ゲートSAA彼の地にて斯く戦えり   作:素面ライダー

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 昨日の昼間にマ○ドへ行って来たですが、「シ○ア専用マク○ナルドなんて銘打っていたら、客が1人しか入れないんじゃね?」などといった事を考えちゃってました……ホントにどーでもいい事なんですケドね

 今回はタイトルに反して、半分近くはハイセの一騎討ちとなっております

 それでは、本編スタート!
 


ハイセの秘密

 

 日本標準時 06:04頃

 

 交易都市イタリカ 東門·市街地側

 

 ヒュオッ!

 

 シャアァァァァアンッ!

 

「アッ!」

 

「うわッ!」

 

「ひっ………って、あれ?」

 

 ズルリ……

 

 ズズズ……

 

 ボトボトッ

 

 ドサドサドサッ

 

「な…何なんだ、コイツの剣は?楯も鎧も、全く役に立たねぇじゃねえか!」

 

 ハイセが《ユキヒラ》を振るう度に、盗賊たちが身に付けていた防具ごとバラバラに切り刻まれていく。先ほど盗賊が言った通り、ハイセの前では楯も鎧も無意味な重石に過ぎなかった。

 

「な…なあ、今気付いたけど、コイツらアルヌスに居座ってる連中じゃねえか?」

 

「なッ?ま…マジかよ!?何でアイツらが、こんな所まで、しゃしゃり出て来るんだよ!?」

 

「クソッ!あん時のバケモノが出て来るなんて、聞いてねぇぞ!」

 

「俺たちが何処で殺しをしようが、盗みをしようが、テメェらにゃ関係ねぇだろ?何でわざわざ、こんなところまで追いかけて来てんだよ!」

 

 ハイセたちの正体に気付き、途端に盗賊たちは狼狽え始める。

 

 先ほどまでの強気な態度は何処へやら。盗賊たちは、重装歩兵(ハイセ)細身の片刃剣(ユキヒラ)で鎧もろとも盗賊を切り刻む姿に、エムロイの神官(ロゥリィ)が膂力にものを言わせてハルバードで盗賊をなぎ倒す姿に、小柄な女兵士(栗林)火を噴く短槍(64式小銃改)と未知の体術を駆使して盗賊を斬りつけ殴り倒す姿に揃って腰砕けとなる。

 

(……何て、薄っぺらな連中なんだ……)

 

 自分より弱い相手は平気で足蹴にしている癖に、相手が自分より強いと見るや早々に戦意を失くしている。そんな盗賊たちの有様を見て、ハイセの中にドス黒く澱んだ感情が湧き上がっていく。

 

(世界が変わっても……救いようの無いクズは、何処も同じなんだな)

 

 そしてハイセ自身も気付かない内に、その攻撃に相手に対する容赦の無さと、えげつなさが増していく。

 

「認めんぞおォォォオッ!!」

 

「ッ!?」

 

 ギィンッ!

 

 ギャリッ!ギリリ……

 

「「「頭ッ!?」」」

 

 突如、盗賊の1人がハイセに斬りかかり、ハイセは咄嗟に《ユキヒラ》で受け止める。先ほどの彼らのセリフからして盗賊団の頭目らしい。

 

「くっ……」

 

 ギリッ!……ギリリ……

 

 斬りかかってきた盗賊は、刃を立てられない様に注意しつつ、側面から《ユキヒラ》の(しのぎ)の部分を巧みに押さえつけ、ハイセの動きを封じる。この形で押さえつけられれば力を入れ難く、例え膂力に勝っていても力業(ちからわざ)で押し返すのは難しい。

 

「……もはやイタリカ(この街)など、どうでもいい」

 

「?」

 

「俺は、一人の戦士として……貴様を殺す!!」

 

 サッ!

 

「ッ!?」

 

 ドカッ!

 

 相手が片手で《ユキヒラ》を押さえつつ、左手を腰の後ろに回したのを見て、咄嗟にハイセは相手の胸甲を蹴り飛ばし距離を取る。

 

 ヒュンッ!

