本作の読者の皆さま方!
大変長らくお待たせいたしました!
やっとの事で1シリーズ分が書き上がりましたので、連載を再開いたします!
それでは、本編スタート!
伊丹、捕虜になる (前編)
「ッ!?ここは……」
戦闘終了後に意識を失っていたハイセは、いつの間にか
(確か……僕は、イタリカで盗賊を相手に戦っていて……それから……………………ダメだ、そこから先が思い出せない……)
だが、ハイセには自分の身に何が起きたのか、おおよその察しが付いていた。この空間に来る時は、決まって『彼』に
ジャラッ……ジャラッ……
そして鎖を引き摺る様な音と共に、『彼』が背後から近づいて来ていた。これも、ここに来る度に毎度の事だ。
『やあ、ハイセ』
ハイセは『彼』の声に返事をせず、それどころか振り向いて顔を合わせようとすらしない。
『相変わらず弱いね、キミは……』
『彼』はハイセを容赦なく酷評するが、やはり相手にしない。
『こっち向いてよ……冷たいな……』
そう言って『彼』は更に近づき、ハイセの耳元に囁きかける。
『気付いてるんだろう?今のままじゃ、自分は何も守れないって』
そして『彼』はハイセの持つ弱みを、容赦無く抉っていく。
『判ってるクセに……『僕』が必要だって事が』
更に『彼』はハイセを揶揄するかの様に語りかけ、その手を取る。
『ねえ、
「………………」
『ほらほらほらほらほらほらほらほらほらぁ』
「……黙ってろ……」
(僕は……お前には呑まれない……)
いくら言い包めようとしても乗ってこないと悟ったのか、『彼』はハイセから離れて肩を竦めた。
『やれやれ……学習しないね』
「黙れと言った」
『そうやって意地を張り続けた結果が、コレなんじゃないのかい?』
「ッ!」
『この世の不利益は、全て当人の能力不足。それは、キミも分かってる事だろう?』
「………………」
『彼』に痛いところを突かれてハイセは絶句するも、『彼』は尚も続けた。
『まあ、それでもキミが意地を張り続けるなら、好きにすればいい。困るのはキミだけだし、『僕』は
そう言って『彼』は闇へ遠ざかって行く。
『これから先、キミの手に余る事態が起こらずに済むなら、いいんだけどね……』
そして、そのまま『彼』は闇の中へと姿を消していった。
「ッ!?」
ガバッ!
気付けば、ハイセは見覚えの無いベッドの上で目を覚ましていた。
「よぉ、起きたか」
その声に目を向けると、隣にある別のベッドに横たわっていた伊丹が上半身を起こし、こちらに顔を向けている。
「あの…大丈夫ですか、ササキ様?ひどく
反対側から女性の声が聞こえて振り向くと、ブリティッシュスタイルのメイド服姿の若い女性が、心配気な顔でこちらを見ていた。
「あ……ええ、大丈夫です。すいません、ご心配をお掛けして……」
ハイセがそう答えると、女性はほっとした表情になる。
改めて周囲を見てみると、ここは賓客をもてなす為の客室の様であった。漆喰の壁に豪華なベッドが2つ、少し離れた場所にソファーとローテーブル、床に敷かれた絨毯に壁に掛けられた絵画を含め全て高級で、尚且つ品の良さが感じられる。
「あの、ここは一体……あれから戦闘はどうなったんですか?盗賊と戦ってる途中から、記憶が
「ああ、あれからな……」
伊丹はそう言って、ハイセが気を失ってからの出来事を話し始めた。
時間はイタリカの戦闘終了直後まで遡る。
戦闘が終わった後も、自衛官たちは忙しく動きまわっていた。
衛生要員が住民·盗賊を問わず負傷している者たちの治療を行い、街の警備兵と協力して拘束した生き残りの盗賊を一ヵ所に纏めて監視し、街の住民と協力して瓦礫などの撤去を行っている。
自衛官たちは戦闘の直後で疲れているにもかかわらず、そういった雑事まで率先して行っており、住民たちはその自衛官の在り方に好感を抱く。しかし、盗賊の移送と監視、更には自分たちが住む街の片付けまでを全て彼らに押し付けてしまうのはさすがに気が咎めたので、住民たちは慌てて手伝いを申し出て、自衛官と共に作業に勤しんでいた。
そんな様子を尻目に、ピニャたちは伊丹を含めた幹部自衛官たちと一緒に、日本側との論証交渉のためにフォルマル伯爵邸へと戻って行く事となったのである。
日本標準時 07:15頃
フォルマル伯爵邸 謁見の間
