトのUAVが射出された。

 

『現場上空に到達しました!各車モニターの2番ボタンを押してください!映像を送ります!』

 

 車内のオペレーター席でUAVを操作しているヒデから無線で連絡が入り、それぞれの車両でモニターのスイッチを入れる。

 

 ザー…………パッ!

 

 すると各車両のモニターに、UAVからの映像が送られた。その映像には──

 

「うわー……案の定、絶賛戦闘中だねぇ」

 

 ──伊丹の言う様に、城壁とそれに設置された門を中心に激しい戦闘が繰り広げられていた。

 

 見た限り攻撃側も防衛側も兵装が統一されておらず、特に防衛側の戦力に至っては明らかに街の住人が普段着の上から鎧兜を身に付けている者が大半である。恐らく正規の警備兵の数が圧倒的に不足しているため、住人総出で防衛戦に駆り出されているであろう事が容易に想像出来た。

 

 映像の中で攻防の最中、城壁上で何やら大振りの鍋らしきものから中身を城壁に掛けた梯子の登っている兵士とその下にいる者たちにぶちまける様子が映る。

 

「うわー……あんな風に熱湯をかけられるなんて、勘弁っスよ」

 

「熱湯?やだやだ、全身火傷してまで生き残るなんて最悪だぜ?」

 

 伊丹は思わず()()()()()()()を頭に浮かべて、青い顔をしつつ倉田へ返す。

 

 実のところその中身が熱湯ではなく高温で溶かした鉛であると知ったら、伊丹は一も二もなく引き返していた事であろう。

 

 そして城壁上の騎士鎧姿の女性──恐らくは正規兵だと思われる──が弓を放ち、相手側の兵士を見事に射抜いた事を切っ掛けに街を攻めていた軍勢が撤退を始めた。

 

「……隊長、どうします?」

 

「うーん……」

 

 倉田が尋ねるも、伊丹は判断に迷う。

 

 伊丹の性格的にも偵察任務としても、無用なトラブルは極力避けるべきである。このままノコノコとイタリカまで行けば、間違いなく戦闘に巻き込まれる事になる。

 

 しかし、どうした経緯で街の総力戦と言える戦闘になったのかは先ほどの映像だけでは判然とせず──明らかに非合法な武装集団(恐らく野盗の類であろう)に襲われている様に見えたが──実際に現地で情報を集めないことには事情がハッキリとしない。

 

 何より伊丹たち深部偵察隊の任務は、有り体に言えば現地の人間と接触して協力者を増やしていく事なのである。見捨てて悪評を立てられるより、多少の危険があっても現地に出向いて事情をハッキリさせた方がいい。

 

「仕方ない……周辺の警戒を厳にしつつ、イタリカまで移動する。ヒデ、UAVで武装集団を追跡してくれ。周辺の地形情報も合わせて頼む」

 

『了解!』

 

 伊丹はその判断の下、予定通りイタリカまで行くことを決定した。

 


 

 同時刻

 

 アルヌスより北北西 約百数十㎞地点

 

 交易都市イタリカ 南門城壁上

 

「ノーマ!ハミルトン!怪我はないか?」

 

「ゼェ…ゼェ……なんとか……ゼェ……生きて……まーす……ゼェ……」

 

「…………」

 

 城壁の上から問いかけるピニャにハミルトンは荒く息を付きながら、ノーマは無言で手を上げる事で答える。

 

「薄情ですな姫様、小官の心配はしていただけないので?」

 

「グレイ、貴様は無事に決まっておろう」

 

 城壁上へ繋がる階段脇にひょっこりと現れ問いかけるグレイに、ピニャはすげなく答えていた。ノーマたちと違いそこに疲れなど微塵も見せず、肩に担いだ血糊の着いた大剣が無ければ、ついさっきまで隠れていたのではないか?と疑いたくなるほどである。

 

 防衛戦に参加していたイタリカの住民たちは全員が疲労困憊といった様子であり、中には地面にへたり込んで息をついている者もいる。

 

「お前たち!休んでる暇など無いぞ!盗賊どもはまたやって来る!死体を片付け、柵を補強しろ!急げ!急げ!急げ!」

 

 ピニャも住民たちが慣れない戦闘で疲労している事は承知しているが、心を鬼にして現地指揮官として必要な指示を飛ばす。

 

「3日だ!3日耐えれば、妾の騎士団がこの街まで援軍に来る!それまで、皆頑張ってくれ!」

 