 

 案の定、左手にナイフの様なものが握られており、それでハイセを斬りつけようと……いや、正確には《ユキヒラ》を絡め取ろうとしていた。「ナイフの様なもの」と称したのは、ただのナイフにしては形が少々歪だったためだ。その峰の部分には、櫛状に複数の溝が施されている。

 

 特地へ来る前に書物や資料をかき集め、可能な限りヨーロッパを中心に中世の武器の数々を研究していたため、ハイセは一目でその正体を見破る。

 

(ソードブレイカーか……厄介だな)

 

 ソードブレイカーとは、前述した櫛状の溝を用いて相手の剣を絡め取る、押さえつける等と言った事を目的とする、言わば「楯として使われる短剣」である。その道の達人の手に懸かれば、サーベルやレイピアなどの細身の剣ならば梃子(てこ)の原理で容易にへし折る事も出来る。ハイセの言う通り、下手な楯よりも、よほど厄介な代物なのだ。

 

 相手の盗賊は半身になって、左手のソードブレイカーを前に出し、右手に長剣を持ち右肩を引く独特の二刀流の構えをとる。

 

 対するハイセも《ユキヒラ》を両手持ちで構える。その構えは、スタンダードな剣道の「正眼」から、剣をやや持ち上げ気味に切っ先を相手へ真っ直ぐ水平に向け、刃を横方向に、更に左肩を引いて半身になる独特の構えだ。

 

 ハイセの剣術は現代剣道をベースとしておらず、薩摩示現流、薬丸示顕流、天然理心流の資料を読み漁り、独学で体得したものである。その上で、原隊での実戦さながらの訓練と銀座事件での実戦によって更に磨きを掛け、現在に至っている。今の構えは、天然理心流の「平晴眼」と呼ばれる構えだ。

 

 タタタッ!

 

 平晴眼の構えそのままに、ハイセが先に仕掛けた。相手からは仕掛けて来ないと半ば確信しているので、ペースを握らせないためだ。

 

(掛かった!)

 

 盗賊は内心ほくそ笑み、ソードブレイカーで《ユキヒラ》を押さえにかかる。ハイセの構えから「突き」に来る事は予測済みだった。

 

 ガキッ!

 

 目論見通り、ソードブレイカーで《ユキヒラ》を絡めとり、ハイセの手からもぎ取った。

 

「終わりだッ!」

 

 ドスッ!

 

 そして、ハイセの鎧の隙間(と思しき部分)に、右の剣を突き立てる。それで盗賊は勝利を確信していた。

 

 だが──

 

 バキンッ!

 

「なッ!?」

 

 ──何と、ハイセはそのまま無造作に放った左の手刀で、突き立てられた盗賊の剣を叩き折っていた。

 

 ドゴンッ!

 

「ガッ!」

 

 更にハイセは、剣に体重をかけていたために、前につんのめる盗賊の鳩尾(みぞおち)に、強烈な膝蹴りを叩き込む。

 

「くっ!」

 

 タッ!

 

 盗賊は逆流する胃液を強引に押さえ込み、後方に跳んで距離を取った。追撃を警戒していたが、相手が深追いしてくる気配は無い。

 

 ハイセの右手には、いつの間にか高周波ダガーが握られていた。膝蹴りで動きを止めていたままであったならば、背中に突き立てられるか腕が切り落とされていたであろう事は容易に想像出来る。

 

 相手の油断を誘うために()()()()()()突きを繰り出し、()()()《ユキヒラ》を絡め取らせて敵の攻撃を()()()()()、動きを止めたところでソードブレイカーを持つ左腕を斬り落とすつもりだったハイセは、内心で舌打ちする。

 

 ポロッ……

 

 カラ……ン……

 

 盗賊が音に気付き、そちらを見てみると、ハイセに突き立てられていた刀身の刃先側が地面に落ちている。血が付いてないところを見るに、恐らく中に鎖帷子(かたびら)の類を身に付けていたのであろう、と盗賊は予測していた。

 