ミュイと並んで玉座に腰掛けていたピニャは、通訳のレレイを交え、伊丹ともども救援に駆けつけて来た一佐クラスの幹部自衛官たちの謁見に応じていた。だが、当の彼女は完全に上の空だ。
(何なのだ、この惨めな気分は?勝利の高揚感が全く無い……当然だな、勝ったのは我々ではなく、エムロイの使徒ロゥリィと敵であるはずのジエイタイ……)
脱いだヘルメットを脇に抱えて直立不動でピニャの前に立つ健軍と亜門に目を向け、彼女は内心で独りごちる。
(ジエイタイの鉄の天馬に大地を焼き払う強大な魔導……あの力が牙を剥けば、帝国の穀倉地帯たるイタリカは陥ち、妾とミュイ公女は虜囚の辱しめを受ける。だが、民は単純だ……ジエイタイを歓喜の声で迎えるだろう)
ピニャは先ほどの戦闘で、自衛隊の実力を嫌というほど思い知らされ、自分たちに待ち受けるであろう未来を容易に想像する事が出来た。
(もし奴らが開城を迫れば、取り縋り慈悲を──妾が敵に慈悲を乞うだと!?帝国の皇女たる妾が!?)
ピニャは負け犬根性に囚われた挙げ句、そこまで考えてしまった事で屈辱に震える──
(……だが今の妾ならば、どんな屈辱的な要求も受け入れてしまうやも知れぬ……)
「つまり……彼を利用するだけ利用しておきながら、そちらの都合で勝手に危険だと判断したら、一方的に殺してしまうという事なんですか!?」
──だが、突如として聞こえてきたミュイの怒声で、ピニャは現実へと引き戻された。
「ミュイ様」
「彼がヒト種でなくなってしまったのは、彼の責任では無いのでしょう!?それなのに、そんな扱いを……」
「仰りたい事は、至極最もです。とはいえ我々も立場上、その事が彼の危険性を無視する理由にならない、という事も確かでして……」
「──────、と」
「だからって……」
「ミュイ様ッ!」
ビクッ!
メイド長が一喝し、ミュイの詰問を強引にぶった切った。
「………………ごめんなさい………………」
「いえ、お気持ちは理解出来ますので……」
この会話から分かる通り、現在、ここではハイセの事情と自衛隊での扱いを説明している。とはいえ、ここには責任のある立場の者だけを集め、開示される情報は最小限度に留めてあった。
「……助かります」
「……いえ……ですが、私も納得している訳ではありませんから」
「──────、と」
「仰りたい事は分かります。私も 彼の待遇は改善したいと考えて、上層部へ何度も陳情書を出してはいるのですが……」
「──────、と」
「…………なるほど、貴方自身はその事に本意ではない ということは理解しました」
メイド長は苦々しい表情ながらも、一応は納得した。
「ハミルトン……」
「あ、姫様……お心 戻られましたか?心配いたしました」
「すまない、条件はどうなっている?」
「では今一度、条件の確認を……」
ハミルトンはそう言って、自衛隊側と取り決めた条件を読み上げた。
帝国皇女 ピニャ·コ·ラーダは
一つ.ジエイタイは此度の戦いで得た捕虜から、3~5名を選んで連れて行くものとする。なお、獲得した捕虜の身柄はジンドウテキに扱う事。
二つ.フォルマル伯爵家ならびに帝国皇女 ピニャ·コ·ラーダは、ニホン国からの皇帝ならびに元老院に対する使節を仲介し、その滞在と往来を保証する役務を負う。
三つ.ジエイタイの後見するアルヌス協同生活組合は、今後フォルマル伯爵領内とイタリカ市内で行う交易において関税、売上、金銭の両替等に負荷される各種の租税一切を免除される。
四つ.以上の協約を発行後、ジエイタイは可及的速やかにフォルマル伯爵領を退去するものとする。ただし小規模の隊、ならびにアルヌス協同生活組合については、今後も領内往来の自由を保証する。
「ジンドウテキ?」
聞き慣れない言葉に、ピニャは首を傾げる。
「ジンドウとはニホン語で「ヒトの道」と書いてそう読む。つまりジンドウテキとは、友人知人に対するように無碍に扱わない事を指す」
ピニャの疑問に、レレイが淡々と答えた。
「…………相分かった、努めて過酷に扱わないようにしよう。此度の戦、卿らの働きは著しいものがあるからな」
「そう取ってもらって構わない」
亜門がピニャの解釈に対し肯定する。
(それにしても、なんだこれは?勝者の権利をほとんど求めていないとは……こんなもので いいというのか、ジエイタイは?)