 少しでも住民たちの士気を上げるために、ピニャはそう言って勇気づける。嘘を言っている訳ではないが、3日で来れるかどうかは正直微妙なところである。

 

「グレイ、門の具合はどうか?」

 

「駄目ですなぁ。いっそ出入り口を木材で塞いで、敵が来た時には火を放っては?」

 

 ピニャの質問にグレイはそう答える。確かに木材が燃え尽きるまでという時間制限付きではあるが、即席の物で下手に門扉をでっち上げるより、出入り口を炎で塞いだ方がよほど効果的だ。

 

「姫さまぁ~。そもそも、どうして私たちはこんな所で盗賊を相手にしてるんですか?」

 

「~~~ッ!仕方ないだろう!異世界の軍が、イタリカの侵略を目論んでると思ったんだから!」

 

 そう……そもそもアルヌスへ向かっていたはずの彼女らが、何故かイタリカにいる理由はそれであった。

 

 情報を集め終えたピニャたちが、いざアルヌスへ向かうという段において「大規模な武装集団がイタリカの方へ向かっている」という情報を掴んだのである。待機中の騎士団本隊にイタリカへ移動する様に早馬で伝令を走らせ、ピニャたち自身はイタリカまで急行した。

 

 いよいよ異世界の軍が侵攻を始めたのか?と考え、ピニャに緊張が走る。だがイタリカに到着してみれば、襲撃していたのは連合諸王国軍の残党を主力とした盗賊団だったのである。

 

 事前の情報収集において、帝国の戦力徴発の影響で辺境の治安が悪化しているという話は聞いていたものの、実際に目の当たりにするとピニャは何とも言えない気分になる。父である皇帝(モルト)の愚行が事態を更に悪化させている、と知っているだけに尚更だった。

 

 なお、本来なら自身の兵を率いて防衛戦を指揮するべきはずのフォルマル家の当主の姿は戦場には無い。

 

 何故なら現当主であるミュイ·フォルマルはまだ11歳の少女に過ぎないためである。当然の事ながら彼女に戦闘指揮などできるはずもなく、ピニャが代わりに前線指揮を取っているのだ。

 

 それだけならまだよかったが、ピニャが到着した頃のイタリカの惨状は目を覆わんばかりの惨憺(さんたん)たる有り様であった。

 

 そもそもまだ子供であるミュイがフォルマル家を継ぐ事になった経緯は、先代当主である彼女の父が急死したためである。伯爵家の当主とはいえ、特地の基準でもまだ未成年に過ぎない彼女には後見人が必要なのだが、その座を巡って既に他家へと嫁いでいた2人の姉が争いを始めたのだ。

 

 ミュイの将来と幸福を案じた上での争いならばまだ同情の余地はあったが、2人のそれには彼女への配慮や温情など微塵も感じられない。彼女らのそれが実家の実権を握るためなのは明らかであり、2人の欲を剥き出しにした争いは見るに耐えない醜悪なものだった。

 

 そして彼女らの権力争いに伴い伯爵家内部での不正·横領が横行。姉たちが嫁ぎ先から引き連れてきた兵たちの間でも小競り合いが発生したためイタリカ市街地の治安も急激に悪化した。

 

 更に異世界へ出兵していた姉たちの夫も生死不明となり、当主不在となった両家はフォルマル家に構う余裕が無くなった。そのため彼女たちはそれぞれの領地に引き上げざるを得なくなり、結果的に2人はイタリカを荒らすだけ荒らして帰って行ったのだ。

 

 彼女らが残したものは不正が蔓延り、治安が乱れて荒廃したイタリカの街。そこへ盗賊の襲撃が重なったので、住民たちにとって正に泣きっ面に蜂である。

 

 ピニャがイタリカへやって来たのはちょうどそんな時であり、本来街を守護すべき正規兵の半分近くが既に逃げた後だと聞いたピニャは頭を抱えたくなった。

 

「もういっそ、この街見捨てようか?」という考えが一瞬ピニャの頭をよぎったが、結局彼女は街を見捨てず、同行していたわずかな部下と共にイタリカを守る事を選んだ。本来正義感の強い性格なのである。

 

 ピニャは到着早々イタリカを中心に一帯を統治するフォルマル伯爵家の邸宅へと乗り込み、身分を明かして伯爵家の兵力の指揮権を掌握。盗賊相手に街の住民総出で防衛戦を繰り広げて今に至る、という訳である。