「……何故だ?」

 

「?」

 

「それ程の腕を持ちながら、何故、戦に気概も矜持も持たない連中に与している!」

 

 屈辱で肩と唇を震わせつつ、盗賊がハイセに訊ねる。

 

「貴様に、戦士としての誇りは無いのか!?」

 

「プッ!」

 

 盗賊の言葉を聞き、ハイセは思わず吹き出していた。

 

「な…何が可笑しい!?」

 

「戦士としての誇り?盗賊から、そんなセリフが出て来るとは思いませんでしたよ」

 

 心底、相手を馬鹿にしたような声で、ハイセは言い放つ。その表情と声色は、普段の彼からはとても考えられない。

 

「賊に身を堕とした今でも、俺は戦士だ!」

 

「そんなに「戦士の誇り」とやらが大事だったら、ここで盗賊なんてやってないで、故郷(くに)へ帰ればいいでしょうに」

 

「我々の軍勢を叩き潰した、貴様らに言えた事か!遠方からアルヌスに来ていて、財貨も糧食も無かった我々には、他に生きる道など無い!」

 

「資金が無いなら、傭兵業で稼ぎながら故郷に帰る、という方法も取れたでしょう。にもかかわらず、あんたは「他者から奪う」なんて安直な方法を取った」

 

「ッ!」

 

「治安が乱れている今なら「守る側」に回って、その代償で生きる道があったのに、あんたは命を惜しみ、強い者と戦う事を恐れ、弱い者から奪う事を選んだ」

 

「………………」

 

 図星を突かれたのか、盗賊は絶句する。

 

「挙げ句の果てには、十分な兵力が無い城塞都市を攻め立て、自分は強いと錯覚して悦に浸っている。端から見ればあんたのやってる事は、ちっぽけな自己満足のための八つ当たりにしか見えませんよ」

 

「黙れッ!」

 

「あ、やっぱり認めませんでしたね。まあ、言い訳を並べて弱い者イジメしている様な未開の野蛮人は、所詮こんなものでしょうね」

 

「黙れと言っているッ!」

 

「自分の身分を笠に着て、誇り高げな()()をする上に、そのくせ自分の弱い者イジメは正当化する連中。こんな奴らが相手なら、全く遠慮する必要なんてありません………………よね?」

 

 そう言って、ハイセが盗賊に目を向けた瞬間──

 

「ッ!?」

 

 ゾクッ!

 

 ──ハイセの目付きを見て、盗賊の背筋が一瞬にして凍りつく。その目はどこまでも冷たく、(くら)い。

 

 バシュッ! ドウンッ!

 

「「ッ!」」

 

 そこへ突如として、ハイセたちの間で爆発が起こる。どうやらハイセの様子を見て、ヒデがUGVに搭載されたグレネードで援護した様である。

 

 爆煙と土煙によって、ハイセたちは視界が閉ざされる。

 

(クソッ、視界が利かない!……まあいい、条件は向こうも同じだ。このまま、ここで煙が晴れるのを待つか、近づいて来た所を……)

 

 パンッ! チュンッ!

 

「ッ!?」

 

 突如として、銃声と共に盗賊の兜の側頭部へ銃弾が飛んで来た。その事実に彼は驚く。

 

(頭に(つぶて)が飛んできた?偶然か?)

 

 パンッ! ボッ!

 

「ッ!」

 

 パンッ! バスッ!

 

「ッ!?」

 

 パンッ! ドチュンッ!

 

「~~~~~~ッ!」

 

 しかし、その予測は裏切られ、銃声の度に上腕、大腿部、脇腹へ正確に銃弾が飛んでくる。その度に激痛が走るが、盗賊は悲鳴を上げるのを必死に(こら)える。

 

(偶然ではない!奴は俺の位置を正確に掴んで、鎧の隙間へ礫を正確に撃ち込んでいる!)