ピニャは内心でそう考え、チラリとハミルトンに目を向ける。
(どんな手を使ったのか知らんが、敗者も同然の我々にとって、このような好条件をまとめるとは……ハミルトン·ウノ·ロー、意外と使えるな……)
それに……と、条項をまとめた書類に羽根ペンでサインをしている、ミュイに目を向けた。
(やや無謀なきらいもあるが、あのジエイタイに対し 臆する事なく堂々と物申すとは……姉どもの謀略に振り回されるばかりの子供だと思ったが、評価を改めねばならぬな……)
「殿下」
「ウム」
ハミルトンに促され、ピニャは羽根ペンを手に取り 周ってきた書類にサインする。
(……なんとも、カクカクした字だな……)
先に署名されていた健軍と亜門のサインを見て、そんな感想を抱くピニャであった。
「どう?」
「よく眠っておいでです。余程 お疲れだったのでしょう」
伊丹の質問に、フォルマル家のメイドが丁寧に答える。伊丹たちの視線の先には、SAAのみならず戦闘服も脱いでベッドに横たわるハイセの姿があった。
着装していた
本来ならば、ハイセも一緒にアルヌスへ移送されるはずであったが、現在彼は伯爵邸のベッドに移されていた。先程フォルマル伯爵家から待ったがかかり、先方から「ササキ様の体調が回復するまで伯爵邸で身柄を預かる」と提案されたためである。
せっかく特地で出来た有力な
「それでは、もしハイセが目覚めたら「明日08:00には迎えを寄越す」と伝えてください」
「まるはちまるまる?」
「そう言えば伝わります」
──と、メイドに伝言を頼んで、伊丹は部屋から出ていった。
兵器解説
・対戦車攻撃ヘリコプター
自衛隊の攻撃ヘリ AH-1Sを近代化改修した機体。
現在自衛隊では攻撃ヘリコプターの役割を空対地攻撃ドローンにほとんど委託しており、AH-1Sの大半は半ば退役に近い扱いとなっていた。(『銀座事件』当時、74式戦車の様に完全に更新が終了しておらず、まだ一部が現役で稼働していた)
だが『銀座事件』の際、空中機動が出来る上に軽装甲車両並の硬度の鱗を持つワイバーンの相手は、視界が狭く運用の柔軟性に欠けるドローンでは力不足で、高層ビルが乱立する東京市街地では戦闘機の運用も困難であった。その為『銀座事件』当時は、少数ながら整備の行き届いていたAH-1Sを急遽引っ張り出して、ワイバーンに対応したのである。
この時の戦訓により、市街戦のワイバーンが相手ならばドローンよりも攻撃ヘリの方が有用である事が証明された。その後 特地法の制定に伴い、退役済みのAH-1Sを全て引っ張り出し、近代化改修と機能拡張を目的とした改造が施される事が決定した。
外装はそのままに、内蔵部品の約八割を現在自衛隊で採用されている最新型汎用ヘリ「UH-2」のパーツで構成されている。そのため、整備用交換パーツの調達が容易で運用上都合が良い。
武装は機首下ターレット部に20㎜機関砲か30㎜チェーンガンを、スタブウイングにはハイドラロケットランチャーと各種対戦車ミサイルをそれぞれ換装可能。これは自衛隊によるAH-1S及び
メインローター上部と機首部分にはハードポイントが設けられており、それぞれオプションパーツとしてローター上部にはAH-64Dと同系統の和製ロングボウレーダー、機首には従来の
本日12時に後編も投稿いたします!
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