 

「皆さーん!お疲れではありませんか?お食事の用意ができておりまーす!」

 

 ピニャたちとイタリカの住民たちが次の戦闘に向けて動き回る中、メイド姿の女性たちが荷車を引いて門の近くへやって来る。荷車に積まれているのは麦と牛乳の粥の入った寸胴鍋とスープ皿、それと籠に入った大量の黒パンである。

 

 それらを見て、ピニャも今更ながら疲労と空腹を覚える。

 

「手の空いた者から、交代で休憩と食事を取れ!ノーマ、そっちも交代で休憩と食事を取らせろ!敵影な無いな!?」

 

「はい、今のところ!」

 

 城壁上で歩哨に就いているノーマへ声をかけた後、ピニャはグレイに向き直る。

 

「グレイ、妾は館で食事を取ってくる。後は任せる」

 

「ハッ!」

 

 彼女はそう言って踵を返し、馬を駆ってフォルマル伯爵邸へ戻って行った。

 


 

「お帰りなさいませ、皇女殿下」

 

 伯爵邸へ戻ってきたピニャを、執事とメイド長が玄関口で出迎えていた。

 

 他の使用人たちは住民たちの差し入れのために玄関口近くの庭先で黒パンを焼いたり、牛乳の麦粥の炊き出し作業にと大忙しで出迎える余裕が無い。ピニャはそれらを避けて玄関前で馬を降り、近くに居た使用人に馬を預ける。そして邸内へ入り居間へと向かう彼女を、執事とメイド長が追従する。

 

「すまんが、なにか食べ物を」

 

「かしこまりました」

 

 居間に入るなりピニャはそう言って、ソファーにドカっと腰掛けた。それを受けて、メイド長たちはすぐさま支度に取りかかる。

 

「殿下、どうにか戦わずに済む方法は無いのでしょうか?」

 

 執事はピニャが持つ酒杯に葡萄酒を注ぎながら、彼女に尋ねる。

 

「簡単だ、門を開け放てばよい」

 

「それでは……」

 

 葡萄酒で喉を潤していたピニャがそう答えると、執事は安堵した顔になる。

 

「その代わり、全てを奪われるぞ?男は殺され、女は慰み物にされた挙げ句に奴隷へ売られる。妾とて例外ではないぞ?それで50人、100人と相手していると、妾も正気を保てる自信は無い。そちらのミュイ伯爵令嬢はどうかな?」

 

「ヒッ!?」

 

 ビクッ!

 

 食事に同席しているミュイはそれを聞いて、顔を青ざめさせる。

 

「ミュ…ミュイ様はまだ11歳ですぞ!?」

 

「いやいや…あれほどの人数だ。年端の行かない幼子が好みの変態が居ても不思議ではない……いや、間違いなく居るであろうな」

 

「そ…そんな……」

 

 それを聞いて、執事の顔に絶望が浮かぶ。

 

「ならば、戦うしかあるまい?」

 

 ピニャはそう言って、この話を切り上げた。

 

「お待たせ致しました」

 

 そこへメイド長がピニャたちに食事を持ってくる。彼女とミュイは皿を並べ終えるのを待ち、食事を始めた。

 

「……物足りん……」

 

 戦場で贅沢を言えない事ぐらい解ってはいるが、ピニャは思わず口にしてしまう。

 

「いけません!身体が疲れている時に、味の濃いものを口にすれば胃にもたれます!」

 

 耳ざとく聞いていたメイド長が苦言を呈す。

 

「お主、籠城戦の経験があるのか?」

 

「ええ、かれこれ30年ほど前に。()()帝国領となっております、かつてロサと呼ばれた街で」

 

「ああ……」

 

 メイド長の答えにピニャは納得した。帝国は日常的に侵略戦争に明け暮れているので、そう珍しい話ではない。

 

「では、妾は客間で休ませてもらう。火急の伝令はそのまま通せ」

 

 ピニャはそう言って、客間へ歩いていく。

 

「……もし妾が起きなかったら、何とする?」

 

「水をぶっかけて、叩き起こして差し上げますとも」

 

 ついつい悪戯心からそんな質問をするピニャに、メイド長は不敵な顔でそう答える。その答えが気に入ったのか、ピニャはコロコロ笑いながら客間へと向かって行った。

 


 

「ふう……」

 

 ドサッ!