 

 このままでは殺られるだけだと悟った盗賊の視界の端に、先ほどソードブレイカーでハイセからもぎ取った《ユキヒラ》が落ちているのが映った。そこで彼は一計を案じる。

 

「おい!先ほど俺の事をさんざん扱き下ろしてくれたが、貴様こそ煙に隠れて礫を飛ばして来る臆病者ではないか!違うと言うのなら、堂々とこっちに近づいて、剣で斬りつけてみろ!」

 

 そう言って折れた剣を捨て、代わりに落ちている《ユキヒラ》を拾い上げる。そして──

 

 タタタ……

 

 ──盗賊の耳に煙の向こうから、こちらへ走って来る足音が聞こえた。

 

(来るッ!だが、焦るな!)

 

 ハイセが挑発に乗ったと考え、盗賊は右手に《ユキヒラ》を構えて待ち受ける。

 

(このまま近づいて来い!刺し違えてでも、お前を仕留める!)

 

 ボバッ!

 

(来たッ!)

 

 煙を掻き分け、人影が飛んで来た。

 

()った!」

 

 シュパッ!

 

 ボトッ!ゴロゴロ……

 

 飛んできた人影に向けて、盗賊は《ユキヒラ》を斬りつける。

 

(手応えあり!この剣ならば、如何に奴の鎧とて……)

 

「何ッ!?」

 

 だが、自ら斬り捨てた人影に目を向けると──

 

「死体ッ!囮か!?」

 

 ──それは見慣れた様式の鎧兜を身に付けた、仲間の死体であった。

 

 ボバッ!

 

「ッ!させるかっ!」

 

 その直後、死角からハイセが飛び込んで来る。咄嗟に盗賊はソードブレイカーでハイセの獲物を押さえようとするが──

 

 ズバァッ!

 

「ガァッ!」

 

 ──ハイセは高周波ダガーで、盗賊の左腕を肩口から斬り落とす。

 

「まだまだぁァァァァアッ!」

 

(勝つための代償だ、左腕などくれてやる!代わりに、お前の命を頂く!)

 

 盗賊は残った右腕で、《ユキヒラ》をハイセの心臓へと突き出し、そのまま貫こうとするが──

 

 ダッ!タッ!

 

「なッ!?」

 

 バッ!チュインッ!

 

 スタッ!

 

 ──ハイセは盗賊の身体を足場にして跳び上がり、宙返り(ムーンサルト)の動作そのままに高周波ダガーを振るい、盗賊の背後に降り立つ。

 

 その重装歩兵らしからぬ軽業師のごとき身のこなしに、盗賊が驚きに目を剥いていると──

 

 ピシッ!

 

「ッ!?」

 

 ズズズ……ボトッ!

 

 ブシュゥゥゥウ……

 

「~~~~~~~~ッ!」

 

 ──跳び上がった時の一撃で右腕も切断されており、時間差で斬られた腕が地面に落ちていた。あまりの出来事に、盗賊は声にならない悲鳴を上げ、(たま)らず膝を付く。

 

 ジャキッ!

 

「ッ!」

 

 盗賊が動作音に気付いて振り向くと、ハイセが直ぐ近くで左手に持った新型の9㎜機関拳銃を頭に突きつけている。盗賊はそれが先ほど礫を飛ばしていた物の正体で、弩銃の一種であろうと理解した。今さら、どうでもいい事なのだが……。

 

(ここまでか……まあ、辺境で野垂れ死んでいたかもしれない事を考えると、悪くない最後だ。たとえ、このまま生き延びて捕虜になっても、この腕だ……奴隷商に「役立たず」の烙印を押されて、処分されるのは目に見えている。ならば……)

 

「殺れッ!」

 

 盗賊は覚悟を決め、懇願ではなくあくまで命令口調でハイセに叫んだ。

 

 そして、ハイセは躊躇い無く引き金を引く。

 

 パンッ!

 

 チンッ!ジュッ!コロコロ……

 

 ドサッ!

 

 1発の銃声が響き、銃から飛び出した空薬莢が血溜まりに転がり落ちる。直後、盗賊が血溜まりの中へと崩れ落ちた。その音が、ハイセたちの死闘の終焉を告げるゴングであった。

 


 

「クソッ!向こうで一体何が起きてやがる!」

 

 城壁近くにいた盗賊たちは、状況が掴めない苛立ちから悪態を吐く。煙で市街地側が見えなくなった後に向こうから聞こえるのは、自分たちの頭目の声と何かが弾ける様な聞いた事の無い音や風切り音ばかりで、何が起こってるのか想像すら出来ない。

 

 パンッ!

 

 ドサッ!

 

 そして、例の破裂音と何かが崩れ落ちる音が聞こえた後、先ほどまでの煩さが嘘の様に辺りは静まり返る。

 

 ゴク……

 

 あまりの静けさから、周りの誰かが緊張で生唾を飲む音までハッキリと聞こえた。

 

 サアァァァァァア……

 

「ッ!煙が晴れるぞ!」

 

 風で視界を覆っていた煙が流れ、その向こうに盗賊たちが見たものは──

 

「ッ!?かっ…頭ァ!」

 

 ──額と後頭部から血を流し、血溜まりの中で息絶えている自分たちの頭目と、その傍らに立っている重装歩兵(ハイセ)の姿であった。

 

「そ…そんな、頭が殺られた?」

 

「だ…駄目だぁ……もう、お終いだぁ……」

 

 自分たちの頭目が、ハイセとの一騎討ちに敗れた事を知り意気消沈していく。市街地側で戦っていた盗賊たちも、その事を聞いて動揺していた。

 

「敵は怯んでいるぞ!隊伍を組め!押し戻すんだ!」

 

 その様子を見て、ハミルトンはすかさず民兵たちに檄を飛ばし、隊列を整えるため指示を出す。

 

 バシュバシュッ!

 

 ドドウゥゥウン!

 

「「「「「アアアッ!」」」」」

 

 その時、市街地側の後方にいた盗賊たちが、冗談みたいに吹っ飛んだ。

 

 ズドドドドド……

 

 パパパッ!パパパッ!

 

 ドガッ!

 

 ズバァッ!

 

 民兵たちに周りを見る余裕ができて音の方向を見てみると、たった5人の男女が盗賊たちを次々と討ち取っている。その中にいる重装歩兵の1人が、先ほどの盗賊たちに向けて右腕を伸ばしており、手甲と思しき部分から白煙が2本立ち上っている。

 

 民兵たちには、その中の何人かの姿に見覚えがあった。

 

「おい、見ろ!緑の人とエムロイの使徒だ!」

 

「助けが来てくれたぞぉ!」

 

 ワアァァァァァァアッ!!

 

 南門に配されて、こっちには来れないと諦めていた者たちが、いつの間にか救援に来ていた。しかも、たった5人であれほどの数の盗賊を、苦もなく討ち取っている。

 

 ロゥリィが身に付けている防具もろとも盗賊を両断し、栗林が64式改の短連射と銃剣格闘による白兵戦で盗賊を討ち取り、伊丹は9㎜拳銃で、富田は左腕の12.7㎜試作アームライフルと右手に持った64式改で盗賊たちの動きを制限する。

 

 ハイセは新型9㎜機関拳銃と高周波ダガーで近づいて来た盗賊を確実に仕留めていた。もっとも、自分たちの頭目が討ち取られた事実に、盗賊たちは完全に腰が引けてしまっており、今はヤケクソ気味に挑んでくる者が少数居るだけであったが……。

 

 その様子に、民兵たちは更に湧き立つ。

 

 バタバタバタバタバタバタ……

 

「何だ、この音は?」

 

 民兵の1人が、城壁の外から聞こえてきたヘリのローター音に訝しむ。

 

『Fuehert die Maehren

 

  fern voneinander,

 

   bis unsrer Helden

 

    HaSSsich gelegt!