 

「正規兵は少数、民兵は勇敢な者から死んでいく、士気は最低……こんなものが妾の初陣だと?」

 

 部下たちの手前、先ほどまでは気丈に振る舞っていたが、ピニャは部屋で1人気を抜くとそんな弱音が出てくる。

 

 初めに「武装勢力がイタリカへ向かっている」と聞いた時は緊張もあったが、同時に舞い上がってもいた。どうせ初陣を飾るならば、地味な偵察よりも華々しい戦場でありたいと思っていたためだ。

 

 ところがいざイタリカへ着いてみれば、襲っていたのは異世界の軍勢ではなく盗賊の集団。自らが率いる戦力は、よく知る騎士団や剣士隊ではなく警備兵と民兵の寄せ集め。自分の思い描いていた戦場には程遠かった。

 

 そんな劣悪な条件でも、ピニャは腐らず最善を尽くしていた。だが、自分の理想と目の前の現実とのギャップが彼女を弱気にさせる。

 

 やがて彼女は溜まっていた疲れからか、客間のベッドで眠り始める………が──

 

 バシャッ!

 

「な…何事だ?敵襲か?」

 

 ──冷たい水の感触が、彼女を眠りから引き戻した。

 

「……果たして敵か味方か。ともかく、東門にてご自分の目でご覧ください」

 

「なに?」

 

 グレイの報告を訝しみながら、身支度もそこそこにピニャは東門へ向かって行った。

 


 

 東門へたどり着くと、既に住民たちが戦闘準備を整え三々五々と集まっている。彼らの様子は警戒半分興味半分といったところである。

 

「姫様、こちらからどうぞ」

 

 グレイがそう言って、東門の通用扉を指す。ピニャはそれにしたがって、通用扉の覗き窓を開け外の様子を伺う。

 

「何だあれは?攻城用の木甲車か?」

 

 そこには、彼女も見た事の無い奇妙な荷車が合計4台停まっていた。見たところそれらを牽くための馬や牛は見当たらず、それらの形状で彼女の知識の中で最も近いものは、先ほど言った「木甲車」と呼ばれる攻城兵器である。

 

 木甲車とは、木製の箱──正確には箱状に周囲を覆われた車体の荷車内に動力となる馬と城攻めのための兵員を収納したまま、矢弾や石礫を避けつつ城壁に近づくための現在で言うところの装甲兵員輸送車だ。

 

 先頭とその後ろの木甲車2台の屋根は、帆布とも皮革ともつかない何らかの布製である。その後ろの2台は鉄製であり、それぞれ長弩(ちょうど)の様なものを備えている。先頭の木甲車の中に見える者たちは、見た事の無い鎧兜を身に付け、杖とも棍棒ともつかないものを手に持って、油断無くこちらの様子を伺っていた。

 

 しかし、どうにも様子がおかしい。盗賊が斥候に来たにしては重装備過ぎる。わざわざ攻城兵器を持って少数でやって来る理由もわからないし、そのくせ何らアクションを起こしていないのも妙な話だ。

 

 かといって、仮にたまたまやって来ただけの事情を知らない行商人だったにしても、服装も手荷物も乗り物も仰々(ぎょうぎょう)しい。

 

「ノーマ!」

 

「他に敵影はありません!」

 

 ピニャが声をかけると質問の意図を察していたのか、ノーマは簡潔に答える。

 

「何者か!?敵でないならば姿を見せろ!!」

 

 誰何(すいか)するノーマの声が辺り一帯に響き、城壁上の民兵は弓や弩銃(どじゅう)をいつでも撃てるように構える。

 

 待つことしばし──

 

「誰か降りてきたぞ!」

 

 ──民兵の1人の言葉通り、先頭の木甲車から10代半ばと思しき銀髪の少女が後ろから降りてくる。その手にはリンドン派の魔導師である事を示す杖が握られていた。

 

 続いて見た事の無いぴったりとした衣装を身に纏った金髪の少女が降りてくる。おそらく年齢は10代後半と思われるが、髪の隙間から笹穂耳が覗いているのでエルフであろう。となれば、年齢が見た目通りという訳ではあるまい。

 

 更に1人降りてきた様だが、先の2人に比べ背が低いため彼女らの影に隠れてよく見えなかった。

 

「魔導師にエルフか……リンドン派の実戦的な攻撃魔法とエルフの精霊魔法は厄介だな」

 