 

     Der Helden Grimm

 

      bueSSte schon die Graue!』

 

 地球側の人間で知識のある者ならば、それがドイツ語の歌詞と歌声である事に気付くであろう。その歌声が城壁の外から徐々に近づいて来る。

 

『HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!』

 

 ババババババババババ……

 

 そして舞い上がる煙を掻き分け、1機のAH-1S(コブラ)改が市街地へ飛来して、城壁近くの盗賊たちと相対する。

 

『ハンター1より3Recへ!これより、カウント10で門内のテロリストを掃討する!3Recは直ちに、安全圏まで待避されたし!10…9…8…』

 

「ヤバっ……皆さん!急いで、街の方まで退がって!」

 

「逃げるぞ!栗林!」

 

「ちょっ……まだやるー!」

 

 それを聞いた伊丹たちは、伊丹がロゥリィを、富田が栗林を抱えて、大急ぎで城壁から待避した。

 

 民兵たちも何が起こるか分からないながら、ここに居ては危険だ、という事だけは何となく理解したので、伊丹たちに倣って待避する。

 

『…3…2…1…』

 

 ヴウゥーーーーーーーーッ!!

 

 バキャバキャバキャバキバキ!!

 

 ボボボボボボボボボボボボッ!!

 

 ドチュチュチュチュチュチュ!!

 

 そしてカウント0と同時に、機首の20㎜機関砲を掃射して、盗賊たちを一掃していく。

 

 ゥゥーーーーーーッ!

 

 キュウゥゥゥウン……

 

 発射音が止んだ後に残ったのは、背後にある城壁の石材もろともミンチにされた盗賊()()()()()の残骸ばかりだった。運良く生き残った者もいるにはいるが、それはごく少数である。

 

「ッ!……化物……」

 

 ハミルトンは敗北寸前になって、突如として救援に現れた鉄の天馬(攻撃ヘリコプター)に戦慄する。

 

 ピニャも眼前でホバリングしているAH-1S改を、唖然とした顔で眺めていた。

 

(……確かに奴らの協力を得て、盗賊どもからイタリカを守る事はできた。だが……)

 

 ピニャの脳裏に、先ほどの自衛隊の戦闘──ほぼ一方的な虐殺に等しかったが──が浮かび上がる。

 

(……妾は奴らを利用して、イタリカを守ったつもりが……更に恐ろしいものを、引き入れてしまったのではないか?)

 

 伊丹たちの実力を甘く見て下した自らの判断に、ピニャは少なくない恐怖を感じ始めていた。

 


 

「はー……危なかった。後、少し遅かったら、俺たちもミンチに……ハイセ?」

 

「う…うう……」

 

 待避場所で安堵の息を吐く伊丹の前で、ハイセが頭を抱えて苦しみだす。

 

「ッ!おい、ハイセ!ハイセ、しっかりしろ!もう、戦闘は終わったんだ!」

 

「う…うう……アアあ……」

 

「?……ハイセ、どうしたの?」

 

「さ…佐々木二尉?一体、どうされたのですか?」

 

 伊丹の声が聞こえない様子で尚も苦しむハイセを見て、栗林と富田が訝しんで訊ねる。

 

「待て、2人とも!今のハイセに近づくな!」

 

「「?」」

 

 ハイセの様子がおかしいため、近づこうとした栗林たちを伊丹は慌てて止めた。

 

「ああ……ああアアあアアアッ!」

 

「ッ!くっ!」

 

 カチッ!

 

 キュウゥゥゥウン……

 

 伊丹は苦渋の表情で懐から()()を取り出し、躊躇わずにスイッチを入れる。

 

『緊急停止コードを確認!本機はこれよりコードに従い、強制停止されます!』

 

「隊長?これは一体……」

 

 伊丹が富田の質問に答える前に──

 

 ババババババババババ……

 

 ゴオォーーーーーーッ!

 

 ズンッ!ズンッ!ズンッ!……

 

 ──1機のCH-47J(チヌーク)が、東門までやって来て低空でホバリング。後部ランプからSAAが次々と降りてくる。

 

 だが、どうにも様子がおかしい。降下したSAAは盗賊を無視して、ハイセを取り囲む様に展開していたのだ。

 

「……各員に告ぐ!生き残ったB-(ビーマイナス)ランクテロリストの拘束は一時中断!これより我々は──」

 

 降下して来たSAAの指揮官である亜門(あもん)は、伊丹と同様に苦渋に満ちた表情で命令を下す。

 

「──S()S()()()()()()()()()、「ハイセ」の対処に当たる!」

 

「「ッ!?」」

 

 亜門の言葉を聞き、富田と栗林は驚愕する。

 

(SSランクテロリストだと?どういう事だ?)

 

 ザシュッ!

 

 ズシャッ!

 

 ドシュッ!

 

「グッ!ガッ!アアッ!」

 

 富田たちが驚愕している間にも、ジューゾーや半兵衛、平子たちがそれぞれの獲物をハイセに叩きつけ、無力化していく。

 

 その様子を目の当たりにした民兵たちは、救援に来ていたはずの重装歩兵が、仲間を攻撃している事実に理解が追い付かず、ただただ呆然とするばかりである。

 

「アキラッ!」

 

「ああ、任された」

 

 亜門の号令に応じて、アキラはハイセに歩み寄り、やや大振りなオートマチック拳銃を彼に向けて構える。

 

「……少し眠れ、ハイセ」

 

 バシュッ!

 

 ドサッ!

 

 アキラはそう言って引き金を引き、ハイセは銃撃を受け、そのまま仰向けに倒れる。

 

「佐々木二尉!?」

 

「慌てるな、富田!ハイセは生きている」

 

「いや、生きているって……間違いなく、至近距離から銃弾が撃ち込まれて……」

 

「うう……」

 

「「ッ!?」」

 

 慌てている富田たちの耳に呻き声が聞こえ、その声に富田たちが振り向くと、伊丹の言った通りハイセは生きていた。見ると、注射器の様な物がハイセに刺さっている。

 

 ズグ……ズググ……

 

 そして、先ほど受けた複数の傷がたちどころに塞がっていった。

 

「「ッ!」」

 

「…………………」

 

 その様子を見て富田たちは驚愕で目を見開き、ロゥリィは表情が険しくなる。

 

「……ゆっくりと、自分の状況を整理してみろ」

 

「……僕は……特機普通科教導隊所属の自衛官で……特地派遣部隊·第五戦闘団隷下·第3偵察隊へ……SAAクラダーとして出向……イタリカの偵察任務中……」

 

「……お前は、誰だ?」

 

「……僕は……僕は…ささき……ハイセ……」

 

「そうだ……お前は、佐々木 琲世(はいせ)だ」

 

 倒れているハイセに、アキラが質問を重ねる。だが富田たちには、それはまるでハイセを洗脳しているかの様な印象を受ける。

 

 事実、ハイセの精神を安定させるために、敢えてそう仕向けている側面もあった。

 

「隊長……その態度からして、隊長は事情を知ってるんスよね?」

 

 伊丹は富田の質問に、深い……それはもう深~いため息を吐いて、語り始めた。

 


 

 自衛隊規則(極秘事項)

 

「自衛官·佐々木 琲世の扱い」より

 

 佐々木 琲世(以下 甲)は、現在指名手配中の狂科学者嘉納(かのう) 明博(あきひろ)が密かに立案した「人造亜神計画」による人体実験の被害者である。

 

 上記の事情を鑑み、当規則において甲の扱いを以下に定める。

 

 一つ.日本国憲法と自衛隊規則に反しない限り、甲を『人間』として扱う事。

 

 一つ.甲が上記に反する、又は暴走して武力行使を行う等でやむを得ない場合は、甲を『SSランクのテロリスト』として処理する事。

 

 一つ.上記の対応を行う際、専用の鎮静剤等を使用して、可能な限り甲の沈静化に努める事。

 

 一つ.上記の方法で沈静化に努めて、尚も甲の拘束が不可能と判断した場合、最終手段として甲を『害獣』として駆除する事。

 

 一つ.上記の事項は防衛機密扱いとし、直属の幹部自衛官、甲の所属部隊指揮官及び上記対応の目撃者意外に口外する事を禁ずる。

 