 先に木甲車から降りてきた2人を見て、ピニャは敵に回った時に備えて冷静に戦力評価する。

 

「相手は油断している……今の内に弩銃で……ッ!?」

 

 厄介な相手を今の内に排除しようとしたが、最後に木甲車を降りた人物を見てピニャは凍りつく。

 

「あ…あれは……ロゥリィ·マーキュリー!」

 

 少女の身の丈を越える重厚なハルバードとエムロイ神殿の神官服を見て、ピニャは即座にその正体を見抜いていた。

 

「あれが噂の「死神ロゥリィ」ですかな?」

 

「……ああ、以前に国の祭祀で見た事がある」

 

「ここのミュイ様と年格好はそう変わりませんな」

 

「あれで(よわい)九百を越える化け物だぞ!」

 

 グレイの率直な感想にピニャは反論する。

 

「使徒に魔導師にエルフ……何なんだ、この組み合わせは?本当に敵ならば……」

 

「しかし、エムロイの使徒がわざわざ盗賊なんぞに加わりますかな?」

 

「……あの方達なら、やりかねんのだ」

 

「ハ?」

 

 ピニャの心外な答えに、グレイは素っ頓狂な声をあげた。彼にとってその答えはそれほど意外だったのだ。

 

「亜神たる使徒を含め、神という存在はヒトには理解できんのだ、どんなに偉い神官であろうともな。神の行いは単なる気まぐれ、と言う者さえ居る。結局の所、人々は皆神官の言う「信仰」という詐欺に引っ掛かっているのかも知れんな」

 

「しししょ…小官は、何も聞きませんでした」

 

 信心深いグレイは顔を青ざめて耳を塞ぎながら、そう言ってそっぽを向く。

 

(どうする、ピニャ?…決断しろ、時間が無いぞ!)

 

 東門に集まっている人々は、まるでギリギリまで引き絞られた弓の弦の様に緊張の糸が張り詰めていた。ちょっとしたきっかけで、今にも構えている弓や弩銃から矢が放たれかねない。

 

(どうすればいい?この街の全てが、妾の決断にかかっている)

 

 自身のみならず街の住民全てがかかった決断を迫られ、ピニャはプレッシャーで押し潰されそうになる。

 

(ロゥリィ達は、盗賊に与しているのか?──否、そうであるなら、とっくにこの街は落ちている)

 

 コンコン

 

(ッ!ええい!もはや、奴らが何者であろうと盗賊に与していようと関係無い!妾にもはや士気を上げる術が無い!このままでは、盗賊に負ける!こうなったら……)

 

「姫様ッ!?」

 

 通用扉からノックの音が響いて、ピニャは決断した。彼女はそのまま通用扉の(かんぬき)を外しにかかる。グレイが驚いた顔をするも、無視して掛かっている閂を全て外す。

 

(勢いで有無を言わさず、奴らをこちら側へ引き込むまでだ!)

 

 バンッ!

 

ガッ!

 

「よく来てくれた!」

 

 そして、通用扉を勢いよく開けて歓迎の言葉をかけた……が──

 

「……?」

 

 ──どうにも相手の様子がおかしい。3人とも扉の直ぐ近くの地面の方に目を向けている。

 

 そー言えば扉を開けた時に何かをぶつけた手応えがあったよーな、と3人の視線を辿ると──

 

「──────」

 

 ──全身まだら緑の服を着た奇妙な男が、仰向けに倒れ目を剥いて完全に気絶していた。

 

「もしかして……妾が?」

 

 もしかしなくてもその通りである。

 

 コクコクコク

 

 胡乱な目をした3人が、揃って頷くのであった。

 


 

「お…重い、この鎧どうやって脱がすの?」

 

「あ…あわわわ……」

 

「なんだなんだ?」

 

「大丈夫、気絶しただけ」

 

 思わぬアクシデントで伊丹が気絶してしまったので、レレイたちはとりあえず元凶である女性騎士に手伝ってもらいながら、伊丹を街の中へと運び込む。

 

 テュカはまず兜を外しその後鎧を脱がせようとするも、現代個人装備のボディアーマーの構造が分からず脱がせ方がはっきりしないため、とりあえず襟元を緩める。

 

「ちょっと、あなたどういうつもり!?」

 

 ロゥリィに膝枕された伊丹に、彼が持っていた水筒から水をかけながら、テュカがピニャに怒鳴り付ける。

 

「ちゃんとノックしたでしょう!?扉の外に人がいるかもって思わないの!?ドワーフだってホビットだって、それぐらいちゃんと気を付けるわよ!!」

 

 興奮冷めやらぬ様子でテュカは更に怒鳴り付ける。普段のピニャであれば「無礼者ッ!」と逆に相手を怒鳴り返して黙らせるところなのだが、この件に関しては自分が悪いという自覚があるので、彼女はただただ恐縮するばかりである。

 

「あんなことするなんて、ゴブリン以下よ!!」

 

(……中に入れてしまった)

 

 テュカが抗議を始めたために先を越された形になったレレイは、頭が冷えて周囲を見る余裕ができていた。再び閂を掛けられる通用扉を見て、成り行きで街の中に入れた事に気付く。

 

うう……ん……ん?……わっ

 

「あらぁ、気がついたようねぇ」

 

 そこへ、気絶していた伊丹が目を覚ます。

 

「大丈夫?」

 

「ああ」

 

隊長!応答してください!突入しますか?

 

 無線機から桑原の声が聞こえる。伊丹が気絶させられ中に連れ込まれたが、敵対行動にしては様子がおかしいため救出を躊躇っていたようである。

 

スマン、気を失ってた。状況を確認する、ハイセをこちらに寄越してくれ。残りは待機だ

 

了解!

 

「で?誰か、今どうなってるのか説明してくれない?」

 

 目覚めた伊丹がそう言うと──

 

 ススス……

 

 スス……

 

 ──住民たちは()()()()から距離を取りつつ、()()()()に視線を向ける。つまり──

 

「……妾?」

 

 ──この騒動の元凶たるピニャへと視線を向けていた。

 

 こうして日本の自衛隊と帝国の皇族の第一次接触(ファーストコンタクト)は、こういう何とも締まらない形で始まったのであった。

 


 

 兵器解説

 

・固定翼式 無人偵察機

(Unmanned Aerial Vehicle:UAV)

 

 現在の自衛隊で使用されている無人偵察機。

 

 技術はあってもUAVを始めとした遠隔操作式の無人兵器の開発·運用ノウハウにおいて世界各国に比べ遅れを取っている日本は、アメリカ製のUAVを採用せざるを得ない状況が続いていた。そんな状況を打破するため、日本独力でのUAVの配備·運用することを目的として開発されたものである。

 

 その最大の特長は他国製のUAVに比べて圧倒的に安い調達費用で、かつて自衛隊で採用されていたスキャンイーグル(本体:2億5000万円、運用セット一式込で13億6900万円)の100分の1以下程度のコストで調達可能。

 

 開発において防衛装備庁は某星のマークの模型メーカーに協力を依頼している。そのメーカーは当初、過去にラジコン飛行機のブームにおいて商業的に失敗した事を理由に依頼を断っていたが、他のメーカーに比べて高性能な機体をロールアウトしていた実績を評価して防衛装備庁が口説き落とした。

 

 機体本体を某模型メーカーが、各種センサー機器を防衛装備庁が担当する形で開発が進められ、開発開始から約一年で試作一号機がロールアウト。運用テストにおいて「機体本体の耐久性こそスキャンイーグルに劣るが、総合的な飛行性能·索敵能力·運用の利便性はほぼ同等かそれ以上である」という評価を受けた。

 

 テストの結果を受け、生産コストも安く済む事から自衛隊での正式採用が決定。運用開始から瞬く間に自衛隊の主力UAVへと上り詰めた。

 

 ちなみに某模型メーカーがラジコン飛行機において何故商業的に失敗したのかと言うと、当時はフライトシミュレーターなどと言った便利なものは一般には無く、ラジコン飛行機は何度も墜落を繰り返して操縦を覚えるという一種の消耗品扱いであった。某メーカーのラジコン飛行機は確かに高性能ではあったが、単価が他のメーカーの物より遥かに高くユーザーから疎遠されため商業的に失敗したのである。

 

 なお厳密に言えばこれもドローンの一種ではあるが、本作ではマルチコプター型の物を「ドローン」、固定翼式の物を「UAV」と呼び分けている。

 

 

 あと余談だが、現在防衛装備庁にてミ○四駆のモーターを再利用した小型機の開発に挑戦している猛者が居るらしい。

 




 
 次回は5/15に投稿を予定してます

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