 

「「…………………………」」

 

 伊丹の説明を聞いていた富田たちは、そのあまりの内容に絶句していた。

 

 ロゥリィは依然として険しい表情のままだ。

 

「この話を聞いたからといって、ハイセへの態度を改めろとは言わない。だが、あいつはそのリスクを承知の上で戦っている。その事だけは理解しておいてくれ」

 

 伊丹はそれだけ言って、UH-1J(ヒューイ)改から降りた健軍に報告に向かう。

 

 富田たちは、それに何ら反応する事無く、ただただ呆然とするばかりであった。

 


 

「ふう……」

 

 中トラ改のオペレーター席で、ヒデが一息吐く。

 

「ヒデ、東門側で看護要員が必要になってるみたいだから、俺は黒川二曹を送っていく。悪いがドローンの回収はお前に任せる。人手が必要なら、古田と東に話を通しておくから、そいつらに頼んでくれ」

 

「了解」

 

 仁科はそう言って、外へ出ていった。

 

 仁科が中トラ改からいなくなって、1人になった車内でヒデが独り言ちる。

 

「……今回はどうにか収まったが……頼むから、俺にお前を撃たせるなよ?………………()()()

 


 

 兵器解説

 

・XAA-008《鬼神(ハイセ機)》

 

 今回の戦闘で使用しているハイセの機体。

 

 図らずも、ハイセたちが銀座事件で本機を実戦投入したため、(主に白兵戦の)実戦データが大量に蓄積される事となった。そのため、戦闘後に実機とデータを全て回収、問題点を洗い出し、再調整が施された。

 

 本機は特地で最終調整を行う際、ハイセの要望で銀座事件の時と仕様が変更されている。

 

 主に追従性を向上させる方向でチューンナップを施されており、銀座事件の時の武装を幾つか取り外した。更にバイタルパート以外の装甲を排除、もしくは小型化する事で機体を軽量化(装甲を外されフレームが剥き出しになっている部分は、防刃繊維が巻き付けられている)。機動性を向上させるのみならず、パワーウエイトレシオをも向上させた。

 

 今回の戦闘で、ハイセが機体に搭載した武装は以下の通りである。

 

 ◦高周波ブレード《ユキヒラ》

 

 ◦新型 9㎜機関拳銃(予備マガジン×10個)

 

 ◦高周波ダガー(替刃×10枚)

 

 ◦カールグスタフ(携行武器)

 

 尚、自衛隊のSAAはハイセの使用する機体に限り、遠隔操作可能な緊急停止装置が後付けされており、作動すると機体が停止するのみならず、関節部がロックされる様になっている。これは万が一、彼がSAAを着装した状態のまま暴走した場合に備えて後付けされたものである。

 

 つまり、ハイセの機体はSAAであると同時に、彼の暴走を防ぐための拘束具でもある。

 

 それでもなお、ハイセの動きを完全に止める事は出来ないため、沈静化の際は外部からの攻撃で彼を弱らせた後で専用の鎮静剤を注入する事が基本となっている。

 




 
 これにて、イタリカ攻防戦は終了です

 お気付きの方も居るでしょうが、冒頭の一騎討ちは原作redEyes単行本8巻の冒頭に掲載されている、まだ新兵だった頃のグラハルト・ミルズとマックス・ヴェルナー大尉の一騎討ちを参考にしてます

 相手の盗賊が使っていたソードブレイカーは、ハイセの戦闘を考えてる時に「フツーの剣での勝負じゃ、ハイセが一撃で終わらせそーだし、地味で盛り上がらないなー」と思い立ち、何か無いかなーとネットで中世の武器を調べていた時に見つけて採用しました

 本来なら、もう片方の手にはレイピアを持っていたそーで、恐らく相手のレイピアをソードブレイカーで逸らした後に自分のレイピアでチクチクいたぶる──といった使い方をしていたのだと作者(わたし)は考えております

 次回は番外編を投稿する予定です

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